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2011年体験記2 - 東京大学医学系研究科の入学案内
2011 年 University of Michigan Clinical Clerkship 感想文 M3 male 2011 年 2 月 7 日~4 月 1 日の 2 カ月間、アメリカの University of Michigan で実習をして きました。1 年前の USMLE の勉強から始まり、海外組での勉強会など大学入ってから初 めてこんなに勉強したし、実際に Michigan での実習は期待していた以上に充実して楽しい 日々で、本当に多くのことを学びました。少しでも海外でのクリクラに興味がある人には 是非挑戦することをオススメします。私の書くことがアメリカでのクリクラに応募しよう か迷っている人や、行くのが決まって準備に追われている人に少しでも参考になれば幸い です。 ●始めに まず海外でのクリクラに行くに当たって『何のために行きたいのか』 、この問いにぶち当た る人が多いと思います。ホルムズ先生から授業中に初めてその話を聞いた時、なんとなく 「行ってみたい」という気持ちとともに、「アメリカの方が医療が優れているとは限らない し」「お金かかりそうだし」「わざわざ行かなくても英語の教科書とか論文読めば・・・」 とか色々考えました。でも先輩から直接話聞いたり体験談を読んだりするうちに段々考え が変わってきて、純粋に「行ってみたい!」と思うようになりました。実際メリットをあ げてみたときに「アメリカ式の医学教育を体験できる」 「日米の医療の違いを見られる」 「医 学英語や医学自体の勉強にもなる」といくつもあがるのに対して、デメリットなんて準備 が大変ということくらいしかないと思います。5年からは BSL が始まりますが、それを真 面目に取り組んでも十分に時間はあると思います。4 年間大して勉強してこなかったしそろ そろ勉強しようというのもあって挑戦することを決めました。将来アメリカで絶対研修を したいという人は別として迷う人も多いとは思いますが、なんとなくでも「行ってみたい!」 という気持ちを大切にするというのが私の答でした。 ●学内選考 具体的な行く準備としては、まず国際交流室での選考から始まります。選考基準は CBT を 含む今までの成績・日本語面接・英語面接が1:1:1らしいですが詳細はよく分かりま せん。個人的には強い気持ちとそれに向けた対策をちゃんとしているのが大事だと思いま す。「なるべくなら USMLE 受けたくないなー」とか、 「もしも選ばれたらそっから英語と か USMLE の準備始めよう」って人よりは、絶対行くって思って準備始めて臨んだほうが いいんじゃないかなって思います。ちなみに私の普段の大学の成績は優とかほとんどない し、1 年に 1,2 個追試があったりとお世辞にもいい成績とは言えませんし、CBT も 30 位と いまいちでした。英語面接に向けてはホルムズ先生の ER などに通ったり積極的に自分から 話すようにしたり、英会話学校の体験に 2 週間ほど通ったり、とにかく話すことに慣れる ようにしたのと、聞かれそうな質問にはある程度解答を考えておいたりしました。本番は ひたすら積極的に話すようにしました。 面接が終わり、しばらくするとメールで結果が届きます。私はせっかく準備するのだから 確実に行けることと個人的な都合で 2,3 月に 2 カ月間行けることを重視していたので、協定 校であり第1希望の University of Michigan に決まった時は本当に嬉しかったです。 協定校のメリットとしては USMLE Step1 と TOEFL さえ期限内に取ればほぼ確実に 2 カ 月間行ける、授業料がかからない、手続きが楽、そして何より実際の実習でどんなことが できるか先輩の体験を見て分かることです。行くからにはアメリカの学生と同じように患 者さんを持って実習をしたいと強く思っていたので。ちなみに何かの書類に原則「Observer としての実習」と書いてありますが先輩方の体験談を読めば分かるように行った人はほぼ 全員、向こうの学生と同じように実習できているようです。 ●行く前の準備 さて推薦してもらえる先が決まって喜ぶのも束の間、早速 USMLE Step1 の対策を始めな ければいけません。協定校の場合 9 月の所定の日までに Step1 の合格と TOEFL80 点以上 をとらないとせっかくの推薦が取り消しになってしまいます。TOEFL80 点以上は難しいハ ードルではないですが USMLE は本当に準備が大変です。 1.USMLE ・はじめに USMLE とは United States Medical Licensing Examination の略でアメリカの医師国家試 験です。Step1, Step2 CS, Step2 CK までとれば Residency に入る資格が得られ、その後 Step3 を取れば晴れて 1 人前の医師になれるようです。Step1 はその中で最初の試験で、位 置づけ的には一応 Step1 が基礎、CS が医療面接、CK が臨床です。ただ Step1 は近年臨床 的な知識もかなり必要とされます。対策を進めるにあたってどうしても決めなければいけ ないことがあります。「将来アメリカで研修する可能性があるのか」ということと、「する としたら何科なのか」ということです。アメリカにおいては Residency の時点である程度 分かれていて、科やプログラムによって人気が大きく異なります。QOL がよく給料の高い (日本とは比べ物にならないくらい格差があります)Radiology や Plastic Surgery、忙し いけど給料の高い Neurosurgery などはとても人気で Residency に入ること自体がとても 難しいそうです。その際に数ある応募者の中から面接に呼ぶ人を選ぶに当たってある程度 足切りが必要で、それに誰もが応募までに受けている Step1 の成績が使われることが多い そうです。しかも一度受かってしまうとその点数は 7 年間書き換えることができないので 注意が必要です。自分の場合は将来アメリカでの Residency の可能性を残しておきたかっ たこと、応募するとしたら比較的簡単な Internal Medicine や Neurology であること、純 粋にサボってしまった基礎医学をきちんと勉強し直したかったことから 95 という数字をな んとなく目標にしながら猛勉強を始めました。 ・勉強法 前置きが長くなりましたが、対策としてはまずは First Aid を読むことから全てが始まりま す。本当によくできた本で、他の問題集などを説いている時も何度も何度も戻って読み直 して書き足していくことになると思います。ただ英語という普段使わない言語な上に、説 明書きが少なくどちらかというと知識を整理して書いただけの本なので、分からないこと が続出してきます。分からないまま先に進むのは嫌いなので毎回時間がかかっても調べて 書きこむようにしましたが、読み続けていると猛烈に飽きてくるので1章ごとに同じ First Aid series の Cases for the USMLE を解くようにしました。近年の Step1 はどんどん長い 症例問題の割合が増えているらしいので、症例形式でまとめ直してくれているこの本はと ても役にたちました。症例は短めだけど本番の出題形式に近い同じ series の Q&A もいい かもしれません(i phone 版)もあります。Kaplan の Q book も少し解きましたが、Section の分け方が First Aid series と違うのでこの使い方だと使いづらく途中でやめました。しっ かりと理解するのには英語の参考書を通しで読むのも有用かとは思いますが、時間が足り ないと思ったので私はほとんど読みませんでした。