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QRコードを用いたIDカードの顔写真に適した 電子透かし

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QRコードを用いたIDカードの顔写真に適した 電子透かし
平成 24 年度卒業論文
論文題目
QR コードを用いた ID カードの顔写真に適した
電子透かし
神奈川大学 工学部 電子情報フロンティア学科
学籍番号 200902802
山崎 慎太郎
指導担当者 木下宏揚 教授
目次
第1章
序論
第2章
基礎知識
3
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6
6
6
7
8
9
9
10
10
12
15
16
17
19
実験 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
22
25
第4章
結論
28
第5章
謝辞
29
第6章
質疑応答
2.1
画像処理技術 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2.1.1 2 値化 . . . . . . . .
2.1.2 グレースケール . . .
2.1.3 ガンマ補正 . . . . .
2.2 符号化技術 . . . . . . . . .
2.2.1 フーリエ変換 . . . .
2.2.2 離散フーリエ変換 . .
2.2.3 離散コサイン変換 . .
2.2.4 ウェーブレット変換
2.3 QR コード . . . . . . . . . .
2.4 ステガノグラフィー . . . .
2.5 電子透かし . . . . . . . . .
2.6 マスキング効果 . . . . . . .
第3章
3.1
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提案方式
2
1
図目次
2.1
2.2
2.3
2.4
2.5
2.6
2.7
2.8
2.9
. . . . . .
中間値法スペクトル . . .
単純平均法スペクトル . .
加重平均法スペクトル . .
QR コードの仕様 . . . .
QR コード . . . . . . .
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ステガノグラフィーと電子透かし .
マスキング効果小 . . . . . . . .
マスキング効果大 . . . . . . . .
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7
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15
16
17
19
20
3.1
3.2
3.3
3.4
3.5
3.6
3.7
3.8
イメージ図 1
.
イメージ図 2 .
イメージ図 3 .
原画像 . . . .
透かし情報 . .
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ウェーブレット変換後
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原画像(左)と透かし入り画像(右) .
透かし画像 . . . . . . . . . . . .
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23
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25
25
26
26
27
画像の 2 値化
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2
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第1章
序論
インターネットの急速な普及拡大につれて,マルチメディアの需要
が増大している.その一方で映像ソフトや音楽ソフトのデジタル化
にともないユーザーやソフト製作者らによる不正コピーの問題がク
ローズアップされてきた.またインターネットを介した静止画や電
子辞書の頒布は,第二,第三の無許可コピーを流布する結果を招き
つつあり,著作権の管理が緊急の課題となっている.最新のディジ
タル機器を用いると,原作とほぼ同じ複製品を自由に再生できる環
境にあるので,独創性のある作品を違法コピーのはびこる情報ネッ
ト上に流通させるには,著作権の保護は必須となる [1].
また近年,急速な ID カードの普及,高機能化によりカード社会が
進展により学生証や社員証・免許証など公的分野でのカード化が進
み,ID カードの偽造防止や所有者を認証する上でのシステムの信頼
性の強化がますます必要とされている.
現在クレジットカード等で多くつかわれているICカードは信頼性
は高いがパスワードは使用者本人の管理によって扱われるため,パ
スワード流出の危険性がある.またカード自体のコストやインフラ
整備でのコストが高いことも問題の1つである.また顔写真付きの
ID カードなどでは写真部分を変更することによるなりすましや改ざ
んなどの事件が多く見受けられ,深刻な事態となっている.そういっ
た不正に対抗するための技術として考案されたものが電子透かしで
ある.
電子透かしとは,人間の知覚(視覚・聴覚)の特性を利用し静止画,
動画,音声などのデジタルコンテンツに対して,コンテンツ自体と
別の情報を,人間に知覚できないように埋め込む技術を言う.電子
化,デジタル化された画像や音声は,通常は人間が気づかないよう
3
序論
4
な細かなレベルの情報まで含んでいる.例えばデジタル画像を構成
する一つのがその最下位ビットを部分的に変化しても,人間は知覚
することはできない.これを利用し,このような部分に別の情報を
埋め込むことができる [2].
