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国 際 租 税 法 - 事 例 演 習 - 第1問 第2問

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国 際 租 税 法 - 事 例 演 習 - 第1問 第2問
国
-
際
事
租
例
税
演
法
習
-
第1問
第 1 章の Quiz3 で「どこの国にも生活の本拠を持たず、たとえば一週間ごとに各国に滞
在して世界中を転々と移動する人」に対しては居住地管轄を及ぼすことができないとされ
ているが、以下のような事例ではどのように考えるべきであろうか。検討せよ。
①
X は、C 国籍を有していて、C 国内に自宅を持っているが、C 国には年間せいぜい 30
日程度しかおらず、日本と A 国にそれぞれほぼ 120 日ずつ滞在しており、その他は、
Business ないし観光のため世界中を飛び回っている。日本にいる間は、ニセコに購入
した別荘にいることが滞在期間の大半を占めるが、これはほぼ余暇でありスキーや山
登りなどの基地として滞在しているものである。これに対し、A 国での滞在はほぼ
Business のためだがこちらはほぼホテル住まいであり、お気に入り 3 つのホテルにほ
ぼ均等に泊まっている。
②
Y は、日本国籍を有する大資産家であるが、所得税や相続税の低い S 国に移住しよう
と考え、居住用のマンションも購入した。しかしながら、Y の Business は日本に関連
するものが多いため、S 国(上記のマンションに居住)の滞在は 100 日程度に止まって
おり、その他の国へ出張等をしている期間を除く年間 200 日程度は日本に滞在してい
る。ただ、日本での滞在は、札幌から那覇まで全国各地に及んでいて、一番滞在期間
の多い東京でも 50 日程度に限られている。
③
②の事例で、日本での滞在地はほとんど東京だが、決まったホテルには泊まっておら
ず、主要なホテルを順々に使い回しているという場合はどうか。
④
Z は、やはり日本国籍を有する大資産家であるが、海外はあまり好きではなく親から
贈与を受けたハワイの別荘に年 1~2 週間遊びに行くほかは殆ど日本に滞在してい
る。他方で、非常に道楽者&一箇所に居るのが大嫌いであるため、かつて大阪にあっ
た自宅も売り払ってしまい、とにかく全国各地を旅している。なお、住民登録は、大
阪の実家に置いているが実家にはここ数年帰っていない。
第2問
X 社は、米国企業でニューヨーク証券取引所に上場している上場会社である。X 社は、
米国居住者である富豪の Y 氏とともに、アイルランドに会社型ファンドである F 社を作
り、そこから我が国の上場企業で、建設事業を主たる業務としているJ社の株式を近時 10
年にわたって 40%保有している。F 社の会社形態は、米国税法上の Check-the-Box ルール
により構成員段階での課税を選択しうるものである。X 社と Y 氏による F 社への出資割合
はそれぞれ 70%と 30%である。なお、X 社及び Y 氏ともに我が国において PE を有しては
いない。
(1)
仮に租税条約が存在しなかったとして、F 社が J 社から受ける配当に対する課税、及
び F 社が J 社株式の 20%(すなわち発行済み株式総数の 20%)を売却する場合の課税
関係に関して検討せよ。
(2)
これまで F 社に関しては、Check-the-Box ルールにより構成員段階での課税が選択さ
れており、その理由は我が国における J 社株式に関する課税の軽減にあるとのこと
である。その理由を考えるとともに、X 社及び Y 氏に対して課される我が国の所得課
税の税率を答えよ。
(3)
X 社と Y 氏は、J 社の株価はそろそろ頭打ちになるだろうと考えており、2 年以内に
は F 社の保有する J 社株式を譲渡しようと考えている。そこに J 社が大規模なホテ
ル事業を買収するとの Press Release を入手した。これを受けて X 社と Y 氏は協議
を行い、来年から Check-the-Box ルールによる構成員段階での課税の選択を取りや
めることで合意に達した。その理由は、日本の課税の軽減だとのことであったがそ
の理由を考えよ。
(4)
J社は、建設事業に関する資金の多くを銀行からの借入れによって賄っていたが、
銀行頼みの資金調達に限界を感じ、F 社に対して融資の可能性を打診した。F 社(及
びその株主である X 社、Y 氏)は、3 年間 100 億円金利 5%(年一回払い)という融資に
合意したが、当該融資契約には、次のような規定が含まれていた。
「 Any and all payments by the Borrower hereunder (including, without
limitation, payments with respect to the Loans) shall be made free and
clear of and without deduction for any and all present or future taxes,
levies, imposts, deductions, charges or withholdings, and all liabilities
with respect thereto, imposed by Japan or any political subdivision or
taxing authority thereof or therein (all such taxes, levies, imposts,
deductions,
charges,
withholdings
referred to as ‘Taxes’).
