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スピーチ

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スピーチ
教科・科目名
国語・現代文
作成者
甲府東高等学校
教諭
古屋
強
よいコミュニケーションをつくる口頭表現の指導
スピーチ経験をとおして
〔キーワード〕
スピーチをとおして社会性ある口頭表現を意識する。
〔概
要〕
自分の中の思いに形を与え、心をこめて伝える。また、それを真剣に聞き、伝え
られた内容と伝えようとする人の気持ちを汲む。
1 はじめに
口語表現の変化、言語コミュニケーションの変容などという現象が指摘されている。片
言めいた言葉のやりとり、敬語の不在、言葉の伝統的な側面を意識しない傾向、また、挨
拶や応答など、言葉が受け持っていた日常的なコミュニケーションがずいぶんと減ってし
まった点など、それは、伝統的な言語の富を引き継がなかった現今の、とくに若年層の言
葉の貧しさ、あるいはコミュニケーション能力と意欲の低下、といった角度から捉えられ
ることが多い。
けれども学校の場で見聞きするかぎり、生徒たちは仲間内では過剰と思われるほど、こ
まやかな言葉をとり交わしている。携帯電話の、また、メールによるやりとり、つねに相
手との距離を測りながらの談笑など、細心の配慮を払いつつ言葉を介してコミュニケーシ
ョンを行っているというのが実際であるように見受けられる。一方、相手が仲間内でない
場合、何らかの発語があるはずのところ、何もないという場面は、たしかに少なくない。
たとえば 、提出物を届けに来た生徒がめあての教員を視野にみとめながら無言で立ち去る 、
あるいは背後から肩をたたいて呼び止める、など。ただこれも、彼らには他意がないケー
スがほとんどで、比較的疎遠な人間に対して言葉を用いる技術が低いだけと見る方が適切
かも知れない。いろんな場面で挨拶が少なくなったとはよく言われるが、高校生たちはあ
きれるほど多様な挨拶を仲間内では交わしている。これも、親疎による言語運用実態の違
いと理解して差し支えないのではないだろうか。
こうしてみると 、自分の属する集団では濃密な言語コミュニケーション 、一方 、
「 身内 」
以外 で は 過 少 な 言 語 コ ミ ュニ ケ ー シ ョ ン と い った 図 が浮 か び上 が る 。「 他 人へ の 無関 心 」
とはこのような現象の一つの捉え方かもしれない。
では、現代の生徒たちはそんなコミュニケーションのありかたをどう感じているのだろ
うか 。「敬 語 は 必 要 と 思 う か 、 敬語 を 使 い こ な した い と思 う か」 と 質問 す ると 、 ほぼ 全 員
が必要なものと認め、自分もよい使い手になりたいと答えている。この場合の敬語とは、
彼らにとって「大人の」改まった言葉遣いとほぼ同じ意味をもっていると見なしてよいだ
ろう。いずれ広い世の中に出て、大勢の人々とさまざまな交渉を持たなければならないこ
と、不特定の人々と良好な関係を結ぶという働きが言葉にはあるということ、を彼らもう
すうす感じ取っているのだろう。今の高校生たちも、けっして他人に対する無言文化をよ
しとしているわけではなく、社会性の高い言語運用を自らの課題として思い描いているよ
うだ。
そのような、生徒たちに潜在する、社会性を帯びた口語表現への意欲を伸長させたい、
そして様々な局面で様々な人達とよいコミュニケーションをつくる手がかりを作らせたい
と考え、国語科・現代文の中で「話す、聞く」授業を試みた次第である。
2
目標
( 1 )よい人間関係を築くための 、言葉の果たす役割を理解し 、積極的自覚的な話し手 、
聞き手となるべく努める態度を涵養する。
1)自分のなかに、他者に伝える足る内容があることを理解させる。
2)口頭表現のさまざまな機能を理解し、効果的に使えるようにする。
3)表現の対象を配慮した口頭発表を工夫し、実践できるようにする。
4) 相 手 の 伝 え よう と する 気 持ち を 汲み 、 言わ ん とす る とこ ろ を理 解 でき る よ
うにする。
5)伝え、伝えられるという相互関係をとおして信頼感の生まれる機微を経験
させる。
(2)
評価基準
①単元
1)スピーチのために十分な原稿(メモ)を作成することができたか。
(発表者・意欲態度)
2 ) 改 まっ た 場 で の ス ピ ー チ と して ふ さ わ し い 態 度 で 、聞 き 手 を 意 識 し配 慮 し
た表現をすることができたか。
(発表者・態度、話す、知識理解)
3)聞いてわかりやすい表現に努めたか。
(発表者・話す)
4)真面目で話者に対して好意的な態度で発表を聞くことができたか。
(聞き手・態度、聞く)
5)適宜メモをとって、その内容を的確に理解することができたか。
(聞き手・態度、聞く)
6)聞き手のレポートをもとに自己評価することができたか。
(発表者・書く)
②本時上記1)~4)
(3)
評価基準(Bの判断について)
1)内容の要点と話す順番とが明らかになったメモを作ることができる。
2)始めと終わりに挨拶を述べ、敬体の話し言葉を用いることができる。
