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多様な見方・考え方ができる児童生徒が育つ 総合的な学習の時間の

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多様な見方・考え方ができる児童生徒が育つ 総合的な学習の時間の
平成 26 年度
研究紀要
(第959号)
F1-05
多様な見方・考え方ができる児童生徒が育つ
総合的な学習の時間の在り方
-整理・分析における思考ツールの活用を通して-
本研究では,整理・分析における思考ツールの活用を手だてとし,交流
活動を充実させることで,多様な見方・考え方ができる児童生徒の育成を
めざし研究に取り組んだ。具体的には,思考ツールを効果的に取り入れ,
学習活動を行うこととした。その結果,交流活動での意見交流が活発に行
われ,自分とはちがう視点に気付き,多様な見方・考え方ができる児童生
徒の姿に迫ることができた。
福岡市教育センター
総合的な学習の時間研究室
目
第Ⅰ章
1
次
研究の基本的な考え方
主題について ····················································· 総‐1
(1)主題設定の理由
(2)主題及び副主題の意味
2
研究の目標························································ 総‐3
3
研究の仮説························································ 総‐3
4
研究の構想························································ 総‐3
(1)ねらいの明確化
(2)収集した情報の量や内容の分析
(3)多様な見方・考え方につながる思考ツールの選定
(4)学習活動の流れ
5
研究構想図························································ 総‐5
第Ⅱ章
1
研究の実際と考察
小学校第4学年
研究の実際と考察 ································· 総‐6
「見つけよう!バリアフリー・ユニバーサルデザイン」
2
小学校第5学年
研究の実際と考察 ································· 総‐12
「お米博士になろう」
3
小学校第6学年
研究の実際と考察 ································· 総‐17
「夢へチャレンジ~未来自分史をつくろう~」
4
中学校第2学年
研究の実際と考察 ································· 総‐21
「私の生き方探究(職場体験学習を通して)」
第Ⅲ章
研究の成果と今後の課題
1
研究の成果························································ 総‐25
2
今後の課題························································ 総‐26
資料等 ································································ 総‐27
第Ⅰ章
1
研究の基本的な考え方
主題について
(1) 主題設定の理由
ア
教育の動向から
総合的な学習の時間は,変化の激しい社会に対応して,自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考
え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てることをねらいとすることから,
思考力・判断力・表現力等が求められる「知識基盤社会」の時代において,ますます重要な役割
を果たすものである。
平成 20 年 3 月に改訂された学習指導要領において,総則の一部であった総合的な学習の時間は
教育課程における位置付けを明確にするために,総則から取り出され,新たに章立てとなった。
さらに学習指導要領総則の従前の目標に,探究的な学習が繰り返されることや,他者と協同して
課題を解決する態度を育むことが加えられた。これらが重要視される背景には,OECD が提唱す
る主要能力(キー・コンピテンシー)の一つである「②多様な社会グループにおける人間形成能
力」が挙げられる。児童生徒は,総合的な学習の時間において探究的な学習を協同的に行う中で,
多様な考えをもつ他者と適切に関わり,他者とのちがいを認めたり,自己の生き方を考えたりす
ることができるようになる。
しかし実際には,具体的な目標や内容は各学校が定めることになっており,学校間・学校段階
間の教育課程における取り組みに差があり,学習指導要領の目標を充分に達成できていない現状
もある。例えば,体験活動のみに重きが置かれたり,探究的な学習の目的が,新聞や模造紙など
の表現物にまとめるための学習になっていたりすることで,児童生徒が多様な考えをもつ他者と
適切に関わり,他者とのちがいを認めたり,自己の生き方を考えたりするには至っていない場合
が考えられる。
本研究では,他者の多様な考えを受け入れたり,他者とのちがいを認めたりすることが,学習
対象への見方・考え方を深め,自己の生き方を考えることができる児童生徒の育成につながると
考えた。そこで,探究的な学習の中で得た情報や児童生徒の考えを交流する活動を工夫すること
とした。
イ
児童生徒の実態から
総合的な学習の時間に関する児童生徒の意識を把握するため,平成 26 年6月,質問紙法によ
る調査を実施した。対象は,本研究室の研修員が所属する小学校3校(229 人),中学校1校(297
人)である。
総合的な学習の時間が「とても好き」「好き」と答
えた児童生徒は 80.4%であった(資料‐1)。好きな
理由は,「体験活動ができるから(20.8%)」や「調
べることが楽しいから(11.2%)」などが多く,課題
設定における体験活動が効果的に機能し,課題意識を
持って学習に取り組んでいる様子が見られた。
また,交流を通して,自分の考えが変わったり,自分
の考えが確かめられたりしたことが「あまりない」
「な
総‐1
資料‐1
総合的な学習の時間に対する意識
い」と答えた児童生徒は 30%以上であった(資料
資料‐2
学習後の考えについて
‐2)。総合的な学習の時間が好きな理由として,
「意見を言い合えるから(3.1%)」「発表で交流
するのが好きだから(0.8%)」などの交流活動に
ついて挙げた児童生徒は少なく,好きではない理
由としては,「発表が苦手だから」「話し合いが
ある
53.5
苦手だから」などの交流活動を苦手とする理由が
半数以上を占めていた。これらのことから,児童
生徒は総合的な学習の時間に友達やゲストティー
資料‐3
整理・分析に対する意識
チャーとの交流を通して自分とはちがう視点に気
付き,学習対象への見方・考え方を深めることに
学ぶことの意味や価値を見出していないと考えた。
また,調べたことを比べたり,仲間分けしたり,
関係付けたりして考えること(整理・分析)が「あ
まりできない」「できない」と答えた児童生徒は
約4分の1であった(資料‐3)。
以上,調査の結果から,考えの強化や変容が感じられるような学習活動が必要であると考えた。
ウ
これまでの研究から
本研究室では,平成 24~25 年度にかけて「自ら探究する児童が育つ総合的な学習の時間の在
り方」を主題として研究を行った。「体験活動を活かした単元構成の工夫」や「対象と自分との
関わりを見つめなおす学習活動」を通して,めざす児童の育成に迫ることができた。具体的な成
果としては,調べたことを整理・分析する姿や,交流を通して次の課題を見つけたり自分の考え
を深めたりする姿,自己の生き方を考える児童の姿が見られたことが挙げられる。