電子透かしの原理は,コンテンツの冗長性を利用して別の情報を
埋め込むことなので,冗長性の高い画像,映像,音声といったメディ
アを対象とした技術が代表的であるが,文書,プログラム,ポリゴ
ンデータなどを対象とした技術も提案されている.電子透かし技術
によって,コンテンツと透かし情報を一体化させることができ,そ
れによって様々な応用が実現できる.電子透かしという言葉は,コ
ンテンツの中に別の情報を知覚できないように埋め込む(隠す)技
術,という広い意味で用いられることも多いが,最近では,この最
も広い概念を「情報ハイディング」と呼び,これを大きくステガノ
グラフィー(Steganograghy)と電子透かしに分類する考えが一般的
になりつつある.ステガノグラフィーは,埋め込まれる情報に主眼
が置かれ,これを隠蔽することが目的であり,例えば,写真データ
のやりとりに偽装して秘密のメッセージ通信を行うような場合に利
用する.それに対し,電子透かし技術はコンテンツに関連した情報
を埋め込む.
さらに電子透かし技術は,
「強い(ロバスト,Robust)」電子透かし
と「弱い(フラジャイル,Fragile)」電子透かしに分けられる.ロバ
スト電子透かしは,コンテンツに JPEG・MPEG などの非可逆圧縮
や編集・加工を施しても,透かし情報の検出が可能な高い耐性を持
つものである.埋め込まれた情報は,コンテンツの編集・加工によ
り傷つくが,例えば,誤り訂正符号などで冗長化することでロバス
トにすることができる.その他,無線通信で用いられる,スペクト
ラム拡散変調を応用した方法や,信号領域ではなく周波数領域で埋
め込みを行う方法など,様々な方法が提案されている.フラジャイ
ル電子透かしは,コンテンツの変更に対して,電子透かしが壊れや
すく敏感に応答する特徴を持ち,コンテンツ改ざん検知の目的で利
用される.埋め込まれた情報はコンテンツの編集・加工により傷つ
序論
5
くので,この傷に敏感に応答するように構成する.
その他にも様々な観点から電子透かしを分類することができる.一
般的な電子透かし技術は,透かしを埋め込むとオリジナルコンテン
ツデータの一部が欠損するため,透かしデータを取り除こうとして
もうまくいかない(非可逆な透かし).しかし,コンテンツの劣化が
許されないような場合は,透かしを完全に取り除くことができるよ
うな可逆電子透かし技術も提案されている.また、電子透かしの検
出の際に、透かしを埋め込む前のオリジナルコンテンツを必要とす
るか否かでも分類できる.オリジナルを持っている人が透かしの検
出を行う場合は,オリジナルコンテンツを利用する電子透かし技術
でも問題はないが、コンテンツの利用者(または第三者)が透かし
を検出する場合には,オリジナルコンテンツを要しない電子透かし
技術が必要となる [3][4][5][6][7].
埋め込む情報には,ロゴや著作権情報のものが多い.画像におけ
る電子透かし技術にはデジタルコンテンツの保護だけでなく,透か
し情報を埋め込んだデジタルコンテンツをハードコピーしても消え
ることがない電子透かしも提案されている.
先行研究で QR コードを用いた電子透かしが提案されている. その
研究では,QR コードの誤り訂正能力に着目した透かし情報の生成が
提案されているが,bit 系列として埋め込まれているため QR コード
の変形に対する耐性などが生かされていない.そこで今回は QR コー
ドを 2 値画像として用いて,斜めからなど撮影条件が悪くても読み
取ることのできる透かし入り画像を目指す.
第2章
2.1
2.1.1
基礎知識
画像処理技術
2 値化
白と黒だけによる画像の表現処理である.各画素の明るさを一定
の基準値により,白色と黒色の 2 つの色に変換する処理を行う.この
一定の基準値のことを閾値という.閾値より小さい値を持つ画素を
白,大きい値の画素を黒として表現する.通常,画像の各画素は 0∼
255 の RGB 値を持っており,RGB 値の平均値が各画素における明る
さとなる.2 値化処理は,画素 (x, y) の濃淡画像を f (x, y),閾値を T
とすると,一般的には次項に従って処理される [8].
{
白色 f (x; y) ≤ T
(2.1)
黒色 f (x; y) > T
図 2.1: 画像の 2 値化
6
基礎知識
7
基準となる閾値の値を変更することで 2 値化処理後の画像が異な
り,2 値化処理を行うことで画像からの検索情報の抽出が容易にな
り,また判定処理なども高速に実行できる [10] .
