...

全文(1384KB) - 新エネルギー・産業技術総合開発機構

by user

on
Category: Documents
20

views

Report

Comments

Transcript

全文(1384KB) - 新エネルギー・産業技術総合開発機構
ISSN 1348-5350
〒212-8554
神奈川県川崎市幸区大宮町1310
ミューザ川崎セントラルタワー
http://www.nedo.go.jp
2010.2.10
1059
NEDO 海外レポート
Ⅰ.テーマ特集:バイオマス特集
1. 第二世代バイオ燃料の研究開発動向(欧米)
1
2. 国立再生可能エネルギー研究所、バイオ燃料への壁破る(米国)
11
3. DOE と USDA がバイオマス研究開発プロジェクトを助成(米国)
15
4. 先進的バイオリファイナリープロジェクトに 6 億ドルを投資(米国)
20
5. NREL チームがエタノール中濃度混合燃料のテストを実施(米国)
23
6. 固形バイオマス・バロメータ 2009 年(EU)
28
Ⅱ.個別特集
0
DOE「Save Energy Now State Partnership」年次レポート(最終回)
53
Ⅲ.一般記事
エネルギー
1.
エネルギーイノベーションハブへ 3 億 6,600 万ドルの投資(米国)
60
2.
DOE が ARPA-E エネルギー・イノベーション・サミット開催(米国)
63
3.
DOE は冷凍庫のエネルギー効率改善策を実行(米国)
65
URL:http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/
《 本 誌 の 一 層 の 充 実 の た め 、 掲 載 ご 希 望 の テ ー マ 、 ご 意 見 、 ご 要 望 な ど 下 記 宛 お 寄 せ 下 さ い 。》
NEDO 総務企画部
E-mail:[email protected] Tel.044-520-5150 Fax.044-520-5204
NEDO は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の略称です。
Copyright by the New Energy and Industrial Technology Development Organization. All rights reserved.
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
【バイオマス】セルロース系バイオ燃料
第二世代バイオ燃料の研究開発動向(欧米)
本稿では、表題に関して、米国ストラテジック・ビジネス・インサイト社(SBI: Strategic
Business Insights,Inc.)のレポートを編集・翻訳して紹介する。
はじめに
バイオ燃料は、過去数年間にわたり多くの活動や論議が行われてきたテーマである。特
に推進団体や政府機関は、食用作物から作られる第一世代のバイオ燃料の実現を目指して
きた。世界最大のバイオ燃料市場である米国、また欧州、その他の地域では、バイオ燃料
の使用を大幅に増加させることを目的にした法律が制定されている。しかし一方で、道路
輸送用バイオ燃料の利用に反対する議論も続いている。
主要な反対論としては特に、既存(第一世代)のバイオ燃料が食糧と競合し、膨大な政
府助成金を必要とする一方で、期待されるほどの環境的なメリットがあまり無いという議
論がある。これに対処するため、バイオ燃料推進派らは、最新のバイオ燃料にそれぞれの
望みをかけている。とりわけ、食品廃棄物(リグノセルロース)や藻類から作られる第二世
代バージョンへと焦点がシフトしている。この第二世代バージョンでは、温室効果ガス排
出総量への影響が改善し、食品価格への直接的影響も少なくなるからである。
セルロースは、地球上でもっとも一般的な有機化合物であり、植物の細胞壁内に存在
するバイオポリマー(生物高分子)である。また、農業廃棄物として豊富に存在し、バイ
オ廃棄物の 38%を占める。研究者らは、農業廃棄物、痩せ地でも育つスイッチグラスやミ
スカンザス(イネ科ススキ属)などの草、木くず等のセルロース原料から新しいバイオ燃
料を生産できるさまざまな技術を開発している。セルロース系エタノールは、セルロース
を糖に分解し、その糖が発酵プロセスを経て生産されるバイオエタノールである。
最新(第二世代)バイオ燃料は、すでにカナダ、米国、欧州、日本、中国でわずかだ
が生産されている。たとえば、2009 年頭の時点で、米国における開発/製造中のセルロー
ス系エタノールのプロジェクトは 25 件であった。
SBI のエクスプローラおよびスキャンプログラム注1より
マーケットリサーチ/コンサルティング会社 Pike Research(米コロラド州、ボルダー)
の 2009 年度報告書によれば、
2010 年から 2020 年の間にバイオ燃料市場は 3 倍に拡大し、
バイオディーゼルとバイオエタノールの世界市場は、2010 年度の 760 億ドル以降年々上
昇し、2020 年までには 2,470 億ドルに達すると予測している。BP(英、ロンドン)は、2030
年には、バイオ燃料が、米国内の約 25%のガソリンと 8%のディーゼルに取って代わるも
注1
非公開(有料)データベース。
1
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
のと見込んでいる[2]。 以下、2009 年に行われたセルロース系バイオ燃料の商業的開発と
主要な技術的調査について述べる。
o
米国政府の研究開発資金は、セルロース系バイオ燃料の開発を多く支援してい
る。とりわけ、米エネルギー省 (DOE) は、コスト競争力を持つ商業規模のセ
ルロース系エタノールの生産を 2012 年までに実現する目標に向けて、莫大な
投資を行っている[1]。
o
カナダ企業の Iogen Corp. (www.iogen.ca/ ) は、現在トロントで、世界唯一の
商用セルロース系エタノールの大型実証プラントを Royal Dutch Shell.と共同
運営している。両社は、2009 年に新しいバイオリファイナリー注2をアイダホ州
に建設する計画を取り止めることとなったが、生体触媒メーカーCodexis, Inc.
(米カリフォルニア州、レッドウッド、www.codexis.com)と密に連携をとり、
生体触媒の効率を上昇させた[1]。
o
長年にわたりセルロース系エタノールの技術開発に積極的に取り組んでいる
DuPont (米デラウェア州、ウィルミントン)と生体触媒企業の Genencor
International(米カリフォルニア州、パロアルト)は、2009 年に新しい合弁会社
の立ち上げを発表した。この新合弁企業は DDCE (DuPont Danisco Cellulosic
Ethanol LLC, www.ddce.com)[1]である。
o
米国のエタノール生産業者 Poet, LLC (サウスダコタ州、スーフォールズ、
www.poetenergy.com)は、現在アイオワ州にあるエタノール工場を改造して、
トウモロコシの穂軸を 1 日あたり 842 トン加工し、年間 2,640 万ガロンのセル
ロース系エタノールを生産できるよう計画をしている。同社は、2008 年度第 4
四半期にセルロース系エタノールの試験工場の操業を開始し、現在では年間 2
万ガロンのエタノールを生産している[1]。
o
Abengoa Bioenergy Biomass of Kansas, LLC (米ミズーリ州、チェスターフィ
ールド、www.abengoabioenergy.com)は、2009 年度時点で、最大 7,600 万ド
ルの DOE 資金を得ることになった。このバイオリファイナリーでは、1 日 700
トンのトウモロコシ茎葉、麦わら、スイッチグラス、その他の原料を加工し、
年間 1,140 万ガロンのセルロース系エタノールと合成ガスをエネルギー用に生
産する。Novozymes A/S (デンマーク、バグスバード)は、このプロジェクトの
主要パートナーである[1]。
o
2009 年、新興企業の Range Fuels, Inc. (米コロラド州、ブルームフィールド、
www.rangefuels.com)は、米ジョージア州、ソパートンの近くに工場を建設し、
近隣の森林が伐採される際に出る 1 日あたり 1,200 トンの木くずを原料として、
年間約 4,000 万ガロンのエタノールと 900 万ガロンのメタノールを生産すると
発表した。同社は、この生産プロセスを使えば、酵素を使用してセルロース系
エタノールに変える既存の方法や、従来のコーンエタノールの生産方法(1 ガロ
ン約 2 ドル)よりも、コストを低く抑えることができると見込んでいる[1]。
注2
バイオマス原料からバイオ燃料等を製造する工場。
2
NEDO海外レポート
o
NO.1059,
2010.2.10
BP (英、ロンドン)と Verenium (米マサチューセッツ州、ケンブリッジ) は、
2009 年 2 月に合弁会社 Vercipia Biofuels の立ち上げを発表した。Vercipia は、
手始めにフロリダ州ハイランズ郡で操業を開始する。これは全米で展開される、
最初の商業規模セルロース系エタノール製造工場の一つである[2]。
o
Mascoma(米マサチューセッツ州、ボストン)は、Chevron (米カリフォルニア州、
サンラモン) と、リグノセルロース系バイオマス由来のセルロース系エタノー
ルを提供する 2 年契約を結んだ[2]。
o
英国では、バイオテクノロジー生物科学研究会議 (Biotechnology and
Biological Sciences Research Council:BBSRC) が 2009 年に、2,700 万ポン
ドを拠出して Sustainable Bioenergy Centre (持続可能性のあるバイオエネル
ギーセンター)を設立した。この新しいセンターは、第二世代バイオ燃料に焦点
を絞り活動を行う[3]。
o
2009 年 2 月、Genencor (米カリフォルニア州、パロアルト)は、セルロース
系のバイオマス酵素製剤である、アクセレラーゼ 1500 の形成に着手した。こ
れは、以前のアクセレラーゼ 1000 にとって代わるもので、より低コストでエ
タノール収率を上げることが期待される[4]。
o
米国酪農飼料研究所/U.S. Dairy Forage Research Center(米ウィスコンシン州、
マディソン、www.ars.usda.gov)の農業研究局(Agricultural Research Service)
の研究者と、ウィスコンシン大学(米ウィスコンシン州、マディソン)の研究者
らは、植物の細胞壁の構成に関する研究を始めた。細胞壁に含まれるリグニン
は、セルロースからバイオエタノールへの変換を抑制する性質があるが、この
研究者グループは、このリグニンを変化させ、これを容易に分解できるように
した[3]。
o
ミシガン州立大学(米ミシガン州、イーストランシング) の研究者らは、バイオ
エタノールへの変換前に行なわれる、トウモロコシ藁の前処理に関わるプロセ
スについて特許を取得した。この新しいプロセスは栄養素注3を追加する必要性
を否定するもので、セルロースからバイオエタノールを生産するコストを削減
する[3]。
o
米国エネルギー省共同ゲノム研究所/ Joint Genome Institute (米カリフォルニ
ア州、ウォールナットクリーク、www.jgi.doe.gov) は、モロコシ(sorghum)の
完全なゲノムを配列することに成功した。これが、米国内で、トウモロコシ
(corn)に次ぎ二番目に普及しているバイオ燃料作物である。完全に配列された
ゲノムを使用することで、研究者らは変異体を開発し、その植物からセルロー
ス系バイオ燃料を生産する可能性を最大にすることができるようになる[3]。
o
ミネソタ大学(米ミネソタ州、ミネアポリス)が 2009 年に行った調査研究では、
セルロース系エタノールを使用した場合、ガソリンやトウモロコシ系エタノー
ルに比べて粒子状物質(PM)の排出量が少ないということが立証された[3]。
注3
酵素を意味するものと思われる。
3
NEDO海外レポート
o
NO.1059,
2010.2.10
ゲーテ大学(独、フランクフルト) の研究者らは、酵母を遺伝子工学的に操作す
ることで、キシロースを発酵させエタノールに変えることに成功したと発表し
た[4]。
文献調査
Google Scholar を利用して、過去 10 年間(2009 年 12 月 21 日まで)に発行された研究
論文を対象に、タイトル[TI]や概要[AB]に関連検索用語が含まれる記事の検索を行った。
図 1 は、世界中の研究者が 2000 年以降に発行した論文数をまとめたものである。また、
表 1 は、2009 年初以降、調査機関が発行した代表的なもの 14 件を示しており、これらは、
とりわけ北米と欧州におけるテクノロジーや研究開発方針に焦点を絞ったものである。
2009 年は、発行数が圧倒的な数であったため、表1でハイライトされている発行物は、
“European Union,” “European Commission,” “European Community,” “7th
Framework,” “Department of Energy,” “DOE”のフレーズを含む記事から選択したもので
ある。
14000
12000
10000
検索用語 [TI, AB]
8000
セルロース* AND バイオ燃料
セルロース* AND バイオエタノール
セルロース* AND エタノール
セルロース* AND バイオディーゼル
6000
4000
2000
0
2000
Google Scholar
2002
2004
2006
2008
Souce:
公表年度
図 1: セルロース系バイオ燃料 研究開発関連文献の公表数 [2000 年 1 月 1 日~2009 年 12 月 15 日]
4
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
表 1: 最近の研究出版物(北米/欧州)
大学/研究機関
文献名 [参考文献]
米国農務省農業研究局国立農 「セルロース系エタノールとバイオディーゼルを同時に
業利用研究センター(USDA
生産するための、ハイスループット(高性能)交配とゲ
ARS National Center of
ノム(全遺伝情報)が特定された出芽酵母の変異を利用
Agricultural Utilization
した嫌気性 GMAX-L 酵母の生産」[5]
Research) (米イリノイ州、ピ
オリア)
University of Santiago de
「Brassica carinata(アビシニアガラシ。アブラナ科)
Compostela (スペイン、サン
を原料とするエタノールベース燃料の環境的側面: 第二
チアゴ・デ・コンポステーラ) 世代エタノールのケーススタディ」[6]
University of Natural
「蒸気爆砕麦藁からのメタン生産の可能性分析およびメ
Resources and Applied Life
タン生産量の推定」[7]
Science (オーストリア、ウィ
ーン)
IFP, Department of
「リグノセルロース系エタノールの最近の動向」[8]
Biotechnology (仏、リュエ
イ・マルメゾン
セデックス)
University College London
「バイオエネルギーII: 都市固形廃棄物(MSW:Municipal
(英、ロンドン)
Solid Waste)由来のバイオエタノール: 持続可能なエネ
ルギーや廃棄物のマネジメントに関する英国の将来性と
その影響」[9]
International Institute for
「スウェーデンにコジェネ設備を伴うリグノセルロース
Applied System Analysis
系エタノール精製所を建てる場合の最適立地」[10]
(オーストリア、ウィーン)
University of Athens
「熱水処理した麦藁の効果的加水分解を行うためのフサ
(ギリシャ、アテネ)
リウムオキシスポラム注4によるセルロース分解システム
の評価」[11]
注4
fusarium oxysporum。野菜類に害を与えるカビの一種。
5
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
大学/研究機関
文献名 [参考文献]
Sezione Scienze
「半乾燥地域である地中海の環境でエネルギーとして利
Agronomiche DACPA
用するための 3 種類の多年生作物のバイオマス収量とエ
(イタリア、カターニア)
ネルギーバランス」[12]
国立バイオエネルギーセンタ 『Cellulose』特別号「トウモロコシ茎葉のバイオ燃料へ
ー(National Bioenergy
の転換」[13]より「トウモロコシ茎葉をエタノールに変換
Center:NBC)、米再生可能エ するための、希硫酸と酵素による加水分解プロセスの技
ネルギー研究所(National
術経済分析」[14]
Renewable Energy
Laboratory:NREL)
(米コロラド州、ゴールデン)
オークリッジ国立研究所
「セルロース系エタノール用に構造ベースのセルロソー
(Oak Ridge National
ム注5設計を行うための基盤構築:コンピュータシミュレー
Laboratory:ORNL),
ションによるコヘシン-ドックリン錯体形成の洞察」[15]
(米テネシー州、オークリッ
ジ)
ノースカロライナ A&T 州立
「バイオエタノール生産のために人工湿地のガマ利用の
大学(North Carolina A&T
実現可能性」[16]
State University)、
(米ノースカロライナ州、グリ
ーンズボロ)
米国農務省農業研究局国立農 「リグニン含有量の低い飼料用モロコシ(Sorghum
業利用研究センター(USDA
bicolor L. Moench)品種の糖変換率およびエタノール収率
ARS National Center for
の改善」[17]
Agricultural Utilization
Research)、(米イリノイ州、
ピオリア)
注5
高分子のセルラーゼ(セルロースを分解する酵素)複合体。
6
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
大学/研究機関
文献名 [参考文献]
米国農務省林野局(U.S.