しかし,単元の終末で自己の生き方を考える際,交流で得られた様々な視点を踏まえて自己の
生き方を考えることが難しかった。そこで,友達やゲストティーチャーとの交流を通して自分と
はちがう視点に気付き,学習対象との関わりにおいて自らの生活や行動について考えたり,自分
の考えを深めたりする必要があると考えた。
以上,教育の動向,児童の実態,昨年度の研究の課題から,本年度の研究主題を「多様な見方・
考え方ができる児童生徒が育つ総合的な学習の時間の在り方」,副主題を「整理・分析における
思考ツールの活用を通して」とした。
(2) 主題及び副主題の意味
ア
主題の意味「多様な見方・考え方ができる児童生徒」とは
多様な見方・考え方とは,学習対象に対して自分がもっていた視点からの見方・考え方だけで
はなく,自分とはちがう視点から学習対象を見たり考えたりできるようになることをいう。児童
生徒は,探究活動の中で課題を設定し,情報を収集し,整理・分析することによって異なる視点
を出し合い,検討していくことで学習対象への見方・考え方を深めていく。特に,教師が簡単に
は答えが出ない問題や価値が対立する問題となるようにし,児童生徒が問題解決に取り組めば,
総‐2
各自の意見や学習の過程で得た情報を整理してグループで調整するような交流活動が求められる
ため,互いがもつ情報や考えを伝え合う必要性は高まる。その際,集めた情報や互いの考えを伝
え合って共有したり焦点化したりする中で,新たな視点に気付き,自分とはちがう見方・考え方
があることを知る。それが,学習対象への見方・考え方を深めることになり,最終的に「多様な
見方・考え方ができる児童生徒」につながると考えた。
そこで本研究室では,「多様な見方・考え方ができる児童生徒」の姿を,次のように設定した。
(めざす児童生徒像)
交流活動を通して,自分とはちがう視点に気付き,学習対象への見方・考え方を深めることが
できる。
イ
副主題の意味「整理・分析における思考ツールの活用」とは
情報や考えを交流する場合には,音声言語だけでは情報の共通点や相違点,関連性などに気付
きにくい。そこで,自分とはちがう視点に気付き関連して考えるためには,児童生徒が収集した
情報を可視化し操作しながら話し合いや意見交流をする必要があり,「思考ツール」を手だてと
して活用できると考えた。
「思考ツール」とは,整理・分析の方法のことである。思考ツールには,グラフ,表,図,カ
ード,マップ,座標軸,チャートなど様々なものがある。整理・分析の視点や方法を吟味して,
思考ツールを活用した学習活動を位置付けることが,情報や思考の流れを可視化し考えを深める
手だてになると考える。
つまり「整理・分析における思考ツールの活用」とは,探究的な学習の過程の整理・分析の場
面において,自分とはちがう視点に気付き,考えを深めることができるようにするために,思考
ツールを活用して情報や思考の流れを可視化し,付箋やカードを操作しながら話し合いや意見交
流をすることである。
2
研究の目標
整理・分析における思考ツールの活用を通して,多様な見方・考え方ができる児童生徒が育つ総合
的な学習の時間の在り方を明らかにする。
3
研究の仮説
整理・分析の場面において,思考ツールを活用した交流活動を位置付ければ,児童生徒は異なる視
点に気付き,多様な見方・考え方ができるであろう。
4
研究の構想
本研究で思考ツールを活用した交流活動を位置付けるにあたり,以下の4点について重点的に取り
組むこととした。
(1) ねらいの明確化
探究的な学習は,①課題の設定②情報の収集③整理・分析④まとめ・表現の四つの学習過程が
連続発展的に繰り返されることで成立する。整理・分析した結果から課題を設定する際には,新
たな課題,自己の生き方につながる課題を見いだすため,交流で分かったことや決まったことを
総‐3
まとめ・表現でどのように活用するか考えるためなど,交流活動のねらいを明確にしておく。
(2) 情報・考えの把握
児童生徒がどのような情報をどの程度まで収集しているのか,どのような考えをもっているの
か把握する。情報は,数値化されたもの,言語化されたもの,感覚的なものなど様々である。し
たがって,一人ひとりがもつ情報を把握し,交流活動が成立するようにしなければならない。
(例)作文,カード,付箋,グラフ
など
(3) 多様な見方・考え方につながる思考ツールの選定
整理・分析における交流活動の際には,ねらいを明確にし児童生徒が収集した情報を分析した
上で,情報や考えを可視化するための思考ツールを選定する。
思考を促すツール例
X・Y・W チャート
多くの情報を,視点をもって分類したり,視点を見付けたりする。
ボーン図
課題を導き出すために,情報を内容ごとに分類する。
くま手チャート
視点をもって考えを広げる。
クラゲチャート
学習対象の価値を明らかにし,その根拠を見付ける。
コンセプトマップ
情報の関係性や考えの共通点を見付け,つながりをもつものを整理する。
ピラミッドチャート
多くの情報の中から,重要なものを絞り込む。
(参考『考えるってこういうことか!「思考ツール」の授業』田村学・黒上晴夫)
(4) 思考ツールを活用した学習活動の流れ
交流活動前に,学習対象について調べたり体験したりすることによって得た情報や自分の考え
を可視化する。交流活動において,思考ツールを用いて可視化された情報や考えを操作し,自分
と他者の考えを比較しながら話し合う。交流活動後は,児童生徒一人一人が自分とはちがう見方・
考え方を踏まえ,再度学習対象について自分の考えを表現する。
総‐4
5
研究構想図
自己の生き方を考えることができる児童生徒
多様な見方・考え方ができる児童生徒
交流活動を通して,自分とはちがう視点に気付き,学習対象への見方・考え方を
深めることができる。
思考ツールを
まとめ・表現
活用した交流活動
整理・分析
自己の生き方につながる課題
情報収集
課題設定
①
ねらいの明確化
・
興味関心に基づく課題
・
新たな課題
・ 自己の生き方につながる課
題に結びつけるため,目的や
まとめ・表現で活用
まとめ・表現
②
情報・考えの把握
児童生徒が集めた情報(数値
・言語・感覚など)と考えを把
整理・分析
握する。
新たな課題
情報収集
③
思考ツールの選定
①,②を踏まえ,思考ツール
課題設定
を選定する(紀要
4ページ参
照)。
まとめ・表現
④
学習活動の流れ
ア.個人の情報や考えの可視化
整理・分析
イ.交流活動
興味関心に基づく課題
情報収集
課題設定
児童生徒の実態
総‐5
ウ.振り返りや次の課題の設定
第Ⅱ章
1
研究の実際と考察
小学校第4学年
(1) 単元名
研究の実際と考察
「見つけよう!バリアフリー・ユニバーサルデザイン」
本単元では,福祉に対して多様な見方・考え方ができることをねらった。まず児童は福祉体験活
動を行って感想を交流することで興味関心に基づいた課題を設定した。次に,校内及び校区の調査
活動を行い身のまわりの生活しにくいところ(バリア)を見つけて KJ 法で整理し,身のまわりに
はたくさんのバリアがあると気付くとともに,生活しやすくする工夫(バリアフリー・ユニバーサ
ルデザイン)に目を向け,新たな課題を設定した。さらに,特別養護老人ホ-ム施設見学,図書を
用いた調べ学習,校区の調査活動などを行ってバリアフリーやユニバーサルデザインについて調べ,
KJ 法で整理し,様々な人のことを考えたたくさんの工夫があることに気付いていった。そして「み
んながもっと生活しやすくなるために大切なこと」を考え,座標軸を用いて交流することで,自己
の生き方につながる課題への意識を高めた。最後に,障がいがある地域の方との出会いを通して障
がい者や高齢者の生活について考えを深め,自分にできることを考えて実践していこうと目標を立
てていった。単元構成は以下に示す通りである(図‐1)。
全 36 時間
<興味関心に基づく課題の設定> 「身のまわりのバリア(生活しにくいところ)を見付けよう。」
