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術中出血と活性化第7因子
術中出血と活性化第7因子 2014年9月9日 慈恵ICU勉強会 茨木 栄梨 血液凝固機序 内因系=血管内の凝固因子 で起こる凝固 外因系=破壊された組織から の成分(第Ⅲ因子)から始ま る凝固 ハリソン内科学 活性化第7因子製剤 • 日本で使用されている製剤→遺伝子組み換え型 活性化第7因子製剤(ノボセブン®) 保険適応 ・血友病A&Bにインヒビターが出現した 場合の止血管理 ・後天性血友病 • 1999年、FDAが第Ⅷ、Ⅸ因子欠 乏の血友病患者の出血に対して 使用を認可 • 2000年1月1日~2008年12月31 日まで、615病院・73747のrFⅦa 投与症例について調査 • 2000年~2008年まで、適応外使 用が140倍、適応使用は4倍 • 2008年では全体の97%が適応外 使用 • 最も急速に使用が増加したのは 心臓血管手術、外傷 使用症例の内訳 なぜrFⅦaが急激に使用増加? ⇒術中出血への有効性が示唆され、 投与対象が大幅に増えた? • 対象:単施設で2002年11月から2004年2月までに行われた、 18歳以上の心臓外科手術(CPB使用)患者2225名 • rFⅦaを投与された患者(n=51, 2.3%)と、propensity score matchingさせたコントロール患者を比較 • Matching項目:体表面積、周術期のうっ血性心不全、術後48 時間以内の冠動脈カテーテル、Hb値、Cr値、緊急手術、再手 術、CPB時間、超低体温循環停止、CPB中のHct最低値、CPB 離脱の難易度、試験開胸有無 ・CPB離脱やヘパリン拮抗後に最低2時間以上の出血点検索をしているが、明ら かな外科的出血点がない ・術後出血検索のために手術室へ戻る ・トラネキサム酸100mg/kg以上やアプロチニン600万単位以上の投与を要する ・血小板5単位、FFP4単位以上の投与により、血小板数やPT-‐INRが基準値の 50%以内にしか補正されない(Ht値24%以上は達成されている) 「止血困難」と判定し、rFⅦa投与の対象とした→実際には51例(2.3%)に投与 <rFⅦaの投与量:重症度判定は担当医の判断> severe → 4.8mg less severe → 2.4mg • rFⅦa投与患者は、一般の心臓 手術患者と比較し、緊急や再手 術ケース多く、ハイリスクだった • 合併症が多く、手術が複雑であり、 より多くの輸血を要していた • すべてのrFⅦa投与患者が、その 投与前に最低限の血液製剤・止 血剤(抗線溶薬)を投与された。 (28人:トラネキサム酸100mg/kg、 24人:アプロチニン600万単位) • rFⅦaは、19人が手術室内、32人 がICUにて投与 • rFⅦaの投与量:7人が4.8mg(う ち1人は反復投与)、44人が 2.4mg(うち13人が反復投与) Massive blood loss: 5単位/日以上のRCC輸血 • 投与後、術野はdryになり、閉胸 可能であった • 投与後、INRは有意に低下した • 血液製剤の使用も有意に減少 • rFⅦaが投与された前後で、出血 量が有意に減少した • matchingさせたが、性別、 試験開胸、輸血量、 massive blood lossに差を 認めた Massive blood loss: 5単位/日以上のRCC輸血 • 術後のアウトカムでは、rFⅦa 投与群はコントロールと比較 し、有意に人工呼吸期間、在 院日数、急性腎傷害が多い • Strokeの発生はrFⅦa群の方 が多い傾向だったが、有意差 なし 結論 • rFⅦa製剤の投与は、心臓外科手術後の難治性出血に対して効果がありそう (出血量の減少、INRの正常化、輸血量の減少) • 人工呼吸期間、在院日数、急性腎傷害は増加(投与群は出血・輸血量多い)。 