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レーザ共振器内波長変換を用いた 小型・高効率・狭線幅・波長可変中赤

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レーザ共振器内波長変換を用いた 小型・高効率・狭線幅・波長可変中赤
修士論文要旨(2011 年度)
レーザ共振器内波長変換を用いた
小型・高効率・狭線幅・波長可変中赤外光源の開発
Development of a compact, highly efficient, narrow linewidth, and tunable
mid-infrared light source by use of intracavity wavelength conversion
電気電子情報通信工学専攻
10N5100055B
1. はじめに
製鉄工場や火力発電所などの各種産業分野におい
ては、ガスを生成、改質、流通、貯蔵、排出などす
るプロセスが数多くあり、その「安全と信頼」の確
保のための保守点検や検査が日夜広く行われている。
しかしながら、万全を期して設計された設備や配管
においても尚、メンテナンス不足やオペレーション
ミスなどに起因した「危険(ヒヤリ・ハット)」やガ
ス漏洩などの「事故」が生じたり、プロセス監視の
不十分や計測の死角に起因する「品質低下」やそれ
松井
大祐
Daisuke MATSUI
や硫化水素などの無機物をより高感度に計測できる
ばかりではなく、メタンを含むアルカン全般(プロパ
ン、ブタン等)やトルエン、酢酸エチルなどの有機溶
剤を含む有機物も計測対象としており、幅広いガス
種を計測対象にできる優位性を有している。
そこで本研究では、CO ガスの検知を目的とした
装置の開発を行う。CO は吸収帯が
なので、
波長変換を用いて高出力で波長可変な中赤外光源の
開発を行っていく[1]。
2. 光パラメトリック発振
に基づく
「品質事故」
が生じたりしてしまっている。
まずは今回の核となる原理である光パラメトリッ
都度計測は資料採取後の「その都度計測」である
ク発信器(OPO)について説明していく。図 1 に示す
が、検知管のような安価なセンサから FTIR(フーリ
のが OPO の解説図である。
エ変換型赤外分光光度計)やガスクロマトグラフィ
のような高精度なセンサまでが豊富にラインナップ
されている。また、常時計測も豊富なセンサがライ
ンナップされ、実用的に利用されている。しかしセ
ンサとガスが接触することを計測原理とする接触型
センサの多くは、センサの早期务化やリアルタイム
性の欠如が課題となっている。こうした課題に対し
ては、既に近赤外域のレーザによる遠隔・非接触な
ガス計測器が販売されており、メタンの配管漏洩検
知や、塩酸やアンモニアなどの無機物の配管内計測
などに役立てられている。
本研究では、従来のレーザによる遠隔・非接触な
ガス計測器が近赤外域のレーザを使用しているのに
対し、波長がより長い中間赤外域のレーザを使用し
ていることに特徴がある。この波長域は近赤外域よ
りも分子の基本振動に近いこともあり、一酸化炭素
図 1 光パラメトリック発振器(OPO)
常に広い波長域で反射率の高い鏡を向かい合わせ
た「共振器」の中に非線形光学結晶を設置し、ポン
プ光(波長λp、周波数νp=c/λp、c は光速度)を結晶
に照射すると、2 つの波長で光の発振が起きる。発
振する 2 つの波長の光のうち波長の短い方はシグナ
ル光(νs)、長い方はアイドラ光(νi)と呼ばれる。発
振波長は結晶の種類、温度、方向で選択される。な
修士論文要旨(2011 年度)
お今回は、ポンプ光を 1064 nm とし、シグナル光
射ミラーからアイドラ光が出力されるという仕組み
を 13xx nm、アイドラ光を 46xx nm(「xx」は波長
になっている。
が場合によって変化するためこのような表現をとっ
ている)となっている。この構成は、2 枚のミラーの
間で光が行き来するため、ミラー間の内部パワーが
上昇し、変換効率を上げることができ、パワーのロ
スを減らすことができるという構造となっている[2]。
今回は波長変換デバイスとして、周期的分極反転構
造を有する PPMgLN を使用している。このデバイ
スは、高効率な波長変換を可能とするデバイスとな
図 3 レーザ共振機内 OPO
っている。また、6 つの層に分かれており、それぞ
れ別の周期を持っている。これにより、6 種類のデ
バイスを用いることで、広い波長を得ることが可能
となっている。図 2 にこのデバイスを示す。
4.