3)正面を向いて発表ができ、内容がはっきり伝わる。
4)発表者の方を向き、良い姿勢で聞くことができる。
5)発表者にむけて感想を記すことができる。
6)聞き手のレポートを参考にして、自分の発表のよい点、改善工夫の必要な
点を理解することができる。
3
実践事例
(1)授業計画
話す、聞く能力の関係する言語活動は、呼びかけ、応答、談話など日常の場でほとんど
意識することなくなされるものから、勧誘、主張、説得等、明確な目的をもった活動まで
幅広いが、限りある時間のなか、さしあたり試みたのが、多少改まった場で、個人がある
程度多くの聞き手を対象として、まとまった内容のスピーチをするというものである。先
ほどから、仲間内と外と、その言語コミュニケーションに精粗、多寡の差が見られると述
べてきた 。教室はいわば身内の場ではあるが 、一人が前に立ってあるテーマについて話す 、
という状況にいくぶん晴れがましさを持たせて、ふだんとは違う意識的な口頭表現を練習
させたいと考えた。
話者には、自分の中に、あるいは自分と外界との接点において、他人に伝えるに足る何
かがあるのではないかと考えさせ、発表を準備させたい。聞くほうの側には、準備のうえ
で臨んでいる話者の気持ちを汲んで、その焦点を探るべく聞く態度を身につけさせたい。
スピーチの授業をとおして考えてほしいことばに関する問題としては、伝える内容をさが
す方法 、メモ作成の準備 、あいさつの効用 、敬語( 基本としての相手を尊重する気構え )、
話の構成、発表の態度、聞く態度(メモをとることを含む)などである。発表の労にたい
して感謝の意を表し、それによってよろこびを得るという機会にもできたらと、考えた。
実際には、後期(10月以降)から2年4組、5組を対象に、現代文(45分授業・3
単位)の中の最後10分ほどを割いて実施した。発表は基本的に男女交互で出席番号順。
第1回
スピーチの例示・レポート作成の練習(授業者によるスピーチ)
内容 は 、 修 学 旅 行 準 備 の始 ま っ た 頃 だ っ た の で 、以 前 引 率 し た とき の 思い 出 。今 の 2
年生諸君に「伝えたいこと」であると、スピーチの目的をあらかじめ説明した。また、始
めと終わりに、スピーチの機会を得られたお礼の挨拶を置いた。
第2回
最初の生徒のスピーチ、レポートの回収。
最初 の 発 表 者 は 自 信 が ない と い う の で 、 事 前 に メモ 作 成 の 方 法 を教 え た。 こ の生 徒 の
場合は 、クラブ活動や進路のことについて話してみたいとの漠然とした考えがあったので 、
私は、具体的にどんなことがあって、何を思ったか。その時のことをもう一度振り返って
みて何が言えるか、という形で質問し、その場でメモを作らせた。あとは、聞き手が理解
しやすいように、話の順序、やさしい言葉遣いを工夫すれば、一応の準備はできたものと
考えてよい旨教えた 。発表には必ず始めと終わりに挨拶の言葉を入れること 、適度な敬語 、
丁寧な言い回しを心がけることを課し、本番を迎えた。
第3回
前回のスピーチに対しての充実したレポートを紹介する。どの点が優れるのかを
解説。内容の客観的な要約と、それにたいする個人的な意見、感想、スピーチの長所の指
摘がされていることを示す。
第4回
発表用メモ作成の基本について解説。
自分の中に他者へ伝えたいことのある場合、それを整理して、伝えたいことの核心を把
握することが、他者によく伝わるための第一歩であることを示す。また、もし、自分の中
に伝えるべきがものがないと感じられる場合も、実は、人が耳を傾けるに足るものがその
内部にあるはずで、メモ作成はとりもなおさず、それを見出すための作業である、と説明
した。具体的には、
ア
自分と他人との間に、あるいは、自分と世の中との接点に、何か心を動かすことはな
かったか問うてみて、あったなら、そこに焦点を当ててみるべきであること。なぜ、そう
感じたのか、どんな背景があったのか、今それをどう捉えているか、など、自身が質問者
になるような形で、メモ材料を増やしてゆく。
イ
メモを見直してみて、関連ある事実の指摘、分析、考察など、さらにメモを増やして
ゆく。その作業をつうじて次第におおまかな筋道を浮かび上がらせる。
ウ
ここから先、書き言葉による文章作りならば、構成の工夫、語句の推敲、へと進み、
スピーチ原稿ならば、耳で捉えられる明確さ明瞭さを目指す作業へと進むことを示す。
第5回以降
ここから、同様に、発表、レポート作成を毎回行う。レポートは回収、点検
後、発表者へ自己評価のために預ける。発表者は自己評価表を作成、提出。基本的にはこ
れ以 後 、 授 業 時 間 ご と 一 人づ つ 発 表 を 重 ね て いる が 、時 々 、「話 す 、聞 く 」こ と に関 係 す
るプリントを用意して読ませた。話すことや聞くことを励ますものとなるよう願って企画
した。
その1
挨拶の効用について考える。
テレビ放映された老舗料理屋主人の言葉を紹介する。調理師学校に講師として招かれた
時、学生から「経営者として心がけることは」との質問に、すかさず「挨拶」と答えた。
「気 が 付 い た 方 が す る も んで す 」「 上 と か 下 と かは 関 係な く て」 そ こか ら 始ま る 良い 人 間
