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個別化が進む健康情報
今 月 の 論 点 個別化が進む健康情報 地域経営研究本部 主席研究員 梁瀬鐵太郎 ●健康情報の IT 化 ラムなど、多様な民間サービスを選択し 厚生労働省は、2007 年 9 月、社会保障 ていくことが考えられる。健康情報の個 の履歴を一元管理する「社会保障カード」 別管理化は、よりきめ細かいヘルスケア 導入を議論する有識者検討会の初会合を サービス提供の起爆剤となるだろう。た 開催した。この会合において、年金、医 だし、その実現に際しては、健康情報や 療、介護、雇用の 4 制度の被保険者証を 1 医療情報の標準化や、データの信頼性を 枚の IC カードに統一することで合意し 担保する認証インフラの構築など、国の た。このカードにより、国民が本人の年 リーダシップが強く求められるだろう。 金や医療費など社会保障に関する情報を 一元的に把握できるようにし、将来は健 ●データマイニング技術の活用がキー 康診断結果などの詳細な医療情報も閲覧 大量の健康情報が蓄積されていくなか できるようにする。そのほか、2008 年 4 で、今後は、未知のニーズを掘り起こし、 月から、特定健診・保健指導が義務化さ 新たなビジネス機会を捉えようとする動 れる。この流れのなかで、医療保険者や きが高まることが予想される。そのため、 健診機関などでは、個人の健診情報を把 大量の健康データを解析する必要が生 握するための IT 化が急速に進展すること じ、結果として、データマイニング※ 技 が予想される。 術の活用が積極的に試みられるように なるだろう。ただし、現時点では、医療 ●きめ細かいヘルスケアサービスの提供 や健康分野などでのデータマイニングの が実現 適用実績は少なく、また、当該スキルの 個人の健康情報を IT により個別に管 ある技術者も少ない。新たなヘルスケア 理することで、個人の健康情報を管理す サービスの育成のためにも、ヘルスケア るポータルサービスの出現がまず予想さ 分野向けデータマイニング技術者の育成 れる。利用者は、ポータルサイトから、 も今後求められてくる。 自らの実情・ニーズに即した健康プログ ラム、例えば、フィットネス事業者との ※ data mining:販売データや通話履歴、クレ 連携による健康運動プログラム、食材宅 ジットカードの利用履歴など、大量に蓄積され 配事業者との連携による栄養管理プログ 関係やパターンなどを探し出す技術 るデータを解析し、その中に潜む項目間の相関 今月の論点 200711 19 今 月 の 論 点 埋もれる書籍の救済を システムエンジニアリング本部 主任研究員 柳生泰利 著作権保護期間の延長が議論されて なっている例は多い。最近は、出版サイ いる。現行制度では保護期間は著作者の クルが短く、大量の書籍が出版され短期 没後 50 年だが、これを 70 年に延長する 間に消費されていくため、書籍が埋もれ というものだ。創作者の権利保護を強化 る傾向はますます強まっている。 するということだが、一方で、現行制度 に則って、著作権が失効した作品につい Amazon.com などに代表される書籍販売 てオープンテキストなどの形で編集・保 サイトでは、過去の本も検索可能である 存して広く公開する活動を行ってきた団 し、購入しようとする書籍に関連する書 体もあり、そうした団体からの反対の声 籍を自動表示してくれる機能もあるた もある。 め、忘れられた良著の発見に結びつく機 期間の延長は、賛成・反対どちらも共 会が増えている。いわゆる「ロングテー に意見のあるところであり、結論を出す ル」の現象であるが、埋もれた書籍救済 のは難しい。ただ、どのような形で落ち への貢献度は高い。さらに、図書館蔵書 着くにせよ、著作権を保護した上で、大 の内容の検索技術や復刊活動のサポート 切な過去の文化遺産を保存・継承してい サイトなども、埋もれた良著の再発見・ き、かつ、一般の人がそれにアクセスで 復活を期待させるものであり、本愛好家 きる環境を構築していくことは必要だろ たちの希望を担っている。 う。文学作品に関して言えば、教科書に 活字離れで出版不況とも言われるが、 掲載できる量は限られており、古典・名 最近はテキストを本で読むこと以外に、 作へのアクセスはますます狭まっている。 携帯電話で読むことも増えているよう また、一般には知られていない「隠れた だ。媒体は変わっても、読書の楽しみは 名作」といった貴重な作品が絶版、また 変わらないだろう。将来、薄膜フィルム は年月が過ぎたというだけで図書館の書 のシートコンピュータなどが実用化され 庫に移され、そのまま埋もれてしまうと れば、さらに読書の機会は広くなるだろ いう現状は何らかの対策が必要である。 う。そのときにも過去から受け継がれて もちろん文学作品だけでなく、書籍一般 きた良著に触れられるような環境を産学 についても同様な状況であり、理工学系 協同で整えていくべきだ。 の本でも名著が絶版となり入手困難に 40 一方、書籍関連のサービス例として、 200711 今月の論点 今 月 の 論 点 サービスレベル合意書 (SLA) で 納得できるITサービスを受ける 情報技術研究センター 研究員 山室昌江 いわゆる「IT サービス」においては、 なリリース直後に、システムの理解や品 その運用が重要であることは論を待たな 質向上への補填作業など、多くの業務 い。しかし、運用担当者の負担は年々増 を集中的に、しかも試行錯誤で行うこと す一方であるにも関わらず、往々にして となり、運用担当の負担はますます大き いかに運用コストを削減するかが、経営 くなる。 者の最大の関心事であったりする。 そろそろこの悪弊を断ち切るときであ システム開発では、なかなか仕様が固 る。運用担当も手をこまねいているだけ まらずに開発スケジュールが遅れること ではいけない。リリース前にユーザーと はよくある。そして、経営層からの生産 十分に話し合い、サービスロジックや想 性向上・コスト削減の号令一下、リリー 定される障害事項をレビューし、双方の ス日に向け加速度的に作業が詰め込ま 理解を深めることから始めよう。運用上 れる。余裕のないスケジュールで開発し 特に欠かせない性能目標や障害復旧時間 た結果、十分なテストが行われず、シス については、あらかじめその項目やレベ テムの品質が十分に確保できないままリ ルを双方で交渉してリスト化しておけ リースされることになる。中には、プロ ば、互いに納得できるサービス提供が可 トタイプがそのままリリースされること 能になる。そのリストは、サービスレベ さえある。その結果、開発担当から運用 ル合意書(略して SLA)と呼ばれ、最近 担当への引継ぎも二の次となる。 の IT サービス契約では徐々に普及しつ こうしてリリースを迎えるとどうなる か。正確なシステム仕様やサービスロ つある。 このような合意書によって、双方の視 ジックを理解できていない運用担当は、 点を合わせられれば、運用担当は自信を 当該 IT システムに何か問題が発生して もって責任ある対応ができるようにな も、その場しのぎの対応とならざるを る。計画的な運用ができ、試行錯誤によ 得ない。そもそも、システム品質が十分 るムダが減り、結果として効率的かつ効 でないから、運用担当が責任のある対応 果的な運用が可能になる。 をすることは難しい。バグが発生しがち 今月の論点 200711 41