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変わりゆく情報社会に参画する態度を育成するための授業研究

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変わりゆく情報社会に参画する態度を育成するための授業研究
変わりゆく情報社会に参画する態度を育成するための授業研究
―インターネットを安全に利用するための,チェックシート作りの活動を通して―
岡山県立児島高等学校
教諭
藤
井
真
治
研究の概要
情報社会に参画する態度を育成するためには,情報社会の光と影の部分をバランスよく理解させること
が重要である。しかし,実際の授業の中ではインターネット等の仕組みや安全性への対策についての理解
がなされないままに危険性だけが強調され過ぎてしまう傾向が強い。本研究では,インターネット等の危
険性に関する影の部分の学習の前にあらかじめその仕組みを正しく理解する学習を計画的に実践し,生徒
が自主的に適切な方法でチェックする視点を養うことで,インターネットの危険性に配慮しながら安全に
利用しようとする態度が育成されるのではないかと考えた。
本研究において,事前に行ったインターネットやネットワークに関する授業と関連付けながら,影の部
分の学習を進めることで,インターネットの危険性を正しく認識し,安全に利用しようとする態度へと変
容する傾向が見られたので報告する。
[キーワード] 情報社会に参画する態度 光と影のバランス チェックシート
1
はじめに
ることのできる授業を目指し,本主題を設定した。
情報社会の進展には目覚しいものがあり,様々
2
な情報が世の中にあふれている。そうした中で,
インターネット等の仕組みの知識・理解を基に,
情報倫理教育や情報安全教育の実施は急務となっ
自主的に行うインターネット等の安全性を確認で
ており,「ポスト 2005 における文部科学省のIT
戦略の基本的な考え方」(文部科学省)
1)
研究の目的
では情
きるチェックシート作りの活動が,情報社会の光
報化の影の部分への対応が一つの柱とされている。
と影の部分をバランスよく理解し,インターネッ
また,「情報教育の実践と学校の情報化」(文部科
トを安全に利用しようとする態度を身に付けるこ
学省)
2)
の中で,「情報社会に参画する態度」の
とに有効であるかを検証する。
育成は,
「社会生活の中で情報や情報技術が果たし
ている役割や及ぼしている影響を理解」すること
3
研究内容
から始まり,光の部分と影の部分の両面を常に考
3.1.仮説
影の部分の学習を行う前にあらかじめインター
慮することが必要であると記載されている。
高等学校教科情報で情報安全教育に関する内容
ネットやネットワーク等の仕組みに関する学習を
を取り扱う場合,実際の事例を挙げてインターネ
体験的に行い,正しい知識を習得させる。その後,
ットの危険性を解説することは,生徒の理解を深
影の部分の学習において,事前に得た知識により
めるのに有効である。しかし,それによって情報
Web ページをチェックする学習活動によって,光
社会の光の部分である利便性を生かす姿勢が持て
の部分である利便性を見失うことなく光と影のバ
ず,インターネットは危険なものと印象付けてし
ランスのとれた学習が行われ,インターネットを
まう傾向がある。
安全に利用しようとする態度が育成されるのでは
ないかという仮説を立てた。
そこで本研究では,インターネットやネットワ
3.2.研究計画
ークの仕組みに関する学習と影の部分の学習を関
連付けながら判断する力を主体的に身に付けるこ
授業は岡山県立児島高等学校普通科第2学年
とにより,影の部分に惑わされることなくインタ
(42 名)で行った。対象クラスはすでに第1学年
ーネットを安全に利用しようとする態度を育成す
のとき,普通教科「情報」を1単位履修しており,
-1-
今年2年目に入るクラスであり,コンピュータの
や参考資料等から気付くように指導した。