関係ということについて考える機会とした。
その2
藤原審爾の随筆を読み、言葉によらなくては伝わらないことについて考える。
真率な心情が相手に向かって形を持ったとき、言葉の美しさは立ち現れるという内容の文
章。積極的に言葉を口にしようというメッセージのつもりで試みた。
その3
経験の重みを聞く。
人の 話 を 聞 い て 「 た め に なる 」「勉 強 に な っ た 」と い う時 の こと を 振り 返 って み ると 、 そ
の人ならではの経験に聞き手である私達の心が動くということが多い。純粋に話を聞く喜
びを 味 わ う こ と 、 聞 き 手 の中 に 起 こ る 「 世 の 中は 広 い、 人 はさ ま ざま 、」 とい う 感懐 が 柔
軟な人間把握や社会認識へとつながることを期待し、ある組子職人の苦労話の聞き書きを
読んだ。
3
実践例
日時
11月15日(火)3校時
2年4組
男子24名
女子14名
本時は、スピーチの順でいうと11人目、女子生徒Gさんの発表。
導入
1分
学習活動
指導上の留意点
評価規準
・スピ ーチ をする、
・ 聞き手用のレポ
・発 表者は教壇上で姿勢よく立つ
スピー チを 聞く姿勢
ー ト用 紙「 発表を聞
ことができる 。(発表者・態度)
をとるよう準備す
い て」 の「 日時・発
・聞 き手は必要事項の記入をすま
る。
表 者・ 題名 」欄に記
せ、 姿勢よく発表者を注目するこ
入をさせる。
とができる 。(聞き手・態度)
・ 姿勢 をた だすよう
促す。
・ メモ をと るばかり
・メ モを用意してスピーチするこ
展開
・発表 者は スピーチ
で なく 、発 表者の表
とができる 。
( 発表者・意欲態度 )
1
をし、 聞き 手は簡単
情にも注目するよ
・ス ピーチの始めと終わりにお辞
なメモをとりなが
う、促す。
儀を し、聞き手に対する挨拶を述
3分
ら、聞く。
べ る こ と が で き る 。( 発 表 者 ・ 態
度、話す)
・聞 き手と、話題の中の人物とに
対し て適度な待遇表現を用いて話
す こ と が で き る 。( 発 表 者 ・ 知 識
理解、話す)
・声 の大きさ、発音の明瞭さ、話
す速 さ、に留意して話すことがで
きる 。(発表者・話す)
・内 容を整理して、聞いてわかり
や す く 話 す こ と が で き る 。( 発 表
者・話す)
・発 表者に相対してまじめに聞く
こ と が で き る 。( 聞 き 手 ・ 意 欲 態
度、聞く)
・適 宜メモをとりながら聞くこと
ができる 。(聞き手・聞く)
展開
・聞き 手は メモをも
・ 率直 な感 想、聞い
・後 刻回収し、自分に伝わったも
2
とに「 発表を聞いて 」 て よか った と思う点
のを 発表者に再度伝える内容の文
の「発 表者 へ」を記
を書くよう指示す
章を書くことができる。
入する。
る。
6分
こ の 時 の ス ピ ー チ の 題 名は 「 高 齢 者 と 食 べ 物 」。 老 化の 進 み具 合 は遺 伝 的条 件 、睡 眠 、
ストレスなどに左右されるが、食生活にも大きく関係すると説き起こし、老化を防止する
食物群を紹介した 。高齢者の健康という問題は一国の経済のうえからも重視されるはずで 、
老人 に と っ て 良 い 食 環 境 が作 ら れ る よ う 、 地 域で 考 えて ゆ くべ き だと い う内 容 だっ た 。
評価の観点は、先にあげたとおり、ごく簡単な数点にしぼっている。発表者は、メモを
用意して臨んだか。改まった態度と言葉遣いを心がけたか。聞き手は、真面目で好意的な
態度で耳を傾けたか。メモをとりつつ聞き、自分にむけたメッセージとして受け止め得た
か。そして、後日、発表者は聞き手の感想を参考にしてスピーチの自己評価ができたか。
である。
発表メモは、特に書式等指定せず自由に作らせている。分量も内容も生徒によってまち
まちであるが、事前に内容を改めたり、事後に提出させたりもしていない。用意できてい
ればよしとして、題名のみ授業前に確認する。人に話す内容を探すために、そうして人に
聞いてもらうためにはまず第一に準備が必要不可欠であり、どのようなものであれ自分な
りに準備してあれば、スピーチになりうるのだ、と知ってもらいたいからだ。準備の周到
さが発表自体の出来ばえを左右することは、壇上でそして聞き手レポートを手にして切実
に感じることである。
この生徒の場合は発表の内容からいっても、口述原稿を完成させ、何度か練習をしてき
たことが見てとれた。メモを作る点はもちろんAランクを付けた。
導 入 部 分 で 、 私 は 「 今 日は 、 G さ ん の 発 表 、題 名 は『 高 齢者 と 食べ 物 』で す 。」と 紹 介
し、聞き手のレポート用紙への記入の様子を観察する。発表者を壇上に迎えたら教室の後
ろに下がりこちらも聞き手の側にまわる。展開部1スピーチが始まってからは、発表者の
様子と聞き手の姿勢を観察し、内容を聞くことに集中する。教室最後列にいて、十分聞き
取れる声の大きさ、発音の明瞭さであるか、敬体を用いて話しているか、人前に立つにふ
さわしい態度か、をチェックする。内容については、細かなチェック点は設けないで、全
