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即興スピーチにおけるピア活動の影響 -ハノイ大学での「話す授業」の

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即興スピーチにおけるピア活動の影響 -ハノイ大学での「話す授業」の
日本言語文化研究会論集 2009 年第 5 号
【特定課題研究報告】
即興スピーチ
即興スピーチにおける
スピーチにおけるピア
におけるピア活動
ピア活動の
活動の影響
-ハノイ大学
ハノイ大学での
大学での「
での「話す授業」
授業」の改善を
改善を目指して
目指して-
して-
グエン, ソン ラン アイン
要旨
本研究では、
即興スピーチとピア活動を取り入れた実験授業を行い、
その効果を考察した。
研究目的は 2 点である。第一に、学生の即興スピーチに対するピア活動の影響を明らかにす
ることである。第二に、即興スピーチとピア活動を取り入れた授業は、学生の不安軽減に効
果をもたらすかを明確にすることである。3 名の評定者がピア活動の前後のスピーチ変化の
評価を行った結果、①ピア活動の前後でスピーチ変化の評価は上がり、②「内容」
「構成」
「イ
ンターアクション」の伸び率が大きいことが明らかになった。また、ピア活動のやり取りを
分析した結果、ピア・フィードバックはアドバイス型と質問型の 2 種類に大別された。アド
バイス型は具体的な指摘等を伴っていたこともあり、事後スピーチに反映されやすいことが
分かった。7 回の実験授業を通して学生が日本語を話す際に感じていた不安が部分的に軽減
されたことが調査から確認された。
〔キーワード〕口頭表現能力、中級レベル、即興スピーチ、ピア活動、不安軽減
1.問題意識
1.1 動機
1.1.1 実践的な
実践的な必要性
ベトナムでは現在主に次の 2 つの場面においてしばしば日本語の口頭表現能力が必要とさ
れる。学習過程では、口頭試験、授業での報告、卒業論文の研究報告、大学間交流、スピー
チコンテスト等である。職業生活では、PR、マーケティング、ガイド業、通訳業、教職等で
高度な口頭表現能力が要求されるようになってきた。業務上、日本の会社と関わりを持つ企
業が増え、仕事で日本語を活用する機会が近年多くなってきている。
しかし、日本語学習者は特に口頭表現能力において弱点を抱えている。例えば「日本語が
できる人材は人数的には余っているが、能力的には不十分である」
(Phung 2007:9)と言わ
れている。
つまり日本語学習者はいまだ社会のニーズに対応できていないという現状がある。
では、ハノイ大学の日本語教育はこの問題点に対して対応していると言えるのであろうか。
1.1.2 ハノイ大学
ハノイ大学における
大学における「
における「話す授業」
授業」の現状と
現状と学生の
学生の問題点
「話す授業」の現状と問題点を把握するために、教師と学生を対象に 2 回のインタビュー調
査を行った。2008 年 8 月の予備調査1の結果によると、ハノイ大学の「話す授業」では主
に会話のような短いやり取りにおける言い方が指導されており、学生達が自分の説明したい
ことをまとまった文章で表現できないという傾向があることが分かった。更に、自信を持っ
て、人の前で日本語を話すことができないという問題も見られた。また、ハノイ大学の中級
レベルと口頭能力測定表(Oral Proficiency Interview: OPI)の中級(Intermediate)の「判
定基準」とを照合すると、ハノイ大学の中級レベルの学生は、独立した文または連文で話す
能力が不足していると考える。
表 1 口頭能力測定表の中級判定基準(国際交流基金(2007:13)を基に、筆者が作成)
レベル
I:Intermediate
コントロールできるテキストの型
独立した文または連文(一続きの意味を表す連続し
た複数の文)で話す。
できること
質問したり、答えたりすることができる。日常的な
ことに対応する(サバイバルの会話)
。
2
更に、2009 年 4 月の現状調査 は、主に次の 3 点が明らかになった。①日本語で口頭表現
能力を育成するための環境が工夫されていない。②授業中のフィードバックはほとんど教師
によるものである。③学生の多くは日本語を正しく言えるかどうかに不安を持っている。
調査の結果から次の 3 つの示唆が得られた。①学生の力を生かすことが必要である。②学
生に自信をつけさせることが必要である。③口頭表現能力を改善するために学生間での活動
が十分ではない。
1.2 即興スピーチ
即興スピーチに
スピーチに着目する
着目する理由
する理由
口頭表現能力を養成する方法には、様々な方法(プレゼンテーション、プロジェクトワー
ク他)がある。本研究ではその中からスピーチを取り上げ、考察する。スピーチとは、
「人前
でまとまった話をすること」
(小池他 2003:422)である。
スピーチは①準備されたスピーチと②即興スピーチに大別される。①の準備されたスピー
チは「内容、構成、使用表現に関してよく考える時間があるため、間違いもなく、構成のし
っかりした、分かりやすいスピーチになる可能性が高くなる。その一方で、原稿を読むだけ
になったり、暗記して話すだけになることも考えられ、聞き手の存在を無視したスピーチに
なる可能性がある」
(国際交流基金 2007:46)
。他方、②の即興スピーチは「原稿を用意した
スピーチに比べると、まとまりに欠け、間違いやフィラーが多いスピーチになる可能性があ
る。そのため、日本語に自信のない学習者に心理的な負担となる。しかし、聞き手の反応を
確かめながらスピーチをする可能性は大きく、短い時間で考えをまとめて話したり、実際の
場面で使えるスピーチ能力を育てるのに適している」
(国際交流基金 2007:46)
。
ハノイ大学はこれまで多くのスピーチコンテストを主催してきた。2007 年 9 月 7 日のコン
テストを例にすると、ハノイ大学の学生のスピーチは「原稿のある準備されたスピーチはか
なり良いできであった。しかし、質疑応答になると、
「はい」や「いいえ」だけで終わってし
まい、自分の考えや気持を聞き手に伝えられなかった」
(Nguyen 2007:14)
。学生が審査員の
質問にうまく答えられない要因は様々ある。例えば、質問される際の不安や準備されていな
い即興的なことに対応できないという要因が考えられる。以上の背景から本研究では聞き手
の反応を見ながら、短時間でまとまった話をする即興スピーチに着目することにした。
即興スピーチを指導する際にいくつかの方法が考えられる。本研究では、即興スピーチの
指導にピア活動を取り入れた。ピア活動を取り入れた背景として、
「他の学生のスピーチを聞
く姿勢がない学生が多い」
、
「独自の視点がなく、聞き手にとって内容が面白くない場合が多
い」といった教師の声がある。筆者自身も同僚の日本語教師も話し手以外の学生を授業に積
極的に参加させるためには、どうしたら良いかという問題で悩んでいた。ピア活動に問題解
決の手がかりがあるのではないかと考えた。
2.先行研究
スピーチ指導に関しては倉八の一連の研究(倉八 1993、1994、1996)がある。倉八(1993)
は、上級の学習者に「準備されたスピーチ」をさせた後、スピーチを他者評価させた上で内
容面に関して自由討論をさせた。授業を分析した結果、他者のスピーチを聞く場合に、スピ
ーチを注意しながら自覚的に聞く機会を得ることにより、聞き手はスピーチの技術について
学習したと認知することが明らかになった。また、スピーチの経験が自信を深め、達成感等
をもたらすことが示された。倉八(1994)は、上級の学習者が認知するような情報的なフィ
ードバックを与えるスピーチの指導をデザインした。授業を分析した結果、情報的なフィー
ドバックがスピーチへの不安を除去し、内発的動機付けを高める上で重要であることが見出
された。倉八(1996)は、感情・意欲の状態を適切に保つことが知的能力が機能する前提条
件であるという立場を取っている。情報的と認知されるような学習者間のフィードバックを
することによって、話し手の不安は軽減され、動機付けが高まったことが示されている。
樽田(2000)は中上級の学習者を対象に、次の 3 点を目的として準備されたスピーチ、即
興スピーチ、聞き手による評価スピーチからなる授業をデザインした。①聞き手との間に良
いコミュニケーション関係が作れるようなスピーチができるようにする。②頭の中にある日
本語能力をフルに活用する機会を与える。③自分の意見や考えがのびのび発表できるよう、
外国語で行なうスピーチに対するストレス等を取り除く。授業を分析した結果、学習者が「聞
き手を意識したスピーチ」の重要性を認識したことが分かった。さらに、自分のスピーチの
ことだけを考えずに、他の学生のスピーチも楽しんで聴こうという気持のゆとりが学習者に
生まれたことが示されている。
金(2005)は協働学習(ピア・ラーニング)の知見を生かし、「1 分間スピーチ」の課題
を与えた後に行う「ピア内省」に関する実証研究を行った。分析の結果、学生の内省を促進す
るには、「情報の共有」と「具体的な指摘」が必要であることが確認された。
金(2005)の研究の他にも、ピア・ラーニングの概念をスピーチ指導に取り入れた研究が
ある。藤田・フランプ(2009)は、準備されたスピーチを基にしたスピーチコンテストの試
みについて報告している。そこでは、①文法、表現、スピーチ指導をし合ったりする等、学
生同士が協力してスピーチ原稿の準備をしていたこと、②学生同士は互いに知識を共有する