and
liabilities
being
hereinafter
If any Taxes shall be required by law to be
deducted from or in respect of any sum payable hereunder to the Lender, (i)
the sum payable by the Borrower shall be increased as may be necessary so
that after making all required deductions the recipient shall receive an
- 2 -
amount equal to the sum it would have received had no such deductions been
made, (ii) the Borrower shall make such deductions and (iii) the Borrower
shall pay the full amount deducted to the relevant taxing authority in
accordance with applicable law.」
日愛租税条約の適用を前提として、J社が各利払いにおいて源泉徴収すべき税額を
計算せよ。
第3問
EU 内のある国(以下「A 国」という。)の有名メーカーである Manufacture Corp.(以下「M
社」という。)は、上場会社である Japan Microtechnology 株式会社(以下「J 社」という。)
と資本提携を行っており、M 社にとって J 社は持分法適用会社となっている。M 社は、J 社
を含めた M 社グループが燃料電池について先端的な特許その他の技術を有していながら、
これを十分に活用できていないとの認識に至り、燃料電池事業のグループ内再編の検討を
始めた。その結果、以下のような事情が判明した。
①燃料電池の先端的な分野では、特許権はすべて J 社が保有しており、現在 J 社と JV 社
との間のライセンス契約に基づき JV 社がこれを使用している。このライセンスにかかる
ライセンス料は、J 社と P 社との取決めに従ったものとなっているが、M 社の見るとこ
ろ、通常の料率より相当安価なものとなっている。
②J 社は、燃料電池事業を、別の我が国上場会社 P 株式会社(以下「P 社」という。)ととも
に設立した JV 会社(株式会社。以下「JV 社」という。)にて行っている。出資割合は、J 社
が 60%、P 社が 40%である。
③M 社は、J 社とは別に A 国内の工場で電池の生産を行っている他、米国及び中国にも工
場を有しているが、これらは当該工場を運営するためだけに設立された当該国設立の M 社
の 100%子会社が所有するものである。当該工場では、M 社が保有する特許権に基づき AV
機器の生産を行っている。但し、M 社が有する特許権他の技術は J 社のそれに比べた場
合、相当に陳腐化している。
現在、JV 社の生産した燃料電池は、P 社が販売する製品に組み込まれるために納入さ
れ、他方 M 社が自社ないしその米国・中国子会社において生産した燃料電池は、もっぱら
M 社の製品用として納入されており、技術統合も行われていない。そこで、M 社では、J 社
の保有する先進的技術に関する特許権も含め、一社(以下「Newco」という。)に集約して
Newco を燃料電池専業の企業とし、(ア)M 社及び J 社(又は P 社)の双方に燃料電池を供給す
るとともに、(イ)第三者に対しても燃料電池を販売し、更に(ウ)Newco 単独での上場をも目
指すという方針を固めた。そして、M 社の技術部門の他法務部門や財務部門も加わって、
Newco の設立候補地の絞込みを行い、その結果、候補地は、J 社及び JV 社の所在する日
- 3 -
本、M 社の所在する A 国、J 社・M 社のいずれにとっても自社製品の最も重要な消費地であ
り、かつ M 社子会社も存在する米国、EU 内の A 国以外のある国(以下「B 国」という。)及び
法人税がゼロに近いことで知られる C 国に絞られた。なお、Newco 自体で、燃料電池に関
する事業活動を直接行う方式の他、Newco は持株会社として、各国に事業子会社を置くと
いう構想も検討されている。
これを受けて、M 社の General Counsel である Smart 氏は、A 国など関係各国の法律事
務所の有名弁護士と並んで、我が国の法律事務所にも様々な質問を行った。そして、その
