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けいれん発作後に不穏が遷延し、 診断に苦慮した小児の1例
けいれん発作後に不穏が遷延し、 診断に苦慮した小児の1例 与論徳洲会病院 入江慎二、柘植南美、照井仁 高杉香志也、久志安範 症例 3歳 男児 主訴 けいれん(初発) 現病歴 平成24年5月2日に38℃台の発熱、数回の嘔吐を認めた。 姉(9)が1週間程前より同様の症状を認めていた。5月3日 朝、起床し、9:00頃にけいれん発作を認めた。 既往歴 なし。けいれんの既往なし。発達の遅れなし。 内服薬 なし。 家族歴 特記事項なし。けいれんの既往なし。 けいれんの様子 7:00 起床。倦怠感、腹痛あり。 9:00 けいれん発作 持続時間約2分。左右対称の発作。 両手をぴくぴくひきつる間代性発作。 けいれん頓挫後は意識レベル低下しチアノーゼを 認めた。呼びかけに応じない。 すぐに父親が車で病院に搬送。 9:15 病院に到着。覚醒し、不穏状態となる。 興奮、啼泣が続き両親ともコミュニケーションがとれない。 身体所見 BT 37.3℃、PR 123bpm、SpO2 98% JCS I-3、GCS E4V2M5 啼泣強く興奮しコミュニケーション不能 追視(±)、瞳孔散大(-)、焦点ほとんど合わない 運動麻痺なく、力強く四肢動かす 項部硬直(-)、 肺野・心音:異常所見なし 腹部:軟・平坦・明らかな圧痛なし、腸蠕動音軽度低下 血液検査所見 Na 135 K 4.6 Cl 100 Ca 9.4 BS 84 CRP 4.5 AST 56 ALT 39 LDH 290 CK 83 Γ GT 22 ALP 397 mEq/L mEq/L mEq/L mg/dL mg/dL mg/dL U/I U/I U/I U/I U/I U/I AMY 30 U/I BUN 13.7 mg/dL Crea 0.1 mg/dL UA 10.4 mg/dL TP 7.0 g/dL Alb 4.5 g/dL TBil 0.5 mg/dL TC 140 mg/dL TG 41 mg/dL WBC Hgb HCT MCV MCH MCHC PLT Neut Lymp Mono Eo Baso 4800 12.5 36.7 73.7 25.1 34.1 23.7 75.7 16.4 7.9 0.0 0.0 /μ L g/dL % fL Pg g/dL 万/μ L % % % % % 画像検査所見 胸部Xp 明らかな異常所見なし 腹部エコー 軽度腸管浮腫(+) 腸重積所見(-) 虫垂炎所見(-) ここまでで考える疾患は? 追加検査所見 頭部単純CT 明らかな異常所見なし 髄液検査 外観:clear 細胞数 13/3(すべて単核球) 糖 66mg/dL(血糖値84mg/dL) Cl 115mmol/L 経過① 腰椎穿刺後、入眠。 それまで不穏、啼泣は続いていたが、入眠前には「痛 い」「やめて」等の有義語がわずかにでていた。 約5時間後、目を覚ました時は意識清明で、通常通りで あった。 プロブレムリスト #1. けいれん発作(初発) #2. 不穏・興奮・啼泣 #3. 嘔吐・腹痛 #4. 発熱 #5. sick contact あり(姉) 鑑別疾患 熱性けいれん → 熱は37℃台 脳炎、脳症、髄膜炎 → 頭部CT、髄液所見 低血糖 → 血糖84mg/dL 電解質異常 → 検査結果正常範囲内 てんかん発作 → rule outはできない 憤怒けいれん → エピソードから否定的 ウイルス性胃腸炎に伴うけいれん ウイルス性胃腸炎に伴うけいれん① 乳幼児の軽症胃腸炎に伴うけいれんで、基本的に てんかんへの移行や神経学的後遺症を認めない予 後良好な疾患。明らかな脱水症や電解質異常がな いのにもかかわらずけいれんを生じるもので、その 原因は明らかではない。1982年に諸岡により報告さ れ、アジアからの報告が多くある。 ウイルス性胃腸炎に伴うけいれん② ・6カ月~3歳の児において胃腸炎症状に伴う無熱性の全 身性強直間代性けいれん ・明らかな脱水所見はない ・短時間の発作(5分以内)、しばしば群発することがある ・電解質、血糖値、髄液検査などの検査所見は正常 ・非発作時脳波に異常を認めない 最近、血清Na値の軽度低下 や血清尿酸値上昇を有意に 認めるという報告が多くある ・ロタウイルスでの報告が多いが、ノロウイルス、アデノウ イルス等、どの下痢症でもおこりうる ・予後が良い ※本症例ではNa 135mEq,尿酸 10.4mg/dL ウイルス性胃腸炎に伴うけいれん③ 治療方法 ジアゼパム、ミダゾラムの投与は無効とされる カルバマゼピン、リドカインが有効との報告が多い Naチャネルを阻害 本症例との対比 本疾患でおこるけいれんは群発することはあるが、1回の けいれんは数分以内に治まり、すぐに意識も戻り普段の状 態にもどる。 本症例の患児の場合 意識レベル低下、その後の不穏が遷延(3時間程度) ウイルス性胃腸炎に伴うけいれんでも、まれではあ るがけいれん発作後に不穏状態が遷延したという症 例報告※がある。 そういった例では、いずれも頭部CTでは異常は認め なかったが、発作後の脳波の異常やMRIでの異常信 号を認めた。また、後遺症を残すことなく退院し、脳波 やMRIの異常は退院時には改善した。 ※ L. Bartolini et al. Neuropediatrics 2011 Aug;42(4):167-9 Shorvon S et al. Epilepsy Behav. 2010 Oct;19(2):172-5 経過② BT max [℃] 5/3 5/4 5/5 5/6 37.6 36.8 37.0 36.8 WBC [/μ L] 4800 2800 Neut [/μ L] 75.7 28.6 135 140 4.5 0.5 BUN [mg/dL] 13.7 3.3 Crea 0.1 0.1 10.4 3.2 Na [mEq/L] CRP UA [mg/dL] [mg/dL] [mg/dL] CTRX 300mg x 2 / day ※入院後、けいれんなし ▲入院 ▲退院 考察 胃腸炎症状に起因する乳幼児のけいれんがある。 対処法が他のけいれんと異なるため、その特徴を 知っておく必要がある。 本症例は、けいれん後の不穏の遷延を認めたため、 脳炎や脳症、髄膜炎を除外するために頭部CTや髄 液検査を施行した。 ウイルス性胃腸炎に伴うけいれんは予後良好な疾 患であり、他の予後不良なけいれん性疾患をしっか りと除外することが大切である。