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IPSJ-Z65-6R-07.
6R-7 情報処理学会第65回全国大会 Non-Videorearitsic Rendering |ウェーバーの法則を考慮した動きの自動強調| 藤島 智子 藤代 一成 お茶の水女子大学 大学院 人間文化研究科 1 背景と目的 近年コンピュータグラフィックス( CG )の普及はめざ ましく,日常生活の中でも,映画や CM などのさまざ まなメディアを通して目にする機会が増えてきた.そ のなかでも,架空のキャラクタが人間らしく振る舞う ヒューマンアニメーションは,エンターテイメントで の需要がもっとも高い分野の一つである.CG における ヒューマンアニメーション制作の技法に,ビデオリア リスティックレンダリング (Videorealistic Rendering: VR) [1] がある.現実のビデオカメラで撮影した映像 にどれだけ近いかが重要で,少しでも現実と異なった 部分があると違和感を与えてしまう.そのため,本物 らしさを極限まで追求していかなくてはならず,一般 のユーザにとって作品を制作することは困難である. そこで,我々は一般ユーザを対象として,簡易なレ ンダ リング法を用いながらも,特徴的な動きを強調 することで,より効果的な人物の映像を受け手に与え ることができるという考え方を発展させて,ノンビデ オリアリスティックレンダリング (Non-Videorealistic Rendering:NVR) [2] を提案してきた. 本研究では,NVR アニメーションに着目して,認 知的に本物らしい NVR アニメーション制作を目的と する.特徴的な動きを強調する際には,主観的な表現 や,あまりにも大げさな誇張表現を避けて強調表現を 行う.そのため,広く一般に通用する客観的な指標が 必要となる.そこで本稿では,知覚心理学で知られて いるウェーバーの法則を適用して,NVR アニメーショ ンにおける適切な強調表現を試みる. 2 NPR と NVR の比較 2.1 NPR アニメーション 静止画を対象として効果的に強調を加えた手法とし て,ノンフォトリアリスティックレンダリング (NonPhotorealistic Rendering:NPR) [3] がある.ヒュー マンアニメーションにおける NPR の代表例は,似顔 絵 [4] である.NPR のスナップショットを連ねて制作 したアニメーションを,NPR アニメーションとよぶ. 2.2 NVR アニメーション NPR アニメーションは,個々の静的な強調だけを行っ ているため,動きに関しても効果的に強調されている 保証はない.一方,NVR では個々の部品の静的な強 Non-Videorealistic Rendering |Automatic enhancement of motions taking into account Weber's law| Tomoko Fujishima and Issei Fujishiro Graduate School of Humanities and Sciences Ochanomizu University 2-1-1 Otsuka, Bunkyo-Ku, Tokyo 112-8610, Japan. 調に加えて,対象の全体的な動きそのものに注目し , 特徴的な動きを強調する.これにより,さまざまな効 果が考えられる.主なものを以下に示す. 発話を補う共感覚現象:口の動かし方を強調して 聴覚効果を向上する.聴覚効果に視覚効果を付加 することで,共感覚現象を喚起してより聞こえや すいように感じさせる. 表情理解を補助:喜怒哀楽の表情を強調すること で言語理解を補助する.同じ言葉でも表情を付加 することで,どのような意味なのかを相手に理解 させやすくする. 芸術観を増強:芸術的に美を増強する.静と動の 動きの差を広げることで \静" と \動" の両面を強 調して芸術的な美を表現する. 医学分野への応用:損傷部分にフィルタとして適 用する.表情や動作に対して NVR を用いること で,損傷を軽減させたような効果を与える. 既存の NVR アニメーションとしては,モーションフィ ルタリング [5] や,軌跡制御によるキャラクタアニメー ション誇張手法 [6] が提案されている。これらは,大 げさな強調表現が用いられており,コミカルに表現さ れている.また,強調の度合いは,ユーザが調節する. 本研究では,認知的に本物らしい強調表現を行うこと を目的とするため,広く一般に通用するための客観的 な指標を導入する. 3 知覚心理学 [7] 知覚心理学では,人間が外部の情報をどのように感じ て行動しているかという分野を扱っている.人間はま ず,刺激として与えられた情報を,個々の感性や経験 を通して心理量として記憶する.しかし,心理量は直 接測ることができないため,客観的に評価できる物理 量へと変換する必要がある. 3.1 刺激測定法 刺激量と心理量の関係を測定するための主な方法を以 下に示す.刺激量を調節する側を実験者,刺激を受け る側を被験者とよぶことにする. 調整法:被験者が対象の刺激量を調整する方法で ある.音響のボリューム調整がこれにあたる. 極限法:実験者が刺激量を一方通行的に調節する 方法である.視力検査に用いられることが多い. 恒常法:被験者がランダムな刺激を受ける方法で ある.順応などの感覚を測る際に用いられる. 上下法:実験者が被験者の反応を見ながら刺激量 を上下に変化させて,それを繰り返すことで平均 をとる方法である.例として化学反応の実験があ げられる. 4−209 最も簡単な刺激測定法は,\調整法" である.しかし誤 差が大きかったり,何度も測定しなくてはならないと いう欠点があるため,実際はこれらを組み合わせて実 験が行われている.本研究では,比較的短時間に確実 な結果を測定することができる \上下法" を用いる. 3.2 ウェーバーの法則 心理量を物理量へ変換する法則として,ウェーバーの 法則,フェフィナーの法則,スティーブンズの法則が 知られている.