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みつめよう一人一人を - 大阪府教育センター
大阪府教育センター 大阪府教育センター 特別支援教育研究室 支援教育研究室 はじめに 大阪府における支援教育は、ノーマライゼーションの理念のもと、全ての子ど もが「ともに学び、ともに育つ」教育を基本とし、その可能性を最大限に引き出す ことを重要な観点として取り組んでいます。 国においては、平成 19 年4月1日から「学校教育法等の一部を改正する法律」が 施行され、「特別支援教育」が法的に位置付けられました。文部科学省は、幼稚園、 小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校において行う特別支援 教育について、「障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を 支援する視点に立ち、幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる 力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支 援を行うものである。 」としています。 障がいのある子どもの状況は一人一人違い、成長、発達とともに変わっていきます。 障がいの状況や変化の様子を正しく理解し、子どもたちがより意欲をもって学習でき る環境を整えていくことが大切です。 この冊子は、障がいを理解し、障がいのある子どもたちの教育に携わるに当たって、 基本的なことがらを中心に構成しています。障がいのある子どもの教育を進めていく 上で、この冊子を役立てていただければ幸いです。 大阪府教育センター 支援教育研究室 ∼目 次∼ 1 視覚障がい ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(p1∼p4) 2 聴覚障がい ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(p5∼p6) 3 知的障がい ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(p7∼p8) 4−1 肢体不自由 ・・・・・・・・・・・・・・・・・(p9∼p11) 4−2 重度・重複障がい ・・・・・・・・・・・・・・・(p12) 5 病弱 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(p13∼p14) 6 言語障がい ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(p15∼p16) 7 自閉症・高機能自閉症・アスペルガー症候群・・・・・(p17∼p18) 8 LD(学習障がい)、 ADHD(注意欠陥多動性障がい)(p19∼p22) 9 精神障がい ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(p23∼p27) 10 参考資料(略語集、参考Webページ)・・・・・・・・(p28∼p30) ※ 表紙の絵は、府立八尾支援学校高等部 前田 和樹さんの作品「空飛ぶニュヨークフィッシュ」です。 ※ 裏表紙の絵は、府立佐野支援学校高等部 四條 史也さんの作品「平面構成」です。 1 視覚障 がい 1 . 視覚障がいとは 視覚障がいとは、視機能の永続的低下の総称を意味します。視機能に低下がみられても、それが治 療等によって短期間に回復する場合は、視覚障がいとはいいません。視機能は、視力、視野、色覚、 明暗順応、眼球運動、調節、両眼視等の各種機能(眼球・視神経及び大脳視中枢など)で構成されて います。視機能のうち、いずれかの機能の障がいにより、見ることが不可能又は不自由になった状態 をいいます。 眼は外界からの情報の80%以上の取り入れ口として、重要な役割を果たしていると言われていま す。眼や視覚系の機能などに異常があると日常の生活や学習にさまざまな制約や制限が生じてき ます。 2.視機能の障がいとは (1)視力障がい 視力は、物の形などを見分ける力をいいます。一般的に矯正視力が 0.3 未満であれば、教科書、 板書の文字や図表などの読み取りに支障をきたし、文字の拡大や弱視レンズ等の特別な配慮が必要 となります。 (晴眼者の見え方) (近視等の見え方) (2)視野障がい ① 求心性視野狭窄:中心部は見えるが、周辺部が見えない状態です。(写真左) ② 中心暗点:周辺部は見えるが、中心部が見えない状態です。(写真中央) ③ 半盲:視野の半分が見えない状態です。(写真右) (求心性視野狭窄の見え方) (中心暗点の見え方) -1- (半盲の見え方) (3)光覚障がい ① 暗順応障がい:暗い場所ではほとんど見えない状態です。(写真左) ② 明順応障がい:明るい場所では見えにくい状態です。(写真右) (暗順応障がいの見え方) (明順応障がいの見え方) 3.視覚障がいの分類 視覚障がいは、大きく「盲」と「弱視」に分けられます。 (1)「盲」とは、主に視覚以外の感覚を用いて学習(点字)や生活を行う必要があるものです。 盲と聞けば全く見えていない状態と思われますが、実際には次のような状態があります。 ① 全盲(光を感じていない) ② 明暗弁(光を感じ明暗が分かる) ③ 手動弁(眼前で手の動きが分かる) ④ 指数弁(眼前で指の本数が分かる) (2)「弱視」とは視力がおおむね 0.3 未満で、視覚による学習や生活が可能なものです。しかし、 視力障がい、視野障がい、色覚障がい、暗順応障がい、明順応障がい、眼球運動障がい、調節障 がい、両眼障がい等の障がいを複数有していて、見え方が千差万別です。それ故に、同じ視覚障 がい者であっても、盲者と弱視者の指導方法は大きく異なります。 4 . 盲 者に見られる行動の特徴 盲者の場合、視覚情報がほとんど得られないため、生活や学習において様々な困難が生じます。 その主なものとして次のような困難があります。 (1)まわりの環境を把握することが難しいので、行動が制限され経験が乏しくなる。 (2)視覚情報が得られないので、概念の形成や知識の習得に制約を受ける。 (3)視覚的な模倣ができないので、動作や技能の習得に難しさが生じる。 5.弱視者に見られる行動の特徴 弱視者の見えにくさの主な要因としては、濁り、ぼやけ、視野の欠損、まぶしさ、暗さなど様々 なものがあります。このような見えにくさのため弱視児には次のような学習上の困難が見られます。 (1)小さいものや細かい部分がはっきり分からない。 (2)大きいものの全体像を認知することが難しい。 (3)全体と部分との関係をとらえることが難しい。 (4)境界がはっきり分からない。 (5)立体感や遠近感をつかみにくい。 -2- (6)速く動くものに対して認知が難しい。 (7)目と手の協応動作が悪い。 6.視覚障がいへの教育的対応 (1)全盲 ① まわりの環境や人の活動状況について説明する。その際、簡潔で分かりやすい言葉を用い、 人や物の名前や位置を具体的に示すことが大切です。 ② 廊下等に物を置かないで、安心して行動できる安全な環境を整備することが大切です。 ③ 視覚情報は、聴覚情報(音声化)や触覚情報(点字化・点図化)に置き換えて提示します。 ④ 言葉の学習は、言葉の内容と具体的な事物・事象との結び付きを実体験・動作化を通して 指導することが大切です。 ⑤ 動作の学習においては、背面から実際に手を取って教えたり、教師の動作を触らせて理解 させるなどの手だてが有効です。その際、必ず言葉による説明も加え、動作と言葉が一致す るように指導していくことが大切です。 ⑥ 指導に際して、時間はかかっても何度も繰り返し練習する態度が大切です。 ⑦ 「過保護・放任」「あきらめ」に陥らないよう十分に注意し、子どもの成長を見守ってい くことが大切です。そのために保護者との連携が大切です。 (点字を読む) (2)弱視 弱視の子どもの指導においては、見え方の実態把握を行い、保有する視覚を最大限に活用す ることが重要です。そのためには、子どもにとって見やすい条件を整えると共に、子どもの「見 る力」を引き出し高めていくことが必要になります。 ① 見やすい条件を整える (ア)小さいものや細かい部分を大きくし、見やすくする。【拡大】 (イ)大きなものの全体像が視野内に入るようにする。【縮小】 (ウ)境界や輪郭をはっきりさせる。【コントラスト】 (エ)不必要な視覚情報は排除し、見せたいところだけを強調する。【単純化】 (オ)明るければよいというわけではなく、個に応じて調整する。【明るさ】 ② 子どもの見る力を高める (ア)見ることの楽しさを味わい、見ようとする意欲を高める。 (イ)系統的・継続的な指導を通して視覚的認知能力の向上を図る。 (ウ)必要に応じて視覚補助具(弱視レンズ・拡大読書器等)の活用ができる力を養うこと。 -3- 7.主な教材・教具 (1)全盲のための教材・教具 視覚障がい者 タイプライター 点字器 用 視覚障がい者用定 規 そろばん 点字教科書 (2)弱視のための教材・教具 拡大読書器 拡大教科書 携帯用拡大読書器 弱視者用レンズ 書見台 8.点字のしくみ (1) 点字は、タテ3点・ヨコ2点からなる表音文字です。 ( 2 ) 左下の図のように、「①を1の点」「②を2の点」「③を3の点」「④を4の点」 「⑤を5の点」「⑥を6の点」といいます。 ①④ ②⑤ ③⑥ 参考文献 改訂版「視障害教育に携わる方のために」 「視力の弱い子どもの理解と支援」 慶應義塾 教育出版 1999 大学出版会 香川 邦生他編 「ロービジョンQ&A」ロービジョンQ&A編集委員会編 「はじめての特別支援教育」 明治図書 2007 -4- 2002 大活字 2004 中村忠雄・須田正信編著 香川 邦生編著 2 聴覚障がい 1.聴覚障がいとは 身の回りの音や話し言葉が聞こえにくかったり、ほとんど聞こえなかったりする状態をいいます。聞こえを補 うため補聴器等を装用すれば、日常生活にはさほど支障がなく、話し言葉も聞き取りやすい程度の「軽度難聴」 (20∼50dB)から、補聴器の装用によっても身の回りの音や話し言葉の聞き取りが困難な程度の「聾」(100dB 以上)までを含む広い概念です。 2.聞こえの程度(聴力レベル) 人の声の領域 (スピーチバナナ) オージオメータを使用して聴力検査を行い、125Hz( ヘルツ)∼8000Hzまでオクターブごとの聴力レベルを 測定します。聴力が正常ならすべての周波数で0㏈(デ シベル)となり、数値が大きいほど聞こえにくい状態を 示します。人のささやき声は30dB位、やや大きめの声が6 0dB位、叫び声がほぼ90dB位に相当します。(口もとから 1m離れたときの声の強さ)。 平均聴力レベル30dB位の難聴では、ささやき声が聞こ えなくなり、60dBの難聴になれば普通の大きさの会話が 聞こえにくくなり、90dBの難聴になれば大声も聞こえな くなります。 ※左の図の点線の内部は、人の声の領域を示し、形状がバナナに似 ていることから「スピーチバナナ」と呼ばれています。 ※聞こえの程度は「平均聴力レベル」で表します。 (500Hzの聴力+1000Hzの聴力×2+2000Hzの聴力)×1/4、で算出 します。 《オージオグラムと色々な音源の高さや強さ》 3.聞こえのしくみ 外耳は空気の振動を集め(耳介)、増幅させ、奥へ導く役 目をしています。中耳は、鼓膜で受け止めた空気の振動を、 3つの骨からなる耳小骨を通して内耳へ効率よく伝導しま す。内耳にはかたつむり状の感音器官(蝸牛)があります。中 にはリンパ液が入っており耳小骨の振動はリンパ液の揺れ として感覚細胞に伝えられ、その強弱が電気的信号に変換さ れて聴覚伝導路(聴神経)を通じ大脳に伝わります。大脳皮 質の「聞く」役割を持った細胞によって、音の内容が初めて 認識・判別されます。 (1)伝音系…耳介から蝸牛入り口までで、空気の振動を伝 達・増幅する働きをします。 (2)感音系…蝸牛から大脳までで、物音や言葉として知覚 できるよう振動を電気的信号に変換し脳に 伝えます。 4.聴覚障がいの種類 (1)伝音性難聴:外耳から中耳までの障がいです。補聴器が有効です。 (2)感音性難聴:内耳の感覚 細胞から聴神経を経て、脳に至るまでの間の障がいです。聞こえにくさには様々なタイプがあり、補聴器の 効果には制約があります。(3)混合性難聴:(1)(2)の障がいが混合している場合をいいます。 - 5 - 5.補聴器と人工内耳 補聴器とは、音を大きくして鼓膜に伝える機器です。近年は、マイクに入力された音声をデジタル処理し、よ り聴力の特性に合わせられるデジタル補聴器が普及しつつあります。また、補聴器には箱(ポケット)形・耳か け形・耳あな形などの種類があり、その使用にあたっては専門家による一人一人の「聞こえ」の状況に応じた調 整が必要になります。 補聴器が音の増幅器であるのに対して、人工内耳は手術により蝸牛内に挿入された電極 を使って直接聴神経を刺激する感覚代行装置です。すべての周波数で30∼40㏈の「聞こえ」が得られるので、生 まれつき重度の聴覚障がい児への適用が増えつつあります。(わが国では、一定の条件を満たせば手術は1歳半 から可能です) 6.コミュニケーション方法 (1)聴覚口話法 聴覚を利用して話しことばによってコミュニケーションを行います。補聴器でも聞き取れない言葉は 読話(口唇の動きから内容を読み取る)を併用します。 (2) 手話・指文字 手の形や動き、位置、向きなどに身振り・表情を加えて概念や意思を伝える手話と、仮名文字を指 の形で表す指文字を使用してコミュニケーションを行います。 (3)キュードスピーチ 子音を表す手の形や動き(キューサイン)を併用して読話の補助とする口話法の一方法です。 (4)トータルコミュニケーション法 聴覚口話、読話、手話、指文字、筆談、などのすべてのコミュニケーション手段を相手や場所など に応じて適切に組み合わせて用います。 7.授業における配慮 (1)聞こえにくさや読話に配慮した座席配置にします。(一般的に前から2∼3列目で、光を背にするやや 窓寄りの席が良いです。人工内耳の耳は教師の側にくるように) (2)補聴器や人工内耳は周囲の雑音も同時に増幅してしまうので、静かな環境作りが大切です。教室内の騒 音対策(机などを引きずらない、椅子や机の脚にテニスボールをはめる、等)を行います。 (3)難聴児に対してはしっかり目を合わせて(顔や口元を見せて)話すことが基本です。見ていなければ聞こ えていないものと考えて間違いありません。ひと声かけて顔を向けさせてから話し始めます。教師は板書 しながら(後ろ向きで)話したりしてはいけません。聞かせる時と見せるときを区別します。 (4)手が届く位の距離で、はっきりとした口調で文に適度な切れ目を入れて喋ると分かりやすくなります。 (5)難聴児が聞き取りや読話をする上で内容を推測し易いように、「∼のことだけど」などまず小見出しか ら話し始めます。学習のテーマ、新出語、話題の転換、等は板書(視覚的に提示)します。 (6)静かな環境作りや分かりやすい話しかけ方を友人にも理解してもらえるよう、啓発的な取り組みを行い ます。学年進行や難聴児の気持ちの変化・成長に応じて、繰り返し行う必要があります。 (7)FMマイクを使用すると、周囲の雑音や距離に関わらず話し手の音声を直接補聴器に届けられるので効 果的です。ただし、マイクや電池の保持管理に手間がかかるので、難聴児本人がFMマイクの効果を自覚 できていないと続きません。 (8)難聴児の発音が比較的明瞭であると、聞こえているものと誤解されやすいので特に注意が必要です。 参考文献 「難聴児・生徒理解ハンドブック」―難聴の児童生徒を教えている先生方へ― 平成 15 年 白井一夫 他(長岡市言語親の会) 「難聴児童生徒への聞こえの支援」―補聴器・人工内耳を使っている児童生徒のために− 平成 16 年 柳原尚明 他(財団法人 日本学校保健会) 「聴覚障害幼児のコミュニケーション指導」都築繁幸 平成 10 年(保育出版社) 「人工内耳装用者と難聴児の学習」 城間 将江(著者代表) 平成8年(学苑社) 「心身障害児の理解と配慮」 平成5年(文部省) - 6 - 3 知的障がい 1.知的障がいとは 知的障がいとは「発達期に起こり、知的機能の発達に明らかな遅れがあり、適応行動の困難性 を伴う状態」を言います。 この障がいの多くは、胎児期、出生時期及び出生後の比較的早期に起こります。発達期の規 定の仕方は、必ずしも一定していませんが、18 歳以下とすることが一般的です。 2.知的障がいのある子どもの学習上の特性 (1)学習によって得た知識や技能が断片的になりやすく、実際の生活の場で応用されにくいです。 (2)実際的な生活経験が不足しがちであり、抽象的な内容より、具体的で実際的な内容の指導が 効果的です。 (3)成功体験が少ないなどにより、主体的に活動に取り組む意欲が十分に育っていないことが見 られます。 3.教育的対応の基本 (1)日常・社会生活に必要な知識、技能、態度の習得、そのための理解力や意欲の向上を図ります。 (2)子どもの実態や特性を把握し、指導する内容を選択し「指導計画」を作成します。 (3)規則的でまとまりがあり、見通しの持てる学校生活を設定します。 (4)学習内容を工夫して、生活に結びついた実際的で具体的な活動にします。 (5)将来の生活に必要な基礎的な知識・技能の習得や職業教育の充実を図ります。 (6)集団の中での役割や活動を工夫し、自主的・主体的活動を大切にします。 (7)生活の課題に沿った多様な生活経験を取り入れ、日々の生活の質の向上を図ります。 (8)学習指導上の工夫として、子どもの興味・関心の引く教材・教具、子どもの実態に合った段階的な 指導、成功経験を重視し学習意欲の向上を図ります。 (9)発達の不均衡(個人内差)や障がい特性に指導のポイントを絞った個別的対応も必要です。 4.指導の内容 (1)小学校・中学校・高等学校に準ずる教育 ⇒各教科・領域(道徳、特別活動)・総合的な学習の時間 知的発達の遅れに応じた指導は、各教科の指導内容で行われます。 (2) 特別支援学校に設けられた教育課程上の領域=「自立活動」 子どもには、知的障がいのために、言語、運動、情緒、行動などの面で、顕著な発達の遅れ や特に配慮を必要とする状態がみられます。このような児童生徒には、各教科の指導等のほかに 特別な指導が必要であり、これを自立活動で指導します。 (3)教科・領域を合わせた指導 子どもの心身の発達段階や障がいの状態によっては、各教科や領域をそれぞれで指導するよ り、一定の中心的な課題等に統合して指導をする方がより効果的学習となり得る場合がありま す。 知的障がいのある子どもを教育する支援学校では、従前から次のような各教科や領域の全部又 は一部を合わせた指導が実践されています。 - 7 - 5.指導の形態 ①「日常生活の指導」 基本的生活習慣(衣服の着脱、排泄、食事、清掃 等)や集団生活をする上に必要な内容(あいさつ、 きまりを「守る」等)を指導するものです。