体を聞いた上でのおおまかな印象で評価している。その内容が自分自身なりの問題である
と認められれば 、さしあたり良しとした 。
( 本のまる写しなどは認めない 、と言っておく )
自分の中には人に伝えるに足る何かがあると気付かせることを眼目とするために、巧拙に
亙る面でのハードルは低くしたわけである。一方の聞き手の姿勢も、後ろから見て、だら
しない格好をせず 、発表者に顔を向けていれば 、全員良好 、としている 。この日の発表は 、
内容面、態度ともAランク、聞き手も全員Aとした。
「 こ れ で 私 の 発 表 を 終 わり ま す 。 最 後 ま で 聞い て くだ さ って 有 難う ご ざい ま した 。」 と
深くお辞儀をし、この時のスピーチは終わった。聞き手は拍手を送り、発表者は着席。私
は、そのスピーチの美質に触れるかたちでコメントをした。このあと聞き手はメモを参考
にしてレポートを作成する。頃合いを見てレポートを回収するが、書ききれていない生徒
はその日の内に提出すればよいことにしている 。(教室に回収箱を置く)
このように 、先にあげた評価規準の1~4については 、原則としてスピーチ時に観察し 、
評価づけを行ってしまう。明らかな準備不足やだらしない格好で聞く生徒の場合以外はB
ランクを下ることはないのが現状である。評価に関して安易に過ぎるかもしれないが、毎
回のこととなるとこれが精一杯のところだ。
回 収 し た レ ポ ー ト は 内 容を 点 検 し た あ と 発 表者 に 渡し 、「 発表 を 終え て 」レ ポ ート を 作
成、提出させる。
4
まとめ
スピーチの順番が回ってきて、自分が前に立つとなると、生徒は予想以上に緊張する。
もっと気楽にやってのけるだろうと思っていたが、ちょっと真面目な内容を、改まったか
たち で 話 す 、 と い う 場 に は案 外 慣 れ て お ら ず 、準 備 から 難 儀す る 生徒 が 多か っ た 。「 話 す
ことがありません」と相談に来る生徒も何人かいた。思えば「何でもいいから話をせよ」
というのは、テーマを与えられるのより、かえって難しい注文かもしれない。もちろん意
見、主張、を持っている生徒、表現活動自体に意欲ある生徒もいるが、たいていの生徒は
スピーチ題目を探すことで思案せざるを得ない。先述、第4回の授業の中で発表メモ作成
の基本について説明はしたものの、あらためて個人的にアドバイスしなければならないこ
ともあった。ただ、内容に自信のないまま発表に臨んだ生徒も、聞き手の評価を受けるこ
とで、自分の中にある思いがある種のメッセージとして確かに相手に届いたことを実感す
ると、充実感と自信とを得ていた。真剣に聞いてくれる聞き手の姿を見、拍手を受け、聞
き手からのメッセージをもらうことが彼らをどれほど励ますことになるか、目の当たりに
する思いであった。
聞き手も、真剣な面持ちの発表者に向かい合うと、しぜんと真面目な姿勢で耳を傾ける
ようになる。メモをとりなが話しを聞くことは、これまで「総合的な学習」の講演会等で
練習していたため、比較的抵抗なくできた。しかし、メモ採りに意を用いるあまり、相手
の顔を見る余裕のない生徒がいまだ多くいるのが、反省点として残っている。今後、真剣
に話してくれる発表者の気持ちに応えるべく 、集中して聞いていることを身をもって示す 、
という姿勢を作らせたいと願っている。
聞き手のレポートは、短時間での作成ゆえ分量は少ないものの、よく率直な感想を、発
表者へのねぎらいという配慮の中で、記している。それを受けての発表者の自己評価レポ
ートも、多くは、聞き手の好意的な感想、メッセージを目にして、満足と感謝の意を表し
ている。苦心しながらも発表内容を自分の中に探したことは無駄ではなかった、との実感
が 、「きりっと」話すことの意欲に結びついてゆくことを期待している。
スピーチを続けて気付いたことがある。生徒たちにとって、自分との違いを発表者のな
かに発見する機会ともなっていることである。こんなことがあったのか、こんなことをし
ていたのか、こんな考え方があるのか、というささやかな驚きが「聞けてよかった」とい
う表現で記されているのを、しばしば見る。他者に共感するという経験は、コミュニケー
ションの最も幸福な一局面だが、同時に、他者の経験、考え方に自分とは異なったものを
見出し、驚き喜ぶのというのも、人と接することで世の中の広さや深さを知る契機として
貴重だろう。
今後も、改まった場で、きちんとした言葉遣いで語られる大事なことがあること、そし
て真剣に話し、また聞くことは喜びであることを経験する機会を作りたいと願っている。
教科・科目名
国
語
作 成 者
韮崎高等学校
教諭
河手
由美香
考えを深める「話す・聞く」の指導
新聞を読んで考えたことを発表しよう
〔キーワード〕
読む力・書く力・具体性・構成・心構え・スピーチの技術・記録・心に届ける・
コミュニケーション・多角的に考える・絆を結ぶ・継続と積み重ね
〔概要〕
週に1∼2回、授業のはじめの10分を「話す・聞く」の時間にあて、低学年か
らスピーチについて学習を積み重ねていく。
高学年では、新聞記事を選び、記事を読んで考えたことを発表する。新聞記事に
