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貯蓄率
マクロ経済学 Ⅰ 第10回 GDPの決定(2) 消費関数 小巻泰之 本日のテーマ 所得の行方と経済効果 消費決定の要因 =貯蓄決定 Y=C+S C=cY+Z 家計の意思決定 →近視眼的か,将来を見据えているのか? あなたはアリ派ですか,キリギリス派ですか? ミクロ家計の消費決定(1-1) 2つの決定 余暇と労働時間の配分に関する選択 ・賃金が余暇の相対価格 ・24時間の制約の中で,余暇を1単 位増加させれば,労働は1単位減 少させざる得まい 遊んだ分,働けない.そ の分,収入は減少する 賃金が上 昇すると ①割高となった余暇を減少させ,割安となった 労働が増加(代替効果) ②生涯にわたって所得の増加を意味することか ら,現在及び将来の消費,余暇を増加させる (所得効果) (出所) http://contest.thinkquest.jp/tqj1998/10035/tales/world/ants/ants04.html ミクロ家計の消費決定(1-2) 2つの決定 いつまでも食べられる生 活の方が安定している 現在と将来の消費量の配分に関する選択 「異時点間の消費決定」 ・利子率が現在の消費の相対価格 ・一生涯の予約制約の中で,現在の消費 をあきらめて貯蓄すると,その分だけ 将来の所得が増加し消費が拡大する 利子率とは,将来と現在 の価値を示すもの 利子率が 上昇すると ①将来の消費に対する現在の消費の相対価格 が上昇するため,将来の消費の方が割安となり 現在の消費を減少させ将来の消費を増加させる (代替効果) ②生涯にわたって利子収入の増加を意味するこ とから,現在及び将来の消費,余暇を増加させる (所得効果) (出所) http://contest.thinkquest.jp/tqj1998/10035/tales/world/ants/ants06.html マクロの消費決定(1) 今,アルバイトで月8万円の所得(手取り)を得ている.その内,半分の4万 円を服や食事代など消費に使い,残りの4万円を貯蓄すると仮定する.こ こで,所得税の減税が行われて,所得が10万円になったとする.この時, あなたは10 万円のうち,いくらを消費に回すだろうか? ①所得が上がったので,少しは買い物を増やして5万円使う. ②今後,再び所得(バイト代)は8万円に戻ると思うので,現在と同じ4万円しか 使わない. ③年をとったら働けなくなるので,今のうち貯金しておく.これまで通り4万円使う. 自分の答えに最も近いものを,一つ選んでください! マクロの消費決定(2) 恐らく,①を選んだ人が最も多いはずです... ①を選んだ人 ・ケインズ型消費関数(モデル) ②を選んだ人 ・恒常所得仮説 ③を選んだ人 ・ライフサイクル仮説 それで,経済学(新古典派経済学)的には ①非合理な消費者 ②,③合理的な消費者 でも,①が多いことは,ケインズ経済学の有効性を示すものである. また,世の中,賢い消費者(合理的経済人)は,そんなにいません. ケインズ型消費関数(3) ・現在の所得を重視するタイプ ・所得の増分を限界消費性向にしたがって消費を行う ・ここで消費を C ,所得を Yh ,限界消費性向を c ( 0 < c < 1 ), 必需的消費を C 0 ,とすると,消費関数は以下の通り表現 C = cYh + C 0 ・ 可処分所得とは,雇用者報酬などの経常収入から,個人所得税などの経常移転の支払いを控除したもの Y =C+S c = C ÷ Y :「平均消費性向」(=家計最終消費支出÷家計可処分所得) ∆c = ∆C ÷ ∆Y :「限界消費性向」(可処分所得の増分に対する消費支出の増分の比率) 恒常所得仮説(4) ・一時的な所得の増加ではなく将来の所得の平均的な水準を重 視して消費を決定 ・フリードマン(Milton Friedman)によって提唱 ・この消費モデルでは,時間を通じた消費の平準化こそが消費 者の満足度を高めると考えている. 所得減税 の実施 減税を実施するための財源はいずれ増税となっ て返ってくると考えれば,減税が行われたとして も消費を増加させることはない ライフサイクル仮説(5) ・所得が多い時期に消費を控えて,将来の所得が減少する時期に備えるもの ・モリディリアーニ(Franco Modigliani),安藤(Albert Ando)によって提唱 ・その個人が一生涯に稼げる可処分所得の総額と同額の消費が実行されるこ とを意味する. ・たとえば,所得の少ない20~30歳代には,借金をして所得の不足を補い,働 き盛りの30~50歳代には増加した所得をもとに,若年期の借金を返済し つつ,消費を行う 人口の高齢化 が進むと できるのか な?? 