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中国:金融市場改革を加速へ - JPモルガン・アセット・マネジメント

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中国:金融市場改革を加速へ - JPモルガン・アセット・マネジメント
MARKET INSIGHTS
Market Bulletin
2015年8月13日
中国:金融市場改革を加速へ
要旨
• 中国人民銀行は、11日から3日連続で、人民元の基準レートを引き下げた。
これらの措置は輸出拡大による景気刺激というより、金融市場改革の一部
と見られる
• 中央政府は今回の措置を含み、金融市場の改革を内外にアピールするこ
とで、世界の政治・経済における中国の存在感や人民元の地位を高めてい
くものと見られる
• 金融市場改革の狙いは2つ。1つは人民元の国際化である。中国は人民元
の『メジャー・リーグ』入りを目指している。もう1つは、国内株式市場に海外
の資金を呼び込むためである
人民元の基準レート引き下げは、改革進展の一部
8月11日に中国人民銀行(中央銀行)は、人民元の基準レートを市場実勢に
近づけるべく、1.9%引き下げました。続く12日、13日にも基準レートを引き下
げています(次頁図1)。
今回の措置に関して、筆者は少なくとも現時点においては、輸出拡大による景
気刺激というよりも、金融市場改革の一部と捉えています。
Grace Tam
Global Market Strategist
Market Insights
中国人民銀行は「市場メカニズムが人民元相場の決定において大きな役割を
Akira Kunikyo
貨切り下げでは輸出の大幅な拡大にはつながらないと考えます。また、低金
Global Market Strategist
Market Insights
利の米ドルで資金調達している企業も多く、人民元安は企業の債務返済負担
果たしていく」と述べています。毎年2ケタ程度の賃金上昇が続く中、数%の通
を拡大させる恐れがあります。さらに、人民元安は国内外の投資家に対して
中国経済への不安というネガティブな印象を与え、国外への資本流出を加速
させる恐れもあります。
中央政府は今回の措置を含み、金融市場の改革を内外にアピールすることで、
世界の政治・経済における中国の存在感や人民元の地位を高めていくものと
Guide to the Markets Japan
のダウンロードはこちらから
www.jpmorganasset.co.jp/guide
見られます。
MARKET BULLETIN | AUGUST 13, 2015
金融市場改革の2つの理由
金融市場改革の狙いは2つあります。1つは人民元の国際化です。言い換
えれば、人民元を「ドル、ユーロ、円のような自由に取引できる主要な通
貨」にしたいと考えています。もう1つは、国内株式市場などに海外からの
資金を呼び込むことです。本稿ではこの2つの狙いについて考えます。
人民元の国際化は中国の重要政策
現在、中国では人民元相場の安定のため、人民元と外貨の交換は制限さ
れています。貿易では制限がありませんが、株式投資などの「資本取引」
では、人民元の交換は制限されています。
今後の人民元を考える際、大事なキーワードは「SDR」です。SDRとは特
別引き出し権の略語であり、米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円から構成さ
れる通貨バスケットです。IMF加盟国はSDRを準備資産として保有し、有
事の際に引き出すことができます。大胆に言い換えれば、SDRは『通貨の
メジャーリーグ』であり、SDR通貨に入れば人民元が各国の準備通貨とし
て保有され、人民元の普及が一気に進むと見られます。今年は5年に1度
のSDR構成通貨の見直しの年にあたるため、人民元の国際化を狙う中国
は、SDR入りを目論んでいます。ただ実際には、IMFはSDRに人民元を採
用するかどうかの判断を当面先送りすると発表しました。しかし、後述する
ように、人民元がSDRに採用される可能性は依然として残っていると見て
います。
図1: 人民元の基準レートと市場実勢レート
(2012年1月~2015年8月13日)
対米ドル
6.5
米ドル高・人民元安
6.4
6.3
市場実勢レート
6.2
6.1
基準レート
米ドル安・人民元高
6.0
5.9
'12
'13
'14
'15
出所:Bloomberg、中国人民銀行、J.P. Morgan Asset Management