福祉体験の感想を交流して障がいがある方の普段の生活の大変さを予想することで,課題を設定する。(5時間)
<情報の収集>
校内・家庭・校区で実地調査を行い,バリアを調べる。
(2時間)
<整理・分析①>
KJ 法 を用い,見つけたバリアをグループで整理・分析する。
(1時間)
<まとめ・表現>
バリアについて調べて気付いたことや感想をまとめ,交流する。
(1時間)
<新たな課題の設定>
「身のまわりのバリアフリーやユニバーサルデザイン(生活しやすくするための工夫)を見つけよう。」(1時間)
<情報の収集>
施設見学,図書での調べ学習,校区での調査を行い,バリアフリーやユニバーサルデザインを調べる。(9時間)
<整理・分析②>
KJ 法 を用い,見つけたバリアフリー・ユニバーサルデザインを整理・分析する。
(2時間)
座標軸 を用い,「みんながもっと生活しやすくするために大切なこと」について考えを交流する。(2時間)
<まとめ・表現>
バリアフリー・ユニバーサルデザイン
リーフレットを作る。
(7時間)
<自己の生き方につながる課題の設定> 「自分にできることを考えよう。」
(6時間)
障がいがある地域の方の話を聞いて,みんなが生活しやすいまちにするために自分にできることを考える。
困っている人がいたら声をかけて助けよう。バリアフリーやユニバーサルデザインを増やしたい。
図‐1
単元構成
総‐6
(2) 指導の実際
ア
KJ 法を用いたグループでの交流活動
(ア) 思考ツールの選定
整理・分析①では,校内・家庭・地域で探したバリアを出し合うことによって身のまわりの
バリアの多さに気付き,さらに「生活しやすくするための工夫はないのだろうか」という疑問
を出し,新たな課題へつなげることをねらいとした。
整理・分析②では,家庭・地域での調査,図書での調べ学習で見つけたバリアフリーやユニ
バーサルデザインを出し合うことによって身のまわりのバリアフリーやユニバーサルデザイン
の多さに気付き,さらに「もっと生活しやすくするために大切なこと」を考えることにつなげ
ることをねらいとした。
思考ツールとして KJ 法を選定したのは,調べたことを出し合うことで身のまわりにあるバ
リア,バリアフリーやユニバーサルデザインの多さに気付かせたいと考えたからである。また,
仲間分けすることで,どのような場所に多いのか,どんな人にとってのバリアなのか,どんな
人のためのバリアフリーなのかを考えるきっかけとするために,KJ 法で仲間分けすることが適
していると考えた。
(イ) 活動内容
児童は,情報収集活動のまとめとして,バリア,バリアフリーやユニバーサルデザインを付箋
に書き込み,本時で画用紙に貼りながら整理し,まとまりごとに見いだしをつけていった。整
理・分析①では,見付けたバリアを種類ごとに分けていった。整理・分析②では,仲間分けの
項目を指定せずに,班で話し合いながら仲間分けの項目を決め,整理終了後に仲間分けをした
画用紙を見ながら気付いたことを学習プリントに書いていった。
資料‐4
(ウ) 児童の様子
KJ 法を用いて
交流する児童の様子
整理・分析①では,児童は調べたことを発表しながら画用紙に
貼り,仲間分けをしていった(資料‐4)。段差という仲間の中
にも,車いすの人やお年寄り,目が不自由な人など様々な人が入
っていることから,同じ場所でもたくさんの人が困っていること
に気付いている児童がいた。整理が終わると児童
は,付箋の数から身のまわりのバリアの多さを感
資料-5
学習後の振り返り
じていた。同時に,反対に生活しやすくするため
の工夫について知りたいという感想が多く出され
た(資料‐5)。この感想を共有し,新たな課題
「身のまわりにある生活しやすくするための工夫
を見付けよう」を設定していった。
整理・分析②では,①と同様にたくさんの付箋を貼り,今
までは気付かなかったバリアフリーやユニバーサルデザイン
について確認することができた(資料‐6)。さらに「たく
さんのバリアフリーやユニバーサルデザインを見つけること
ができたが,十分なのだろうか」について意見を出し合うと,
「バリアの方が見つけるのが簡単だったし,数も多かったか
ら,生活しにくいと感じている人はたくさんいると思う」と
総‐7
資料‐6
KJ 法による整理・分析
いう意見が多く出され,次時に向けて「もっと生
資料‐7
学習後の振り返り
活しやすくするために大切なこと」を考えるとい
う意識をもつことができていた(資料‐7)。
イ
座標軸を用いたグループでの交流活動
(ア) ツールの選定
整理・分析②では,個人で考えた「みんなが生活しやすくなるために大切なこと」を交流す
ることによって,思いやりの気持ちが大切であることや自分にもできることがあることに気付
かせ,自己の生き方につながる課題への意識を高めることをねらいとした。
思考ツールとして座標軸を選定した理由は,自分たちができることのよさに気付けるように
したためである。先述したように,前時までに調べたことは具体的なバリアフリーやユニバー
サルデザインである。品物や施設などに関することが中心であったために,「困っている人を
助ける」など,人の行動に関するものは少なく,自己の生き方につながるような考え方をしてい
る児童は一部であった。そこで,交流活動によって,自分た
いると考えた。自分たちにできることのよさとは,「すぐに
できること」と「一人でもできること」の二つである。
実態を考慮し,意見交流は生活班で行い,座標軸の視点二
つ(一人でできる⇔一人ではできない,すぐにできる⇔時間
すぐにできる
一人 で で きる
一人 で は でき な い
ちができることのよさに気付くことができる座標軸が適して
時間がかかる
みんながもっと生活しやすくなるために大切なことは…
がかかる)は教師から提示することとした(図‐2)。
図‐2
座標軸
(イ) 活動内容
整理・分析②では,まずグループで意見を出し合わせた。その際,座標軸を書いた画用紙に
付箋紙を貼っていくことで,内容を視覚的にとらえ,操作しながらどこに位置付けるとよいか
話し合えるようにした。次に,グループの意見として「みんながもっと生活しやすくするため
に大切なこと」をまとめさせた。その際,柔軟に意見をまとめられるように,班の意見は出さ
れた意見から選んだり組み合わせたり新しくつくったりしてよいこととした。さらに,グルー
プの意見を出し合わせた後,見直した自分の考えを書かせた。最後に,本時で得られた視点や
深まった見方・考え方に気付くことができるように,友達の話を聞いてなるほどと思ったこと・
今日初めて気がついたこと・新たに考えたことなどを書くように助言し,「今日の学習で」を
書かせた。
(ウ) 児童の様子
交流が始まると,自分の考えを発表しながら付箋を座標軸に貼っていた(資料‐8)。ここ
では,自分で位置を決めて貼る児童もいれば,貼る位置に迷ってグループで相談しながら貼る
位置を決めている児童もいた。自分の意見を出し終わっ
た後,「自分が考えたのは,時間もかかるし一人ではで
きないことばっかりだった」と自分の考えを振り返った
り,数の少ない一人ですぐにできることに分類される意
見が出ると「なるほど」と納得して他者の考えのよさに
気付いたりしていた。全員が付箋を出し終わると,多く
のグループがそれぞれの意見について位置付けが適切で
総‐8
資料‐8
意見を出し付箋を貼る様子
あるか再度話し合いを始める様子があった(資料‐9)。グループで出された意見は一人では
できない時間がかかることに偏っていたからである。「これ(「みんなが思いやりをもつ」と
いう意見)はみんなでやったほうがいいけど,一人でもできるから動かした方がいいんじゃな
い」と出されたものの中から動かせるものを探したり,「ここ(一人でできる時間がかからな
い)に入るのを考えよう」と新しい考えをつくろうとしたりしていた。
グループの意見をまとめる段階になると,さらに交流は活発になっていった。その中で,品
物や施設に関するものと人の行動に関するものどちらがより大切なのかを決めていく様子が