操作に慣れていることやインターネット利用の経
生徒の記述を見ると,個人情報が簡単に漏洩し
験があること等を考慮しながら研究計画を立てた
てしまうことを体験したにもかかわらず,「驚い
(表1)。
た」とか「個人情報は答えづらい」といった体験
の感想の部分が多くを占めた。
「危険性を克服して,
表1
このように利用していこう」といった積極的な態
研究計画
度を表す記述はほとんど見られなかった。
この結果を踏まえ,本実践では次の2点を手立
てとして取り入れた。
○
Web 上での体験の前に行うインターネ
ット等の仕組みの知識・理解の習得
○
生徒自身が行うチェックシート作りの
活動
3.3.単元計画
高等学校学習指導要領解説情報編3)で「情報A」
の情報化の進展が生活に及ぼす影響の中で,
「情報
化の進展が生活を充実させ便利にしてきたことを
認識させるとともに,それに伴い生じてきた問題
について触れる」と示されている。本研究では,
次に示す第4単元の「未来に向けて」の中で実施
した。
第4単元
第一次
未来に向けて
メディアの発達と仕組み
第1時
図1
メディアの発達
技術革新が与えた影響
第2時
5
コンピュータの仕組み
と共通鍵暗号方式及び公開鍵暗号方式をモデル化
第二次 ITがひらく 21 世紀
した教材を用いて学習し,ディジタルコンテンツ
社会・生活の変化
で知識の定着を図った。
情報化の光と影
第2時
本実践の流れ
本実践(第一次・第2時)では,パケット通信
通信ネットワークの仕組み
第1時
プレ実践から本実践へ
本実践(第二次・第1時)では,体験用の Web
ひかり輝く未来に向けて
ページを使って,安全性を確認するためのチェッ
クシート作りの活動を行った。ここでは,自分の
4
プレ実践
作成したチェックシートの内容を班で検討する等
プレ実践では,あらかじめ教材として自作した
して仕上げていった。
「信頼性を欠いた Web ページ」上でアンケートに
なお,本実践の前後で行ったアンケートの項目
答える疑似体験の実習を通して,個人情報の重要
については次の表2に示す。アンケートの後半部
性やインターネットの危険性について学習した。
分は知識・理解を問うテスト形式にしている。
生徒には注意すべき点を伝えず自由に回答させた
後に,個人情報の取り扱い方や Web ページの信頼
性・安全性の観点から注意すべき点を教師の発問
- 26 -
表2 アンケート項目
問1
4-9
いると思いますか。
ネットショッピングについて,あてはまる数字を一つ選んで
番号に○印をつけてください。
1-1
ネットショッピングで買い物をしたことがありますか。
1-2
ネットショッピングは便利だと思いますか。
1-3
ネットショッピングで買い物をするのは危険だと思います
1-4
1-5
4-10
はじめて利用しようとするWebページはまずは疑ってみま
すか。
4-11
将来,店頭でクレジットカードを使ってみたいと思います
か。
か。
4-12
パケット通信について理解していますか。
安全面について十分に配慮がなされているネットショッピ
4-13
情報の暗号化について理解していますか。
ングならば,買い物をしたいと思いますか。
4-14
公開鍵暗号方式と共通鍵暗号方式について理解していま
すか。
あなたはネットショッピングでクレジットカードの番号を入力
して,買い物をしたいと思いますか。
問2
インターネットを利用するとき,安全面について気にかけて
4-15
ネットオークションについて,あてはまる数字を一つ選んで
個人情報を送信するときに用いられる SSL の仕組みにつ
いて理解していますか。
番号に○印をつけてください。
問5
次の質問について答えなさい。
2-1
ネットオークションに参加したことはありますか。
5-1
次の中で,ネットショッピングを利用する際に一般的に必
2-2
ネットオークションは役立つと思いますか。
要でないと思われる個人情報はどれだと思いますか。一
2-3
ネットオークションは危険だと思いますか。
