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C-5:たん白質医薬品の特性解析 -糖鎖構造解析

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C-5:たん白質医薬品の特性解析 -糖鎖構造解析
●C-5:たん白質医薬品の特性解析-糖鎖構造解析-
[特集]第11回医薬ポスターセッション
C-5:たん白質医薬品の特性解析
-糖鎖構造解析-
生物科学研究部 森脇 有加
ため、蛍光標識した後、カラムで分離して解析する。
3.N-結合型糖鎖の構造解析
α1酸性糖たん白質からN-結合型糖鎖を遊離し、蛍光
標識後、LC-ESI-Q-TOFで測定することにより糖鎖構
1.はじめに
造を推定した(図2、参考文献(1)
)
。主に、トリシアロ
糖鎖が存在し、モノシアロ、ジシアロ及びテトラシアロ
近年、抗体医薬品やたん白質医薬品等のバイオ医薬品
糖鎖も存在していた。
開発は急激に加速しており、世界のトップ10の医薬品
糖 鎖 の 調 製 か ら、HILICカ ラ ム を 用 い たUHPLCに
を見ると、バイオ医薬品は2011年の4製品から2012年は
よる測定までの併行精度の確認をn=3で2日間行った結
7製品に増え、売上割合は39.6%から71.1%に急増した。
果、再現性の高いクロマトグラムが得られた(図3)。
2013年にはその割合が73.5%へ増加した1)。
現在臨床の現場で用いられているバイオ医薬品の50%
以上は糖たん白質性医薬品であり、医薬品としてのたん
白質の効能はそれを修飾する糖鎖に大きく影響を受けて
いる 。例えば、IgG1を基本骨格とし、抗体依存性細胞
2)
障害(ADCC)活性を利用している抗体医薬品では、そ
の抗悪性腫瘍活性に、N-結合型糖鎖のフコースが影響
し、フコース除去によりADCC活性が増強する3)。また、
蛍光検出
Inten s.
[mAU]
40 0
30 0
20 0
10 0
0
Inten s.
x1 05
5
3
る 。従って、糖たん白質性医薬品の特性解析では、た
2
4)
糖鎖構造、オリゴ糖パターン(枝分かれ構造についての
プロファイル)及びポリペプチド鎖の糖鎖結合位置をで
AB-2- n1_ 1-7 6_01 _330 .d
MS分析(ベースピーククロマトグラム)
4
エリスロポエチンのシアル酸の結合数は活性と相関があ
ん白部分以外に糖含量(中性糖、アミノ糖、シアル酸)
、
AB-2- n1_ 1-9 7_01 _322 .d
50 0
1
0
20
25
30
35
40
45
Tm
i e [mi n]
図2 α1酸性糖たん白質から調製したN-結合型糖鎖の構造
解析
きる限り分析する必要がある5)。しかし、日本薬局方第
16改正において、糖たん白質性医薬品の糖鎖に関する試
験法は収載されておらず、開発メーカーごとに糖鎖解析
の試験法を設定しているのが現状である。弊社では、糖
たん白質からN-結合型糖鎖及びO-結合型糖鎖を効率良く
調製し、解析しているので紹介する。
Intens.
[mAU]
AB-1-n1_1-94_01_319.d: UV Chromatogram, 256 nm
9
500
3
1
0
Intens.
[mAU]
2
3
1
0
Intens.
[mAU]
2
1415 16 17
13
1日目 #1
56 7 8
11
10
12
14 15 16 17
13
1日目 #2
AB-1-n3_1-96_01_321.d: UV Chromatogram, 256 nm
3
1
2
4
56 7 8
11
10
12
15 16 17
1314
1日目 #3
AB-2-n1_1-97_01_322.d: UV Chromatogram, 256 nm
9
500
1
0
Intens.
[mAU]
2
3
4
56 7 8
11
10
12
16 17
131415
2日目 #1
AB-2-n2_1-98_01_323.d: UV Chromatogram, 256 nm
9
500
250
1
0
Intens.
[mAU]
600
3
2
4
56 7 8
11
10
12
15 16 17
1314
2日目 #2
AB-2-n3_1-99_01_324.d: UV Chromatogram, 256 nm
9
400
鎖を遊離し、糖鎖はそのままではUV吸収や蛍光がない
4
9
200
0
12
10
9
500
500
図₁に糖鎖構造解析手順を示した。糖たん白質から糖
56 7 8
AB-1-n2_1-95_01_320.d: UV Chromatogram, 256 nm
0
Intens.