あった(資料‐10)。その過程では,個人の考えが多く出されていた。「スロープや音の出る
信号機や点字ブロックを増やすのは,一人ではできないし時間がかかるけど,やらなければい
けないことだ」と発言した児童もいたため,同じくらい大切なこととして品物や施設に関する
ものと人の行動に関するものを二つ挙げているグループもあった(資料‐11)。まとめた意見
をグループごとに発表すると,「似てる」「同じだ」「なるほど」というつぶやきもあった。
個人が自分の考えをもちつつも,他者の多様な考えを受け入れている姿であったと考える。交
流後には,再度「みんなが生活しやすくなるために大切なこと」を決めると考えの変容が見ら
れた児童が多かった(資料‐12)。
資料‐9
付箋を操作して話し合う様子
資料‐10
資料‐12
一番大切なことを
話し合う様子
資料‐11
座標軸による
整理・分析
交流前と交流後の考えの変容
また,振り返りでは,交流で自分とはちがう視点に気付いたことを実感した感想や,自己の
生き方につながるような感想が多く見られた(資料‐13)。
総‐9
資料‐13
交流後の振り返り
(3) 考察
本単元では,福祉について多様な見方・考え方をし,意識を高め,自分ができることを考える
児童の姿をめざして学習を進めていった。
KJ 法で整理・分析したことにより,調べたバリアや,バリアフリーやユニバーサルデザインが
多いこと,自分が調べていなかったものがまだたくさんあったことなどに気付き,感想を出し合
うことで次時への課題や見通しをもつことができていた。したがって,KJ 法を活用した交流活動
は,多様な見方・考え方につながる思考ツールとして有効であったと考える。しかし児童にとっ
ては「何のために交流活動をするのか」という目的意識が明確ではなかったことが課題として挙
げられる。実際に,教師としては,次の課題につなげるため,自己の生き方につなげるためとい
う明確なねらいがあったが,児童にとって交流前の目的は「たくさん調べたから整理してみよう」
という程度のものであった。児童に明確な
資料‐14
目的意識をもたせることができれば,交流
活動がさらに活発になり,ちがう視点や考
え方にも気付くことができたのではないか
と考える。
座標軸を用いた交流活動では,交流活動
前に個人の考えを付箋に書き,特に大切だ
と思うことは学習プリントに書いている。
児童は,これをもとに整理しながら考えを
交流していった。交流前の考えとして多か
ったのは,「スロープを増やす」「すべて
の道に点字ブロックをつける」「音の出る
信号機をつける」「点字のついた商品をふ
やす」など,品物や施設に関する考えであ
った。「困っている人を助ける」など人の
行動について書いている児童はグループに
一人程度であった。交流後には,人が行動
することのよさに気付いた児童が多くいた
(資料‐14)。よさに気付いた児童は,「困
っている人に声をかけたい」「自分にでき
総‐10
交流後の振り返り
ることがしたい」と行動化への意欲を見せていた。始めからそのよさに気付いていた児童も,自
分の生活を振り返るきっかけとしていた。このように,交流によって自己の生き方につながる課
題を意識することとなり,座標軸を活用した交流活動は,多様な見方・考え方につながる思考ツ
ールとして有効であったと考える。しかし,本実践では,座標軸の視点を教師側から提示しての
交流活動となってしまった。視点を児童同士で話し合って決めることができれば,より意識は高
まったのではないかと考える。
本単元の学習前と学習後にとったアンケートで
資料‐15
学習前と学習後のアンケート比較
資料‐16
学習前と学習後のアンケート比較
は,「調べたことに対して自分の考えをもつこと
ができますか」という質問に対し「よくできる」
「できる」と答えた児童は 68%から 87%になり
20 ポイント以上上がった(資料‐15)。これは,
交流前に個人で考えたことを学習プリントや付箋
に考えを書き,交流後に同様に変容した考えを書
いた成果であると考える。自分で交流前と交流後
を比べることができ,児童は自分自身の変容を感
じやすかった。さらに,「交流を通して,自分の
考えが変わったり,考えを確かめられたりしたこ
とがありますか」という質問に対し「よくある」
「ある」と答えた児童は 56%から 79%になりこち
らも 20 ポイント以上上がっており(資料‐16),
児童自身が交流の有用性を実感していることが分
かる。これは,思考ツールを用いて交流の視覚的
にとらえやすくしたこと,交流前と交流後に同じ
ように考えを書いて変容を確認したことによる成果であると考える。
本単元では,整理・分析以外でも,多様な見方・考え方につながるように様々な体験活動を行
っている。例えば,福祉体験や地域での実地調査,ゲストティーチャー(社会福祉協議会の方)
にユニバーサルデザインの日用品を紹介していただいたことなどは,関心を高め意欲をもって学
習を進める上で有効であったと考える。実際に,総合的な学習の時間以外にも,自学で調べてく
る児童や地域を見て感じたことを日記に書く児童も多くいた。また,ゲストティーチャー(地域
に住む障がいがある方)と出会い,その生きる姿勢や「少しの手助けが大きな助けになる」とい
う言葉に,さらに意識を高めた児童もいた。多くの児童は,自分の生活を振り返ることで「困っ
ている人がいたら勇気を出して声をかけます」「これから人のことを気にかけていきたいです」
「今までスロープの所でボール遊びをしていたから,もうしません」など,意識が高まってきて
いる様子がうかがえた。これらの学習活動があったからこそ,思考ツールを活用した交流活動が
充実し,自己の生き方を考えることにつながったと考える。
以上のことから,整理・分析における思考ツールの活用は,多様な見方・考え方ができる児童
の育成に有効であったと考える。
総‐11
2
小学校第5学年
(1) 単元名
研究の実際と考察
「お米博士になろう」
本単元は,米に対して多様な見方や考え方ができることをねらった。高い栄養価があることや様々
な料理や加工品があり,いろいろな食べ方を楽しむことができる食品であること,土地や気候に適
した多くの品種が開発されていることなど,米には優れた点が数多くある。学習を通して,これら
の価値に気付かせたいと考えた。そのために,まず,米について知っていることをウェビングマッ
プに書き出して興味関心に基づいた課題を設定させた。そして米の品種や生産地,栄養,日本の米
料理,世界の米料理,加工品などについて調べさせ,同じ課題について調べた児童のグループで交
流させた。そして,異なる課題について調べた児童のグループで新たな課題について探究させた。
最後に,自己の生き方につながる課題「お米博士としてこれから頑張りたいこと」について考えさ
せることで,米を大切にしようとする態度を養うことをめざした。単元構成は次に示す通りである
(図‐3)。
(全 13 時間)
<興味関心に基づく課題の設定> 「お米博士になるために,お米について調べよう。」
米について知っていることをウェビングマップに書き出して興味関心を高め,個人の課題を設定する。
(2時間)
<情報の収集>
お米○○博士になるために(○○には個人の課題を当てはめる),米の品種,生産地,栄養,日本の米料理,
世界の米料理,加工品などについて個人で調べる。
(2時間)
<整理・分析①>
KJ 法 を用い,個人で集めた情報を同じ課題について調べた児童のグループで整理・分析する。(2時間)
<まとめ・表現>
お米○○博士として,個人でミニ新聞を作成する。
<新たな課題の設定>
(1時間)
「みんなで協力してお米博士になろう。」
<情報の収集>
友達の発表を聞いて,お米博士になるために必要な情報を集める。
<整理・分析②>
新聞に書く内容を話し合うために, ピラミッドチャート
プで整理・分析する。
(1時間)
を用い,異なる課題について調べた児童のグルー
(2時間)
<まとめ・表現>
お米博士として,異なる課題について調べた児童のグループで新聞を作成する。