これら は、子どもが毎日繰り返す学校生活(着替え、係活 動、朝の会、給食、掃除、帰りの会等)の諸活動の 中で指導されるものです。 ②「生活単元学習」 子どもの実際の生活に役立つ知識・技能とそれ を活用する力を身につけていくことを目的とし ています。行事や季節等に課題意識を持って主体 的に取り組む活動です。子どもは、生活に基づく 目標や課題を達成する活動を通して、結果的に各 教科の内容を習得していきます。 ③「遊びの指導」 遊びを学習の中心にして、身体活動を活発にし、 友だちとのかかわりを促し、意欲的・主体的な活動 を育てていくものです。自発的で、活動自体が目的 となり、子どもが遊びそのものを楽しむという点に 主眼が置かれています。遊びの指導には、自由遊び と課題遊びがあります。 ④「作業学習」 社会的自立に必要な基礎的力を身につける学 習です。内容は、園芸、木工、紙工、縫工、窯業 等で、将来に必要な知識・技能・態度・意欲等を 育てることを目標とします。現場実習は、学校と 社会の接点となる重要な学習で、将来の自立的生 活を目指すための大切な要素です。 6.指導上の配慮点 (1) 子どもを理解する 子どもの行動を理解するには、その行動が起こる、因果関係や背景要因等を詳細に調べ、その 内面を読み取ることが大切です。かんしゃくの原因や不安定になる原因も、環境(人や場面)と の関係でみていくことが必要です。また、不適切な行動をどうやめさせるかよりも、望ましい・ 新しい行動を増やしていくという視点をもつことも大切です。 (2) 個に応じた指導 (「個別の指導計画」) 子どもの良さ(伸ばしていきたい力)と課題(改善していきたい力)の両面を捉えて、個別の 指導計画を作成します。この計画は、集団指導の中での配慮や個別的な指導も含み、一人一人の ニーズに応じて作成します。(個別に指導するための計画ではありません) (3) コミュニケーション環境を整える 知的障がいのある子どもは、言語発達の遅れを伴うことがあります。学校生活全体において、 わかりやすい指示等を工夫することが大切になります(ことばだけの抽象的な提示にならないよ うに留意)。また、ことば(表出言語)だけに依存せず、気持ちを伝えあう手段を多様にもって コミュニケーションする力を育てることが大切です。 (4) 自己選択・自己決定ができるように 可能な限り自分の意思で選択・決定し、行動できるようになることは、自立に向けた重要な力 になります。子どもが自己選択・決定できる場面設定や意思を表出する手段を配慮・支援してい くことが大切になります。具体的には子どもの特性に応じて、絵や写真カードで選択・意思表出 できるように練習していくこと等が考えられます。 (5) 子どもの興味・関心を引く教材・教具を作成・工夫し、活用する 指導を効果的にするために、子どもが興味・関心を持つような教材・教具を活用することが大 切です。又、子どもの実態に応じた適切な教材を作成することがより有効です。 参考文献 「一人一人を大切にした教育−障害等に配慮して−」平成8年(文部省) 「盲学校、聾学校及び養護学校学習指導要領解説−各教科、道徳及び特別活動編−」 平成 12 年(文部省) 「特別支援学校教員専門性向上研究協議会」(平成 19 年度テキスト) 国立特別支援教育総合研究所 - 8 - 4-1 肢体不自由 1.肢体不自由とは 発生原因のいかんを問わず四肢体幹に永続的な障がいがあり、長期にわたり自らの力で身辺の処理な どを行うことが困難な状態をいいます。 2.原因となる疾患 肢体不自由の原因となる疾患について、 医学的に原因をたどれば、脳性疾患(脳性まひ、脳水症、 脳外傷後遺症など)、脊椎脊髄疾患(二分脊椎など)、筋原性疾患(筋ジストロフィーなど)、骨・関 節系疾患(股関節脱臼、骨形成不全など)に分けられます。 今日、乳幼児検診や医学等の進歩により、肢体不自由の原因となる疾患は脳性まひや脳炎後遺症等に よる脳性疾患が大きな割合を占めるようになっています。 主な原因疾患の種類 3.脳性まひとは 1.まひ性疾患 (1) 脳性まひの定義 ・脳性小児まひ 「受胎から新生児(生後4週以内)までの間に生じ ・脳室周囲白質軟化症(PVL) た、脳の非進行性病変にもとづく永続的な、しかし ・進行性筋ジストロフィー 変化しうる運動および姿勢の異常である。その症状 ・二分脊椎 ・脊髄性小児まひ(ポリオ) は満2歳までに発現する。進行性疾患や一過性運動 2.結核性骨関節疾患 障がい、または将来正常化するであろうと思われる ・脊椎カリエス ・肋骨カリエス 運動発達遅延は除外する。」 3.外傷性疾患 (厚生省 脳性麻痺研究班 昭和 43 年) ¥ ・切断 ・骨折 ・火傷 4.骨疾患 (2) 脳性まひの原因 ・くる病 ・病的骨折 脳性まひの原因は様々ですが、低出生体重(未熟 5.関節疾患 児)新生児仮死、新生児重症黄疸が3大原因といわ ・非結核性関節炎 れています。しかし、これらは医学の進歩により次第 ・先天性股関節脱臼 に減少しつつあり、予防不能な原因不明または胎生期 6.形態異常 に原因のあるものの比率が増えています。全体として ・顔面裂 ・内反足 ・斜頸 発生率は全ての障がいの中で 0.1%前後を推移して います。 主な原因 胎生期 ・先天奇形 ・母体の慢性疾患 ・妊娠中毒 ・子宮内感染 周産期 ・分娩外傷 ・重度仮死 ・早産 ・重症黄疸 ・低出生体重他 新生児期 ・感染症 ・外傷 ・脳血管障がい ・けいれん発作 (3) 脳性まひの随伴障がい 脳性まひは、脳の発達途上の重要な時期に障がいを受けるため、運動障がいだけでなく知的障がい、 視覚障がい、感覚運動障がい、聴覚障がい、てんかん、言語障がいなどいろいろな随伴障がいを伴うこ とがあります。 (4) 脳性まひの病型分類 原因により脳損傷の部位が違い、まひの性質や部位が異なるところから、各種のタイプに分類さ れています。 - 9 - 障がいの実態による病型分類 ① 痙 直 型 : 強い筋緊張があり、自分の思うように身体を動かすことが難しいの が特徴。 ② アテトーゼ型 : 身体のコントロールがうまくできず、本人の意図に反して不随運動 が生じるのが特徴(低緊張性と緊張性がある) ③ 失 調 型 : 平衡感覚の障がいにより、協応動作がうまくいかない。 ④ 混 合 型 : 上記の二つ以上の型の特徴を併せ持つ場合。 4.指導にあたって (1)学習レディネスとしてのさまざまな体験 肢体不自由児は一般的に行動の範囲が限定され様々な体験をする機会が乏しいため、体験や経験をも とにした具体的な概念形成において弱くなる可能性があります。自然とふれあう直接体験や買い物など の経験を通した社会との交流は、体験できたという喜びや充実感だけでなく今後の自信につながり、具 体的な認知や創造力を培う基礎になります。 居住地校交流なども積極的に経験し、人や地域のつながりを大切にしたいと思います。 (2)自立活動の指導 自立活動の内容は、子どもの障がいの重度・重複化、多様化に対応し、適切かつ効果的な指導を 進めるため、平成 11 年3月の学習指導要領改訂で、①健康の保持 ②心理的な安定 ③環境の把握 ④身体の動き ⑤コミュニケーションの5つの区分(22 の内容)が示されています。子どもが自主 的な活動を通して自立(子どもがそれぞれの障がいの状態や発達段階等に応じて、主体的に自己の 力を可能な限り発揮し、よりよく生きていこうとすること)をめざし、障がいに基づく種々の困難 を主体的に改善・克服しようとする意欲を高めるようにすることが大切です。 個々の子どもについて、個別の指導計画を作成し、長期的及び短期的な指導のねらいに基づき、 必要な指導内容を段階的に取り上げることや子どもが興味を持って主体的に取り組み、成就感を味 わうことができるような指導内容を取り上げることが大切です。 具体的な指導内容の設定に当たっては、一般に発達の遅れ ている側面や改善の必要な障がいの状態のみに着目しがちで すが、子どもの発達の進んでいる側面をさらに伸ばすことに よって、遅れている側面を補うことができる指導内容を取り 上げることも必要です。 (3)年齢に応じた教育環境 低年齢の児童の指導では個人差はありますが、機能的な面 の克服改善をめざして正常な運動機能の獲得や、変形・拘縮がすすまないように指導すること、また 栄養管理や健康面の配慮が大切です。しかし発育期を過ぎると、医療的な配慮だけでなくその子ど もがもっている他の能力を伸ばす必要があります。つまり自助具や補装具、音声補助装置などを用 いて、代償機能の活用他によりQOLの向上につなげていくという視点が重要になります。 (4)一人一人に応じたバリアフリー環境 まだ十分とは言えませんが、社会のバリアフリー環境は改善されつつあります。家庭や教室にお いても一人一人のニーズに合わせた支援機器等の使用が学習面やQOLの向上には欠かせません。 (5) 家庭・福祉機関・医療機関等との連携と個人情報の保護 子どもの実態把握、指導内容、指導方法等について、学校と家庭(保護者)が十分に連絡を取り合 うことは非常に重要なことです。特に医療的ケアを必要とする子どもに対しては、医療機関との連 - 10 - 携、看護師の連携が必要ですが、個人情報保護には十分配慮する必要があります。 5.