ついては、スピーチの前に全生徒が目を通しておき、内容を確認しておく。スピー
チはビデオ撮影し、他の生徒がスピーチを聞いた感想を書いている間に、スピーチ
した生徒は、ビデオで記録された自分のスピーチを確認しながら振り返る。感想及
び反省はカードに記録し、生徒ごとにファイリング・保管するとともに、コピーを
とり、スピーチした生徒にも渡す。スピーチの実践は授業と関連させて話し合いに
発展させていく。
1
はじめに
情報があふれ、手軽に情報が入手できる時代にありながら、狭く希薄な人間関係の中で
確固たる自分の考えを持つことができず、また、意見の交換やぶつかり合いの中で、自分
の考えを広めたり深めたり、多角的に見つめることが苦手な高校生の現状がある。
スピーチを通じて 、一つの意見から多くの考えが引き出されていくことを実感しながら 、
人と人との結びつきがもたらす、豊かな世界を味わうことで、人を尊重し、人と人との絆
によって、よりよい社会を作ることを目指す人を育てたい。
また、国語の授業で取り組む読解や、書くことの指導を 、「話す・聞く」指導の取り組
みとリンクさせて意識的に行っていくことで、読むこと・書くこと・話すこと・聞くこと
が有機的に結びついていることを理解させ、伝え合い、わかり合い、つながり合っていく
ための力としての、国語力の向上をはかりたい。
2
目
標
(1) 考えを深め、人とつながっていることを感じよう
他者の存在を意識し伝えることから、コミュニケーションの一歩を始め、自分の中に相
手の意見を取り入れる気持ちで聞くという姿勢を身につけ、わかりあう努力を通して考え
を深めるとともに、お互いを認め合う関係を作ることで、人と人との結びつきを実感しよ
-1-
う。また、言葉の持つ力を多角的に考えよう。
(2)評価規準
①(単元・行事及び事業)
話す力
・自分の考えを筋道をたてて話し、最も伝えたいことを聞き手に理解してもらえる
ように話すことができる。
・自分の意見に対して、聞き手が何らかの感想や意見を反応として返せるように、
聞き手も考えたり、興味関心を持つことができるような話し方を工夫することが
できる。
聞く力
・友人が伝えたいことのポイントを正確にとらえて聞くことができる。
・友人の意見を、自分の生活や体験の中に置いて考え、聞くことができる。
・友人の考えと自分の考えを比べながら 、さらに自分の考えを深めることができる 。
書く力
・スピーチの目的を意識して、筋道をたてて、具体的な例を盛り込んで(聞く人の
立場に立って、聞く人がイメージしやすい)原稿が書ける。
・キーワードを利用してメモをとることができる。
・読み手が理解できるように注意を払い 、自分の考えたことを時間の経過を追って 、
また、筋道をたてて、具体的にイメージができるように書くことができる 。(ス
ピーチの反省や感想カードについて)
読む力
・新聞記事を5W1Hに気をつけて読みとることができる。
知識・理解
・スピーチを効果的に行うための導入の工夫、発声・発音(適切な声の大きさ、滑
舌やトーンの上げ下げの注意等 )、姿勢や表情、間の取り方などの技術が理解で
きる。
関心・意欲・態度
・問題意識を持とうとする。
・お互いを思いやると同時に、高め合おうという気持ちを持とうとする。
・自分の世界を広げようとする。
②(本時)
話す力(スピーチをする生徒)
・聞く人の立場に立って、声の大きさ、スピード、間の取り方、表情、姿勢に気を
つけて、自分の考えをわかりやすく伝えることができる。
・聞き手に問題を投げかけるような工夫ができる。
聞く力(スピーチを聞く生徒)
・スピーチのキーワードを用いて、スピーチの主張をまとめることができる。
・スピーチを聞いて、感想を持つことができる。
・友人の意見と自分の考えを比べることができる。
・スピーチの内容を自分の体験や生活の中に置き換えて考えることができる。
-2-
書く力(スピーチをする生徒)
・スピーチの原稿が 、「テーマ・根拠となる具体例・主張」の構成に従って、論理
的に書ける。
書く力(スピーチを聞く生徒)
・スピーチの内容を、自分の体験や生活の中の具体的なイメージとして描きながら
聞いたことがわかるように、具体的な描写によって感想を書くことができる。
読む力(全生徒)
・新聞記事を要約できる。
知識・理解
・スピーチの技術の工夫と意図に対して評価できる。
関心・意欲・態度
・感想・反省をカードに書こうとする。
(3)評価規準(Bの判断について)
話す力
・聞く生徒を見渡すことができる 。・全員に届く大きな声で話すことができる。
・全員に聞き取れるスピードで話せる 。・聞き手に問題を投げかけることができる 。
聞く力
・自分だったらどうするのか等、友人の意見との比較で感想を持つことができる。
・スピーチの主張をまとめることができる。
書く力
・「 何について話すのか・具体例・主張」の3つを段落構成を意識して、原稿を書
くことができる。
・イメージがすぐにつかめるように具体的に書くことができる。
読む力
・新聞記事を、見出しやリード文の言葉を使って要約できる。
知識・理解
・スピーチに独自の工夫と意図を実践して生かすことができる。
・スピーチをした生徒に対して、スピーチの技術について評価できる。
関心・意欲・態度