2.1.2
グレースケール
グレースケールは画像を白から黒までの明暗だけで色の情報は含
まずに表現する.灰色を何階調で表現するかをビット数によって表
す.8 ビットなら (白と黒を含めて)256 階調,16 ビットなら 65536 階
調の灰色で表現することができる.グレースケール処理はその計算
方式によりいくつかの計算方法が存在する [9].
• 中間値法:出力画素=(最大成分+最小成分)/2
対象画素における最大最小成分の平均を画素値とする方法であ
る.カラーパターンが灰色一色に変換され,それぞれの色の違
いが全て潰れてしまっている.非常に直感的で簡単ではあるが,
意図して使う以外は適切ではない.
図 2.2: 中間値法スペクトル
• 単純平均法:出力画素=(R 成分+G 成分+B 成分)/3
対象画素の RGB 各成分の平均値を画素値とする方法である.RGB
成分の値によってグレーに濃淡ができているが,異色である青
と緑が処理後では同色であったりと,人が感じる明るさの違い
を無視してしまう.
図 2.3: 単純平均法スペクトル
基礎知識
8
• 加重平均法:出力画素=(0.299×R 成分+0.587×G 成分+0.114×B
成分)
RGB 各成分に重み付けを加え,視覚感度を考慮した計算方法で
ある.単純平均法で問題のあった青と緑にも処理後の差異が生
じ,処理後の多色化が成される.
図 2.4: 加重平均法スペクトル
2.1.3
ガンマ補正
γ(ガンマ) とは画像の明るさの変化に対する電圧換算値の変化比で
ある.画像の色データと画像が実際に出力される際の信号の相対関
係を調節し,より自然に近い表示を取得し,元画像データに忠実な
画像の表示を再現するための補正をガンマ補正という.γ 補正の数式
を下記に示す [10].
γ = 255 × (
γ 1/y
)
255
(2.2)
画像データと出力データとの値が正比例している時,γ 値は 1 にな
るが,実際には正比例しない.スキャナなどの入力装置やプリンタ
などの出力装置はそれぞれ特有のγ値を持っており,スキャナなど
で入力した画像をそのまま出力してしまうと γ 値が 1 に近づかない
ため色合いが違ってしまう.広義に解釈すると,現在のほぼ全ての
画像データは特定の出力環境に合わせられて作られていると言って
よい.出力環境が変わることでその時出力した画像データは完全な
状態で表示することができないということである.そのため,出力
機器の違いによる差異を緩衝し,より正確な画像データ取得におい
てユーザーはガンマ補正を行う必要がある.
基礎知識
2.2
2.2.1
9
符号化技術
フーリエ変換
ある変数の関数をその変数に共役な変数の関数に変換する方法であ
る.光,音や画像を周波数の関数として表したり (スペクトル分解),
位置の関数としての物体を波数の関数としての回折図形に変換した
りするときに使われる.
f (x, y) が 2 つの離散変数 x および y の関数である場合,f (x, y) の 2 次
元フーリエ変換は
F (ω1 , ω2 ) =
∞
∞
∑
∑
f (x, y)e−jω1 x e−jω2 y
(2.3)
x=−∞y=−∞
の関係によって定義される.また,逆フーリエ変換は
∫ π ∫ π
1
f (x, y) = 2
F (ω1 , ω2 )ejω1 x ejω2 y dω1 dω2
4π ω1 =−π ω2 =−π
(2.4)
によって求められる.
√
ここで,j = −1 であり,ω1 ,ω2 はそれぞれ,x 方向 y 方向 の空間
周波数を表す.
上式からわかるように,一般に F (ω1 , ω2 ) は複素数となる.そこで,
その性質を見るのに以下で定義される絶対値と偏角を求める.
| F (ω1 , ω2 ) |=
√
Re{F (ω1 , ω2 )}2 + Im{F (ω1 , ω2 )}2
arg{F (ω1 , ω2 )} = tan−1
Im{F (ω1 , ω2 )}
Re{F (ω1 , ω2 )}
(2.5)
(2.6)
ただし,Re{F (ω1 , ω2 )}, Im{F (ω1 , ω2 )} はそれぞれ F (ω1 , ω2 ) の実部
と虚部を表す.| F (ω1 , ω2 ) | は,フーリエスペクトルまたは振幅スペ
クトル,arg{F (ω1 , ω2 )} は位相スペクトルと呼ばれている.さらに
| F (ω1 , ω2 ) |2 は,パワースペクトルと呼ばれている [11].
