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ベトナムにおける 日本文化研究の諸課題

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ベトナムにおける 日本文化研究の諸課題
ベ トナ ム にお け る 日本 文 化研 究 の諸 課題
TRANThiChungToan
(ベ トナ ム 国 立 大 学 ハ ノ イ 国 家 大 学)
は じめに
ベ トナ ム の歴 史 上16世
紀 に 日本 と の 交 流 が 始 ま っ た 。 当 時 、 日本 の 商 人 が 、 貿 易
を 目的 と し、 朱 印 船 に乗 っ て ベ トナ ム に 来 航 、 「日本 人 町 」1を 作 り、 両 国 関 係 の 歴
史 に 交 流 の 証 を 残 し た 。ま た 、20世 紀 初 頭 、1905年 に 抗 仏 運 動 の 一 環 と して フ ァ ン ・
ボ イ ・チ ャ ウ と い うベ トナ ム の 青 年 が 日本 の 援 助 を 求 め る こ と を 目的 と して 日本 へ
渡 っ た 。 そ の 後 、 「東 遊 運 動 」 とい う運 動 を行 い 、303人2の
ベ トナ ム の 青 年 達 を 日
本 へ 送 り込 み 、 彼 ら に 日本 留 学 の 機 会 を 与 え た 。 これ らは 、 日本 の ベ トナ ム 学 研 究
者 、 ベ トナ ム人 留 学 生 、 ベ トナ ム の 日本 学 研 究 者 の 問 で は よ く知 られ て い る こ と で
あ る。
しか し、 そ れ らの 交 流 は あ く ま で も 両 国 間 の 外 交 関 係 と して 正 統 に 認 め られ な か
っ た た め 、 長 くか つ 両 国 民 の 問 に 望 ま れ な が ら も 実 ら な い 結 果 とな っ た 。
ベ トナ ム と 日本 の 本 格 的 な 関 係 は 、1973年 に 両 国 間 に 正 式 な 外 交 関 係 が 樹 立 され
て か ら で あ る。特 に1993年
に ベ トナ ム の キ エ ッ ト首 相 が 訪 日 して 以 後 、両 国 関係 の
緊 密 化 は 順 調 に 進 み 、現 在 は、 首 脳 間 の 往 来 も頻 繁 と な っ て い る。 ベ トナ ム は、 日本
を最 大 の 協力 パ ー トナ ー と して位 置 づ け 、 日本 も多 額 のODAを
は じめ 、民 間 の投 資 、技 術
移 転等 、 力 強 くベ トナ ム の経 済 発 展 に貢 献 して い る。
新 し い 時 代 を 迎 え 、 両 国 間 の 文 化 関 係 を今 後 よ り発 展 させ て い く必 要 が あ る。 確
実 な 結 果 を 出 す た め に も 、 今 後 ベ トナ ム で の 日本 文 化 研 究 が 責 任 あ る 体 制 の 下 で 正
統 的 、 計 画 的 に 行 わ れ る こ とが 望 ま しい 。 次 に そ れ に 関 す る い くつ か の課 題 を 取 り
1日
本 人 町:16世
紀 の 終 わ り か ら1636年
の 江戸 幕府 の 鎖 国令発 布 ま での 間に 、朱 印船 に よ
る 東 南 ア ジ ア と の 交 易 が 盛 ん に 行 わ れ た 時 代 、 交 易 す る 土 地 に 残 り 、 そ の 地 域 に 日本 人 だ
け の 集 落 を 作 っ た 事 か ら 日 本 人 町 は 始 ま っ た 。 ベ トナ ム の ホ イ ア ン 、 ダ ナ ン 、 タ イ の ア ユ
タ ヤ 、 ル ソ ン 島 の デ ィ ラ オ とサ ン ミ ゲ ル 、 カ ン ボ ジ ア の プ ノ ン ペ ン と ピ ニ ャ ー ル ー な ど が
あ っ た 。1636年
の 江 戸 幕 府 の 鎖 国 令 以 降 は 新 し い 日本 人 は 訪 れ な く な り、 ま た 現 地 の 目本
人 は 日 本 へ 帰 れ な く な り 、 現 地 の 住 民 の 中 へ 自 然 と と け 込 ん で 行 き 消 滅 し て し ま っ た 。 「ベ
トナ ム 辞 書 」homepage1.nifty.com/Cafe
2在
ベ
トナ ム の 服 部 則 夫 大 使 の ス ピ ー チ
www.vn.emb-japan.go.jp/html/jabout
_Saigon/dOl.htm
「ベ トナ ム の
_phatbieu_lmoi.htmlに
「日 本 に 学 べ 」 東 遊 運 動
よ る 、2005年
119
TRANThiChungToan
上 げ検 討 してみ たい。
1.ベ
トナ ム にお け る 日本 文 化 理 解 の 現 状
ベ トナ ム で は
「日本 」 と い う 国 が 、 ど の よ う に 理 解 さ れ て い る か 。 ベ トナ ム の 日
本 研 究 の 文 献 、 新 聞 、 マ ス コ ミ 、 イ ン タ ー ネ ッ ト等 を 通 し て 、 日 本 文 化 へ の 一 般 の
イ メ ー ジ や 幾 つ か の ア プ ロ ー チ を 見 て み よ う。
(1)一
般 的 イ メー ジ
ベ トナ ム の 一 般 の 人 々 は 昔 か ら 現 在 ま で
「日 本 」 や
「日 本 人 」 に 対 し て 様 々 な イ
メ ー ジ を 持 っ て い る。 そ の 中 に は 、 暗 く否 定 的 な イ メ ー ジ も あ る が 、 明 る く 肯 定 的
な イ メ ー ジ の 方 が 遥 か に 多 い 。 明 る い イ メ ー ジ と し て は 、 「日 本 」 は 「
桜 の 国 」 厂日
が登 る国」
「富 士 山 が あ る 国 」
「
扶 桑 と い う 国 」 等 と 呼 ば れ て い る3。 こ れ ら の 言 葉
の 響 は 優 し く 、 明 る く 、 輝 く よ う な 意 味 合 い を 持 っ て い る 。 ま た 、 「日 本 人 の 女 性 」
は 芯 が し っ か り し た 、 理 想 的 な 結 婚 相 手4と さ れ 、 男 性 は 、 昔 な ら 厂武 士 」 ま た
士道 」 の精神 で
「武
「主 君 に は 忠 を 尽 く し 」、 英 雄 的 な 行 動 を す る と さ れ る 。
こ の よ う な イ メ ー ジ は 、 特 に ベ トナ ム の 年 配 の 人 々 や 、 日本 の 社 会 に 接 触 し た 経
験 の な い 人 々 の 問 で 存 在 す る 。 ま た 、 ベ トナ ム の 文 献 に も 日本 に つ い て そ の よ う に
言 及 さ れ て い る こ と が 多 い5。
現 代 の ベ トナ ム で は 、 日本 の バ イ ク 、 自 動 車 、 家 庭 電 化 製 品 、 パ ソ コ ン 等 を 通 し
て 、 「日 本 製 」 の 商 品 に 憧 れ 、 日 本 の 技 術 に 驚 嘆 し 、 品 質 の 良 さ に 対 す る 信 頼 度 が 非
常 に 高 い 。 厂ト ヨ タ 」 「ホ ン ダ 」 「三 菱 」 「着 物 」 「味 の 素 」 等 の 名 称 も 人 々 に 親 し ま れ
て い る。
日本 の 漫 画 は
「ド ラ え も ん 」 を 筆 頭 に し て 、 他 の 漫 画 本 も 多 く の ベ トナ ム の 子 供
た ち に 読 ま れ て い る 。 ベ トナ ム の 漫 画 本 の 状 況 は 、 日本 の も の が80%、
の が15%、
ベ トナ ム の マ ン ガ は 僅 か5%で
他 の外 国 の も
あ る。6
テ レ ビ ド ラ マ で は 、 厂お し ん 」 が 多 く の ベ トナ ム 人 、 特 に 女 性 に 圧 倒 的 な 人 気 を 得
た 。 最 近 で は 日本 女 性 の イ メ ー ジ が 、 新 聞 や マ ス コ ミ等 の 情 報 に よ っ て 少 しず つ 変
わ っ て き て お り 、 現 在 は 、 徐 々 に 近 い イ メ ー ジ に 変 わ っ て き て い る7。 し か し 、 長 い
間 、 「お し ん 」 を 通 し て 、 日本 女 性 は 、 お し ん の よ う な 人 と い うイ メ ー ジ が 植 え 付 け