つ答えなさい。
2-4
安全面について十分に配慮がなされているネットオークシ
1.氏名 2.住所 3.家族構成
ョンならば,参加したいと思いますか。
4.クレジットカードの番号 5.電話番号
問3
チャットについて,あてはまる数字を一つ選んで番号に○
5-2
印をつけてください。(携帯電話も含む)
3-1
チャットに参加したことはありますか。
3-2
チャットは役立つと思いますか。
ネットショッピングにはどのようなお金の払い方があります
か。
5-3
ネットショッピングを利用しようとしたとき,「安全性」「信頼
性」はどこを見て判断しますか。
3-3
チャットは危険だと思いますか。
5-4
ネットショッピングのメリットは何ですか。
3-4
安全面について十分に配慮がなされているチャットなら
5-5
ネットショッピングのデミリットは何ですか。
ば,参加したいと思いますか。
5-6
暗号化(SSL)されていることは何を確認すればわかります
問4
か。2つ書きなさい。
次の質問について,あてはまる数字を一つ選んで番号に
5-7
○印をつけてください。
インターネットは安全面を十分に配慮したといっても,けし
4-1
あなたはコンピュータが好きですか。
て100%安全というわけにはいきません。その理由を述
4-2
インターネットのしくみについて,勉強したいと思います
べなさい。
5-8
か。
4-3
か。
最近,ネット犯罪が多発していますが,あなたはそのことを
取り扱ったニュースや記事に関心がありますか。
4-4
4-5
ネットショッピングを利用する上で,注意することは何です
5-9
インターネット(携帯電話を含む)を利用した便利なものは
インターネットを使った便利な生活をしてみたいと思います
たくさんあります。あなたは積極的に何をどのように利用し
か。
たいか書きなさい。
世の中によく知られている Web ページに書かれている情
報はほぼ正しいと思いますか。
6
4-6
Web ページの安全性を考えながら,利用していますか。
6.1.インターネット等の仕組みの理解
4-7
ネットショッピングを利用するときには,代金の支払いシス
(1) 学習のねらい
テムや方法について,よく考えますか。
4-8
本実践
○ 「パケット通信」では,パケットの仕組
あなたは個人情報を入力して,送信しなくてはならない状
み及び通信方法を理解し,通信システムに
況にあるとします。
ついて基本的な概念を形成する。
この Web ページは個人情報を暗号化して送信できるように
○ 「暗号化」について,基本的な概念を形
なっています。どうしますか。
成し,共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式等
の具体的な仕組みを理解する。
- 27 -
(2) 授業展開
a.パケット通信
一つの言葉「こんにちは」をパケットの仕組み
を考慮した5枚のカードに分割したものを作り,
それぞれを別々に送る動作をすることで,
「パケッ
ト通信」の仕組みについて基本的な概念を形成し
た。図2はその時の授業の様子と教材に用いた5
枚のカードである。
図4
送信方法の実演場面
最後にまとめとして,作成したディジタルコン
テンツを用いて説明を行い,「パケット通信」「共
通鍵暗号方式」
「公開鍵暗号方式」の概念を具現化
させ知識の定着を図った(図5)。
一斉授業の様子
作成したカード
作成したカードの説明(パケットの構造)
受
送
信←信
者 者
(例)B←A
図2
並べる
順
番
①
データの内容
「こ」
「パケット通信」の授業風景と教材
b.暗号化(共通鍵暗号方式と公開鍵暗号方式)
手紙とはがきを比較し,
「暗号化」の基本的な概
念について認識させた。共通鍵暗号方式では金庫
図5
作成したディジタルコンテンツ
と二つの鍵を用いて,公開鍵暗号方式では貯金箱
(3) 学習の様子
と一つの鍵を用いて,人に知られることなくメッ
モデル化された教材を使って基本的な概念を形
セージ(紙に書いたもの)を送る方法を考えるこ