基礎知識
2.2.2
10
離散フーリエ変換
コンピュータ上でフーリエ変換を行う場合,通常,離散フーリエ変
換(DFT)という変換を行う.離散変換とは,入力値と出力値が離
散サンプルで,コンピュータ操作がしやすい変換のことである.こ
の形式の変換を使用する主な理由は 2 つある.
・DFT の入力と出力は両方が離散であり,コンピュータで操作しや
すい
・DFT を計算するために,高速フーリエ変換(FFT)として知られ
るアルゴリズムがある [12]
DFT は有限領域 0 ≤ x ≤ M − 1 および 0 ≤ y ≤ N − 1 に対してのみ
非ゼロである離散関数 f (x, y) に対して定義される.2 次元の DFT は
F (p, q) =
M
−1N
−1
∑
∑
f (x, y)e−j2πpx/M e−j2πqy/N
x=0 y=0
p = 0, 1, . . . , M − 1
q = 0, 1, . . . , N − 1
(2.7)
で表せる.そして,逆 DFT は
M −1N −1
1 ∑∑
f (x, y) =
F (p, q)ej2πpx/M ej2πqy/N
M N p=0 q=0
x = 0, 1, . . . , M − 1
y = 0, 1, . . . , N − 1
(2.8)
で表すことができる.
F (p, q) の値は f (x, y) の DFT 係数で,ゼロ周波数係数の F (0, 0) は DC
成分と呼ばれる.
2.2.3
離散コサイン変換
画像や音声などをサンプリングして離散的な信号に変換し,離散コ
サイン変換を行った後に符号化を行うことで,元の信号の大部分を
損ねずにデータの容量を減らすことができる.JPEG などの画像圧
縮技術や ACC,MP3 などの音声圧縮技術において利用されている.
離散コサイン変換は変換後の信号の周波数成分が低周波数領域に集
中することが特徴である.データ圧縮に離散コサイン変換を利用す
基礎知識
11
る場合,変換後の信号を量子化し符号化する際に,情報の集中して
いない領域にに対して少ない符号化ビットを割り当てるか,または 0
で近似し切り捨てることで,データの容量を減らすことが可能であ
る [13].
離散コサイン変換は,信号をコサイン波の重ね合わせで表現したも
のであり,関数 f (x, y)(x = 0, · · · .M − 1, y = 0, · · · , N − 1) に対す
る二次元離散コサイン変換(DCT)は次式で定義される.
基礎知識
12
Fc (k, l) = C(k)C(l)
M
−1 N
−1
∑
∑
f (x, y) cos(
x=0 y=0
(2x + 1)kπ
(2y + 1)lπ
) cos(
)
2M
2M
(2.9)
0 ≤ k ≤ M − 1, 0 ≤ l ≤ N − 1
{
C(k) =
√1 (k = 0)
√M
2
(1 ≤ k
M
{
≤ M − 1)
√1
√N
C(l) =
(l = 0)
2
(1
N
≤ l ≤ N − 1)
また,離散コサイン逆変換(IDCT)は次式で定義される.
M −1 N −1
4 ∑∑
(2x + 1)kπ
(2y + 1)lπ
f (x, y) =
C(k)C(l)Fc (k, l) cos(
) cos(
) (2.10)
M N x=0 y=0
2M
2M
0 ≤ x ≤ M − 1, 0 ≤ y ≤ N − 1
{
C(k) =
√1 (k = 0)
√M
2
(1 ≤ k
M
{
≤ M − 1)
C(l) =
√1
√N
(l = 0)
2
(1
N
≤ l ≤ N − 1)
DCT(IDCT) は有限個のデータに対しての変換であるため,入力
データは N 点ごとに分割して計算する必要がある.一般的には 8 個
が良く用いられる.8 という数字で行う理由は,計算時間およびノイ
ズの目立ちにくさのバランスが最良だからである.画像は 2 次元であ
るため,通常 8 × 8 画素単位に分割し DCT 計算を行い,それを全画面
について繰り返す.256 × 256 画素の場合は 256 ÷ 8 × 256 ÷ 8 = 1024
個のブロックについて計算を行う.
