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【Market Insightsレポート】欧州金利は低下基調に戻るだろう~ただし

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【Market Insightsレポート】欧州金利は低下基調に戻るだろう~ただし
MARKET INSIGHTS
Market Bulletin
2015年5月21日
欧州金利は低下基調に戻るだろう
ただしECBの政策に対する懸念は残る
要旨
• 4月終わりから5月中旬にかけて見られた欧州での急速な金利上昇は、経
済のファンダメンタルズを考えても、需給要因を考えても、長続きしないと思
われる。また最近になり、ECB高官から欧州の金利上昇やユーロ高をけん
制するような発言も出ており、先の見方を後押しする
• ただし少し長めに考えると、欧州中央銀行(ECB)の実体経済やインフレに
対する見方は読み切れず、量的緩和政策の早期出口を示唆する懸念は拭
えない。また、債券買い入れの規模やマイナスの預金金利に鑑み、同策が
早期に行き詰まる懸念も残る。ボラティリティの高止まりに要警戒
欧州主導の金利上昇は本邦投資家にとって一大事
金融市場の最近の話題は、欧州の金利上昇です。例えば、ドイツ10年国債利
回りは、4月20日に0.07%の安値を付けた後、5月13日には0.72%まで上昇し
ています。また、欧州の、特に長期金利の上昇は、日本や米国での長期金利
の上昇につながっています。日米の金利上昇は、日本の投資家に人気の高
Yoshinori Shigemi
い日米REITの価格動向にも大きな影響を与えるため重要です。
Global Market Strategist
Market Insights
そこで本稿では、欧州主導の金利上昇は続くのかどうかを考えてみます。
国債利回りを含む市場価格の変動に影響を与える要素は大きく分けて2つあ
ります。1つは、実体経済や企業収益などのファンダメンタルズ要因です。もう
1つは、各資産市場の規模に対する、市場参加者の取引ポジションや中央銀
行の買い入れの規模といった文脈で議論される需給要因です。
ファンダメンタルズに対する見方が改善していれば、欧州の金利上昇は続く可
能性があります。一方、需給要因であれば、欧州の金利上昇は一時的なもの
に留まる可能性があります。
Guide to the Markets Japan
のダウンロードはこちらから
www.jpmorganasset.co.jp/guide
MARKET BULLETIN | MAY 21, 2015
欧州主導の金利上昇は続くか?①需給で考える
結論を言えば、欧州の金利上昇は、株安を伴っているように、ファンダメン
タルズの改善を反映したものというよりも、需給の動向に負うところが大き
いと見られます。次に挙げる3つが金利上昇の背景として考えられます。
第1に、①昨年後半から見られていた(金利低下と株高のセットである)『流
動性相場』の『巻き戻し』(=取引ポジションの一部解消→金利上昇と株安
のセット)と考えられます。他にも、②日銀が量的・質的金融緩和(QQE)を
導入した2013年4月を思い出すと、欧州の銀行が量的緩和という政策にま
だ慣れていない点も考えられます。さらには、③昨今の日本国債市場で言
われるように、債券市場の流動性が低下し(売買の厚みが小さくなり)、価
格変動幅(ボラティリティ)が上昇している点も考えられます。ドイツの財政
収支は黒字であり、国債の供給量は減っています。さらに言えば、ユーロ
圏が日本と同様に、経常黒字であり、圏内の国債供給=ファイナンスを、
圏内の需要で賄えている点も重要です。
上の3ついずれもが端的に示しているのは、4月中旬までの長期金利の低
下にせよ、4月下旬以降見られている急上昇にせよ、日銀と同様に、ECB
の量的緩和が巨大だということです。債券市場で中央銀行の存在が大きく
なると、利回りの低下で魅力がなくなることもあって、投資家の一部は債券
市場から押し出されます。押し出された投資家の一部は、株式市場やその
他のリスク資産市場に移り、これらの市場の需給に影響を与えます。
まとめると、ECBの量的緩和が巨大ゆえに、金利の緩やかな低下や急上
昇が見られていると考えられます。それほどに影響力が大きいわけですか
ら、ECBによる債券買い入れが続くとの見立てが変わらない限り、債券市
場はやがて落ち着きを取り戻し、金利は低位安定すると見られます。
図1:ドイツの国債利回りの推移(データ期間:2010年1月1日から2015年5月14日まで)
4.0%
3.5%
3.0%
2.5%
10年国債
2.0%
1.5%
5年国債
1.0%
0.5%
0.0%
'10
'11
出所:Bloomberg、JPモルガン・アセット・マネジメント
2
2年国債
ユーロ圏主要リファイナンス金利
-0.5%
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'12
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MARKET BULLETIN | MAY 21, 2015
欧州主導の金利上昇は続くか?②ファンダメンタルズ
次に、実体経済のファンダメンタルズの観点から、金利の上昇を考えてみ
ます。要因は2つ考えられます。つまり、①市場自身がファンダメンタルズ
が改善したと見ているか、②市場自身はそう見ていないが、金融政策を決
めるECBはファンダメンタルズの改善を見ている=量的緩和が早期に出口
に向かうと、市場が考えているかのどちらかです。