[mAU]
2.糖鎖構造解析の概要
4
11
1
0
10
3
2
4
20
56 7 8
30
11
10
12
15 16 17
1314
40
2日目 #3
50
Time [min]
図3 α1酸性糖たん白質から調製したN-結合型糖鎖のUHPLC
による分離(n=3、2日間)
糖たん白質
糖鎖を遊離(PNGaseF、ヒドラジン分解など)
蛍光標識( )
(2-アミノピリジン、2-アミノベンズアミドなど)
質量分析(LC-MS/MSまたはMALDI-TOF/MS)
:N-アセチルグルコサミン
:N-アセチルノイラミン酸
:N-アセチルガラクトサミン
:マンノース
:フコース
:ガラクトース
図1 糖鎖構造解析手順
4.O-結合型糖鎖の構造解析
O-結合型糖鎖は遊離も精製も困難なため、N-結合型糖
鎖のように確立された構造解析方法がまだない。遊離方
法や精製方法を検討することにより、従来法では回収で
きなかったO-結合型糖鎖の回収に成功したので以下に紹
介する(参考文献(1)
)
。
Fc融合たん白質からヒドラジン分解によりO-結合型糖
鎖を調製し、LC-ESI-Q-TOFで測定した。蛍光検出に
・39
東レリサーチセンター The TRC News No.120(Feb. 2015)
●C-5:たん白質医薬品の特性解析-糖鎖構造解析-
よるクロマトグラムを図4の上段に示した。Fc融合たん
表1 Fc融合たん白質のO-結合型糖鎖の組成比
白質の糖鎖が糖ペプチドとして解析された参考文献(2)
をもとに、O-結合型糖鎖の理論質量を算出し、抽出イオ
保持
時間
(分)
ピーク
ンクロマトグラムを作成した。その結果、ピーク1、3及
び4にO-結合型糖鎖が存在することがわかった。ピーク4
ピーク
面積
含量
(%)
1
7.8
109
2.73
2
14.6
449
11.26
した構造を示唆する複数のプロダクトイオンが検出され
3
21.2
2570
64.46
た。他のピークについても同様に解析し、結果を表1に
4
36.8
859
21.55
3987
100.00
のm/z 1086.4のイオンをプリカ-サーイオンとしたプロ
ダクトイオンスペクトルを図5に示した。質量から推定
まとめた。
Intens.
[mAU]
1
*
*ピーリング反応による副生成物
fcf-o-ab-131025_1-4_01_632.d:
UV Chromatogram, 256 nm
3
蛍光検出
100
0
Intens.
x105
Total
推定糖鎖
構造
4
2
6.引用文献
FcF-O-AB-131025_1-4_01_626.d: EIC1086.4096±0.005
+All MS
m/z 1086.4
MS分析(抽出イオンクロマトグラム)
4
1
1)セ ジ デ ム・ ス ト ラ テ ジ ッ ク PRESS RELEASE、
0
Intens.
x106
(2014)、(セジデム・ストラテジックデータ株式会
FcF-O-AB-131025_1-4_01_626.d: EIC795.3142±0.005
MS
m/z +All
795.3
3
社 ユート・ブレーン事業部)
1
0
Intens.
x105
2)矢木宏和、矢木-内海真穂、加藤晃一、ファルマシ
FcF-O-AB-131025_1-4_01_626.d: EIC504.2188±0.005
+All MS
m/z 504.2
1
ア Vol.50 No.8(2014)
3)R. L. Shields, J. Lai, H. R. Keck, L. Y. O’
Connell, K.
2
0
5
10
15
20
25
30
35
Hong, Y. G. Meng, S. H. A. Weikert, L. G. Presta, J.
Time [min]
図4 Fc融合たん白質から調製したO-結合型糖鎖の構造解析
Biol. Chem., 277, 26733-26740 (2002).
4)M. Higuchi, M. Oh-eda, H. Kuboniwa, K. Tomonoh, Y.
Shimonaka, N. Ochi, J. Biol. Chem., 267, 7703-7709
Intens.
x104
+MS 2( 1086.4068), 36.9-37. 0min #2 18 4-2188
5)生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起
342.1 653
2.0
源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定について
1.5
Sia + 1.0076
300
400
500
Sia - 0.0037
Hex + 0.0019
7.参考文献
795.3 151
633.2604
504.2174
274.0927
292.1 030
206.1021
200
年5月1日)
Sia + 0.0022
Hex - 0.0007
0.0
100
(医薬審発第571号 医薬局審査管理課長通知 平成13
Sia - 0.0 003
1.0
0.5
(1992).
600
700
800
900
1000
m/ z
図5 プ ロダクトイオンスペクトル(プリカーサーイオン
m/z 1086.4)
1)森脇有加、太田里子、水野保子、岡野清、第33回日
本糖質学会年会要旨集、p.159
(2014)
2)J. Bongers, J. Devincentis, J. Fu, P. Huang, D. H.
Kirkley, K. Leister, P. Liu, R. Ludwig, K. Rumney,
L. Tao, W. Wu, R. J. Russell, J. Chromatogr. A, 1218,
5.おわりに
糖たん白質からN-結合型糖鎖及びO-結合型糖鎖を効率
良く調製し、質量分析計を用いて迅速に構造解析できる
ことを示した。バイオ医薬品開発が益々活発となり、糖
鎖構造解析の必要性が一層増すと予想される中、今後も
お客様のご要望に添えるよう技術開発を進めてゆきた
い。
*本内容は平成25年度創薬基盤推進研究「バイオ医薬品
の合理的品質管理技術の開発と標準化」において、実
施した研究成果である。
40・東レリサーチセンター The TRC News No.120(Feb. 2015)
8140-8149(2011)
■森脇 有加(もりわき ゆか)
生物科学研究部 生物科学第2研究室 研究員
趣味:サイクリング
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