・感想・反省を文章の形にして、スペースが埋まるように、カードに記入しようと
する。
3
実践事例
(1)本実践に至るまでの過程
・低学年から順次実践し、3年間の継続の中で指導を行っていく。
・国語総合、並びに現代文、国語表現等の、最初の10分間を使っての実践。
①1学年前期前半
毎日新聞社刊「高校生の主張」の読み聞かせ→生徒の感想発表・
指導者の感想とコメント (「 聞く」のB規準→話の内容を理解
し簡潔に説明できる 。)
②1学年前期後半
毎日新聞社刊「高校生の主張」の生徒の朗読→内容以外にも読み
-3-
についても感想を発表する。指導者のコメント(「 話す」のB規
準→全員に聞こえる声で読むことができる 。)「
( 聞く」のB規準
→自分の考えや意見を持つことができる 。)
③1学年後期前半
NHKティーンズメッセージの番組ビデオの視聴→スピーチの内
容とともに、スピーチの技術・方法について意識させて視聴し、
そのうえで、感想を発表・指導者のコメント(「 聞く」のB規準
→スピーチの工夫を指摘できる 。)「
( 話す」のB規準→全員に聞
こえる声で自分の意見を発表できる 。)
④1学年後期後半
ニュースや授業で学んだことの感想を発表→感想の相互交換
(「 聞く」のB規準→発表者の話題と関連した内容を話している)
(「話す 」のB規準→全員に聞こえる声で自分の意見を発表できる )
⑤2学年前期
フリーテーマによるスピーチ(テーマ設定ができない生徒につい
ては 、「感動したこと 」「出会い」のどちらかで実施)
⑥2学年後期
材料を用意して、その材料に関連した話題をスピーチのテーマと
して、スピーチを実施(材料は雑誌の切り抜き、絵、インターネ
ットの情報 、歌詞 、本の一部 、授業でもらった資料等自由とする )
⑤⑥⇒スピーチをする生徒は必ず原稿を用意すること。スピーチを聞く生徒には必ず
カードに感想を書かせる 。感想には 、スピーチの態度について記入する欄を設け 、
技術についても意識させる。
(「話す」のB規準→原稿を用意し、みんなの前で、聞こえるように発表できる 。)
(「 聞く」のB規準→発表者に次への意欲を与えるコメントを与えられる。*具体
的にどこがどう良かったか 、どこを直すべきかが表現できる 。自分の意見 、共感 、
自分の体験と照らし合わせての考え、等、具体的に表現できる 。)
(2)学習指導の流れ
*スピーチを担当する生徒には、前もって原稿やメモを準備させておく。原稿の書き方
については、評論の授業や、国語表現の授業で学習した形式を利用して書かせる。
*スピーチの材料となる新聞記事は、授業の前に各自が読んで、記事の概要をカードに
まとめておく。また、新聞記事から、スピーチを聞くうえで、関心を持った点につい
ても、あらかじめカードにメモをしておく。
学習活動
導入
1分
指導上の留意点
B規準
カードと新聞記事を準備 ・記事とカードを確認さ 読む:5W1Hを意識し
する。
せる。
て、記事の内容を押さ
新聞記事の内容をカード ・話す・聞くの心構えを
で確認する。
しっかり持たせる。
えることができる。
関心・意欲・態度:話そ
スピーチで注目する点を
うという気持ち、聞こ
カードで確認する。
うという気持ちを高め
よ う と す る 。( カ ー ド
への記入がある)
展開①
3分
話し手:スピーチ
・ビデオでスピーチをす 後掲
聞き手:必要に応じて考 る生徒を録画
-4-
える材料となるものの ・カードにスピーチ上の
メモをとる。聞く・考 留意点や、メモ欄がある
えるを並行して行う。
のでそれを確認させてか
ら開始する。
・聞き手には、自分の生
活や体験に話を置き換え
てイメージしたり、自分
の考えと比較しながら聞
くことを心がけさせる。
展開② 話し手:ビデオにより自 ・具体的な記述を心がけ 関心・意欲・態度:話し
5分
分のスピーチの様子を させる
手・聞き手が相互の立
反省し、カードに記入
・話し手には、聞いてい
場に立って、相手を思
聞き手:スピーチの感想 る人に伝えることができ
いやりながらカードを
と評価をカードに記入
たか、考えてもらうこと
書こうとする。問題を
ができたかという点に留
掘り下げたり、さらに
意させる。聞き手には、
問題意識を深めようと
話し手の主張を聞き取れ
する。
たかを振り返らせるとと (カードの記述内容の具
もに、話し手に有効なア
体性によって判断)
ドバイスが書けるように
留意させる。また、比較
の観点で感想を書かせる 。
・話題を深めようとする
意識を持たせる。
・机間巡視をしながら、
感想の内容を確認し、問
題意識を深めるための、
ポイントを探る。
まとめ ・新聞記事・スピーチか ・カードに記入された感 関心・意欲・態度:考え
1分
ら考えを深めたり広めた 想をもとに、話し方・聞
が広まったり、深まっ
りできたかを振り返る。 き方について評価する。
たり、することを実感
・各自の中に生まれた課 ・考えを深めたり、広め
しようとする。
題を確認する。
たりするうえでのヒント ・様々な意見、考えを持
を提示したりアドバイス
つ人それぞれを尊重し
をする。
よ う と す る 。( 話 し 手
・一人の意見から、多く
は達成感を持てる)
の考えが引き出されてい
くことを感じさせ、コミ