2.2.4
ウェーブレット変換
ウェーブレット変換とは,ウェーブレット関数と呼ばれる関数 Ψ(x)
を平行移動と伸縮の操作を施したものとの畳み込みで定義される.ウ
ェーブレット関数は、ウェーブレット関数について2つの実数 a(> 0),
基礎知識
13
b をパラメータとし,縦軸方向に √1a 倍、横軸方向に a 倍し b だけ平行
移動させたものであり,次式で表される。
1
x−b
Ψa,b (x) = √ Ψ(
)
a
a
(2.11)
上式において a をスケールパラメータ,b をシフトパラメータと称
する.
ウェーブレット変換は,上式で与えられたウェーブレット関数 Ψa,b (x)
を基底として信号変換するものである.関数 g(x) を解析する信号と
するとこのウェーブレット変換は次式で定義される.
∫ ∞
Ψb,a ≡
g(x)Ψa.b (x)dx
−∞
∫ ∞
1
x−b
=
g(x) √ Ψ(
)dx
a
a
−∞
(2.12)
(2.13)
式 (2.11) から,元の信号 g(x) を復元する逆ウェーブレット変換は
次のように定義される.[14]
∫∫
x − b dadb
1
1
g(x) =
Ψb,a √ Ψ(
) 2
CΨ
a
a
a
R2
(2.14)
ウェーブレット変換は様々な種類があるが,ここでは電子透かし
にしばしば利用されるハール関数について説明する.ハール関数は
ウェーブレット変換の中でも最も簡単な関数であり,データの圧縮,
伝送,ノイズ除去などによく利用される.特徴としては対称性,直
行性を持つ.そして,計算式が簡単なため計算時間を短くすること
ができる
画像に対するウェーブレット変換は 2 次元ウェーブレット変換とな
り,1 次元ウェーブレット変換を水平方向,垂直方向の 2 回行えば求
めることができる.1 次元ウェーブレット変換の計算式は
fj [k] = (fj+1 [2k] + fj+1 [2k + 1])/2
ej [k] = (fj+1 [2k] − fj+1 [2k + 1])/2
(2.15)
基礎知識
14
j = −1, −2, · · · , M : M はウェーブレット変換の階層
ただし,
k = 0, 1, 2, · · · , N/2 : N は画素数
で求めることができる.
この作業を,水平方向,垂直方向の 2 回行うことで低周波成分,高周
波成分に分けることができる.画像をウェーブレット変換した結果を
下図に示す.4 つの画像が表示されているが,それぞれ 左上を LL 成
分,右上を LH 成分,左下を HL 成分,右下を HH 成分 と呼ぶ.LL
は低周波成分,その他は高周波成分で LH が横方向,HL が縦方向,
HH は両方の微分波形を示している.LH ,HL,HH のどの部分を削
除するかにより,最適な画像の圧縮を行うことが可能となる [15].
また,逆ウェーブレット変換は
fj+1 [2k] = fj [k] + ej [k]
fj+1 [2k + 1] = fj [k] − ej [k]
により求められる [16].
(2.16)
基礎知識
2.3
15
QR コード
QR コードは,2 次元コードの一種であり,
「リーダにとって読み取
りやすいコード」を主眼にデンソーが 1994 年に発表したものである.
縦方向と横方向二方向に情報を持つことで,一方向だけに情報を持っ
ているバーコードに対し,記録できる情報量を飛躍的に増加させた
コードである.
QR コードシンボルの 3 コーナーに配置されている切り出しシンボ
ルを検索することで QR コードの位置を認識することができ,高速な
読み取りと 360 °どの方向からでも読み込むことが可能となっている.
図 2.5: QR コードの仕様
また誤り訂正符号により QR コードの一部分が損傷した場合におい
てもデータを損失することなく復元することができる.誤り訂正に
は,シンボルの損傷度合いに応じた 4 段階のレベルを持っており.例
えば,レベル H では最大でコード面積の約 30 %が損傷した場合にお
いても,データを復元することが可能である.QR コードは,数字,
漢字,英数字,漢字,バイナリのデータを扱うことができ,最大で
数字なら 7089 文字,英数字なら 4296 文字,漢字なら 1817 文字を表
すことが可能である [17][18][23].