(2時間)
<自己の生き方につながる課題の設定> 「お米博士として,これからがんばりたいことを考えよう。」(1時間)
お米ってすごい!お米を大切にしよう。みんなにもお米を残さず食べてほしい。
図‐3
単元構成
総‐12
(2) 指導の実際
ア
KJ 法を用いたグループでの交流活動
(ア) 思考ツールの選定
○○博士グループ
整理・分析①では,同じ課題について調べた
児童のグループで収集した情報を交流すること
見出し
を通して,お米○○博士になるために必要な情
付箋(青)
報を整理し,新たな課題へつなげることをねら
付箋(青)
いとした。
前時までに児童は主に書籍やインターネット
気付いたこと
付箋(赤)
付箋(赤)
付箋(赤)
付箋(青)
を使って情報を収集していた。児童が収集した
図‐4
KJ 法による分類
情報の内容や量を見ると,品種や料理の名前ばかりを調べて一つ一つの内容まで詳しく調べる
ことができていなかった。また,情報量が少ない児童が多く,児童自身も「自分はまだ博士と
はいえない」という意識をもっていた。
そこで,グループでの交流を通して,十分な情報を得た上で,お米○○博士としての考えを
もたせたいと考えた。その際,思考ツールとして KJ 法を選定した(図‐4)。なぜならば,
KJ 法を用いた交流活動を行うと,仲間分けしたまとまりの数を見て情報の種類が増えたことを
確認できるとともに,付箋を見て情報の数が増えたことが分かりやすいと考えたからである。
また,課題によって情報の量や種類にもばらつきがあったため,仲間分けするまとまりの数を
設定せずに活動することができる KJ 法が適していると考えたからである。
(イ) 活動内容
前時に児童は,自分で調べたことを付箋に書いて個人で仲
資料‐17
活動の様子
間分けをした。本時では,同じ課題について調べた児童のグ
ループで,付箋を画用紙に貼りながら,調べたことを一人一
人発表していった。全ての児童の発表が終わったら,同じ内
容の付箋を重ね,仲間分けして近くに貼り,まとまり毎に見
出しをつけていった(資料‐17)。整理が終わったグループ
は画用紙を見て気付いたことを付箋に書いて出し合った。
(ウ) 児童の様子
世界の米料理について調べたグループでは,料理
資料‐18
KJ 法で分類した付箋
の作り方に着目した児童が多く,「麺料理」「炒め
料理」「煮込み料理」などに分類が進んでいった(資
料‐18)。仲間分けしている途中で,調理法につい
て調べていなかった児童が書いていた料理が分類で
きずに「?」のまとまりが登場した。
交流を通して,児童は自分一人で調べたことより
も情報が増えたことを実感していた(資料‐19)。
しかし,作り方がわからない料理があることに気付いて,もっと詳しく調べたい,と感じた児
童もおり,昼休みや自学で調べなおしている姿が見られた。
総‐13
資料‐19
イ
交流後に書いた学習プリント
ピラミッドチャートを用いたグループでの交流活動
(ア) ツールの選定
整理・分析②は,一つ目の課題で異なる課題について調
べた児童のグループで行った。それぞれの課題で集めた情
見出し
報をまとめて新聞を作るための話し合い活動を通して,自
小見出し
分が集めた情報と友達が集めた異なる視点の情報から,共
記事の内容
通する内容を見つけることを通して,米に対する自分の考
えを深めることをねらいとした。
米の構造について調べた A 児は,栄養について調べた友
図‐5
ピラミッドチャート
達の発表に着目し,「米は栄養が豊富で,米があるから健康に暮らせる」という考えをもって
いた。しかし,多くの品種があることで生産者にも消費者にも利点があることや,様々な米料
理があり,いろいろな食べ方を楽しむことができることなど,栄養以外の視点にも着目してほ
しいと考えた。
そこで,思考ツールとしてピラミッドチャート(図‐5)を選定した。なぜならば,図形が
単純で「上にいくほど大切」ということが児童にとってもわかりやすいからである。また,異
なる課題について調べた児童のグループで新聞を作る次の課題に向けて,記事の内容を焦点化
でき,見通しをもって話し合いをすることができるためである。
(イ) 活動内容
前時に児童は異なる課題について調べた児童のグループで集めた情報を発表し合い,お米博
士になるために必要な情報を収集している。本時は,次時にこのグループでお米博士新聞を作
るために,記事の内容,記事の小見出し,新聞の見出しについて話し合う場面である。
はじめに,自分の書きたい記事の内容を付箋に書いてグループで発表し,友達から意見をも
らう活動を行った。次に,記事の小見出しを付箋に書いて話し合い,最後にそれぞれの記事の
内容と小見出しを見て新聞の見出しを話し合った。
(ウ) 児童の様子
記事の内容について考える活動では,「香り米というポップコーンのような香ばしい香りが
する米」「九州地方と中国地方の米料理」など,それぞれの児童が書きたい内容について自由
に書いており,互いの記事について交流する様子はあまり見られなかった。
記事の小見出しについて考える活動では,「読む人に興味を持って読んでもらえる小見出し
にしよう」と話しながら活動していた。「すごいぞ!日本の米料理」や「品種いっぱい」「種
類いっぱい」など,お互いにアイディアを出し合いながら,記事の内容から米のいいところを
総‐14
焦点化していた。
新聞の見出しについて考える活動では,班全員の記事の小見出しから一人一人が案を考えて
付箋に書き,画用紙に貼って話し合いを行った。一度は,米は栄養が豊富で,品種がたくさん
あるため好みに合わせたものが選べることから「お米はいいこと無限大」という見出しに決ま
った。しかし,「それではもみの構造について調べた A さんの記事に合わない」という意見が
出て,
「お米は奥が深い」という見出しをつけ加え,
「お米は奥が深い!!いいこと無限大!!」
という見出しをつけていた。
(3) 考察
整理・分析①の活動に当たっては,児童が前時に個人で仲間分けして付箋を貼ったプリントを
教師がスキャナで取り込み印刷しておいた。最後にそのプリントを配布してグループで付箋を貼
った画用紙と比較することは,情報が増えたことや,自分にはなかった仲間分けの新しい視点に
気付く上で有効であったと考える。しかし,活動の途中で,なぜ付箋を使うのか疑問に感じた児
童もいた。児童が付箋を用いた交流活動の目的を理解して活動できなかったことが課題として挙
げられる。
整理・分析②では,ピラミッドチャートを用いたことで,新聞記事の内容から新聞の見出しを
決めるという活動の見通しをもって児童が話し合いをすることができた。話し合いで決定した付
箋を枠の中に動かしたり,内容を絞り込んでいく時に外した付箋を枠外に動かしたりすることも,
話し合いで決まった内容が一目で確認でき,児童にとって分かりやすかったと考える。友達の調
べたことを聞いた段階で栄養のみに着目していた A 児は,交流後に品種がたくさんあるので好み
に合ったものが選べるということも米の優れた点であるという視点に気付くことができた。ピラ
ミッドチャートを用いた交流活動を通して,米について新たな見方・考え方をしている児童の姿
であると考える。
本単元では,米に対して多様な見方・考え方ができる児童を育てるために,整理・分析の活動
を行った。整理・分析①では,個人での調べ活動を行った上で,一人一人がお米○○博士として
十分な知識を得られるよう,同じ課題について調べた児童のグループで交流活動を行った。整理・
分析②では,友達が集めたちがう視点の情報から,共通する内容を見つけることで,自分の考え
をもつことができるよう,異なる課題につ
資料‐20
いて調べたグループで交流活動を行った。
異なる課題について調べたグループでの
交流後に書いた学習プリント
段階を踏んで少しずつ児童が得る情報を増
やしていったことは,児童が自分にはなか
った見方・考え方に気付く上で効果的であ
った(資料‐20)。
単元の終わりに一人一人の児童にお米博