ュニケーションの大切さ
を実感させる。
-5-
*事後指導
・友人のカードは、スピーチした生徒にすべて渡す。スピーチをした生徒は、それを読ん
で、自分のスピーチについての反省や、感想、評価を再度行う。
・考えの広がり等、カードに記載されている内容で、生徒に還元できるものについて、紹
介する。
・スピーチカードはすべてコピーをして保管。生徒ごとに整理して保管することで、ポー
トフォリオ評価につなげる 。(生徒各自がファイルによる保管をするよう指導する)
B規準補足
展開①
*話し手はビデオによる自己評価と友人の評価、指導者のコメントにより規準に到達でき
たか確認。
*聞き手はカードの作成内容による自己評価と、指導者のコメントによる振り返りにより
規準に到達できたか確認。
話す:全員に届く声の大きさである。
全員に話の内容が届く、はっきりした口調である。
原稿ばかり見ていずに、顔をあげて、全員の顔を見渡すことができる。
(一番主張したいところでは顔をあげている)
棒読みではなく、めりはりや間がある。
(一番主張したいところがはっきり伝わる)
聞き手に問題を投げかける工夫ができている。
書く:一文が短い。主語述語が逆転していない。新聞記事のキーワードが用いら
れている。最も主張したいことが構成のうえで柱になっている。序論・本
論・結論(起承転結)を意識した構成になっている。言いたいことがいく
つあるか明確になっている(一つか二つにしぼられている)
:読み手がイメージできるように具体的な表現が用いられている。
聞く:キーワードをメモすることができる。
自分の考えと比較しての感想を書くことができる。
話し手の顔を見ることができる。
知識・理解:スピーチの技術について、話し手は自分を冷静に分析することで、
確認できること、聞き手は、自分のスピーチに生かそうと思えるこ
と。
4
まとめ
3年間、国語の授業の最初の10分を帯時間として利用することで 、「話す 」「聞く」
に意識的に取り組み、高校卒業時には、自分の考えを、筋道をたてて相手にわかりやすく
伝える力を身につけ 、人前で話すことに抵抗を持たないようになることを目指した 。また 、
人の話を聞く時には 、相手に顔を向けて 、集中して 、ポイントをしっかり押さえたうえで 、
自分と他人の考えを比べながら、自分の考えを深めていくことを目指した。そして、これ
ら技術的な面での目標達成に向けての積み重ねによって、最終的に、人と人との絆を実感
-6-
することでお互いを尊重し 、言葉のもつ重みや意味を理解することを目標に実践してきた 。
『雇用状況の改善の一方で障害者の就職困難』の記事を取り上げ、心臓病を患う父親が
社内で最初にリストラにあって宿舎を追われたことを、一日中テレビの前にいる父親の淋
しそうな背中を見ての感想、母親の苦悩、受験を控えた自分に降りかかってきた問題等を
織り交ぜてスピーチにまとめた生徒がいた。この生徒は自分の胸の内を言葉にして友人に
投げかけることにより、倒産でもなく、リストラでもない第3の道を選べる経営者になる
夢をかなえて力強く歩いていきたいと 、困難に負けない前向きな気持ちに変わる力を得た 。
このスピーチを受け取った生徒たちの感想は、まず、この生徒への応援メッセージであっ
た。そして、苦労をおくびにも出さずに頑張っていた生徒の姿に、家族の支え合いを感じ
取っていた。リストラという現実が身近にあることに驚き、自分がその立場ならどうする
かなども懸命に考えていた。SPEECHカードに書かれた感想の中には、養護学校の教
員として働く母親を持つ生徒が、母親から聞く障害者の就職へのプロセスと苦しみと、い
かに自分達が恵まれている中で甘えているかというものもあった。また、経営者の父親を
持つ生徒は、障害者の雇用についての国からの補助金の問題や、実際にリストラをしなけ
ればならない状況や父親の苦悩について、家族の中で交わされている話の中で自分が知っ
ていることを寄せてくれた。カードに記されたこれらの言葉には、自分の考えがうまく伝
わっているのか、誤解されないか、読んだ人に嫌な思いをさせていないか等、心遣いして
いる様子が、何度も書き直しをした跡からもうかがえた。感想の紹介を通して、相互の考
えを受け取ることで、スピーチをした生徒は、苦しいのは自分だけではないことを知り、
また、友人の支えに新たな勇気を得、素直に感謝の心を述べていた。生徒は、社会の仕組
みに目を向け、世の中には様々な境遇の人がいて、支え合って生きていることを感じ、そ
の貴さを考えるようになり、自分ができることで人の力になりたいと考えるようになって
いった。
言葉というボールは、本来誰かに向かって投げられるべきものである。生徒の心の中に
は 、「わかってもらいたい 」「伝えたい」ことが、実は数多く存在している。それを、ど
んなゆるやかな放物線を描こうとも、滞空時間の長い投球であっても、まず、誰かに投げ
ることで、自分の中にあるものが動き出し、変化していくことを生徒は、スピーチを通し
て、体感的に理解した。一歩踏み込み、自分や他者と向き合うこと、生徒はそれを 、「自
分自身の成長」と名付けている。わかりあう努力は、まず、そうやって始まり、次には、
投げられたボールを、どんなボールであっても、しっかり受けとめ、今度は、相手の胸も