「リグノセルロース系エタノール生産の現状および主な
Forest Service)、米国農務省
障壁」[18]
林産物研究所(Forest
Products Laboratory)、
(米ウィスコンシン州、マディ
ソン)
アイオワ州立大学(Iowa
「バイオマスの酵素加水分解および発酵後にラマン分光
State University)
法を使用したグルコースおよびエタノールの測定」[19]
(米アイオワ州、エームズ)
情報元: SBI
特許活動
ナノ触媒に関する特許活動により、技術進化に関する情報が明らかになる。図 2 は、
過去 10 年間において公開された、タイトル[TI]や概要[AB]の欄のいずれかにキーフレーズ
を含む特許の数を明確に示している。
80
70
60
検索用語 [TI, AB]
50
セルロース* AND バイオ燃料
リグノセルロース* AND エタノール
40
30
20
10
0
2000
2002
2004
2006
2008
Souce: esp@cenet
公開年度
図 2: セルロース系バイオ燃料について公開された特許 [2000 年 1 月 1 日~2009 年 12 月 21 日]
7
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
まとめ
上記の情報および分析内容に加え、全体的なまとめを以下に示す。
o
セルロース系バイオ燃料は、北米全域で現在、パイロット(試験的)規模の商業
化とその生産プロセスの検証が進められている。
o
現在の景気後退にも関わらず、米国では、第二世代バイオ燃料への開発資金提
供が今も継続されている。
o
セルロース系バイオマスの原料は、容易に入手できるが、ここからエタノール
を抽出する生産プロセスは、トウモロコシやサトウキビ由来のバイオエタノー
ル生産と比べると未だに難しく、コストも高いままである。研究者は、セルロ
ース系バイオ燃料技術を最大限に高める努力がなおいっそう必要である。
o
北米や欧州では、セルロース系原料からのバイオ燃料の生産に使用する新たな
生体触媒、酵素、酵母、バクテリア、その他微生物の開発分野で、膨大な数の
研究が進行中である。
o
セルロース系バイオ燃料の有効性についての研究は、今もなお行われており、
研究者らは、農作物の生産収量、将来の燃料コスト、有望なバイオ燃料からの
排出物に焦点を置いて、技術経済の研究を続けていく。
o
欧州では、セルロース系バイオ燃料技術に対する膨大な研究開発が、スカンジ
ナビア諸国、特にフィンランド、スウェーデン、デンマークで行われている。
o
この 10 年間で、セルロース系バイオ燃料技術について書かれた研究論文が大
幅に増加したが、これらの論文の大半は、バイオエタノール技術に焦点が絞ら
れている。
o
この 5 年間で、セルロース系バイオ燃料について書かれた研究論文の数は急速
に増加した。これらの知的財産権は、北米や欧州の有力な研究者らなど、世界
全域にわたる大企業、新興企業、大学関係者に属している。
参照文献
1.
Explorer Renewable Energy Technologies Viewpoints, August 2009
(http://www.strategicbusinessinsights.com/explorer/RET/RET-2009-08.shtml
)
2.
Explorer Biocatalysis Viewpoints, October 2009
(http://www.strategicbusinessinsights.com/explorer/BC/BC-2009-10.shtml )
3.
Explorer Biopolymers Viewpoints, February 2009
(http://www.strategicbusinessinsights.com/explorer/BP/BP-2009-02.shtml )
8
NEDO海外レポート
4.
NO.1059,
2010.2.10
Explorer Biocatalysis Viewpoints, April 2009
(http://www.strategicbusinessinsights.com/explorer/BC/BC-2009-04.shtml )
5.
http://www.ushrl.saa.ars.usda.gov/research/publications/publications.htm?se
q_no_115=244341
6.
Renewable and Sustainable Energy Reviews, Volume 13, Issue 9, December
2009, Pages 2613-2620
(http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1364032109001075 )
7.
Journal of Biotechnology, Volume 142, Issue 11 June 2009, Pages 50-55
(http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0168165609000376 )
8.
Current Opinion in Biotechnology, Volume 20, Issue 3 June 2009, Pages
372-380 (http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0958166909000652 )
9.
International Journal of Chemical Reactor Engineering, Vol. 7 (2009))/
BioEnergy II, (http://www.bepress.com/ijcre/vol7/A78/ )
10.
Energy, article in press, corrected proof
(http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0360544209003004 )
11.
Bioresource Technology, Volume 100, Issue 21 November 2009, Pages
5362-5365 (http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0960852409006348)
12.
Field Crops Research, Volume 114, Issue 2, 10 November 2009, Pages
204-213 (http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0378429009002068 )
13.
Cellulose, Volume 16, Number 4, August, 2009
(http://www.springerlink.com/index/51JN705523870688.pdf )
14.
Cellulose, Volume 16, Number 4, August, 2009
(http://www.springerlink.com/index/27883237P3V5PG97.pdf )
15.
Protein Science, Volume 18 Issue 5, pp949-959, 16 Mar 2009
(http://www3.interscience.wiley.com/journal/122264329/abstract )
16.
Proceedings of the 2007 National Conference on Environmental Science and
Technology, 2009 (http://www.springerlink.com/index/q1131167476k5552.pdf)
17.
BioEnergy Research, Volume 2, Number 3, September, 2009, pp153-164
(http://www.springerlink.com/index/J862046672339M13.pdf)
18.
International Conference on Biomass Energy Technologies, Guangzhou,
China, December 3-5, 2008 (pdf available at:
http://www.fpl.fs.fed.us/documnts/pdf2008/fpl_2008_zhu003.pdf )
19.
Analytica Chimica Acta, Volume 653, Issue 2, 27 October 2009, Pages
200-206, (http://dx.doi.org/10.1016/j.aca.2009.09.012 )
編集:NEDO(担当
総務企画部
清水
太郎)
翻訳:NEDO(担当
総務企画部
原田
玲子)
9
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
出典:Strategic Business Insights, Inc.
本記事関連の NEDO 成果報告書
本記事で扱っているテーマに関連した最近の NEDO 成果報告書を以下に示します。
成果報告書を閲覧する場合は、NEDO ホームページから利用登録をしてから管理番号欄に
管理番号を入力し、検索してください。
http://www.nedo.go.jp/database/index.html
1) 平成 20 年度成果報告書
イノベーション推進事業
エコイノベーション推進事業
藻
類起源のバイオ燃料製造法ならびに市場動向の調査
管理番号 100013761
2) 平成 19 年度成果報告書
米国におけるエネルギー・地球環境分野の政策動向等に関す
る調査
管理番号 1000117
10
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
【バイオマス特集】セルロース系エタノール
国立再生可能エネルギー研究所、バイオ燃料への壁破る(米国)
現在の方法より安く・容易にセルロ
ース系バイオマスからエタノールを生
成することを目指し、国立再生可能エ
ネルギー研究所(NREL)の研究者と
エタノール生産者による激しい競争が
繰り広げられている。しかしながら、
彼らは壁にぶつかっている。植物の細
胞壁がセルロース系エタノールの生産
を困難にしているのだ。そのため、植
物細胞内のセルロースの極小繊維組織
(別名:小線維)をモデル化して分解
すべく、研究者達は独自のコンピュー
タプログラムの開発を急いでいる。
以前と比べ、エタノールはより多く
の消費者の手に渡るようになったもの
の、
2012 年までに 1 ガロン当たり 1.50
ドルという低価格を実現するという差
し迫った目標を実現するため NREL
現在は主に飼料用トウモロコシ種子のでんぷん質から
エタノールを生成。NREL の研究者は、トウモロコシ
の茎や残余農産物に含まれる繊維質セルロース物質か
らエタノールを生成する方法の理解を深めるため、コン
ピュータモデルの開発を行っている。 Credit: Warren
Gretz
は米国エネルギー省と緊密に連携をとっている。何故それほど急ぐのか?石油依存の低下
を目指す米国にとって、1 ガロン 1.50 ドルを実現すれば、エタノールはガソリンと競合可
能になるとエネルギー省は考えている。更に、2007 年エネルギー自給・安全保障法により
米国は 2012 年までに 150 億ガロンの再生可能燃料を使用することが定められている。つ
まり、米国は早急に大量のエタノールの生産方法を見つけなくてはならないのだ。この目
標を達成するために、NREL の研究者たちは、セルロースを原料とするエタノールをより
安く・より早く現実のものとするべく努力を重ねている。
「セルロース系エタノールのコストを下げるには、植物細胞をどのようにエタノールの
原料として必要な糖に分解するかを理解しなくてはならない」と NREL の Antti-Pekka
Hynninen 氏は述べる。
「植物のセルロース繊維は非常に長く、分解方法を研究するために
コンピュータによるモデル化を行っている」
。
植物は生来、頑丈
現在アメリカには、トウモロコシの茎や草、木片など、植物の非食用部分からエタノー
11
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
ルを蒸留する工場施設は存在しない。全
ての商用エタノールはトウモロコシの穀
粒などのでんぷん質を用いる「簡単な」
製法によって作られている。エタノール
製造に必要な糖に転換するには、デンプ
ン質は分解が容易だからだ。セルロース
系バイオマスに含まれる糖は、デンプン
質より生成が難しい。植物は糖を結合さ
せ繊維にし、この頑丈な繊維を構造化す
ることにより細胞を外部攻撃から守り、
植物の生存を可能としている。そして木
質バイオマスの場合は、この細胞構造こ
そが木の緩やかな劣化を引き起こすので
ある。
セルロース系バイオマスに含まれる糖は頑丈な植物
細胞により生成が困難である。NREL の Antti-Pekka
Hynninen 氏と Mark Nimlos 氏は植物細胞内のセル
ロースの小線維をモデル化して分解を目指す独自の
コンピュータプログラム開発チームの一員。Credit:
Alec Brewster
「セルロースは塊になっており、このセルロース塊が植物細胞壁を強靱なものにしてい
る」と Mark Nimlos 研究所長は言う。
「セルロースがどのように塊となり植物細胞壁を形
成しているかを研究しなくてはならない。それにより、植物細胞壁からセルロースを分離
させ、生産投入エネルギー量が少なくコストが低いエタノールを作り出すことが出来る」。
NREL 研究員が主に研究するセルロース繊維はグルコース単位 500~1,000 個の長さか
ら成り、これらの繊維を分解する最も簡易な方法を探っている。しかしながら植物細胞の
繊維は、現在のコンピュータでモデル化するには大きすぎるという問題を抱えている。
「各々の繊維の各々の原子を考察しているが、この方法は現在のコンピュータでは実用
的ではない」と Nimolas 氏は言う。「原子を直鎖状にするか、もしくは大きな粒状物にす
る必要性がある」
。
コンピュータによるモデル化の新しい取り組み
NREL は今年、物理博士号(ユトレヒト大学/オランダ)保持者の Hynninen 氏を採用
した。Hynninen 氏はセルロース繊維のより簡略な「粗粒」コンピュータモデルを構築す
ることによって、巨大分子の問題を克服しようと考えている。この新しい取り組みにおい
ては、複数の原子(通常 3~7 個)が単一の球状ビーズに結合される。そしてこれらの直
鎖を基に、粗粒モデルが構築される。Hynninen 氏によるこの新しいモデルは、現在のコ
ンピュータ・シミュレーションの速度を 10~100 倍化することが期待されている。
「我々が解決しなくてはならない最大の課題は、直鎖間の力をどのように定義するか
だ」と Hynninen 氏は述べる。
「粗粒モデルの力は、原子モデルの力と同等でなくてはな
12
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
らない。現在は、原子間力を粗粒モデル上に位置づける(マッピングする)ソフトウェア
ツールを設計することに集中している」
。
「ここで鍵となるのが、いかにして詳
細部へのこだわりを排除して全体像をと
ら え る か 、 と い う こ と だ 」 と Mike
Crowley 上級研究員は述べる。「全ての
原子の全ての詳細をモデル化することは
出来ない。2 つの自動車の衝突をモデル
化することを想像して欲しい。衝突の力
を研究する際、エンジンの中のピストン
ではなく、自動車全体を観察する。自動
車は多くの部品から成るが、見るのは全
NRELの Michael Crowley 上級研究員は腐敗植物の主要
酵素 Cel7A の動画モデルを開発した。このコンピュータ
モデルに類似するモデルを用い、セルロース系エタノー
ルの生成研究が進められている。Credit: Pat Corkery
体像。細胞全体をモデル化するには、よ
り大きな組織を見ていかなければならな
い。簡単に聞こえるが、実際は非常に難
しい」
。
「困難」であることは Hynninen 氏自身にとって大きな動機であり、同時に彼が NREL
にとっての貴重なメンバーであることの理由でもある。
「彼のプログラミングにおける専門
家としての力量は、現存するソフトウェアから何ら制限を受けることなく、椅子に腰掛け、
必要なプログラムを完成させることができるということにある」と述べるのは Crowley 上
級研究員。
「彼は偉大なる巨匠であり、彼の望むことをコンピュータに行わせることが出来
る」と褒め称える。
Hynninen 氏本人は、より数学的に自身の仕事をとらえている。
「私の目標とは、単純に、
私たちの生活に影響を与えるような問題を解決すること」と述べる。
「今回の取り組みは、
応用化学が実際的な問題や私たちが達成すべき目標のために役に立っていることを示す好
例だ」
。
「植物細胞壁における多糖類のメソスケール・コンピュータモデリング」と正式に名付
けられた研究では、粗粒モデルの正当性を立証し、NREL での研究成果を出版することに
より、このようなモデル化の他分野への応用を目指す。
「セルロースやタンパク質に限らず、この研究方式はその他のシステムにも応用出来、様々
な利用法を秘めていると信じている」と Hynninen 氏は述べている。
翻訳:NEDO(担当
13
総務企画部
草野
裕子)
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
出典:
“NREL Breaks down Walls for Biofuels”
http://www.nrel.gov/features/20091130_biofuels.html
14
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
【バイオマス特集】セルロース系バイオマス研究開発
DOE と USDA がバイオマス研究開発プロジェクトを助成(米国)
2009 年 11 月 12 日、米国農務省(USDA)とエネルギー省(DOE)は、バイオ燃料、バイオ
エネルギーおよび高価値なバイオ製品の生産技術の研究開発を目的としたプロジェクトを
選定し、2,400 万ドル強の助成(グラント)を行うことを発表した。今回発表された 2,440
万ドルの助成の内訳は、DOE が最大 490 万ドル、USDA が最大 1,950 万ドルである。今
回の助成で製造される先進的バイオ燃料によって、化石燃料と比較して少なくとも 50%の
温室効果ガス排出量が削減できると見込まれている。
「今回の選定プロジェクトは、より効率的に、費用対効果が高く、持続可能な形で、再生
可能資源からバイオエネルギーを生産するための支援となるだろう」と DOE のスティーブ
ン・チュー長官は話す。
「さらに今回の取組みは、米国の農場主や林業経営者に新しい処理
プラントと新たな機会をもたらすことによって、国内の農村地域にも有益となるだろう。
」
「代替の再生可能エネルギー資源を促進するためには、技術革新が不可欠である。これ
らの助成によって、バイオエネルギー開発を大きく進展させるために必要な研究が促進さ
れるだろう」と USDA のトム・ヴィルサック長官は話す。
本日発表された各プロジェクトの実行者は、研究開発プロジェクトの場合、マッチング
ファンド(matching fund)注 1 の最低 20%を、実証プロジェクトの場合、マッチングファン
ドの 50%を負担しなければならない。助成は、USDA の国立食糧農業研究所(NIFA)およ
び DOE のバイオマスプログラムを通して行われる。今回の選定プロジェクトでは、様々
なバイオマス再生可能資源から生産される代替燃料とバイオ製品の利用可能性を拡大する
ことを目指す。
以下が選定されたプロジェクトである。
バイオ燃料およびバイオ製品
USDA の助成対象
・GE Global Research 社(カリフォルニア州アーバイン)-最大 159 万 7,544 ドル:バ
イオマスガス化の動力学モデル(詳細モデルと簡易モデル)を開発する。基礎的なモデ
リング能力により、費用対効果が高くてバイオマス原料の地域的分布に合った、様々な
