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微分可能性について(見える微分の理論的背景)

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微分可能性について(見える微分の理論的背景)
微分可能性について
この小文は、ソフト ‘見える微分’ の理論的な背景を説明して
います。
ソフトを使った後で読むと理解が深まるかもしれません。
— 目次 —
1. 二次関数の微分可能性
2
2. 指数関数の微分可能性
11
3. 三角関数の微分可能性
(準備中)
1
§1
二次関数の微分可能性
最初に二次関数の微分を考えます。計算は簡単ですが、後で登場する指数関数や三角関数
の微分可能性を考えるときに必ず役に立ちます。
§1.1
ソフトでの理論的背景
ソフト “見える微分” における論法は概略次のようになります。定点 A を決め
∆y
の存在を
∆x→0 ∆x
lim
左右の片側極限の存在を有界・単調性から示し
さらにその値が一致することから
lim
∆x→0
∆y
∆x
の存在を示しています。
したがって、点 A で関数は微分可能で極限値が微分係数となります。
たとえば、関数 y = x2 の x = 1 での微分可能性を例に述べると
・ソフト “見える微分”(マニュアル) の図 1. と図 2. で;
∆x > 0 のとき『近づく』ボタンを押すと ∆x が正の値をとりながら 0 に近づきます。そのと
∆y
き動点 P は右から点 A に近づき、また
が単調に減少しながら 2 に限りなく近づいていきま
∆x
す。このことを数学では
∆y
−→ 2
∆x
と表し極限値 2 を
(∆x −→ +0)
∆y
の 右極限といいます。
∆x
・マニュアルの図 3. で;
∆x < 0 のとき『近づく』ボタンを押すと ∆x が負の値をとりながら 0 に近づきます。そのと
∆y
が単調に増加しながら 2 に限りなく近づいていきま
き動点 P は左から点 A に近づき、また
∆x
す。このことを
∆y
−→ 2
∆x
(∆x −→ −0)
2
と表し極限値 2 を
∆y
の 左極限といいます。
∆x
∆y
の左極限であり、かつ右極限であるので
∆x
∆y
−→ 2
(∆x −→ 0)
∆x
∆y
と表し 2 を
の 極限といい
∆x
dy
=2
dx
結局 2 は
と表します。そして関数 y = x2 は x = 1 で微分可能で、その微分係数は 2 といいます。
ちなみに x = a としても微分可能で微分係数が 2a となります。この a −→ 2a という対応を関
数とみなして
関数 y = x2 の導関数は
といいます。あるいは
dy
= 2x
dx
dy
= y 0 (x) = 2x とも書かれ、上で求めた x = 1 における微分係数は
dx
dy = y 0 (1) = 2
dx x=1
と計算できます。
§1.2
定義による微分係数
二次関数の場合は、高校で学んだように次のようにすれば計算も簡単です。
微分の定義は
dy
y(x + ∆x) − y(x)
∆y
:= lim
= lim
∆x→0
∆x→0 ∆x
dx
∆x
でした。正確には、上の極限が存在するとき微分可能といいます。
実際に二次関数 y = x2 の微分係数を定義にしたがって計算してみます。
y
= x2
で x が x + ∆x に変化したとき y から y + ∆y に変化したとします。すると
y + ∆y = (x + ∆x)2
となります。右辺の式を展開すると
3
y + ∆y = x2 + 2x∆x + (∆x)2
ここで y + ∆y から y = x2 を引くと
∆y =
2x∆x + (∆x)2
∆y
=
∆x
2x
です。さらに両辺を ∆x で割ると
+ ∆x
となります。
さらに ∆x −→ 0 とすると
∆y
−→ 2x
∆x
と収束します。ですから y = x2 は微分可能となります。
·
··
dy
= 2x
dx
あるいは次のように略記されます。
(x2 )0 = 2x
この式で、たとえば x = 1 とすると
dy =
2x
=2
dx x=1
x=1
となります。この値を x = 1 での微分係数といい、簡単に y 0 (1) = 2 と表わします。一般にな
めらかな曲線 y = y(x) 上の点 (x0 , y0 ) での接線の式は
y − y0 = y 0 (x0 ) · (x − x0 )
となります。接線を求めることは、微分の学び始めの重要なポイントです。
上の計算では、“見える微分” のソフトに頻繁に表れる差が、
差=
dy
∆y
−
= ∆x
∆x
dx
であることがわかります。
この小節にある計算方法が、指数関数や三角関数で複雑になってしまう原因は
差=
dy
∆y
−
∆x
dx
4
が、別の公式
eh − 1
sin(h)
= 1, lim
=1
h→0
h→0
h
h
lim
を使わなくては求められないからです。この公式を導くだけでかなりの時間を費やし、結局、
指数関数・対数関数や三角関数が深淵で難しい関数という印象を持つことになるのではと思い
ます。実は、シンプルで、規則も簡単というのが事実ではないでしょうか?