とで,それぞれの基本的な概念を形成した(図3)。
成した後,ディジタルコンテンツを用いた説明で
具現化していく一連の流れは,生徒の思考活動と
協調したものであり,とてもスムーズに運ぶこと
ができた。
発表中に,他の班の生徒が「誤り」を指摘する
場面もあり,発表する側もそれを聞く側も自分自
身の問題として捉えながら,考えを明確にするこ
「共通鍵暗号方式」
「公開鍵暗号方式」
とができた。
6.2.インターネットを安全に利用する態度の育成
図3 モデル化された教材
(1) 学習のねらい
さらに,メッセージの送信方法を班で話し合い,
体験用のネットショッピングの Web ページ4)を
意見をまとめて班全員で発表させることで,生徒
閲覧し,安全性・信頼性を感じるものにはどんな
は自分の考えを明確にし,整理することができた
ものがあるかを見つけ,チェックシートにまとめ
(図4)。
る活動を通じて,インターネットを安全に利用す
- 28 -
る態度に結び付けようとする。
体験用のネットショッピングの Web ページ5)の安
(2) 授業展開
全性・信頼性についてチェックを行った。
a.「チェックシート作り」の活動(作成)
その後,フィッシング詐欺等の実例を説明し,
4)
を
生徒にチェックシート項目と関連付けながら,イ
閲覧し,安全性・信頼性の根拠となる項目を見つ
ンターネットの危険性を認識する活動を行った。
け出し,それを図6のようにチェックシートにま
(3) 学習の様子
体験用のネットショッピングの Web ページ
とめる活動をし,各自のチェックシートについて
チェックシート作りの活動において,疑問に思
班で相互評価を行う。各チェック項目について,
ったことを他の生徒と話し合ったり,注意深く
根拠をもって説明できるようになることをねらい
Web ページの画面を見るなど主体的に取り組む様
として,班で一つのチェックシートとしてまとめ,
子が見受けられた。また,生徒は体験用の Web ペ
発表した。
ージの安全性を確認するという視点を与えること
さらに,チェックシートに関して教員や他の班
で,新しい見方ができるようになった。さらにク
の生徒から評価を受け,不十分な項目を補てんし
ラスで情報を共有することで自分の班では思いつ
たり,改善することで精度を高めたりする活動を
かなかった新たな気付きや多様な見方ができるよ
行った。
うになった。
7
分析結果と考察
7.1.事前,事後調査内容と分析結果
次の表3∼表7は,事前・事後で行ったアンケ
ート結果の内容をt検定で分析したものである。
ア
インターネットやネットワーク等の理解度
実践前後における「インターネットやネットワ
ークの知識・理解」をアンケート項目の5−1か
ら5−7において点数化(20 点満点)し,分析し
た。結果,事前と事後では平均値で 4.6 ポイント
増加(8.2→12.8)し,有意水準 0.1%で有意差が
見られた(表3)。
表3
図6
インターネット等の理解度
作成中のチェックシート
(人)
14
12
前(平均 8.2)
後(平均 12.8)
10
8
6
4
図7 Web ページを体験しながらの
2
0
チェックシート作りの活動場面
20
b.「チェックシート作り」の活動(活用)
18
点数
16
14
12
10
8
6
4
2
後(平均 12.8)
前(平均 8.2)
0
生徒は作成したチェックシートを用いて,他の
図8
- 29 -
インターネット等の知識・理解
イ
ネットショッピングの危険認知度
(人)
「ネットショッピングで買い物をするのは危険
事前(平均 3.0)
事後(平均 2.7)
だと思いますか。」の問いに対しては,事前と事後
25
では平均値で 0.2 ポイント増加(4.0→4.2)し,
20
有意水準1%で有意差が見られた(表4)。
15
10
表4
ネットショッピングの危険認知度
5
0
な
わ
1.
思
思
わ
な
り
い
い
な
い
2.
あ
ま
3.
ど
ち
ら
と
4.
や
も
い
え
や
思
う
5.