ことで新しい発見をし、達成感を感じていたことが示されている。
上述した先行研究から次のような示唆が得られた。学習者間のやり取りや相互評価(フィ
ードバック、ディスカッション)は、情意面にプラスの効果を及ぼすだけではなく、他者(聞
き手)の視点に気付くことにより、聞き手を意識した効果的なスピーチを促進する可能性が
ある。ハノイ大学の中級レベルの学生の口頭表現能力に関する問題点を解決するために、こ
れらの研究の成果を踏まえ、即興スピーチにピア活動を援用したい。
3.研究目的と
研究目的と研究課題
日本語を専攻する中級レベルの学生の口頭表現能力を伸ばすために「話す授業」を改善す
る第一歩として、ハノイ大学の話す授業に即興スピーチとピア活動を取り入れる。本研究の
目的は次の 2 点である。①学生のスピーチに対するピア活動の影響を明らかにする。②即興
スピーチとピア活動を取り入れた授業は、学生の不安軽減に効果をもたらすかを明らかにす
る。具体的には、次のように研究課題を設定する。
課題 1.ピア活動の前後でスピーチがどのように変化したか。
1-1 ピア活動の前後でスピーチ変化の評価は上がったか。
1-2 どの項目の伸び率が大きいか。
課題 2.ピア活動におけるやり取りは事後スピーチの改善にどのように貢献するか。
課題 3.即興スピーチとピア活動を取り入れた授業は、学生が日本語を話す際に感じる不安
を軽減するか。
池田(2004:37)では、ピアレスポンスを「学習者が自分たちの作文をより良いものにし
ていくために仲間(peer)同士で読み合い、意見交換や情報提供(response)を行いながら
作文を完成させていく活動方法である」と定義している。本稿では、池田(2004)を参考に、
即興スピーチにおけるピア活動を、学習者が自分達のスピーチを改善するためにお互いにス
ピーチを聞き合い、仲間同士で話し合い、フィードバックを与え、意見交換や情報提供を行
う活動と定義する。なお、仲間同士でフィードバックを与えることをピア・フィードバック
と呼ぶ。
4.調査の
調査の概要
4.1 パイロット調査
パイロット調査
本調査に先立ち、2009 年 3 月にベトナムで 2 年間教えた経験がある国際交流基金の教員、
及び本プログラムの連携大学院の学生から協力を得て、パイロット調査を行った。パイロッ
ト調査では、次の 2 点を検討した。①選定した即興スピーチの話題の内容は中級レベルのベ
トナムの学生に適切であるかどうか。②ピア活動前後のスピーチの時間はどのぐらいが適切
か。検討した結果、次の 2 点が確認された。①選択した話題は中級レベルのベトナムの学生
に適切である。②ピア活動前のスピーチ(以下、事前スピーチ)を 2 分間、ピア活動後のス
ピーチ(以下、事後スピーチ)を 3 分間とすることが適切である。
4.2 本調査
2009 年 4 月 6 日から 4 月 24 日までハノイ大学で調査と即興スピーチにおけるピア活動の
授業(以下、実験授業)を行った。
4.2.1 実験授業の
実験授業の概要
1)対象者
ハノイ大学の日本学部 2 年生(4 学期)52 名、2 つのクラスを対象にした。調査の時点で、
対象者は日本語の学習を 1240 コマ(1 コマ 45 分)終了している。これは中級後半のレベル
に相当する。
2)オリエンテーション
本格的に実験授業に入る前に、次の手順でオリエンテーションを行った。①準備されたス
ピーチと即興スピーチの相違点、利点、弱点を説明する。②良いスピーチとはどのようなス
ピーチかをディスカッションする。③ピア活動の手順と意義について説明する。④ピア活動
を導入するために、1 回目と 2 回目の実験授業で、それぞれの前半、本格的に活動に入る前
に、即興スピーチのサンプル(良い例:1 つ、悪い例:1 つ)の自作 CD を聞く。⑤ピア活動
のリハーサルを行う。⑥どのように話し手にフィードバックを与えたらいいかディスカッシ
ョンする。
3)スピーチの
スピーチの話題設定
7 回分の授業で 12 の話題を選定し、即興スピーチを実施した。話題①から話題⑧までは教
師3が選定し、話題⑨からはクラス全員で選定した。スピーチの話題は表 2 の通りである。
表 2 スピーチの話題
回数
1
2
3
話題
①私の故郷
②私の小学校
③学生生活
④私のアイドル
回数
4
5
話題
⑤忘れられない思い出
⑥私の好きな本
⑦私の夢
⑧私の理想的な恋人
回数
6
7
話題
⑨私の友達
⑩私の大切なもの
⑪私の将来
⑫日本語の学習
4)授業の
授業の流れ
3 週間で、全 7 回授業を実施した。1 回の授業は 90 分(2 コマ)である。担当教師は「話
す授業」を担当している日本語母語話者教師(以下、NT)とベトナム語母語話者教師(筆者)
であり、授業はチームティーチングで行われた。また、実験授業の手順はピア・レスポンス
の手順(広瀬 2004)と「ピア内省」活動の手順(金 2005)を参考にした。聞き手の存在を意
識させるために、
与えられた話題に関して、
グループ内で質問作成をする時間を 5 分設けた。
さらに、作成された質問をクラス全員で共有する時間も 5 分設けた。ピア活動での使用言語
は日本語とベトナム語のどちらでも可とした4。1 つのピアグループは 3 名で、話し手 1 名、
聞き手 2 名で編成された5。タスクシートは活動を支援するツールである。話し手用と聞き
手用に分けられ、タスクシート 1 から 4 まである。金(2005)のタスクシートを採用し、一
部修正を加えた(資料 2 を参照)
。即興スピーチもピア活動でのやり取りも録音した。授業の
手順は表 3 の通りである。
表 3 実験授業の手順
手順
前作業
(10 分)
本作業
(30 分)
後作業
(10 分)
活動
・教師はのスピーチの話題を提供する(2 分)
。
・学生は 5 人のグループで話題に関する質問を作成する(5 分)
。
・作成した質問を全員で共有する(5 分)
。
①事前スピーチ(2 分)
:話し手がグループで即興スピーチを発表する。
②ピア作業準備(5 分)
・スピーチ後、話し手は自己評価を、聞き手は他者評価を【タスクシート1】に記入。
③ピア活動(10 分)
・聞く作業:話し手と聞き手は録音したスピーチを一緒に聞く。新しく気付いたことが
あったら、
【タスクシート 2】に記入する。
・やり取り:
【タスクシート 1】と【タスクシート 2】を基にする。
・聞き手はスピーチの中に分からないことやもっと知りたいことがあれば、質問する。
話し手は具体的な説明をする。
・聞き手はより良いスピーチになるように、内容や発表の仕方についてアドバイスを行
う。話し手はアドバイスを聞きながら、必要な場合、他の色のペンで【タスクシート 2】
にメモを取る。聞き手と相談する(5 分)
。
④振り返り(5 分)
・聞き手は話し手のスピーチをより良いものにするために、
【タスクシート 3】にアドバ
イスをしたことを書く。
・話し手はアドバイスを受け、スピーチで改善しようと思う点を【タスクシート 3】に書
く。
⑤事後スピーチ(3 分)
:グループで発表する。
⑥学生は活動への振り返りを【タスクシート 4】に記入する(5 分)
。
・2 回のピア活動後にピアグループでのやり方の改善と、学生の視野を広げるために、ク
ラス全員でアドバイスやコメントについて意見交換をする。
4.2.2 アンケート調査
アンケート調査
1)不安軽減の
不安軽減の調査
即興スピーチとピア活動を取り入れた授業は、学生が日本語を話す際に感じる不安を軽減
するかを調べるために、アンケート調査を実施した。岡部(2002)の「口頭発表場面のスピ
ーチ不安に関する調査項目」を参考に、15 問からなる調査票を作成し、4 段階評定で回答を
求めた(資料 1 を参照)
。
実験授業前に、学生全員にアンケート調査票を配り、回答してもらった。そして、7 回の
授業が終わってから、同調査を行った。調査票の問いは授業前の調査票と同じ内容、同じ順
番であった。回収率は 100%であった。
2)授業評価の
授業評価の調査
7 回の実験授業後、全員の学生に授業評価の質問紙(資料 5)を配り、実験授業に関する気
づき、意見、感想等について回答してもらった。また自由記述の欄も設け、それについてイ
ンタビューも行った。質問紙記入の回収率は 92%(52 名中 48 名回収)であった。
4.2.3 データと
データと分析方法
1)データ
7 回目の授業で取り上げられた最後の話題「日本語の学習」の全員のスピーチ変化を課題 1
のデータとする。課題 1 に基づいて分析に用いたデータは、次の 2 つである。①13 名の話し
手による事前スピーチと事後スピーチの録音。②評定者が評価したスピーチ変化の得点、ス
ピーチ変化に対する評定者のコメント記述。7 回目の授業で行ったスピーチを分析対象とす
る理由は次の通りである。学生は 6 回の授業を経て、ピア活動の経験を積み、能動的に学ん
でいる可能性がある。従って、7 回目の授業におけるスピーチの変化から学生が何を学べた
かが見られると予想される。
課題 2 に基づく分析に用いたデータは、次の 2 つである。①S4 のグループのスピーチの録
音及び文字化資料。②S4 のピア活動のやり取りの文字化資料。S4 のグループのデータを取っ
た理由は次の通りである。S4 のスピーチは変化の得点の平均値が最も高かった。そのため、
ピア活動の影響が強いことが予想された。
課題 3 に基づく分析に用いたデータは、次の 2 種類である。①授業前と後のアンケート調
査票の回答、②授業評価に関する質問紙やインタビューの回答である。
2)スピーチ変化
スピーチ変化の
変化の評価の
評価の手続き
手続き