§2
指数関数の微分可能性
指数関数は、その ‘底’ がいくつであっても、自然対数の ‘底’ e を用いて
ax = eαx
という形に表すことができるので、公式 (eαx )0 = αeαx により指数関数の微分計算は (した
がって積分計算も) 非常に簡単です。
ところで、この自然対数の ‘底’ e (ネピア数という) は、高校で
)n
(
1
lim 1 +
=e
n→∞
n
として導入されました。そして、この極限値を使って
eh − 1
=1
h→0
h
lim
となることを導き、指数関数の微分
(ex )0 = ex
を示す方法が主流です。これは、歴史的には自然な流れかもしれませんが
しかしここでは、指数関数に共通な αは a によって決まる定数 によって
(ax )0 = αax
となることに注目し、上の式で
α = 1 となる数 a がネピア数 e
であるところから出発したいと思います。
5
指数関数 y = ax は一点 x = 0 で微分可能であれば、全区間で微分可能です。
1.
∵)
ax+∆x − ax
a∆x − 1
= ax ·
となるので
∆x
∆x
ax+∆x − ax
a∆x − 1
lim
が存在 ⇐⇒ lim
が存在
∆x→0
∆x→0
∆x
∆x
左辺は任意の点 x での微分可能性を示します。一方右辺は
a0+∆x − a0
a∆x − 1
= lim
∆x→0
∆x→0
∆x
∆x
lim
と変形すると点 x = 0 での微分可能性を示していることになります。したがって
y = ax が全ての点 x で微分可能 ⇐⇒ y = ax が一点 x = 0 で微分可能
また 1. は底の選び方によりません。
∵) a, b を底とするとき
bx = ax loga (b)
より、 ∆x0 = ∆x loga (b) とおくと
0
a∆x − 1
b∆x − 1
a∆x×loga (b) − 1
= lim
× loga (b) = lim
× loga (b)
∆x→0
∆x→0 ∆x × loga (b)
∆x0 →0
∆x
∆x0
lim
となるので
y = bx が点 x = 0 で微分可能 ⇐⇒ y = ax が点 x = 0 で微分可能
となります。以上をいいかえると
10 .