まず、上記①の、市場自身がファンダメンタルズの改善を見ている可能性
は低いと考えられます。そもそもファンダメンタルズが改善しているならば、
(金利上昇と株高のセットである)『業績相場』が見られているはずです。
より重要な点として、多くの市場参加者はユーロの存在自体が多くの構造
問題を生み出している根源と捉えており、こうした見方がすぐに変化すると
は考えられません。例えばこれまでも見られたように、欧州企業の業績が
改善する場合には、米国などの海外企業の業績を犠牲にしたものである
か、欧州の労働者の賃金が犠牲になっているときと考えられます。前者は
米国の株式市場に下押し圧力が生じ、後者は欧州の消費や需要に悪影響
を与えます。すなわち、『ゼロ・サム』になる可能性が高いということです。
ユーロ圏経済のファンダメンタルズが改善する条件は、次の4つのいずれ
かです。すなわち、
 ユーロ圏で政治・財政統合が進む
 内需が不足し、過剰な貯蓄を積み重ねているドイツが国内でお金を使う
 ドイツが南欧諸国に強いている緊縮策を止める
 ユーロがなくなる
のいずれかです。いずれの可能性も非常に低いと考えられます。
図2:ドイツ10年国債利回りと独DAX指数(データ期間:2014年1月1日から2015年5月14日まで)
13,000
4.0%
12,000
3.5%
3.0%
11,000
独DAX指数(左軸)
2.5%
10,000
2.0%
9,000
1.5%
8,000
1.0%
7,000
ドイツ10年国債
利回り(右軸)
0.5%
6,000
0.0%
'14
出所:Bloomberg、JPモルガン・アセット・マネジメント
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MARKET BULLETIN | MAY 21, 2015
読めないのはECBの見方、マイナス金利も不安材料
一方、②の、市場自身はユーロ圏のファンダメンタルズが改善するとは見
ていないものの、ECBはファンダメンタルズの改善を見ている=量的緩和
が早期に出口に向かうと、市場が考えている可能性は残されます。
まず、ECBは欧州債務危機が2010年に本格化し、南欧諸国の金利が高
止まりしていた2011年に、景気の拡大期待とインフレ懸念から2度も利上
げをしています。その後、まもなくこうした見方が間違いだったことが明らか
になり、利下げに転じました。過去の失敗と同様、ECBが実体経済の改善
を持続的なものと誤解し、出口が近づいていると示唆する恐れがあります。
1月のECB理事会で、ECBは2016年9月まで量的緩和を実施し、場合に
よってはその後も継続する可能性に言及しました。一方、3月のECB理事
会後に公表されたECBスタッフによる経済見通しは非常に楽観的です。イ
ンフレ率は今年が0%であるものの、来年は1.5%まで、2017年は1.8%ま
で改善するものと見込んでいます。つまり、ECBは既に、量的緩和が早期
に出口を迎えられるとの楽観的な見方を、市場に対して示唆しています。
実際に、株価が下がる中、ユーロ圏の短期金利先物は足元で上昇してお
り、ECBが当面の目途として定めている2016年9月頃には、短期金利がプ
ラスに転換すること織り込んでいます。
また、ECBの債券買い入れと比較した市場規模の小ささに加え、中銀預金
金利がマイナス水準で、民間銀行にとってはECBに債券を売れば売るほ
どコストがかかる状態であるため、銀行はやがてECBによる債券買い入れ
に応じなくなり、量的緩和が物理的な限界を迎える可能性も考えられます。
図3:ユーロ圏の短期金利先物と政策金利(データ期間:2014年1月1日から2015年5月14日まで)
0.50%
ユーロ圏3ヵ月物銀行間金利
0.25%
ユーロ圏3ヵ月物銀行間金利先物(2016年9月限)
2016年9月時点では
プラスに転換と見る
0.00%
ユーロ圏預金ファシリティ金利
足元マイナス
マイナス金利導入
-0.25%
さらに引き下げ
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出所:欧州中央銀行(ECB)、Bloomberg、JPモルガン・アセット・マネジメント
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欧州の金利上昇は続かないが、ボラティリティは高そう
以上をまとめると、
1. 昨年終盤からの金利の緩やかな低下と、足元での金利の急上昇のい
ずれも、ECBの量的緩和が債券や株式などの資産市場の価格付けに
大きな影響を及ぼしていることを示唆している。そして、影響力の大き
い量的緩和は当面、続くと見られる。
2. ユーロ圏経済のファンダメンタルズが改善するには、ドイツが内需を拡
大して過剰貯蓄を減らしたり、ドイツが南欧諸国に強いている緊縮策を
止めたりする必要がある。こうした状況は考えにくく、ユーロ圏は当面、
低需要の状態=景気が力強さに欠く状態が続くと見られる。
以上、2点から、ユーロ圏の金利上昇は長続きしないと考えられます。
しかしながら、
1. 過去の歴史からはECBの実体経済やインフレ率に対する見方が読み
切れず、ECBが早期に出口を模索する懸念がぬぐえない
2. ECBの量的緩和が、規模やマイナス金利の観点から、早期に行き詰ま
る懸念も残る
ことを考えると、ボラティリティの高い状況が続く可能性を視野に入れておく
べきと考えられます。
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MARKET INSIGHTS
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