外国人が苦手とされる Behavioral Science の参考書(BRS series)全部と Microbiology の参考書 (ridiculously simple)半分く らいを読みましたが、前者はコンパクトでコスパがそこそこいい、後者はシュールな絵と 分かりやすい文で読みやすかったのですが、そこまで high yield じゃなかったように思い ます。 アメリカ人オススメの参考書は First Aid の最後の章がとてもよくまとまっています。 ・Web 問題集 そして何よりも大事なのは First Aid はとにかく早めに1周してしまって Web 問題集にう つることです。First Aid を読み続けて覚えることは不可能だし、実戦形式で解いていくと どこがよく問われるか、 どのように問われるかが分かってきます。 私は3月くらいから First Aid を読み始めて7月の頭から USMLE world を2ヵ月申しこんでひたすら解きまくりま した。Web 問題集では他に Kaplan の Qbank が有名ですが、最近は先輩方で world をオス スメする人の方が多かったので world にしました。4か月も勉強したにも関わらず最初は 4割くらいしか解けずかなり凹みますが、ひたすら解説を読み First Aid に戻って書き込み ます。world は本番よりも難しかったですが、本番で苦戦するような頭を使う問題が多く、 問題の長さ自体は本番に近かったのでとてもいい対策になりました。慣れてきたら時間を 計って色んな問題を混ぜて解くことをオススメします。本番はホント時間との勝負なので。 合格が目標であまりいい点数がいらないなら、world でみんなの正答率が低い知識問題まで は完璧にしなくてもいいのかもしれません。実際そこまで難しい知識問題は本番数えるほ どしかでませんでした。 まずは病態生理とか薬物の作用機序とか大まかなところをしっかり復習していき、1つ1 つの薬剤の一般名とか代謝産物の名前は直前に詰め込むという方法でやりました。 ・模試 ある程度 world が進んできたら模試を受けましょう。NBME と USMLE world self assess が有名で、どちらも受け終わったら本番の予想点数と分野別の出来不出来を教えてくれま す。NBME は歴史があり本番の点数と相関すると評判ですが、自分が解いた感想としては 一番古い Form1 から始めたからか本番よりも問題が短く時間に余裕があった点と答がない ので復習ができないのが難点です。world の方は時間の足りなさは本番並みですが難しいし、 当たり前ですが world の普段解いているのに似ている問題があるので world をある程度や り込むと実力以上の点数が出てしまうように思います。アメリカ人はこの結果を見て受け る時期をずらしたりするようですが、推薦をもらった人は 9 月始めまでの期限がどちらに せよあるので2回くらい受ければ十分だと思います。公式の Sample questions も忘れずに 解きましょう。 結局 First Aid は 2 周+ひたすら戻って読む、Cases は 1 周、Q&A は i phone 版を電車の 中で半周ちょい、world は 1 周+間違えた問題だけもう 1 周。模試は NBME1 セットと World Self Assess を 2 セットと無料の別の模試もう1セット、あと公式の Sample questions を 解きました。本番は直前の模試よりはよくありませんでしたが目標の 95 を超えて 99/231 でした。もっといい点数を取りたい人は world も Kaplan もやるか、きちんと参考書を読 んだ方がいいのかもしれません。あと申し込みが遅くて 9 月頭に受けたんですが、プール 問題は 9 月から変わってしまうらしくて、そのせいか見たことない傾向の問題が多くて難 しかったので 8 月末に受けたほうがいいのかもしれません。 本番は CBT の特徴として人それぞれ偏りのある出題みたいですが、自分としては①麻薬と か Behavioral science に入るような問題、②新傾向なのかどのポイントを聞かれているの か分からない問題、③multimedia 問題、に苦戦しました。心音の問題とかは練習で間違え たことなかったのに本番の『1 問 1 分』の重圧の中、新傾向の 4 か所しっかり聞かなきゃい けない形式で焦って聞こえませんでした。 外国人に不利にするためか問題文はどんどん長くなってきている傾向なので、本番はこれ をいかに早く解き、考えれば解けそうな問題に時間を作るかが大変でした。 とにかくテストにおいて一番大事である『情報』がアメリカ人に比べて圧倒的に不足して いるので(インドとかでも受ける人が多いので情報は結構あるみたいです)本当に高得点を 目指すにはこれをなんとかして、新傾向の問題にも対処していかなくてはいけません。 2.TOEFL Reading と Listening はともかく、Speaking と Writing は慣れとその日の運で大きく点数 が変わってしまうので一応2回受験しました。ただ USMLE 対策の傍らにはとても無理な ので終わってから TOEFL を 2 回受けたんですが、かなりのハードスケジュールでした。 本当に選考前とか前もって受けておけば良かったと後悔しました。ちなみに TOEFL は 1 週間あければ何回でも受けることができて、もちろんいい方の点数だけを使えます。 TOEFL の点数もいい方が行きたい科に行きやすいんじゃないかと思ってこちらも頑張り ましたがどうやらあまり協定校だと関係ないようです。ただ Speaking を頑張っておくと University of Pennsylvania (Speaking で 24/30 以上が応募条件に入っている)などの道も 開かれてくるようなので頑張っておいて損はないと思います。パターンは決まっているの で、参考書を買ってひたすら練習すればある程度までは点数があがると思います。 3.その他の準備 それが終わると必要書類に追われることになります。予防接種・CV・Personal statement・ Application form・・・。自業自得なんですが学校で測った抗体価の紙をなくしてしまって いたり、B 肝の最後の抗体価の測定を休んでしまっていたりと大変な思いをしました。その 説は教務課の方々には本当にお世話になりました。早めの準備を本当にオススメします。 Personal statement はそれほど見られていないという話もありますが心配なのでホルムズ 先生にお願いして添削してもらって出しました。協定校の場合、無事この期限内に書類を まとめ終えたらほぼ 100%行けるのでほっと一安心です。 どこの科に行けるかは 1 ヶ月後くらいに返事がくるとのことなのでドキドキしながらもの んびりと待ちます。しかし受け入れの連絡は中々来ません。先輩の話で時間がかかったと 聞いていたのでそこまで心配にはなりませんでしたが、とにかく早く受け入れ科を知りた かったのでメールしてみたところしばらく経って 2 月は第 3 希望の Infectious Diseases に 決まりましたおめでとうとメールがきました。 「えっ 3 つしか希望出してないけど残りの2 つはどうなったの???」と心配になります。そこからは毎日メールを確認しながら不安 な日々でしたが、ある日思い切って電話してみるとどうやら第 1 希望の Neurology は 1 月 ならあいてるけど 2,3 月は無理で第 2 の Emergency Medicine は今年はどこもあいていな いとのことで、凹みながらもやっと状況が分かり第4~第6希望を出してしばらく待つと Endocrinology での実習が決まりました。先輩方も書いていますが、アメリカでは自分から どんどん電話して聞いてくアグレッシブさが必要だと痛感しました。ちなみに University of Michigan の Global reach といううちでいう国際交流室の Carrie さんは本当に優しくて 素敵な人で、先輩方のお陰で東大の学生には特に優しくしてくれるので何かあったらどん どん連絡してみるといいと思います。