法律事務所に入所したあなたに対して、先輩弁護士が以下のような点を調査確認をするよ
う依頼してきた。
1
Newco を日本に設立した場合、Newco はどの範囲で我が国の所得課税(中心は法人
税)を受けるか。
また、仮に M 社が自社の保有する特許権をそのまま保有し続け、Newco からライセ
ンス料を得ることにした場合、日本で何らかの課税を受けるか。
更に、Newco が、製造工場も全て日本に集約していたとして、以下のような事実が
認められる時、M 社が受け取るライセンス料のうち我が国の課税対象となるのは、
どの範囲であろうか。
(i)
ライセンス料は、次世代半導体の売上額の○%とされていたとして、Newco
の製造した次世代電池の 50%が海外に輸出されている場合。
(ii) 当該特許権の利用に関しては、M 社からの指導が必要不可欠であり、公正な
評価として、かかる指導の価値が毎年 10 億円と評価される場合。
2
Newco を日本に設立した場合、その株主となる M 社が受ける配当に対して、日本で
はどういった課税がなされるか。また、M 社は、株式のような Equity 性の資金提
供ではなく、負債性の資金提供も行うことも念頭に置いているとのことである
が、かかる負債性の資金提供に付される利息に対してどういった課税がなされる
か。
3
M 社は、将来的には Newco の株式の売却の可能性も念頭に置いている。かかる売却
に関して M 社は我が国の課税を受けるだろうか。
4
その後の調査で、M 社には、非常に規模は小さいものの製品販売のための支店が日
本に存在することが分かった。このことによって、上記 1 ないし 3 への回答は修
正が必要になるか。
5
A 国というのは、フランスのことを指していたとして、上記の回答にはどのような
- 4 -
修正が必要になるか。
6
先輩弁護士に言わせると、Newco を持株会社として B 国に置き、日本、A 国、米国
などに事業子会社を置くという仕組みとする場合、B 国としてはオランダあたりが
候補になるのではないかとのことである。なぜオランダなのだろうか。なお、オ
ランダには工場もなければ、主要な製品販売地である訳でもない。
7
Smart 氏の質問の中に「Newco を日本に置くとして、M 社が Newco に資金提供を行う
方法の中で、その収益(果実)の支払を Newco の業績に連動させることができ、か
つ損金算入できるものはないか」というものがあった。利益参加型(劣後)社債、優
先株及び匿名組合契約について検討してみよう。
8
Newco をフランスに置きつつ、日本の事業は Newco の日本支店で行うという方法を
とることとなった場合、日本の事業を Newco の在日子会社にて行う場合と比較し
てどういった点が異なることになるか。
9
Newco を日本に置いたが、結局事業が上手く行かなかったため解散するに至った場
合、M 社(我が国に PE なし)の課税関係はどうなるか。また、事業が上手く行った
が、J 社と M 社が対立するに至り、Newco を解散せざるをえなくなったような場合
はどうか。
第4問
日本ガイダント事件(東京高裁平成 19・6・28 判決・判例時報 1985 号 23 頁)を読んで、
問題点について検討せよ。特に以下の諸点を考えるように。
①
なぜ、ガイダント社は、匿名組合員をオランダの子会社にしたのか。(米国の親会
社が匿名組合員となっている場合にはどのような課税となるか。)
②
なぜ、問題とされた契約が民法上に組合契約であれば課税が肯定され(又は肯定さ
れる可能性があり)、匿名組合契約の場合には否定されるのか。この差異は妥当と
言えるか。
③
匿名組合契約に基づく利益分配は、利子や配当に当たらないか。仮に、利子又は
配当に該当したとして、この訴訟で納税者側が敗訴(一部敗訴を含む)とされる可
能性はあったか。
- 5 -
④
日本ガイダントに関しては、その株式を保有する会社と匿名組合員となっている
会社は、同一会社の 100%子会社たるオランダ法人である点は共通するものの別会
社になっている。これらが同一会社であった場合、結論に影響が及ぶか否か。
⑤
当該事件において、ガイダント側が図った租税負担軽減策は、例えば二重課税の
防止といった観点から正当化可能であろうか。また、本件取引に関係しているガ
イダント関係の会社から所得税ないし法人税を徴収しようと考えた場合、取り得
る理論構成は他にないだろうか。
第5問
米国の著名な投資ファンドの運営者である S 社の投資家層は、ほぼ米国と EU 諸国の富
裕層であり、そこから投資資金を集めている。投資対象は全世界に及んでいるが、従来か
