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「肢体不自由特別支援学校における作業環境の構造化」について

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「肢体不自由特別支援学校における作業環境の構造化」について
「肢体不自由特別支援学校における作業環境の構造化」について
∼TEACCH プログラムに学ぶ、分かりやすい作業学習の環境づくり∼
1
現状と課題
近年、特別支援学校の重度・重複化が叫ばれて久しいが、肢体不自由特別支援学校であ
る本校においても、在籍数の8割は重複障害の児童生徒が占め、その多くは中枢神経の損
傷による脳性まひを中心とした脳性原疾患を有し、肢体不自由のほか、知的発達の遅れな
ど、種々の随伴障害を伴っている。したがって、運動・動作の障害による環境への適応は
もちろんのこと、指示理解や行動統制のむずかしさからくる学習活動や集団への適応の課
題があるため、日常生活や学習面でいろいろと配慮していく必要がある。
中学部在籍数の6割以上は重複障害学級Ⅰ課程に属し、将来の職業生活に必要となる基
本的な知識や作業能力、態度を養うために、作業学習に参加している。
「働く力」ないしは「生活する力」を高めるという意味で作業学習の果たす役割は大きく、
私たち教師にとっては、指示理解の困難や運動・動作の障害の異なるそれぞれの生徒に対
し、可能な限り自らの力で作業活動に参加できるようにし、働く意欲を引き出していくこ
とが大きな課題である。
そこで、今回の上記の現状を踏まえ、言葉では理解しにくい自閉症児等に有効とされる
TEACCHプログラムを参考にしながら、中学部の作業学習(さをり班、陶芸班)を中
心に、生徒に分かりやすい環境づくり、障害の状況に応じて主体的に参加できる作業学習
の環境づくりの取り組みについて検証することにしたい。
2
中学部作業学習の概要について
(1) 作業班の編制
中学部の作業学習は、さをり班、紙工班、陶芸班の3班から編制している。編制方
法としては最初に生徒自身の希望を取り、その後生徒のスキル習得状況や学年構成を
考慮して偏りがでないよう、班編制を行っている。
(2) 学習時間:毎週金曜日②~④(3時間)
(3) 作業内容
さをり班:布織り・さをり布を利用しての木枠コースターの作成
陶芸班:ブローチ・皿・茶わん等の製作
3
肢体不自由特別支援学校における有効な構造化の視点
(1) 作業室の環境づくり
① 物的な配置
歩行不安定な生徒、車いす(電動車いす)や座位保持いすを使用している生徒にと
っては、車いすでの移動可能な動線の確保や広いスペースの確保のほか、車いすで出
し入れ可能な整理棚の設置、決まった場所への資材等の保管配慮が欠かせない。これ
らの条件整備は作業効率性を向上させ、より円滑な作業活動を可能にするものと考え
られる。
② 視覚的な構造化
知的障害のため言語理解や指示理解がむずかしい生徒に対しては、色別による作業エ
リア・休憩エリア・準備エリア等のエリア区分や道具等の用途別収納、さらに道具箱へ
のイラスト・写真ラベルの表示、危険箇所への立ち入り禁止表示・注意喚起等の視覚表
示など、環境把握が容易にできる手立てを講ずる。
(2) 作業学習を進める上での補助グッズ等の活用と工夫
① 補助グッズ等の改善・工夫
肢体不自由生徒の多くは四肢にまひや緊張・拘縮があるなど個々の障害の実態に差
があることに加え、手指機能の個人差や生活経験の不足などが関係することから既製
の器具や道具ではそのまま活用できない者も少なくない。そこで、作業動作をサポー
トする補助用具の工夫や改善のほか、障害を補う新たな補助用具の開発なども、主体
的に参加させるためには不可欠である。
作業のための補助グッズは本来、環境として捉えるのは適当ではないと思われるが、
肢体不自由特別支援学校で環境の構造化を進めるにあたっては、身体的な欠損機能を
代替する学習環境の一部として捉えていく視点が必要である。
②
作業可能な工程の見直し
作業工程を見直し、生徒が能力を発揮できるような新たな工程を必要に応じて設け
ること。作業工程に生徒を合わせるのではなく、生徒の実態に見合う工程を考える柔
軟さが求められる。
② 分かりやすい作業環境への配慮
写真、イラストと文字等を併用した作業スケジュールボードの活用や、作業指示カ
ード、数量の終了を把握できるマッチングボード、時間のはじまりと終了が視覚的に
判断できるタイムタイマーなどの活用は、時間的な理解がむずかしく不安を煽るよう
な生徒には見通しが持て、安心につながる。
(3) 作業動作をしやすくするための配慮
障害のない部位や利き手側を作業しやすい位置に修正したり、可動域を考慮したポ
ジショニングの確保や作業補助グッズの配置、必要に応じて座位を固定するなど、作
業能力を最大限に発揮させるためのポイントを生徒と確認し合う。
4
作業学習における環境づくりの実際
(1) さをり班における補助グッツの指導例
シャトル送り板の取り付け
糸巻き作業前段階の練習用器
回転方向を示す矢印
片手にまひの障害があっても、手に
糸通しがむずかしい生徒の練習用
まわす方向を視覚的に確認で
持たず、楽に滑らせてシャトル移動
器具として考案。何度もストローを
きる
ができる