他に保険やビザ、念のため Citibank の口座の準備、 クレジットカードの限度引き上げとかもありましたが 2,3 月だとある程度余裕が持てます。 4.全般的な勉強 英語の準備としてはホルムズ先生の ER 等への参加、週 1 のネイティブの家庭教師との会 話、あと podcast を電車の行き帰りで聞きました。USMLE の勉強を始める前は一般の人 用でビデオもあって分かりやすい Mayo Clinic Medical Edge Video とかから始めて、次に script もあって何よりも Case 自体が面白い Vital signs(更新が少なすぎるのが難点)、最後 らへんは Johns Hopkins PodMed とかを聞いてました。医学生用の勉強になりそうなのも いくつかありましたが、長過ぎたりイギリス英語だったり一長一短でなかなかいいのが見 つかりませんでした。他にも気分転換に映画やドラマを見るのも英語で頑張ってみました。 特に Dr. House はうちの学年で流行ってたしオススメです。せっかくのブラックジョーク は分からないことも多いけど、Step1 とか勉強した後だと医学的な話はついていけるように なりました。単語とか分からないときは日本語ではなく英語字幕がオススメです。 10 月辺りから毎週参加させていただいた Harvard Medical School から東大にいらしてい た Graham 先生の Clinical Conference は本当に毎回刺激的でますますアメリカに行くモチ ベーションが高まりました。 そして何よりも勉強になったのが海外組 4 人でやっていた First Aid for the USMLE Step2 CS を使った週 1 回の勉強会です。毎回 2 人が医師役、2 人が患者役で別々の部屋で 15 分 以内に History&Physical をとって、最後に Differential をあげながら必要な検査について 患者さんに説明します。その後 4 人で集まって、あらかじめ予習してきた人が先生となっ て鑑別疾患・必要な検査をみんなで挙げたあと調べてきたことを授業します。Abdominal pain, bloody stool, chest pain, cough, dizziness, pediatric fever とかその回の症例に即し たのを調べてきます。みんなすごいモチベーションが高くて、 CS レベルを超えて UpToDate とか Symptom to Diagnosis とかからの Evidence を交えながらの鑑別のしかたのプレゼン もあって本当に勉強になりました。またその中の Neurosurgery に興味のある某 I 君と、別 に週 1 回 Neurology/Neurosurgery についても同じようなことをやっていました。どちら も当初の目標だった英語での問診・診察はもちろん、英語でのプレゼン・ディスカッショ ンの練習として、そして何より医学の勉強として本当に役に立ちました。 またこれらの勉強会などで調べる時にはアメリカの実習で使おうとしている教科書を使う ことをオススメします。私は友達に勧められて Pocket Medicine を使っていました。細か い ス ペ ー ス に コ ン パ ク ト に 必 要 な 情 報 が ま と ま っ て い て Epidemiology や 検 査 の Sensitivity, Specificity も載ってる優れ物です。略語が多いので最初は苦労しますがここで 慣れておくとアメリカのカルテを読んだり書いたりする時にかなり楽になります。Pocket 版の Bates や Sanford もポケットに入り使いやすそうと思って買いましたが、日本での勉 強でほとんど使ってなかったのでいざという時に使いこなせませんでした。 5.感染症の勉強 内分泌・糖尿病はともかく、感染症については本当に自信がなかったのである程度直前に 本を読んでから行きました。これは大正解でした。Pocket Medicine, Symptom to Diagnosis, First Aid for the Step1 の該当箇所を読んでも起因菌・抗菌薬について知識が不十分だと感 じたので、 岩田健太郎先生著『抗菌薬の考え方,使い方』 藤本卓司先生著『感染症レジデントマニュアル』 を読みましたが本当にこれを読まなかったら全くついていけなかったと思います。感染症 はもちろん場所によって起因菌・耐性等、異なることが多いですが、考え方さえ身に着い ていれば色々調べればなんとか自分で Assess することができます。 The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy 2010 は通読する系の本ではありませんが、目を通しておけばいざという時すぐ調べられて良か ったのにと後悔しました。 ●University of Michigan 及び Ann Arbor について 日 本 で は あ ま り 有 名 で は あ り ま せ ん が University of Michigan Medical School は U.S.News Ranking で Research 部門 10 位、大学病院も全米 14 位と、中々の名門校です。 場所としては五大湖・中西部のミシガン州、自動車の街 Detroit から 1 時間くらいのところ にある小さな大学街 Ann Arbor にあります。 地図を見てもらえば分かりますがかなり北の方にあるので冬は本当に寒いです。-20℃く らいまではたまにあります。地元の方曰く Ann Arbor は湖から遠いから雪があまり降らな い方だと言われましたが、降る時はかなり降ります。幸いなことに 2~3 月に行ったので最 後らへんは雪もなく快適な気候でした。寮や病院の中は暖かいので分厚い上着と防寒具(手 袋・帽子・ヒートテック等)があればなんとかなります。私は寒がりなので、先輩に散々言 われたにも関わらずカイロをたくさん持って行ってしまったところ 2~3 枚しか使いません でした。本当に行き帰りのバスを待つ 10 分ずつくらいなので別に持って行った小さい電気 カイロで十分でした。 街としては人口 11 万人の本当に静かで平和な田舎の大学街で治安はとてもいいみたいです。 2 ヵ月の滞在中に 2 度だけ学内メールで事件(強盗等)のお知らせが来ましたが、夜中にも女 の人一人で走っていたり、バス停やエレベーターで会ったらみんな笑顔で世間話になった りと、かなりの治安の良さを感じました。 交通としてはバスが発達していて、大学のバスと市のバスはどちらも学生は無料です。寮 から病院まで 10 分、ダウンタウンまで 20 分くらいだったと思います。旅行しようと思え ばデトロイトまで 1 時間、シカゴまで 4 時間くらいで Amtrak という電車でも行けますが 本数が少ないので車でないときついかもしれません。 初日に Global reach の Carrie さんが寮の中や病院、Ann arbor の街を案内してくれます。 本当に優しい人で大好きです。分からないことはいつでも聞いたら教えてくれるので異国 の地でも安心して実習に集中できます。 (外来棟の Taubman Center) (Biomedical Science Research Center) ●Co-op house について University of Michigan でのクリクラの特徴の 1 つとして Co-op house での生活があると 思います。Global reach を通して実習をする海外の学生はみんな勧められるみたいですが、 英語上達したい人、たくさん友達を作りたい人、ご飯代を節約したい人には本当にオスス メです。Co-op house は寮みたいなもので 100 人以上のミシガン大学生と一部社会人が住 んでいます。イギリス、ペルー、インド、中国、韓国、フランス、ガーナ、ベトナム…と 色んな場所から来た人がいて、Engineering, Architecture, Music, Art など色んな専門の人 がいてとにかく超楽しいです。