3 名の日本語教師(NT)にスピーチ変化に対する評価を依頼した。評定者は事前スピーチ
と事後スピーチの録音を聞き、その後に評価票(資料 6 を参照)に得点とコメントを書き込
んでもらった。評価票を作成するにあたり、評価項目は国際交流基金(2007:47)を、そし
て 5 段階評価は原田(2007)を参考にしている。また、
「日本語の学習」の話題の性質を考慮
した上で、表 4 のような評価基準を設定した。
表 4 スピーチ変化の評価基準
順番
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
項目
詳細
自分の経験に基づいた具体的なものだったか。例があったか。
興味深かったか。言いたいことが明確だったか。
「構成」
話の始め方、展開の仕方(論理性)
、終わり方。
「文法」
正しかったか。
「語彙」
適切だったか。豊富になったか。
「発音」
はっきりして分かりやすくなったか。
「流暢さ」
話がスムーズだったか。フィラーを適切に使用したか。
「聞き手とのインターアクション 聞き手に質問を投げかけ参加させる、聞き手の反応を意識する
の有無」
など。
「内容」
3)分析方法
課題 1 では、3 名の評定者が評価したスピーチ変化の得点を集計し、ピア活動の前後でス
ピーチ変化の評価が上がったかどうか、そしてどの項目の伸び率が大きいかを分析した。
課題 2 では、まず、ピア活動でのやり取りの中で取り上げられたフィードバックのポイン
トを抽出した。次に、そのポイントが事後スピーチに反映されたかどうかを確認した。それ
から、反映された箇所がスピーチの改善に貢献したかどうかを分析した。
課題 3 では、授業前と後のアンケート調査の得点を集計し、平均値を算出した。t検定を
使用し、7 回の授業を通して、学生が日本語を話す際に感じる不安が軽減されたかどうかを
分析した。さらに、授業評価に関する質問紙やインタビューの回答に基づき、不安軽減への
本授業の有効性を考察した。
5.学生の
学生のスピーチに
スピーチに対するピア
するピア活動
ピア活動の
活動の影響の
影響の結果と
結果と考察(
考察(課題 1、課題 2)
5.1 課題 1
3 名の評定者の得点を集計し、ピア活動の前後でスピーチ変化の評価が上がったかどうか、
そしてどの項目の伸び率が大きいかを見た。結果は次の通りである。
1)3 名の評定者による
評定者による変化
による変化の
変化の評価の
評価の平均値
平均値(課題 1-1)
3 名の評定者が同一のスピーチ変化に対して下した評価は図 1 の通りである。
3 名の評定者
間の得点差が 1 以内の場合は「一致」とみなし、一致率を算出したところ 76.9%だった。
変化の得点
1 .5
1
0 .5
H1
H2
0
S1
S2
S3
S4
S5
S6
S7
S8
S9
S1 0
S1 1
S1 2
S1 3
H3
- 0 .5
-1
図 1 評定者ごとの評価結果(記号:S〈スピーチ〉
、H〈評定者〉
)
ピア活動前後で、
スピーチ変化の評価が上がったかどうかを見るために、
スピーチごとに、
3 名の評定者による変化の評価の得点の平均値を算出し、グラフを作成した。そのグラフは
以下の通りである。
1
0.8
0.6
平均値
0.4
0.2
0
S8
S11
S1
S7
S2
S3
S13
S6
S12
S9
S10
S5
S4
図 2 3 名の評定者による評価得点(平均値)
図 2 で示したように、3 名の評定者による変化の評価の平均のグラフから全体的にスピー
チが改善されたことが分かった。個人差があるものの、それぞれのスピーチはプラスの変化
の評価を得た。つまり、ピア活動の前後でスピーチ変化の評価は上がった。
2)項目別の
項目別のスピーチ変化
スピーチ変化の
変化の評価(
評価(課題 1-2)
次に、全員のスピーチ変化を項目ごとに見た結果を示す。図 3 は、スピーチ変化の項目別
の得点の平均値である。3 名の評定者の平均値を算出したものであり、以下にどの項目の伸
び率が大きいかに注目し、考察する。
0.95
1
0.8
0.54
0.6
0.59
0.59
0.18
⑤発音
平均
0.18
⑥流暢 さ
0.4
0.54
0.2
①内容
⑦ イ ン ター ア ク
シ ョン
②構成
④語彙
③文法
0
図 3 項目別のスピーチ変化
すべての項目が 0.18~0.95 の間で改善されている。但し、その幅は様々で、①「内容」
、
②「インターアクション」と「構成」
、④「語彙」と「文法」
、⑥「流暢さ」と「発音」の順
で伸びていた。
更に、3 名の評定者のコメント(表 5)では、
「内容」
、
「構成」
、「インターアクション」に関
し、概ねプラスの評価が記されていた。①「内容」の場合、事後スピーチは全般的により具
体的、かつ明確になった。②「構成」の場合、事後スピーチでは、開始部分・結論部分の明
確性、始終の一貫性に関する進歩が多い。③「インターアクション」の場合、話し手が聞き
手を意識するようになった。事後スピーチは聞き手への問いかけが多くなった。④「語彙」
のコメントは少なかったが、ある場合、ほとんどプラスの評価を示した。⑤「文法」では、
コメントが少なく、スピーチによってプラスの評価もマイナスの評価もあった。つまり、
「文
法」の改善に関しては個人差がある。⑥平均値が一番低かった「流暢さ」と「発音」の場合、
事前と事後のスピーチでは目立った改善がない(表 5 を参照)
。
表 5 評定者のコメント例
項目
「内容」
「構成」
コメント例
・日本語学習のきっかけが明確になっている。
・
「日本語を勉強していて、面白いこと」という内容が加わり、興味深かった。
・日本人と話すチャンスに関する説明が付け加えられた。そのため、
「日本語
の勉強」に関し、より詳しく分かるようになった。
・最後に「将来の希望」が付け加わり、スピーチの終わり方がはっきりした。
・最初と最後で仕事と日本語学習の関係に関する言及が加わったことにより、
論理的に一貫性のあるスピーチになった。
・中盤が長くなって、スピーチに厚みが出た。
「インターアクショ ・事後スピーチは、経験の有無を問う等、非常に聞き手を意識している。
ン」
・後半部(
「自分の将来」
)にも聞き手への問いかけが加わった。
・初めに質問をしたのはとてもいい。
「語彙」
・
「日本語の学習の困難さ」に関して説明する際に、用いる語彙が増えた。
・将来の「予定」等、不正確な語彙の使用をやめた。
「文法」
・事前スピーチのミスが全部修正できている。
・
「~すれば~するほど」
、
「~のに」等の文型を使っている。
・文法のミスが多くなった。
「流暢さ」
・新たに付け加えた部分を話す際、なかなか言葉が出てこないことが多かった。
・全体的にスムーズだが、難しい表現を正確に使おうとしている分、事後のほ
うが詰まっている部分もあった。
「発音」
・
『改善』
『自然』等、難しい語彙が増えた分、うまく発音できない語も増えて
しまった。
・全体的に発音がよりはっきりした。
スピーチ変化の評価、評定者のコメント記述から「内容」
、
「構成」
、
「インターアクション」
に関し、大幅な向上があったことが明らかになった。
これまでハノイ大学で行われた「話す授業」は、教師によるフィードバックが中心であり、
日本語の正確さに重点が置かれてきたため、
「内容」に焦点が当たらなかった。しかし、今回
の実験授業では、ピア・フィードバックの後に変化が著しかった項目は、
「文法」ではなく、
「内容」であることが明らかになった。下瀬川他(1995:42)によると、会話をする際も、
スピーチをする際も最も大切なのは形式よりも内容であるという。話す際にどのような場面
でも文法(形式)に終始注意を払うのではなく、内容を理解してもらうことが大事であると
筆者も考える。内容が改善されたということは、今回初めて実施されたピア活動が影響して
いる可能性は高い。もちろん、スピーチ変化に影響を与える要素はピア活動だけではない。
スピーチを同じテーマで 2 回行うことや、話し手自身で気づいたことによりスピーチが改善
された場合もあるであろう。そこで、次節ではピア活動中に行われたやり取りを分析し、や
り取りが事後スピーチに与えた影響を検討する。
5.2 課題 2
課題 2 では、ピア活動においてどのようなやり取りが、スピーチの改善に影響を与えたか
を分析する。
ここではスピーチ変化の平均値が一番高い S4 のグループのピア活動中の日本語
でのやり取りと、S4 のスピーチ変化を分析する(活動の手順は 4.2.1 表 3 を参照)
。
5.2.1
5.2.1 スピーチの
スピーチの改善に
改善に貢献した
貢献したピア
したピア活動
ピア活動でのやり
活動でのやり取
でのやり取り:フィードバックの
フィードバックの種類から
種類から
5.2.1.1 ピア・
ピア・フィード
フィードバックと
バックと事後スピーチ
事後スピーチへの
スピーチへの反映点
への反映点
9 分間のピア活動を分析した結果、ピア・フィードバックはアドバイス型と質問型の 2 つ
のタイプに大別された。ピア・フィードバックのポイントを抽出し、そのポイントが事後ス
ピーチに反映されたかどうかを示したものが表 6 である。
表 6 ピア・フィードバックのポイントと事後スピーチへの反映点
ピア・フィードバックのポイント
反映の
有無
○
(1)
「内容」
●会話の困難点を克服するため
の方法(改善案)を詳しく言
うこと。
(2)
「内容」
●会話が難しい理由を強調する
こと。
○
(3)
「内容」
●日本語の面白さなどについて
感想を言うこと。
○
(4)
「内容」
★会話の中で一番難しいことは
何か?