ここでは最も基本的で,応用範囲が広 いウェーバーの法則をとりあげる. ウェーバーの法則は,測定する対象の刺激量 s と, 外部から受けるすべての刺激量により決定するs に よって,対象以外の刺激量を一定とした場合に,以下 のように定義される: る.これを図 1(b) の状態に適用すると,ウェーバーの 法則より,萎縮率が 70%となり,顔の膨張率は 110%と なる.初期状態からの腰の変位角度は近似的に 40と なる.また,図 1(c) に適用すると,ウェーバーの法 則より,萎縮率が 65%となり,顔の膨張率は 130%とな る.初期状態からの腰の変位角度は近似的に 50とな る.強調表現を行っていない図 2 と,法則を適用した 図 3 を比較してみると,図 3 の方が本物らしいと判断 できる. s = k( 一定) s s は差異を認識することができる最小の大きさと定 義し,この k をウェーバー比とよぶ. 例えば,50g の重りを持ったときに感じる重さを s とすると,s=50 である.s=51,s=52 と s を増やし て,s=60 となったときに初めて重くなったと感じる とすると s +s=60 となり,s=10 となる.しかし, もしはじめに 500g の重りを持ったとすると,人間は 500g と 510g の違いには気付きにくい.ウェーバーの 法則によると,この場合s/s=10/50=0.020( 一定) である.よって s=500 ならば s=100 となり,はじめ に 500g の重りを持ったときには,100g の差異があっ て初めて重さの違いに気づくことになる. ウェーバーの法則が一般的に成立するとはいえない が,基本的な手続きを用いて,多くの異なった物理的 次元,主観的次元を関連づけられるという点で,応用 価値が高い.実際に成立することが確認されている ウェーバー比として,明るさが 0.079,音の大きさが 0.048,線の長さが 0.029 という数値が知られている. 4 実験 ウェーバーの法則が ,動きに対しても成立するかど うかは一概には決められないため,アニ メーション に 適用するための 基礎実験を 行った .実験環境に は,DELL Dimension XPS B933r(CPU:Intel PentiumPro x 1GHz,RAM:512MB,OS:Windows 98),キ ャラクタ制作には,LightW ave3DTM (Ver. 7.5) y [8] を用いた.キャラクタには,多関節体の簡単なモデル を使用して,キャラクタの動きとしては,\謝る" 動作 をとりあげた.謝ると体は萎縮して小さく表現され, 顔はカメラに近づいて膨張して表現されるため,体の 萎縮率と,顔の膨張率を強調度として表現する.対象 モデルを,図 1 に 3 タイプ示す. 腰から上の長さを l ,顔の膨らみを f とする.謝って いるときの腰から上の長さを l0 ,顔の膨らみを f 0 ,腰 の変位角度を とすれば,謝ったときの強調度は (l l0 )(f f 0 )cosと表される.まず,Type 1 を用いて 本物らしく見えるウェーバー比を求める実験を行う. 萎縮率を 70%として,実際のお辞儀の仕方 [9] より, =45という値を代入すると,ウェーバーの法則より, s/s=(l l0)(f f 0)cos/l=k=0.2545584…が導かれ ; ; ; ; PentiumPro は Intel 社の商標である. LightWave3D は以下の各社の商標または登録商標である. 開発元:newtek 社 x y 日本総販売元:株式会社ディ・ストーム (a) Type1 図 図 図 1: (b) Type2 (c) Type3 対象モデル 2: Type2 のデフォルト 3: Type2 にウェーバーの法則を適用 5 まとめと今後の課題 本稿では,認知的に本物らしい動きの強調を表現する ために,NVR にウェーバーの法則を考慮することを 提案した.また,予備的実験結果から,ウェーバーの 法則が動きの強調表現に適用できることを確認した. 今後の課題としては,上下法を用いて,強調表現が 認知的に本物らしいかど うかのユーザテストを実施す ることを考えている.また,ウェーバーの法則を他の 動作へ適用して,さまざ まな NVR アニメーションを 制作する予定である. 参考文献 [1] T. Ezzat, G. Geiger, T. Poggio, \Trainable Videorealistic Speech Animation," In Proc. ACM SIGGRAPH 2002, pp.388{398, Jul. 2002. [2] 藤島 智子, 藤代 一成, 「 TVML を用いたノンビデオリアリス ティックフェイシャルアニメーション」, 情報処理学会研究報告 2002-CG-108-4, pp.19{24, 2002 年 8 月 [3] B. Gooch, A. Gooch, Non-Photorealistic Rendering, A K Peters, 2001. [4] 長谷川 純一, 画像処理の基本技法 技法入門編, 技術評論社, 1986 年8月 [5] L. Bai, K. Kondo, \Motion Emphasis Using Continous Motion Division Method" In Proc. CAD/Graphics2001, vol.1, pp.367{371, Aug. 2000. [6] 初山 和秀, 近藤 邦雄, 「軌跡制御による動作誇張モデルを用い たキャラクタアニメーション生成手法」, 第 64 回情報学会全 国大会, 2002 年 3 月 [7] 大山 正, 色彩心理学入門, 中公新社, 1994 年 [8] http://www.dstorm.co.jp [9] http://www.asahigp.co.jp/kihondosha4.html 4−210