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C HI N A : A C C E L E R A TI N G C A P I TA L M A R KE T R E F O R M
MARKET BULLETIN | AUGUST 13, 2015
人民元がSDR入りする可能性は依然として残る
8月上旬、IMFはSDRに人民元を採用するかどうかの判断を当面先送りす
ると発表し、更なる金融市場改革が必要としました。ただし、これはIMFス
タッフの「見解」として、議論の状況を発表したものであり、正式な決定では
ありません。こうした途中経過を発表したのは、見方によっては、中国の金
融市場改革を加速させるため、と考えることもできるでしょう。近い将来、国
境をまたいだ人民元決済や預金金利の自由化など、追加の規制緩和が行
われる可能性があります。これらの措置は人民元がSDRに採用される可
能性を高めます。
現在のところ、2015年10月にSDRの正式見直しが実施される予定ですが、
先の発表では、2016年9月に延長される可能性も示唆されています(その
後の見直しは2020年の予定)。
人民元の存在感は既に大きなものになりつつあります。中国は世界最大
の輸出国であり、世界第2位の経済規模を持っています。また、図2が示す
通り、人民元は現在、決済通貨として世界の上位5通貨に入っています。
加えて人民元は為替取引シェアで世界第9位となっています。
人民元がSDRに採用される場合、金融市場における中国の地位は、実体
経済に見合う水準まで高まると考えられます。人民元の国際化に伴い、世
界の機関投資家は、過少投資されている人民元建てへの投資を増やす可
能性があります。これら全ては最終的に、世界的な準備通貨としての人民
元の地位を高めることに繋がります。
図2: 取引の決済通貨として使用される割合
2015年4月時点
USD
米ドル
3.4%
ユーロ
EUR
3.2%
英ポンド
GBP
3.0%
日本円
JPY
2.7%
人民元
RMB
2.1%
CAD
カナダ・ドル
1.9%
AUD
豪ドル
1.8%
CHF
スイス・フラン
1.5%
HKD
香港ドル
1.5%
THB
タイ・バーツ
1.0%
0%
1%
2%
3%
出所:IMF、SWIFT、J.P. Morgan Asset Management
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4%
MARKET BULLETIN | AUGUST 13, 2015
海外からの投資資金を国内に呼び込む
金融市場改革において、資本取引の規制緩和はもう1つのテーマです。
先に述べた通り人民元の交換は、貿易では制限がありませんが、株式投
資などの「資本取引」では制限があります。過去7ヵ月の間には、上海・香
港株式市場の相互取引の開始や、国内投資信託の相互取引参加の承認
など、国境をまたいだ証券投資を促す措置が導入され、予想を大幅に上回
るペースで改革が進展しました。
当局がこうした改革を進めるのは、なぜでしょうか。もちろんSDR採用を
狙っているということもありますが、もう1つの重要なポイントは海外からの
投資資金を株式市場に呼び込むことです。これは、自国の株式市場を下
支えする要因となります。今後も、中国本土の金融市場を開放する政策が、
発表されるとみています。例えば、
海外から国内市場への投資という点からは、
 適格外国機関投資家(QFII)の運用枠の拡大
 人民元適格外国機関投資家(RQFII)の運用枠の拡大
国内から海外市場への投資という点からは、
 適格国内機関投資家制度(QDII、中国本土の機関投資家が海外市場に
投資するための制度)の限度額の拡大
 適格国内個人投資家制度(QDII2、中国本土の個人投資家が海外市場
に投資するための制度)の開始
 海外資産を投資対象とした金融商品の発売
 海外企業による元建ての資金調達などの措置
などが近い将来、発表される可能性があります。
こうした措置が国境をまたいだ証券投資を活発にする可能性があります。
特に、上海・香港株式市場の相互取引の拡大と、深セン・香港市場の相互
取引開始が年内に実施されれば、双方向の資金フロー増加が期待されま
す。
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MARKET BULLETIN | AUGUST 13, 2015
投資への示唆
投資家は今後、金融市場の改革が一段と進む可能性を考慮しておくべきと
考えます。中でも、資本取引の規制緩和は、中国の株式市場にとってサプ
ライズとなる可能性があります。特に、株式市場の相互取引の限度額拡大