積極的に絡んでいけば Dining や Living でどんどん友達が できます。Medical student があまりいないのは残念ですが、同じ Global reach から来て いる人はほとんどここにいるので仲良くなれます。インドから来てた Suwen とナイジェリ アから来てた Nonso とは色んな話したり CS の勉強したり飲んだりとかしました。寮に帰 ったら一人でゆっくりしたいという人はほとんどの時間を部屋で過ごすこともできますが、 せっかくなので楽しむことをオススメします。朝は新聞読みながら自分の国の話や政治の 話(ベトナムや中国の自動車産業の今後、リビアへの軍事参入について、アメリカの移民問 題 etc)したり、夜はパーティー・スマブラ大会・まったり勉強等自分の気分にあった Living で過ごせます。朝・昼(冷蔵庫に材料がある)・夜ご飯は土日までついてます。朝はベーグル・ シリアル・フレンチトースト・サンドイッチ等に毎日果物・ヨーグルト等あって大満足で した。夜は人それぞれだと思いますがヘルシーな“アメリカン”って感じで美味しいって ことはありませんが、不味くて食べれないものはなかったです。ただたまに外食出来た時 は本当に幸せな気分になるのは間違いありません。 唯一の難点が住んでいる人の義務である working shift で週1の全体の仕事と月 1 のトイレ 掃除とかがあります。平日の食事片付け・皿洗い(2~3 時間)か土日の食事準備 or 片付け・ 皿洗いが主なシフトになるかと思います。私は 1 ヶ月目忙しくてシフトに間に合うことは 不可能だったのでアメリカらしく駄々をこねまくってみたところ、Ground crew という雪 かきシフトに配属されました。幸いなことに元から 2~3 月だったし、駄々をこねている間 に 2 月後半になっていたので 3 回くらいしかその後雪が降りませんでした。でも雪が降る とちょっと憂鬱になりました。でもこういう Duty のおかげでさらに communication も増 えていいシステムだなと思いました。あと車を持ってる人も多いので頼んだら買い物とか 連れてってくれると思います。 (Co-op House の外観) (近くの日本食レストランで日本の文化「ピース」をみんなで) (最後に Co-op で開いてもらった farewell party の 2 次会@とある living。) ●2 月:Infectious Diseases (ID) 1.システム 色んな人が書いていますがアメリカは色々とシステムが違います。入院患者を直接見るの は内科だと一部の Cardiology とか以外は全部 General Medicine か Family medicine が見 ます。つまり ID や Endocrinology は全部 Consult team です。Team によりますが consult team の QOL は概してよいです。その分 Primary team は大変そうですが Resident やシフ ト制の Hospitalist が頑張っているようです。(1 週間連続で夜だけ働いて 1 週間休みとかい う信じられないシフトもあるみたいです) Consult team には通常 Attending (Assistant professor~Professor)が 1 人と Fellow が 1 人に Resident が 1~2 人、学生が 0~2 人います。Attending と Resident は 2 週間ごとの 交代で Fellow と学生は 1 カ月ごとの交代です。交代?と思うかも知れませんが、なんと Attending は全部合わせても年に数カ月しか病棟業務はなく、その他は外来と研究等に集中 できるみたいです。 しかもアメリカには 1 つの Department に複数の Professor がいます。 ID だけでも Professor 7 人、 Associate Professor 6 人、 Assistant Professor 7 人に Lecturer 1 人と日本とはかなり異なる構成になっています。Fellow が終わって Assistant Professor とか Faculty になったらもう 1 人前、自分で全て判断を下して Fellow, Resident, Med student の教育をしなければいけないのです。ちなみに Grant も自立しないとそのうち首 になってしまうらしいです。というわけで Fellow もかなり優秀で、難しい Consult も含め ほとんど自力で判断できて Attending には伺いをたてる感じです。 学生にとっては General Medicine, General Surgery, Family medicine, Neurology など一 部を除きあとは全部 Elective なので興味がある人しかきません。ずっと Clinical Clerkship みたいなもんです。じゃあどうやって国試勉強をするのか?どうやら自分でやるものみた いです。USMLE のとこで前述のように点数によって自分の人生が左右されるので強制し なくてもみんなめっちゃ勉強してます。そして USMLE の点数とは別にいい Letter of Recommendation や成績も必要。成績はほとんどが実習中の態度でつくみたいなのでみん な実習も真剣です。 2.実習初日 実習初日はまず電子カルテの登録、Pager(ポケベル)をもらって Fellow に紹介してもらうこ ととなりました。信頼してもらえないと患者さんを持たせてもらえないと思っていたので 自然と気合いが入ります。Fellow はインド人の女の人で優しくていい人そうなのですが、 なんだかとっても忙しそうで、そして何より訛りが強過ぎてたまに何言ってるか分からな いこともあって若干心配でした。どうやら普段は 3 チームあるところ今月は 2 チームしか なくて A チームが内科系、B チームは外科系のコンサルが多いみたいで私は A チームに割 り振られることになりました。 初日はもう一人同じチームの UM の医学生についてって雰囲気を掴むことになったので pager を鳴らして会いにいくと、もう 1 人の医学生 Elizabeth は中国出身のとっても優しい 4 年生でした。 13:15 から Micro Round という微生物検査室での講義があってその後 Round をするのでそれまでに全部自分の受け持ち患者さんについてまとめてプレゼンを作らなけ ればいけないスケジュールなのですが、Elizabeth は初日から 2 人も new consult をもらっ てしかも一緒にカルテ読んでみると最初からかなり難しそうです。それでも慣れた手つき でカルテなど見ながら発表用のメモをすごい勢いで作っていき問診・身体診察も慣れた感 じでコンパクトに済ませ、患者さんの質問にも丁寧に答え(こちらの医学生は患者さんへ の説明もしっかりします)午後の Round でも自分なりの Assessment& Plan (A&P)を含め 完璧な発表をしていました。聴診についての「1 年間聞き続けてやっとこういうの聴き取れ るようになったわ」とか「プレゼンは慣れよ」の一言一言が心にぐさっと刺さっていきま す。自分 1 年何やってたんだろう。早く自分もこれをできるようになりたいと思いました。 Round 自体は患者さんが多くて忙しいらしく 13 時半から 18 時半くらいまでかかります。 Attending にとってはその場で初めて聞く症例をその場で議論していった上で、その場で Primary team に Recommendation を伝えるので一人一人に時間がかかるのは当然です。 しかも初日は 20 人以上患者さんがいて(A&P がもう必要無い患者さんはすぐに Sign off さ れるのでほとんど全て Discussion が必要な患者さんです)とっても忙しそうで、噂に聞いて いた Mini lecture はほとんどありませんでした。