注1
ニーズがあるもののリスクが大きい開発プロジェクトに対して複数の企業・団体が費用を分担して開発を
行う方式。ここでは USDA や DOE からの助成金を含むトータルの費用のこと。
15
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
原料に対応可能なバイオマスガス化装置を、幅広く設計することができる。
・Gevo 社(コロラド州エングルウッド)‐最大 178 万 862 ドル:費用対効果の高い方法
で、セルロース系糖質をイソブタノール(次世代のバイオ燃料/バイオ製品)へ変換で
きるような、酵母発酵菌を開発する。イソブタノールは、先進的バイオ燃料としては、
高オクタン価(high octane content)と低蒸気圧(low vapor pressure)のバランスがとれ
ており、炭化水素に変換できる。また、バイオ製品としては、イソブチレンやプラスチ
ック(PET 樹脂)製品などの、様々な高価値製品の化学的前駆体(chemical precursor)
として使用できる。
・Itaconix 社(ニューハンプシャー州ハンプトンフォールズ)-最大 186 万 1,488 ドル:
統合的な抽出‐発酵‐重合プロセスを用いて、米国北東部の広葉樹材バイオマスから、
ポリイタコン酸(polyitaconic acid)の生産を開発する。ポリイタコン酸は水溶性ポリマー
であり、石油化学系の分散剤や洗剤、吸収剤の代替品として、年間 200 万トンの市場を
獲得する可能性がある。
・Yenkin-Majestic Paint 社(オハイオ州コロンバス)‐最大 180 万ドル:スーパーマーケ
ットやレストランの消費前(pre-consumer)/消費後(post-consumer)の食品残渣、ならび
に、おがくず、草、葉、切り株およびその他の木質系廃棄物を用いた乾燥発酵システムの
運用を実証し、バイオガス、熱および電気の生産を目指す。同社はこれらの生産物を、大
規模産業施設を稼働させるための分散型スタンドアロンシステムの実証に使用する。
・Velocys 社(オハイオ州プレーンシティ)‐最大 265 万 1,612 ドル:マイクロチャネル
を用いた水素化処理により、バイオリファイナリーの経済性を向上させる。同プロジェ
クトでは、化学プロセスを強化する先進的触媒を用いて、マイクロチャネルリアクタ
(microchannel reactor)技術に備わっている熱伝達と物質移動の固有能力を開発し、より
効率的にセルロース系残渣を液体輸送燃料に変換することを目指す。
DOE の助成対象
・Exelus 社(ニュージャージー州リビングストン)‐最大 120 万ドル:プロセス化学の
抜 本 的 変 化 を も た ら す 、 バ イ オ 燃 料 製 造 用 総 合 的 ア プ ロ ー チ で あ る 、 BTG
(Biomass-to-Gasoline)技術の開発を行う。この技術では、バイオマスから自動車用液体
燃料への新しい反応経路を促進する独自設計触媒を使用する。BTG プロセスでは、従来
の高温プロセス(ガス化や熱分解など)の代わりに、穏やかな低温反応が使われる。こ
の自己完結プロセスで使われる水は最小限の量であり、酸や化学添加物は必要ない。
16
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
バイオ燃料開発の分析
USDA の助成対象
・パデュー大学(インディアナ州ウェストラフィエット)-最大 93 万 3,883 ドル:バイ
オ燃料以外のエネルギー技術、ならびに、経済/気候変動政策の代替となる選択肢に関
連した、次世代バイオ燃料の世界的影響の分析法を開発する。同プロジェクトは、複合
的で多分野にわたるシステムにおける各フレームワークの強みを把握するために、策定
されたモデリングフレームワークの修正、拡大、関連付けを行う。
・ミネソタ大学(ミネソタ州セントポール)-最大 271 万 5,007 ドル:レーク・ステーツ(Lake
States)地域注 2 において、森林起源のバイオ燃料原料の環境的な持続可能性と供給可能性
を評価する。同プロジェクトは、レーク・ステーツ北部における、原料の収穫拡大に関連
する主要な不確実要素(環境への影響、経済的な実現可能性、化石燃料の CO2 排出の回
避など)に取り組む。
DOE の助成対象
・再生可能な工業原料に関する研究コンソーシアム(CORRIM: Consortium for Research
on Renewable Industrial Materials)(ワシントン州、アイダホ州、ノースカロライナ
州、ミシシッピ州、テネシー州)‐最大 143 万 535 ドル:連邦政府所有地において、森
林系残渣や短期輪作作物、混合廃棄物、および、火事リスク低減活動からのバイオマス
を収集し、生化学、熱分解、およびガス化システムを介してそれらを燃料に変換した場
合の、環境的・経済的なライフサイクルへの影響を比較する。バイオ燃料生産に関する
連邦政府の予測は、①バイオマスの階層別収集量、および、②再生可能燃料基準(RFS:
Renewable Fuel Standard)の温室効果ガス排出目標に照らして評価ができるような処
理実施シナリオに基づいて行われる。
原料開発
USDA の助成対象
・Agrivida 社(マサチューセッツ州メドフォード)‐最大 195 万 3,128 ドル:高価な前
処理装置と酵素の両方が必要で無くなるような、新たな作物の形質を開発する。細胞壁
を分解するプロ酵素を組み込んだ遺伝子組換えスイッチグラスが設計される。このプロ
酵素は、植物が生えている時は休止状態だが、収穫後は特定の温度と pH の処理条件下
で活性状態になる。
注2
五大湖に接する州を指す語だが、この研究が行われるレーク・ステーツ北部の州は、ミネソタ州、ミシガ
ン州およびウィスコンシン州。
17
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
・オクラホマ州立大学(オクラホマ州スティルウォーター)-最大 421 万 2,845 ドル:効
率的で持続可能性があり、かつ採算が取れるセルロース系エタノール原料の生産確保に
必要な、ベストプラクティスと技術を開発する。大規模な原料生産の研究を活用して、
スイッチグラスの経済的・環境的な持続可能性、混種の多年草、およびバイオマスの年
間作付体系について評価を行う。また、バイオエネルギーと畜産物生産の相乗作用も研
究する。
DOE の助成対象
・テネシー大学(テネシー州ノックスビル)―最大 234 万 5,290 ドル:テネシー東部にお
いて、各種のマネジメント・プラクティス、収穫機具、および収穫スケジュールの点で
条件設定を変えて、3 種類のスイッチグラス(①Alamo 在来種、②Alamo 改良種の Ceres
EG 1101、③Kanlow 種の Ceres EG 1102)を比較する。この実証規模(2,000 エーカ
ー注 3)のプロジェクトでは、3 種のスイッチグラスの種子を植えた、10~50 エーカーの
様々な大きさの土地区画が使用される。
翻訳:NEDO(担当 総務企画部 大釜 みどり)
出典:
「DOE and USDA Select Projects for more than $24 Million in Biomass Research and
Development Grants」
http://www.energy.gov/news2009/8283.htm
本記事関連の NEDO 成果報告書
本記事で扱っているテーマに関連した最近の NEDO 成果報告書を以下に示します。
成果報告書を閲覧する場合は、NEDO ホームページから利用登録をしてから管理番号欄に
管理番号を入力し、検索してください。
http://www.nedo.go.jp/database/index.html
1) 平成 19 年度成果報告書
平成 18 年度第 2 回採択産業技術研究助成事業
06A43502c
燃料用バイオエタノール生産を目指した、セルロース系バイオマスを高効率に酵素糖
化する糸状菌の開発
平成 19 年度中間
管理番号 100013554
注3
約 8km2
18
NEDO海外レポート
NO.1059,
2) 平成 18 年度成果報告書
2010.2.10
平成 18 年度第 2 回採択産業技術研究助成事業
06A43502c
燃料用バイオエタノール生産を目指した、セルロース系バイオマスを高効率に酵素糖
化する糸状菌の開発
平成 18 年度中間
管理番号 100011302
19
NEDO海外レポート
【バイオマス特集】
NO.1059,
2010.2.10
先進的バイオリファイナリー
先進的バイオリファイナリープロジェクトに 6 億ドルを投資(米国)
エネルギー省(Department of Energy: DOE)のスティーブン・チュー長官と農務省(US
Department of Agriculture: USDA)のトム・ヴィルサック長官は、19 の統合型バイオリ
ファイナリープロジェクトの選定を発表した。これは、米国再生再投資法に基づいて最大
5 億 6,400 万ドル拠出して、パイロット規模、実証規模および商業規模の施設の建設、運
用を促進しようとするものである。15 の州で実施されるこれらのプロジェクトは、米国バ
イオマス産業の精製技術の有用性を証明し、完全な商業規模のバイオリファイナリー開発
に向け、基礎を築くのに役立つと考えられる。選定されたプロジェクトは、パイロット規
模、実証規模および商業規模の施設において、バイオマス原料を利用して、先進的なバイ
オ燃料、バイオ電力、およびバイオ製品を生産する予定である。これらのプロジェクトは
また、米国の外国石油への依存を軽減し、国内バイオ産業の育成を促進し、多数の農村地
域で雇用を創出するために、政府が現在行っている取り組みの一環である。
「先進的バイオ燃料は、よりクリーンで、より持続可能な運輸システムを米国で確立す
るのに極めて重要である。これらのプロジェクトは、国内に雇用を創出する国内産業を確
立し、アメリカ中の農村に新たな市場を創設する役に立つと考えられる」
、チュー長官はこ
う述べる。
ヴィルサック長官がさらに、USDA の農村開発プログラムにより、カリフォルニア州サ
ンディエゴに拠点のある Sapphire Energy 社を選んだことをつけ加えた。同社は、バイオ
リファイナリー支援プログラムを通じて最大 5,450 万ドルの借入保証を受け取り、池で藻
類を養殖する統合型の藻類バイオリファイナリー処理を実証する計画である。また、脱水
および油抽出技術を利用することにより中間生成物を生産して、ジェット燃料やディーゼ
ルなどを代替するグリーン燃料(環境に優しい燃料)に精製する予定である。実際のプロ
ジェクトは、ニューメキシコ州コロンバスで実施される。
「再生可能エネルギーの開発は、農村を再建し、活性化させる我々の取り組みにとって
非常に重要である。この農業法(Farm Bill)注1プログラムは、我々のエネルギー独立性を
向上させ、農業廃棄物材料のための新技術と市場を拡大する手段である」とヴィルサック
長官は言った。
2008 年農業法に基づくバイオリファイナリー支援プログラムは、非トウモロコシ種子デ
注1
農業法は、農業政策の枠組みを決める法律で、およそ 5 年ごとに改正される。直近の改正は 2008 年 6 月で、
正式名称は「2008 年食料・保全・エネルギー法案(Food, Conservation, and Energy Act of 2008)」
。(参
照 :( 独 ) 農 畜 産 業 振 興 機 構 、「 米 国 2008 年 農 業 法 に お け る 野 菜 等 に 関 す る 政 策 に つ い て 」
(http://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/kaigai/0807/kaigai1.html))
20
NEDO海外レポート
2010.2.10
NO.1059,
ンプン系のバイオマス源からつくられる燃料を生産するための新興技術の開発を促進する。
このプログラムは、実現可能な商業規模の、先進的バイオ燃料を生産するバイオリファイ
ナリーの開発、建設、改装のための借入保証を提供する。各プロジェクトの借入保証の上
限は 2 億 5,000 万ドルである。借入保証は、入手可能な資金の状況によるが、Sapphire
Energy 社が借入協定の条件を満たすことを条件に提供される。
今回発表された米国再生再投資法によるおよそ 5 億 6,400 万ドルのうち、
最大 4 億 8,300
万ドルは、14 のパイロット規模および 4 つの実証規模のバイオリファイナリープロジェク
ト向けに支出される。残りの 8,100 万ドルは、前回選定されたバイオリファイナリープロ
ジェクトの建設促進に使用される予定である。これらのプロジェクトは合計すると総投資
額 13 億ドル程度に達し、このうち民間および非連邦レベルの費用分担型資金が 7 億ドル
以上になる。
これらのプロジェクトにより生産されたバイオ燃料やバイオ製品は、原油に取って代わ
るものとなり、産業界が再生可能燃料基準(Renewable Fuel Standard: RFS)で義務付
けられている生産目標を達成するための生産能力を向上させるとみられる。これらの投資
は、現在運転中の少数のバイオリファイナリーでの生産量と、RFS で設定された意欲的な
セルロース系および先進的バイオ燃料目標との間のギャップを埋める役に立つと考えられ
る。
選考結果の詳細についてはウェブサイト注2から参照できる。
翻訳:NEDO(担当
総務企画部
吉野
晴美)
出典:Secretaries Chu and Vilsack Announce More Than $600 Million Investment in
Advanced Biorefinery Projects
(http://www.energy.gov/news2009/8352.htm)
本記事関連の NEDO 成果報告書
本記事で扱っているテーマに関連した最近の NEDO 成果報告書を以下に示します。
成果報告書を閲覧する場合は、NEDO ホームページから利用登録をしてから管理番号欄に
管理番号を入力し、検索してください。
http://www.nedo.go.jp/database/index.html
注2
http://www.energy.gov/news2009/documents2009/564M_Biomass_Projects.pdf
21
2010.2.10
NEDO海外レポート
NO.1059,
1) 平成 18 年度中間年報
微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物機
能を活用した高度製造基盤技術開発
高性能宿主細胞創製技術の開発、微生物反応の
多様化・高機能化技術の開発、バイオリファイナリー技術の開発、総合調査研究
環
境調和型ソフトバイオマス糖化技術の開発:進化分
管理番号 100009698
2) 平成 18 年度中間年報
微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物機
能を活用した高度製造基盤技術開発
高性能宿主細胞創製技術の開発、微生物反応の
多様化・高機能化技術の開発、バイオリファイナリー技術の開発、総合調査研究
環
境調和型ソフトバイオマス糖化技術の開発:麹菌にバイ
管理番号 100009699
3) 平成 18 年度~平成 19 年度成果報告書
微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技
術開発/微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発
高性能宿主細胞創製技術の開
発、微生物反応の多様化・高機能化技術の開発、バイオリファイナリー技術の開発、
総合調査研究
環境調和型ソフトバイオマス糖化技術の開発:前処理及び糖化システ
ム
管理番号 100011909
4) 平成 18 年度~平成 19 年度成果報告書
微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技
術開発/微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発
高性能宿主細胞創製技術の開
発、微生物反応の多様化・高機能化技術の開発、バイオリファイナリー技術の開発、
総合調査研究
環境調和型ソフトバイオマス糖化技術の開発:進化分子工学による糖
化酵素の高機能化
管理番号 100011910
5) 平成 18 年度~平成 19 年度成果報告書
微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技
術開発/微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発
高性能宿主細胞創製技術の開
発、微生物反応の多様化・高機能化技術の開発、バイオリファイナリー技術の開発、
総合調査研究
環境調和型ソフトバイオマス糖化技術の開発:麹菌による酵素量産技
術
管理番号 100011911
22
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
【バイオマス】中濃度エタノール混合燃料
NREL チームがエタノール中濃度混合燃料のテストを実施(米国)
ダイエットを行うのは、人間にと
って良いことだろう。そして、従来
の燃料へのエタノール混合比率を上
げるガソリン「ダイエット」は、従
来の車や小型エンジンを傷めること
がなければ、環境や経済にとって良
いものとなるだろう。国立再生可能
エネルギー研究所(NREL: National
Renewable Energy Laboratory)の
研究者たちは、このことの解明を試
みている。なぜなら、これらの新し
いエタノール混合比率が、米国が石
油燃料から離脱しようというときに
重要な役割を演じるかもしれないか
NREL の研究所に陳列される貯蔵容器には、高エタノー
ル混合率のガソリンを使用した際の自動車の排気ガスが
保管されている。これまでの研究結果は、エタノールが増
えても、排出ガスに大きな変化は見られなかった。
Credit:Heather Lammers
らである。
2007 年エネルギー自立・安全保障法 (EISA: Energy Independence and Security Act of
2007)
は、高エタノール混合率燃料の探求を後押しする一つの力である。この 2007 年
注1
の法律は、米国が 2022 年までに 360 億ガロンの再生可能燃料を使用することを義務づけ
ているが、その過程で 2012 年までには 150 億ガロンの使用が義務づけられており、こち
らのベンチマークはすぐ目前に迫っている。
「我々は現在、より多くのエタノールを燃料に使用する方法の模索に追われている。
」と、
NREL の燃料性能グループのシニアプロジェクトリーダー、Keith Knoll 氏は述べた。
現在、エタノールは最も普及しており、容易に利用できる再生可能燃料であるが、結果的
にこのエタノールは、EISA で要求されている 360 億ガロンの義務量の大半を占めるもの
とみられている。モーター燃料として使用されるエタノールは通常 E85 注2であり、これは、
フレックス燃料車(FFV: Flexible Fuel Vehicle)のみで使用できる燃料である。エタノール
はまた、一酸化炭素排出やスモッグを削減するため、混合率 10%の標準ガソリン(E10)と
して普及しているが、エタノール混合率を現在の 10%から提案されている E15 や E20 に
まで上げることについては、多数の問題や課題が提起されることになる。
注1
注2
http://frwebgate.access.gpo.gov/cgi-bin/getdoc.cgi?dbname=110_cong_bills&docid=f:h6enr.txt.pdf
エタノール 85%、ガソリン 15%の混合燃料。
23
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
たとえば、E20 は現在、環境保護局(EPA: Environmental Protection Agency)の大気浄化
法の下、従来の自動車への使用が認められてはいない。この点で、NREL や米オークリッ
ジ国立研究所(ORNL:Oak Ridge National Laboratory)は、E15 や E20 のような混合率が