★スピーチに影響を及ぼす要素
は何か?
★どうして会話能力が問題か?
×
★漢字が難しいかどうか?
★将来はどんな仕事をするか?
●初めと終わりの部分を短くす
ること(2 回)
。
(10)
「文法」 ●「ます形」だけではなく、
「て
形」をもっと使うこと。
×
×
×
(5)
「内容」
(6)
「内容」
(7)
「内容」
(8)
「内容」
(9)
「構成」
事後スピーチの改善に反映された箇所
会話能力の向上のための具体的な方法
(改善案)
が加わった。[改善
改善<
改善<向上>
向上>するように私は日
するように
本のレストランに<で>アルバイトをすること
にしました][ちょっと文法が正しくないけど、
でも、自然
自然に
自然に言うことができます]。
うことができます
[会話が一番難しくて、困
困ったことが多
ったことが多くて、
くて、
解決の
解決の方法がまだありません
方法がまだありません]、
[日本語を話す
がまだありません
時、文法
文法は
文法は正しいか、正しくないかよく考えな
ければならない]が加わった。
感想が加わった。[日本語
日本語がとても
日本語がとても面白
がとても面白いです
面白いです
ね][勉強
勉強すれば
勉強すれば勉強
すれば勉強するほど
勉強するほど日本語
するほど日本語が
日本語が複雑だ
複雑だ
と思います]。
います
×
×
○
「て形」を多く使うようになった。[会話が一番
難しくて、困ったことが多
しくて
多くて、解決の方法が
くて
まだありません][日本語の文法が難
難しくて、覚
しくて
えにくい][アルバイト
アルバイトをして
をして、お客さんにしゃ
アルバイトをして
べると、ますます日本語がぺらぺら話せます]。
●:アドバイス型フィードバック、★:質問型フィードバック、○:事後スピーチに反映されたフィード
バック、×:スピーチの改善に反映されなかったフィードバック、[ ]:事後スピーチに反映された箇所、
< >:筆者による補足
5.2.1.2 ピア・
ピア・フィードバックの
フィードバックの種類
以下にアドバイス型と質問型、それぞれの特徴を記述する。
1)アドバイス型
アドバイス型フィードバック
アドバイス型は「~たほうがいいと思います」、
「~てください」、
「~てほしい
(と思います)
」、
「~したらどうですか」等の表現が使用された。スピーチ改善のために聞き手が与えたフィー
ドバックであり、
「内容」
、
「構成」
、
「文法」に関して行われた。アドバイス型のフィードバッ
クのうち、
「構成」以外は、事後スピーチに反映されたことが分かった。
「内容」に関するフ
ィードバックは 3 箇所に対し行われている。
「文法」に関するものは 1 箇所だった。
アドバイス型が事後スピーチに反映された理由として、スピーチの問題点に関する具体的
な指摘や改善案の重要性が強調されていたからだと考える。アドバイス型は明示的であり、
話し手に受け入れやすいことが分かった。
【アドバイス型
アドバイス型フィードバックの
フィードバックの事例 1】
S4:話し手、L1:聞き手 1、L2:聞き手 2、 { }:筆者による和訳、< >:筆者による補足
49L1:それは私にとって S4 さんのスピーチは改善の仕方<会話能力の困難点の改善案>はもっと詳しくしてほ
しい。→
→アドバイス型
アドバイス型フィードバック
50S4:でも、時間...<が足りない>
51L1:
(中略)
。それは私にとって大切だと思います。<改善案について詳しく言うことは大切です>。
→重要性の強調
私は S4 さんのスピーチは困難の問題。それは理由が大切だと思います。<会話が困難である理由につい
て言うことは大切です>。→重要性の強調
理由と改善される方は私にとって S4 さんに強調したい、あ、強調ほしいんです。<会話が困難である理
由と改善案について細かく説明してもらいたいんです>。→
→アドバイス型
アドバイス型フィードバック
52S4:はい。はい。分かりました。ありがとうございます。
【アドバイス型
アドバイス型フィードバックの
フィードバックの事例 2】
45L1:私のアドバイスは S4 さんのスピーチは「ます形」は多く使ったね。→具体的な指摘
46S4:
「ます形」?
47L1:
「ます形」
。それは聞き手は<が>つまらなく感じることがありますね。→具体的な指摘
「て形」とか、文章がもっと結ぶ<一層つながる>ようにそれは<を>使った方がいいと思います。
→アドバイス型
アドバイス型フィードバック
48S4:はい。はい。分かりました。
「構成」に関するフィードバックは事後スピーチに反映されなかった。
「長いです。少し長
い。スピーチの初めも終わりももっと短くしてください」
、
「スピーチの初めはもっと短くし
てください」といったフィードバックは具体性を伴わなかった。どの部分を短くすればいい
のか細かく指示がなかったため、S4 が受け入れられなかったと考えられる。また、
「構成」
は内容の変更を伴うものであるため、フィードバック終了後、瞬時に構成を変更するという
ことは、S4 には難しかったのでないかと推測できる。
2)質問型フィードバック
質問型フィードバック
質問型は聞き手がスピーチの「内容」について不明確なことや知りたいことについて質問
するタイプのフィードバックであった。
「会話をする時に何が一番難しいですか」「漢字は難し
いと思いますか」等の表現が見られた。質問型は「内容」に関するフィードバックであり、5
箇所で行われていたが、どれも事後スピーチに反映されなかった。
【質問型フィードバック
質問型フィードバックの
フィードバックの事例】
事例】
20L2:S4 ちゃん、漢字が難しいと思いますか。→
→質問型フィードバック
質問型フィードバック
21S4:ええと、私が漢字のことが、漢字のことも難しいと思います。でも、現代ですから、phuong tien truyen
thong la gi nhi{マスコミは日本語で何と言いますか}?
22L1:情報。
23S4:情報の...
24L1:手段
25S4:情報の手段がたくさんありますから、コンピュータとか、
26L1:インターネット。
27S4:インターネットとか、漢字の問題が...
28L1:問題。書く。
29S4:問題ではありません。書くことができます。インターネットによって書くことができます。
30L2:将来どんな仕事をしますか。→
→質問型フィードバック
質問型フィードバック
31S4:私は将来通訳になりたい。
32L1:えー、通訳?
33S4:はい。
34L1:お金持ちの人になりますね。600USD mot thang{月に 600 ドル}。
35S4:私の先生によって 600 のドルがもうけるように、もうける<ことが>できるようになりました。
36L1:えらいですね。
37S4:私は旅行に<が>好きですから、通訳になりたいです(笑う)
。
質問型フィードバックを事後スピーチに反映させる際には、聞き手の興味や関心をその場
で整理する必要がある。そしてどのようにスピーチに取り入れていくかを話し手は考えなけ
ればならない。アドバイス型の質問とは異なり、質問型には具体的な改善案が含まれていな
かったため、事後スピーチに取り入れるのに、より複雑な思考が必要であったと思われる。
また、なぜそのような質問をするのか、聞き手の意図は何かということを把握するために、
S4 が聞き返していれば、質問型フィードバックも事後スピーチに反映されたかもしれない。
しかし、ピア活動の時間が限られていたこと、オリエンテーションでそのような指導をして
いなかったこともあり、今回のデータにはそこまでに至るような例が見られなかった。
5.2.2 スピーチの
スピーチの改善に
改善に貢献した
貢献したピア
したピア活動
ピア活動でのやり
活動でのやり取
でのやり取り:評定者の
評定者のコメントから
コメントから
5.2.2.1 直接的な
直接的な影響
ピア・フィードバックでは、
「内容面」についてのコメントが一番多く見られたことは前述
の通りである。これは、評定者のコメントからも裏付けられた。S4 のスピーチ変化について、
評定者は次のようにコメントを記載していた。
内容をうまく構成し直した。例をあげ、現実の問題、そして課題と進めた(H1)
。
「日本語会話の難しさ」に関する説明が詳しくなった(H3)
。
以上のことから、S4 のスピーチはピア活動の影響を受け、「内容」面が改善されたと言える。
5.2.2.2.