ら れ 、 現 在 も ベ トナ ム の 俗 語 に は
「Oshin」 と い う言 葉 が あ り 、 そ れ は
「専 業 主 婦 」、
「ハ ウ ス メ イ ド」、 「ご 主 人 に 尽 く す 」 な ど の 意 味 を 指 し て い る 。
3フ
ウ ・ゴ ク 、 『桜 と 電 子 技 術 』 文 化 出 版(1989年)、
研 究 』(博
キ ン
4ベ
士 論 文)、
育 出 版 一2003年)、
「日 本 文 化 特 徴 の 探 検 」 東 ア ジ ア ・ 日 本 研 究 雑 誌 、1998年3号
トナ ム で は
ウ ・ゴ ク 等 の 前 掲 研 究 者
6ル
ウ ・テ ィ ・ ト ウ ・テ ユ ウ
「日 本 文 学 翻 訳 」
www.dongdu.org/cgi-bin/index.cgi?action=viewnews&id=271
7KhanhDDSA「
チ ャ ン ・バ ン ・
、他 の 文献 。
「料 理 は 中 国 、 妻 は 日 本 の 女 性 、 住 ま い は 西 洋 の も の 」 と い う諺 が あ る 。
5フ
120
グ エ ン ・テ ィ ・ホ ン ・ ト ウ 『日 本 語 の 諺
ニ ャ ト ・チ ェ ウ 『東 洋 文 藝 の 話 』(教
現 代 の 日本 女 性 」、www.dongdu.org
ベ トナ ム にお け る 日本 文 化 研 究 の 諸 課 題
2003年
に 日本 ・ベ トナ ム 外 交 関 係 樹 立30周
年 記 念 を機 会 に、 ハ ノイや ホ ーチ ミ
ン等 、大 き な 都 市 を 中 心 に 多 く の と こ ろ で 「日本 文 化 日」 「日本 映 画 週 間 」等 、様 々
な 日本 文 化 紹 介 活 動 が 行 わ れ た 。 そ の 後 、 以 前 よ り活 動 の 種 類 も増 し、 執 り行 う地
区 も 多 く な り、 ベ トナ ム の 若 者 は 、 日本 の 魅 力 に 心 を 打 た れ 、 日本 へ 興 味 を 高 め た
と い え る。
一 方 、 暗 く否 定 的 な イ メ ー ジ と して は 「フ ァ シ ズ ム 」 や 「帝 国 主 義 」 で あ り、 そ
の 他 、 日本 人 は 「背 が 低 い 」 と い っ た も の で あ る が 、 こ れ らの イ メ ー ジ は 日本 に 接
触 す る経 験 の な か っ た 時 代 か ら の 余 韻 で あ り、現 代 社 会 の 日本 に 触 れ る こ と に 伴 い 、
段 々 変 わ っ て き て い る。
し か し 、日本 は 距 離 的 に 近 い に も 関 わ ら ず 、一 般 の ベ トナ ム の 人 々 に と っ て は 「遠
くに あ る 社 会 」 で あ り、 正 確 に 理 解 され て い る と は 言 え な い 。 例 え ば 、 「日本 映 画 」
とい う と、 テ レ ビ ドラ マ で は あ る が 、や は り 「お しん 」 が 思 い 浮 か ぶ 。 な ぜ な ら ば 、
「黒 沢 映 画 」 な ど 日本 映 画 の 情 報 は 、 ベ トナ ム に は ほ と ん ど伝 わ っ て い な い か らで
あ る。 ま た 、 日本 文 化 紹 介 活 動 が 大 い に 行 わ れ る よ うに な っ て い る が 、 こ れ らが ま
だ 食 文 化 や 有 形 文 化 に 留 ま り、 若 者 を 対 象 に した も の が 圧 倒 的 で あ る。 そ の た め 、
日本 と直 接 的 な 接 触 の な い 年 配 の 研 究 者 や 他 の 人 の 問 で 以 下 の よ う な 見 方 が ま だ 存
在 して い る。
(2)検
討 され た見 方
簡 素 化 され た 傾 向 に は ま た 二 っ の 見 方 が 示 され て い る。 そ の 一 つ は 類 似 点 ・共 通
点 を も と に 日本 文 化 を 推 測 す る類 似 法 と い わ れ る も の で あ る 。
日本 とベ トナ ム の 問 に は 、 幾 つ か の 共 通 点 、 類 似 点 が 見 られ る 。
地 理 的 な 面 で は 、同 じア ジ ア に あ り、東 ア ジ ア と東 南 ア ジ ア に属 して お り、距 離
的 に も近 い 。 した が っ て 、 日本 とベ トナ ム は 人 種 の 面 で も 同 じ ア ジ ア 人 で 、 黄 色 人
種 で あ る。
産 業 の 面 で は 日本 とベ トナ ム は 稲 作 を 中 心 に 生 活 を 営 ん で き た 伝 統 が あ る。
食 文 化 の 面 で も箸 を使 い 、 米 を 主 食 と して い る。
文 化 や 言 葉 の 面 で は ベ トナ ム と同 じ く 日本 も 中 国 か ら多 く の 文 化 的 な 影 響 を 受 け 、
特 に 漢 字 を 取 り入 れ 、 同 じ く漢 字 圏 に 属 して い る 。 ベ トナ ム 語 の 中 に も 、 日本 語 の
「音 読 み 」 に 似 た 発 音 が 幾 つ か 見 つ か る 。
し か し、 類 似 点 の み を 取 り上 げ 、 そ れ に 関 す る 文 化 の 側 面 も 同 じ で あ り、 ベ トナ
ム 人 の 立 場 か ら 日本 文 化 を解 説 し よ う と し た り推 測 し た りす る の は 非 常 に危 な い こ
と で あ る。 こ の 傾 向 は 現 代 の 日本 社 会 に接 触 した 経 験 の な い イ
可人 か のベ トナ ム 人 研
究 者 の 間 に ま だ 見 られ る8。
そ れ は 、 どの 共 通 要 素 に 対 して も異 類 の 反 論 が で き る 。 類 似 し た 要 素 が あ る と は
言 え 、 そ れ ぞ れ の 要 素 に は 、 様 々 な 要 因 、 歴 史 が あ り一 概 に 同様 に 結 論 づ け る こ と
8フ
ウ ・ゴ ク 、 前 掲 文 献
121
TRANThiChungToan
は でき ない。
た と え ば 、 同 じ く箸 を 使 っ て は い て も 、 日本 と比 べ る 時 、 白 幡 氏 に よ っ て 指 摘 さ
れ る よ うに い く つ か の 異 な っ た こ と が 考 え られ る。
さじ
「朝 鮮 、 中 国 、 ベ トナ ム な ど も 、 箸 を 使 う が 、 こ れ ら の 国 で は 匙 も 使 い 、 箸 と
匙 は セ ッ トに な っ て い る。飯 も菜 も 汁 も す べ て 箸 で 食 べ る の は 日本 だ け の 特 徴
で あ る 。」9。 ま た 、 ベ トナ ム で は 元 々 割 り 箸 や 利 休 箸 と い う も の は な く 、 片 方
の 先 端 だ け 細 く削 っ た 箸 が 主 で あ っ た 。
こ う して み る と特 定 の 文 化 を 解 説 す る と き 、 慎 重 か つ 多 方 面 に わ た っ て 客 観 的 な
見 方 を しな け れ ば 、 研 究 視 野 が 狭 く な っ て しま う。
類 似 法 と 同 類 の 簡 素 化 を 取 り上 げ られ る も う一 つ の 見 方 は 単 純 化 され た も の で あ
る。
ベ トナ ム の 日本 研 究 に 関 す る 学 会 、 研 究 会 で 「な ぜ 、 日本 は 経 済 大 国 に 発 展 した
か 」 とい う質 問 が よ く 出 され る 。 素 早 く 先 進 国 に変 身 を 遂 げ た 日本 に 対 して 「謎 」、
「秘 訣 」 と い っ た よ うな も の が 日本 の 文 化 に あ り 、 そ れ を解 く こ と が で き れ ば ベ ト
ナ ム も成 功 の 鍵 を 手 に入 れ られ る と い う考 え が 研 究 者 の 中 に あ る。 そ の 意 気 込 み は
よ い と は 言 え 、 そ れ に 対 し て 、 日本 の 歴 史 上 の 出 来 事 さ え 、そ れ が 「マ ス タ ー キ ー 」
と な っ て い る と結 論 づ け て し ま う。 典 型 的 な 例 と して は 、 そ の マ ス タ ー キ ー は 「明