ら投資対象としてきた経営の悪化した日本企業の株式に加え、今後は金融機関の保有する
不良債権を増やそうと考えており、その中には邦銀の有する国内及び海外向けのローン債
権、邦銀が所有する海外及び国内法人が発行する社債などが含まれる見込みである。
S 社 は 、 投 資 フ ァ ン ド 自 体 は 英 国 領 で あ る Cayman 諸 島 の 法 令 に 基 づ く Limited
Partnership(以下「LPS」)の形態を採用しており、投資家の属性ごとに分けた子ファンド
(Feeder Fund と言ったりします)がそれぞれ Limited Partnership の Limited Partner(以
下「LP」)となっている。各 LP の組織形態はさまざまであり、米国 Delaware 州法上の
Limited Liability Company、オランダの B.V.、Luxemburg の SARL などが含まれている。
なお、S 社では Debt 投資と Equity 投資、さらには Equity 投資については銘柄ごとに、そ
れぞれ別々の Vehicle を利用することにしており、株式用のファンドは銘柄ごとに多数の
ファンドが存在する他、不良債権用のファンドには従来から存在した株式用のファンドと
は別の LPS を新たに組成して使用する予定である。なお、S 社の子会社が LPS の General
Partner を務めており、当該子会社を通じて資産運用に関する決定がなされている。
このような状況の中、S 社の米国カウンセルである X 氏から国内の Top Law Firm に勤務
することになったあなたに対して以下のような質問がなされた。これらについて検討せ
よ。なお、検討にあたっては、LPS に対する我が国の課税上の取扱は組合と同様であると
考えてよいものとする。また、それぞれについて、日米、日蘭租税条約が適用される場合
及び何の租税条約も適用されない場合とについて検討すること。
1
これまで、日本企業の株式に投資している LPS の LP として、米国人投資家につい
ては Delaware 州法上の Limited Liability Company が用いられ、EU 圏の投資家に
ついてはオランダの B.V.が利用されていた。今回これをアイルランドの類似した有
限責任会社に移転することを検討している。かかる LPS 持分の移転について我が国
の課税は発生するか。
- 6 -
2
現在投資を行っている D 社は、一旦業績不振に陥り会社更生手続に入り、M 社がス
ポンサーとなって一定程度会社の建て直しが進んだところで M 社から S 社のファン
ドが株式を購入したもので、現在、D 社の発行済み株式数の 80%(20%は他の投資
家に売却済み)を S 社のファンドが保有している。なお、会社更生手続において
は、いわゆる 100%減資がなされ、そこに M 社が 100 億円の新株発行に応じたもの
で、その資金によって企業運営がなされた。S 社は、M 社が保有していた株式を 300
億円で取得したが、その後 M 社は経営合理化が功を奏し、現在では、利益剰余金だ
けで 1,000 億円となり、その株式価値は総額で 2,000 億円に達している。このた
め、S 社は D 社株式の売却先を探しているが、折からのギリシャ危機もあり売却先
の選定が難航しているため、いっそのこと M 社に現在 S 社のファンドが保有してい
る株式の半分を自己株式取得をさせてはどうかという案が浮上している。この場
合、D 社株式を第三者に売却した場合に比べ課税関係に違いはあるか。なお、D 社
は M 社に対する新株発行後一切 Equity Finance をしておらず、またこれまで行っ
た株主還元は利益剰余金からの配当だけである。
3
不良債権及び社債への投資については、S 社の日本子会社が非常に小規模であるこ
とから、当面は金融機関などから購入したものを時期を見て売却することを考えて
いる。S 社の日本子会社は、購入先や売却先の候補を探すなどの活動は行うが、売
買そのものには関与せず、意思決定はすべて NY の S 社本社が行う。この場合に、
不良債権や社債の売買に関してファンドないしファンドの投資家が日本においてそ
の売買価格の差額について課税を受けることはないと考えてよいか。
4
将来的には、S 社としては日本子会社の機能を充実させる予定であり、その場合、
購入資産に関する Due Diligence Review や各種売買契約のロジスティックス、売
買に関する各種交渉なども行わせたいと考えている。この場合、3 との間で結論に