通して上達を図っている
ペダルからの足落下防止
下肢にまひがあり足をペダルに乗せてうまく踏めない生
徒でも、足を乗せておくことができる。また、ベルトなど
で固定すると長時間の作業に取り組むことができる
(2)
木枠コースターづくりにおける補助グッズの指導例
面板の固定台
ニス塗り固定台
ボンドを塗った板面に、さ
をり布を貼り付けていく
上から差し込むだけで手を汚さ
固定台の対角にピンが付いていて、
ず、木枠の四方にニスを塗るこ
片手でも楽に面板を動かないよう
とができる
固定し、ボンドを塗ることができる
板はめ器
力がなくても簡単にはめられる
いす固定ベルト
車いすから作業しやすいい
す座位に変え、安定を保っ
ている
(3)陶芸班における補助グッズの指導例
写真入り作業工程表 ↓
個人用作業指示伝票
絵カード添付の道具整理箱と棚
写真と矢印を取り入れることによ
作業学習時間に行う作業内容をイ
文字が読めなくても、道具カード
り、作業の流れを目で確かめなが
ラストで指示。これを手元に置く
と図をマッチングすることにより
ら作業に取り組むことができる
学習活動に参加できる
道具カード
粘土たたき(たんぽ)
たたく目安と作業の様子
写真と矢印を取り入れることによ
手でうまく粘土を伸ばす動作がで
粘土の表面に×印を付け、それが
り、作業の流れを目で確かめなが
きない生徒でも、手首にゴムをは
消えるまでたたかせる
ら作業に取り組むことができる
めてたたくことにより一定の厚さ
に伸ばすことができる
品物整理カード
品物整理ボード
タイムタイマー
完成した品物を5まで並べて置く
丸めた粘土をボード全部に並べ終
既成品。赤色の部分がなくなると
ことで、数とのマッチングができ
わることで終了を知ることがで
終了時間。残りの時間を量として
る
き、次の工程に入る
視覚的に捉えることができる
(4)その他校内にみられる分かりやすさへの取り組み指導例
コミュニケーションブック
簡易にできる間仕切り
課題提示用シート
言語指示や理解が未確立な生徒へ
隣の席が気になり集中できない
視覚的なノイズを減らし、学習課題へ
の意思表示手段として、指差し等
生徒には、互いの顔や行動を遮
の注視を促すのに効果的。また、見え
で日常的に活用
ることで集中して学習に取り組
のよくない児童生徒にも効果的
むことができる
台付き電動ホチキス
リード付きスリット
教室等のランドマーク
まひのない手の側にセットすれ
献立表にスリットを挟み、パソコンに
生徒が自分の教室、トイレ等が一目で
ば、片手で差し込むだけでメモ帳
入力。リードを移動させることにより
分かるようキャラクター人形やイラ
を作ることができる
入力場所が自分でチェックできる
ストが描かれたカードなどを表示
5
考察とまとめ
本稿では、冒頭でふれた生徒の現状を踏まえ、生徒のもてる能力を最大限に発揮するの
に、極めて有効と思われるTEACCHプログラムの「物理的構造化」
「スケジュール」
「ワ
ークシステム」
「視覚的構造化」等の指導法を取り入れ、これまで作業環境の構造化を行っ
てきた。その結果、視覚的な配慮や工夫、作業補助グッズ等の活用によって、作業開始当
初は教員の支援に頼りっきりで、教師側からの言葉かけを必要とした生徒が、作業学習の
活動に一人一人がそれぞれの目当てと見通し、さらにモチベーションをもって最後まで取
り組むことができた。そして、一年間の作業活動を通して「もの」を作り上げる喜びや達
成感、自分の役割、仲間で協力し合う素晴らしさを体感できたことは大きな成果である。
作業学習における構造化を進めるにあたっては、空間的・視覚的・物理的な視点から条
件整備しなければないのはもちろんのことだが、肢体不自由教育を専門とする特別支援学
校においては、障害の実態に応じた作業内容の分析と作業工程の細分化・簡素化等のほか、
障害部位の機能を補完できる作業補助グッズやそれを助ける工夫を、整備すべき環境の一
つの要素として捉えることが極めて重要になると考える。
最後に、児童生徒の障害の重度・重複化が進む中で、作業学習の意義や在り方が議論さ
れることと思われるが、中学部段階での作業学習の大きな目的は、作業スキルの習得に主
眼を置くのではなく、学習活動を通して成就感、勤労意欲の向上、働くことに関する基礎
的な知識、技能、態度を養うことであり、ここで培った力は将来、施設や福祉サービスを
利用する際にもつながる「生きる力」に他ならない。このことをわれわれ教員は認識して、
「いま、何ができるのか。その機能をどうしたら維持させることができるか。わずかでも
自分で行えるためにはどんな支援、どんな工夫をすればいいのか。
」などなど、日々のかか
わりの中で常に意識し、指導に当たることの必要性と大切さを学んだ気がする。
6
今後の課題
(1)肢体不自由児童生徒にとって分かりやすい、行動しやすい学習環境づくりについて
学校全体で研究し、検証・改善していくことが必要である。
(2)重度・重複化する肢体不自由児童生徒に対応した構造化の実践例や教材・教具、補
助具等を校務分掌組織の中にリソースとして蓄積する部署を明確にし、それらの知識
を教員間で共有し合い誰もが指導に活用できる体制を整備することが必要である。
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