ある指数関数の一点で微分不可能であれば、全ての指数関数が全ての点で微分不可能です。
と、摩訶不思議なことになってしまい、指数関数が微分・積分で果たしている重要な事実が
否定されることになります。
ですから、この後に続く数学的考察の部分 ([準備] と 2.) は飛ばしておこうと考えるのは正し
く、時間の節約になるでしょう。しかし、証明無しに先 (3.) へ進むことは許されないという人
のために、いささか、民話的な証明を載せておきます。
ah − 1
a∆x − 1
を lim
で表します。
∆x→0
h→0
∆x
h
表記を簡単にするために、これ以降 lim
6
[準備] 最初に微分可能性を考えるときに必要になる指数関数 y = ax の基本的な性質をまとめ
ておきます。
(i) 底 a は a 6= 1, a > 0 であることが必要です。
(ii) 指数法則をみたします。すなわち
ax1 ax2 = ax1 +x2 , (ax )r = axr
(iii) 底 a > 1 ならば単調増加です。すなわち
x1 < x2 =⇒ ax1 < ax2
(iv) 指数関数 y = ax は凸関数です。
(iii) では底が 0 < a < 1 ならば単調減少となります。
上には明記してありませんが、微分可能性を考えるときに大前提となる指数関数 y = ax の連
続性や (ii) の指数法則から導かれる性質
a0 = 1, a−n =
√
1
m
, a n = n am
n
a
などは断りなしに使います。
ところで (i)∼(iii) はよく見かけると思います。実際 (ii) などは、すでに、断り無しに頻繁に
使っています。しかし (iv) は余り見かけない表現ですから、ここで補足しておきます。この性
質は微分可能性について後ほど重要な役割を果たします。
(iv) の ∵)
y = f (x) が凸関数とは
異なる任意の数 x1 , x2 と 0 < t < 1 にある任意の数 t にたいし
f (tx1 + (1 − t)x2 ) ≤ tf (x1 ) + (1 − t)f (x2 )
となることでした。グラフでは、点 X1 ; (x1 , f (x1 )), 点 X2 ; (x2 , f (x2 )) のとき
x1 < x < x2 =⇒ 点 X;(x, f (x)) は線分 X1 X2 の ‘下側’ にある (次図左参照)
ことを意味します。
ここで、凸関数上の 3 点が X1 , X, X2 の順にあるとき、そのうちの二点を結んでできる 3 直線
の傾きについてみて調べておきます。次図右のように
7
1k; 直線 X1 X の傾き <
2k; 直線 X1 X2 の傾き <
3k; 直線 XX2 の傾き
であることがわかります。直線の傾きはいずれ重要な役割を果たします。
q X2
q X2
2k 3k
q
X
q k
1
q
q
X
X1
x1
X1
x x2
-x
x1
x x2
-x
ところで「y = ax が凸関数」であることを示すには、指数関数が連続関数であることから
任意の数 x1 , x2 にたいし
a
x1 +x2
2
ax1 + ax2
≤
2
を示せば十分です。実際左辺は
a
x1 +x2
2
=
√
ax1 ax2
となり、相加平均と相乗平均の関係から成立します。
2.
ah − 1
が存在します。
h→0
h
lim
すなわち、指数関数 y = ax は x = 0 で微分可能です。
ah − 1
の存在を次の 3 段階にわけて示します。ただし a > 1 の場合だけ考えます。
h→0
h
lim
2-1. 左極限が存在する。
2-2. 右極限が存在する。
ah − 1
が存在する。
h→−0
h
2-1. 左極限 lim
2-3. 左極限と右極限が一致する。
マニュアルの図 4.,5.
∵) 次図のように第二象限にある二点 X1 , X2 と A (0, 1) を考えます。この三点は凸関数 y = ax 上
にあり、さらに x 座標の間に x1 < x2 < 0 という関係がありますから [準備] にあるように
ax1 − 1
ax2 − 1
< 直線X2 A の傾き;
x1
x2
ah − 1
となります。したがって負の値をとりながら h が 0 に近づけば
は単調に増加します。
h
直線X1 A の傾き;
8
y
y = ax (a > 1)
6
Pq
1q
A
X
2 X1 q
q
x1
x2
- x
O
また第一象限の任意の点 P と A を結んだ直線の傾きは
}
{ h
a − 1 h < 0 の上界です。
h たとえば P (1, a) とすると AP の傾きは a − 1 となり
{ h
}
a −1
< a − 1 h < 0
h
ah − 1
·
lim
が存在
· · 左極限 = h→−0
h
ah − 1
が存在する。
h→+0
h
2-2. 右極限 lim
マニュアルの図 6.