とに、軌跡を見失わないように全神経を集中して投げ返すことにある。今回の実践では、
これはスピーチの感想であり、反省であり、その後の話し合いにあたる。これら意見の交
換を積み重ねることで、生徒は、互いの中に、自分と同じ点を発見したり、また、自分を
客観的に見つめ成長する機会を得、さらに、思いもしなかった世界の広がりを感じること
で、一人一人の発表の中に、尊重できる部分を見つけることができた。そして、友人の意
見を 、「自分だったらどうするか 」「あの時の自分がこの考えを取り入れていたらどうな
のか」また、社会的にも「この考えを実践したらどうなるか」と、常に自分の考えと比較
し、自分の中に受け入れてみることで、共感したり、相互に支え合い成長を促し合ったり
しながら、結びつきを深めていった。
さらに 、「自分の伝えたいことは、どの言葉で表現するのが良いのか 」「この言葉で正
-7-
しく自分の気持ちは伝わったのか」生徒はスピーチを通じてのコミュニケーションから、
言葉一つで表現の幅が変わり、伝える中身が変わることを体験した。言葉一つで人を傷つ
けたり、逆に人を幸福にするという、言葉の持つ力も実感できた。このことから、自分の
発した言葉に対して責任をとることも学ぶことができた。
この取り組みは、LHRや総合的な学習の時間においては、スピーチの感想に基づき話
し合いに発展させることが可能であり、また、他教科の授業においては、スピーチの材料
を新聞記事ではなく、授業で学んだこと等に置き換えても実施可能である。生徒会活動の
ミーティングにおいても、話す材料をアレンジすることで応用ができる。このように、指
導する側が 、「話す 」「聞く」のどこにポイントをしぼり、何を目的に導くかを意識する
指導によって、スピーチを通して国語力を育成するとともに、わかりあい、つながりあう
ことの指導が可能となる。
指導課程で留意すべき点は、常に具体的な言葉で語りかけること、生徒の作業も具体化
させることである。具体的なイメージを理解することが成長を助ける。また 、「読む 」「書
く 」「話す 」「聞く」を常に関連づけ、総合的に国語力をとらえて指導していくことも必
要である。
評価も含め、継続して積み重ねていくことにより、成長の過程を理解し、次の指導に生
かすことができるとともに、達成感を新たな意欲へと結びつけることができると感じてい
る。継続して積み重ねていくためにも、評価の際には、良い点を見つけ自信を持たせるこ
とが大切である。悪かった点については、より良いものを目指すうえで、改善するとよい
ことをアドバイスすることが効果的である。生徒のカードすべてに目を通すことは大変な
作業であるが、評価とあわせて、生徒理解のうえでも必要なことであり、また、不用意な
言葉で人を傷つけることがないように確認したり、授業で話し合い等に展開していく材料
を集めるという姿勢で目を通すことを奨める。
今後は 、「読む 」「書く 」「話す 」「聞く」の関連が明確に見える、スピーチ以外の取り
組みへ挑戦してみたい。また、技術面での明確なB規準の設定、効率的な評価方法の開発
も課題である。
〔参考文献〕
岩波新書『コミュニケーション力』齋藤孝
著 (平成14年)
講談社ブルーバックス『分かりやすい話し方の技術』吉田たかよし
(平成15年)
明治書院『人の話の聞き方入門』三遊亭圓窓
-8-
著(平成14年)
著
〔資料1〕2年時に使用するスピーチ記録カード
Speechカード
月
(
日
)組(
)番
氏名(
)
校時
Speechした人
Speechのテーマ(内容を簡潔に)
感想
以下はアドバイス編です
声の大きさ
スピード・間
姿勢・表情
内容のわかりやすさ
〔資料2〕本実践で使用したスピーチ記録カード
Speechカード
月
(
日
)組(
)番
やる気が出るコメント
(聞く人用)
氏名(
)
校時
Speechした人
新聞記事の内容(キーワード・見出しを利用して5W1Hに気をつけて要約しよう)
新聞記事を読んで、Speechを聞くうえで、注目した点
Speechを聞いて
メモ(スピーチを聞きながら
Speechのテーマ(内容を簡潔に)
キーワードをメモしておこう)
感想
ア 声の大きさや
姿勢・仕草
内容の
スピーチの
やる気のでるコメント
ド スピード・間
表情
わかりやすさ
組み立て方
(気持ちに触れて…)
バ
イ
ス
-9-
〔資料3〕本実践で使用したスピーチ記録カード
Speechした人カード
月
日
(
)組(
(話す人用)
)番
氏名(
)
校時
新聞記事の内容(キーワード・見出しを利用して5W1Hに気をつけて要約しよう)
新聞記事を読んで、Speechをするうえで、注目した点
Speechのテーマ(主張したかったこと)
Speechをしてみての感想
準備段階を振り返って
実際にスピーチをしてみて(場の雰囲気や友人の反応はどうだったかな…等)
次回チャンスが回ってきたら…意気込みを書こう!
ビ 声の大きさや
姿勢・仕草
内容の
スピーチの
聞いている人の心に届
デ スピード・間
表情
わかりやすさ
組み立て方
けることができたかな
オ
を
見
て
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