思
う
事後(平均 2.7)
事前(平均 3.0)
(人)
図 10 情報の信頼性に対する意識
事前(平均 4.0)
事後(平均 4.2)
25
エ
20
「あなたはネットショッピングでクレジットカ
15
ードの番号を入力して,買い物をしたいと思いま
10
すか。」の問いに対しては,事前と事後では平均値
5
で 0.7 ポイント増加(1.5→2.2)し,有意水準1%
0
わ
表6
1.
思
思
わ
り
2.
あ
ま
な
な
い
い
な
い
思
う
と
ら
3.
ど
ち
で有意差が見られた(表6)。
事前(平均 4.0)
も
い
え
や
4.
や
5.
思
う
事後(平均 4.2)
図9
ウ
ネットショッピングを利用することへの意識
ネットショッピングを利用することへの意識
ネットショッピングの危険認知度
情報の信頼性に対する意識
「世の中によく知られている Web ページに書か
れている情報はほぼ正しいと思いますか。」の問い
(人)
に対しては,事前と事後では平均値で 0.3 ポイン
30
ト減少(3.0→2.7)し,有意水準5%で有意差が
25
見られた(表5)。
20
事前(平均 1.5)
事後(平均 2.2)
15
情報の信頼性に対する意識
10
5
0
事前(平均 1.5)
な
わ
1.
思
2.
あ
ま
り
思
わ
も
い
え
な
い
い
な
い
思
う
3.
ど
ち
ら
と
4.
や
や
う
事後(平均 2.2)
5.
思
表5
図 11 クレジットカードを使って,ネット
ショッピングを利用することへの意識
- 30 -
オ
インターネットを利用することへの意識
これらのことから,事前にインターネットやネ
「あなたは個人情報を入力して,送信しなくて
ットワーク等の仕組みを学習し,基礎知識を習得
はならない状況にあるとします。この Web ページ
したことにより,自主的なチェックシート作りの
は個人情報を暗号化して送信できるようになって
活動が,Web ページ等の安全性や信頼性について
います。どうしますか。」の問いに対しては,事前
判断するための有効な手だてとなった。その結果,
と事後では平均値で 0.9 ポイント増加(2.3→3.2)
クレジットカードを使ってのネットショッピング
し,
「送信する」という方向に有意水準 0.1%で有
やフィッシング詐欺等の危険性を認識しつつも,
意差が見られた(表7)
。
根拠をもって安全性を判断できる力を身に付ける
ことでインターネットを安全に利用することへの
表7
意識は高まったと考えられる。
データの暗号化による信頼から導かれる
また,チェックシート作りの活動直後のアンケ
インターネットを利用することへの意識
ートから,
「インターネットで積極的に利用したい
ものはあるか」の問いに対して,8割近くの生徒
が何らかの事柄を挙げており,
「どのように利用す
るか」の問いに対しては,次のような安全性を確
認することの重要性を表現した記述が多く見られ
た。
○
(人)
事前(平均 2.3)
事後(平均 3.2)
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
に気をつけて
送
り
な
い
い
信頼できるかどうか判断する
○
○
良いものか悪いものか見極めて
だまされないようにきちんと調べて
たと思っていたが,確認項目がたくさんあること
1.
送
信
し
た
くな
な
い
信
し
も
い
え
安全面に配慮しつつ
○
たところ,
「自分は安全性には十分注意を払ってい
事前(平均 2.3)
を知って,結構今まで危険な行為をしていた」と
2.
あ
ま
3.
ど
ち
う
ら
と
が
送
信
す
る
す
る
て
送
信
し
迷
○
さらに,授業後の生徒5人にインタビューをし
事後(平均 3.2)
し
4.
少
5.