違いはでるか。
5
また、これも将来のことだが、購入した不良債権や社債を単に転売するだけでな
く、その回収を自ら設立する債権回収会社に委託することで、回収額が購入金額を
上回った部分についての利益獲得も目指そうと考えている。この場合もファンドな
いしファンドの投資家が我が国で課税を受けることはないと考えてよいか。
第6問
今般の法人税法の改正で貸倒引当金に関する損金の算入は非常に限定されることなっ
た。貸倒引当金の損金算入を限定的ながらも認めているのは法人税法 52 条だが、同条は
- 7 -
明らかに対象を内国法人に限っている。当該規定を読んだ X 君は、「内国法人しか損金算
入が許されないのか。これは外国法人に日本支店は困るのではないか。これは事実上日本
進出は子会社形態で行えと言っているようなものだな。」と述べた。この意見は正しい
か。
第7問
MG Securities Inc.(以下「MG 社」という。)は、世界有数の証券会社であり、米国を本拠
地とするもののロンドン、東京といった世界的な金融センターには、すべからく 100%子
会社の現地法人を有しており(こうした現地法人を含めたグループ全体を以下「MG グルー
プ」という。また、日本に所在するかかる現地法人を以下「MG 日本」という。)、24 時間体
制で取引を行う仕組みを備えている。MG グループでは、各現地特有の取引を別として、自
己勘定のデリバティブ取引についてはすべて MG 社自身の名義計算で行うことにしてお
り、当該取引のための資金調達なども MG 社が一括管理しているが、その取引残高などは
それぞれの現地法人のトレーダーにも共有され、MG グループ全体で策定した取引方針に従
い絶え間なく取引が行われている。
こうしたデリバティブ取引によって生じる所得に関して MG グループでは、各現地法人
に対しては、当該現地法人によって締結された取引の数量を基礎として算出される手数料
を MG 社が支払い、その余の利益は MG 社に帰属するものとして扱っており、これに沿って
MG 社と各現地法人との間で契約が結ばれている。
MG 社の 2009 年度のデリバティブ業務は極めて好調であり、これにより稼得した所得額
は、全世界合計で 100 億米ドルに達したが、MG 社と MG 日本との間の契約に基づき MG 日本
に支払われた金額は 5 億米ドル相当に止まっていた。なお、これは MG 日本が締結した契
約の量が少なかったからというのではなく、上記の 100 億米ドルの所得の多くの部分がデ
リバティブ取引の価格変動を上手く利用したという投資利益により構成されていたことに
よっており、全現地法人をあわせても MG 社から支払われた手数料は、30 億米ドルに止
まっており、MG 社の利益が 70 億米ドルとされていた。また、この手数料の料率は、デリ
バティブ取引の取次ぎを第三者が行う場合に請求される一般的な手数料の水準に、各現地
法人が取引方針に基づき一定の判断を行うことを勘案した金額を上乗せしたものとなって
いる。
日本の課税庁は、税務調査によって、上記の状況を把握し、MG 日本の所得とされている
額が少なすぎるのではないかという疑問を持つに至ったとして、理論上どういった側面か
らアプローチが可能であるか検討せよ。特に、①契約を実際に締結しているのは誰か、②
手数料の料率を定める契約は誰と誰の間で締結されているかという切り口を念頭に置くこ
と。
ところで、MG 社のデリバティブ業務は、上記のように 2009 年度は非常に好調だったの
だが、その前年の 2008 年度においてはリーマンショックの影響もあって 50 億米ドルもの
- 8 -
大幅な赤字を計上していた。しかしながら、上記のような料率の設定をしていたため、MG
日本においては、0.5 億ドルに止まるもののプラスの所得を計上していた。こうしたこと
も考慮の上、検討すること。
第8問
第 3 問の事例において、M 社内部の検討において Newco を A 国において設立する方向で
ほぼ方針が決まったためこれを J 社に伝えたところ、J 社の財務部から「そういうことであ
れば J 社としては、Newco へ事業を統合することは難しい」という強硬意見が寄せられた。
このため、Smart 氏は、J 社の財務部に対して反対する理由を聞いてみたところ、その主
たる理由が以下の事実関係に基づく我が国の税務上のものであることが分かった。
①
J 社の保有する特許権は簿価がゼロであるもののその公正価値が非常に高いもの
となっていること。
②
P 社との関係から、JV 社とのライセンス契約の条件は変更が事実上不可能である
こと
1.