治 維 新 」 で あ る と い う考 え は 多 く の ベ トナ ム 人 研 究 者 に 認 識 され て い る。
「明 治 時 代 に 明 治 維 新 が 日本 を 強 国 へ と 築 き あ げ る 土 台 と な っ た こ と は 日本 社 会
の 通 念 で あ る10」 こ の よ うな 見 方 は 、 ベ トナ ム 人 の研 究 者 に 限 らず 、 報 道 関 係 、 マ
ス メ デ ィ ア 関 係 の 人 々 に も 見 られ る。
古 く は 、 ベ トナ ム と 同 様 に 農 業 社 会 で あ っ た が 、 明 治 維 新 に よ っ て 、 恐 る べ き 高
度 経 済 成 長 を 遂 げ 、 世 界 の 強 国 に な っ た 日本 は 、 ベ トナ ム の 人 々 を 驚 嘆 させ た 。 ベ
トナ ム の 指 導 者 、先 駆 者 の 中 で 「日本 に 学 べ 」とい う方 針 が100年
前 か ら立 て られ 、
現 在 も続 け られ て い る。
こ れ は ベ トナ ム と 日本 に 共 通 点 を 見 、 遠 く に あ り、 人 種 、 文 化 が 異 な っ た 西 洋 の
国 々 よ り、 同 じア ジ ア の 日本 を 学 ん だ 方 が 、 効 率 的 に 目標 が 達 成 で き る とい う意 識
が ベ トナ ム 人 の 中 に 働 い て い る 。
冒頭 に あ げ た フ ァ ン ・ボ イ ・チ ャ ウ の 「東 遊 運 動 」 は 、2005年
に 、 「東 遊 運 動100
周 年 」 を 記 念 して 、 フ ァ ン ・ボ イ ・チ ャ ウ の 東 遊 運 動 の 精 神 を 生 か す た め 、 い くつ
か の 大 学 や 研 究 所 で シ ン ポ ジ ウ ム や 学 会 が 行 わ れ た 。 ま た 記 念 行 事 もベ トナ ム 各 地
9白
10ホ
幡洋 三郎
『知 ら な き ゃ 恥 ず か し い 日 本 文 化 』 ワ ニ ブ ッ ク ス 、2003年
cnb.org.vn/Default.aspx
122
よ り87項
ア ン ・ ヴ ァ ン ・ ヒ エ ン 、 ズ オ ン ・ ク ア ン ・ ヒ エ ッ 、 日 本 研 究 雑 誌 、2003年2号
、
ベ トナ ム に お け る 日本 文 化研 究 の諸 課 題
で 執 り行 わ れ た 。 そ こ で 発 表 さ れ た 講 演 内 容 を 通 し て 、 日本 文 化 ア プ ロ ー チ の 幾 つ
か の 視 点 が 観 察 で き る。
記 念 行 事 の 中 、 一 つ を 例 に 取 り上 げ て み た い 。
ベ トナ ム 電 子 新 聞(VietNamNet)llは
、2005年
に 日越 文 化 交 流 会 を 代 表 し た ベ トナ ム
在 住 の 日本 人 で ベ ト ナ ム 宗 教 史 研 究 家 の 大 西 和 彦 氏 とベ トナ ム 人 の 歴 史 研 究 家 ズ ォ ン ・
チ ュウ ・コ ック 氏 を 招 き 、ベ ト ナ ム 電 子 新 聞 の 総 編 集 長 グ エ ン ・ア ィン ・トゥア ン 氏 と 「東 遊 運
動 を 学 ぶ 」とい う討 論 会12が 中 継 され た 。
この 討 論 会 の 内 容 は 、ハ ノイ ・ア ム ス テ ル ダ ム 高 校 の ホ ー ム ペ ー ジ を 始 め 、 ベ トナ ム の
様 々 な ホ ー ム ペ ー ジ に よ っ て 公 開 され た 。
グ エ ン ・ア ィ ン ・ ト ゥ ア ン 氏 は 当 新 聞 社 の 総 編 集 長 と し て ベ トナ ム の 前 首 相 フ ァ
ン ・バ ン ・カ イ や 外 務 省 の 要 人 と と も に 米 国 等 に 同 行 し た 経 験 を 持 っ 人 物 で あ る 。
討 論 会 の や り取 りの 一 部 を 仮 訳 して み た い 。
「トゥア ン氏:大 西 さん 、日本 が 奇 跡 的 な 成 長 を収 め られ た の は 明 治 維 新 が始 まって
か らで す が 、明 治 維 新 とい うの は 開 国 、維 新 、国 外 か らの 知 識 、技 術 、情 報 を受 けい
れ た 一 種 の運 動 でしょう。この 運 動 が 日本 へ 与 えた価 値 を教 えて い ただ けませ ん か。
大 西 氏:明
治 維 新 は1868年
に 始 ま りま し た が 、 日本 の 発 展 土 台 は そ れ 以 前
に 存 在 して い た こ とを 言 うべ き で す …(中
略)。 ベ トナ ム は 、1840年
に既 に船
の 製 造 も で き 、世 界 へ 開 国 し た と い う こ とは 私 達 も存 じて い ま す が 、 当 時 、ベ
トナ ム の 発 展 及 び 開 国 は 日本 ほ どで は な か っ た と言 え ま す 。
トゥア ン氏:も ちろん 、当 時 日本 は 高 度 発 展 しま したが 、明 治 維 新 は 明 らか に 日本 を
発 展 させ 、他 の 国 を切 り離 した 出 来 事 で あります 。そ の 出 来 事 を支 えた 根 本 的 な要 因
は 日本 に愛 国 精 神 が あることを言 え るの で あ ろう。そ の 愛 国 精 神 が 本 質 的 にどこで 育
まれ たか 教 えて いた だ きた い。
ベ トナ ム人 にも愛 国 心 があ り、1945年
当 時 は 、私 達 にも 日本 人 と比 べ られ るほ ど愛
国 精 神 、建 国 精 神 を持 った が 、…
ところで 、現 在 でも 目本 は そ の愛 国 精 神 がまだ 残 ってい ます か 」。
以 上 の 討 論 会 か ら は トゥ ア ン氏 に は 「明 治 維 新 」 及 び 、 そ の 時 代 を 支 え た 「愛 国
心 」 が 日本 発 展 の鍵 で あ る と考 え て い る よ うで あ る が 、 そ れ は 「愛 国 心 」 だ け で は
ベ トナ ム の 社 会 を 日本 ほ ど発 展 さ せ られ な い の が 現 状 で あ り、 ベ トナ ム の 場 合 に 当
て は め られ な い とい う戸 惑 っ た 気 分 も現 わ れ 、 彼 の 理 解 に は 矛 盾 が あ る の が 彼 自 身
も 感 じ て い る よ うだ 。
こ の 討 論 会 が イ ン タ ー ネ ッ トに公 開 され た 時 、 そ れ に 対 し て 、 い くつ か 意 見 ・感
想 が 述 べ られ た 。 そ の 中 、HaiAu(ハ
イ ・ア ウ=ハ
ン ドル ネ ー ム)の 意 見 が 注 目す べ
11www.vnn.vn
12「
ド ン ズ ー の 経 験 、 見 分 け る 能 力 及 び 受 容 雄 姿 」www.hn-ams.org
123
TRANThiChungToan
き で あ る。
「大 西 氏 が 話 した よ う に 明 治 維 新 の 前 に 日本 は す で に 発 展 して い た が 、い ま だ に 、
多 く の ベ トナ ム 人 は 日本 が 明 治 維 新 後 に 発 展 の 道 に 入 り始 め た とみ て い る13。 明 治
時 代 は 明 治 維 新 の 時 代 と も い うが 、 そ の 前 、 江 戸 時 代 か ら 日本 は 発 展 し て い た 。 明
治 時 代 の 発 展 は 、 江 戸 時 代 に 作 り上 げ られ た も の が 伝 承 され 、 続 け られ て き た わ け
で あ る 。 我 々 は 日本 に 対 す る 時 代 遅 れ や 不 適 切 な 見 解 を 訂 正 す べ き で あ り、 今 後 日
本 研究 の 人材 を養 成す べ きで あ る」 との こ とで あ る。
ベ トナ ム 人 研 究 者 の 中 に 、 「ドン ズ ー 運 動 」や フ ァ ン ・ボ イ ・チ ャ ウ の 思 想 、ベ ト
ナ ム 人 の 愛 国 心 等 に対 して 、 客 観 的 ・学 術 的 に 分 析 し た ビ ン ・シ ン と い う学 者 が い
る 。 氏 は 海 外 に 住 ん で い る が 、 日本 の 歴 史 、 文 化 研 究 に 真 剣 に 取 り込 み 、 ベ トナ ム