安
心
安全かどうか確かめたり,セキュリティ
いった発言が聞かれた。チェックシート作りの活
動は危険性を認識する手だてとしても有効であっ
図 12 データの暗号化による信頼から導かれる
たと思われる。
インターネットを利用することへの意識
7.3.成果と課題
(1) 成果
7.2.考察
アンケートの分析結果ア∼オから分かることは,
次のとおりである。
○
ことと,危険性を認識し自ら安全性を判断する力
を身に付けるのに有効である。
礎知識が習得できた(ア)。
(2) 課題
ネットショッピングや Web ページの情
プレ実践で問題となったインターネットを利用
報を鵜呑みにすることの危険性について
することへの意識は本実践で高められたと考えら
認識できた(イ,ウ)。
○
れた上で行ったチェックシート作りの活動は,イ
ンターネット等を利用することへの意識を高める
インターネット等の仕組みに関する基
○
インターネット等の仕組みの知識・理解が行わ
れるが,周りの変化に対応して適切な判断を下し
インターネットを安全に利用すること
安全に利用する態度の育成は数値の上からは判断
への意識が高まった(エ,オ)。
することができなかった。態度の育成につながる
- 31 -
手だてや工夫を今後考えていく必要がある。
今後,新たな実践を通して,インターネットを
積極的に利用しようとする態度が育成されるかど
8
今後の取り組み
うかを,図 13 の段階別獲得目標を設定し,検証し
今回の実践を行いながら,インターネット等を
てみたいと思う。
安全に利用しようとする態度とはどういったもの
9
かを明確にしておく必要があるのではないかと考
おわりに
えた。そこで,態度を育成する過程において,段
今後,ますます情報社会は進展をしていくが,
階的に獲得目標を設定し,最終段階(第三段階)
その中で生徒が生き抜くためには,情報安全教育
の獲得目標が実現できたときに態度が育成された
はもとより情報倫理教育などの情報モラルが極め
と考えた。第一段階とは,チェックシートを利用
て重要である。
情報社会の変化に対応して,教育内容が変わり,
することができるレベル,第二段階とは,情報を
収集・選択してチェックシートを作成することが
教師が変わり,生徒が変わっていかなければなら
できるレベル,第三段階とは,作成したチェック
ない。これからの生徒は情報社会の変化に適切に
シートを日々の変化に合わせてよりよいものに作
対応していく能力を身に付けることが,変わりゆ
り変えていこうとする姿勢が見られるレベルを表
く情報社会を生き抜いていくために必要なのでは
している(図 13)。
ないだろうか。
今回,教科情報において取り組んだが,他の教
科でも取り扱われ,連携しながら身に付けていく
必要があると考えられる。どのような状況下に置
かれても,情報を収集・選択することで周りの変
化を的確に把握し,適切に対応できる態度を今後
も継続的に育てたいと考えている。
<参考文献・引用資料及び Web ページ等>
1) 文部科学省:ポスト 2005 における文部科学省
のIT戦略の基本的な考え方,
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/17/1
0/05102603.htm
図 13 インターネット等を安全に利用する
2) 文部科学省:「情報教育の実践と学校の情報
ための態度を育成するまでの獲得目標
化」,2002.6
3) 文部省:「高等学校学習指導要領解説
授業後のアンケートの中に,第三段階まで達し
情報
編」,2000.3
ていると思われる生徒の記述が見られたので,次
4) (財)コンピュータ教育開発センター:ネッ
にいくつか列記した。特徴としては,
「常に」や「新
ト社会の歩き方,
しい情報」など,まわりの状況の変化に対応して
http://www.cec.or.jp/net-walk/denno-v201
いこうとする部分が見受けられるところである。
/
○
新しい情報に敏感になる。その中から正
しく使える情報だけを自分の知識として
取り入れる。
○ 常に情報が正しいかどうか考えること。
安全か,信頼できるかなど,個人情報を入
力するときは必ず判断すること。
○ 全体を見極め,最終的にそれが今後自分
にとってどのような役割を果たすか,よく
考えて,常に疑う気持ちが必要。
5) 独立行政法人
教育研修センター:情報モラ
ル研修講座 2005,
http://sWeb.nctd.go.jp/kyouzai_new/taike
n/contents/shopping.htm
- 32 -
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