果たして、J 社の財務部がこのプロジェクトに反対の立場を採った理由は何であろう
か。また、その問題は Newco を我が国に設立することで解決可能であろうか。
2.
上記の反対を受けて、Newco を日本で設立する方向で再度検討が行われた。検討案で
は、M 社が有していた米国と中国の工場を有している子会社を Newco の子会社にする
こととされている(なお、それぞれの子会社は、米国及び中国の関連業務を統括する
役割を担っており、さらに子会社を複数有しているとする。)。Smart 氏として、この
案に従う場合に、我が国の課税で留意するべき点はないか。
3.
ところで、このプロジェクトの当初の検討段階では、C 国も Newco の設立候補地で
あったが、いつの間にか検討対象から外れていた。そこで、先輩弁護士に事情を聞い
たところ、「C 国に工場とかを置くのはインフラ等からしてありえないので、C 国に持
株会社を置くということになるのだろうけど、だとすると早期に上場でもするのでな
いとねえ。」という返事が返ってきた。その理由を考えよ。
- 9 -
削除: 1
第9問
A 食品は、ほぼ日本のみで業務を行う東証一部上場企業(食品事業を行っている。)であ
る。A 社は、主力工場が関東圏にあることもあり、地震発生時の損害に備えるべく、企業
向け地震保険に加入できないかと考えるに至った。
1.
上記の保険に入ることは A 社株主価値の最大化という観点から見て、いかに評価
されるべきであろうか。(航空会社にとって、航空事故は、非常に大きなリスク要
因であるが航空会社がそうした事故に関して保険に加入することは多くないと言
われる。その理由もあわせて考えてみよう。)
2.
そうしていたところ、A 社は、下記のような仕組みの取引を実施することを大手保
険会社(以下、「B 社」という。)から勧められた。
a.
A 社と B 社との間で本保険契約を締結する。
b.
A 社は保険会社の設立・運営に対する規制が極めて柔軟な X 国に 100%子
会社を設立し(以下、この会社を「C 社」とする。)、B 社は本件保険契約と
実質的に同一内容の再保険契約を C 社との間で締結する。
c.
C 社は上記再保険契約によって得た保険金の運用だけを行い、5 年ごとに
留保金額の一定割合を配当として A 社に送金する。
上記のアレンジメントを実施することは A 社にとってどのようなメリットをもた
らすことが期待されているか。なお、我が国と X 国との間には租税条約は締結さ
れておらず、X 国の法人所得税率は 26%であり、C 社から A 社への配当の支払いに
対しては源泉徴収課税はないものとする。また、そこで企図される税務上のメ
リットは、正当化しうるものであろうか。また、上記で a.の部分が必要となる理
由(C 社がいきなり A 社との間で契約しない理由)は何か。
3.
ところで、上記の取引は、キャプティブと言われるものを理念型的に単純化した
もので、仮に A 社と B 社が特別な関係を有していなければ、そのままでは成り立
ちがたいはずである。その理由を検討してみよう。
4.
Z 社は米国に本社を持ち、世界的な展開(子会社による)を行っている石油化学ので
あるが、Z 社もキャブティブ保険会社を X 国に有していた。この場合、Z 社がかか
るキャブティブを持つ経済的合理性はあるのだろうか。上記の A 社の事例と比較
しながら検討せよ。
- 10 -
5.