語 に よ る 幾 つ か の 日本 文 化 の 成 果 を 出 版 して い る14。 ビ ン ・シ ン 氏 の 研 究 を 正 当 に
評 価 して い る者 も い る が 、 そ の 考 え が 主 流 に な っ て お らず 、 主 流 に な る ま で に は ま
だ 時 間 が 要 す る。 ビ ン ・シ ン 氏 の よ うな 考 え を 持 つ 研 究 者 は ベ トナ ム に は ま だ 珍 し
い。
(3)極
端 な 見方(日 本 に対 して)
日本 と交 流 が 深 ま っ て い くの に 伴 い 、日本 語 教 育 事 情 も 変 わ っ て き た 。教 育 機 関 、
学 習者 が毎 年増 え、特 に最近 一躍 急 増 して きた。
国 際 交 流 基 金 の 資 料 に よ る15と ベ トナ ム で は 日本 語 教 育 が1970年
か ら 開 始 され た 。
停 滞 した 一 時 を 抜 け 、1990年 代 か らは 再 出発 され る よ うに な っ た 。1990年 に は 高 等
教 育 機 関 で は ハ ノ イ 外 国語 大 学 とハ ノイ 貿 易 大 学 の2大
学 で行 われ た が、 そ の後 、
他 の 国 立 大 学 、 私 立 大 学 で も 日本 語 は 教 え られ 、 毎 年 、 日本 語 教 育 機 関 の 数 が 増 え
て い っ た 、 こ の15年
は110に
上 り、 世 界 全 体 の0.8%、
2003年
2006年
間 の あ い だ に は 塾 等 を 含 め 、2006年
第18位
に は 、 日本 語 教 育 機 関 数
と な っ て い る。
に は 中 学 校 で も 日本 語 教 育 が 開 始 さ れ 、 ベ トナ ム の 日本 語 の 学 習 者 数 は
に29,982で
あ り、2003年
か ら2006年
の3年
間 に 学 習 者 数 は1.6倍
に増 加 し
た との こ と で あ る。
1990年 以 降 、 国 費 留 学 が 始 ま り、1995年
ま で は、まだ少 なか った が、そ の後 、毎
年 、数 が増 えて い る。
日本 語 学 習 者 が 増 え る と共 に 、 日本 の 社 会 、 文 化 に 直 接 触 れ 、 様 々 な 情 報 を 得 る
機 会 も増 え て い る。
国 内 で は 「日本 に 学 べ 」 の 精 神 を掲 げ 「
東 遊 」 や フ ァ ン ・ボ イ ・チ ャ ウ の 名 前 に
13つ
ま り、 明 治 維 新 が 行 わ れ な か っ た な ら ば 日本 は 今 の よ う に発 展 し な か っ た で あ ろ う。 明
治 維 新 は 日本 の 発 展 に 極 め て 重 要 な 役 割 を 果 た し た と み な して い る。
14ビ ン ・シ ン 『ベ トナ ム と 日本 文 化 交 流 』ホ ー チ ミ ン 文 藝 出 版 社 及 び 国 学 研 究 所 出 版 、2001、
に 対 して 、 ヴ オ ン ・チ ー ・ニ ャ ン の 評 論 文 献 厂新 時 代 一 研 究 ・討 論 雑 誌 」2006年 第8号 、
15日 本 語 事 業 部 企 画 調 整 課 「
世 界 の 日本 語 教 育 とベ トナ ム に お け る 日本 語 教 育 の 動 向 「海
外 日本 語 教 育 機 関 調 査 」 か ら」 『日本 語 学 ・日本 語 教 育 』 国 際 シ ン ポ ジ ウ ム 論 文 集 、 ハ ノイ
国 家 大 学 出 版 社 、2007年 よ り277-279頁
124
ベ トナ ム にお け る 日本 文 化 研 究 の 諸 課 題
因 んで
「ドン ズ ー 日本 語 学 校 」16、 当 学 校 か ら 日本 へ 行 っ た 学 生 の 間 に 「東 遊 留 学
生 グ ル ー プ 」17、 他 に
「フ ァ ン ・ボ イ ・チ ャ ウ フ ォ ー ロ ー 会 」18等 が 設 立 され 、 そ
れ らの 会 に も ホ ー ム ペ ー ジ が 設 け られ 、 ベ トナ ム 内 外 の 若 者 に 活 用 され て い る 。 留
学 生 が 多 く な り、 留 学 生 に は 厂日本 に お け る ベ トナ ム 留 学 生 協 会 」19、 「ドン ズ ー 留
学 生 協 会 」20、 「ベ トナ ム オ ン ライ ン 」 等21が 設 立 され 、 幾 っ か の ホ ー ム ペ ー ジ が 立
ち 上 げ られ て い る 。 これ らの ホ ー ム ペ ー ジ に は 日本 の 社 会 や 日本 文 化 の 情 報 が 取 り
込 ま れ て お り、 学 生 達 の 情 報 ・意 見 交 換 の 場 とな っ て い る 。
内 外 の ベ トナ ム 語 の ホ ー ム ペ ー ジ を 通 し て 、 日本 社 会 ・ 目本 文 化 に 対 し て ベ トナ
ム の 留 学 生 、 研 修 生 等 、 若 者 の 見 方 を 考 察 す る こ とが で き る。
若 者 の 中 、 客 観 的 ま た は 丁 寧 に 様 々 な 角 度 か ら多 く の 情 報 を 紹 介 して い る者 が い
る。 そ れ は 日本 の社 会 の 中 に 住 ん で い る 大 学 生 ・大 学 院 生 で あ り 、 皆 に よ っ て 書 か
れ て い る 情 報 は 正 確 に ア ッ プ デ ー トされ る 。
しか し 、 極 端 な 見 方 を持 っ て い る 者 の 方 が 大 勢 い る。
「日本 に 惚 れ る 会22が 設 置
され 、 日本 の 、 人 、 文 化 、 生 活 、 す べ て が 魅 力 で あ る と 思 う者 が い れ ば 、 そ れ に 対
す る 常 に 違 和 感 や 抵 抗 感 を も っ て い る 者 も い る23」 。
以 下 に そ の 二 つ の 極 端 な 見 方 を 取 り上 げ る。
「私 は 日本 に 、 特 に 日本 文 化 に 惚 れ る も の で す 。 日本 に は 着 物 を 着 て 素 敵 な 女 、
手 に 刀 を もつ 侍 、 目先 か ら舌 に ま で 絶 好 の す しな どが あ り、 す べ て が 私 の 心 え を 打
っ て い る。」24
これ に 対 して 、 「私 に と っ て は 、 日本 は 厳 しい 生 存 競 争 の 環 境 に あ り、 そ の 中 、
人 々 が 形 に 嵌 り、 冷 た い 情 緒 で 人 間 関 係 を 行 い 、 古 い こ と に 頑 固 に 執 着 して い る。
毎 日、 そ の よ うな 人 た ち と 一 緒 に仕 事 を す る の が 最 低 で す 。 」25と い っ た よ うな 意
見 も 出 され て い る。
留 学 生 の うち 、日本 文 化 を 専 門 とす る学 習 者 は 数 が ま だ 少 な い 。情 報 は 増 え る が 、
ベ トナ ム の 教 育 ・文 化 の 影 響 か ら 「異 文 化 」 の 日本 文 化 に 対 し て 理 解 しが た い
、日
本 を 理 想 的 な 立 場 か ら現 実 の 社 会 に接 して 、 落 ち 込 ん だ 場 合 、 基 礎 知 識 、 教 育 視 点
が ま だ 確 立 され て い な く 、 戸 惑 う場 合 も 少 な くな い 。
16www.dongdu.edu.vnを
参 照
さ れ た い 。
17DongDuStudentsGroupinJapanwww
.dongdu.orgを
参 照 さ れ た い 。
18DoanThanhNienPhanBoiChauisanonprofityouthorganizationformedbyagroupofyoung
VietnameseinSouthernCaliforniain1996.Thegroupwasnamed"AfterPhan
Boi"www.dtnpbc.orgを
参 照 さ れ た い 。
19VietnameseYouthsandStudentsAssociationinJapan
,www.vysa.jp
20DongDuStudentsGroupinJapan-dongdu.org
21wwwl.ttvnol.com,www3.ttvnol.com,www5.ttvnol
.com.