士認定証を渡して,お米博士としてこれから頑張りたいことを書く活動を設定した。学習プリン
トには,多様な見方・考え方をしてこれからの生活について書いた記述が見られた(資料‐21)。
また,単元終了後に,米の種類について調べていた児童が「どうすれば栄養士になれますか。」
と質問に来たり,給食委員会の児童がご飯の残りが多い様子を見て放送で全校に呼びかけを行っ
たり,それぞれの児童が学んだことをもとにして,多様な見方・考え方をしている様子が見られ
た。
総‐15
資料‐21
お米博士として児童が立てた目標
本単元の学習前と学習後に児童にとったアンケート結果(資料‐22)によると,①集めた情報
を整理・分析すること,②調べたことから自分の考えを持つことについてよくできる・できると
答えた児童の割合が増加していた。
このような成果が得られたのは,整理・分析の場面における思考ツールを活用した交流活動を
通して,情報や話し合いにおける思考の流れが可視化されたことで,児童ができるようになった
という実感をもったためであると考える。
以上のことから,整理・分析における思考ツールの活用は,多様な見方・考え方ができる児童
の育成に有効であったと考える。
資料‐22
学習前後のアンケート結果
(%)
(%)
総‐16
3
小学校第6学年
(1) 単元名
研究の実際と考察
「夢へチャレンジ〜未来自分史をつくろう〜」
本単元は,児童が「自分の夢」に対して多様な見方や考え方ができることをねらいとした。その
ためにまず,夢についてイメージマップをつくらせ,自己の生き方に対する課題意識をもたせた。
次に,身近な人へのアンケーや地域で働く方々へのインタビューを通して,夢に近づくために必要
な生き方を探らせた。さらに,新たな課題では,夢に向かう自分自身の自己分析を通して,よりよ
い生き方を考えさせた。最後に,これまでの小学校での学びを自分史にまとめ,これからの生き方
について考える場面を設定した。単元構成は以下に示す通りである(図‐6)。
(全 16 時間)
<興味関心に基づく課題の設定> 「夢に近づくために必要なことについて調べよう。」
ウェビングマップを用いて,「夢」について考え,インタビューし,興味の持った「夢」について調べる課
題を設定する。
(1時間)
<情報の収集>
興味のもった職業について,概要、内容、方法などを図書資料やインターネットをもとに調べる。(2時間)
<整理・分析①>
X・Y チャート を用いて夢に近づくために必要なことについてグループで整理・分析する。
(1時間)
<まとめ・表現>
調べてきたことを冊子にまとめる。
(2時間)
<新たな課題の設定> 「未来自分史をつくろう。」
(1時間)
<情報の収集>
夢に近づくための,今までの自分とこれからの自分を振り返り, ボーン図
に書き出す。
<整理・分析②>
ボーン図 を用い,グループで自己について整理・分析する。
<まとめ・表現>
夢に近づくための,今までの自分とこれからの自分を未来自分史にまとめる。
(1時間)
(1時間)
(5時間)
<自己の生き方につながる課題の設定> 「自分史発表会をして,これからの自分について考えよう。」(2時間)
夢に近づくために,これから○○に挑戦したい!私のよいところを伸ばしていきたい!
図‐6
単元構成
総‐17
(2) 指導の実際
ア
X・Y チャートを用いたグループでの交流活動
(ア) ツールの選定
整理・分析①では異質グループでの活動であるため,自分
が集めた情報と友達が集めた異なる情報から夢に近づくため
ア
の自己分析の視点を増やすことをねらいとした。
思考ツールとして X・Y チャートを選定した理由は,次の
活動である自己分析の活動において,自己を見つめる視点を
イ
ウ
焦点化していくためであった。さらに,項目を X や Y に仕切
られた3,4個の枠に絞ることで,次の活動も児童にとって見
図‐7
Y チャート
通しのもちやすいものになると考え,X・Y チャートを選定
した(図‐7)。
(イ) 活動内容
資料‐23
活動の様子
前時に「夢に近づくために必要なこと」として,家族や身近な
人に行ったアンケートや,調べ学習で得た必要と思われる視点を
付箋に書き出した。本時は,グループで X・Y チャートを用いて,
付箋を整理し,似た視点はつなげてまとめた(資料‐23)。
(ウ) 児童の様子
個人で付箋に書き出した時には,「努力」「頑張る」「勉強」などの視点が多く挙げられたが,
グループで交流をすると,「前向き」「笑顔」などがまとめられ,「感情」という項目になり,
「勉強」「知識」「試験」などがまとめられ,「専門性」という視点になった。また,学習後の
振り返りでは,自分では見つけられなかった視点が増えたことを実感する感想が見られた(資料‐
24)。
資料‐24
整理・分析①後の振り返りを書いた児童の学習プリント
視点の広がりを
実感する記述
ウ
ボーン図を用いたグループでの交流活動
(ア) ツールの選定
整理・分析②では,個人で自己分析を行った後,他者からの分析の視点を交流することで,自
己分析の広がりや深まりに気づき,「夢に近づくための自分」として自己の生き方への意識を高
めることをねらいとした。
総‐18
思考ツールとしてボーン図を選定した理由は,自己分析
の視点が増えると骨が加えられ,具体例が増えて骨が太く
なることから,自己分析における見方・考え方が深まった
ことを視覚的にとらえやすいためである。さらに,自己と
他者の分析の視点を比較できるため,児童の自己に対する
見方・考え方を多様化する上で有効であると考えボーン図
を選定した(図‐8)。
図‐8
ボーン図
(イ) 活動内容
前時に自己分析を行い,夢に近づくための自分のよさや頑張
資料-25
活動の様子
りについて付箋に書き出した。本時では,それぞれの自己分析
結果を発表した後,グループの人から自分に対する新たな分析
の視点を付箋で受け取った。その際,具体例を加えて交流させ,
整理する際の手だてとした。また,自己分析の項目を整理する
際は,グループの人に似ている項目の分け方を尋ねるなどして
交流させた(資料‐25)。
(ウ) 児童の様子
付箋を用いた個人の活動の際には,夢に近づくための自
資料‐26
分のよさや頑張りについて個人で書き出し,グループで交
流活動を行った後,自分の考えの変化を全体交流で発表さ
せた。A 児は,個人の活動の際には「努力」「挑戦」とい
う2つの視点を書いたが,交流後は「人と接する」ことや
「責任感」「技術」という自己分析の視点が増えた(資料
‐26)。また,振り返りでは,友達との交流を通して,自
分では思いつかなかった自己分析の視点を見つけられたこ
とに活動の意義を感じ,自己の生き方への意識を高めるこ
とができた(資料‐27)。
資料-27
整理・分析②の後の児童の学習プリント
視点の広がりを
実感する記述
自己の生き方への
意識を高めた記述
総‐19
交流後の A 児のボーン図
(3) 考察
本時では,多様な見方・考え方ができる児童を
育てるために,個人で自己分析を行った後,ボー
資料-28
整理・分析②の後の児童の振り返り
〈B 児〉
〈C 児〉
ン図を用いて整理・分析を行った。個人の活動の
際には,夢に近づくための自分のよさや頑張りの
視点を3つ以下しか書き出せなかった児童が,全
体の 64.5%だったが,交流後一人あたり平均で
3.24 個の視点が増えた。交流活動でボーン図を用
いたことは,個人ではなかなか自己分析が行えな
かった児童が,友達から自分に対する新たな見方
や視点を得たことで,自分にはなかった見方・考
え方に気付く上で効果的だった。B 児は,自分では4つの視点で自己分析をしたが,グループでの整
理・分析を行い,「努力」や「友達思い」という項目が増えたことで,交流活動のよさを感じた。ま
た C 児は,交流活動を通して,警察官という夢に必要なことを見つめ直し,自己の生き方に結びつけ
た(資料‐28)。しかし,一方でボーン図を用いたことにより,骨となる新たな視点を増やすことに