若い時って 信用ないよ 貯蓄を取り崩すことにより消費を行おうとするた め,高齢化により貯蓄率は低下する これを「流動性制約」 という その他の要因(6) ・ラチェット効果:過去の消費水準をもとに今期の消費を決定.所 得が減少しても消費を維持しようとする ・デモンストレーション効果:消費者は自分の所属してきた階層 にふさわしい消費水準を維持しようする ・相対的消費:他人が持っていると真似したくなる 次に,日本の貯蓄率を見てみましょう 日本の貯蓄率は,高齢化などを背景として,大きく低下 家計貯蓄率の推移と高齢化 (貯蓄率) 10 5 0 -5 -10 -15 -20 -25 0 2 4 6 8 10 12 14 16 (高齢化率) (注)貯蓄率は1960-79年の平均と2000-07年の平均との乖離,高齢化率は65歳以上人口比率の1960と2005年との乖離を意味する. (出所)OECD"Economic Outlook",UN"World Population Prospects:The 2004 Revision"より作成 家計貯蓄率の推移 (%) 25 68SNAベース 93SNAベース 20 15 10 5 03 01 20 99 20 97 19 19 93 95 19 91 19 89 19 87 19 85 19 83 19 81 19 79 (出所)内閣府経済社会総合研究所「国民経済計算年報」より作成 19 77 19 75 19 73 19 71 19 69 19 67 19 65 19 19 61 63 19 59 19 57 19 19 19 55 0 (暦年) 次に,日本の貯蓄率を見てみましょう 日本の貯蓄率は,高齢化などを背景として,大きく低下 貯蓄率の国際比較(1960-79年) 35 30 戦後以降,国民貯蓄は概ね 20%強の水準にあり,この大半を占めるのが家計部門の貯蓄である. ・ 日本の貯蓄率は欧米先進国の中では上位にランクされていたが,近年,貯蓄率低下. 家計貯蓄率も,90 年代以降減少傾向,この背景には高齢社会の影響がある. 25 20 15 10 5 ノル ウ ェ ー フ ィン ラ ン ド リ ス ス ウ ェ ー デ ン 貯蓄率の国際比較(2000-2007年) イ ギ メリ カ ア カ ナ ダ ドイ ツ ダ ア オ ー ス オ ラ ン トラ リ トリ ア ル オ ー ス トガ ン ス ポ ル フ ラ ー ベ ル ギ 日 本 イ タ リ ア 0 14 12 10 8 6 4 2 トラ リ ア ン ド オ ィン ー ス ラ リ カ ア カ ナ ダ リ ス イ ギ ダ 本 ラ ン オ メ フ ノ ル ウ ェ トリ ー ス オ 日 ー ア ン デ ウ ェ ー ス ア イ ツ ド トガ ル ポ イ タ リ ル ス ン フ ラ ベ ル ギ ー 0 -2 ・ マクロ経済における貯蓄の重要性 ・貯蓄の定義:可処分所得から消費を差し引いた残額のこと ・貯蓄は投資の源泉であり,貯蓄と投資は等しくなる → ISバランス (マクロバランス) 企業にとっては,家計の金融資産を設備投資資金として調達 して,他の形(工場や機械設備など)に姿をかえて資本蓄積 が行われることなる.つまり,貯蓄の減少は投資の減少を意 味する. Y = C + I + G + X − M (支出面のバランス) ・・・(1) Y = C + S + T (分配面のバランス) ・・・(2) ⇒(2)式を(1)式に代入すると,C+S+T=C+I+G+X-M,整理 すると, ( X − M ) = ( S − I ) + (T − G ) 貯蓄関数 ・貯蓄関数は,消費関数の逆像 ・貯蓄も,消費と同様,所得の増加関数 ・ここで貯蓄を S ,所得を Yh ,限界貯蓄性向を s ( 0 < s < 1 ), 必需的消費を C 0 ,とすると,消費関数は以下の通り表現 S = Y − C = Y − C 0 − cYh = −C 0 + (1 − c)Y S C0 C0 = − + (1 − c ) = − + s Y Y Y ∆S = 1− c = s ∆Y ※ 消費性向+貯蓄性向=1 1. 2. 最後に,遺産の話し ⇒なぜ,遺産が発生するのか? 意図しない遺産:死期が不確実なことから生じる遺産 意図した遺産 ①利他的遺産動機:親が子供の幸せを自らの幸せの一部と考えて遺産を残す ②戦略的遺産動機:親が子供に遺産を残すことと交換に、子供から介護サービス などを期待するという戦略的な動機 遺産の影響 遺産の存在は, 1.「機会の平等」を奪うものではないか 例)小泉進次郎 2.資産格差の存在 ⇒これらの弊害を緩和するために,税制あり方が議論されている. 1)意図しない遺産⇒相続課税により親の効用は変化せず.100% 課税が望ましい 2)利他的遺産動機⇒機会の平等を考慮すれば,重税もありうる 3)戦略的遺産動機⇒遺産は介護サービス提供の対価であり、相 続税は労働所得課税 次回の講義予定 次回は, 第10回 GDPの決定(3) 乗数効果 を検討します.