5.2.2.2. 間接的な
間接的な影響
評定者は、
「内容」以外にも、
「構成」
「語彙」
「インターアクション」の項目に対しても変
化が見られたと、肯定的な評価をしていた。ピア活動ではこれら 3 項目に関して直接言及さ
れなかったため、間接的な影響と捉えることにする。
1)
「構成」
構成」
評定者 H3 は、S4 の事後スピーチを聞いて次のようにコメントしていた。
「構成」に関して、終わりにこれからどのように日本語学習を続けていくか
<アルバイトをすること> に関する説明が加わった(H3)
。
S4 は、会話能力を向上させるための具体的な方法を入れたほうがいいという内容面のピ
ア・フィードバックを取り入れた結果、事後スピーチに以下が加えられた。
改善<
改善<能力が
能力が向上>
向上>するように私は日本のレストランに<で>アルバイトをすることにしました。
するように
このように H3 が指摘した「構成」面の改善は「内容」に関するアドバイス型のピア・フィ
ードバックが反映された結果である。
「内容」に関するピア・フィードバックはスピーチの「構
成」の改善に間接的に貢献したと考えられる。
2)
「語彙」
語彙」
「語彙」については、評定者 H2 は次のようなコメントを記した。
「語彙」
:豊富になった(ますます、改善、自然等)
(H2)
。
ピア活動では「語彙」に関するフィードバックはなかった。しかし、
「内容」について具体
的に詳しく説明してほしいというアドバイス型のピア・フィードバックが取り入れられた結
果、
「語彙」
が豊富になったと推測できる。
聞き手がフィードバックの際に使用した
「面白い」
、
「方法」
、
「改善」といった「語彙」が、S4 の事後スピーチにそのまま現れていた。
例えば、
「改善」は日本語能力試験 1 級レベルの語彙である。スピーチの時点で S4 は「改
善」という語彙を知っていた可能性はある。しかし、
「改善の仕方を強調してほしい」という
フィードバックがあったからこそ、S4 は「改善」という言葉を適切に取り込んだと推察でき
る。
「内容」に関するピア・フィードバックはスピーチの「語彙」の選択に間接的に貢献した
ことが示唆される。
3)
「インターアクション」
インターアクション」
「インターアクション」については、評定者は次のようなコメントを記した。
事後
(スピーチ)
は、
経験の有無を問う等、
非常に聞き手を意識している
(H2)
。
(特に前半)聞き手への問いかけが増えた(H3)
。
「インターアクション」に関するピア・フィードバックがなかったにもかかわらず、S4 の
事後スピーチを見ると、特に前半の箇所に問いかけが増えていることが分かる。ピア活動を
通じて聞き手と話し合ったり、意見交換をしたりするプロセスがあったからこそ、S4 は聞き
手の存在をより意識するようになったと考えられる。ピア活動におけるやり取りはスピーチ
の「インターアクション」の改善に間接的に貢献したことが示唆される。
以上のことから、課題 2 では、スピーチ改善に影響を与えたやり取りがアドバイス型フィ
ードバックであったことと、
「内容」に関するフィードバックが多かったことが明らかになっ
た。そして、ピア活動は、
「構成」や「語彙」
、
「インターアクション」に対して間接的な影響
を与えることが示唆された。
6.
即興スピーチ
(課題 3)
即興スピーチと
スピーチとピア活動
ピア活動を
活動を取り入れた授業
れた授業は
授業は学生の
学生の不安軽減
不安軽減に
軽減に効果をもたらすか
効果をもたらすか
授業前と後のアンケート調査(資料 1)の得点を集計し、学生が日本語を話す際に感じる
不安が軽減されるかどうかを検討する。また、授業評価に関する質問紙やインタビューの回
答に基づき、不安軽減への本授業の有効性を考察する。
図 4 はアンケート調査の問い別による授業前後の不安軽減を平均した結果である。
4
3
2
事前
1
事後
0
問1
問2
問3
問4
問5
問6
問7
問8
問9 問10 問11 問12 問13 問14 問15
図 4 学生の不安軽減の調査結果(平均値)
各項目には不安の軽減が見られ、t 検定を行なったところ、5 項目について有意差が認めら
れた。
6.1 授業前後の
授業前後の不安軽減に
不安軽減に有意な
有意な差が認められた項目
められた項目
問 4、問 6、問 7、問 10、問 11 には有意差が認められた。具体的には次のようである。
問 4:
「日本語で話す時、文法的に正しい日本語を話せるかどうか心配だ」
(t(102)=3.812,p<.05)
。
問 6:
「日本語で話す時、まちがった日本語を話していると気付いて、不安になる」
。
(t(102)=3.247,p<.05)
問 7:
「日本語で話す時、途中で止まらずに流暢に日本語を話せるかどうか心配だ」
(t(102)=3.684,p<.05)
。
問 10:
「日本語で話す時、日本人から日本語が下手だと思われないか心配だ」
(t(102)=3.119,p<.05)
。
問 11:
「日本語で話す時、先生から日本語が下手だと思われないか心配だ」
(t(102)=3.481,p<.05)
。
有意差が認められた問 4、問 6 は日本語の正確さに関する不安である。授業前に、学生に
インタビューした際、多くの学生は「人の前で、特に日本人と日本語の先生の前で文法を正
しく話せるかどうか心配」
、
「日本語を間違えて、話したら、恥ずかしい」と述べた。また、
「先生の前で日本語を話す時、文法の間違いが多いのではないかと緊張する」
、
「日本人の前
で話す時、自分の日本語能力が低いと思われるのではないかと心配」という声が非常に多か
った。このインタビューの回答から日本語の正確さに対する不安、先生や日本人の前で話す
際に不安を強く感じる様子が窺えた。しかし、7 回の授業後、問 4、問 6 への回答に見られる
ように、日本語の正確さにこだわる不安が減っている。ピア活動を通して、日本語を話す際
の日本語の正確さに対する学生達の認識が変わったと推測できる。授業後のインタビューに
おいては、ほとんどの学生がピア活動は日本語の正確さに対する不安を軽減する効果がある
と述べた。例えば、次のような回答例があった。
(斜字は筆者による和訳)
。
日本語を話す際に、大事なのは自分の気持ち、自分の言いたいことをどのように聞き手に伝えるかとい
うことが分かるようになった。日本語を間違えたかどうかは気にならなくなった。そこで、前より自信
を持って、日本人と話すことができると思う。正しく話さないところがあっても、恥ずかしくない。
自分だけではなく、クラスメートの友達も日本語を間違えて話すことが分かったので、自信が付いた。
問 10、問 11 も有意差が認められた。ピア活動を通して学生達はクラスメートの仲間と共
に意見交換をし、リラックスした雰囲気で話し合うことが体験できた。これに関し、学生の
インタビューを引用する。
即興スピーチ、ピア活動を体験して、クラスメートと一緒に意見交換ができた。リラックスできた。先
生と話す時に感じた緊張感はほとんどない。
聞き手を身近なものと感じるピア活動の体験を通して、日本人・先生の前で話す不安が軽減
したと推測できる。
その他、流暢さに対する不安軽減(問 7)にも有意差が認められた。授業前のインタビュ
ーでは、流暢さに対する不安に関し、学生達は次の理由を語っていた。
私達はよく日本語を話しながら、どうすれば正しく日本語が話せるかについて考える。そのため、淀みが
多く、なめらかに話せない。
一方、授業後のインタビューでは、多くの学生は流暢さに対する不安が軽減されたという結
果が得られたと述べた。例えば、次のような回答例があった。
ピア活動で仲間と色々話し合ったので、自分のスピーチはどこがいいか、どこが良くないか分かるように
なり、事後スピーチに生かせた。だから、流暢に話せるようになったと思う。だから、それに対する不安
もなくなった。
複数の活動を重ねることで、人の前で話す回数が増え、自分のスピーチの良さや改善点が分
かったことが窺える。ある程度自信も付き、流暢さに対する学生達の緊張がなくなったと考
えられる。
6.2 授業前後の
授業前後の不安軽減に
不安軽減に有意な
有意な差が認められなかった
められなかった項目
なかった項目
その他の項目は不安軽減に有意差が認められなかった。以下はその各項目である。
問 1:
「ふだんから日本語で話すのは緊張する」
。
問 2:
「多くの人の前で日本語で話すのは心配だ」
。
問 3:
「クラスの前で日本語で話す時、失敗するのは心配だ」
。
問 5:
「日本語で話す時、正しい発音で話せるかどうか心配だ」
。
問 8:
「日本語で話す時、自分の意見をはっきり言えないので心配だ」
。
問 9:
「日本語で話す時、自分の言いたいことをうまく説明できないので心配だ」
。
問 12:
「日本語で話す時、他の学生から日本語が下手だと思われないかと心配だ」
。
問 13:
「日本語で話す時、聞き手が自分の日本語を理解しているかどうか心配だ」
。
問 14:
「日本語で話す時、予想していない質問をされると、緊張する」
。
問 15:
「日本語で話す時、他の人からの質問が聞き取れなくて、不安になる」
。
これらの項目の不安軽減に有意差が認められなかった理由は次のように考えられる。①今
回の活動が直接対象にしなかった点については目立った不安軽減が見られなかった。
例えば、
問 2、問 3 に関して十分な不安軽減が得られなかったのは、今回の活動が 3 名のグループで
行われ、多人数の人の前でのスピーチ活動は設けられなかったためだと考えられる。②研究
課題 1 と研究課題 2 の結果が示すように、
「発音」はあまり改善されず、ピア活動で学生がお
互いに発音を訂正するのは困難であることが明らかになった。そのため、問 5 の不安が軽減
されていないのは想像できる。③授業が短期間でしか実施されなかったことも不安が軽減さ