基礎知識
16
図 2.6: QR コード
2.4
ステガノグラフィー
ステガノグラフィー(steganography)とは,音声や画像などのデー
タに秘密のメッセージを埋め込む技術である.
ある程度の大きさ以上の音声や映像,画像などのマルチメディア
データは冗長性を含むため,データをわずかに改変しても人間には
知覚できない.この性質を利用して,見た目などをほとんど変化さ
せずにデータの中にメッセージ (多くの場合は文字) を埋め込む技術
がステガノグラフィーである.メッセージを秘匿する技術という点
では暗号技術に似ているが,暗号はメッセージが発見されても解読
されないようにする技術であるのに対し,ステガノグラフィーはメッ
セージが送られていること自体を気付かれないようにする技術であ
る [12].
一般的な電子透かしとの違いは,電子透かしはコンテンツを保護
する目的であることに対し,ステガノグラフィーはコンテンツはダ
ミーであり,その中に入っている透かし情報に価値があるというこ
とである.
基礎知識
17
図 2.7: ステガノグラフィーと電子透かし
2.5
電子透かし
デジタルコンテンツはその優れた品質の他に,いくらコピーして
も品質が劣化しない,取り扱いが簡単などの特徴がある.デジタル
コンテンツを保有する人達にとっては,アイディア次第で無限のビ
ジネスチャンスがあるように思える.一方,デジタルコンテンツは
コピーしても劣化しないという特徴から,容易に不正コピーされて
しまうという大きなリスクを背負っている.この不正コピー問題は
デジタルコンテンツビジネスの事業化に際して障害の一つとなって
おり,対策としてコンテンツに何らかの保護をする仕組みが必要と
なる [15].
この問題を解決する一手として考えられたものが電子透かしである.
電子透かし技術とは,デジタルコンテンツにその冗長性を利用し
て他の情報を埋め込む技術のことである.電子透かしの埋め込まれ
た画像や音声データから電子透かし情報の検出を行うことで,著作
権の保護を行うことが可能となる.埋め込むディジタルコンテンツ
にはテキスト・音声・画像・動画・プログラムなどがあり,著者名・
コピー回数などの著作権関連情報を埋め込むことが多い.
また,電子透かし手法を用途により以下のように分類できる。
• 不可視・高耐性型
基礎知識
18
埋め込み可能な情報量が少ないという欠点があるが,加工・圧
縮などの処理に対して,耐性が高く,電子透かし情報の除去が
困難であるという利点がある.
• 不可視・低耐性型
耐性を重視せずに,多くのデータを埋め込みたい場合に用いる.
耐性が必要ないため,画質への影響や劣化も少なくすることが
できる.コンテンツの改ざんの発見にも利用することができる.
• 可視・可逆型
所有権を明示的にコンテンツ上に表示する電子透かしである.透
かしを埋め込んだコンテンツの再利用ができるように,電子透
かしを除去することができる.電子透かしを除去するには,特
別なプログラムと鍵が必要である.これにより,コンテンツの
所有者は,安心してコンテンツをインターネット上で公開した
りすることができる.
• 可視・非可逆型
所定のコンテンツの所有権をはっきり利用者に示す際に用いる.
この型は埋め込んだ透かしデータは取り除くことが出来ない.不
正な再利用や販売を防止する目的を持ち,コンテンツに所有者
の名前やロゴマークを付加する.[19] [20] [21][22]
電子透かしに必要とされる条件を示す.
1. データをコンテンツの中に,人の目では判別できない状態で埋
め込むことができる
2. 透かし情報によるコンテンツ自体の劣化が少ない
3. 透かしを入れた後にコンテンツを加工しても,取り出すことが
できる
4. 十分な埋め込み情報量を埋め込める
基礎知識
2.6
19
マスキング効果
マスキング効果とは,ある二つの異なる音波が耳に届くとき,弱
い音波は強い音波に打ち消されてしまうという聴覚特性のことであ
る.例えば,車などが通り過ぎる時や音楽を大音量でかけている時
に誰かに話しかけられても中々聞き取ることはできない.この特性
は,視覚においても同様で,画素値同士の差が小さい画像に変化を
加えることに比べ,画素値同士の差が大きい画像に変化を加えた場
合の方が,画素値の変化が周囲に紛れ,画像の変化が目立ちづらく
なる.