それでも担当の人以外はみんなにとって 初めて聞く症例なので議論の様子がよく分かって勉強になりました。ただ初日から積極的 にいかなければと思って質問もしましたがその後の議論の早さについていけなくて質問し ただけに終わったり、唯一出された「ペニシリン系の効き方の特徴はなんだっけ?」とい う問いにも最初に答えられたものの「時間依存性です……」とその後の説明が続かず「You’re right」と言われたものの残念な感じになってしまいました。 1 日目の終わりに「是非自分も患者さんを持って早くチームの役に立ちたい」と言ってみる と Fellow は「もちろん!」と言ってくれ初日はほっとして帰りました。 3.2 日目~患者さんを任されるまで ところがどうやら私の pager 番号をメモった紙をなくしてしまったらしく、2 日目私の pager は鳴ることがなく、3,4 日目は Fellow が休みで Attending が割り振る役になったと ころ「念のため海外からの実習生に患者さんを一人で見に行かせていいか確認しているか らちょっと待って」と言われてしまいました。Elizabeth の Shadowing は学ぶことが多か ったし一緒に鑑別疾患をあげたり軽く discussion したり Round も勉強になりましたが、実 習が終わって帰る度に「俺何やってるんだろう」と凹む毎日でした。ふと日本から買って きたお土産の抹茶八つ橋を機会がなくてまだ渡していないことを思い出し、次の日に渡す ついでにもう 1 回「日本からの学生は患者さんを見ていい」と担当の人が言っていたと直 訴しにいくと、早速患者さんを担当させてもらえることになりました。 期待に応えてやろうと、そこからプレゼンまでの 2 時間弱の間必死でカルテを読み漁り問 診・身体診察をして UpToDate を読み続けました。Shadowing のお陰でメモの作り方は上 手くできましたが肝心の A&P がなかなかまとまりません。ちなみに症例は 19 歳の CF(嚢 胞性線維症)の肺移植待ちの女の子で肺炎を繰り返して様々な抗菌薬を使ってきた患者さん で、1 週間前から肺炎が再発して Zosyn と吸入 Tobramycin を使ってある程度症状は改善し たものの、培養で生えた 4 つの菌のうち1つが Zosyn, Tobramycin を含めリストにある全 ての抗菌薬に耐性を示しているため抗菌薬の選択についてコンサルされたというものでし た。Sanford を読んでも分からないので UpToDate で Acute Exacerbation の場合の一般的 な抗菌薬選択と Synergic effect についてや Chronic Infection の場合の Suppression therapy などについて読み漁りなんとか自分なりの A&P をたて終わりました。プレゼンは それまでの 4 日間でこっそり練習していたのもあり”Great Presentation”と褒めてもらえま した。その上で耐性試験に入ってなかった Colistin が効く可能性があるから調べてみよう と教えてくれました。ただ後でアメリカでは”Great”は OK くらいの意味で、本当に Great な時は”unbelievable!!”くらい言うと聞いてさらに頑張らねばと思い直しました。 ちなみにアメリカでのプレゼンは日本の学生がするようなプレゼンとは全然違ってコンパ クトにまとまっていて、メインはあくまで A&P です。余計な既往歴とか検査データとか身 体所見をだらだら読んでいると微妙な空気になります。昔見たアメリカのビデオによると 重要な情報とは陽性・陰性関わらず A&P に必要なものであるって言っていた気がします。 言うのは簡単ですがちゃんと鑑別疾患が浮かんでいてそれに関連する情報を知っていない とまとめることはできないので難しいです。慣れてくると ID で重要な所見とかは分かって きますが最初は心配なのでプレゼンに使わないデータも聞かれた時用に一応全部メモしと きました。みんな紙はちら見するくらいでアイコンタクトやジェスチャーをしていました が、これは最後までなかなかできませんでした。 4.その後の実習 その後の毎日は 9 時くらいに病院に行って自分の患者さんの検査データとか他のチームの ノートを読んで診察にいって、新しい患者さんをもらったらそれも見に行き、1:15 からの Micro Round と Round に行き、5~6 時くらいに Round が終わってからカルテを書きなが らまた気になったとこを勉強したりして 8 時くらいに帰る感じでした。ちなみにアメリカ のカルテは Consult でも病歴から身体所見・検査所見まで、また Recommendation に至っ た理由をかなりしっかりと書いています。色々な consult service が一人の患者さんを見て いるのでそれぞれがどう考えているか分かるようにという意味と、純粋に Insurance の問 題とがあるようです。Resident とかは午前中のうちにある程度カルテ書いてたり、家から アクセスできるので持ち帰ってやってたりしましたが、私は毎日終わってから残ってやっ ていました。病歴が上手くまとめられてなくて全部書き直してあったりすることもありま したが慣れてくるとほとんど使ってもらえるようになりました。 New consult を 11 時半とかにもらうとお昼ご飯はパンとかかじるだけのことも多々ありま した。あと primary team への伝言は Round 中に会ったら Fellow とかがやってくれました が、会わなかった場合はどうやら自分の仕事のようだったのでやりました。Page してから 向こうからかけ返って来た電話が鳴る時は毎回緊張しました。数字を聞き返されたりする と結構ひやっとします。 週 1 回は病棟にいない Attending や Fellow も集まる ID conference があって、それは普段見ないような histoplasmosis とか CMV appendicitis や珍しい presentation の neurocysticercosis とか出てきてとても勉強になりました。 最初は New patient 0~1 と Follow up 1~2 でしたが、Attending が変わって Dr. Kauffman になってからは学生の Follow up が少なくなると Fellow の患者さんとかを回してくれて担 当患者さんが増えこれは本当に勉強になりました。Round で他の人のプレゼンを聞いて理 解した気になっていた患者さんでも、自分が受け持ちでプレゼンして色々質問されてカル テを書く立場になるとびっくりするくらい勉強することがたくさんあります。しかも discussion は元の受け持ちの人もどんどん参加するので白熱します。Dr. Kauffman は UM では知らない人はいない真菌感染症の権威で本当に優しくて魅力的な先生で、色んな人か ら一緒に周れることを羨ましがられました。Resident の一人が発熱で倒れて Fellow ともう 1 人の Resident は午前中 Clinic の日があって、8 人の患者さんのプレゼンを準備するため 階段を走りまわったのもいい思い出です。 受け持った症例としては ・AIDS with Kaposi sarcoma の患者さんの呼吸器症状の鑑別 ・脊損で四肢麻痺の患者さんのキノロン耐性菌による recurrent UTI の抗菌薬選択 ・Diabetic foot の抗菌薬 de-escalation 後の増悪疑いの評価 ・抗リン脂質抗体症候群疑い歴があり発熱に対する prophylactic broad-spectrum Abx 投与 中に possible vegetation が見つかった症例の抗菌薬選択 ・肺炎の症状改善後も 3 万以上と高い WBC の評価 ・慢性膵炎の患者さんで門脈血栓+一過性菌血症が見つかり thrombophlebitis 疑いの患者 さんの評価 ・syringomyelia で shunt が入ってる患者さんで、たまたま見つかった骨髄炎疑いの病変で 救急を受診したら抗菌薬を開始されてしまい培養が生えなかった例の抗菌薬選択 ・肝移植待ちの Secondary biliary sclerosis の患者さんの chronic cholangitis? +liver abscess の 6 カ月治療後の再発 (後に VRE 検出) 等多岐に渡り、本当に充実していて勉強になる 1 カ月間でした。