とらわれ,同じ考えや項目をまとめるための話し合いが活発にならなかったことが課題として残った。
本単元の学習前と学習後に児童にとったアンケ
ート結果(資料‐29)によると,「交流を通して
自分の考え方が変わったり、自分の考えが確かめ
資料-29
単元後のアンケート結果
(%)
られたりしたことはありますか。」という項目に
ついて,「できる」と答えた児童が 78.8%から
90.9%に増加した。また将来の自己の生き方を記
述する項目では,学習前には「普通の大人になり
たい。」「いい人になりたい。」といった抽象的
な記述が多く見られたが,学習後には,「責任感
のある人」「誰からも信頼される人」「人を助け
られる人」「笑顔の絶えない人」など,具体的な記述が見られた。
また単元の終末では,自己の生き方を考える場面として未来自分史を作る活動を行った。単元始め
に,ウェビングマップを用いた思考の可視化の際には,夢や生き方について,「不安」や「心配」と
イメージマップに表現していた児童が,「弁護士」という夢に向かって,これまでの自分の学びを振
り返り,これからの自分の生き方について,足りない所を伸ばそうとする記述が見られた。
さらに,卒業文集の作成において,将来の夢について記述する際に,具体的な職業を挙げ自己のよ
さや努力している点などを書いた児童は 98%いた。このような成果が得られたのは,学習対象である
「夢」についての思考を可視化したこと,また夢に近づくために必要なことを,グループで整理・分
析したこと,さらには「夢に近づくための自分」として,自己分析を行い自己に対する見方や考え方
を深めたことの成果であると考える。
以上のことから,整理・分析における思考ツールの活用は,多様な見方・考え方ができる児童の育
成に有効であった。
総‐20
4
中学校第2学年
(1) 単元名
研究の実際と考察
「私の生き方探究(職場体験学習を通して)」
本単元では,これからの自分自身の生き方について考えていく中で,働くことに対して多様な見方
や考え方ができることをねらった。そのために,まず,課題解決の視点をもって職場体験に臨めるよ
う,「SWOT 分析」(自分の考えや他者の考えから自分自身の強み,弱みをふまえ,できることと努
力しなければならないことを整理する)を活用して自分自身を見つめさせ,課題を設定させた。
「SWOT
分析」を活用することで,自分自身では気付くことのできない課題を,他者の考えを聞くことで気付
くことができると考えた。そして,職場体験では,課題解決を意識しながら職場で感じた課題を発見
できることをめざして情報を収集させた。さらに,課題を日常生活で意識することが,今後の自分自
身にとって重要であることを実感できるよう,整理・分析をさせていった。最後に,自己の生き方に
つながる課題の設定をし,自己実現をめざすことができるようにした。単元構成は以下に示す通りで
ある(図‐9)。
<まとめ・表現> 1年次
社会人講話や自分史作りを通して,様々な立場から社会を支えることについて考える。
(全 24 時間)
<新たな課題の設定>
「職場体験を通して,自己の生き方を探究しよう。」
職場体験学習の意義について確認し,職場体験学習に向けてマナー学習を行う。SWOT 分析を用いて職場体験
学習に向けて自分自身の「できること」と「課題」について分析し,課題を設定する。
(2時間)
<情報の収集>
(12 時間)
職場体験学習を通して,体験学習及びインタビューを行い,
「働くために大切なこと」について情報収集を行う。
<整理・分析>
「働くために大切なこと」について, カード化した付箋を用いて個人で整理し, X・Y・W チャート を用い
てグループで意見交流する。
(6時間)
<まとめ・表現>
まとめのポスターで,これからの生き方に対する課題を発表する。
(3時間)
<自己の生き方につながる課題の設定>「自分自身の生き方に対する課題に取り組みながら自己実現を目指そう。」
(1時間)
自己実現を目指した進路選択ができるようになろう!
図-9
単元構成
総‐21
(2) 指導の実際
ア
X・Y・W チャートを用いたグループでの交流活動
(ア) 思考ツールの選定
本単元における整理・分析では,職場体験学習を通して,感じた
ことや聞いたことをもとに得た情報の中から「働くために大切なこ
と」について意見交流を行い,その中から自分自身の課題を考える
ことをねらいとした。
職場体験学習後に生徒が整理した「働くために大切なこと」とし
ては,「あいさつ」「礼儀」「笑顔」などが多数で,職種による専
門的なキーワードを挙げている生徒は少数であった。
そこで,思考ツールとして X・Y・W チャートを選定した(図‐
10)。X・Y・W チャートは,視点を決めて情報を3~5項目で整
理する時に活用する思考ツールである。生徒の実態から,多くの行
動目標を設定しても実際に課題解決に向けた取り組みが伴わず,3
~5項目に設定する必要がある。そのため,「働くために大切なこ
図-10
X・Y・W
チャート
と」も3~5項目で整理することが適切であると考え,この思考ツールを選定した。また,
生徒自身が交流を進めながら項目の数を決めることができるよさがあることも選定の理由で
ある。
(イ) 活動内容
まず,職場体験学習で得た情報の中から,「働くために大切なこと」という課題について
キーワード化し,付箋に記入させた。そして,X・Y・W チャートを活用して,キーワード
化されたものを分類し,各項目にタイトルを付けた。学習の最後に,グループでの交流活動
で深まった見方・考え方を生かして,自分自身のこれからの生き方に対する課題とその課題
を解決していくための行動目標について考えさせた。
(ウ) 生徒の様子
資料‐30
グループ発表の様子
交流が始まると,生徒は「働くために大切なこと」
について発表しながら付箋を画用紙に貼っていた(資
料‐30)。キーワード化した付箋を提示するだけでな
く,相手に分かるようにエピソードを説明したり,質
問されたことに答えたりしていた。
どの職種を体験した生徒も「あいさつ」
「言葉遣い」
といったものを挙げていた。しかし,クラス全体での
交流では,同じ「あいさつ」でも「礼儀」「思いや
り」「基本」「心構え」と位置付けた項目が異なっ
ていた。X チャートを用いて4項目に整理した班は,
公共の施設で体験を行った生徒の意見を聞いて,
「同じ職場で働く方々への礼儀」として分類してい
た。Y チャートを用いて3項目に整理した班は,介
護施設で体験を行った生徒の意見を聞いて,「コミ
ュニケーション」として分類していた。W チャー
総‐22
資料‐31
Wチャートによる整理・分析
トを用いて5項目に整理した班(資料‐31)は,幼稚園・保育園で体験を行った生徒の意見
を聞いて,「気持ち」という項目に分類していた。
生徒は交流後にどのような生き方をするかについて書き,行動目標を設定した。自分自身
ができていないことや相手に対する気持ちで足りないこと,行動力などを自己分析し,今回
の学習で考えた課題と結び付けて具体的な行動目標を設定することができていた。以下に生
徒が書いた行動目標を示す(資料‐33)。
資料‐33
生徒の感想より「新しい課題について」
(4) 考察
本単元では,「働くために大切なこと」について多様な見方・考え方をし,生き方に生かす生徒
の姿を目指して学習を進めてきた。事前に個人の活動でキーワード化した付箋(資料‐32)を用い
て交流を行ったことで,自分の考えを明確にし分かりやす
資料‐32
キーワード化した付箋
く表現できた。キーワードが書かれた付箋を提示するだけ
でなく,相手に分かるようにエピソードを説明したり,質
問されたことに答えたりすることで,自分の考えを整理す
る機会となったと考える。思考ツールを活用した交流活動
によって,生徒は自分自身の考えを再確認するだけでなく,
新たな視点に気付くこともできた。この学習活動を通して,
自分自身の生き方に対する課題が具体的になり,自己実現
に向けて具体的な行動目標として設定されたことで,今ま