光の出力特性
図 4、5 はそれぞれアイドラ光の入出力特性と波
長可変特性を表したものである。アイドラ光出力は、
LD power 2000 mA 時、最大 27 mW を確認し、波
と、約 270 nm 振
長振れ幅は
ることに成功した。
30
図 2 波長変換デバイス
idler power (mW)
25
20
15
10
5
3. レーザ共振機内 OPO
0
0
500
次に本研究で使用している光学系の構造説明を行
4800
コリメートされた 808 nm のレーザが照射され、入
4750
は絞られる。この絞られたレーザがレーザ結晶
(Nd:YVO4)に入ることで、1064 nm に変換される。
idler wavelength (nm)
るものが励起用半導体レーザ(LD)である。これから
っており、出射側が凹面となっているため、出射光
4700
4650
4600
4550
そのレーザが PPLN に入ることによりシグナル光
4500
とアイドラ光が得られる。さらに、変換されなかっ
4450
たレーザは出射ミラーで反射され、入射ミラーとの
間で行き来し、変換効率を上げてゆく。最終的に出
1500
図 4 入出力特性
う。図 3 が本研究の光学系である。図の一番右にあ
射ミラーに入る。この入射ミラーは平凹レンズとな
1000
LD power (mW)
0
20
40
60
PPLN temperature (℃)
図 5 波長可変特性
80
修士論文要旨(2011 年度)
しかし、図 6、7 の出力の安定性とスペクトルを
持っている。反射率が高ければ高いほど、より狭い
見てみると、安定性は乏しく、スペクトルは半値全
範囲での波長選択が可能となるわけである[3]。図 9
幅約 2.2 nm となっている。さらにスペクトルを見
にこれを示す。よって、問題となっているポンプ光
ると、モードが複数本立っているため、モード競合
とシグナル光がマルチで発振している現状を、エタ
により、出力が不安定となってしまっていると考え
ロンを挿入することで欲しい波長をピンポイントで
られる。このアイドラ光のスペクトルがマルチにな
選び、取り出そうという構成である。
ってしまっている原因としては、共振器内のポンプ
光とシグナル光がマルチ発振していることが原因と
考えられる。ガス検出にはこれをシングルモードに
する必要があるため、シングルモード化を目指し実
験を行う。
0.30
output power (V)
0.25
図 8 シングルモード化構想系
0.20
0.15
0.10
0
100
200
300
400
500
600
time (s)
図 6 出力安定性
intensity (a.u.)
2.0
図 9 エタロンのモード選択図
1.5
まず、エタロンを挿入した時と、エタロンを挿入
2.2 nm
していない時のスペクトル比較を行う。図 10 はエ
1.0
タロン未挿入時、
図11はエタロン挿入時の1064 nm
0.5
0.0
4592
のスペクトルである。
4596
4600
4604
4608
4612
4616
4620
wavelength (nm)
1.0x10
5. シングルモード化実験
本研究ではエタロンを挿入することによりシング
ルモード化を目指す。図 3 中にエタロンを挿入した
構成を図 8 に示す。まずエタロンとは、2 枚の反射
鏡を平行になるように向かい合わせたもののことを
いい、波長に対して、透過率が周期的に変動する特
性を持っていて、反射鏡の間隔で周期が、反射鏡の
反射率で透過率のボトム深さが決まるという特徴を
intensity (a.u.)
図 7 スペクトル特性
-6
0.8
0.6
2.2 nm
0.4
0.2
0.0
1063.6
1063.8
1064.0
1064.2
1064.4
wavelength (nm)
図 10 エタロン未挿入時スペクトル
修士論文要旨(2011 年度)
1.0x10
表 1 出力変化率
-6
intensity (a.u.)
0.8
0.6
エタロン
なし
あり
1.1 nm
0.4
signal
±7.6 %
±5.3 %
pump
±8.3 %
±3.6 %
0.2
0.0
1063.6
1063.8
1064.0
1064.2
1064.4
wavelength (nm)
6. 総括
図 11 エタロン挿入時スペクトル
図 10 のエタロンを挿入していないときの半値全幅
が約 2.2 nm だったのに対し、図 11 のエタロンを挿
入したときの線幅は約 1.1 nm と、挿入以前と比較
するとシングルモード化にはまだ至らないが、狭線
化の傾向が確認された。 しかし、まだまだ目的であ
る線幅には至っていないのでエタロンの位置や構成
全体の位置の調整をしていく必要があると考えられ
る。
次に出力安定性を見る。シングルモードに近づけ
ば、出力が安定することが期待される。 図 12 は、
縦が出力、横が時間の出力時間変化をみたグラフで
ある。 上線がシグナル光、下線がポンプ光となって
おり、表 1 に示すように、エタロン挿入により出力
が安定したように見て取れる。これもシングルモー
ド化していれば、ほぼ出力は安定するはずなので、
スペクトル同様の対策をこうじる必要があると考え
られる。
本研究では、CO ガス検知装置の開発を目的とし、
波長変換デバイス PPMgLN を用い、OPO による中
赤外域レーザ装置の開発を行った。目的であるアイ
ドラ光、つまり
には、
と
の出力の安定性の向上を行う
の両方のシングルモード化が必
要となってくる。そのために、エタロンを挿入した
ときの狭線化が必須となってくる。そして
の
出力安定性、スペクトル、出力変化、波長可変特性
などの測定を行っていく必要がある。また、当初実
験の調整器具は 3 つだったのに対し、現在の構成で
は 5 つとなったため、調整が困難となった。よって
再現性、産業用途の両面において部品点数の削減は
必須となってくる。以上の対策を講じ、シングルモ
ード化を実現と出力の増加を目指していく予定であ
る。
謝辞
本研究に取り組むにあたり、庄司一郎教授より多
1.00
output power (mW)
エタロン
大なるご指導とご助言を戴いたことを心より感謝い
たします。また、共同研究を行った日本信号株式会
0.95
社の松川氏、内田氏、三宮氏、三浦氏も心より感謝
申し上げます。
0.90
0.85
0.80
参考文献
[1] 内田清孝著 「常温発振レーザによる遠隔ガス
0
20
40
60
80
100
120
140
time (s)
図 12 出力安定性(エタロン挿入時)
160
180
計測器」 検査技術 2010.5.
[2] 黒田和男著 「非線形光学」 コロナ社
[3] Orazio Svelto,”Principles of
Lasers,”Springer(1976)
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