チームにも恵まれてみん なすごい優しくて Resident や Fellow も聞いたらどんどん色々教えてくれたり、後半は他 の人の患者さんの discussion の途中で自分が言ったことを Good point と褒めてくれたり、 実際それで治療法が変わることも数少ないながらあって本当に感動しました。最初はつい ていけなくて作り笑いをすることもあった Joke も、最後には自分から言ったり医学以外で も成長(!?)しました。 (Dr. Engleberg および前半の ID consult team と) (Dr. Kauffman および後半の ID consult team と) 5.日米の違い等感じたこと 行く前に期待していた通り感染症は全身を診なければいけないし毎回鑑別に他科で診る疾 患があがってくるので、幅広い内科の知識が必要でした。 例えば発赤腫脹してる関節炎のある患者さんで感染とか痛風が鑑別にあがってて関節穿刺 をしたところ、 炎症所見はあるものの肝心の crystal も培養も陰性だった症例がありました。 たまたま病室で出会った Rheumatology consult との熱い議論は日本でも一部流行ってる 『Symptoms to Diagnosis』や『Evidence based physical diagnosis』そのもので、自分の 分野だけではなく相手の分野の Evidence にも踏み込んで「痛風でも crystal は○%で陰性 になって 2 回目の検査で見つかる場合も○%ある」だの「尿酸は○%で上がらない」だの 「Septic Arthritis で culture negative な場合はこれくらいあるけどそのほとんどはグラム 陰性の淋菌とかだ(ちなみにその患者さんは 60 くらいのおばあちゃんです(笑))」だの議論は 白熱しました。よくアメリカのほうが EBM って言いますけど、個人的な印象としては日本 は大事な時には EBM、アメリカはいつでも EBM って感じました。Medical school の 3 年 生から Resident の 3 年まで及び Faculty になってからも絶え間ない discussion がそうさせ ていることは明らかです。Faculty はどうやら Gen Med でも Attending 業務をするみたい なので、他の分野は知らないというわけにはいきません。ただ初等教育からの discussion の練習、そして何よりもそれだけ discussion 及び論文を読む時間がとれる恵まれた環境だ からできるんであって、一概にどの国でもするべきだなんてことはとても言えません。ア メリカの医療はマンパワー(Nurse, Nurse practitioner, tech, lift team, social worker, discharge planner, etc)に支えられていて Consult team に至っては入退院サマリーや手技 はおろか、薬の処方や検査のオーダーすら自分ではしなくていいのです。そのせいで医療 費は膨らみ多くの貧しい人が医療を受けられていない事実を忘れてはいけません。とは言 え、普段からこんなに臨床の場で discussion している人達と国際学会等で臨床について議 論することが如何に難しいか気づけただけでも勉強になりました。 あと感染症は誰もが診られるべき疾患でありながら診断が難しい分野だと痛感しました。 だからこそアメリカでは ID はほとんどの病院にあって規模としても内科の中では大きい Department なのだと思います。もちろん日本と違い国土も広いし人種のるつぼで珍しい感 染症が多いのも大きな理由の一つだとは思いますが。CBT とか国試に出るような典型的な 所見が全部揃った例はいいとして、確定できない場合にどういう Assessment をして、どの ような検査をオーダーして、検査を待つ間抗菌薬をどうするのか。難しいです。少なくと も日本で学生として普通に勉強している時にはこういうことを勉強したことが無かったの でいい機会になりました。 あと検査についての考え方はよく日米の差として書かれますが本当に違いました。CT は何 千ドルもするらしく、保険が無い人はもちろん、ある人でもなかなか取りません。持って いた Kaposi 肉腫の患者さんで pulmonary KS やニューモシスチス肺炎が鑑別にあがって i いるものの bronchoscopy をなかなか Pulmonary team がやってくれなかったので、 「CT でそれぞれに特徴があってある程度鑑別に役立つから」と撮ることをある日 Suggest して みたところ、 「ニューモシスチス肺炎に肯定的な所見だとしても特異度は十分じゃないし過 去の副作用歴から治療は開始しないし、否定的だとしても BAL 陰性を待つまでは十分に否 定できないのだから CT は撮らない」と言われてしまいました。EBM 診断学の教科書に書 いてある pretest probability, likelihood ratio, threshold そのままですね。他にもたまたま エコーで見つかってしまった”possible” culture negative endocarditis の workup で念のた め Q fever の検査をするかという話の時も「陰性だとしたらもちろん治療は変わらないし、 陽性だとしても pretest probability が限りなく低いのだから治療を行うべきじゃないしそ れ以上 further workup がないのだからそもそも最初から検査するべきでない」みたいな話 があってなるほどーと思いました。1 週間の治療とかならともかく、心内膜炎とか骨髄炎の 治療は通常4~6週間、Q fever による場合はなんと最低18カ月。陽性出ちゃったし念の ためお薬出しときますねじゃすまないのです。 ちなみに日本でよく測る CRP も日米の差としてよく書かれますが、最初の検査としてとか は別として少なくとも follow up として測られているのは一度も見ませんでした。何故だか は聞こうと思っていたのですが忘れてしまいました。 ●3 月:Metabolism, Endocrinology & Diabetes (MEND) 名前の通り内分泌と糖尿病代謝疾患を診る consult team です。実習が始まる前から色んな 人に「感染症と違ってまったりした rotation だよ」と言われていて確かにその通りでした が、その分午前中から Fellow が指導してくれたり、1 ヶ月目は参加したくてもできなかっ たお昼や早朝の Internal medicine や neurology の教育 lecture に参加できたり、興味ある 研究室や外来の見学に行けたり、こちらも充実した 1 カ月になりました。術後の血糖コン トロールは別のチームがあるもののやはり糖尿病が多めで、患者さん自体も 4~10 人(に対 し team5 人とか(笑))ですが、Fellow の Tobi がとっても優しくて内分泌の面白い症例はど んどん学生に回してくれて Round 前にも指導してくれたりとこちらも充実した日々でした。 学生は一人でした。 医療費の問題からほとんど全部外来ですませるし、退院もかなり日本より早め(PICC line 入れたまま退院して患者さん・家族が家で Vancomycin とか入れるのはいつものことです) です。その上簡単な内分泌疾患なら Gen Med だけで見れちゃうのでなかなか Endocrine consult には来ないみたいです。 