での生活態度から明らかに変化が見られる生徒が多くなった。
本単元の学習前後に生徒にとったアンケート結果によると,「学んだことを通して,生活や生き
方について考えることがありますか。」という質問に対して「よくある」「ある」という回答をし
た生徒が約5ポイント上昇した(資料‐34)。このことから,SWOT 分析を行い自分自身の課題を
総‐23
明確にしてから職場体験活動に臨んだことや,整理・分析の場面において,思考ツールを用いた交
流活動を実践したことで「働くために大切なこと」について多様な見方・考え方ができるようにな
り,自分自身の生き方に対する確かな課題を発見できたことが表れたものと考えられる。
資料-34
生徒アンケート集計結果より
〈事前〉
〈事後〉
また,「交流を通して,自分の考えが変わったり,自分の考えが確かめられたりしたことがありま
すか。」という質問に対して,
「よくある」と回答した生徒が,10 ポイント以上増加した(資料‐35)。
このことから,思考ツールを活用した交流活動を行ったことで,多くの生徒が仲間の見方・考え方を
知って考えの変容を実感したり,自分自身の考えを確かめたりできたことがわかる。しかしながら,
さらに学習の効果を高めるためには,生徒が主体的に思考ツールを活用できるよう,生徒の発達段階
に合わせて学習を重ねることが必要であると考える。
資料-35
生徒アンケート集計結果より
<事前>
<事後>
これまでの職場体験学習においては,報告会などに重点を置いていた。そのため,単元終了後も体
験学習で得た課題を意識して行動する生徒の姿が少ないように感じていた。本実践で,職場体験で得
た情報について「働くために大切なこと」をキーワード化して付箋に記入させ,思考ツールを活用し
て交流活動を行うことにより,これからの「生き方」に対する課題を多様な視点から見いだし,課題
解決に取り組む生徒の姿が今まで以上に多く見られた。
以上のことから,整理・分析における思考ツールの活用は,多様な見方・考え方ができる生徒の育
成に有効であったと考える。
総‐24
第Ⅲ章
1
研究の成果と課題
成果
今年度は,児童生徒像として「交流活動を通して,自分とはちがう視点に気付き,学習対象への
見方・考え方を深めることができる」を設定し,「整理分析における思考ツールを活用」した交流
活動を手だてとして実践を行った。その成果として以下の4点を挙げる。
(1) 自分の考えを明確にし、分かりやすく表現できた。
自分の考えを付箋やカードに書きこむことで考えをキーワード化して分かりやすく表現できた。
単元終了後のアンケートの結果では,「調べたことに対して自分の考えをもつことができますか」
という質問に対し「よくできる」「できる」と答えた児童生徒は 75.3%から 84.9%に増加してお
り,自分の考えを視覚的にとらえやすくしたことで,児童生徒も実感できていることが分かる(資
料‐36)。
また,その付箋やカードを用いて交流活
資料-36
整理・分析における児童生徒の意識
動を行うためには,他者に分かるよう説明
する必要があり,発言したり質問されたり
することは,自分の考えを整理する機会と
なっていた。自分で調べたことから考えて
完結してしまうのではなく,考えをキーワ
ード化した後,相手に説明する際に自分の
考えを明確にしたことで,分かりやすく表
現できるようになったと考える。
(2) 見通しをもって交流活動ができた。
思考ツールを使うことにより交流の内容や流れを視覚的にとらえることができ,児童生徒にと
って分かりやすい交流活動になった。また,交流活動の目的や方法(共通のものをまとめて分類す
る・グループの意見を一つに決めるなど)が明確になったことも見通しをもつことにつながった。
それらが児童生徒にとって明確でなければ,ただ考えを出し合うだけになっていたであろう。児
童生徒にとって交流の目的や方法が明確になることで交流が活発になり,考えを深めることにつ
ながったと考える。
(3) 付箋やカードを用いて操作することで,考えを見直しながら交流活動ができた。
思考ツールを活用するにあたり,自分の考えを付箋やカードに書いて交流活動を行った。そう
することで,一度決めたことでも再度見直して違うカテゴリに動かすことが可能となり,考えの
出し合いに留まることがなくなり,交流が活発になった。その結果,過程で様々な意見が出され,
自分とはちがう視点に気付き,考えを深め,よさに気付くことができていた。
(4) 自分の考えを客観的に見ることができた。
視点をもとに自分の考えを見直すことで,自分の考えの良い点や不十分な点を見直すことがで
きた。自分の意見を一度客観的に見ることができたからこそ,自分の考えに固執することなく相
手の考えを受け入れ,交流後に自分の考えを再構築することができたと考える。実際に,各実践
において,交流によって考えが確かめられて自信をもったり考えが変わったりする児童生徒が多
かった。単元終了後のアンケートの結果を見ても,「交流を通して,自分の考えが変わったり,
自分の考えが確かめられたりしたことがありますか」に対して「よくある」「ある」と答えた児
童生徒は 69.8%から 82.5%に増加している(資料‐37)。
総‐25
以上4点は,整理分析において思考ツール
資料-37
を活用したことにより得られた多様な見方・
交流活動による学習対象への児童生徒の
意識の変容
考え方ができる児童生徒の姿である。同じ情
報でも整理の仕方や視点が違うことに気付く
と,多様な見方・考え方を意識することがで
きる。
これらのような児童生徒の姿が見られたの
は,整理・分析の場面に思考ツールを活用し
た交流活動を適切に位置付けたからである。
単元を通して多様な見方・考え方ができる児童生徒を育てる総合的な学習の時間の在り方に迫
ることができたと考える。
2
課題
(1) 思考ツールを活用するための指導計画の作成を検討する必要がある。
本年度の研究では,整理分析の場面における思考ツールを活用した交流活動により,多様な見
方・考え方ができる児童生徒の育成に迫ることができた。また交流活動において,普段は自分の
考えを上手く話せない児童生徒も,活発に意見を述べることができ,様々な視点を得て考えを深
める機会となった。児童生徒が思考ツールを活用した交流活動に慣れて使いこなすことができる
ようになれば,交流はさらに深まるであろう。そこで,思考ツールを活用するための指導計画を
作成し,発達段階や学年に応じた交流活動を段階的に行うことで,より充実した総合的な学習の
時間の在り方に迫ることができると考えた。
(2) 交流活動における目的意識をもたせるための,さらなる手立ての工夫が必要である。
本実践において児童生徒は,思考ツールを活用した交流活動自体には意欲的であったが,「何
のための活動なのか」という目的意識が低かったことが課題として残った。交流活動の目的意識
をもたせるための,さらなる手立ての工夫を行うことで,より主体的に学ぶ児童生徒の姿に迫る
ことができると考えた。
総‐26
資料等
参考文献
1
文部科学省
小学校学習指導要領解説
総合的な学習の時間編
開隆堂出版
2
文部科学省
今,求められる力を高める総合的な学習の時間の時間の展開
(平成 20 年)
教育出版
(平成 22 年)
3
田村 学・黒上 晴夫
考えるってこういうことか!「思考ツール」の授業
小学館
(平成 25 年)
4 田村 学・堀田龍也 思考ツール 関大初等部式思考力育成法 実践編 さくら社
(平成 25 年)
5 田村 学
総合的な学習 授業づくりハンドブック 東洋館出版社
(平成 24 年)
研修員
吉
田
美
香
(飯倉小学校教諭)
峰
原
沙
織
(香椎下原小学校教諭)
安
藤
秀
樹
(高取中学校教諭)
井
上
聡
美
(板付北小学校栄養教諭)
研究指導者
津
川
裕
山
村
俊
(福岡教育大学教授)
介
(主任指導主事)
総‐27
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