れなかった要因の 1 つであると考えられる。④問 8、問 9 に関して十分な不安軽減が得られ
なかったことからは、自分の意見をはっきり言い、うまく説明できるようになるには、様々
な話題についての更なる活動が必要であることが窺われる。
授業評価の調査(4.2.2、資料 5)の自由記述を見ると、この授業を通して、以前より自信
が付いたと書いた学生は 48 名のうち 42 名(87.5%)であった。以下に 2 例引用する。1 つ
目の例は即興スピーチが不安の軽減に好影響を与えたとする意見である。
今までの「話す授業」はあまり学生に話す機会を与えていなかった。でも、即興スピーチにおけるピア
活動を行った本授業は学生全員に平等に話す練習の機会を多くもたらした。多くの授業を経て、日本語
で話すことになれるようになった。だんだん自信が付くようになると思う。
2 つ目の例はピア活動が不安の軽減に好影響を与えたとする意見である。
ピア活動でスピーチを良くするために、仲間と協力し、お互いに援助し合うことによって、だんだんリ
ラックスして、話せるようになった。スピーチを発表した時、聞き手に真剣に聞いてもらったので、自
信が付いた。また、聞き手の気持や態度を意識するようにもなったので、自信も付いた。
このように短期間の授業(全 7 回)を経験して、ある程度学生達の不安が軽減されたこと
が示された。
7.まとめ
本研究では次の目的を設定した。①学生のスピーチに対するピア活動の影響を明らかにす
る。②即興スピーチとピア活動を取り入れた授業は、学生の不安軽減に効果をもたらすかを
明らかにする。これらの目的に基づき、研究課題 1、2、3 を設定した。
研究課題1 の結果として、
3 名の評定者からスピーチ変化に対してプラスの評価が得られ、
全体的にスピーチが改善されたことが分かった。中でも「内容」
、
「構成」
、
「インターアクシ
ョン」が大きく向上したことが明らかになった。
研究課題 2 の結果として、次のようなことが確認された。ピア・フィードバックはアドバ
イス型と質問型に大別された。アドバイス型は「内容」
、
「文法」
、
「構成」に関するフィード
バックであった。
「内容」
、
「文法」に関するアドバイス型のフィードバックは、具体的な指摘
や改善案を伴い、
事後スピーチに反映された。
質問型は事後スピーチに反映されにくかった。
これは、①やり取りが単なる情報の交換に終わった、聞き手が質問の内容を重要視しなかっ
た、話し手からの聞き返しがなかったことが関係していることが示唆された。②質問型フィ
ードバックを事後スピーチに取り入れるには、複雑な思考が必要であると考えられた。ピア
活動におけるやり取りは、スピーチの「構成」
、
「語彙」
、
「インターアクション」の改善に間
接的に影響を与えたことも窺えた。
研究課題 3 の結果として、本実験授業は不安を部分的に軽減することが明らかになった。
日本語の正確さに対する不安、流暢さに対する不安、日本人・先生の前で話す際に感じる不
安の軽減に関し有意差が認められた。
本授業の活動は学生達に日本語を意欲的に話す環境を与えたと考えられる。学生の自主性
が培われたため、話し手は聞き手を意識したスピーチができるようになり、聞き手は興味深
く相手のスピーチを聞くようになった。つまり、本授業の活動はお互いの考えを深めるきっ
かけを学生達に与えたと言えよう。本授業の活動を通して、学生達は日本語を話す際、今ま
でのように頭の中でベトナム語で考え、日本語に直してから口にするのではなく、日本語で
考えて、日本語で話せるようになることを期待している。
8.今後の
今後の課題
本研究における今後の課題として次の 4 点が挙げられる。第 1 の課題は、継続的に実施す
ることによって現れるスピーチ変化を縦断的に見るために、今回の研究で扱わなかった 7 回
分の全データを分析することである。第 2 の課題は、今回扱わなかった他の話題のデータを
利用し、異なる話題においてスピーチにどんな変化が現れるかを検討することである。第 3
の課題は、毎回の授業ごとにピアグループのメンバーを変更したので、違うグループでピア
活動のやり取りを行った場合、スピーチにどのような影響をもたらすかを検討することであ
る。第 4 の課題は、本授業の活動をハノイ大学のカリキュラムに合わせ、通常の授業でどの
ように取り入れるかについて検討することである。
9.教育現場への
教育現場への示唆
への示唆
Price(1991)は人前で話すことの不安への対策として、1 対 1 の対話形式や、小グループ
での活動を日々の練習に取り入れること、また、学習者に教室を「学びの場」
「コミュニケー
ションの場」という意識を持たせることを挙げている(岡部 2002:142)
。即興スピーチにお
けるピア活動の授業デザインはこれに該当する。
教育現場の活動デザインに向けて、次の 3 点が重要である。①ピア活動におけるやり取り
の方向付け(聞き手の具体的な指摘、話し手の聞き返し、アドバイス型、質問型フィードバ
ックの練習)を教師が指導することが必要である。ピア活動では教師の役割について議論が
されることが多いが、本研究では上記の役割が大切であることが分かった。②学生の口頭表
現能力を向上させるために、スピーチにおけるピア活動をベトナムの各大学の「話す授業」
に生かしたい。多くの人の前で日本語を話す際に感じる不安を解消するには、多人数のグル
ープを設ける必要もある。③本授業の活動は教室内だけではなく、授業外でも学生が実施す
ることができる。教師はこの活動に基づき、教師がいない授業外の活動をデザインすれば、
学生は協働的かつ自律的に学習できる。このことにより口頭表現能力を伸ばす機会が一層増
えることが予想される。
謝辞
今回の研究に当たり、ハノイ大学の先生方や学生の皆さん、雄谷進先生、古屋憲章先生、
松野志歩先生、授業担当者の有田光郎先生、本プログラムの連携大学院の関係者の方々に多
大なご協力をいただきました。また、ベトナムの各大学で教えていらっしゃる宮原彬先生、
守分義夫先生、Phan Hai Linh 先生、Phung Kim Anh 先生、金村久美先生、横山直子先生にも
貴重なご助言をいただきました。ここに、皆様へのお礼の言葉を記し、感謝の気持を申し上
げます。更に、温かく励ましてくれた両親、夫、息子や友人にも感謝します。
注
1
2008 年 8 月にハノイ大学の教師(5 名)と 2 年次(4 学期)の中級レベルの学生(32 名)
を対象に、インタビューを行った。
2
2009 年 4 月にハノイ大学の教師(6 名)と 2 年次(4 学期)の中級レベルの学生(50 名)
を対象にインタビューを行った。
3
話題を選定した基準は次の通りである。①筆者がこれまでに担当した授業やスピーチコ
ンテストにおいて学生が選択した話題の中から多くの学生が選択した話題を抽出する。②
筆者が抽出した話題が中級レベルにおける即興スピーチの話題として適切か判定する。
4
本授業は「話す授業」であるため、教師からは日本語でピア活動をすることを奨励した。
但し、必要な場合は、ベトナム語を使用してもいいと指示した。
5
ピアグループの編成は NT が行ったミニテストの成績に基づいて筆者と NT で行った。グ
ループのメンバーは毎回変更した。但し、1クラスが 26 名であったため、4 名のグループ
もあった。
参考文献
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外国語高等学校でのピア推敲活動を通して―」
『日本言語文化研究会論集』4、33-60.
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「日本語学習者における学習者向けの相互助言(ピア・レスポンス)
」
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本語教育』22、慶応義塾大学日本語・日本文化教育センター、49-63.
(8)倉八順子(1994)「スピーチ指導及びスピーチについてのフィードバックがスピーチ技
術と学習意欲に及ぼす効果」『日本語と日本語教育』23、慶応義塾大学日本語・日本文
化教育センター、63-77.
(9)倉八順子(1996)「スピーチ指導におけるフィードバックが情意面に及ぼす効果」『日
本語教育』89、39-51.
(10)国際交流基金日本語国際交流センター(2007)
『話すことを教える』ひつじ書房
(11)小池生夫他(2003)
『応用言語学辞典』研究社
(12)樽田ミエコ(2000)「実践報告:中上級学習者のための聞き手を意識したスピーチ指
導の試み-即度スピーチと評価スピーチ-」『東海大学紀要』20、東海大学留学生教育
センター、45-55.
(13)東海大学留学生教育センター口頭発表教材研究会(1995)
『日本語 口頭発表と討論の
技術―コミュニケーション・スピーチ・ディベートのために―』東海大学出版社
(14)原田三千代(2007)
「作文の変化にピア・レスポンスがどのように関わったか―中級学
習者の場合―」
『小出記念日本語教育研究会論文集』15、55-69.
(15)一二三朋子(2007)「留学生スピーチの評価基準と評価の過程:日本語母語話者と非母
語話者の比較」『文藝言語研究言語篇』52、13-22.
(16)広瀬和佳子(2000)
「母語によるピア・レスポンス(peer response)が推敲作文に及
ぼす効果―韓国中級学習者を対象とした 3 ヶ月間の授業活動をとおして―」
『言語文化
と日本語教育』19、お茶の水女子大学日本言語文化学研究会、24-37.
(17)広瀬和佳子(2004)
「ピア・レスポンスは推敲作文ににどう反映されるか―マレーシア
中級日本語学習者の場合―」
『第二言語としての日本語習得研究』7、60-78.
(18)藤田朋世・フランプ順美(2009)
「ピア・ラーニングの概念を取り入れたスピーチコン
テストの試み―重慶大学での実践報告―」
『世界の日本語教育』19、199-213.