左極限と同様に右極限も存在します。すなわち
∵) 次図のように第一象限にある二点 X1 , X2 と A (0, 1) を考えます。この三点は凸関数 y = ax 上
にあり、さらに x 座標の間に 0 < x1 < x2 という関係がありますから [準備] にあるように
ax1 − 1
ax2 − 1
< 直線X2 A の傾き;
x1
x2
ah − 1
は単調に減少します。
となります。したがって正の値をとりながら h が 0 に近づけば
h
y
qX
y = ax (a > 1) 6
2
直線X1 A の傾き;
q
X1
A
q 1
q
P
x
O x1 x2
また第二象限の任意の点 P と A を結んだ直線の傾きは
9
-x
{
}
ah − 1 h > 0 の下界です。
h 1
a−1 − 1
たとえば P (−1, a−1 ) とすると AP の傾きは
= 1 − となり
−1
a
{ h
}
a −1
1
> 1 − h > 0
h
a
x
a −1
·
lim
が存在
· · 右極限 = x→+0
x
2-3. 左極限と右極限が一致する。
∵) h < 0 のとき h0 = −h とおくと h = −h0 , h0 > 0 となり
0
ah − 1
a−h − 1
=
=
h
−h0
0
−1
1 − a1h0
ah − 1
1
=
=
× h0
0
0
0
−h
h
h
a
1
ah0
より
0
ah − 1
ah − 1
1
1
左極限 = lim
= 0lim
× 0lim h0 = 右極限 × 0lim h0 = 右極限 ×1
0
h→−0
h →+0
h →+0 a
h →+0 a
h
h
ax − 1
= 1 となる底 a が e あるいは (ax )0 = 1 × ax となる底が自然対数の底 e
x→0
x
ex − 1
すなわち (ex )0 = 1 で、指数関数 y = ex の点 (0, 1) での接線の傾きが 1 で
= lim
x→0
x
x=0
す。このとき
3. lim
(ex )0 = ex
という、微分の中でもっとも簡明で役に立つ式が成り立ちます。
10
§3
§3.1
三角関数の微分可能性
ベクトル
単位円周上を等速運動する動点 A を考えます。
y
6
J
]
J ~
v
1
J
J
JqA
S -x
q t
O
動点は S (1, 0) を出発して反時計回りに等速運動しているとします。その速さ
は、一単位時間あたり 1(ラジアン) で、時間 t に点 A にいるとします。
すると ∠SOA= t, 弧 SA= t です。したがって点 A の座標は
(cos(t), sin(t))
さらに動点の速度は 1 ですから速度ベクトルの大きさ |~v | は 1 になります。
その速度ベクトル ~v を x, y 軸方向に別けたベクトルをそれぞれ ~vx , ~vy
で表すことにします。これらを一次元のベクトルとみなせば
~v = (~vx , ~vy )
と表すことができるので、速度ベクトルの始点を原点にとると図のようになり
ます。
y
6
~vy
6
J
]
qA
J
~
v
J
J
J
-x
1
~
v
O
x
11
点 A の座標
(cos(t), sin(t))
を
π
回転すると
2
‘三角関数をよみ直す’ p6 公式 3.
(− sin(t), cos(t))
で、これが ~v の成分です。
再びベクトル ~v の始点を A にしてみると
y
~v = cos(t)
y
6 ]
6
J
J
J~
v
J
J
JqA
~vx = −
sin(t)
O
1
-x
となります。
そして、ソフトでは次のことを確かめることができます。
(
)
cos(t + ∆t) − cos(t) sin(t + ∆t) − sin(t)
,
∆t
∆t
−→ (− sin(t), cos(t))
0
0
·
· · {cos(t)} = − sin(t), {sin(t)} = cos(t)
12
(∆t → 0)
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