市場において現在どのような影響を与えるのか理解するのに極めて重要な役割を果たすこ
とになる。この研究では、エタノール混合率の高いものを使用することで、排ガス、排気
温度、触媒コンバータ、エンジンの性能および耐久性に関して悪影響を及ぼすことがある
かどうかを調査する。
自動車には影響なし
NREL と ORNL が、
E15 や E20
といった中濃度のエタノール混合の
研究を行っている中で、小型エンジ
ンや自動車の最初の試験データが
2008 年 10 月に公開され、2009 年 2
月に更新された注3。その他の自動車
への影響を検討する追跡調査報告書
が、今後一年間に発行される。エタ
ノール混合率の燃料を既存の自動車
に使用するほとんどの場合、この試
験では、特に大きな予想外な結果や
短期間での影響は見られなかった。
2003 年 Buick LeSabre について、エタノールとガソリンの
「これまでのところ、我々にとって
予想外というものは何もなく、15%
および 20%のエタノール比率でも、
混合燃料で走行中の排ガスを NREL の研究者がテストした。
初回の研究では、大部分の車は高エタノール比率燃料にうま
く適応したが、より広範囲な研究が現在行われている。
Credit:Keith Knoll
自動車には大した影響は見られない。
」と Knoll 氏は述べた。
NREL の試験で使用される自動車は、現在使用されている車の代表的なものを選ばなけ
ればならないことになっており、これに使用された 16 台の車は、1999 年型から 2007 年
型までのもので、その走行距離計は 10,000~100,000 マイルを示していた。
この試験で使用された車はすべて、燃料効率でいくぶんロスを示したが、エタノールは
ガソリンよりもエネルギー密度が低いため、これは予測されていたことである。
混合レベル E20 では、ガソリンのみのものと比較した場合、1ガロンあたりの走行距離の
低下率は、7.7%であった。「我々が調査したもう一つの課題は、高エタノール混合率のも
注3
http://www.nrel.gov/docs/fy09osti/43543.pdf
24
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
のを使用した場合、大気質に意図しない影響が出るかどうかというものである。
」と、Knoll
氏は述べた。
これまでの研究結果では、エタノール混合率が増加しても、排出ガスは概して変わらず、
窒素酸化物や非メタン有機ガスの排出量にも大きな変化はなく、どのエタノール比率であ
っても、一酸化炭素の排出量は減少した。 また、エタノールとアセトアルデヒド排出量が
増加したが、これらは、その他の大気毒性のある炭化水素排出量削減で、環境面の均衡を
保っている。
エタノール混合率が増加した場合に、触媒コンバータがどのように反応するかというこ
ととなると、アクセルを強く吹かしたり、長距離の坂を上るなどの高出力作動時にエンジ
ン制御システムがどのように燃料/空気比を制御するかにより、結果は異なった。これら
の取り組みにおいて、エタノール混合率を上げた燃料に対応した自動車では、触媒作用に
変化は全く見られなかった。-
実際このうちの数台は、さらに高い混合比率レベルのエ
タノールを使用しても、低温で走行した。 テストされた自動車 16 台のうちの 7 台は、高
出力作動時には、高エタノール混合率の燃料に適応しないということがわかった。これら
の自動車は、E20 を使用すると、ガソリンのみの場合と比較して約 29 ~35 ℃高い温度
で走行し、出力を上げると、触媒温度が上昇した。この温度上昇による長期的な影響につ
いては、同じく DOE が資金援助して現在行われている別の実験で調査されている。
「これらの一次結果は興味深いものだが、次のステップは、より多くの自動車を使用した
更に大がかりな研究になり、エタノールが触媒コンバータに与える長期的影響、運転のし
易さやエンジンの耐久性など、その他多数の問題を調査していく」 と、Knoll 氏は述べた。
小型エンジンに期待
自動車用エンジンが高エタノー
ル燃料に順応するものとみられる一
方、非自動車用小型エンジン
(SNRE: small non-road engines)
の場合には、同様に順応するとは言
えない。このテーマに関する 2009
年 4 月の Chicago Tribune 記事で
写真:Keith Knoll 氏、NREL の燃料性能グループのシニア
は、
「静かにアイドリングしているチ
プロジェクトリーダー、エタノール比率 15~20% 燃料で
ェーンソーをイメージして欲しい。
プ。米国の法律は、再生可能燃料の使用について、2012 年
それが突然、まるで誰かがスロット
動く自動車やその他エンジンの試験を行う NREL のトッ
までの増加を命じている。Credit:Heather Lammers
ルを入れたかのように、勝手にスピ
25
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
ンし出すのである。
」と、これを不気味な状況と捉えている。
Chicago Times の記事は独創的ではあったが、実験で得られた内容に対する見解を誇張
したものであった。たとえば、その実験で少し良い結果が得られたのは、手持ち式トリマ
ー(刈り込み用の機械)であったが、Knoll 氏は、
「非自動車用小型エンジンに高エタノール
燃料を使用した場合には、問題が生じる。これは、さらに研究が必要な分野である」と述
べた。
この段階のテストで、NREL と ORNL は、SNRE を 28 台使用した。非自動車用の小
型エンジンは、自動車とは違ってフィードバック制御システムも排気酸素センサーも持た
ないが、このことは、このエンジンは追加されたエタノールを自動的に補正できないとい
うことを意味する。このため、高エタノール混合燃料を使用した小型エンジンは、より高
温で作動する傾向があった。排気装置、シリンダーヘッド、シリンダーの温度はそれぞれ
上昇した。排気温度は、燃料をガソリンのみから E15 に替えると 10~50℃上昇、また、
ガソリンのみから E20 に替えると、20~70℃上昇した。
刈り込み用機械の話に戻すと、高エタノール混合燃料で作動した場合、3 台の芝刈り機
のアイドリング速度は高くなり、クラッチがときどき勝手に連動した。しかし、これにつ
いては簡単に打開できるものと Knoll 氏は考えている。
「小型エンジンは、燃料の違いに
対処できるように設計されている。これらのエンジンは、エタノール 20%への変更には対
処できないかもしれないが、多くは現在 E10 で作動している。将来の設計は、我々が使う
ことになるどのようなエタノール基準でも作動するよう設計されるだろう。
」
自動車用エンジンと小型エンジン両方の初めての試験を深読みしないことだと Knoll 氏
は警告した。
「良いデータを得ることはできたが、これはとても小さなサンプルであり、は
るかに大きなプログラムの一部にすぎない。
」
今後の試験と判断
この試験すべての焦点は、EPA のような政策立案者が、米国人が毎日運転する既存の自
動車に新しいエタノール混合率が与える影響についての評価や理解を助けることである。
現在、米国のエタノール産業は、あらゆるタイプの自動車への E15 使用許可を EPA に
求めている。現在、国中の大部分のガソリンスタンドではすでに、10%のエタノール混合
率の燃料を販売している。
「長期的解決策として、消費者のために我々が重点を置くものは E85 と考えている。使
用可能な燃料補給所が少なく、実際に道路を走るフレックス燃料自動車の数は限られてい
26
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
るため、現在 E85 の利用は限られている。我々の研究は、政策立案者に信頼できるテクニ
カルアドバイスを提供し、E15 や E20 のような混合燃料の市場における将来性を判断す
る上でのサポートを行っている。
」と、Knoll 氏は述べた。
将来の中濃度エタノール混合燃料の研究は、以下のような見通しである。
- 排ガス規制
- 燃料供給装置の互換性
- エンジンの耐久性
- 蒸発ガス
- 運転のしやすさ
この研究は、NREL 注4 と ORNL 注5からの技術支援を受け、米国エネルギー省バイオマ
スプログラム(U.S. Department of Energy's Biomass Program 注6)と EERE(エネルギー効
率・再生可能エネルギー局)自動車技術プログラム(Energy Efficiency and Renewable
Energy Vehicle Technologies Program 注7)が共同で主導し、資金提供を行っている。チー
ムは、EPA 注8、米国の自動車メーカー、エンジンメーカー、石油業者、バテル記念研究所
(Battelle Memorial Institute 注9)からの代表者たちと密に仕事を行い、しっかりとしたテ
ストプログラムを開発、実施している。
翻訳:NEDO (担当
出典:“NREL Team Tests Higher Ethanol Fuel Mix”
http://www.nrel.gov/features/20090918_ethanol.html
注4
注5
注6
注7
注8
注9
http://www.nrel.gov/vehiclesandfuels/
http://www.ornl.gov/
http://www1.eere.energy.gov/biomass/
http://www1.eere.energy.gov/vehiclesandfuels/
http://www.epa.gov/
http://www.battelle.org/
27
総務企画部
原田
玲子)
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
【バイオマス特集】固形バイオマス
固形バイオマス・バロメータ 2009 年(EU)
-2008 年の固形バイオマス由来一次エネルギー生産量が 68.7Mtoe 注1に-
-2007~2008 年の固形バイオマス由来一次エネルギー生産量の成長率が 2.3%に-
-2008 年の固形バイオマス由来発電量が 57.8TWh 注2に-
経済金融危機の影響でも固形バイオマスエネルギーの成長が停滞することはなかった。
欧州連合(European Union: EU)加盟国における固形バイオマス由来の一次エネルギー
生産量は 2.3%増加した。これは、2007 年対比で 150 万トン(石油換算)の増加に匹敵す
る。この成長は特に発電に現れており、2007 年対比で 10.8%(5.6TWh)の増加であった。
はじめに
1.
堅調に伸びるエネルギー
1.1
木質ペレットは活況
1.2
EU の発電量は 57.8TWh に増加
1.3
熱の販売量は 5.2Mtoe に
1.4
主要生産国の動向
1.4.1
10Mtoe 以上を生産したドイツ
1.4.2
野心を見せるフランス
1.4.3
木材エネルギー大国のフィンランド
1.4.4
目標を達成できなかったスウェーデン
2.
バイオマス熱産業:ストーブから高容量コジェネ工場へ
3.
2010 年に消費は 75 Mtoe を超える見通し
はじめに
2008 年に固形バイオマス(植物性、動物性の廃棄物や排泄物に加え、木材、木質廃棄物
から成る)は、確実に再生可能エネルギーを生産できる方法の一つであった。第一回目の
推定値によれば、固形バイオマス由来一次エネルギーは、2007 年~2008 年の間に約 2.3%
の成長を維持し、2007 年対比で 1.5Mtoe 増加して 68.7Mtoe に達した(表 1)。
注1
注2
toe=石油換算トン、Mtoe=石油換算百万トン
1TWh(テラワットアワー)=1,000GWh=100 万 MWh=10 億 kWh
28
NEDO海外レポート
表 1-1
2010.2.10
EU における固形バイオマス由来一次エネルギー生産量* (Mtoe):2007 年
国名
ドイツ
フランス
NO.1059,
**
2007 年
合計
木材
廃棄物
木材
有機物質お
よび廃棄物
黒液
9.759
9.454
0.000
0.306
8.545
7.462
0.267
0.816
スウェーデン
8.441
0.957
4.028
0.000
3.456
フィンランド
7.238
1.706
1.858
0.019
3.656
ポーランド
4.709
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
スペイン
4.232
2.898
0.299
0.933
0.102
オーストリア
3.743
1.402
1.133
0.609
0.599
ルーマニア
3.304
0.270
0.000
ポルトガル
2.808
2.562
0.108
0.000
0.137
チェコ共和国
1.948
1.127
0.503
0.028
0.289
イタリア
1.707
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
ラトビア
1.532
0.871
0.661
0.000
0.000
デンマーク
1.464
0.598
0.175
0.692
0.000
ハンガリー
1.146
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
英国
1.006
0.279
0.145
0.583
0.000
オランダ
0.779
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
ギリシャ
1.005
0.217
0.000
リトアニア
0.732
0.337
0.395
0.000
0.000
ブルガリア
0.709
0.689
0.019
0.000
0.000
エストニア
0.731
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
ベルギー
0.540
0.200
0.245
0.055
0.040
スロバキア
0.484
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
スロベニア
0.429
0.006
0.000
アイルランド
0.171
0.015
0.099
0.057
0.000
ルクセンブル
0.015
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
キプロス
0.011
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
マルタ
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
3.033
0.787
0.418
ク
EU 合計
*
輸出入は含まない
67.188
**
フランス海外県を含む(119 ktoe)
29
出典:EurObserv’ER 2009
NEDO海外レポート
表 1-2
NO.1059,
2010.2.10
EU における固形バイオマス由来の一次エネルギー生産量* (Mtoe):2008 年**
国名
2008 年
合計
木材
廃棄物
木材
有機物質お
よび廃棄物
黒液
10.311
9.981
0.000
0.330
フランス***
8.959
7.887
0.267
0.805
スウェーデン
8.303
0.944
4.113
0.000
3.246
フィンランド
7.146
1.838
1.855
0.019
3.433
ポーランド
4.739
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
スペイン
4.339
2.636
0.295
1.202
0.205
オーストリア
3.934
1.448
1.114
0.755
0.616
ルーマニア
3.400
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
ポルトガル
2.785
2.552
0.102
0.000
0.131
チェコ共和国
1.961
1.029
0.635
0.034
0.263
イタリア
1.911
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
ラトビア
1.468
0.866
0.601
0.000
0.000
デンマーク
1.389
0.598
0.142
0.650
0.000
ハンガリー
1.194
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
英国
0.998
0.301
0.171
0.526
0.000
オランダ
0.893
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
ギリシャ
0.873
0.246
0.000
リトアニア
0.765
0.352
0.413
0.000
0.000
ブルガリア
0.750
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
エストニア
0.750
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
ベルギー
0.654
0.273
0.278
0.069
0.034
スロバキア
0.525
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
スロベニア
0.469
0.009
0.000
アイルランド
0.165
0.015
0.101
0.050
0.000
ルクセンブルク
0.016
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
キプロス
0.011
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
マルタ
0.002
0.000
0.000
0.002
0.000
ドイツ
EU 合計
*
輸出入は含まない
0.627
0.460
68.709
**
推計
フランス海外県を含む(122 ktoe)
出典:EurObserv’ER 2009
***
30
NEDO海外レポート
1.
NO.1059,
2010.2.10
堅調に伸びるエネルギー
固形バイオマス部門の成長は、他の再生可能エネルギー部門の成長に比べると緩やかに
見えるが、2008 年には一次エネルギー生産という点で主要なエネルギー貢献部門の一つで
あった。固形バイオマス部門の投入量は、1995 年以来 EU27 加盟国で 22Mtoe 以上増加
した。1995 年は、再生可能エネルギーに関する 1997 年欧州白書で採用された基準年であ
る(図 1)。この増加は、2008 年の EU におけるバイオ燃料消費量の 2 倍以上に匹敵する
もので、デンマーク一国の一次エネルギー総消費量より大きい。
66.0
67.1 68.6
62.2 63.3
59.0
51.1
46.3
52.0 51.7 52.8
51.9
53.1
48.7
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
図1
*
EU27 ヵ国の 1995 年以降の固形バイオマス由来一次エネルギーの推移*(Mtoe)
Eurostat の デ ー タ ( 1995~2006 年 ) に は フ ラ ン ス 海 外 県 の 数 字 が 含 ま れ て い な い た め 、
EurObserv’ER は自己が算出した 2007 年および 2008 年の生産量の数字からフランス海外県の数
字を差し引いた。
出典: Eurostat 1995-2006、EurObserv’ER 2007-2008
生産量の多い 2 国(ドイツとフランス)は、未だに木材(薪)と木質廃棄物を区別して
いないが、EU における固形バイオマス生産の各種内訳に関する統計の正確性は向上して
いる。木質廃棄物には、枝チップ、木材の削りくず、おがくず、ペレット、製材時の廃棄
物、産業廃棄物および家具業界の廃棄物などがある。黒液とは、液体状の木質燃料のこと
で(囲み記事 1 参照)
、製紙業界からの副産物である。また、固形バイオマスの統計に含
まれるが、独立して分類されている。
31
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
囲み記事 1:黒液―環境に優しいエネルギーか?
