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今月の内外景気 米国経済 ~住宅価格の急落による家計部門の低迷リスク
米国経済 ~住宅価格の急落による家計部門の低迷リスク~ 経済調査部 桂畑 誠治 住宅市場でバブルが懸念されている 2001年以降の米国経済は住宅部門の拡大によって成長が維持された。2000年のITバブル崩壊後、FR B(連邦準備制度理事会)の積極的な利下げ、それに伴う長期金利の低下によって、モーゲージ・ローン のリファイナンスやホーム・エクイティ・ローン〔住宅の純資産価値(住宅の時価からモーゲージ・ロー ンの未払残高を除いた部分)を担保に借り入れ枠を設定すること〕が拡大し、個人消費を押し上げた。同 時に、住宅販売も増加し、関連消費の拡大によって米国経済が下支えされた。足元、住宅需要が強いこと や、投機的な資金が流入していること等によって4~6月期の全米住宅価格は前年同期比+13.4%と高い 伸びが続いている。このため、住宅市場にバブルが生じているとの見方が増加し、その破裂が懸念されて いる。 これまでであれば購入できなかった人々まで住宅購入が可能に 住宅市場を取り巻く環境をみると、まず、月々の住宅ローン支払い負担はあまり上昇していない。また、 モーゲージ・ローンの返済遅延率は2005年4~6月期で1.56%と低い水準にとどまっているため、金融機 関のモーゲージ・ローン向けの貸し出し姿勢は緩和的な状態が当面続こう。長期金利についても、世界的 な貯蓄の増加や、インフレに対する安心感から上昇し難くなっているため、低位安定が続くとみられる。 雇用・所得は、持続的な成長が続いており拡大傾向を辿ると予想される。さらに、資産残高が増加傾向を 辿ること、人口構成に占める住宅取得意欲の高い年齢層の比率が高いこと等を背景に住宅販売は堅調に推 移すると見込まれる。 このような需要が期待できる一方、所得に対する住宅価格の比率が過去最高水準にまで上昇しているよ うに購入環境は厳しくなっている。さらに、最近増加している当初金利部分の返済しか行わない住宅ロー ン(IOローン)は、審査が十分でなくこれまででは購入することが難しかった人々の購入増加に繋がっ ていることや、 住宅価格の上昇を見込んだ転売目的の購入が拡大していることから、 投機的な色彩が強い。 住宅価格が急落すればマインドを悪化させる可能性が高い 潜在的な住宅需要が強いものの、審査の甘さや投機的な資金の流入などが指摘されるようにバブル的な 状況もみられる。このため、インフレ懸念の高まりに伴う金利の大幅な上昇や、雇用環境の悪化による金 融機関の貸出姿勢の厳格化などにより資金調達コストが上昇すれば、住宅需要が減退し住宅価格が下落す る可能性がある。また、ドル安ユーロ高が進んだ際には米不動産市場に欧州から資金が流入し価格上昇に 寄与したが、ドル高ユーロ安基調に転じれば欧州投資家が収益を実現するために不動産市場から資金を引 き揚げる可能性もある。住宅価格に関しては、基本的に政策当局者は緩やかな調整を想定しているが、経 験則から現実的には急激な調整が生じるリスクがある。株価の変動より影響の大きい住宅価格が下落すれ ば、個人消費は失速する可能性が高い。このため、FRBはITバブル崩壊後よりも積極的な対応を行う と予想されるが、住宅価格が急落すれば家計部門の低迷(緩やかな拡大)が長期化、再びデフレ懸念が強 まることは避けられない。 かつらはた せいじ(主任エコノミスト) 第一生命経済研レポート 2005.10