(19)Fukai, Miyuki(2000)Foreign Language Anxiety and Perspectives of College Students
of Japanese in the United States: An Exploratory Study.『世界の日本語教育』10、
21-41.
(20)Nguyen, Song Lan Anh(2005)Phuong phap lam viec theo nhom trong giang day ky
nang noi tieng Nhat o giai doan nang cao: Ket qua va trien vong- Tap chi Khoa
hoc ngoai ngu. Truong Dai hoc Ha Noi.39-48.
(21)Nguyen, Song Lan Anh(2007)
「ベトナム人学生のためのスピーチ指導法の提案」
『日
本語学・日本語教育国際シンポジウム論文集』ハノイ国家大学外国語大学、14-21.
(22)Phung, Kim Anh(2007)Dao tao va su dung nguon nhan luc tieng Nhat o Viet Nam.
『日本語学・日本語教育国際シンポジウム論文集』ハノイ国家大学外国語大学、9-13.
とはありません。
ん。あなたの個人情報が漏れることはありません。あなたの考えを素直に
ださい。
ら、Nguyen Song Lan Anh([email protected])までご連絡く
♦ 何かご不明な点またはアンケート項目についてご質問がございました
お書きください。
♦ 自由記述項目及び「その他」を選択された場合は、その具体的な内容を
さい。
♦ 回答が選択式になっている場合は、該当するものに()をつけてくだ
<回答方法について>
お書きください。本調査・研究へのご協力をお願い申し上げます。
絡させていただく場合がございます。個人情報は他の目的で使うこ
回答は統計的な処理を行い、本調査・研究の目的以外には利用いたしませ
④書く能力
②話す能力
)
いいえ(
)
1.準備されたスピーチ
2.即興スピーチ
3.「はい」と答えた場合:それはどんなスピーチの種類ですか。
はい(
2.日本語でスピーチをしたことがありますか。
③読む能力
①聞く能力
1.あなたが最も伸ばしたい技能は何ですか。
_____________________________
_____________________________
_____________________________
ご連絡先(E メール、ご住所、電話番号等)
)年齢:___歳
*差し支えなければ、ご連絡先をご記入ください。調査者からご連
女性(
す。本調査は、学生の口頭表現能力を伸ばす研究のために行うものです。
)
性別:男性(
私は政策研究大学院大学の修士課程のグエン ソン ラン アインと申しま
クラス:___
名前:_________
学生用
ご協力のお
協力のお願
のお願い
資料 1 不安軽減の
不安軽減のアンケート調査票
アンケート調査票
そう
思う
3
で心配だ。
意見をはっきり言えないの
8)日本語で話す時、自分の
どうか心配だ。
止まらずに流暢に話せるか
7)日本語で話す時、途中で
と気付いて、不安になる。
った日本語を話している
6)日本語で話す時、まちが
音で話せるかどうか心配だ。
5)日本語で話す時、正しい発
正しく話せるかどうか心配だ。
4)日本語で話す時、文法的に
時、失敗するのは心配だ。
3)クラスの前で日本語で話す
話すのは心配だ。
2)多くの人の前で日本語で
のは緊張する。
1)ふだんから、日本語で話す
強くそう
思う
4
4
4
4
4
4
4
4
4
3
3
3
3
3
3
3
3
あまりそう思わ
ない
2
2
2
2
2
2
2
2
2
1
1
1
1
1
1
1
1
そう
思わない
1
するものを 1~4 の中から 1 つ選んでをつけてください。
4.日本語で話す時の不安感についてあなたはどう思いますか。下の該当
くて、不安になる。
人からの質問が聞き取れな
15)日本語で話すとき、他の
緊張する。
れていない質問をされると
14)日本語で話す時、予想さ
ているかどうか心配だ。
自分の日本語を理解してくれ
13)日本語で話す時、聞き手が
ないか心配だ。
から日本語が下手だと思われ
12)日本語で話す時、他の学生
いか心配だ。
ら日本語が下手だと思われな
11)日本語で話すとき、先生か
いか心配だ。
ら日本語が下手だと思われな
10)日本語で話す時、日本人か
いので心配だ。
たいことをうまく説明できな
9)日本語で話す時、自分の言い
3
3
3
3
3
3
3
2
2
2
2
2
2
2
1
1
1
1
1
1
1
ご協力ありがとうございました。
4
4
4
4
4
4
4
資料 2 ピア活動
ピア活動で
活動で用いたタスクシート
いたタスクシート
(話し手用)
手用)
名前:
グループ番号:
話題:
聞き手 1:
聞き手 2:
【タスクシート 1】
(5
(5 分)
(ベトナム語
ベトナム語、または日本語
または日本語で
日本語で書いてください)
いてください)
「2 分間のスピーチ」をした後、自分のスピーチの良い点と良くない点を書いてください。また、言おうと
思ったのに言えなかったことがあれば書いてください。
【タスクシート 2:ピア活動
(10
ピア活動】
活動】
(10 分)
1.録音したスピーチを一緒に聞いてください。新しく気付いたことがあったら、下の空欄に書いてください。
2.
【タスクシート 1】と【タスクシート 2】を基に次のことを話し合ってください。
・聞き手の質問に対して具体的な説明をしてください。
・聞き手のアドバイスを聞きながら、上の空欄に他
他の色のペンで
ペンでメモを取ってください。
【タスクシート 3】
(5
(5 分)
アドバイスを受けて、スピーチを改善しようと思う点を書いてください。
【タスクシート 4:振り返り】
(5
(5 分)
2 回目のスピーチが終わってから、次のことを書いてください。
1.1 回目のスピーチと比べて、2 回目のスピーチはどんな変化がありますか。気を付けた点などを書いてください。
2.話し手として、あなたはどのぐらい参加しましたか。該当するものを 1~4 の中から 1 つ選んで()をつけてく
ださい。
④積極的に参加した
③参加した
②あまり参加しなかった
①全然参加しなかった
3.聞き手はどのぐらい参加したと評価しますか。該当するものを 1~4 の中から 1 つ選んで()をつけてください。
・聞き手 1:
④積極的に参加した
③参加した
②あまり参加しなかった
①全然参加しなかった
・聞き手 2:
④積極的に参加した
③参加した
②あまり参加しなかった
①全然参加しなかった
(聞き手用)
手用)
名前:
グループ番号:
話題:
話し手:
【タスクシート 1】
(5
(5 分)
(ベトナム
ベトナム語、または日本語
または日本語で
日本語で書いてください)
いてください)
1.話し手のスピーチの良かった点は何ですか。感想や気付いたことを書いてください。
2.スピーチの中に分からないことや知りたいことについて書いてください。
【タスクシート 2:ピア活動
(10
ピア活動】
活動】
(10 分)
1.録音したスピーチを一緒に聞いてください。新しく気付いたことがあったら、下の空欄に書いてください。
2.