などにより、中国本土と香港への資金流入が株式市場を下支えする可能
性があります。
しかし、足元では国内A株市場を中心に、バリュエーションで割高感がみら
れています。図3に示されるように、特に深セン総合指数のバリュエーショ
ンは割高です。海外からの資金が株価を上昇させるとの市場の期待が背
景にあります。こうした期待の高さは、未だに国内市場のセンチメントが楽
観的であることを示唆しており、海外投資家にとって懸念材料です。
長期的に強気相場が持続するためには、短期的には健全な調整が必要
かもしれません。
図3: 株価収益率(PER)の推移
(2006年1月から2015年6月30日まで)
45倍
35倍
深セン総合指数
25倍
15倍
上海総合指数
MSCI中国
5倍
'06
'07
'08
'09
'10
'11
'12
'13
'14
'15
出所:Guide to the Market Japan 3Q P26、Bloomberg、J.P. Morgan Asset
Management
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MARKET INSIGHTS
本資料は、JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社が作成したものです。2015年8月13日時点におけるJPモルガン・アセッ
ト・マネジメントの見通しを含んでおり、将来予告なく変更されることがあります。「JPモルガン・アセット・マネジメント」は、JPモル
ガン・チェース・アンド・カンパニーおよび世界の関連会社の資産運用ビジネスのブランドです。
過去のパフォーマンスは将来の成果を保証するものではありません。本資料に記載のすべての予測は例示目的であり、投資
の助言や推奨を目的とするものではありません。意見または推計、予測、金融市場のトレンドに係る記載は、作成時点の市
場環境下での我々の判断に基づいており、将来予告なく変更される場合があります。記載された情報の正確性および完全
性を保証するものではありません。本資料はいかなる金融商品の売買も推奨するものではありません。見通しや投資戦略は
すべての投資家に適合するものではありません。特定の証券、資産クラス、金融市場の関する記載は例示を目的とするもの
であり、これらの推奨または投資、商品、会計、法務、税務に係る助言を目的とするものではありません。JPモルガン・チェー
ス・アンド・カンパニー・グループはこれらに関して責任を負うものではありません。記載された見通しはJPモルガン・アセット・マネ
ジメントによるものであり、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー・グループの他のグループ会社または他の部門の意見を必ず
しも反映していません。
「J.P.モルガン・アセット・マネジメント」は、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニーおよび世界の関連会社の資産運用ビジネスの
ブランドです。本資料は、以下のグループ会社により発行されたものです。
香港:証券先物委員会の監督下にあるJFアセット・マネジメント・リミテッド、JPモルガン・ファンズ(アジア)リミテッド、JPモルガン・
アセット・マネジメント・リアル・アセット(アジア)リミテッド、インド:証券取引委員会の監督下にあるJPモルガン・アセット・マネジメ
ント・インディア・プライベート・リミテッド、シンガポール:金融管理局の監督下にあるJPモルガン・アセット・マネジメント(シンガ
ポール)リミテッド、JPモルガン・アセット・マネジメント・リアル・アセット(シンガポール)プライベート・リミテッド、台湾:金融監督管
理委員会の監督下にあるJPモルガン・アセット・マネジメント(タイワン)リミテッド、JPモルガン・ファンズ(タイワン)リミテッド、日
本:金融庁の監督下にあるJPモルガン・アセット・マネジメント株式会社(金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第330
号 加入協会:日本証券業協会、一般社団法人投資信託協会、一般社団法人日本投資顧問業協会)、韓国:金融委
員会の監督下にあるJPモルガン・アセット・マネジメント(コリア)カンパニー・リミテッド(韓国預金保険公社による保護はありませ
ん)、オーストラ リア:証券 投資委員会の監督下に あるJPモルガ ン ・アセ ット・ マネジ メ ン ト(オーストラ リ ア)リミ テッ ド
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