図 2.8: マスキング効果小
基礎知識
20
図 2.9: マスキング効果大
基礎知識
21
画像を評価する上で考慮すべき視覚特性として,
1. 空間周波数方向の視覚感度(高周波成分に加わる雑音ほど検知
されにくい)
2. 雑音マスキング効果(変化の激しいブロックでの雑音は検知さ
れにくい)
が挙げられる [24][25].
これらは,画像に加わる雑音の程度が,元画像の変化の度合いに
よって異なることを示唆している.1 のように,変化の激しい領域に
重畳する雑音は検知されにくい.2 では,低周波成分に加わる雑音で
も,その周辺ブロックが高い周波数成分を含むほど,雑音を強く覆
い検知されにくい事を意味する [26].
第3章
提案方式
1. データをコンテンツの中に,人の目では判別できない状態で埋
め込むことができる
2. 透かし情報によるコンテンツ自体の劣化が少ない
3. 透かしを入れた後にコンテンツを加工しても,取り出すことが
できる
4. 十分な埋め込み情報量を埋め込める
以上の条件を満たした電子透かしを目指す.十分な埋め込み情報量
を実現するために QR コードを採用することにする.またコンテン
ツの加工・圧縮等に対応するため,周波数領域への埋め込みを採用
する.そのなかでもブロック歪みやノイズにたいして強いウェーブ
レット変換を使用する.基底は簡単かつ,よく用いられているハー
ル基底を使用する.なお,コンテンツの劣化状態については実験の
結果を見て考察する事とする.下記で提案方式を説明する.
22
提案方式
23
1. まず,元画像の縦,横方向にハールウェーブレット変換を施す.
図 3.1: イメージ図 1
2. 次に,LL,HL,LH,HH 成分に分かれた画像の LL 成分を 8 ×
8 画素のブロックに分割する.
図 3.2: イメージ図 2
3. 次に,分割した各ブロックごとの画素値の総和を求める.求め
た総和を埋め込み規則に従い変更し,変更したブロックの各画
素値に変更を反映させることで透かし情報を埋め込む.QR コー
ドは,黒と白の二つしか扱われない画像データのため,電子透
提案方式
24
かしビット値は黒であれば 0,白であれば 1 ということになる.
得られた電子透かしビット値が 0 であれば総和を偶数に,1 であ
れば奇数に変更する.
4. 最後に逆ウェーブレット変換をして透かし入り画像の完成となる.
図 3.3: イメージ図 3
提案方式
3.1
25
実験
今回使用する画像を下記に示す.原画像となる写真は,スマート
フォンで撮影したものである.透かし情報となる QR コードは,フ
リーソフト “Psytec QR Code Editor Ver.2.43”を使用して作成した
ものである.QR コードには,学籍番号と名前を入れてある.
図 3.4: 原画像
図 3.5: 透かし情報
提案方式
26
原画像(図 3.4)にハールウェーブレット変換を施す.次に,図 3.6
図 3.6: ウェーブレット変換後
の画像の LL 成分を 8 × 8 画素のブロックに分割し,総和を求め,前
述した埋め込み規則に従って透かし情報を埋め込む.
最後に,逆ウェーブレット変換を行い,透かし入り画像の完成と
なる. 下記の図 3.7(右) に埋め込み後の画像を,図 3.8 に抽出した QR
コードを示す.なお,抽出した QR コードは,スマートフォンのアプ
リで読み取ることができた.
図 3.7: 原画像(左)と透かし入り画像(右)
提案方式
27
図 3.8: 透かし画像
第4章
結論
本稿では,QR コードを用いた ID カードの顔写真に適した電子透
かしについて提案した.
上記の両画像を見比べても,大きな画像劣化はなく,問題はないと
言える. 今回は学籍番号と名前だけの少ない情報での実験を行った
が埋め込む情報量は,QR コードの規格をより大きなものを使う事で
多くすることができる. また画像の画質評価として多く用いられる
PSNR 値は,40.23[dB] であった.透かし情報を埋め込んだ画像に対
して評価を行う場合 35[dB] 以上が基準となっているため,画質の劣
化はないと評価できる.