何はともあれ受け持った症例としては ・1 型糖尿病のインスリン調節 ・低血糖を訴える患者さんの 72h 絶食試験 ・肺の atypical neuroendocrine tumor 切除後に別に見つかった甲状腺機能亢進症の鑑別と それらの慢性下痢症への関与の評価 ・先天性副腎過形成の副腎摘出後のステロイド taper 中の副腎クリーゼ疑い ・消防士でボディービルダーの AF を繰り返していた患者さんで hyperthyroid であること が見つかってビタミン・ミネラル剤のリスト(なんと最近飲むのをやめたやつもいれて 50 種類くらいありました(汗))を出してもらったら大量のヨードを摂取し続けてた人 等で他にもチームとしては低 Na とか低 Ca、panhypopituitarism、ただの sick euthyroid、 珍しい脂質代謝異常とか診ていました。 特に後半の Attending の Dr. Dimaraki と Fellow の Jyothi は患者さんが少ない分、色々と mini lecture をしてくれてとても実践的で役に立ちました。最初は insulin therapy の基礎 から始まり血糖コントロールの悪い人の問診のポイントとか insulin pump の setting につ いて、hyperthyroid, hypothyroid, Cushing syndrome, Adrenal insufficiency, etc と一通り 全部の lecture をしてもらいました。日本の学生向けクルズスとの違いはスライドが無く全 て interactive な問題形式であることと、Resident と一緒に受けるので「自分がその患者さ んを持った時にどう確定・除外・治療していくか」に全て主眼があって、参加者はどんど ん質問をしていくということです。例えば Adrenal insufficiency で言えばみんなで鑑別を 挙げた後、Attending が軽いアドリブの症例プレゼンをして「まずどうする?」と聞けば誰 かが「まず complete steroid history をとります。前から疑問だったんですけど色んなステ ロイドがある中で月1の関節内ステロイドとかはどれくらい HPA axis に影響があるんです か?」と聞いたり、 「am cortisol」と誰かが答えれば別の人が「セットで ACTH 測る人も いるけど AI ではどれくらい診断の役に立つの?」とか「実際肌が黒いとか白いとかが診断 に役だったことあります?」とか普段の診療で気になってることを聞いてきます。で Attending が「測ったら2でしたどうする?」といえば「測った時間は何時?昔患者さんが 寝ているところを nurse が無理やり測って低く出たの見たことあります」とか「次の検査 はもちろん stim でしょ。high dose と low dose があるよね」と続きます。学生さんだから テストのためにはここまで知っていれば OK とかじゃなくて、resident と一緒に physician として自分で患者を持ったらって視点でいつも勉強できていることは本当にモチベーショ ンが上がりました。 あと毎週金曜日に Clinical Conference と Research Conference があったのと火曜日は専門 外来を色々見学させてもらいました。Neurosurgery と合同の Pituitary clinic, Cancer Center でやっている Thyroid cancer clinic、全米でも有名な Adrenal Cancer clinic の見学 に行きました。どの Clinic も Multidisciplinary で患者さんを見た後すぐに専門家同士裏で 話し合いをしてその後患者さんに総合的な説明をしているのが印象的でした。またどの Clinic も Doctor は丁寧に患者さんの訴えを聞き、しっかりと説明をして安心させているの が印象的でした。それもそのはず、患者数自体も日本に比べ圧倒的に少なく、カルテは全 部 Dictation(電話で話したら専門の人が書き起こしてくれる)なので診察室でパソコンの画 面とにらめっこなんてことは無く、Adrenal cancer clinic ではさらに専門に特化した Physician Assistant が予診・身体所見を完璧にとってあるので Doctor はしっかりと時間を とって細かい訴えに耳を傾け説明するだけに集中することができるのです。本当に羨まし い環境だと思います。 2ヵ月目もとても勉強にもなったし、余裕ができた分色んなものを見て考えることができ て有意義な実習でした。 (Dr. Dimaraki および最後の Endocrine team と) ●日本人家庭医療プログラム・クリニック1日見学 Endocrinology の実習最終日はたまたま月替わりで team 全員変わるから行かなくてよいと いうことになったので、Fetters 先生・神保先生にメールをして以前から興味を持っていた Japanese Family Health Program の Clinic 見学に行かせて頂きました。突然のお願いに も関わらずお相手して下さった Little 先生、本当にありがとうございました。 このプログラムは University of Michigan Department of Family Medicine のプログラム の1つで、日本人でアメリカの医師の資格を持っている人とアメリカの家庭医療医で日本 語の堪能な人が日本人を対象として診療を行っています。トヨタやホンダの工場が近くに あって日本人の多い地域なので平日の午前中にも関わらず患者さんはそこそこの数来てい ました。 Family Medicine というと日本では聞き慣れないと思いますが、アメリカではどの大学に もあって3年生の数少ない必修にも入っている学生教育に欠くことの出来ない科です。小 児はもちろん産婦人科も診れることは必須で、人によっては簡単なお産まで診れたり・ス ポーツ医学に精通していたりと様々なキャリアパスがあるみたいです。日本と違いれっき とした専門医で、誰でも突然開業してなれるようなものではありません。患者さんが入院 した場合にはそれも Family medicine として診るみたいです。 UM の Family Medicine 自体は U.S.News の Ranking でも 4 位と評価が高く、Faculty は なんと 76 人もいます。免許更新のための勉強はもちろん、Department としての勉強会な どを通じていつも予防医学などの最新の知見を得ているようで、もちろん研究もしっかり やっています。 実際の診療自体は平日の午前中ということもあって、小児健診や人間ドックが多かったで すが、首の痛みや目の充血・腫脹など幅広い分野を慣れた感じで問診・身体診察を行って 大事な疾患は rule out してから、必要があれば PM&R(日本で言うリハビリ科。アメリカで は Orthopedics はあくまで手術をする部門です)などに紹介したりとまさしく全身を診てい ました。アメリカの保険システムでは最初から専門医にかかってなんでも検査してもらう ことはできないようになっていて、Family Medicine などの primary care doctor を通すか Emergency に駆け込むかしかありません。なので色々な患者さんが来ます。 そして Family Medicine の醍醐味はなんといっても患者さん全体・家族全体を診ていくこ とだと感じました。誰に聞いたらいいか分からないような小さな質問も家庭医なら話しや すいし、妊娠・出産から診たお子さんの健診だと 1 回目の健診からもう母親と信頼関係は 築けているし、禁煙や糖尿病のコントロールとか社会的因子が大きく関わってくる場合に は家族全体を診ていることは大きくプラスになるように感じました。