いろいろな教材・教具と装具・補助具等 (1)食事介助用品(食器・スプーン・おはし・マグカップ・ストロー付きボトル) (2)布でできている教材(手で感触を楽しめ、色も鮮やかで、スズの音も聞こえます) (3)コミュニケーション機器(スイッチ類・スピーチエイド・パソコン等) (4)移動用補助具の例 (5)装具 参考文献 「障害児のための新・手の使い方の指導」手の使いかた指導研究会編 「障害児教育の基礎用語」 関西障害児教育研究会 「肢体不自由教育実践講座」全国肢体不自由養護学校長会〔編著〕 「よくわかる障害児教育」 岩立・小椋編著 ミネルヴァ書房 2005 - 11 - かもがわ出版 1999 4-2 重度・重複障がい 1. 重複障がい者とは 「重複障がい者」とは、「複数の種類の障がいを併せ有する児童又は生徒」(特別支援学校小学部・中学部学習 指導要領総則第2節第5の2、特別支援学校高等部学習指導要領総則第2節第6款)であり、原則的には学校教 育法施行令第 22 条の3において規定している程度の障がいを複数の種類併せ有することを指しています。 しかし、実際の指導に当たっては、その必要性から必ずしもこれに限定される必要はなく、言語障がいや情緒 障がいなどを併せ有する場合も含めて考えてよいことになっています。 2. 重度・重複障がいの規定 昭和 50 年3月、「重度・重複障がい児に対する学校教育の在り方」が報告され、この中で重度・重複障がい 児の範囲を以下のように規定しています。 (1)学校教育法施行令 22 条の2(現行の第 22 条の3)に規定する障がいを二つ以上併せ有する者 (2)発達的側面からみて、精神発達の遅れが著しく、自他の意思の交換及び環境への適応が著しく困難な者 (3)行動側面からみて、多動的傾向等問題行動が著しく著しい者で常時介護を要する程度の者 つまり、重度・重複障がいの概念は、障がい種が重複しているだけでなく、発達的側面や行動的側面からも 規定しています。 3. 重度・重複障がいのある子どもの支援のあり方 学校における重度・重複障がい児の教育では、次の3つの支援が考えられます。 (1)健康や身体機能の保持及びQOL(生活の質)を高めるための支援 (2)コミュニケーションや社会性を養うための支援 (3)行動上の障がいに対する支援 ほとんど自力での移動ができない子どもは、自立活動の「健康の保持」や「身体の動き」が重要な課題にな ります。またQOLの向上という視点からは「環境の認知」「コミュニケーション」の支援が大切です。 痰の吸引、経管栄養、導尿などの「医療的ケア」を正しい手続きのもとに実施することは、QOLの向上に 寄与します。平成 16 年 10 月、文部科学省の「盲・聾・養護学校における痰の吸引等の取り扱いについて」の通 知により、保護者および主治医の同意、医療関係者による医学管理と研修による技能の習得、学校における体 制整備等の条件が整えば、口腔内の痰の吸引・経管栄養・導尿の補助などは決められた手順に従って、支援学 校の教員に限り実施できるようになりました。 重度・重複障がい児は、発達上の様々な課題がある上に、生命維持、安全の確保も大切です。一人一人の命 を輝かせて生きられるように、個々のニーズにあった適切な指導や援助が特に必要です。 参考文献 「特別支援学校教員専門性向上研究協議会」(平成 19 年度テキスト) 国立特別支援教育総合研究所 - 12 - 5 病弱 1.病弱とは 病弱という言葉は医学用語ではなく、病気にかかっているため体力が弱っている状態を示す一般的な意味で用 いられています。 一般に学校教育の立場から、病気が長期にわたっているもの、又は長期にわたる見込みのもので、その間継続 して医療又は生活規制を必要とする状態をいいます。なおここでいう生活規制とは、健康の維持や回復・改善の ために必要な運動、食事、安静、服用等に関して守らなければならないことが様々に決められていることを指し ます。 2.病弱教育の意義 病弱教育を受ける子どもたちは病気という部分を持ち合わせながら、多くは生活年齢相応に成長発達して いきます。しかし病気の種類や状態の変化、発症年齢等により一人一人の子どもの教育的ニーズは異なりま す。病気の子どもが学校教育を受けるにあたり、教員には、子どもの病気の基礎的知識と心理面の理解が求め られます。病弱教育の意義としては以下の3点が考えられます。 (1) 学習を保障すること(進学指導も含む) (2) 子どもの心身の安定を図ること (3) 治療上の効果をあげること 3.病弱教育の場 病気の子どもの教育機関 (1)支援学校(病弱)があり、主に本校 とともに、病院内に設置された分教室があ ります。また、院内学級(小中学校の病院 内の病弱・身体虚弱支援学級)のない病院 や自宅等へ出向いて行う訪問教育もありま す。 ①支援学校(病弱) ②分教室(病院内設置) ③訪問教育(病院・自宅) 慢性疾患のある子どもへの教育的支援 慢性疾患をもつ子どもへの教育的支援 繰り返す入退院 病気のために自分の体に自信が持てない 生活基盤の 不安定さ 自分がいる場所で必要 とされているという実感 周囲から自分を認めて もらえる 情緒の安定 自信 (2)小中学校における病気の子どもの教 育としては、病弱学級、通級指導教室、病 院内に併設している院内学級があります。 ①小中学校 ②校内支援学級 ③通級指導教室 ④院内学級(病院内設置) 安全感 自分を信頼できる経験を積むことで 安心感 所属の欲求 自己効力感 自尊感情が形成される 退院後も本人の望むサポートの継続 社会的自立、自己実現へ 4.病弱・身体虚弱の子どもへの支援のあり方 (1)病気の子どもの教育的支援 ① 前籍校と連携をとり、学習の進路を合わせて帰った時に困らないようにします。(教科指導) ② 病気のことを理解し、自分の病気について自己管理できる力をつけます。(自立活動) ③ 日々の活動を通じて自信をつけます。(特活、総合的な学習の時間、行事など) - 13 - 自己実現 (2)医療との連携 ① 病気についての医療的知識を得ます。(研修等) ② 学習時間や活動範囲等に制限がある場合は主治医や担当看護師との連携を密にし、その指示の範囲 で行います。 ③ 入院期間や退院時期の情報を得る。(医師、看護師、教員の連絡会を学期に1回程度行います。) 退院時期が決定すれば前籍校に戻った時に配慮すべきことを主治医に確認します。 (3)地域の学校(前籍校)へのスムーズな復帰のために 入院中の子どもが教育を受ける場合、学籍を移すことが基本となります。しかしながら入院中の子 どもの心は様々な不安感や孤立感を抱えています。スムーズな前籍校への復帰に対してのサポートと して、入院中より図に示すような連携が大切です。 ∼ 地 域 の 小 ・中 学 校 も 入 院 中 の 子 ど も を 支 え て い る ∼ ア フ タ ー ケ ア や 連 携 を と る こ と の 必 要 性 支 援 学 校 (病 弱 ) ・学 習 進 度 の 確 認 ・学 習 プ リ ン ト 等 の 状 況 確 認 ・連 絡 綴 り 、 お 便 り 、 等 入 院 中 の 不 安 連 携 と情 報 交 換 ・病 ・い ・友 ・体 ・病 理 気 が 再 発 し な い じ め に 合 わ な い 達 が で き る か ? 育 や ス ポ ー ツ が 気 の こ と が 周 囲 解 さ れ る か ? か ? か ? で き る か ? に ・子 ど も 、保 護 者 へ の 理 解 啓 発 ・学 級 で の 配 慮 事 項 (座 席 、係 り 等 ) 前 籍 校 病 院 不安の解消 入院 中の場 合 ・病 気 が 治 る か ? ・前 籍 校 に 居 場 所 が あ る か ? ・学 習 に つ い て い け る か ? 退 院 時 の 不 安 安全で安心な楽しい学校生活 支 援 学 校 (病 弱 )と 前 籍 校 の 連 携 (居 住 地 の 小 ・中 学 校 ) (4)地域で過ごす病気の子どもの支援の輪(連携図) 病気と付き合いながら退院を迎えた時の子どもへの支援 支援学校 (病弱) 教育相談 公開講座 ホームページ 地域社会 子ども 保護者 地域校・前籍校 院内学級 家族 地域社会 福祉 (子ども家庭センター 保健センターなど) 医療 ①子どもの机、いす、出籍簿、役割表などに自分の名前があ り、入院していた間もこのクラスに存在していたと感じら れる環境を整えて迎えます。 ②病気のことを本人、保護者の了解を得て、クラスの子ども に説明し、どんなサポートができるかについてクラス全体 で話し合う場を設けます。 ③病気のこと以外は、普通の小・中学生として扱い、過度な 配慮はしません。 参考文献 学校教育法施行令・就学指導:「文部科学省特別支援教育課就学指導資料」文部科学省 平成 14 年 「病弱教育Q&A」全国病弱養護学校長会 平成 12 年 「病気の理解のためにⅠ―喘息、アトピー性皮膚炎、結核―」「病気の理解のためにⅡ―小児白血病」 「病気の理解のためにⅢ―小児炎症性腸疾患(クローン病)―」 「病気の理解のためにⅣ―小児神経・筋疾患―」大阪府立羽曳野養護学校 平成 18 年 「はじめての特別支援教育」明治図書 平成 19 年3月 - 14 - 6 言語障がい 1. 言語障がいとは 言語障がいは、言語情報の伝達及び処理過程における様々な障がいを包括する広範な概念です。一般的には、 言語の受容から表出に至るまでのいずれかのレベルにおいて障がいがある状態であり、その実態は複雑多岐に わたっています。言語機能の成立にかかわる要素は広範で、運動機能や思考、社会性の発達などとのかかわり も深く、言語障がいを単一の機能の障がいとして定義することは困難です。 しかしながら、具体的にそのような状態を示すとすれば,社会一般の聞き手にとって、言葉自体に注意が引 かれるような話し方をすることが、本人にとって社会的不都合を来たすといえます。こうした場合、言語の意 味理解や言語概念の形成などの面に困難を伴うことも考えられます。