黒液は、製紙業の廃棄副産物である。木材から製紙用パルプをつくるためには、
木質繊維(セルロース)を分解する必要がある。繊維を結合しているリグニンを
分解する化学処理には、白液として知られる苛性ソーダおよび亜硫酸ナトリウム
が使用される。使用済みの液体(リグニン残渣、水および抽出処理で使用された
化学物質が混ざったもの)を黒液と呼ぶ。
黒液は、製紙工場の大型バイオマスボイラーで焼却され、そのときに生産され
たエネルギーは、製紙プロセスで使用する蒸気を生産するために回収されるか、
コジェネを通じて電気を生み出す。廃棄物とバイオマスの境界線上にあるこの生
産物は、欧州の再生可能エネルギーとして計算される。
毎年 10 月後半から 11 月初旬にかけて行われる EurObserv’ER の調査中に、EU での生
産量の 79.3%(54.5Mtoe)を占める 17 ヵ国が、固形バイオマス燃料の種類別の内訳を提
供した。2008 年の一次エネルギー生産の分野では、木材および木質廃棄物が 76.4%(2007
年は 76%)
、黒液が 16.6%(2007 年は 17.5%)、その他の植物性および動物性廃棄物のカ
テゴリー(わら、穀物残渣、食品処理産業からの固形廃棄物など)は 7%(2007 年は 6.5%)
を占めた。
14 の加盟国は我々(EurObserv’ER)に対してより正確な内訳を提示した。これにより、
薪と木質廃棄物とを区別することができるようになった。この詳細な情報によれば、一次
エネルギー総生産量 34.4Mtoe のうち、木質廃棄物は約 10Mtoe(2008 年は 9.8Mtoe)を
占めていた。この数値は、固形バイオマス一次エネルギーの 28.6%に相当する。因みに、
薪は 38.7%、黒液は 23.1%、動植物の廃棄物は 9.6%である。しかし、総生産量に占める
北欧諸国(スウェーデン、フィンランド、デンマーク、ラトビア、リトアニア)の比率が
高いことから、この数字が欧州全体の傾向を完全に反映しているわけではないことに注意
されたい。これら 5 ヵ国の森林産業は、自己の活動から生み出される森林副産物(特に木
質廃棄物および黒液)を回収する主要な物流拠点を開発した。
1.1
木質ペレットは活況
2~3 年前から、薪燃焼型暖房[の普及]が木質ペレットのブームに火をつけた。スウェー
デン、デンマーク、オランダ、ベルギー、ドイツ、オーストリア、イタリアなど多数の欧
州諸国は、すでに多くの木質ペレットを生産しており、また、フランスなど他の EU の国々
でも人気を博している。
AEBIOM(欧州バイオマス協会)は、欧州における木質ペレット製造工場の数を 440、
2008 年の全工場からの生産量を約 750 万トンと見積もっている。ペレットは数多くのバ
32
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
イオマス原料から製造することができるため(木質廃棄物、枝チップ、短期生育木など)、
この数字は 2020 年までに 10 倍の 7,500 万トンになるとみられる。
欧州の木質ペレットメーカーは、現在 3 つの分野で発展している。ベルギーとオランダ
では、ペレットは主に発電所で使用されている。たとえば、Electrabel(ベルギーの電力
会社)は Awirs 発電所(80MWe
注3
)を転換し、現在では木質ペレットのみで運転してい
る。その使用量は、年間 40 万トンである。スウェーデンとデンマークでは、ペレットは
主として大容量、中容量のコジェネ工場で使用されている。他の国では、住宅および商業
用ビルの暖房に利用されている。
イタリアの消費
の成長は特に興味
丸太(固形バイオマス
燃料の主役)
深い数値を示して
いる。 AIEL(イ
タリア農業森林エ
ネルギー協会)に
よれば、同国には
およそ 80 万のペ
レット燃焼型屋内
用暖房機器が設置
されており、木質
ペレットの消費も
2001 年の 15 万ト
ンから 2008 年の
80 万トンに増加
した(15 万トンの
輸入を含む)
。イタ
リアでは暖房を使
用する期間が短い
ため(年間平均
120 日未満)
、セン
トラルヒーティン
グシステムが普及
しなかったことが、
消費が拡大した理
由である。
注3
MWe: megawatt electrical(メガワットエレクトリカル)。ワットエレクトリカルは電力の出力単位。
33
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
ドイツでは、ペレット燃焼型暖房も急増し始めている。BEE(ドイツ再生可能エネルギ
ー協会)によれば、同国には 40 の製造工場があり、2008 年の生産能力は全工場あわせて
230 万トンであった。ペレットの生産量は 2007 年の 1,126,196 トンから 2008 年の
1,468,335 トンに増加し、2009 年には 160 万トンを超えるとみられる。同協会は、2008
年のペレット燃焼型暖房機器の設置数を 2007 年より 2 万台多い 105,000 台とみている。
フランスの市場規模も同様である。我々の調査によれば、ペレット燃焼型暖房機器の販売
は、2007 年の 15,820 台(ストーブ:13,787、自動ボイラー:2,033)から 2008 年の 21,270
台(ストーブ:17,100、自動ボイラー:4,170)へと増加し、フランスのペレット燃焼型
暖房機器総設置数は 64,570 台となった。
残存木は、木粉や木質チップ
として転換のために再利用で
きる。
34
NEDO海外レポート
1.2
NO.1059,
2010.2.10
EU の発電量は 57.8TWh に増加
EU の固形バイオマスからの発電の成長は 2008 年も維持され(10.8%)、EU 全域の発
電量は 2007 年から 5.6TWh 増加し 57.8TWh になった(表 2)。多数の EU 加盟国に活動
的な固形バイオマス電力部門があるが、発電量の半分以上がドイツ、スウェーデン、フィ
ンランドに集中している(2008 年は 51.2%)
。
表2
EU における固形バイオマス由来の総発電量(TWh)
2007
国名
発電所
CHP 施設
2008*
総発電量
発電所
CHP 施設
総発電量
ドイツ
6.973
2.893
9.866
7.331
3.116
10.447
フィンランド
1.049
8.612
9.661
1.630
8.606
10.236
スウェーデン
0.000
8.496
8.496
0.000
8.899
8.899
オーストリア
1.285
1.777
3.062
1.326
1.933
3.259
ポーランド
0.000
2.360
2.360
0.000
3.200
3.200
英国
2.920
0.000
2.920
2.768
0.000
2.768
イタリア
1.666
0.815
2.482
1.929
0.817
2.746
オランダ
0.735
1.235
1.970
1.228
1.335
2.563
ベルギー
1.287
0.513
1.799
1.773
0.711
2.484
スペイン
0.272
1.281
1.553
0.676
1.212
1.888
デンマーク
0.000
1.828
1.828
0.000
1.803
1.803
ハンガリー
1.331
0.043
1.374
1.715
0.043
1.758
0.470
1.163
1.633
0.488
1.224
1.712
ポルトガル
0.166
1.366
1.532
0.163
1.338
1.501
チェコ共和国
0.372
0.596
0.968
0.514
0.656
1.171
ラトビア
0.000
0.005
0.005
0.000
0.516
0.516
スロバキア
0.000
0.441
0.441
0.000
0.450
0.450
スロベニア
0.000
0.063
0.063
0.057
0.175
0.232
リトアニア
0.000
0.048
0.048
0.000
0.060
0.060
ルーマニア
0.000
0.034
0.034
0.000
0.034
0.034
エストニア
0.000
0.024
0.024
0.000
0.025
0.025
0.001
0.013
0.014
0.002
0.016
0.018
フランス
**
アイルランド
EU 全体
*推計
18.528
33.606
52.134
21.600
36.170
57.769
**海外県を含む (2007 年は 345 GWh、2008 年は 355GWh)。
出典:EurObserv’ER 2009
固形バイオマスエネルギーを熱と電気の双方に転換するコジェネ工場は、欧州の生産の
62.6%を占めており、近年の固形バイオマスからの発電増加に寄与したのは主にコジェネ
工場の開発であった。その結果、EU の発電量はわずか 20.3TWh だった 2001 年以降、約
3 倍になった(図 2)。
35
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
57.4
51.8
46.2
41.5
37.2
29.5
24.4
20.3
2001
図2
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
EU27 ヵ国の 2001 年以降の固形バイオマス由来電力総生産量* の
推移(TWh)
Eurostat のデータ(1995~2006 年)にはフランス海外県の数字が含まれ
ていないため、EurObserv’ER は自己が算出した 2007 年および 2008 年の
生産量の数字からフランス海外県の数字を差し引いた。
*
出典:Eurostat 2001-2006、EurObserv’ER 2007-2008
1.3
熱の販売量は 5.2Mtoe に
表 3 に示した熱の生産量は、地域暖房ネットワークを通じて販売された熱のみが記載さ
れている。地域暖房ネットワークの熱生産工場は、余剰の熱を売却する企業、あるいはエ
ネルギーサービス事業体のいずれかにより運営されている。統計は、産業による熱生産(工
場施設の加熱のために敷地内で使用されるもの)
、屋内用暖房機器で生産された熱、ネット
ワークと接続していない集合住宅向けや工場運転用の熱を含んでいない。欧州では固形バ
イオマスで生産された熱の大部分は屋内暖房用であるため、統計を読むときにはこの点に
留意することが必要である。
大部分の国は未だに熱の販売に関する統計を発表していないため、表 3 はすべての EU
加盟国を網羅しているわけではない。とはいえ、主要なバイオマス生産国(特に、暖房ネ
ットワークを集中的に発達させたスカンジナビア諸国)が含まれているため、[EU におけ
る熱販売の傾向を]示しているといえる。実際、スウェーデン、フィンランド、デンマーク
の 3 ヵ国で、2008 年の EU 加盟国の熱の販売量の 2/3 以上(67.4%)を占めている。
36
NEDO海外レポート
表3
NO.1059,
2010.2.10
EU における加工産業の固形バイオマス由来の熱の総生産量*(Mtoe)
2007
国名
熱生産施設
2008**
CHP 施設
総生産量
熱生産施設
CHP 施設
総生産量
スウェーデン
0.762
0.758
1.520
0.430
1.413
1.843
フィンランド
0.192
0.993
1.185
0.212
0.986
1.198
デンマーク
0.258
0.224
0.482
0.275
0.223
0.498
オーストリア
0.208
0.145
0.353
0.102
0.149
0.251
ドイツ
0.210
0.237
0.447
0.263
0.330
0.593
フランス
0.096
0.112
0.209
0.102
0.149
0.251
リトアニア
0.112
0.023
0.135
0.134
0.030
0.164
ラトビア
0.094
0.008
0.102
0.091
0.009
0.101
ポーランド
0.031
0.063
0.095
0.039
0.094
0.134
イタリア
0.000
0.081
0.081
0.000
0.081
0.081
スロバキア
0.020
0.018
0.038
0.021
0.019
0.041
オランダ
0.000
0.035
0.035
0.000
0.035
0.035
ブルガリア
0.031
0.000
0.031
0.031
0.000
0.031
ハンガリー
0.007
0.011
0.017
0.007
0.011
0.017
スロベニア
0.004
0.004
0.008
0.005
0.005
0.010
EU 全体
*熱生産施設または
2.025
2.712
4.737
1.713
3.535
5.248
CHP 施設において商業目的で生産されたもの。**推計
出典:EurObserv’ER 2009
暖冬の影響で暖房需要が減少した結果、2007 年の生産量は落ち込んだが、2008 年には
熱の販売量の増加は発電と歩調を合わせ、2007 年対比で 10.8%(0.5Mtoe)の増加となっ
た(Système Solaire, Le Journal des Énergies Renouvelables、No.188 を参照)
。販売さ
れた熱の全量の 2/3 以上が、コジェネ工場から供給された(2008 年に 67.4%)
。
1.4
1.4.1
主要生産国の動向
10Mtoe 以上を生産したドイツ
バロメータの 2009 年発行版(本稿)に使用するドイツとフランスの統計に整理統合が
あったため、固形バイオマス由来エネルギーの主要生産国について再分類を行った。その
結果、2007 年時点で、ドイツは固形バイオマスエネルギー生産国としてトップの地位
(EU27 ヵ国中)に移動した注4。ドイツの再生可能エネルギーの統計の準備に携わった
注4
固形バイオマスバロメータの 2008 年版では EU 内の固形バイオマス由来一次エネルギー生産量のトップは
フランスとされていた。
(NEDO 海外レポート No.1038「固形バイオマス・バロメータ 2008 年(EU)」
参照。http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1038/1038-11.pdf)
37
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
ZSW(ソーラーエネルギー、水素研究センター)によれば、固形バイオマス由来一次エネ
ルギー生産量は 2008 年に 10.3Mtoe に増加した(2007 年対比で 552ktoe の増加)
。ドイ
ツは、固形バイオマス由来一次エネルギー生産量で、節目の数字である 10Mtoe を超えた
初めての EU 加盟国である。ドイツの実績には目を見張るものがある。というのも、2002
年の 4.7Mtoe から 2008 年にはその 2 倍以上の 10.3Mtoe に生産量が増加したからである。
同国は、2002 年以降に大幅かつ持続的に固形バイオマス由来一次エネルギーの生産増加を
続けてきたのである。
固形バイオマス発電所に対して集中的に投資したことが、このような結果をもたらした
一因となっている。ドイツの(固形バイオマス由来の)電力生産量は、2002 年の 543GWh
から 2008 年の 10,447 GWh へと 19 倍に増加した。この成長により、同国は 2007 年に固
形バイオマス由来の発電量で首位になったのである注5。DBFZ(ドイツバイオマス研究セ
ンター)
によれば、
ドイツにはバイオマス発電所が 2008 年には 220 ヵ所あり、
約 1,200MWe
の発電能力がある。現在、52 の発電所が計画中もしくは建設段階にあり、2020 年までに
能力を 3,200 MWe に引き上げる予定である。この容量の 95%が EEG(再生可能エネルギ
ー源法)の対象になる。同法は 2008 年に再度修正され、固定価格買取制度注6が 2009 年 1
月 1 日から改訂された。150kW 未満の容量のバイオマス発電所は 11.67€c(セントユーロ
)/kWh、150~500kW の場合は 9.18€c/kWh、500kW~5MW の場合は 8.25€c/kWh を
注7
取得する。5~20MW の容量のバイオマス発電所からの買取価格は 7.79€c/kWh である。
革新的な生産過程を用いた発電所(燃料電池生産、スターリングモーター、ガスタービン、
Rankine Cycle 注8使用など)は、2€c/kWh が追加される可能性がある。また、使用する燃
料の種類(たとえば、森林木質廃棄物、樹皮、短期生育木、エネルギー穀物)に応じて買
取価格も引き上げられる(500kW 未満の場合は最大 6€c/kWh、5MW 未満の場合は 4€
c/kWh)。もしこれらの発電設備が熱生産も行う場合には、最大 3€c/kWh 増額される(コ
ジェネボーナス)
。この新たな買取価格は、毎年 1%ずつ減額される。
再生可能エネルギーからの熱生産を推進するための改正法(修正 EEG(EEWärmeG))
は、2009 年 1 月 1 日に発効した。同法は、新築建物の所有者に対して熱需要の一部を再
生可能エネルギーで賄うよう義務づけている。たとえば、バイオマス燃料(薪、ペレット、
木質チップなど)を使用する暖房機器の場合は 50%である。こうした燃料は、ドイツの大
気質法の基準を満たす高性能ボイラーでのみ使用することができる。
注5
注6
注7
注8
固形バイオマスバロメータの 2008 年版では、2007 年時点でドイツは固形バイオマス由来の発電量でフィ
ンランド、スウェーデンに次いで第 3 位とされていた。
(NEDO 海外レポート No.1038「固形バイオマス・
バロメータ 2008 年(EU)」参照。http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1038/1038-11.pdf)
再生可能エネルギー源によって生産された電力を一定の価格で全量買い取ることを送電事業者に義務付け
た制度。feed-in tariff(FIT)システムとも呼ばれる。
100€c=1€
ランキンサイクル:蒸気エンジンの標準循環過程の1つ。断熱変化二つと等圧変化二つからなる。Clausius
Cycle ともいう。
38
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
2009 年 4 月 29 日に、ドイツ政府はバイオマスのための国家行動計画(Nationaler
Biomassaktionsplan für Deutschland)を発表した。これは、さまざまなバイオエネルギ
ーを効率的かつ持続的に開発するための戦略と、この目的を達するのに必要な行動を緻密
に計画したものである。この計画は、ドイツの一次エネルギー需要におけるバイオエネル
ギーの比率を大幅に高めること(全ての機器、熱、電気、およびバイオ燃料)を目的にし
ており、2020 年の消費を 1,309PJ 注9(31.3Mtoe)にするという目標を設定した。
1.4.2
野心を見せるフランス
フランスは、CEREN(Centre d’ études et de recherches economiques sur l’ énerugie:
エネルギーに関する経済研究調査センター)による国内部門における木質エネルギー消費
に関する新調査の結果、固形バイオマス由来一次エネルギー生産量の数字を下方修正した。
最新のDGEC(direction générale de l’ énergie et du climat:エネルギーおよび気候総局)
の最新の公式統計によれば、2008年の一次エネルギー消費は約9Mtoeであった(フランス
海外県の122ktoeを含む)。これは、2007年対比で4.9%の増加で、この生産のほとんどは
住宅暖房部門の増加によるものである(2008年は6.4Mtoe)
。
他の主要な固形バイオマス生産国と比べると、フランスの発電は十分に開発されている
とはいえない(2008年は1.7TWhで、EUで13番目)
。これは、2002年に設定された固定価