22www.ttvnol.com,HoinhungnguoiCuongNhat
www8.ttvnol.com/forum/Sothich/857636.ttvn
235nam.ttvnol.com/jc/152098.ttvnNu6cNh穰trongm穰t
i一
24www3.ttvnol.com/forum/Sothich/857636
255namttvnol.com/jc/152098.ttvnNu6cNh拿ttrongm穰t
一NuncNh穰trongm穰ban
.ttvn
i一
一Nu6cNhattrongm穰ban
125
TRANThiChungToan
(4)日
本 文化 教 育 ・研究 の 現状
日本 語 教 育 は 多 くの 機 関 で 行 わ れ る よ う に な り、 日本 事 情 、 日本 文 化 も 併 せ て 教
え られ る よ うに な っ た 。
しか し 、 日本 文 化 を 専 攻 とす る 学 科 や 学 部 が ま だ 大 学 に は 設 置 され て い な い 。
ハ ノ イ で は 大 き な 日本 教 育 機 関 と して 六 つ の 大 学 に 日本 語 学 部 が 設 置 され て い る
が 、 そ の うち 、 独 立 した 学 部 が 四 つ あ り、 学 部 の 中 に設 置 され て い る 学 科 が 二 つ あ
る。 そ の うち 「日本 学 」 と名 乗 っ て い る の は 二 つ あ る。 そ の 一 つ は ハ ノイ 国 家 大 学
に 所 属 す る 人 文 社 会 科 学 ・東 洋 学 部 で あ る。 も う一 つ は1995年
本 学 」 学 科 及 び ハ ノイ 大 学(旧
ハ ノイ 外 国 語 大 学)の
か ら設 置 され た 「日
「日本 語 学 部 」 は2007年
から
「日本 学 部 」 に 転 じた も の で あ る 。 これ ら の 学 科 ・学 部 に は ベ トナ ム 人 の 日本 文 化
研 究 者 が 少 な く、 各 大 学 の 問 の 交 流 ・連 携 の 形 で の 教 育 も 行 わ れ て い な い 。 ま た 日
本 か らの 専 門 家 の 招 聘 制 度 も 導 入 され て い な い た め 、 日本 文 化 の 教 育 に は 大 き な 困
難 が あ る。
大 学 院 で は 日本 語 学 、 日本 文 化 専 攻 の 教 育 を 行 っ て い る と こ ろ は 未 だ ど こ に も な
い。
日本 文 化 研 究 所 に 関 し て は 、1993年
に ベ トナ ム 首 相 決 定 書 に 基 づ き 国 家 社 会 ・科
学 研 究 所 に 属 す る 東 北 研 究 院 に は 日本 研 究 セ ン タ ー が 開 設 され た 。 こ の セ ン タ ー は
現 在 、 ベ トナ ム で は 最 初 の 正 式 な 日本 研 究 機 関 と し て 存 在 し、 ベ トナ ム で 唯 一 の 日
本 研 究 セ ン タ ー とな っ て い る。
当 院 の 学 術 機 関 紙 と して 「
東 ア ジ ア ・日本 研 究 雑 誌 」 が ベ トナ ム 語 で 刊 行 さ れ て
い る。 対 象 と され て い る地 域 、 専 門 分 野 は 韓 国 、 中 国 、 日本 、 ベ トナ ム な ど多 く の
範 囲 に 渡 る の で 、 日本 文 化 に 関 す る論 文 や 記 事 が 取 り上 げ られ る こ と も 、 そ して そ
れ ら を 投 稿 す る 専 門 家 も 限 られ て い る。
2003年
に 国 際 交 流 基 金 の 助 成 に よ り、 当 「日本 研 究 セ ン タ ー 」 に 日本 研 究 に 関 す
る ホ ー ム ペ ー ジ が 開 設 され た 。 そ れ を通 して 、 ベ トナ ム に お け る 日本 研 究 の 現 状 が
幾 つ か の 角 度 か ら観 察 で き る 。
ホ ー ム ペ ー ジ が 開 設 され て か ら現 在 ま で 、4年
経 っ て い る が 当 初 と変 わ らず ベ ト
ナ ム 語 で の み 運 営 され て お り、 今 後 、 日本 語 で の 紹 介 ペ ー ジ が 開 け る か ど うか の 見
通 し は な い よ うで あ る 。
ホ ー ム ペ ー ジ に 「日本 研 究 者 」 厂日本 研 究 書 籍 」 「日本 研 究 文 献 」 等 は 紹 介 され
て い る が 、 そ れ ぞ れ の 項 目 の 情 報 が 不 足 して い た り、 正 し く紹 介 され て い な い と こ
ろ が 見 られ て い る 。
例 え ば 、 「日本 研 究 書 籍 」 は 、 約70点
挙 げ られ て い る が 、 殆 どが 経 営 ・経 済 関 係
の 書 物 で あ る。 そ の 中 、 文 化 を記 述 した も の は3、4点
しか ない。
この ホ ー ムペ ー ジ に上 が った も の の他 に 、ベ トナ ム で は 、 日本 文 化 に つ い て記 述 され た
書 物 が 少 な い な が ら も、 まだ あ る。 そ の 書 籍 の リス トを始 め 、 厂日本 研 究 者 」 「日本 研 究
文 献 」な ど につ い て の 情 報 を 補 足 し、正 確 にす るた め、真剣 な調 査 が 必 要 とな る。しか し、
126
ベ トナ ム に お け る 日本 文 化 研 究 の 諸 課 題
それ に は 時 間 と人 材 が求 め られ 、 当セ ン タ ー の力 で は応 じきれ ない 。
当 日本 文 化 研 究 セ ン ター が 持 っ て い る 問題 は他 の ベ トナ ム の 日本 学 教 育 機 関 に も 見 ら
れ る か ら、ベ トナ ム にお い て 共 通 す る。 そ してベ トナ ム に典 型 的 な問題 で あ ろ う。
要 す るに ベ トナ ム に お け る 日本 学 ・日本 文 化研 究 は 次 の よ うな状 態 に あ る。
① 元 来 はベ トナ ム、中 国 、 ヨー ロ ッパ な どの研 究 者 で あ っ た が 、最 近 に な り新 た に 日
本 を研 究 対 象 に加 えた 者 が 多 い 。従 って 研 究 者 と して の 経 験 は あ る もの の 、日本 語
を ほ とん ど解 さず 、 日本 語 の資 料 、情 報 に接 す る こ と が ほ ぼ不 可 能 な者 が 多 く、更
な る研 究 の 発 展 が 望 め な い ケ ー ス が 多 い 。
②90年 代 に入 り多 く の研 究 者 や 学 生 が 日本 へ 留 学 した結 果 、 日本 の文 化 、 習慣 、 社
会 事 情 な どに 精通 し、不 自由 な く 日本語 を駆 使 で き る者 も出 て き た。なか に は 日本
の 大 学 で修 士 号 、博 士 号 を取 得 した者 もい る。
しか し、こ の よ うな研 究者 は未 だ人 数 が 少 ない 上 、彼 らの 間 に相 互 の交 流 が な く 、
日本 で の経 験 を生 か し、互 い に協 力 しあ う環 境 は ま だ作 られ て い ない 。
③ 一方 、ベ トナ ム の 大 学 で 日本 語 ・日本 文 化 にっ い て専 門 的 に勉 強 した 学 生 が 、卒 業
後 、さ らに 日本 語 ・日本 文 化 を専 攻 す る た め の大 学 院 が な いた め、や む を得 ず ハ ノ