ただし死亡率は変わらない • その他の有害事象については、nが少なく、この研究でリスクを検出すること ができなかった • ベースラインのリスク、rFⅦaが投与される状況、投与のタイミング、出血に影 響する他の治療などが不均一である • ProspecTve placebo-‐controlled randomized trialではないため、因果関係を証 明できない → RCTによる検討へ… • 対象:人工心肺を使用した心臓外科手術患者2619人 • 13国、30地域 • 期間:2004年8月から2007年11月 • プラセボ、rFⅦa製剤40μg/kg、 rFⅦa製剤80μg/kgの3群に分けて比較 • Primary end point:術後30日以内のcriTcal serious adverse events(cSAEs) • Secondary end point:30日以内の再手術、5日以内の輸血量、胸部ドレー ン量 →172人を3群にrandomized • Inclusion criteria:18歳以上、人工心肺を要する心臓手術、術後30分以上ICUに滞 在、胸骨正中ドレーン排液がはじめ200ml/h以上、ついで2ml/kg/h以上 • Exclusion criteria:心臓・肺移植手術、DVTやPE、脳梗塞、心筋梗塞の既往、先天 性凝固因子欠乏、最近rⅦa因子の投与がある、CABGで手術5日以内に抗血小板 薬の投与がなし/または1剤のみ、INR1.2以下、aPTTが正常範囲内、血小板15万 以下、プロトロンビン活性化製剤の投与 年齢、性別、体表面積、術式、心臓手術 既往、手術内容 →3群間に有意差なし 結果 • rFⅦa群でcSAEsが多い傾向があるが、有意差はなし • 死亡率に有意差なし 再手術 rFⅦa群で有意に再手術率が 低い 輸血の回避 rFⅦa群で有意に輸血の施行 率が低い 4時間後 4時間後のドレーン量 rFⅦa群で有意にド レーン量が少ない rFⅦa80μg/kg群ではプ ラセボ群より50%の減 少がみられた 24時間後 24時間後のドレーン量 rFⅦa80μg/kg群でプラ セボ群よりドレーン量が 有意に少ない 5日後 5日後のドレーン量 rFⅦa80μg/kg群でプラ セボ群よりドレーン量が 有意に少ない 結論 • rFⅦa製剤の投与により、輸血量・再手術が 減少する • 有害事象は、 rFⅦa製剤投与群で多い傾向 があるものの、統計的有意差みられず • 死亡率に有意差なし rFⅦa因子の投与は有用かつ安全であるとして 適応外使用の急激な拡大へ 「安全性」の検証 • The US Food and Drug AdministraTon(FDA)がrfⅦa因子を認可した1999年3月から2004 年12月までに、FDA’s Adverse Event ReporTng System(AERS)に報告された、重度の血 栓塞栓性有害事象をレビュー • 適応/適応外使用ともに含む約12000のrFⅦa投与例のうち、431の有害事象(adverse events:Aes)報告が対象。そのうち、185(43%)の血栓塞栓性有害事象あり • その他の有害事象:嘔気、嘔吐、発疹、アレルギー反応、labo data異常、疼痛 • 適応外使用:151報告(ほとんどが出血に対する治療) • 血栓塞栓性有害事象の内訳(%): 脳血管塞栓(21.3)、AMI(18.6)、その他の動脈血栓(14.2)、PE(17.5)、その 他の静脈血栓(DVT含む、22.9) • 死亡は50例、うち36例(72%)が血栓塞栓性合併症が原因である可能性 • 併用された止血薬や投与時の状況、投与適応などが均一でなく、用量に ついての十分なデータもなし ↓ Adverse EventとrFⅦa因子の関連は、本研究が後ろ向き研究で あることからも、結論は出せない。 血友病以外の患者に対するrFⅦa因子の安全性と効果につい ての検証には、RCTが必要。 • rFⅦa因子製剤の、適応外使用における血栓塞栓イベントの 頻度をレビュー • 35のRCT(うち26がplacebo-‐controlled trial、9が健常人ボラン ティアによるもの)、4419人の適応とされた「患者」と、349人 の健康なボランティアが対象(29のNovo Nordisk社がスポン サーの研究も含む) • 1996年から2008年まで、「rFⅦa」「factor Ⅶa」「eptacog alfa」「Novo Seven」をキーワードにMedlineで検索 • 出血の状況を7つ分類: 中枢神経系(頭蓋内・脊髄)/肝疾患に伴う出血/外傷/心臓手術/頭部外傷/ 脊椎手術/その他 • 投与量の分類 血友病治療の適正量が90μg/kgとされているのを参考に ・80μg/kg:低用量 ・80-‐120μg/kg:中等量 ・120μg/kg以上:高用量 • 血栓塞栓性イベントは動脈性(心臓・末梢血管、脳血管、その他)と静脈 性(DVTやPE、血栓性静脈炎など)で区別 出血の原因と投与された人数・投与量の内訳 ・頭蓋内・脊髄など中枢神経系関連の出血に対しての投与が最多(31.3%) 血栓塞栓性イベントの発生 • すべての血栓塞栓性有害事象で比較すると、rFⅦa群とコントロールに有意差なし • 動脈性と静脈性で区別して比較した場合、静脈性血栓イベントの有意差はなかったが、 動脈性血栓イベントはrFⅦa投与群の方が発生率が高かった 動脈性血栓イベントをもう少し詳しく • 動脈性血栓イベントのうち、心血管系有害事象(ACS、トロポニン上昇)はrFⅦa投与群が コントロール群より有意に発生率が高かった • 脳血管系の動脈性血栓イベントの発生率には有意な差を認めなかった 年齢別の発生 • 65歳以上において、動脈性血栓イベントはrFⅦa投与群においてコントロール群より 有意に発生率が高かった • 65歳以上のうち、特に75歳以上のグループにおいて動脈性血栓イベントの発生率が rFⅦa投与群で有意に高かった ⇒高齢者への投与は特に注意 出血原因別の動脈血栓性イベント発生 • 中枢神経関連の出血に対する投与において、rFⅦa投与群がコントロール群に比べ動脈 性血栓イベントは有意に発生率が高かった 中枢神経系関連の出血における動脈血栓性イベント発生 投与量 Placebo(n=23) 80μg/kg以下 (n=26) 80-‐120μg/kg (n=45) 120μg/kg以上 (n=13) 発生率(%) 5.4 6.0 10.3 11.9 • 年齢を調整し、投与用量と中枢神経系出血での動脈血栓性イベント発生を比較 • 用量依存性に動脈血栓性イベントの発生が多い(p=0.02) limitaTon • 各研究のサンプルサイズが比較的小さい • rFⅦa因子投与の適応が異なる • 各文献には発表年度が最大12年間の開きがあり、管理・治療のベースが異なる 結論 • 動脈性血栓イベントは、プラセボ群に対してrFⅦa製剤投与 群で有意に多かった • 静脈性血栓イベントは2群間で有意差はなかった • rFⅦa製剤投与群では、心血管系の動脈性血栓イベントが有 意に多かった • 年齢別では65歳以上、特に75歳の高齢者で有意にイベント 発生率が高かった • 用量依存的に有害事象の増加を認めた → 使用におけるリスクとして認識しておくべき • rFⅦaの出血に対する有効性を示唆する研究は多いが、安 全性についての結論出てない→systemaTc reviewへ • 2011年3月までの適応外使用に関する140の論文のうち、29 のRCTを対象とした • 16研究(n=1361):予防的投与。729人に投与 • 13研究(n=2929):治療的投与。1878人に投与 予防的投与 rFⅦa投与群とコントロール群の死亡率には有意差なし イメージを表示できません。メモリ不足のためにイメージを開くことができないか、イメージが破損している可能性があります。コンピューターを再起動して再度ファイルを開いてください。それでも赤い x が表示される場合は、イメージを削除して挿入してください。 