格買取制度が比較的魅力に欠けることが主な原因である(4.9€c/kWhプラス0~1.2€c/kWh
のエネルギー効率プレミアム)
。これまでに、政府は提案募集により複数年の投資プログラ
ムの目標を達成することを選択した。2003年に初めて行われた提案募集の結果、設置容量
216MWeにのぼる14のバイオマスプロジェクト(および16MWeのバイオガス工場)が選
ばれた。2006年末に行われた第2回目の提案募集の結果、設置容量314.4MWeにのぼる22
のバイオマスプロジェクトが選ばれた(平均固定買取価格は12.8€c/kWh)。第3回目の提
案募集は、現在進行中である。対象となるのは、総電力容量が250MWe になる2つのプロ
ジェクトである。応札締切日(2009年7月15日)の時点で、総電力容量が936MWe になる
106の応札があった。
2009年5月にサルコジ大統領がより魅力的な固定買取価格制度の導入を発表したため
(現行の価格の2~3倍)、間もなく提案募集システムは必要なくなるとみられる。政府は、
環境グルネル注10の討議結果を踏まえ、集合住宅、サービス部門および産業における木材や
他の再生可能エネルギー分野を開発するため、再生可能エネルギー熱基金を創設し、バイ
オマス熱問題にも取り組んでいる。2020年までに熱消費量を2006年対比で6.2Mtoe増加さ
注9
注10
PJ:ペタジュール(1015 ジュール)
。
環境グルネル(環境グルネル懇談会)は、フランスにおける多くの関係者が参加する公開討論で、中央政
府、地方政府および組織(産業、労働者、専門家協会、およびNGO)の代表が集結し、特定のテーマにつ
いて立場を統一することを目的とする。2007 年の夏、ニコラ・サルコジ大統領によって提案された環境グ
ルネル円卓会議の目的は、今後5 年の、環境に優しく、かつ持続可能な開発問題についての公共政策の重
点を明示することである。
39
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
せることを目標にしている(集合
住宅/サービス部門:1.8Mtoe、産
業部門:2Mtoe、コジェネ:2.4Mtoe
で 、 こ の結果 合 計 熱消費 量 は 15
Besançon(フランス)
の薪型ボイラー工場(容
量 6MWth)
Mtoeとなる)。熱基金には、2009
~2011年期の予算として10億ユー
ロが拠出された。2011年末までに
工業施設、農業施設用にバイオマ
スから10万toeを生産する施設の
運転を始めるという目標を達成す
るために、Ademe(環境・エネル
ギー管理庁)は2008年末に第1回目
の提案募集を行った。10月19日に
公表された提案募集結果によれば、
目標を上回る31プロジェクト(総
生産量145,000toe)が選ばれた。
同庁は、この提案募集を支援する
目的で6,060万ユーロを助成する
予定である。これは、計画されて
いる投資費用1億4,820万ユーロの
41%に相当する。こうした助成は、
少なくとも3年間は毎年行われる
計画である。
フランス市場の薪燃焼型屋内暖房機器部門は、2008年に493,100ユニットを販売し(バ
ーナー、ボイラー、密閉燃焼、インサート注11、調理器具)、税還付方式が非常に有効であ
ったことが証明された。434,856ユニットを販売した2007年に比べて13%の増加である。
2008年に50%であった税還付は、2009年に40%に引き下げられた。再生可能な熱の開発
を推進するとみられるフランス政府の別の政策は、炭素税の導入である。炭素税は2010年
1月1日に発効し、化石エネルギーごとにCO2の含有量に応じて適用される。当初は、CO2
の量1トンにつき17ユーロが設定される予定である。
1.4.3
木質エネルギー大国のフィンランド
スカンジナビアにおける問題は、その他の地域の問題とは異なる。なぜなら、スカンジ
ナビア諸国は、固形バイオマスの潜在能力をエネルギーに転換するための多数の政策をす
でに実施しているからである。
注11
コンクリート打設時に埋め込んで天井吊りボルトなどを後から取り付けられるようにする金物のこと。
(出
典:建築用語.net(http://www.architectjiten.net/ag04/ag04_049.html))
40
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
フィンランドの 1 人当たりの生産量は 1.348toe で、フランスの 0.140toe/人、ドイツの
0.125toe/人と比べて、固形バイオマスの使用という点で他の国をはるかに凌駕している
(表 4)。バイオマスは、同国のエネルギー消費の約 30%、発電量の 20%を占めている。
フィンランドは、すでに最先端のバイオマス変換技術を持っている(森林資源の管理のた
めの技術および大規模コジェネ工場建設技術の双方)
。
同国では、使用される各種バイオマス燃料に対する非常に正確な分類システムを適用し
ている。黒液は、固形バイオマス由来一次エネルギー生産のほぼ半分を占めている(2008
年の総生産 7.1Mtoe のうち 3.4Mtoe が黒液)
。木材および類似の廃棄物は 1.9Mtoe と見積
もられており、1.8Mtoe の薪より若干多い。他の動植物からの排泄物は、フィンランドで
はごくわずかで、0.02Mtoe(正確には 18,773toe)となっている。一次エネルギー生産に
おける若干の減少(1.3%)は、パルプ製造活動の停滞によるもので、2007 年~2008 年に
かけて黒液の生産量が 222,000toe 減少した。しかしこの縮小は発電量には影響せず、2008
年の発電量は 10.2TWh(2007 年対比で 5.9%増)であった。コジェネ工場が、このうちの
84.1%を生み出した。
表4
EU の 1 人当たりの固形バイオマス由来一次エネルギー生産量(toe):2008 年*
toe/人
国名
toe/人
フィンランド
1.348
ハンガリー
0.119
スウェーデン
0.904
ブルガリア
0.098
ラトビア
0.646
スロバキア
0.097
エストニア
0.559
スペイン
0.096
オーストリア
0.473
ギリシャ
0.078
ポルトガル
0.262
ベルギー
0.061
デンマーク
0.254
オランダ
0.054
スロベニア
0.233
アイルランド
0.037
リトアニア
0.227
ルクセンブルク
0.033
チェコ共和国
0.189
イタリア
0.032
ルーマニア
0.158
英国
0.016
フランス**
0.140
キプロス
0.014
ドイツ
0.125
マルタ
0.006
国名
ポーランド
推計
*
0.124
EU27
フランスの海外県を含む
**
41
0.138
出典:EurObserv’ER 2009
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
Alholmens Kraft(フィンランド)は、
世界最大のバイオマス発電所である。
こ こ で は 電 気 ( 265MWe )、 蒸 気
(100MWth)、熱(60 MWth)が都
市地域の暖房用に生産されている。
フィンランドは、化石燃料税を導入することにより、1990 年以来バイオマスエネルギー
の開発を推進してきた。この税は 2008 年に大幅に引き上げられ(13%)
、CO2 の量 1 トン
につき 20.41 ユーロが課された(炭素 1 トンにつき 75 ユーロに匹敵)
。2009 年もこの水
準で維持された。1996 年以降、発電のために使用される化石燃料はこの税の対象外である。
ただし、全ての電力生産源(再生可能エネルギー源を含む)に課される電力特定税に衣替
えになった。この課税は、電力供給者に課せられ最終消費者に転嫁される。産業に対する
課税額(0.25€c/kWh)は、最終消費者に対する課税額より少ない(0.87€c/kWh)。再生
可能エネルギー源からの電力供給者は、使用したエネルギー源(風力、水力、リサイクル
された燃料、バイオガス、木質チップ)に応じて税金の払い戻しを受ける。2007 年以降、
木材と黒液は税金の払い戻しの対象外であるが、木質チップ由来の電力だけが 2009 年も
払い戻しの対象になっている(払い戻しの額は 0.69€c/kWh と不変)
。この額は、風力と
同じである。フィンランド政府は、2008 年 11 月に「気候およびエネルギーに関する長期
戦略」を承認した。これは、EU の再生可能エネルギー指令で設定された目標(最終総エ
ネルギー消費に対する再生可能エネルギーの比率を 38%にする)の実現を可能にする一連
の政策を計画している。この計画によれば、木製チップの生産量を現行の 2 倍または 3 倍
にすることにより、バイオマスエネルギーの使用が大幅に増加するとみられる。
1.4.4
目標を達成できなかったスウェーデン
スウェーデン政府の統計機関であるスウェーデン統計局によれば、2008 年の固形バイオ
42
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
マス由来一次エネルギーの生産量は若干減少し(1.6%)
、8.3Mtoe であった。この生産量
の半分は木材および類似の廃棄物からのものであり(4.1Mtoe)、黒液(3.2Mtoe)、薪
(0.9Mtoe)と続く。隣国のフィンランドと同様に、この減少の理由は、2007 年~2008
年にかけてのパルプ製造活動の縮小に伴う黒液の生産量の減少(209,635toe 減少)に求め
られる。スウェーデンはまた、二酸化炭素税を課すことにより再生可能な熱の生産を間接
的に支援している。二酸化炭素税が 1991 年に導入された時には CO2 の量 1 トンにつき 27
ユーロであったが、現在では 108 ユーロである。
スウェーデンでは、再生可能電力を開発するためにグリーン証書注12システムを実施して
おり、2016 年の目標発電量を 2002 年の数値より 17TWh 多く設定した。しかし、発電事
業者は 2007 年以前には証書割り当て数量を達成することができなかった。そこで 2008
年に、[グリーン証書を導入した]法律を改正して 2002 年対比でプラス 10.3TWh に目標を
設定し直したが、実績はプラス 8.54TWh であった。この未達の原因は、一つには木材産
業が一時的に停滞に陥ったため、社内のコジェネ工場で燃料として使用する廃棄物の生産
量が減少したためであり、もう一つは新生産工場の建設着工が遅れたことである。発電量
が 2007 年の割り当てより低いレベルにあるため、この状況は懸念材料となっている。未
達の発電事業者に対する罰金は、未達分 1 証書につき、2007 年の SEK 注13318(31.13 ユ
ーロ)から 2008 年には SEK431(42.19 ユーロ)に設定された。この罰金は、4 月 1 日~
翌年 3 月 31 日の証書の平均コストの 150%になっている。300~350 SEK(29.34~34.26
ユーロ)という年初以来の証書のコスト高は、新規生産工場の建設着手を促進する効果が
あるとみられる。
2.
バイオマス熱産業:ストーブから高容量コジェネ工場へ
欧州のバイオ熱産業は、住宅サービス市場、商業用建物市場、および産業向け市場など
高度に多様化している。従って、ボイラーメーカーは数 kW から数十 MW まで非常に広範
な容量のサービスを提供している。木材産業あるいは製紙産業むけのコジェネ工場を建設
する際には、それ以上の容量になることもある。
欧州には多数の屋内用暖房機器メーカー(木材バーナー注14、密閉燃焼、インサート、ボ
イラーなど)が存在する。市場はかなり成熟しており、極めて構造化が進んでいる。また、
ほとんどの EU 加盟国で個人住宅での木材燃焼型暖房が普及している。過去数年、同部門
は中央政府や地方政府が導入した多数の奨励制度から恩恵を受けている。これらの政府部
注12
再生可能エネルギー源によって発電を行う業者に与えられる証書。
SEK はスウェーデンの通貨、スウェーデン・クローナのこと。
注14
木質ペレットを燃料とするストーブのこと。木質ペレットは丸太、樹皮、枝葉など木質バイオマスを原料
につくられ、特に、木材工場から排出する樹皮、おが粉、端材などの残・廃材が有効活用される。これら
の原料を細かい顆粒状まで砕き、それを圧縮して棒状に固めて成形したものがペレットで、大きさは長さ
1~2センチ、直径6~12ミリのものが主流。(出典:日本木質ペレット協会ホームページ
(http://www.mokushin.com/jpa/pellet_01.html))
注13
43
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
門は、家庭が木材燃焼型暖房に切り替えるだけでなく、消費者を誘導して既存の暖房機器
をエネルギー効率のより高い暖房機器に買い換えさせることを目的としている。奨励制度
により、より革新的なメーカー(木材バーナーやペレット燃焼型ボイラーのメーカーを含
む)は事業を拡大できるようになり、こうしたメーカー(主にオーストリアやドイツのメ
ーカー)の成功によって、この種の暖房機器を販売する他国(イタリア、スウェーデン、
フランス、チェコ共和国)のブランドも広がった。
ペ レ ッ ト 暖 房 機 器 に 特 化 し た 企 業 に は 、 オ ー ス ト リ ア の メ ー カ ー Ökofen
Pelletsheizungen 社(表 5)が含まれる。同社は、2~224kW までの製品を 13 ヵ国で販
売しており、1997 年以来 27,000 ユニットの販売実績がある。また、フランス、イタリア、
ドイツに子会社を持ち、製品の約 80%を輸出している。Ökofen 社にとって 2008 年は非
常に良い年で、7,000 ユニット以上(3,900 万ユーロに相当)以上を売上げた。同社は、
海外での事業拡大のため暖房機器設置業者のトレーニングに力を入れている。これは、木
質ペレットについて説明し、設置業者を激励し、高品質設備部門を開発し、マスコミから
の悪評を回避するための投資なのである。他の多くの企業も、家庭向けあるいは中小企業
向けのボイラー製造(数 kW から数百 kW)に特化しつつあり、2008 年に売上げを増加さ
せた。一例として、ETA Heiztechnik 社が挙げられる。同社の 2008 年の売上げは、2007
年の 2,300 万ユーロからほぼ 3 倍の 6,500 万ユーロになった。
ほかには KWB 社があるが、
2009 年の売上げを 2008 年対比で 1,000 万ユーロ増の 6,500 万ユーロと見込んでいる。
表 5 欧州の主要バイオマスボイラーメーカー(2008 年)
企業名
国名
Ökofen
オ ー ス ト 家庭・小企業用ボイラ
Heiztechnik
リア
HDG Bavaria
ドイツ
ETA Heiztechnik
ー・バーナー
家庭・小企業用ボイラ
ー・バーナー
オ ー ス ト 家庭・小企業用ボイラ
リア
ー・バーナー
オ ー ス ト 家庭・小企業用
KWB
リア
Compte-R
フランス
Weiss France
フランス
MW Power Oy
*百万€
製品の種類
フィンラ
ボイラー・バーナー
自治体・産業用
ボイラー・バーナー
ターンキー * * 熱プラ
ント・ボイラー
売上高*
従業員数
2-224kWth
39
300
4.5-380kWth
32
200
7.7-200kWth
65
120
10-300kWth
55
190
22.3
80
15
65
出力幅
250-8,000kWth
500kWth 45MWth
3-10MWe
130
200
ンド
3-25MWth
**
ややこしい初期設定が不要なこと(システムを導入して一発で動く)
。
出典:EurObserv’ER 2009
コジェネ発電所
44
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
Ökofen 社のペレット燃
焼型ボイラー製造ライン
バイオマスのコジェネ市場および集合住宅用、産業用ボイラー設備部門の開発も、中容
量および高容量のバイオマスボイラー部門の成長を促進している。
バイオマスのコジェネは、主として森林産業および木材処理産業(製材所、紙パルプ産
業、パーティクルボード注15メーカー)に依存している。コジェネにより、こうした産業は
木質廃棄物を有効利用することができるようになる。奨励制度(固定買取価格制度、入札、
グリーン証書、設置補助)を通じて再生可能電力の生産を促進するという中央政府や地方
政府の意欲は、顧客基盤を他部門にも多様化させた。特に特殊なタイプのバイオ廃棄物(わ
ら、穀類産業の残渣、各種食品処理副産物および残渣など)の転換を図っている農業食品
(agrifood)および農業部門がそうした分野である。
もう一つの消費者開拓方法としては、地方自治体ネットワークおよびエネルギーサービ
ス企業といった形態がある。後者は、スカンジナビア諸国の行動を見習ったもので、地域
暖房ネットワークへの燃料供給用にバイオマスコジェネボイラー工場に対する投資を次第
に増やしている。
独自のバイオマス資源をもたない純粋な暖房設備企業が、市場に流入してきている。こ
うした企業の目的は、単に熱の生産コストの価格優位性を利用することであり、また、CO2
割り当てや炭素税の対象になった際に経済的理由および環境上の理由から CO2 の排出を
注15
木材その他の植物繊維質の小片(パーティクル)に合成樹脂接着剤を塗布し、一定の面積と厚さに熱圧成形
してできた板状製品。この種のボードには種々の名称があり、わが国では削片板と称されることもあるが、
JIS A5908 ではパーティクルボードという名称に統一している。
(出典:
(財)日本木材総合情報センター
「木 net」(http://www.jawic.or.jp/tech/syurui/syurui4.php))
45
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
削減することである。
中容量および高容
量のボイラー市場の
発展は、フランスで
特に顕著である。同
国では、フランス企
業の Weiss 社およ
び Compte R 社が、
コジェネを開発する
た め に Ademe や
CRE(フランスエネ
ルギー規制委員会)
が実施した熱基金の
入札を活用した。こ
れらの企業はまた、消費者に対する付加価値税の税率を 19.6%から 5.5%へ削減すること
で暖房ネットワークにバイオマス施設を導入しようという地域当局の要請を利用した。
2008 年に Weiss France 社は 20 のターンキー注16ボイラー工場(総容量 81.3MWth)を引
き渡した。このうちの 80%は暖房ネットワークに接続され、残りの 20%は企業から直接
注文されたものであった。
Weiss 社の 2008 年の売上げは 1,500 万ユーロ
(2007 年対比 23%
増)で、2010 年には節目の数字である 2,000 万ユーロを超えるとみられる。
Compte R 社も、2008 年に 70 の設備を設置し、際だった活動を展開した。同社の 2008
年の売上げは、2007 年の 1,700 万ユーロから 2,230 万ユーロへと 30%増加した。2009 年
の売上げは 2,600 万ユーロへさらに増加すると見込んでいる。同社によれば、ボイラーの
高容量化が市場のトレンドになっているとのことである。
スカンジナビアの企業は、バイオマスコジェネ市場で良い位置につけている。フィンラ
ンドのメーカー、Wärtsila 社と Metso 社の参入はトップ記事になった。両社は 2008 年 9
月に、Metso 社の熱電部門と Wärtsila 社のバイオパワー事業を合弁した MW Power Oy
社の設立を発表した。今やこのジョイントベンチャーは、中小バイオマスコジェネ設備市
場、および中容量バイオマスボイラー設備市場における欧州最大の企業の一つである。MW
Power Oy 社は、2008 年に 200 名を雇用し、およそ 1 億 3,000 万ユーロを売り上げた。
3.