イ 国家 大 学 にベ トナ ム語 学 部 、 或 い は東 洋 学 部 に籍 を置 く こ と にな る。
しか し、ベ トナ ム語 学部 で は言 語 学 の 知識 は習 得 で き る が 、 日本 語 、 日本 文 化 に
つ い て は学 べ な い。東 洋 学 部 で は 一応 、 日本 に関 す る科 目も設 置 され て い る が 、数
も少 な く基礎 的 な 知識 が そ れ ほ ど得 られ な い 。
ベ トナ ム の 政 治 ・文 化 ・教 育 の 中心 で あ る首 都 ハ ノイ にお い て も 日本 語 の 資 料
を使 用 して 日本 を研 究 で き る研 究者 は少 な い し、別 々 の機 関 に所 属 して い る。国 家
人 文 社会 科 学 研 究 所 に属 す る家 族 ・ジ ェ ン ダ ー研 究 院 に は チ ャ ン ・ハ ン ・ザ ン、ア
ジア東 北研 究 院 に は ホー ホ ア ン ・ホ ア(現 在 定 年 退 職) 、人 間研 究院 に は ヴ ・テ ィ ・
ミ ン ・チ ー 、 ノム文 字 研 究 院 に は ゴ ・テ ィ ・オ ア ンが 、ハ ノイ 国 家 大 学 に付 属 す る
人文 社 会 科 学 大 学 に は フ ァ ン ・ハ イ ・リン、外 国 語 大 学 に は ゴ ・ミン ・テ ィ ウ、大
学院 研 究 科 に はチ ャ ン ・テ ィ ・チ ュ ン ・トア ン が 、そ して 、教 育 文 部省 付 属 の貿 易
大学 に は グエ ン ・テ ィ ・ピ ッ ク ・バ ー が、そ れ ぞ れ の機 関 に 日本研 究者 と して勤 め
て い る。数 の上 で も少 な い し、そ の上 、違 った 所 属機 関 や研 究 分 野 で働 き、彼 女 達
に は 「日本 学研 究 」に 関 す る共 同 教 育 ・研 究 す るた め の機 会 等 が提 供 され ず に、そ
れ ぞ れ 自分 の 孤 立 した研 究 を展 開 して い るの が 現 状 で あ る。
以 上 の現 状 が 、教 育 ・研 究遅 滞 の原 因 とな って お り、ベ トナ ム で の 日本 研 究 の 基 本 的 教
育 場 面 は得 られ て い ない 。 そ の た め 、一 般 の 人 々 に提 供 され る情 報 は部 分 的 、単 発 的 な も
の に な っ て しま う状 況 に あ る 。
127
TRANThiChungToan
2日
本 とベ トナ ム の 文 化 理 解 の 見 直 し
ベ トナ ム で は 日本 文 化 の 理 解 が ま だ 不 十 分 で あ り、ま た 不 正 確 な 状 態 に あ る の が
現 状 で あ る 。 中 国 は も ち ろ ん 、 タ イ や イ ン ドネ シ ア な ど の 東 南 ア ジ ア の 近 隣 国 よ り
も非 常 に 遅 れ て い る 。 これ ら の 国 で は 以 前 か ら 日本 学 を 専 攻 す る修 士 課 程 が 既 に 設
置 され 、 現 在 も活 動 して い る が 、ベ トナ ム で は 今 だ に 、 日本 文 化 へ の 基 礎 知 識 を 育
成 す る機 関 は 、 依 然 と し て ま だ 解 決 され て い な い 。
日本 政 府 や 在 ベ トナ ム の 日本 大 使 館 は 日本 文 化 発 信 に努 力 し て い る が 、ベ トナ ム
側 に お い て は そ れ ら の 政 策 を 積 極 的 に 受 け 止 め て 日本 文 化 を 理 解 し よ う と い う正
しい 姿 勢 を 取 っ て い な い と言 え る 。 ま た 、 両 国 間 の 文 化 交 流 が ま だ 乏 しい 状 態 に あ
る こ と を把 握 し た 上 で 、 在 ベ トナ ム 日本 大 使 館 と他 財 団 、 企 業 、 ま た 教 育 ・研 究 機
関 が 力 を合 わ せ 、 実 行 性 の あ る 、 効 率 的 な 対策 の 再検 討 が必 要 と され る。
3今
後 の課 題
確 実 に 、 ま た 効 率 的 に 日本 文 化 理 解 の 現 状 を 変 え る た め に は 、 教 育 か ら力 を 入 れ
る必 要 が あ る。 基 礎 知 識 を 学 ん だ 若 者 か らベ トナ ム 社 会 に 浸 透 させ る とい う方 針 に
基 づ き 、 現 在 ま で の や り方 を 見 直 し、 新 しい 時 代 に よ り適 切 な 戦 略 を 図 る。
以 前 は 大 学 に 日本 語 教 育 機 関 が 設 置 され 、 そ の 中 で 日本 文 化 を 教 え る の が 主 流 で
あ っ た が 、 今 後 は 大 学 に 日本 学 と い う機 関 を設 置 し 、 そ の 中 で 日本 語 教 育 が 行 わ れ
る の が ベ ス トで あ る。
日本 側 の 協 力 を 期 待 し な が ら 、 日本 へ 留 学 し た 経 験 を もつ 人 材 を 動 員 し皆 の 力 を
合 わ せ 、 以 下 の よ うに 日本 文 化 研 究 を促 進 す る た め 短 期 ・長 期 計 画 を た て て み た 。
3.1.短 期 計 画
こ こ で の 短 期 計 画 とい うの は 、3年
か ら5年
の 間 に 実 行 した い と考 え て い る の で
あ る。
(1)日
本 語 教育 の重 視
近 年 、 ベ トナ ム で の 日本 語 教 育 の 状 況 は 、 量 的 ・質 的 の 両 面 か ら改 善 され て き て
い る 。 し か し、 日本 事 情 、 日本 社 会 を 理 解 す る た め に は 、 日本 語 運 用 能 力 が 欠 か せ
な い と い う こ と を 前 提 と して 日本 語 の 重 視 、 日本 語 教 育 が さ ら に 強 化 され る こ と が
重要 で あ る。
現 在 、 ベ トナ ム で は ロ シ ア 語 、 ドイ ツ 語 、 英 語 、 フ ラ ン ス 語 、 中 国 語 の 五 ヶ 国 語
が 国 際 的 ・共 通 の 言 語 で あ り、 国 家 の 正 式 な外 国 語 教 育 と して 認 め られ て い る 。 五
ヶ国語 の学 習者 には、 大学 入試 、公 務 員採 用試 験 や 国家試 験 を受 け る際 には 、有利
点 が 付 け られ て い る 。
日本 語 を 他 の 五 ヶ 国 語 と対 等 な 地 位 に 引 き 上 げ 、 そ れ に よ っ て 学 習 者 に意 欲 を 与
128
ベ トナ ム に お け る 日本 文化 研 究 の諸 課 題
え た い 。 そ うす る こ と に よ り 日本 語 学 習 者 の 数 が 増 え る こ と に 繋 が り、 日本 文 化 研
究 者 を 確 保 す る こ とを 期 待 した い 。
これ は 在 ベ トナ ム の 日本 大 使 を 始 め 、 ベ トナ ム の 大 学 と提 携 を 結 ん で い る 日本 の
大 学 と協 力 して す す め て い く こ と が 望 ま しい 。
一 方 、 日本 語 教 育 機 関 は 大 学 の 中 で 独 立 し た 資 格 を 持 っ よ うに 力 を 入 れ る 。
ベ トナ ム の 大 学 の 運 営 は 、 官 僚 的 な と こ ろ が 今 だ 強 く残 っ て い る の で 、 日本 に 関