今後の課題として,透かし画像の耐性の評価が挙げられる. 評価方
法は,アフィン変換,加工処理,フィルタ処理,データ圧縮,DA-AD
変換などが挙げられる. 周波数領域に透かし情報を埋め込んだため,
アフィン変換や,加工処理には強いと予想される. また低周波領域に
埋め込んだためデータ圧縮にも強いと予想される. しかし,フィル
タ処理や DA-AD 変換を行うと透かし情報が失われる可能性がある.
また,これらの攻撃に対して耐性のあるアルゴリズムを検討してい
く必要があると考えられる.
28
第5章
謝辞
本研究を行うにあたり,終始熱心にご指導していただいた木下宏揚
教授と宮田純子助手に心から感謝致します.
また,公私にわたり良き研究生活を送らせていただいた木下研究
室の方々に感謝致します.
2013 年 2 月
山崎 慎太郎
29
参考文献
[1] 松井 甲子雄, “電子透かしの基礎”森北出版株式会社 (1998)
[2] “電子透かしは著作権保護技術”
http://www.inpit.go.jp/blob/katsuyo/pdf/chart/fdenki12.pdf
[3] 中村 高雄,高嶋 洋一 “知っておきたいキーワード 電子透か
し”映像情報メディア学会 (2007)
[4] I.Cox et al,“Digital Watermarking”
Morgan Kaufmann Publishers(1999)
[5] W.Bender et al,“Techniques for Data Hiding”,IBM System
Journal, 35(3/4)(1996)
[6] E.T.Lin et al,“Dection of Image Alterations Using Semi-fragile
Watermarks”,SPIE-3917(2000)
[7] 中村 高雄ほか,“カメラ付き携帯電話を用いたアナログ画像か
らの高速電子透かし検出方式”,
信学論D-II,J87-D-II(2004)
[8] “マイクロソフトアカデミックポータル アルゴリズム入門:第 3
章 画像処理入門 1”
http://msdn.microsoft.com/ja-jp/academic/cc998604
[9] osakana.factory“グレースケールのひみつ”
[10] 田村 秀行,“コンピュータ画像処理”,オーム社 (2002)
30
謝辞
31
[11] “デジタル画像処理”CG-ARTS 協会
[12] “IT 用語辞典 e-Words”
http://e-words.jp/
[13] “Marth Works”
http://www.mathworks.co.jp
[14] 芦野 隆一 “ウェーブレット解析入門”
[15] 小野 束,“電子透かしとコンテンツ保護”,オーム社 (2001)
[16] 峰村ゼミ “ウェーブレット変換の基礎と応用”
[17] “QR コードドットコム(株式会社デンソーウェーブ)”
http://www.qrcode.com
[18] “QR コードとは”,株式会社キーエンス
http://www.sensor.jp/barcode/jiten/2jigencode/2jigencode03.html
[19] “電子透かし報告書”
http://it.jeita.or.jp/eltech/report/2001/01-jou-04.pdf
[20] KIT ステガノグラフィ研究グループ
http://www.datahide.com/BPCSj/
[21] ステガノグラフィー
http://hp.vector.co.jp/authors/VA017815/insideof4.htm
[22] 電子透かし技術の種類と使用法
http://dev.sbins.co.jp/watermark/usage.html
[23] Borko
Furht,“Handbook
Springer(2011)
of
Augmented
Reality”,
[24] 宮地 悟史,浜田 高宏,松本 修一,“人間の視覚特性を考慮
した画像品質評価システムの開発”,信学論 (D-II),vol.J81-D-II,
no.6,pp.1084-1094,June 1998.
謝辞
1
[25] 浜田 高宏,松本 修一,“画像の局所的変化度による雑音マス
キング効果を考慮した直行変換係数の最適量子化法” 信学論 (BI),vol.J75-B-I,no.12,pp.791-801,Dec.1992.
[26] 大江 考輔, 棟安 実治,“雑音マスキング効果を利用した電
子透かし手法 (画像)”
信学論 (D-II),vol.J88-A,No.10(2005)
第 6 章 質疑応答
Q.今回,抽出された透かし情報は何らかの処理(攻撃)を行っ
た後抽出したものなのか. A.抽出した情報はそのまま抽出されたものである.StirMark 等
を使って攻撃を行った後に抽出した場合攻撃の種類によって復
元率が下がることが予想される.
2
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