【タスクシート 1】と【タスクシート 2】を基に次のことを話し合ってください。
・スピーチの中に分からないこと、もっと知りたいことがあったら、話し手に質問してください。
・より良いスピーチになるように、話し手にアドバイスを行ってください。
【タスクシート 3】
(5
(5 分)
話し手のスピーチをもっと良いものにするために、アドバイスをしたことを書いてください。
【タスクシート 4:振り返り】
(5
(5 分)
2 回目のスピーチが終わってから、次のことを書いてください。
1.話し手の「3 分間スピーチ」を聞いて、改善されたと思った点は何ですか。まだ改善されていないと思った点
は何ですか。
2.聞き手として、あなたはどのぐらい参加しましたか。該当するものを 1~4 の中から 1 つ選んで()をつけ
てください。
資
④積極的に参加した
②あまり参加しなかった
③参加した
①全然参加しなかった
資料 3 S4 の事前と
事前と事後の
事後のスピーチ
S4 の事前スピーチ
事前スピーチ
皆さん、こんにちは。私は S4 です。今から「日本語学習」という話題を発表します。あ、前から日本語が
大好きです。あ、日本のにっこう<日系>会社で働くことがあ、できることのために日本語を勉強して始めま
した。あ、皆さんは日本語のあ、日本語をあ、勉強しましたね。でも、勉強する時、どんなこまっ、どんな困
難がありますか。私にとって日本語のあ、日本の、あ、日本語のちょっかいとか、日本語の読解とかもっと難
しいです。でもあ、あ、会話は、会話は一番難しいと思います。あ、なぜと、あ、なぜならば、あ、日本語の
文法が難しいし、覚えにくいですから、あ、または、あ、間違えやすいです。あ、日本語を話す時、正しいと
か、違うとか、もっと考えなければならない。その時はあ、よくあ、速く、速くいっ、言えない。それ、そし
て、あ、あ、日本、日本人のように、あ、わた、私にとって、はな、話せないです。でも、あ、あ、日本語、
あ、日本、あ、日本の会社で働くためにあ、アルバイトをしました。経験を、経験をもう―つこ、ことができ
ま、でき、できると思います。アルバイトをする時、お客さんにおしゃべる、あ、おしゃべるし、あ、もっと
日本語で話しなあ、ければならない。日本語がますますぺらぺら話せるようになります。ですから、私の日本
語が良くなります。それは以上です。
S4 の事後スピーチ
事後スピーチ
これから 2 回目のスピーチです。私は前から日本の習いを知りたい<日本語を習いたい>です。皆さん、日
本語がとても面白いですね。はい。あ、日本語を勉強あ、日本、日本会社に働くために日本語を勉強し始めま
した。今 2 年生にあ、なって、あ、でも、勉強すれば勉強するほど日本語が複雑と思います。皆さんは日本語
を勉強していますね。あ、でもあ、あ、困難ことを会ったことがありますか。私にとって、あ、あ、あ、あ、
読解とか聴解とか人々によって意見が違いますね。私にとってあ、会話が一番難しくて困ったことが多くて、
解決の方法があ、まだありません。あ、なぜというと、あ、日本語の文法が難しくて、覚えにくい、まちえ、
またはまちえやすいですから、日本語を話す時、あ、文法は正しいとか、正しくないとか、よく考え、考えな
ければならない。そんな時はあ、速く言えない。そして、日本人のようにあ、話せないと思います。でも、あ、
改善するように私は日本のレストランにアルバイトをすることにしました。あ、あ、アルバイトをして、お客
さんにおしゃべると、ますます日本語がぺらぺら話せます。ちょっと文法が正ししくないですけど、でも、自
然にあ、言え、あ、言うことができます。あ、その時あ、読解、読解とちょっかいも良くなるように、良くな、
あ、なりました。それ以上です。
資料 4 S4 のピア活動
ピア活動におけるやり
活動におけるやり取
におけるやり取り(9 分間)
役割
1L1
2S4
3L1
4S4
5L2
6S4
7L2
8S4
9L2
やり取り
S4 さんのスピーチははっきり<した>発音ですね。
ありがとうございます。
それは文法は正しくて、それは分かりやすいし。でも、時間がかかってね。その、長いですから。少し
長い。私にとって、S4 さんのスピーチは発表の初めも終わりももっと短くしてくださいね。はい、そ
れは私にとって S4 さんに質問します。S4 さんにとって何が会話、会話の、会話が何か一番難しいだと
思いますか。
難しいですか。私にとって他の人に言いたいことが伝えることが難しいと思います。
スピーチの、スピーチは何か及ぼされることは何ですか。内容とか、話し方とか、発音とか、何か、S4
さんにとって何が一番大切だと思いますか。
私はあのう、何も大切と思います。すべての部分がもっと話題に…Tuc la tat ca cac phan do se lam
cho 会話 cu minh 面白い, va hoan hao hon{つまりそのすべての部分が自分の会話を面白くさせ、よ
くさせます}。 Tu cai 発音、話し方{発音や話し方から}。
それはベトナムの学生の問題は会話ですね。
はい。
その問題は S4 さんは何か考えていますか。どうしてだと思いますか。
10S4
11L2
12L1
13S4
14L1
15S4
16L1
17S4
18L2
19S4
20L2
21S4
22L1
23S4
24L1
25S4
26L1
27S4
28L1
29S4
30L2
31S4
32L1
33S4
34L1
35S4
36L1
37S4
38L1
39S4
40L1
41S4
42L1
43L2
44S4
45L1
46S4
47L1
48S4
49L1
50S4
51L1
52S4
どんな問題ですか。
会話の可能。会話の能力。
どうしてだと思いますか。私にとってチャンスが少ないですから。S4 さんにとって何かですか。
私達はベトナムに住んでいますから、日本人に会うチャンスことが少ないですね。それは私にとってし
ょうがないです(笑う)
。
でも...
でも授業の、授業の間で...
話すことが少ないですね。
でも、できるだけ日本語で話してください。
S4 ちゃん、アイコンタクトとスマイルがいいね。そして手振り身振り。
ありがとうございます。
S4 ちゃん、漢字が難しいと思いますか。
ええと、私が漢字のことが、漢字のことも難しいと思います。でも、現代ですから、phuong tien truyen
thong la gi nhi{マスコミは日本語で何と言いますか}?
情報
情報の...
手段
情報の手段がたくさんありますから、コンピュータとか、
インターネット。
インターネットとか、漢字の問題が、
問題。書く。
問題ではありません。書くことができます。インターネットによって書くことができます。
将来どんな仕事をしますか。
私は将来通訳になりたい。
えー、通訳?
はい。
お金持ちの人になりますね。600USD mot thang{月に 600 ドル}
私の先生によって 600 のドルがもうけるように、もうける<ことが>できるようになりました。
えらいですね。
私は旅行に好きですから、通訳になりたいです(笑う)
。
日本語についてどんな思いますか。
何ですか。
Tuc la S4 nghi nhu the nao ve tieng Nhat?{つまり S4 さんは日本語についてどう思いますか}。
そうですね。ちょっと...
日本語の問題。
Trong bai noi khong thay cau noi la tieng Nhat co thu vi hay khong, hoac la cau suy nghi nhu
the nao{スピーチの中には日本語は面白いかどうかについて言わなかったですね。日本語に関するの考
えについて言ったらどうですか}。
そうそう。2 回のスピーチはもっと話します。
私のアドバイスは S4 さんのスピーチは「ます形」は多く使ったね。
「ます形」?
「ます形」
。それは聞き手はつまらなく感じることがありますね。
「て形」とか、文章がもっと結ぶよう
に私にとってそれは使った方がいいと思います。
はい。はい。分かりました。
皆さん、私のスピーチに面白くなるためにどんなアドバイスがありますか。
前から「て形」と「ます形」が変わることがいいと思います。それは私にとって S4 さんのスピーチは
改善の仕方はもっと詳しくしてほしい。
でも、時間...
はい。それはスピーチの初めはもっと短くしてください。それは私にとって大切だと思います。私は
S4 さんのスピーチは困難の問題。それは理由が大切だと思います。理由と改善される方は私にとって
S4 さんに強調したい、あ、強調ほしいんです。
はい。はい。分かりました。ありがとうごうざいます。
②あまり興味深く友達のスピーチを聞かなかった。
クラス:
ある(
)
ない(
)
④やや満足しなかった
③どちらとも言えない
④あまりそう思わない
③どちらとも言えない
い。
③興味深く自分のスピーチを聞いてくれた聞き手がいな
い。
②興味深く自分のスピーチを聞いてくれた聞き手が少な
①興味深く自分のスピーチを聞いてくれた聞き手が多い。
チを聞いてくれたと実感しましたか。
4.あ な た は 話 し 手 と し て 聞 き 手 が 興 味 深 く 自 分 の ス ピ ー
⑤全然そう思わない
②そう思う
①とてもそう思う
選 ん で を つ け て く だ さ い 。
動はあなたの役に立ちましたか。該当するものを 1 つ
3.こ の 授 業 で 体 験 し た ピ ア 活 動 を 取 り 入 れ た ス ピ ー チ 活
⑤全然満足しなかた
②満足した
①非常に満足した
選 ん で を つ け て く だ さ い 。
動にどのぐらい満足しましたか。該当するものを 1 つ
2.あ な た は こ の よ う な ピ ア 活 動 を 取 り 入 れ た ス ピ ー チ 活
すか。
いいえ
ご協力ありがとうございました。
9. そ の 他 、 何 か 感 想 や 意 見 が あ れ ば 、 書 い て く だ さ い 。
いますか。
「はい」と答えた人は、どのような点で変化したと思
はい
ますか。
8.こ の 授 業 を 通 し て 自 分 に 何 ら か の 変 化 が あ っ た と 思 い
えて、あなたはどのように感じましたか。
7.友 達 の ス ピ ー チ に つ い て 聞 き 手 と し て ア ド バ イ ス を 与
けて、あなたはどのように感じましたか
6.自 分 の ス ピ ー チ に つ い て グ ル ー プ 内 で ア ド バ イ ス を 受
③全然興味深く友達のスピーチを聞かなかった。
①概ね興味深く友達のスピーチを聞いた。
きましたか。
5.あ な た は 聞 き 手 と し て 友 達 の ス ピ ー チ 興 味 を 持 っ て 聞
ハノイ大学
実験授業後に行った学生に対する授業評価
の質問紙(日本語訳)
1. 今 ま で 、 こ の よ う な ス ピ ー チ 活 動 を し た こ と が あ り ま
資料 5
発音は変わったか。
流暢さは変わった
⑤
⑥
⑦
語彙は変わったか。
④
は変わったか。
インターアクション
か。
文法は変わったか。
③
例:聞き手に質問を問いかけたか。
・フィラーを適切に使用したか。
例:・話がスムーズだったか。
はっきりして分かりやすくなったか
・豊富になったか。
例:・適切だったか。
正しかったか。
・終わり方
・展開の仕方(論理性)
例:・話の始め方
2
2
2
2
2
2
構成は変わったか。
②
・言いたいことが明確だったか。
・興味深かったか。
・例があったか。
ものだったか。
2
例:・自分の経験に基づいた具体的な
内容は変わったか。
良く
①
詳細
1
1
1
1
1
1
1
った
良くな
少し
話題:
話題:「日本語の学習」
なった
分類
話し手:
番
順
評定者:
評定者:
資料 6 スピーチ変
スピーチ変化の評価票
0
0
0
0
0
0
0
ない
変わら
-1
-1
-1
-1
-1
-1
-1
った
悪くな
少し
-2
-2
-2
-2
-2
-2
-2
なった
悪く
コメント(
コメント(良い点、不足点等)
不足点等)
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