また、近年は対象児の多様化とともに、 発達支援的側面が重視される傾向にあり、指導の内容・方法についても、教えるという側面から、教師自身が 環境要因となって言語活動を促進したり、子どもを取り巻く周囲の環境の整備や養育者への働きかけ・支援が 重視されるようになってきています。 2. 対象となる主な言語障がい (1)器質的又は機能的な構音障がい(口唇口蓋裂によるもの、学習上の発音の誤りなど) (2)話しことばの流暢性にかかわる障がい(吃音や脳性まひによるリズムの異常など) (3)話す・聞く等言語機能の基礎的事項の発達の遅れや偏りに関する言葉の障がい(言語発達の遅れや読字障がいなど) 3. 言語障がいの特性 (1) コミュニケーションの障がいであること コミュニケーションは話し手、聞き手両者のかかわりの中でその機能を果たしています。即ち、相 互関係の問題として考える必要があります。子ども自身への支援だけでなく、周囲の人たちが子ども の気持ちをどう聞き、どう汲み取っていくのかという対応も必要です。 (2) 見逃されやすい障がいであること 言語障がいは、話さなければわかりにくい障がいです。日常生活での影響が少ないと考えられ、見逃され やすかったり、軽んじられたりしがちです。困っている子どもに気づくということが支援の第一歩です。 (3) 医療との関連が大きな障がいであること 言語機能の障がいの現れ方は、構音機能などの器質的な状態と学習の結果による場合が多いと考えられま す。そのため、言語障がいの評価や指導プログラム作成に関しては医療との関係を視野に入れる必要があり ます。 (4) 発達的な観点を重視する必要のある障がいであること 発音の未熟さや言葉が稚拙であるなどの場合は、成長に伴って改善されることが少なくありません。そ のため、発音の誤りや言葉の遅れ等による状況の評価や指導は、対象となる子どもの発達の状況を見極めて 行うことが重要です。 4. 対象となる主な言語障がいにおける例 (1) 構音障がい 構音障がいとは、話し言葉の使用において、「さかな」を「たかな」、あるいは「たいこ」を「たい と」などのように、話し手の年齢から見て、一定の音をほぼ習慣的に異なって発音する状態をさしてい ます。 ◇音声的な特徴からの分類 - 15 - ① 音の置き換え……「さかな」([sakana])を「たかな」([takana])というように、 例えば[s]音が[t]音に置き換わるような場合。 ② 音の省略 ………「ラッパ」([rappa])を「アッパ」([appa])というように、[r]音 を省略するような場合。 ③ 音のひずみ………日本語の語音には含まれない音になったもので、音声記号などで表 すことが難しい場合([ts]と[t∫]の中間」など)。 (2) 吃音 聞き手が話し手の話の内容よりも、話すときの「間」の取り方や連続性に集中する結果、お互いのコミ ュニケーションがうまく成立しなくなる状態をいいます。 ◇話し方の特徴 ① 語頭音の繰り返し 「ボ、ボ、ボ、ボクは・・・・」 ② 語頭音の引き延ばし 「ボオーーークは」 ③ 語頭音が出にくい 「あのー、えーと 等」 ※主な支援の内容は、無理に正しい発声を強要するのではなく心理的な安定や自信をつけることで吃音 を軽減することです。 (3)言語発達の遅れ 冒頭にも述べましたように言語機能にかかわる要素は広範です。そのためその臨床像は様々です。即ち 実態把握がキーポイントになります。 ① 保護者との面談 生育歴や現在の様子等を聞きます。 ② 行動観察 要求の出し方、言葉の使い方、人とのかかわり方等を見ます。 ※ 言語機能の基礎的な発達の遅れや偏りに関しては他の障がいに随伴して現れる障がいでもあること から主とする障がいの教育の中で行われる事が一般的です。 5.指導上の配慮等 (1) 信頼感を育てる 子どもとの信頼関係を築くことが大前提です。 子どもの話にじっくり耳を傾け、 言いにくそうなことばや、 言い間違えそうなことばに対しては、無理に言い直させることは避け、そっと適切なことばを添えるよう にしましょう。 (2) 話しやすい雰囲気づくり 平素から子どもの好きなことや得意なことを把握し、興味や関心のあることを話題にして、子どもが得意 になって話せるような機会や雰囲気をつくることが大切です。 (3) 達成感や成功感を味わう 子どもは、少しでもできるようになったことを他の人に伝え、認めてもらいたいという気持ちを持ってい ます。適当な目標を設定し、できたという達成感や成功感を多く味わうようにすることが大切です。 (4) コミュニケーション方法の工夫 子どもが自分から友達の遊びや活動に加わることができるように、ゆっくり短めに話したり、絵や写真カ ード、身振りや文字を使ったりすれば、やり取りがスムーズにいくことを、周囲の子どもたちが理解する ことが大切です。 (5) 聞く態度を育てる 聞く態度を育てることは、発音の改善や話題の拡充にもよい影響を与えます。その子どもだけでなく、人 の話を最後まで聞こうという学級全体の雰囲気をつくることが大切です。 (6)子どもの特性への配慮 視覚優位な子どもには「絵や写真」の活用、聴覚優位の子どもには「短く、具体的な言語」による 指示など子どもの特性を知り、コミュニケーション場面において長所を活用することが大切です。 参考文献 「盲・聾・養護学校教員専門性向上事業テキスト」平成 18 年度 国立特殊教育総合研究所 「わが国における言語障害教育を取り巻く諸問題」松村勘由 牧野泰美 国立特殊教育総合研究所紀要 第 31 巻 2004 - 16 - 7 自閉症・高機能自閉症・アスペルガー症候群 1. 自閉症とは (1) 自閉症の原因 育て方や環境に原因があるのではなく、 中枢神経系の機能障がいが基礎にあると推定されている発達障が いで、知的な遅れを伴うこともあります。 (2) 自閉症の三つの特徴(一般的にこのような特徴が見られます) ① 社会性の障がい 人と視線が合いにくい、交流を求めない、共感しにくいなど、相互的社会的交流の障がい ② コミュニケーションの障がい 話し言葉の発達の遅れ、反響言語(相手が言った言葉をそのまま返す)、常同的・反復的な言語の使 用又は独特の言語、非言語的表現の乏しさ、比喩などの理解の乏しさ、ごっこ遊びや社会的模倣遊びの 欠如など、対人的意思伝達全般にわたる障がい ③ 想像力の障がいとそれに基づく行動の障がい 常同的・反復的な運動(手や指を羽ばたかせたり絡ませたり、又は身体全体を使って複雑な動作をす るなど)、特定の物や記号への固執、順序や配列への固執、儀式的行為へのかたくななこだわりなど、 行動や興味及び活動全般にわたる著しい偏り ※ 診断基準については、アメリカ精神医学会作成の『DSM-Ⅳ 精神疾患の診断・統計マニュアル第4版』又 は、世界保健機構(WHO)作成の『ICD-10 国際疾病分類第 10 版』の中に、「広汎性発達障がい」の一つ として示されています。 (3) 指導に当たっての基本的な考え方 ① 安心できる環境を設定する 対人関係における不安と緊張を和らげる雰囲気の下で、受容と共感を基盤にしたかかわり方を大切にしまし ょう。 ② 指導できる関係をつくる 子どもの行動などを認め、受け入れることを通して、子どもとの間に信頼関係を築きましょう。 ③ 優先すべき課題を決める 多くの場合、子どもにはいくつもの課題があります。複数の課題を短期間に一度に改善しようとすると子ど もの負担が大きくなります。課題の優先順位を考えて指導に当たることが大切です。 (4) 保護者へのアドバイス ・規則的な生活 ⇔ 睡眠、食事、排泄、更衣などを生活の中で根気よく教え、自分でできることを少しずつ のリズム 増やしましょう。 ・子どもの要求 ⇔ 揺らす、くすぐるなど子どもが〝快〟を感じる身体接触遊びを通して、子どもからの要 求を引き出すようにしましょう。 ・関係づくり ⇔ 子どもの好きな遊びを一緒にしながら、自分だけの世界から大人との関係へと広げ、人 とのかかわりを意識させるようなやりとりをしましょう。 ・伝え方の工夫 ⇔ 言葉のみのコミュニケーションに頼らず、身振りや写真、カード、絵等の視覚的な手が かりを使って、子どもが理解しやすい伝え方を工夫しましょう。 ・経験を増やす ⇔ 散歩やブランコ、滑り台等の遊び、手遊び、家庭での手伝い、公共の施設や交通機関の 利用等、いろいろなことを経験させ、自分でできることの種類を増やしましょう。 - 17 - 2. 高機能自閉症・アスペルガー症候群とは *高機能自閉症 ① 他人との社会的関係の形成の困難さ ② 言葉の発達の遅れ ③ 興味や関心が狭く特定のものにこ だわることを特徴とする行動の障がいである自閉症のうち、知的障がいを伴わないものをいいます。 *アスペルガー症候群 −世界保健機構(WHO)作成の『ICD-10 国際疾病分類第10版』より− ① 言語や認知的発達において臨床的に明らかな全般的遅延がない。 ② 社会的相互関係における質的異常がある。(自閉症と同様の診断基準) ③ 限定された興味、限定的・反復的・常同的な行動・関心・活動性のパターン (自閉症と同様の診断基準) ※アスペルガー症候群は高機能自閉症と類似点が多く、この2つを明確に区別する必要はないという考え方も あり、高機能自閉症と同義で使われることもあります。 3. よく見られる特徴とそれらへの対応について (1)変化への対応に困難が見られる 同じ状態を好み変化を嫌う。不測の出来事に柔軟に対応することが苦手。 ・急な変化は苦手なので、予定変更のあるときは前もって丁寧に伝える。