私も問診票をもとに 問診・診察の練習をさせてもらったんですが、聞き方が下手だったみたいで本当の喫煙本 数を聞き出せなかったのを、Little 先生はその方の奥さんもお子さんも知っているみたいで そういった話も交えながらいとも簡単に本当の本数を聞きだして禁煙指導をしていました。 そして何より、どんなに専門的な医療を行っている大学でも General Medicine や Family Medicine といった primary care にも同じように力を入れていて、学生のうちからどちらも バランスよく学べる環境が羨ましいなと思いました。 (Japanese Family Clinic がある Domino’s Farm。ここ以外にも大学の Clinic は多数ある) ●実習全体を通して 本当に日本での実習とは違って求められるものは高く、周りのモチベーションも高いし、 自分が頑張れば頑張るほど患者さんやチームのためになって、その分評価されるので本当 にやりがいがありました。 Fellow が軽くカルテとか大事なデータは読んでて backup しているとは言え、あくまで自 分が担当であって、毎日の訴えや不安を聞くのも、細かい病歴や陰性所見を聞きだすのも、 身体診察をして所見を伝えるのも自分の仕事です。中でも患者さんの不安や分からないと ころに対して説明してあげられるのは最もやりがいがありました。違う言語で微妙なニュ アンスを伝えるのは難しいですが、 「学生なので…」とか決して言わずしっかりと話してい る他の学生を見て自分も頑張ってみました。回診の時あの“先生”に外来で follow up して 欲しいって言われたり、1ヶ月後の外来で「あの日本人の学生に会いたい」とか言っても らえてたのを聞くと純粋に嬉しかったです。あと Resident が1年目から外来をやっている のは知っていましたが、後にボストンで会った Harvard Medical School の1年生の女の子 は1年生から Elective として外来の手伝い(1学期目は Social worker 的なことから、2学 期目からは風邪とか UTI を自分でまず診たりするらしいです)をして Communication の練 習をしていると言ってました。羨ましいです。 最後に、自分から聞きに行くと Attending のつけた成績を教えてもらえると聞いたので怖 いけど聞きにいってみました。採点基準は 1. History & Interview 2. Physical Examination 3. Differential Diagnosis 4. Diagnostic/Therapeutic planning (5.Procedure skill) 6. Knowledge 7. Self-education 8. Written skills 9. Oral presentations 10. Interpersonal Relationships with Physician and other Health Professionals 11. Interpersonal Skills with patients 12. Professional Responsibilities に分かれていて最後には総合評価と総評が書いてありました。2 人の Attending からの評価 しかまだ返ってきていませんでしたが、光栄なことに1人からは Honors(7/7)、もう一人か らは High Pass(6/7)をもらうことができました。項目を見てみると日本で今までに点数化 されたことの無い項目がほとんどですよね。3年以降の評価はほとんど実習メインでつけ られているみたいで、それが Match 等でも重要になってくることを考えると日米の“優秀 な医学生”の違いが見えてきますね。もちろん研究実績・USMLE の点数等他の項目も重 要になってくることは言うまでもありませんが。 (夜の University Hospital) ●休日・旅行 休日は溜まったメールを返したり、洗濯したり、寮の人と話したり、勉強したりで多くは 過ぎていきました。あとは ID を一緒に周ってた Elizabeth に車出してもらったり、 Nephrology で研究留学されている西尾さんにも何回も車出してもらってデトロイトには2 回行きました。ダウンタウンは全米一ドーナッツ化現象が進んで寂れた街として有名です が美術館やフォード博物館はオススメです。シカゴ旅行は計画したものの日本で震災が起 きてそれどころではなく残念ながら行けませんでした。 また鉄門出身の峯石先生ご夫妻には何度も何度も夕食に誘って頂き本当にお世話になりま した。アメリカの地で自力で成功してこられた先生のお話は毎回新鮮で1つ1つの言葉が 今も心に残っています。本当にありがとうございました。 同じく鉄門出身の奥西先生にも研究室見学をさせて頂いたりテニスや夕食に誘って頂いた り本当にお世話になりました。 他にも加藤先生、浅尾先生、西尾さん始め多くの日本人の先生方にはお世話になりました。 多くの先生方が臨床・研究それぞれの道で異国の地で挑戦して輝いている姿を見て、自分 も将来何らかの形でまたアメリカに来たいなと強く思いました。 実習が終わった後はニューヨークとボストンに行きました。 ボストンでは MGH で研究なさっている藤崎先生の研究室の見学をさせて頂きました。単 身アメリカの地に来て、高い目標に向かって自分のやりたい研究をやり、そして成功して いる先生を見て、本当に将来について考えさせられました。お忙しい中お時間作って頂い てありがとうございました。 また東大にいらしていた Graham McMahon 先生にお世話になり Harvard Medical School の Affiliate Hospital である Brigham and Women’s Hospital の Endocrinology consult で 2 日間 Round や Conference に帯同させて頂きました。Michigan とはまた違い Consult 数 も多いし、難しい case も多く、pituitary の consult もかなり多くて Neuroradiology の部 屋で直接意見交換しているのを目にしたり、刺激的な 2 日間でした。Conference もすごい Level が高くて勉強になりました。Inpatient-service で忙しい中 HMS の施設の案内までし て頂いて、本当に貴重な体験をありがとうございました。 ●最後に 本当に色々なことを学び・考え過ぎて未だに考えがまとまらないところもあるのですが、 1つだけ言えることは本当に本当に行って良かったなということです。 日米の医学・医療教育の違いを体感できたのはもちろん、英会話や医学英語ももちろん上 達したし、医学自体の勉強にもなりました。でも振り返ってみて一番得たものは人との出 逢いだったように思います。本当にたくさんの方々にお世話になって色んな方の考え方・ 価値観に触れて、自分も今までとは少し違う考え方ができるようになりました。行く前に も色々とアメリカについて読んだり聞いたりしていたけれど「百聞は一見に如かず」行っ てみなければ得られないものがたくさんあります。 これを読んでいる後輩の方々で海外留学に興味がある人は、是非理由はなんであれチャレ ンジしてみて下さい。今まであまり勉強していなかった人も気持ちさえあればなんとかな ります。残念ながら推薦がもらえなかったとしても知り合いづてに直接頼んでみたり、自 分でホームページ見て応募してみたり色々と道はあると思います。いづれの方法でも準備 は大変だけど、必ずそれに見合った以上のものは得られます。 最後になりますが、こんな貴重な経験をさせて頂く中でお世話になった丸山先生始め国際 交流室の方々、教務課の方々、Holmes 先生、アメリカでお世話に峯石先生始め多くの先生 方、留学前の準備でお世話になった先輩方・仲間達、その他支えてくれた全ての方々に心 より御礼申し上げます。 ミシガンでのクリクラについてや USMLE についてなど何でも質問があれば、丸山先生や お近くのテニス部員を通じていつでも気軽に連絡して下さい。長文失礼しました。