我が国の大手損害保険会社の多くは(というより大手の損害保険会社は世界的に、
という方が正確かもしれない)、海外に 100%子会社として再保険会社を有してお
り、その中には我が国ににある親会社を含めたグループ会社からの再保険の引受
が主となっているものも少なくない。小問 4 同様、この場合についてもその経済
的な合理性について A 社の事例と比較しながら検討せよ。
第10問
J Retail 株式会社は、スーパーなどを経営している小売業者であり、欧米やアジアにも
子会社を持ち全世界レベルで事業を行っている。しかし、現経営陣は、その世界全体に手
を広げていたのでは経営資源が不足してしまうと考え、今後の成長の期待できるアジア地
域に集中すべきとの判断に至り、欧米の事業ないし子会社を売却しようと考えるに至っ
た。J Retail の欧米事業は、米国、ドイツ、フランスにおいて子会社形態で行われて規模
はほぼ同じである。これらの子会社は、現在でこそ業績に頭打ち感はあるものの毎年それ
ぞれ税引き後で 50 億円相当の利益を上げていて、日本でいうところの利益剰余金にあた
るものは 500 億円に上っている。
さて、かかる売却先を探すうち、米国の小売業者である M 社がそれぞれの子会社ないし
その事業を 1,000 億円(合計 3,000 億円)で購入したいとの提案を行ってきた。M 社は、J
Retail が保有する各子会社の株式の取得及び各子会社から M 社が米国、ドイツ、フランス
でそれぞれ保有している小売事業会社への事業譲渡のいずれの方法によっても各社に関し
て 1,000 億円を支払う用意があるとのことである。
1.
J Retail が保有するそれぞれの子会社株式の簿価を 200 億円、それぞれの子会社
の財産の簿価を 500 億円、米国、ドイツ、フランス、日本の法人に対する所得課
税の実効税率をそれぞれ 50%、20%、40%、40%と仮定した場合どちらの方法が課税
負担(日本だけでなくこれらの国での課税も考慮すること)の上で J Retail にとっ
て有利であるか検討せよ。なお、外国子会社合算税制の存在は考えなくてよい。
また、米国、ドイツ、フランスのいずれにおいても PE を持たない外国法人が自国
法人の株式を売却した際に発生する Capital Gains には課税を行わないとしてい
ると仮定すること。
2.
ところで、皆さんの先輩で我が国の大手事務所の若手のホープと言われている G
弁護士が「どうせ株を買ってもらうんだったら、何もしないで 1,000 億円で売るの
は損だな。」と言っている。その理由を考えよ。
- 11 -
第11問
米国法人で、世界各国の Windows ユーザーに専門的な PC アクセサリーを製造販売して
いる US 社は、これまで日本に設立した US 日本株式会社(以下「US 日本」)に一旦商品を販売
した上で、これを US 日本から日本の卸売り業者に販売するという業務形態を取っていた
が、この程従来の方式は課税上不利であるとして販売形態を変更し、商品の売買自体は US
社が直接日本の卸売り業者との間で行い、US 日本はその取りまとめや取り次ぎを行うこと
とした。米国の法人税負担<日本の法人税負担ということを前提としてこうした業務形態
の変更の理由を考えよ。なお、従来から US 日本は、自らが倉庫などを保有している訳で
はなくこうしたものは賃借によって賄っており、販売形態を変更した後も、取りまとめは
取り次ぎの一貫として倉庫からの商品の出入りなどの管理なども引き続き行うことになっ
ている。
ところで販売形態を変更したことで US 日本の利益の額が小さくなったとして、我が国
の課税当局には何らかの対抗手段はないであろうか。検討せよ。
第12問
外国税額控除の余裕枠利用の可否に関する下記の判例を読んで問題点につき検討せよ。
・平成 16・7・29 大阪高裁第 3 民事部判決(金融商事判例 1201 号 35 頁)
・平成 18・2・23 最高裁第 1 小法廷判決(判例タイムズ 1206 号 172 頁)
なお、上記の判例はいずれも TKC のデータベースから入手可能である。参考までに、上
記判決の原審判決(平成 14・9・20 大阪地裁判決)も同じデータベースから入手可能であ
る。また、同一のテーマに関して平成 17・12・19 最高裁第 2 小法廷判決も存在する。
- 12 -
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