2010 年に消費は 75 Mtoe を超える見通し
欧州に打撃を与えた金融経済危機は、将来の固形バイオマスエネルギーを減速させた。
注16
完成品としてすぐに利用可能という意味合いで使われる言葉。
46
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
スカンジナビア諸国では、固形バイオマス燃料の大半がこの危機の影響を受けて縮小した
林業の活動により生み出されるため、さらに大きな打撃を受けた。とはいうものの、現在
ほとんどの EU 加盟国は、このエネルギーを将来的により普及させようとしている。具体
的な政治的約束により、同部門関連の産業活動はすでに非常に活発になっている。
欧州諸国の政府がこのエネルギーに関心を示すのは、電力および暖房用途の双方で急速
に成長する可能性があるためである。再生可能エネルギー新指令(2009/28/EC)で設定さ
れた目標を達成しようとすれば、固形バイオマスエネルギー部門の開発が決定的に重要に
なる。
新司令の目標を達成するために、各国政府は重大な課題に対処しなければならない。す
なわち、固形バイオマス燃料の化石燃料に対する価格競争力を確実に維持しなければなら
ない。デンマークとスウェーデンでは 1990 年代初頭から導入され、今ではフランスでも
導入された炭素税は効果が証明されており、解決策の一部と考えられる。欧州諸国は、固
形バイオマス燃料の供給を確実に増加させるだけでなく、確保する必要がある。これに伴
って、スカンジナビア諸国の充実し
た例に学んで供給ネットワークを確
立し、残存木や木質廃棄物の転換を
促進し、短期生育木などエネルギー
穀物を大規模に開発する必要がある
(囲み記事 2)。固形バイオマスの収
穫が、EU の約束の達成にとって重
要な要因になるとみられる。なぜな
ら、非常に大きな可能性を秘めてい
Böblingen の バ イ オ
マス発電所の敷地に、
毎年約 2 万トンのフ
ァインウッドの削り
くずが埋められる。
るものの、廃棄物資源の再利用だけ
では十分ではないからである。これ
らの新たな活動にも、地域での雇用
を創設し富をもたらすといった大き
な利点がある。
全てのバイオエネルギー(固形バ
イオマス、液体バイオマス、バイオ
ガス、再生可能な都市廃棄物)を利
用して 149Mtoe を消費する(2010
年 末 ま で に 、 電 力 55Mtoe 、 熱
75Mtoe、運輸部門 19Mtoe)という
2005 年欧州行動計画に記載された
バイオマスの目標は、長期にわたり
47
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
達成できなかった。この目標に対する固形バイオマスの貢献は 2010 年に 75Mtoe を超え
るとみられる。これには、EU 域外からの 1.6Mtoe の純輸入分が含まれる(図 3)。このギ
ャップを後退と考えるべきではない。この部門は 2010 年から欧州全域で普及し始め、2010
年代末を迎えるよりはるか前に節目の数字である 100Mtoe を超えると期待されているの
である。
合計:固形バイオマス由来一次エネルギー消費量
固形バイオマス由来一次エネルギー生産量
固形バイオマスの純輸入
バイオマス行動計画:
固形バイオマス+液体バイオマス+バイオガス+
再生可能な都市廃棄物
傾向
バイオマス
行動計画
図 3 欧州「バイオマス行動計画」の目標に対する固形バイオマスの寄与
度(Mtoe)
出典:EurObserv’ER 2009
注意:バイオマス行動計画は、一次エネルギー消費量の目標を設定して
いる。EurObserv’ER は、この目標値に対する固形バイオマスの寄
与度を評価するために、EU 域外からの固形バイオマスの純輸入量
の推定値を自己が算出した一次エネルギー生産量の推定値に追加
した。
48
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
囲み記事 2:短期生育木の将来の可能性
2009 年初めに採択された欧州再生可能エネルギー新指令(2009/28/EC)は、バイオ
マスの投入量を欧州全域で確実に 100 Mtoe 以上追加的に増やすよう要請した。森林資
源(木材および樹木の副産物)、農業および食品加工産業からの廃棄物の利用は、現在
目標値を達成していない。バイオ燃料の生産はすでに農業に依存しているが、農業は熱
および電気の生産にも参加するよう義務づけられる予定である。このためには、エネル
ギーに富んだある種の植物の栽培が欧州中で普及しなければならない。こうした植物の
例としては、短期生育木(ヤナギ、ポプラなど)やミスカンザスのような植物がある。
こうした植物は、食料用でもある通常のエネルギー穀物(菜種、ビートの根、穀草類な
ど)より 1 ヘクタール当たりのエネルギー生産量がずっと多い。実際には、短期生育木
の作付けは珍しく、いくつかの先駆的な国での栽培に限られている。たとえば、スウェ
ーデンでは 2010 年に栽培面積を 3 万ヘクタールに拡大する計画があり、イタリアでは
すでに 6,000 ヘクタール、ドイツでは 2,000 ヘクタール、オーストリアでは 1,000 ヘク
タールで栽培されている。農民は自己の農地でこうした植物を栽培して最初の収穫まで
少なくとも 4 年待たなければならないため、短期生育木の開発を促進するという政治的
決断が直ちに下される必要がある。今日そのような決定が下されても、バイオマスエネ
ルギーの成長に寄与するのは 5 年先のことになるのである。
出典:DGEC(フランス)
、ZSW(ドイツ)
、Statistics Sweden、Statistics Finland、Central Statistical
Office(ポーランド)、IDAE(スペイン)
、Statistics Austria、DGGE(ポルトガル)、ENEA
(イタリア)
、Ministry of Industry and Trade(チェコ共和国)
、Central Statistical Bureau
of Latvia、ENS(デンマーク)
、CRES(ギリシャ)
、DECC(英国)
、Statistics Lithuania、
ICEDD(ブリュッセルおよびワロン地方)
、Flemish Energy Agency、Statistics Netherlands、
Statistical office of the Slovak Republic、Statistical office of Slovenia、SEI(アイルランド
共和国)、STATEC(ルクセンブルク)
、Malta Resources Authority、国際エネルギー機関
49
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
翻訳:NEDO(担当
総務企画部
吉野
晴美)
出典:Solid Biomass Barometer
(http://www.eurobserv-er.org/pdf/baro194.pdf)
フランスの Observ’ER(Observatoire des énergies renouvelables:再生可能エネルギ
ー観測所) が作成した刊行物を許可の基に翻訳・掲載した。この刊行物は「EurObserv’ER
プロジェクト」の成果であり、その詳細は下記のとおりである。
This barometer was prepared by Observ’ER in the scope of the “EurObserv’ER” Project
which groups together Observ’ER (FR), ECN (NL), Eclareon (DE), Institute for Renewable
Energy (EC BREC I.E.O, PL), Jozef Stefan Institute (SL), with the financial support of
Ademe and DG Tren (“Intelligent Energy-Europe” programme), and published by Systèmes
Solaires, Le Journal des Énergies Renouvelables. The sole responsibility for the content of
this publication lies with the authors. It does not represent the opinion of the European
Communities. The European Commission is not responsible for any use that may be made
of the information contained therein.
50
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
2008 年*の固形バイオマス由来一次エネルギー生産量
固形バイオマス由来一次エネルギ
ー生産量(Mtoe)
*
推計
固形バイオマス由来総発電量
(TWh)
**
フランス海外県を含む
出典:EurObserv’ER 2009
51
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
本記事関連の NEDO 成果報告書
本記事で扱っているテーマに関連した最近の NEDO 成果報告書を以下に示します。
成果報告書を閲覧する場合は、NEDO ホームページから利用登録をしてから管理番号欄に
管理番号を入力し、検索してください。
http://www.nedo.go.jp/database/index.html
1) 平成 19 年度中間年報
新エネルギー技術フィールドテスト事業
用フィールドテスト事業
地域バイオマス熱利
木屑燃焼熱利用木材乾燥事業
管理番号 100012565
2) 平成 17 年度~平成 18 年度成果報告書
バイオマス先導技術研究開発
バイオマスエネルギー高効率転換技術開発
選択的白色腐朽菌-マイクロ波ソルボシリスによる木
材酸素糖化前処理法の研究開発
管理番号 100010995
52
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
【個別特集】省エネ技術
DOE 「Save Energy Now State Partnership」年次レポート(3/3)
[内容]
手法、出版物と可能なリソース(資金・人材)
A. 「Save Energy Now」 プログラムの政策手段と出版物
B. 関連する IPT のリソース
参加の方法と連絡先
A. 参加の方法
B. 詳細情報の取得場所
C. 2009 会計年度のニュース・情報
D. 連絡先
(1057 号掲載)
エグゼクティブ・サマリー
序論
A. 米国の産業
B. 産業技術開発プログラム
C. 提携による開発とその展開
(1058 号掲載)
「Save Energy Now」州と公益事業体との連携
A. 連携の概説:目標と課題
B. 成果
B.1. 連携関係の構築
B.2. 新たな支援材料
B.3 . 新規助成対象プロジェクト
手法、出版物と可能なリソース(資金・人材)
A. 「Save Energy Now」 プログラムの政策手段と出版物
Save Energy Now State and Utility Partnership(Save Energy Now 州と公益事業体との
連携)プログラムは、州と公益事業体注1の利害関係者が産業界の省エネ対策の確認、実施
に関与することを促進しようとするものである。そのために、Save Energy Now は、州と
公益事業体が産業界によるエネルギー効率の取り組みを支援する際に利用できる数々のツ
注1
utility の訳語で、電気、ガス、水道などの公共設備、公益事業のこと。
53
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
ールとリソース注2を開発した。これらのリソースやツールのうちのいくつかについては、
項を設けて後述する。Save Energy Now State Partnership プログラムのリソースとツー
ルに関する詳細は、ウェブサイト注3を参照されたい。このサイトには、Save Energy Now
State Partnership プログラムのリソースに関する詳細が掲載されているだけではなく、
産業技術プログラム(Industry Technologies Program: ITP)がさまざまなプログラムを
通じて獲得した膨大な数の情報、ツール、出版物およびリソースにリンクしている。
Save Energy Now State Partnership プログラムの最も重要な側面の一つは、産業界の
エネルギー効率向上を支援する意志とリソースを持つ組織(事業体)と製造業者自身との
関係を推進することにある。こうした連携関係を促進するために Save Energy Now が提
供するサービスには、エネルギー評価の支援だけでなく、トレーニングやブランド提携の
機会が含まれる。
A.1.工場評価支援
Save Energy Now State Partnership は、工場操業のエネルギー評価を優先項目に
した。同プログラムは、2009 年 11 月までに 96 の工場のエネルギー評価を完了する
予定になっている。また、評価を実施し、効率化のための勧告を行うためのトレーニ
ングを受けた有資格のエネルギー専門家のネットワークを構築した。
A.2. ITP のブランド提携
ITP は、エネルギー効率および再生可能エネルギー技術の技術的、経済的側面に関
する膨大な量の文献を発表している。また、州や公益事業体がこれらの出版物を複製、
配布する際に、州や公益事業体のロゴを入れられるようにしている。
A.3. トレーニング
Save Energy Now State Partnership プログラムは、製造業者が地元でトレーニン
グに参加したり、トレーニングを開催したりできるよう支援している。
エネルギー効率プロジェクトは、時として資金不足という制約を受ける。同プログラム
は、組織がどのような財政支援を受けられるか確認し、活用するのを支援するためのリソ
ースを提供する。
A.4. 財政支援
ITP は、Save Energy Now State Partnership プログラムのウェブサイトを通じて、
エネルギー効率対策を実施しようとする製造業者が利用できる、全ての奨励制度に関
注2
注3
任務を達成するのに必要な、人的・物的資源や手段を含む概念を意味する。
http://www1.eere.energy.gov/industry/states/partnership_resources.html
54
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
する包括的なデータベースを運営している。このデータベースは、財政的、技術的リ
ソースを確認するのに非常に価値がある。ITP はまた、エネルギー効率プロジェクト
に対して資金を提供する目的で、州を対象に提案の公募を行う。
ITP は、州、エネルギー省(Department of Energy: DOE)の他の機関、連邦機関との
連 携 関 係 を 活 用 し て 、 包 括 的 か つ 前 向 き な エ ネ ル ギ ー 行 動 計 画 を 作 成 し 、 MOU
(memorandum of understanding: 覚書)を締結してきた。これらの文書は、産業界のエ
ネルギー効率を将来確実に向上させるリソース、協働事業、方法を綿密に規定している。
その例を以下に示す。
A.5. 2025 年までのエネルギー効率構想のための国家行動計画:変化のための枠組み
DOE の配電・エネルギー信頼性局が環境保護庁(EPA)と協力して作成した。
A.6. エネルギー技術問題の解決策:官民連携による産業構造転換
今後 3 年以内に商業化されるエネルギー効率技術を開発する。
A.7. MOU
ITP は、
州や他の機関との MOU に署名して、
産業界の利害関係者に対する技術的、
財政的リソースの提供をより良いものにする。
A.8. Save Energy Now LEADER プログラム
ITP に参加する産業界、公益事業体、州、非営利団体の提携先は、10 年でエネルギ
ー強度注4を 25%削減するという Save Energy Now プログラムの取り組みを支援する
ために、自主的な協定に参加することができる。この協定に参加した団体は、Save
Energy Now LEADER
になることで高い認知度とそれまで以上の利益を受ける。
Save Energy Now プログラムはまた、省エネに取り組む公益事業体に対してツール、リ
ソース、出版物を提供する。エネルギー効率に関連した広範なトピックに関するケースス
タディ、ソースブック(sourcebook:原典)、情報誌(tip sheet)、技術ファクトシート、
および市場評価といった出版物が利用できる。Save Energy Now プログラムの公益事業体
向けの出版物に関する詳細は、ウェブサイト注5から参照できる。
A.9. 情報誌(tip sheet)
簡潔にまとめられた 2 ページものの冊子に、エンジニア、技術者、施設のオペレー
注4
注5
GDP単位当たり、あるいは生産量1 単位当たりのエネルギー消費量。
Utility Partnerships Tools and Resources
(http://www1.eere.energy.gov/industry/utilities/tools_and_resources.html)
55
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
ター(運転要員)向けに、エネルギー効率を改善する多くの実用的な問題の解決(電
圧不平衡の除去や、圧縮空気漏れの削減など)に関する技術的アドバイスが書かれて
いる。
A.10. 技術ファクトシートとハンドブック
技術ファクトシートとハンドブックは、圧縮空気、モーター、ポンプ、換気システ
ムに関わる技術専門家を支援するために作成された。こうしたマニュアルやファクト
シートには、システムの効率を向上させるための詳細な技術的「ハウツー(how-to)」
やベストプラクティスが掲載されている。
A.11. ソースブック(sourcebook:原典)
ソースブックは技術ファクトシートに類似したものである。これらは、産業界と公
益事業体に産業のシステム(圧縮空気、モーター、換気システムなど)に関する詳細
な情報を提供する。また、システムの構成要素(system components)についての詳
細な概説、施設に必要なものの分析、運用を最適化するための技術的アドバイス、エ
ネルギー効率の実施や生産性向上のための支援が掲載されている。
A.12. 市場評価
市場評価はエネルギー効率の取り組みに対する知見を与え、産業界の広範な製品、
システム、サービスが評価対象となる。こうした包括的な評価は、市場の現状、効率
的なシステムに対する消費者の認識や要望、効率的な設備やシステムの構成要素を市
場へさらに浸透させる方法について詳述している。
A.13. ケーススタディ
ITP のケーススタディには、現実のエネルギー効率実施談が掲載されており、産業
界をより効率的にする利点、課題、機会が詳述されている。これらは、効率化に取り
組む企業の例を紹介し、エネルギー効率プロジェクトを成功させるための青写真を提
供し、ITP や地域の公益事業体
と提携関係に入ることの利益を
確認するうえで重要であると公
益事業体や産業界により認定さ
れたものである。
Save
Energy
Now
State
Partnership プログラムが提供する
リソースやツールの他に、ITP はソ
フトウェアプログラム、各種ベスト
プラクティスが掲載された出版物や
56
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
ケーススタディの事例集といったツールやリソースを提供する。これらの資産は ITP の
Save Energy Now ウェブサイト注6から入手できる。
B. 関連する IPT のリソース
州や公益事業体との直接的な連携のほかに、ITP は米国中の多数の地域や州で技術の普
及、研究の実施、教育職の新設に努めた。
クリーンエネルギー活用センター:クリーンエネルギー活用センターは、既存の地域コジ
ェネ活用センターに取って代わるもので、その活動をコジェネに限らず、地域エネルギー
システム、廃熱利用、他のクリーンエネルギーシステムにまで拡大するものである。こう
したセンターは、産業が直面するエネルギー問題への解決策として代替クリーンエネルギ
ーシステムを利用できるようにする。センターは複数の州からなる 8 つの地域に設置され
る。
産業査定センター:産業査定センターは、資格のある中小の製造業者に無料でエネルギー
評価を行い、次世代の産業エンジニアを訓練する。同センターは、23 の州に散在する 26
の大学に設置されている。
参加の方法と連絡先
A. 参加の方法
ITP の Save Energy Now State Partnership プログラムは、費用分担型の資金提供や協
力関係を築く機会を提供することにより、地方の産業効率支援活動を支えている。
同プログラムは、州向けに以下のリソースを提供する。
・工場評価支援:工場の効率向上のための最初のステップの一つは、エネルギー評価を実
施して、アップグレードが必要な設備やプロセスを特定し、達成可能な省エネとコス
ト削減を数値化することである。ITP は、大規模および中規模工場の評価を実施する
ための準備を行った。また、資格を持つ米国中の専門家を訓練して、評価を実施し、
効率のための勧告を行えるようにする。地域の評価支援については、後述の「連絡先」
の項を参照されたい。
・ブランド提携:ITP は、各種の技術出版物およびベストプラクティスが掲載された出版
物を提供しているが、これには州の機関のロゴをつけて複製し配布することができる。
ブランド提携に興味のある州は ITP にアクセスできる(後述の「連絡先」参照)
。
・トレーニング:ITP が開催するトレーニングに参加したい州、または自らの州でトレー
ニングセッションを行いたい州、追加的トレーニングリソースを検索したい州は、ウ
注6
http://www1.eere.energy.gov/industry/saveenergynow/
57
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
ェブサイト注7から参照できる。
・財政支援と奨励制度の活用:ITP の State Incentives and Resource Database(州レベルの奨励制
度とリソースに関するデータベース)で、州別の利用可能な奨励制度を検索、確認する。→ウ
ェブサイト注8
・資金の申請:助成金を申請し、産業界エネルギー効率の提案にすでに資金提供されてい
る州レベルの助成を確認すること。
・進行中の提案公募:ウェブサイト注9
・現行の資金提供プロジェクト:ウェブサイト注10
・State and Utility Partnership プログラムの計画:連邦および公益事業体の行動計画お
よび産業エネルギー効率のための新興技術の詳細を知ることができる。
①「Utilities Working with Industry (産業界と協働する公益事業体)
:行動計画」注
11および
ITP の Utility Partnerships プログラム
②今後 3 年で商業化が期待できる技術についての詳細→「Energy Technology
Solutions: Public-Private Partnerships Transforming Industry」注12
・MOU:ITP は州や他の機関との MOU に署名して、産業界の利害関係者との協力関係
を強化し、彼らにエネルギー効率の機会をもたらすリソースを活用する(後述の「連
。
絡先」の項を参照)
・地域の産業効率サミット:ITP は、産業界、公益事業体、州、地域機関に実施要請を行
い、エネルギー強度を軽減し炭素排出を削減するエネルギー効率戦略および技術を実
施するために、彼らと協力してリソースを活用する。
①南東部産業エネルギー効率サミット注13および北西部産業エネルギー効率サミット注
14
②将来の産業エネルギー効率に関する情報交換会への参加。エネルギー効率プロジェ
ク ト の 実 施 を 支 援 す る リ ソ ー ス を 特 定 し 提 供 す る 。 E-mail を
[email protected] へ送付すれば詳細が得られる。
・Save Energy Now LEADER プログラム注15:州は、10 年で 25%のエネルギー強度を軽
減するために、自主的に ITP と提携することができる。
http://www1.eere.energy.gov/industry/states/training.html
http://www1.eere.energy.gov/industry/about/state_activities/incentive_search.asp
注9
http://www1.eere.energy.gov/industry/financial/solicitations_active.html
注10
http://www1.eere.energy.gov/industry/states/state_portfolio.html
注11
http://www1.eere.energy.gov/industry/pdfs/utilities_working_with_industry.pdf
注12
http://www1.eere.energy.gov/industry/bestpractices/pdfs/itp_successes.pdf
注13
http://www1.eere.energy.gov/industry/states/pdfs/southeast_industrial_energy_efficiency_summit.pdf
注14
http://www1.eere.energy.gov/industry/states/pdfs/nw_summit_final.pdf
注15
http://apps1.eere.energy.gov/industry/saveenergynow/partners/
注7
注8
58
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
B. 詳細情報の取得場所
・Save Energy Now State Partnerships ウェブサイト注16
・エネルギー効率および再生可能エネルギー局(Office of Energy Efficiency and
Renewable Energy:
EERE)の州エネルギープログラム(State Energy Program :
SEP)注17:州に助成し、州のエネルギー関連機関に EERE の技術プログラムから資
金を振り向ける。
・EERE ウェブサイト注18
EERE の情報センターは、同局の製品、サービス、技術プログラムに関する質問に答え、
訪問者に最適な EERE のリソースを提示する注19。
C. 2009 会計年度注20のニュース・情報
米国は 2009 年 2 月 17 日に、減速しつつある米経済を活性化するために米国再生再投資
法(American Recovery and Reinvestment Act : ARRA)を成立させた。同法の多数の条
項が、EERE が運用する資金やプログラムに関連する。
米国再生再投資法:同法は EERE に 168 億ドルを割り当てた。
①EERE による米国再生再投資法の資金の使い道注21
②各州の米国再生再投資法の資金と機会注22に関する詳細
D. 連絡先(州のエネルギー関連機関)
http://www1.eere.energy.gov/industry/states/contacts.html#itp_state_contacts
翻訳 NEDO (担当 総務企画部 吉野晴美)
出典:Save Energy Now State and Utility Partnerships FY2009 Annual Report、
pp.21~24
(http://www1.eere.energy.gov/industry/states/pdfs/state_utility_partnerships_f
y2009_annualreport3.pdf)
注16
注17
注18
注19
注20
注21
注22
http://www1.eere.energy.gov/industry/states/
http://apps1.eere.energy.gov/state_energy_program/
www.eere.energy.gov
https://www1.eere.energy.gov/informationcenter/
2008 年 10 月~2009 年 9 月。
http://www1.eere.energy.gov/recovery/
http://www.recovery.gov/Pages/home.aspx
59
NEDO海外レポート
NO.1059,
【エネルギー】イノベーションハブ
2010.2.10
省エネビル
光合成
エネルギー・イノベーション・ハブへ 3 億 6,600 万ドルの投資(米国)
「太陽光による燃料生産」ハブ
2009 年 12 月 22 日、米国エネルギー省のスティーブン・チュー長官は、主要なエネル
ギー分野における研究開発の加速に焦点を当てた 3 つのイノベーション・ハブの設立運営
のための、最大 3 億 6,600 万ドルに及ぶ投資計画の概要を発表した。それぞれのハブには
5 年間で最大 1 億 2,200 万ドルの資金が提供され、非常に有望なエネルギー関連技術の研
究が加速し、科学的な発見から技術開発と商業的な展開に至る行程の短縮に取り組む学際
的な研究者チームが結成される。
「エネルギーと気候に関する危機に直面して、私たちはイノベーションのペースを加速
し、科学技術の英知を結集するために、可能なことはすべて行わなければならない」とチ
ュー長官は語る。
「DOE エネルギー・イノベーション・ハブは研究を管理、実施するため
の新しく、より積極的なアプローチを示している。私たちは、全盛期のアメリカの偉大な
研究所を見習っている。トランジスターの発明から情報理論までに至る成果により、現代
の電気通信技術が可能になった。これは、創造的で高度、かつ包括的なチームを形成する
ことにより、研究者が分かれて研究するよりも、より高度かつ、より迅速に研究を達成す
ることが可能だという証拠である。
」
ハブの設立はオバマ政権による広範囲に及ぶクリーン・エネルギー研究戦略の一環であ
り、私たちが必要としている飛躍を達成するアメリカの革新的な機関である。
この戦略は 3 つの新しいイニシアティブを含み、それぞれが補完的な関係にある。
1.