す る 資 格 が 小 さ け れ ば 小 さ い ほ どベ トナ ム の 行 政 に 縛 られ 、 自主 的 か つ 自 由 に 動 け
な く な り、 活 躍 を 制 限 さ れ て しま う原 因 と な る 。 特 に そ の機 関 の リー ダ ー は 日本 語
が で き な く 、 た だ 肩 書 き ・形 式 ば っ た 人 材 だ け で は 日本 語 を は じ め 、 日本 学 教 育 に
損 益 を も た らす と考 え られ る 。 で き る だ け リー ダ ー に お い て は 、 日本 語 が で き る人
材 で あ り、 機 関 内 の 専 任 講 師 の 育 成 に も 尽 力 で き る 者 が ふ さ わ しい と感 じ る 。
1999年
に ハ ノ イ 外 国 語 大 学 の 「日本 語 科 」 か ら 「日本 語 学 部 」 に 変 更 、2006年
に
は 貿 易 大 学 が 「日本 語 学 科 」 か ら 「日本 語 学 部 」 に 昇 格 と な っ た こ と 、 ま た 、 ハ ノ
イ 国 家 大 学 所 属 の 外 国 語 大 学 ・東 洋 言 語 文 化(中
国 ・ 日本 を含 め る)学
部 か ら将 来
的 に は 日本 語 学 部 と し て 独 立 した い と い う意 向 が 伝 え られ て い る 。
(2)日
本文 化教 育 の 重視
日本 語 教 育 と 同 じ く 、 日本 文 化 は 教 育 ・研 究 機 関 と し て 大 学 の 中 に 独 立 した 資 格
を持 っ よ うに す る。 ま た 、 独 立 し た 日本 文 化 、 日本 学 を 教 育 す る 学 部 の 中 で 、 日本
語 教 育 が 行 わ れ る の が ベ ス トと い え る 。
2007年
に は ハ ノ イ 大 学(旧 ハ ノ'イ外 国 語 大 学)の
「日本 語 学 部 」が 「日本 学 学 部 」
に 転 じた こ と も こ の傾 向 と い え る。
し か し、 そ れ 以 上 に 、 日本 学 に 関 す る 修 士 課 程 を 設 置 す る こ と も考 え な け れ ば な
らない 。
各 大 学 で は 英 語 、 フ ラ ン ス 語 、 ロ シ ア 語 等 の 外 国 語 に は 修 士 ・博 士 課 程 が 設 置 さ
れ て い る が 、 日本 語 に 関 す る大 学 院 研 究 課 程 は 未 だ に設 け られ て い な い 、 博 士 号 を
持 っ て い る 日本 研 究 者 が い る が 、 分 離 され た 大 学 ・研 究 所 に勤 め 、 次 代 の 日本 研 究
者 を 育 成 す る に は 長 時 間 を 要 す る。 ハ ノ イ 国 家 大 学 を 始 め 、 ベ トナ ム で は そ れ ぞ れ
の 大 学 や 研 究 所 は 自分 だ け の 力 で は こ の 問 題 を 解 決 す る こ と が で き な い と考 え られ
る。
そ れ を解 決 す る た め 、 ハ ノイ 国 家 大 学 か どれ か の 大 学 は 纏 め 役 を持 ち 、 当 大 学 に
勤 め る 専 任 講 師 と他 の 大 学 の 日本 語 が で き る 日本 研 究 者 を 全 員 動 員 し、日本 の 大 学 、
教 育 ・研 究 機 関 と 交 流 ・提 携 を 期 待 し 、 「日本 学 ・日本 文 化 研 究 促 進 セ ン タ ー を 開
設 し 、 セ ン タ ー の 中 に 「日本 語 ・日本 文 化 」 を 専 攻 す る修 士 課 程 を設 置 す る こ と も
一 つ の 解 決 方 法 と 考 え られ る
。
ハ ノ イ 国 家 大 学 は 他 の 国 立 大 学 と は 違 っ て ベ トナ ム 教 育 ・訓 練 省 の 管 轄 で あ る た
め 、 首 相 に 直 轄 さ れ る の で 、 そ の 問 題 を 解 決 す る に は 利 点 が あ る 。 そ して 、 ベ トナ
ム の 政 府 か ら2010年
ま で に 正 規 の 総 学 生 数 の4分
の1が
大 学院 に進 学 す る こ とを
129
TRANThiChungToan
使 命 と して 与 え られ て い る の で 、 日本 学 に 関 す る修 士 課 程 を設 置 す る の も そ の 使 命
を果 た す の に 役 立 つ と思 わ れ る。
セ ン ター を 開 設 す る こ と を 短 期 的 な 計 画 とす る が 、 セ ン タ ー の 活 動 に は 事 務 的 な
面 で は独 立 した 機 関 と し、 学 術 的 な 面 で は 短 期 的 ・長 期 的 の 両 面 で 計 画 を 立 て る 必
要 が あ る。
セ ン タ ー の 中 に 、 日本 の 関 係 機 関 の 協 力 を得 、 ベ トナ ム 国 家 大 学 にベ トナ ム 人 学
生 を 対 象 に 厂日本 語 ・日本 文 化 」 の 修 士 コ ー ス を 開 設 す る。
「日本 語 ・日 本 文 化 」 修 士 コ ー ス
① 教 育 プ ロ グ ラ ム に 関 して は 、 日本 の 方 式 を 大 幅 に 取 り入 れ る 。
② 使 用 言 語 は 分 野 に よ り、 日本 語 、 英 語 、 ベ トナ ム語 の い ず れ か に て 行 う。
(必 要 に 応 じ通 訳 をつ け る こ と も あ る。)
③ コ ー ス 終 了 後 に 修 士 号 を授 与 す る 場 合 の 大 学 ・機 関 名 は:
(a)日 本 の 大 学 ・機 関名 で(b)ハ
ノ イ 国 家 大 学 名 で(c)両
者 共 同で 、 のい ずれ
か に よる。
基 本 的 な枠組 み
(1)コ
ー ス に お い て 言 語 ・文 化 を 専 門 とす る 日本 人 研 究 者 を招 聘 し、ベ トナ ム 人
の 日本 研 究 者 と と も に 講 義 、 学 生 の 指 導 に あ た る 。
(2)教
育 目標
① 日本 語 及 び 日本 文 化 に つ い て の 基 礎 知 識 を 土 台 に 専 門 的 な 知 識 を修 得 す る 。
② 日本 語 学 、 日本 語 教 授 法 、 日本 文 学 ・ 日本 文 化 論 等 に つ い て 、 高 度 な 専 門 教 育
を 目指 す 。
③ 本 修 士 課 程 を修 了 した 後 、日本 の 大 学 の博 士 課 程 に 進 学 で き る 能 力 を 養 成 す る。
(3)期
間
原 則 と し て2年
間 。 但 し、 特 別 な 事 情 が あ る 場 合 は 更 に1年
間 の延 長 を認 め る
場合 が ある。
(4)入
学 資格
ベ トナ ム の 国 立 ・私 立 大 学 の 日本 語 学 部 、 日本 語 学 科 の 卒 業 生 、及 び そ れ と 同
等 と認 め られ る 学 力 を 有 す る者 。(日 本 語 及 び 日本 事 情 な ど に 関 して 、1000時
間 〈85単 位 程 度 〉 以 上 、 学 習 した 者 を 目安 とす る)
(5)カ
リキ ュ ラ ム
日本 側 の パ ー トナ ー シ ッ プ の 教 育 者 と 、 コ ー ス の 以 上(a),(b),(c)の
どれ に 連
携 教 育 が 実 現 で き る も の に よ っ て 共 同 で 作 成 す る。
3.2.長 期 的 計 画