1日あるいは1週間のスケジュ ールを知らせて、活動の見通しを持たせる。 (2)対人間の相互交流に困難が見られる 対人関係における複雑なルールの理解が困難。冗談や比喩、皮肉の理解が難しい。話し言葉の理解は発達 しているが、人とのコミュニケーションがうまくいかないことが多い。他者の立場に立って考えることが苦 手。 ・いろいろな対人場面での望ましい振る舞い方や話し方を、ロールプレイ等も取り入れながら具体的に示 す。まわりの生徒の発達段階を考慮した特性の理解を促す。 (3)興味や関心・活動の限定、反復常同性 強いこだわりを持ったり強迫的に物などを収集したり自分独自の世界に浸ることがある。何度も同じこと を繰り返し質問したり、ときには関心のあること以外は学ぼうとしない傾向がある。 ・その場に関係のないことを何度も話したり質問したりすることがあれば、そういうことのできる時間( 休憩時間等)を別に設ける。望ましい行動をしたときにすかさず褒める。こだわりや興味・関心のある ものと学習課題を結びつける。 ・強いこだわりや反復行動を無理にやめさせるのではなく、そうせざるを得ない理由があるということを 理解し、ゆっくりと少しずつ他の行動に誘う。 (4)その他 ・強制や叱責は、情緒的に不安定にさせてしまうことがあるので最小限にする。叱責でなく説明するよう にする。 ・協調性を強要しないことが大切。協調性を強要しすぎると、むしろ集団を避けるようになってしまうこ とがある。 4. 理解とその支援 知的障がいを伴わない高機能自閉症・アスペルガー症候群の子どもたちは、『障がいの特性』に気づかれに くく、その行動が正しく理解されずに周囲からは「変わっている」「わがままだ」と捉えられ、からかいやい じめの対象となってしまうことも少なくありません。いじめなど被害的な体験を多く受けてきた場合、何年も 後になってその時の恐怖や屈辱的な記憶を思い出し、心理的な後遺症に悩むこともあります。こうした周囲の 無理解や不適切な対応が積み重なることにより「自分は何をやってもうまくいかない」「自分はだめな人間な んだ」など否定的な自己イメージを持ち、セルフエスティーム(自尊感情)が低くなったり、二次的症状とし て不登校や情緒が不安定になったり、中には深刻な社会不適応の状態となってしまうこともあります。だから こそ、彼らの認知や特性の正しい理解と、適切な対応や支援が必要なのです。 - 18 - 8 LD(学習障がい)、ADHD(注意欠陥多動性障がい) 1.LD(学習障がい)とは 知的な発達に全般的な遅れはなく、多くのことがほかの子どもたちと同じようにできるのに、 ある特定のことに関して習得と使用が困難な状態を指します。 このようなことは、「聞く」など一つのことだけに著しく現れる場合もあれば、「聞く」、「計算 する」など、複数のことに著しく現れる場合もあります。 ※「LD」という言葉は、Learning Disabilities の頭文字をとって「LD」と表しています。 文部科学省は平成15年3月に公表した「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」で 学習障がいを「LD(学習障がい)」とし、以降、「LD」が一般に受け入れられる用語となっ てきました。 <LD(学習障がい)の定義> 学習障がいとは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計 算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指す ものである。 学習障がいは、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障がいがあると推定されるが、視 覚障がい、聴覚障がい、知的障がい、情緒障がいなどの障がいや、環境的な要因が直接の原因と なるものではない。 学習障がい及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査研究 協力者会議(H11.7.2「学習障がい児に対する指導について(報告)」) ※ 診断基準については、アメリカ精神医学会作成の『DSM-Ⅳ 精神疾患の診断・統計マニュア ル第4版』又は、世界保健機構(WHO)作成の『ICD-10 国際疾病分類第 10 版』の中に、「広 汎性発達障がい」の一つとして示されています。 2.LD(学習障がい)児によくみられる学習上のつまずき (1) 聞こえていても、言葉の意味を理解することが困難 (2) 自分の言いたいことを、表現することが苦手 (3) 字や行をとばして読んだり、読めるが意味を理解することが困難 (4) 文章をすらすらと読むことが困難 (5) 鏡文字になったり、形の整った文字を書くことが苦手 (6) 漢字の読み書きが困難 (7) 繰り上がりや繰り下がりの計算でのつまずき (8) 数字のけたをそろえるのが苦手 - 19 - (9) 計算はできるが、図形や文章題が苦手 (10) 間や空間の概念を理解することが困難 *学習上のつまずきと併せて、次のような注意集中の困難や多動、社会性や運動面の困難などが見 られる場合があります。 (11) 一つのことに短い時間しか集中できない。 (12) 周囲のちょっとしたことに気をとられやすい。 (13) 突発的な行動が多く見られる。 (14) 運動するときに、ぎこちない動きになってしまう。 3.支援に当たって 以下のことも参考にして、一人ひとりの子どものニーズに応じた「個別の教育支援計画」「個別 の指導計画」を立案・作成し、それに基づく指導の結果を評価して、改善につなげる工夫すること が大切です。 (1) 聞く・話すことへの対応 ① 注意を促してから、話しかける。 ② 多段階の指示を出すのではなく、分かりやすい言葉を使い一つ一つ確認しながら指示を出す。 ③ 音声だけでなく、動作や絵や写真などの視覚情報も併せて提示する。 ④ 自由に話せる雰囲気を作る。話しやすい身近な話題を取り上げる。 ⑤ 5W1Hに関した質問をし、それにあわせて話をするようにさせる。 ⑥ 連想ゲームやなぞなぞなどのことば遊びをする。 (2) 読む・書くことへの対応 ① 文字を大きくしたり、行間を広げたりする。1行だけが見える補助紙を用意し、活用する。 ② 子どもが関心を持ち、読みやすい文章を選んで、音読するように促す。 ③ 文章に関係のある絵や写真を提示するなど視覚的支援を併用する。 ④ 書きやすいように、十字の点線が入った用紙などを利用する。 ⑤ 文字の特徴(形、線の長さ、方向、筆順、意味等)に注意を向けるよう促す。 ⑥ 字を覚える時に、語呂合わせなど聴覚的な記憶も利用する。 (3) 計算することへの対応 ① つまずいているところを明確にし、段階的にきめ細かく対応する。 ② 位取りを間違える場合は、マス目のあるノートやプリントを用いる。 ③ 文章題では、具体物を操作したり図解するなどして、内容の読み取りに時間をかける。 ④ 文章題の中のキーワード(「あわせて」、「残りは」等)にアンダーラインを付け演算子(+ −等)に置き換えさせる。 - 20 - 4.ADHD(注意欠陥多動性障がい)とは ADHDは「Attention-Deficit Hyperactivity Disorder」の略で、日本では「注意欠陥多動 性障がい」と訳されています。中枢神経系の何らかの機能不全が原因であると推定されています。 <ADHD(注意欠陥多動性障がい)の定義> ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする 行動の障がいで、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。 また、7歳以前にあらわれ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があ ると推定される。 特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議 (平成15年3月28日 「今後の特別支援教 育の在り方について(最終報告)」) ※診断の基準は、アメリカ合衆国精神医学会作成の「DSM-Ⅳ(精神疾患の分類と診断の手引き 第4版)」に示されていますが、日本の多くの病院でもこの診断基準に基づいて診断をしています。 <ADHD(注意欠陥多動性障がい)の判断基準>(DSM-Ⅳより一部抜粋) (1)不注意 ① 学校での勉強で、細かいところまで注意を払わなかったり、不注意な間違いをしたりする。 ② 面と向かって話しかけられているのに、聞いていないようにみえる。 ③ 指示に従えず、また仕事を最後までやり遂げない。 ④ 学習などの課題や活動に必要なものをなくしてしまう。 ⑤ 日々の活動で忘れっぽい。 (2)多動性 ① 授業中や座っているべき時に席を離れてしまう。 ② きちんとしていなければならない時に、過度に走り回ったり何かによじ登ったりする。 ③ じっとしていない。または何かに駆り立てられるように活動する。 ④ 過度にしゃべる。 (3)衝動性 ① 質問が終わらないうちに出し抜けに答えてしまう。 ② 順番を待つのが難しい。 ③ ほかの人がしていることをさえぎったり、じゃましたりする。 発達水準に相応しない「不注意」や「多動性・衝動性」などの症状が6ヶ月以上持続した状態、 またそのうちいくつかが7歳以前に存在し、他の精神疾患ではうまく説明されないとき、ADHD と診断されています。 - 21 - *ADHD 三つのタイプ ①「不注意優勢型」・・・・・・ 不注意の症状が強く見られる。 ②「多動性・衝動性優勢型」・・ 不注意よりも、多動性・衝動性が強く見られる。 ③「混合型」・・・・・・・・・ 両方の症状とも強く見られる。 5.支援に当たって ① 落ち着いて学習できる環境を設定する。(座席の工夫や刺激の除去) ② 注意を向上させたり、内容が伝わりやすくするために、言語的な指示は簡潔で具体的なも のにする。 ③ 動作や絵、図、文字などの視覚的援助を多く取り入れる。 ④ 自分が予想していなかった事態に直面すると混乱しやすいので、事前に見通しがもてるよ うに工夫し、結果についての指導をていねいにする。 ⑤ その子なりの行動目標を設定し、目標とする行動をできるだけ絞り込む。 ⑥ 叱責よりは、できたことをほめる対応をする。 ⑦ 不適応をおこしている部分については、自力ですることと支援が必要な部分を明確にし、 その児童生徒と一緒に解決の約束を決める。 ⑧ パニックや衝動的な行動を起こす前の予兆となるサインを見逃さない。 6.LD(学習障がい)、ADHD(注意欠陥多動性障がい)等の子どもに対する理解と適切な対応 LD(学習障がい)やADHD(注意欠陥多動性障がい)の子どもは、みんな自分なりに努力し ています。学習を怠けているのでも、やる気がないのでもなく、障がいがあるために特定の能力が 十分に発揮できなかったり、多動や衝動的な行動をとってしまったりするのです。 このことが正しく理解されないために、自信をなくしたり、情緒が不安定になったり、登校をい やがったりする子どももいます。 学習のつまずきや、なぜそのような行動をとるのかを正しく理解し、適切に対応することが必要 です。 参考文献 「みつめよう一人一人を −学習上特別な配慮が必要な子どもたち−」平成 11 年 文部省 「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」平成 15 年3月 文部科学省 「LD・ADHD・高機能自閉症の子どもの指導ガイド」平成 17 年 国立特殊教育総合研究所 - 22 - 9 精神障がい 1.精神障がいとは 思春期は、大人へと変わっていく途中の、精神的に不安定になりがちな時期です。そのため、精 神疾患を発症することも少なくありません。精神疾患は、できるだけ早く発見して治療を始めるこ とが望ましいですが、現れる症状は様々であり、保護者や教職員が、普通の悩みか、怠けているの か、病気なのかを見分けることは容易ではありません。 教職員として、思春期によく見られる精神疾患についての基礎的な知識をもち、複数の教職員で 児童生徒の変化に気づく体制を整えることが大切です。また、発症していると思われる場合は、保 護者とも十分に連携をとり、保護者の思いを受けとめながら、医療機関への受診を勧めることも必 要です。 医師による診断の有無に関わらず、支援が必要な場合は、当該の児童生徒や保護者の不安な気持 ちに温かく寄り添うことが大切です。本人が困っていることや気にしていることに対して、教職員 がともに解決していこうとする姿勢は、本人や保護者にとって大きな支えになり、症状が緩和され ることもあります。 学校生活における具体的な支援をどうするかについては、児童生徒一人ひとりに対する個別の配 慮が必要になります。医療機関にかかっている場合は、児童生徒本人や保護者の了解を得た上で、 主治医とも十分に連携をとることが大切です。 2. 主な精神疾患 教職員が、主な精神疾患の特徴と症状を理解することは大切です。精神疾患の症状は、重なって 現れることもあります。 (1)気分障がい ○主な特徴 自分ではコントロールできないほど、気分(感情)が沈んだり高揚したりする。憂うつな 気分だけの場合と、躁とうつが何度も交代する場合がある。従前は、中年期以降に発症する 病気とされていたが、現在では、10歳以下でも発症するとされる。精神的なストレスがきっ かけになりやすいが、はっきりしない場合も多い。 ○主な症状 興味や喜びの喪失、自責的で悲観的な思考、意欲や気力の低下、活動性の低下 眠れない、食欲がない、疲れやすさの増大 など 但し、言語が発達していない低年齢の子どもでは、大人のうつ病とは症状の現れ方が異な り、遊びが少なくなったり、頭痛や腹痛となって現れることもある。 - 23 - (2)統合失調症 ○主な特徴 知覚、思考、感情など、様々な精神の機能に症状が現れる。発症年齢は10代から30代が中 心で特に青年期の発症が多い。復学を焦ると再発しやすいため、しっかりと休養することが 大切である。 ○主な症状 思春期の頃には、陰性症状が多く、エネルギーが高揚して激しい症状が出る「急性期」エ ネルギーを使い果たしたような状態になる「消耗期」「回復期」という経過をたどり、時期 によって症状の現れ方が異なる。 (3)不安障がい ○主な特徴 強い心配や不安で苦しんでいる人の中で、生活する上で著しく支障がある場合を「不安障 がい」として、医療における治療の対象となる。不安の現れ方によっていくつかの疾患に分 けられる。いずれも、10代で発症することが多い。 ○主な症状 ◇社会不安障がい 集団の中にいると、自分が場にふさわしくない発言や行動をして嫌われてしまうのでは ないか、自分から出る匂いが周囲を不愉快にさせるのではないか、などと感じて、集団に 入ることを避けようとする。 こうした不安や緊張は、比較的少人数の集団の中にいる場合に生じ、ごく親しい人しか いない場、知らない人が大勢いる場では生じないことが多い。 ◇パニック障がい 突然、動悸がして息苦しくなり、死ぬのではないか等、強い不安や恐怖に駆られる状態 になる。短時間で不安が頂点に達し、やがて治まるが、その発作が繰り返されやすい。発 作がいつどこで起こるかが予見できないことから、発作を起こしていないときも、不安が 持続する。助けてくれる人がいない状態に耐えられず、一人での外出を避けるようになり やすい。 中には、うつ病から引き起こされたり、逆にうつ病に進んでしまうことがある。 ◇強迫性障がい 考えないようにしようと思っても、ある考えが繰り返し浮かんできて消すことができな い。また、無視しようと思っても、ある行為をしなければならないという衝動から逃れら れない。そうした観念や行為については、本人も合理的ではないと気づいており、症状に 苦痛を感じている。 自分が汚れたと感じ清潔にする行為を繰り返す、何度も戸締りや火の元を確認しても不 安になるほか、人を傷つけてしまうのではないかという観念が消えなかったり、ある回数 玄関で足踏みをしないと学校に行けないという儀式的な行為を止められないなどがある。 - 24 - (4)解離性障がい ○主な特徴 つらい体験や考えや感情などを自分から切り離し、自分を守ろうとする無意識の試みと考 えられる。 ○主な症状 ◇解離性健忘 心の傷になるような嫌な記憶を忘れるなど、ある時期の記憶を失う。これまで生活してき たすべての記憶を失う場合もあるが、食事や入浴のしかたなど基本的な生活に必要な記憶は 失わない。 ◇解離性同一性障がい 別々の記憶や性格をもつ複数の人格が交代で表に出てくる。それぞれの人格が、異なる人 格が経験したことを知らないことが多い。 ◇離人症性障がい 記憶は継続しているが、「考えている」「感じている」「行動している」という実感がな い。自分が自分でないような感覚、自分を別の自分が外から見ているような感覚になる。 (5)転換性障がい ○主な特徴 解離性障がいと同じような精神的原因によって発症するが、症状が精神的にではなく、身 体面に出る。 ○主な症状 食べ物を飲み込みにくい、声が出ない、立ち上がれない、歩けないなど、運動機能や知覚 機能の障がいとして、症状が現れる。まずは、身体の病気ではないかを調べ、そうでない場 合はこの疾患の可能性がある。 (6)適応障がい ○主な特徴 生活上の様々なできごとがストレスとなり、感情面や行動面で症状が現れる。保護者の死 亡や本人の転校等、様々な体験がひきがねになりうる。医療機関で診断名を付け、治療の対 象になる病気か、通常の悩みの現れかは慎重に見極める必要がある。 ○主な症状 うつ気分やいらいらなどが生じる。学校を休む、怒りっぽくなるなど行動の変化として現 れることもある。 - 25 - (7)摂食障がい ○主な特徴 平均的な食事量から、著しくかけ離れた量の食事をとる疾患である。患者の多くは女性で 10代で発症することが多い。やせようとするダイエットがきっかけになることが多いが、発 症には、心が傷ついた体験やストレスなども影響すると言われている。 ○主な症状 ◇拒食症(神経性無食欲症、思春期やせ症) 食事の量を意図的に制限し、体重が極端に減ってくる。標準的な体重の85%以下になるよ うであると、注意が必要である。異常にやせていても本人はやせているとは思わない。低栄 養状態が続くことで、体力も落ち、骨や内臓もダメージを受ける。栄養失調状態が長くなる と、命にかかわることもある。 ◇過食症(神経性大食症) 食べ始めると食べることを止められず、大量の食べ物を食べてしまう。すぐに、自ら嘔吐 したり、下剤を使用して、太ることに抵抗する。食欲をコントロールできないことで自信を なくし、自己嫌悪に陥ったり、うつ状態になる人も多い。 (8)睡眠障がい ○主な特徴 眠りたいのに眠れない、夜寝ているのに昼間眠くなるなど、睡眠にかかわる障がいである。 ○主な症状 ◇不眠症 なかなか寝付けない、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚める、熟睡した感じが しないなど。 昼間、疲労感が残り、授業中のいねむりが増えるなど、生活に支障をきたす。 ◇概日リズム障がい 概日リズムとは、体内に備わる24時間周期のリズムのことで、このリズムのおかげで 多くの人は、毎日、寝る時刻と起きる時刻が、ほぼ一定になる。概日リズム障がいでは このリズムにずれが生じる。 - 26 - 3.学校生活における支援 医療機関における 治療について理解し、学校での支援を考えることが大切です。 ○ 発症時は、特に保護者と学校が密に連携をとる必要があるとともに、日常的に教職員間 で児童生徒の変化について、細やかに情報交換をする必要があります。養護教諭が把握し ている心身の変化の情報に留意することも大切です。 ○ 学校生活において、どうしていいかわからなくて困ったときに相談できる教職員が誰 か、不安が高まって疲れたときなどに休息できる場所はどこか等を、予め当該児童生徒や 保護者と話し合い、決めておく必要があります。 ○ 日常生活において、十分な睡眠がとれ、必要な休息がとれることが大切であることを、 教職員が理解する必要があります。病状から遅刻や欠席が続くこともあり、学校生活を送 る上で、登校を促す必要が生じる場合などがあるが、休息などの重要性を十分踏まえた対 応が求められます。 ○ 音やにおいに過敏になることがあり、特定の行事や教科に出席できない場合は、児童生 徒がどのようなことに困っているかをよく聴き、保護者や主治医とも連携を図りながら、 学校としてできる配慮を検討することが大切です。 ○ 日常の学校生活における服薬や、宿泊を伴う学校行事における服薬については、薬を養 護教諭が保管して投薬するなど、さりげなく自然に服薬できるよう配慮が必要です。 ○ 医療機関への通院や受けているカウンセリングを継続させることが大切ですが、時には 児童生徒が、主治医や投薬されている薬に対する不信感等を訴えることがあります。この 場合は、不信感にいたる要因等本人の訴えを十分に聴き、気持ちに寄り添いながら、解決 策をともに考える必要があります。 参考文献 「思春期のこころの病」“悩み”と“病”の見分け方 2009 年 11 月 1 日 「こころの病気を知る事典 新版」平成 19 年 「統合失調症とつき合う」平成 18 年 編著 10 刷発行 - 27 - 社会福祉法人 NHK 厚生文化事業団 大塚俊男他 著 弘文堂 伊藤順一郎 保健同人社 10 参考資料 [A] 略 語 集 ABR Auditory Brainstem Response ADL Activities of Daily Living 聴性脳幹反応(検査) 日常生活動作 ADHD Attention Deficit Hyperactivity Disorder 注意欠陥多動性障害 ATNR Asymmetrical Tonic Neck Reflex [C] AAC Augmentative and Alternative Communication CA Chronological Age 生活年齢 CP Cerebral Palsy [D] 非対称性緊張性頸反射 補助・代替コミュニケーション 脳性麻痺 CT Computed Tomography DQ Developmental Quotient コンピュータ断層撮影 発達指数 DSM Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders 米国精神医学会が発行している「精神疾患診断と統計の基準」 [E] [I] ECG Electro Cardio Gram 心電図 EEG Electro Encephalo Gram 脳波 ICD-10 Electrocardiography 心電図検査 Electroencephalography 脳波検査 International Statistical Classification of Disease and Related Health Problems 「国際疾病分類」第10版 1993年発行 IQ Intelligence Quotient 知能指数 ITPA Illinois Test of Psycholinguistic Abilties [K] ITPA言語学習能力診断検査 ICF International Classification of Functioning. Disability and Health 国際生活機能分類 K-ABC Kaufman Assessment Battery for Children K-ABC 心理・教育アセスメントバッテリー(心理検査) Kinder Infant Development Scale 発達研式乳幼児発達スケール LCC Luxatio Coxae Congenita 先天性股関節脱臼 KIDS [L] LD Learning Disabilities LLB Long Leg Brace MA Mental Age 学習障害 長下肢装具 精神年齢 MEPA Movement Education Program Assessment ムーブメント教育プログラムアセスメント - 28 - [M] MR Mental Retardation MRI Magnetic Resonance Imaging [O] [P] [R] [S] 核磁気共鳴映像法 OT Occupational Therapy 作業療法 Occupational Therapist 作業療法士 PDD Pervasive Developmental Disorders 広汎性発達障害 PT Physical Therapy 理学療法 [Q] 知的障害 Physical Therapist 理学療法士 PRS The Pupil Rating Scale Revised 児童評定尺度評価 (LD児診断のためのスクーリング・テスト) QOL Quality Of Life 生活の質 ROM Range Of Motion 関節可動域 SLB Short Leg Brace 短下肢装具 S-M Social Maturity Scale 新版S-M社会生活能力検査 SST Social Skill Training 社会的技能訓練 ST Speech Therapy Speech Therapist 言語療法 言語聴覚士 STNR Symmetrical Tonic Neck Reflex 対称性緊張性頸反射 [T] SNE Special Needs Education 特別なニ一ズ教育 TEACCH Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Children 自閉症の治療教育プログラム [W] WAIS-R Wechsler Adult Intelligence Scale Revised WAIS-R成人知能検査 WPPSI Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence WPPSI知能診断検査 WISC-R Wechsler Intelligence Scale for Children Revised WISC-R知能検査 WISC-Ⅲ Wechsler Intelligence Scale for Children Third Edition WISC-Ⅲ知能検査第3版 (1998 年3月 WISC-Rの改訂版として出された) - 29 - 参考Web ページ ○ 「特別支援教育に関すること」 文部科学省 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main.htm 「特別支援教育」に関する通知や答申をはじめ、新着情報等が掲載されています。 ○ 「発達障害の理解のために」 厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 http://www.mhlw.go.jp 発達障害の特性や具体的な事例を分かりやすく紹介しています。 ○ 「教職員人権研修ハンドブック」 大阪府教育委員会 http://www.pref.osaka.jp/kyoishinko/kotogakko/gakkokeieishien/jinken/handbook.html 初めて教職員となった方や教職経験の少ない方のために、作成されたハンドブックです。 ○ 大阪府教育センター支援教育研究室 http://www.osaka-c.ed.jp/tokushiken/index.html 調査研究、研究プロジェクト、支援教育の取組、研究冊子(「個別の指導計画に関する研究」、 「個 別の教育支援計画策定に向けて」等)リーフレット等に関する情報を掲載しています。 - 30 - [ 編集協力者(50 音順) ] 岡林 豊 (大阪府立堺聴覚支援学校) 近藤 春洋 (大阪府立交野支援学校) 酒井 俊一 瀧本 一夫 土口 千恵子(大阪府立羽曳野支援学校) 西上 優子 (大阪府立羽曳野支援学校) 藤城 光好 (大阪府立吹田支援学校) 松下 幹夫 (大阪府立視覚支援学校) 山本 洋司 (大阪府立和泉支援学校) (大阪府立堺支援学校) (大阪府立守口支援学校) ※編集協力者の所属は平成 19 年度です。 「みつめよう一人一人を」 大阪府教育センター 教育課程開発部 支援教育研究室 〒558−0011 大阪市住吉区苅田4丁目 13 番 23 号 TEL 06−6692−1882 FAX 06−6692−1898 平成 20 年 4 月 平成 22 年 8 月改訂 子どもたちの明日のために わたしたちができる