最初のアプローチは、エネルギー省・科学局により設立されたエネルギー・フロンテ
ィアリサーチセンターであり、変革的な発見を阻害する基礎科学のハードルを克服す
ることに焦点を当て、複数年に渡り、多数の研究者による科学的なコラボレーション
をサポートする。
2.
二番目のアプローチは、最近エネルギー省によって設立されたエネルギー先端研究計
画局(Advanced Research Projects Agency-Energy:ARPA-E)であり、ここでは高度
に起業的な資金提供モデルが適用される。これは、ハイリターンではあるが非常にハ
イリスクなために、自身では資金を拠出できないアメリカの熱意溢れる産業界のエネ
ルギー改革者たちが探求している将来性のある革新的な技術を推進するものである。
3.
三番目の斬新な資金提供モデルは、エネルギー・イノベーション・ハブである。これ
は、より大規模で高度に統合されたチームがひとつ屋根の下で理想的に働き、ハイリ
スク・ハイリターンな研究を実施し、優先度の高い技術的課題を解決し、基礎研究か
60
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
ら技術開発、商業化にいたる準備を行うものである。
エネルギー・イノベーション・ハブは 3 つあり、以下に焦点を当てる。
・ 太陽光から直接、燃料を生産する。
・ 建築システム設計をエネルギー効率の良いものへ改良する。
・ 先端的な原子炉開発のために、コンピューターによるモデリングとシミュレーション
を行う。
エネルギー省は各ハブの設立に初年度は 2,200 万ドル、翌年からは 4 年間に渡り、各ハ
ブの運営を支援するために 2,500 万ドル/年を上限として資金を提供する。各ハブは、5
年間で合計 1 億 2,200 万ドルを上限とする助成金を受け取ることになる。
ハブの実施計画、
戦略に関する重要な情報については、ウェブサイト http://hubs.energy.gov から参照でき
る。
太陽光による燃料生産のイノベーション・ハブ
ハブの目的は、太陽光から高エネルギーの燃料を生産する、持続可能な商業プロセスの
開発を加速することである。これは、光合成を基盤としたメカニズム、すなわち植物が、
太陽光と二酸化炭素と水から糖を生成する方法に倣ったものである。太陽光燃料生産ハブ
は、有望で画期的な将来のエネルギー技術に向けて、その推進力となる基礎研究、応用研
究を加速するための糧を研究者たちに提供することになる。効率的で費用効果的な方法に
より、太陽光から直接、燃料を生成することは、米国のエネルギー安全保障と世界のエネ
ルギー生産に著しいインパクトを与えることになるだろう。
原子炉エネルギー・イノベーション・ハブのモデリングとシミュレーション
ハブはエンジニアに対し、現在と未来の原子力エネルギー技術への理解を向上させるコ
ンピューター環境を提供するものである。エネルギー省の原子力エネルギー局は、2009
年 12 月 7 日、原子炉エネルギー・イノベーション・ハブのモデリングとシミュレーショ
ン に 関 す る ワ ー ク シ ョ ッ プ を 主 催 し 、 こ の ハ ブ と 、 次 回 の 資 金 提 供 公 募 (Funding
Opportunity Announcement:FOA)に興味を持つ人々に対し、ハブのビジョン、プログラ
ムの目的、及びハブ設立と運営のための調達プロセスを充分に理解してもらう機会を提供
した。
エネルギー効率の良い建築システム設計のイノベーション・ハブ
ハブの目的は、高効率(省エネ)建築材料、システム、モデルを開発することである。
61
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
「屋内温度を調節するためのエネルギー使用量の削減」というハブにおける主要な目的を
達成するためには、核心的な技術の進歩に焦点を当てることが必須である。例えば、先端
的な室内冷却サイクル、センサーや通信機能、診断機能を備えたインフラの整備を行う必
要がある。このような方法は、国の電力消費量へ大きなインパクトを与えるだろう。なぜ
ならば、建物は、国全体の電力エネルギーの 70%を消費しているからである。
太陽光燃料生産ハブに関する資金提供公募(FOA)の企画書募集が発表されている。FOA
に関するエネルギー・イノベーション・ハブのサイトで、この FOA の情報を参照できる。
企画書の締め切り日は 2010 年 3 月 29 日である。その他の 2 つのエネルギー・イノベーシ
ョン・ハブの FOA は、2010 年初頭に公表される予定である。エネルギー効率の良い建築
システム設計ハブはまた、地域のイノベーション・クラスター助成の中核となるものであ
り、この助成の中には、他の機関と共同実施されるものもある。
大学、国立研究所、NPO、個人企業は、ハブを設立し、運営するための助成獲得に応募
することができる。また、パートナーシップを組むことが奨励されている。助成金授与先
の決定は専門家の審査により決定され、2010 年夏に結果が発表される。ハブは 2010 年に
活動を開始し、2011 年にはフル稼働する予定である。
翻訳:NEDO(担当
総務企画部
出典:
“Department of Energy to Invest $366M in Energy Innovation Hubs”
http://www.energy.gov/news2009/8409.htm
62
髙村
祐子)
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
【エネルギー】先端的エネルギー研究
DOE が ARPA-E エネルギー・イノベーション・サミット開催(米国)
米国エネルギー省(DOE)のスティーブン・チュー長官は 1 月 7 日、「ARPA-E エネル
ギー・イノベーション・サミット」の開催を発表した。サミットは 2010 年 3 月 1~3 日、
ワシントン DC、ゲイロード・ナショナル・ホテル&コンベンション・センターにおいて
行われる。このイベントは DOE エネルギー先端研究計画局(Advanced Research Projects
Agency - Energy : ARPA-E) が 主 催 し 、 CTSI (Clean Technology and Sustainable
Industries Organization)により実行され、全米ベンチャーキャピタル協会(National
Venture Capital Association:NVCA)とカウフマン財団(Kauffman Foundation)が中心と
なって支援を行う。このイベントは米国のエネルギー業界のリーダー達のためのフォーラ
ムであり、アイデアを分かち合い、協力し合い、重要なテクノロジーの機会と課題を明確
にする場となる。
サミットの参加者には科学研究団体のメンバーや、投資家、テクノロジーの起業家、ク
リーン・エネルギー技術に関心のある企業、政治家、政府職員等が含まれる。
「第 1 回目の ARPA-E エネルギー・イノベーション・サミットの開催を非常に喜ばしく
思う」とチュー長官は語った。
「この会議に、国のトップ・エネルギー・リーダーや科学界
のメンバーが集まることによって、クリーン・エネルギー・テクノロジーにおける次の産
業革命の創生が始まり、新しい仕事が生まれ、二酸化炭素排出量削減の助けとなるだろう。」
サミットでは、ARPA-E の第 1 回目の助成金を獲得した 37 件の研究プロジェクトのう
ちのいくつかにスポットライトが当たるであろう。また、第 1 回目の 1 億 5 千万ドルの助
成金に対し 3,700 件近いコンセプトペーパー(提案概要)が提出されたが、そのうち 250
件を超える評価の高い研究プロジェクトの多数を初めて展示する。参加者は、チュー長官、
ARPA-E のディレクターであるアルン・マジュムダール(Arun Majumdar)博士、またその
他多くのトップクラスのエネルギー改革者による特筆すべき演説を聴くことになる。討議
のトピックとして、
「市場を変えるテクノロジーの認識」
、
「地域のエネルギー・イノベーシ
ョン・クラスターの設置」
、
「国の安全保障におけるエネルギーの役割」
、
「エネルギー技術
の画期的発明の開発・商業化の成功」などが含まれる。それに加え、会議に先立って、研
究者、企業家、投資家が ARPA-E のプログラム・ディレクターと会うことができる 1 日ワ
ークショップが行われ、
ARPA-E の技術プログラム分野の目標と方向性について話し合い、
上記トピックの前回のワークショップの成果を学ぶ場となる。この会議前日には、トピッ
クに関し、画期的なエネルギー技術の商業化や中小企業技術革新制度(Small Business
Innovation Research:SBIR)活用のベストプラクティス(成功事例)についての個別指導
63
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
が行われる。詳細情報と参加登録は ARPA-E Energy Innovation Summit 注1から参照でき
る。
ARPA-E について
エネルギー先端研究計画局(Advanced Research Projects Agency - Energy:ARPA-E)
は DOE 内部の組織であり、米国において、ハイリスク・ハイリターンのエネルギー研究
プロジェクトに特化した最初の組織である。ARPA-E の使命は機知に富み、独創的な技術
アプローチをサポートすることであり、アメリカのテクノロジー・リーダーシップを向上
させつつ、気候の変動やエネルギー安全保障に対する画期的で新しい解決法をもたらす原
動力となる。より詳細な情報は ARPA-E 注2のウェブサイトから参照できる。
翻訳:NEDO(担当
総務企画部
髙村
祐子)
出典:
“Department of Energy Announces Inaugural ARPA-E Energy Innovation Summit”
http://www.energy.gov/news2009/8495.htm
注1
注2
http://www.ct-si.org/events/EnergyInnovation/
http://www.arpa-e.energy.gov/
64
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
【エネルギー】省エネルギー
DOE は冷凍庫のエネルギー効率改善策を実行(米国)
2010 年 1 月 7 日、エネルギー省(DOE)はハイアール・アメリカ社が DOE のエネルギー
効率基準に違反しているか否かの調査を行うことを決定する同意判決注1を発表した。DOE
の調査は、該当冷凍庫の部品の欠陥によりエネルギー消費が、消費者に対し表示している
エネルギー消費量より高い数値である可能性、また DOE のエネルギー効率基準と冷凍庫
の ENERGY STAR®要求基準に違反している可能性を検証する。オバマ政権のエネルギー
効率推進のコミットメントの一部として、この同意判決によってハイアールは消費者に与
える影響を告知し、欠陥のある製品を修理する義務が生じ、任意負担金を米国財務省へ支
払う。
DOE の法務顧問による調査の期間中、ハイアールはエネルギーを基準以上に消費する
冷凍庫のモデルの部品の欠陥を自主的に特定し、自社内で欠陥対策を直ちに行った。DOE
の調査とハイアールの協力は同意判決に至る際にきわめて重要であり、この判決は DOE
による最少エネルギー効率基準の執行としては最初のものとなった。
「エネルギー効率向上は国家的優先課題であり、DOE はエネルギー効率基準と ENERGY
STAR®要求基準の施行を引き続き精力的に実施していく」と DOE 法務顧問のスコット・
ブレイク・ハリスは語った。
「ハイアールの自主的情報開示と自主的欠陥対策はこの同意判
決に至る助けとなり、本同意判決は無駄なエネルギー消費の影響から、消費者と環境の両
方を守る行動へとシフトすることを要求する。私たちは将来、すべての家電メーカーがこ
の例に従うことを奨励したい」
。
この同意判決に先立って、ハイアールは自主的に街頭の冷蔵庫の流通を中止した。すべ
ての製品が欠陥部品の影響を受ける訳ではないが、2008 年 12 月から 2009 年 8 月の間に
販売されていたスタンドアローン縦型冷凍庫がこの同意判決に該当する。以下、
HUF138EA (ENERGY STAR®) 、 HUF138PB 、 HUF168EA (ENERGY STAR®) 、
HUF168PB が該当する冷凍庫のモデルである。
本日の法的同意に基づいて、ハイアールは以前販売されていた冷凍庫に欠陥の可能性が
あることを消費者に知らせることを開始し、ハイアールの費用負担で見つかった欠陥を修
理し、米国財務省に自主的な支払いに応じる。本日の同意判決は消費者と環境を非効率な
家電から守る仕組みを提供するものである。
ハイアールが同意したその他の義務は以下の通りである。
注1
Consent Decree:当事者間の合意による判決。裁判上の和解に相当。
65
NEDO海外レポート
NO.1059,
2010.2.10
・ 欠陥の影響を受けたカスタマーとコンタクトを取ったことのある小売業者や団体より
情報を集める
・ 該当製品の修理を申し出たカスタマーに対し個別に告知する。
・ 消費者側に費用がかからないよう現地で製品修理を実施する。
・ すべての該当製品に対し、保証期間を延長する。
・ 米国財務省に 15 万ドルを支払う。
本同意判決の全文はウェブサイトで参照できる注2
翻訳:NEDO(担当
総務企画部
髙村
祐子)
出典:
“DOE Announces Additional Energy Efficiency Enforcement Action to Protect
Consumers”
http://www.energy.gov/news2009/8497.htm
注2
http://www.gc.doe.gov/documents/Haier_America_Consent_Decree.1-7-10%281%29.PDF
66
Fly UP