予防的投与 rFⅦa投与群では、コントロール群と比較し輸血の必要量が減少 出血量においても同様に、rFⅦa投与群ではコントロール群と比較し出血量が減少 治療的投与 rFⅦa投与群とコントロール群の死亡率には有意差なし 治療的投与 rFⅦa投与群とコントロール群の輸血量に有意差なし 血栓塞栓性有害事象 予防的・治療的使用合わせて比較すると、血栓性有害事象の発生率に有意差なし 動脈性有害事象 予防的・治療的使用を合わせて比較すると、動脈性有害事象の発生率に有意差あり 結論 • 予防的投与・治療的投与とも、rFⅦa投与群とコントロールでの群死亡率に 有意差はない • rFⅦa予防的投与群で出血量・RBC輸血の必要量が減少した • ただし、予防的投与群の中にデータが収集できなかったものを含むため、過 大評価の可能性がある • 治療的投与では、 rFⅦa投与によるRBC輸血の必要量に有意差はなかった • rFⅦaの投与により動脈血栓塞栓のリスクが増加する 日本での使用状況 術後大量出血患者における血液凝固第Ⅶ因子の使用経験 (蕉木 友則ら、日救急医雑誌2007; 18: 810-‐4) 症例1:36歳女性。常位胎盤早期剥離にて緊急帝王切開術施行後、出血傾 向が出現。MAP37単位、FFP44単位、血小板70単位の輸血を行うも止血困 難。そこでノボセブン®4.8mgを投与したところ、循環動態が安定。止血コント ロールがついた。 症例2:14歳男性。左第8肋骨のEwing肉腫に対して腫瘍摘出術施行。手術 は無事終了したが、帰室後に術後出血あり、血圧低下、心停止となる。再開 胸術が行われたが、再手術後も250ml/hのドレーン出血が持続、MAP37単 位、FFP66単位、血小板20単位が使用された。そこで、ノボセブン®4.8mgを投 与したところ、ドレーン出血は30ml/hに減少、循環動態は安定、1日の輸血 必要量がRCC38単位から8単位へ、そしてさらに減少した。 第7因子製剤(ノボセブン®)が有効であった急性大動脈解離を発症したMarfan症候 群妊婦の一症例 (川島 信吾ら、第39回日本集中医療医学会学術集会) 30代女性。妊娠34週。母親がMarfan症候群、本人も10年前に大動脈基部の瘤を 指摘されていた。急な心窩部痛、左肩の放散痛にて救急搬入。A型大動脈解離に 伴う心筋梗塞の診断で緊急手術。まず帝王切開にて児を娩出、続いてBentall術を 施行。CPB離脱困難であり、IABP及びPCPSを使用し、CPB時間は9時間16分。長時間 CPB、産科的DIC合併により、大量輸血、クリオプレシピテート、AT3製剤投与後も止 血に難渋。第7因子製剤を投与したところ出血が減少、手術時間18時間29分で無 事に手術が終了。 リコンビナント活栓型第Ⅶ製剤の影響が懸念される肺血栓塞栓症による死亡症例 (峯田 健司ら、日本臨床麻酔学会誌 32巻6号 p306) 40代男性。大動脈解離Ⅲb胸部下行大動脈瘤破裂を発症し、緊急で胸部下行大動 脈人工血管置換術を施行。体外循環離脱後はFFP,PCも含めた輸血を多量に行った が出血が持続。rFⅦa製剤5mgの投与により出血傾向は収まり手術が終了。術後4 日目に抜管、術後6日目にはマスク酸素2L/minでICUを退室したが手術7日後に急 変し、蘇生の効果なく永眠された。解剖所見より死因は肺血栓塞栓症と考えられた。 →周術期出血に対する使用は心臓血管手術に限っていない報告 もあるが、いずれにしろcase seriesレベル。 経済的問題 まとめ:rFⅦa製剤の有用性と問題点 有用性 問題点 投与前後で出血量が減少 死亡率は投与群とコントロール 群で差がない 輸血必要量が減少 難治性出血に対する保険適応 がない 術後出血による再手術が減少 血栓塞栓症のリスクがある とにかく高価 ノボセブンを考慮する具体的状況 下記を満たしても出血が持続する場合 ①血小板数>50.000~100.000/μl ②フィブリノゲン濃度>100mg/dl ③ヘパリンなど抗凝固薬の影響がない ④線溶亢進がないまたは抗線溶療法を行っている ⑤外科的出血がない ⑥低体温がない ⑦低カルシウム血症がない ⑧アシドーシスがない 私見 • ノボセブン®を使用した経験はないが、適応外使用とは いえ難治性出血にもかなりキレのある薬なのだろう • 悲劇的な出血に遭遇したらリスクを踏まえた上で「究極 の止血剤」として使用するかもしれないが、特に動脈性 の血栓性合併症のリスクは念頭に置く必要がある • 術中出血においては早期使用の方がより有効とする意 見もあり、タイミングの判断は非常に難しいか・・・ • 大規模RCTの施行が難しいため、現状では安全性と投 与後の転帰については結論が出ていない、と考える