当 セ ン タ ー の 活 動 が 効 率 的 、 長 期 的 に続 け られ る た め に 、 更 に い くつ か の 長 期 的
130
ベ トナ ム に お け る 日本 文 化 研 究 の諸 課 題
な 計 画 を提 案 す る。 こ こ で の 長 期 と は5年
間 か ら10年
間 の期 間で あ る。
教 育 で は 、 さ ら に 日本 人 学 生 及 び ベ トナ ム 人 の 学 生 を 対 象 とす る 以 下 の コ ー ス も
設 置 す る。
(1)日
本 人 学 生 及 び ベ トナ ム 人 学 生 を 対 象 に 博 士 課 程 を 日越 双 方 で 開 設 す る
(SandwichProgram)o
① 指 導 教 官 は 日本 人 、 ベ トナ ム 人 の2名
とす る。
② 学 生 は 、 一 定 期 間 、 必 ず 相 手 国 に 滞 在 す る。
③ 論 文 の 審 査 は 日本 人 とベ トナ ム 人 か ら な る審 査 委 員 会 が 行 う。
(2)日
本 人 の 学 生 を 対 象 にベ トナ ム 国 家 大 学 に 日本 人 向 け の 修 士 ・博 士 課 程 を 設
置す る。
選 考 は 主 と して 書 類 審 査 に よ り、本 人 の 希 望 に応 じ、 ベ トナ ム 人 大 学 院 生 と
同 じカ リ キ ュ ラ ム 、 ま た は 特 別 カ リ キ ュ ラ ム を 組 ん で 指 導 を行 う。 修 了 時 に は
ハ ノ イ 国 家 大 学 か ら修 士 号 、 博 士 号 を授 与 す る。
(3)日
本 語 ・ベ トナ ム 語 通 訳 ・翻 訳 コ ー ス
ベ トナ ム で は 日本 文 化 紹 介 活 動 の 一 つ と して 、 日本 文 学 ・文 化 書 籍 の 翻 訳 ・
出 版 を 始 め 、 そ れ を 通 して 、 「日 ・越 両 言 語 の 通 訳 ・翻 訳 」 コ ー ス を 設 置 す る
こ と も 考 え られ る。
ま ず 、 「国 際 交 流 基 金 の 翻 訳 ・出 版 推 薦 リ ス ト」等 を 参 考 し、他 の 日本 大 学 ・研 究
機 関 、 国 際 日本 文 化 研 究 セ ン タ ー の 専 門 家 の 指 導 を受 け 、 長 期 的 に ベ トナ ム 語 に 翻
訳 す る 日本 語 書 籍 の リス トを 作 り、 毎 年 少 な く と も一 つ の 書 籍 を ハ ノイ 国 家 大 学 の
出 版 社 と連 携 して 、 翻 訳 ・出版 の 目標 を 立 て 、 累 計 的 な 計 画 を展 開 して い く。
そ れ らの 書 籍 は ま ず 当 セ ン タ ー の 資 料 と し、 セ ン タ ー の 日本 文 学 ・文 化 図 書 館 に
収 納 し、 「日 ・越 語 翻 訳 」 の 科 目の 資 料 と し 、学 生 の 参 考 書 とす る。 ま た 、他 の ベ ト
ナ ム の 日本 語 教 育 機 関 を 始 め 、 研 究 機 関 な ら び に 交 流 セ ン タ ー 等 の 図 書 館 ピ 寄 贈 す
る。
そ して 、 一 般 の ベ トナ ム 人 に 紹 介 す る た め 、 市 揚 販 売 も す る 。
ま た 、 ベ トナ ム 語 の 書 籍 を 日本 語 に 翻 訳 し た 日本 人 を 招 聘 して 、 勉 強 会 、 共 同研
究 、 共 同 教 育 等 を 行 う。
(4)勉
強 会 、 シ ンポ ジ ウム を主催 す る
ハ ノ イ に い る 学 習 者 、研 究 者 の 間 に10人
ぐ らい の 小 グ ル ー プ で 勉 強 会 や 数 十
人 規 模 で の 研 究 者 発 表 会 や 百 人 以 上 の シ ン ポ ジ ウ ム 等 を 主 催 す る。
そ の 他3年
(5)ハ
ご と に1回
、 日本 文 化 促 進 国 際 シ ン ポ ジ ウム を 開 く計 画 を す る。
ノ イ 国 家 大 学 に お け る 日本 側 と の 交 流 の 窓 ロ
ハ ノ イ 国 家 大 学 を 始 め 、 各 大 学 で は 最 近 多 く の 日本 の 大 学 や 企 業 と協 力 し て
い る 。 そ の た め 、 必 要 に 応 じて 、 本 セ ン ター が 窓 口 と な っ て 、 書 類 翻 訳 、 そ の
他 の 協 力 を 提 供 す る。
(6)日
本文 化 の 専 門家招 聘
131
TRANThiChungToan
以 上 の 修 士 ・博 士 コ ー ス は 日本 側 の 大 学 ・セ ン タ ー と連 携 教 育 す る の で 、 そ の パ
ー トナ ー シ ッ プ の 専 任 講 師 を 主 に す る 。 日本 か ら専 門 家 を ベ トナ ム の 大 学 に 客 員 研
究 員 ・教 授 と して 招 聘 し、 そ こ で 直 接 ベ トナ ム 人 学 生 に 学 ぶ 機 会 を 与 え 、 ま た 、 ベ
トナ ム 人 専 門 家 と共 同 で 研 究 す る こ と も 考 え られ る。 す で に 、 日本 の 大 学 、 研 究 セ
ン タ ー で は 、 ベ トナ ム 人 教 授 が ベ トナ ム 文 化 を 教 え て い る。 ベ トナ ム も 日本 と 同 じ
よ うに 相 手 国 に 学 ぶ 姿 勢 を 取 り、 知 識 を 高 め て こ そ 、 は じ め て 正 しい 知 識 と 両 国 文
化 の 理 解 に つ な が る の で は な い か と思 わ れ る。
終 わ りに
日本 とベ トナ ム の 両 国 民 の 問 に は 有 好 的 な 信 頼 関係 が あ る 。 ベ トナ ム 人 の 問 に は
「日本 に 学 べ 」 の 精 神 が 常 に 強 く存 在 し 、 日本 人 、 日本 文 化 に 対 して 明 る く て 好 意
的 な イ メ ー ジ が 多 く、 両 国 の 友 好 関 係 ・文 化 理 解 に と っ て 有 利 な 点 とな っ て い る 。
第 二 次 世 界 大 戦 で は 、 日本 の 軍 隊 も ベ トナ ム に 来 た と は 言 え 、 短 期 間 で あ り、 フ ラ
ン ス や ア メ リカ と の 戦 争 と比 べ も の に な ら な い 。 日本 に 対 し て 対 仏 、 対 米 戦 争 ほ ど
の 厳 し さの イ メ ー ジ は な い 。 ベ トナ ム は1995年
正 式 加 盟 、1998年
にAPEC正
式 加 盟 、2007年
に ア メ リカ と 国 交 正 常 化 、ASEAN
にWTO正
式 加 盟 な ど を果 た した 現 在 、
特 に ベ トナ ム の 外 交 基 本 方 針 は 全 方 位 外 交 の 展 開 、 特 に ア セ ア ン 、 ア ジ ア ・太 平 洋
諸 国 等 近 隣 諸 国 と の 友 好 関 係 の 拡 大 に 努 め る こ と に あ る。 新 しい 局 面 に あ る ベ トナ
ム に 対 して 、 従 来 か ら 日本 は ベ トナ ム の 経 済 発 展 に 貢 献 を 重 ね て き た 。 今 後 さ ら に
日本 が ベ トナ ム に お け る 、 日本 文 化 受 容 を 計 画 的 、 効 率 的 に推 進 し、.より力 を入 れ
て くれ る こ と を 望 ん で い る 。
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