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津山市における体験・宿泊施設の現状―グリーン・ツーリズムに
津山市における体験・宿泊施設の現状―グリーン・ツーリズムに結びつけるには 宮城 亘 Ⅰ はじめに 1.調査目的 近年の日本では、農山村や田舎と呼ばれる地域での過疎化が進み、農業をはじめとした一次産 業の衰退が見られる。その結果、食料自給率の低下や里山の機能低下による獣害、耕作放棄地の 増加による災害などが問題になっている。これらの問題の根本には、現代社会が機械化・情報化 によって便利になったことやそのために直接的に農業や地域の文化に触れる機会が減ったことが あるのではないだろうか。 「百聞は一見にしかず」ということわざがあるように、話に聞いたり、 本で読んだりするだけじゃなく、体験や宿泊を通してその土地の文化や自然、雰囲気を多くの人 が感じることができたら、先にあげた問題を解決する糸口になるのではないだろうか。その体験・ 宿泊を行えるものとして近年注目されているのがグリーン・ツーリズム(以下 GT)である。農林 水産省によると、GT とは山漁村地域において自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活 動となっている。主にヨーロッパで広まったこの GT であるが、エコ・ツーリズムとも呼ばれ、日 本でも 2007 年の6月に法律ができるなどその注目度は高くなっている。 ヨーロッパでは普及している GT であるが、ヨーロッパと日本との文化の違いなど様々な要因か ら、同じ形で日本に普及するのは難しいだろう。しかし、日本に合った GT のスタイルがきっとあ るはずである。本稿では、津山市を事例に体験・宿泊施設の現状を調査し、調査結果からそれら の施設を GT に結びつけるにはどうしたらいいかを考察していく。 2. 調査・研究方法 まず、津山市における体験・宿泊施設の現状をしるために、津山市にある7つの施設をまわり、 その運営責任者または従業員の方に聞き取りを行った。そして、その施設の運営主体や訪れる人 についての質問などを聞くことで、現状を調査した。ここで、なぜ聞き取りの対象として従業員 を含めたのかというと、このような施設の場合、責任者だけでなく訪れる人に直接関わる従業員 の方の意識なども大切だと考えたためである。 次に GT に関する文献から、ヨーロッパと日本の GT の特徴を調べ、その違いの比較や津山市の 体験・宿泊施設にどのように取り入れられるかを考察する。 最後に以上のことからわかった津山市における体験・宿泊施設の今後の課題や GT に結びつける ためにできることを考察する。 Ⅱ 対象施設の概要と現状 1. 調査地域の概要 津山市の面積は約 500 平方キロメートルで全県の約7%をしめ、その位置は岡山県の北東部に 位置し、北は中国山地、单は中部吉備高原に接する、都市と自然が融合する地域である。 2005 年に加茂町、久米町、勝北町、阿波村と合併し、その人口は約 11 万人となった(2005 年 現在)。産業別人口の割合を見ると、第一次産業は 7.7%、第二次産業は 28.7%、第三次産業は 63・6%となっている(2005 年現在) 。都市と自然が融合しているとは言われても農業を行う人は 徐々に減ってきているようだ(第 1 表および第 1 図参照)。 第 1 表 産業別人口の割合(%) 年 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 第一次産業 23.5 16.2 15.5 13.4 10.5 9.4 7.8 7.7 第二次産業 26.2 27.6 31.2 32.6 34.5 33.8 32.9 28.7 第三次産業 50.3 56.2 53.4 54 55 56.8 59.3 63.6 資料:農業センサスより作成 100% 80% 第三次産業 第二次産業 第一次産業 60% 40% 20% 0% 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 年 第 1 図 産業別人口の割合 資料:農業センサスより作成 2. 宿泊施設と体験施設について 今回調査を行った施設の位置関係1)は第2図のようになっている。 第2図 津山市における調査施設の位置 資料:津山市の地図と各施設の資料より作成 ※ 下線は(2)の体験施設 (1)宿泊施設について ここでは、 「体験と宿泊の両方」または「宿泊」が行える施設の紹介をする。今回聞き取りを行 った7つの施設のうち5つの施設がこの対象となる。 黒木キャンプ場 ・設立:旧加茂町 ・運営主体:加茂町観光協会が津山市からの委託を受け管理を行っている。 ・体験内容:魚のつかみどりや他に虫取りや工作室を利用した木工体験(カスタネットやインテ リア作り)なども行える。 ・利用期間:第1、第2キャンプ場は4月1日から 10 月 31 日まで。第3キャンプ場は1年間利 用できる。 ・施設の設備:バンガロー22 棟、テントサイト 87 サイト、研修棟や木工体験棟があり、収容人 数はトータルで 400 人から 500 人。バーベキューやキャンプファイヤーも行える。 ・訪れる人について:年間約 35,000 人が訪れ、ピークは7月から8月。2月から5月はほとんど 人が来なく、9月は大学生、11 月から1月はキャンプ好きの人が冬用の装備で訪れる。基本は 家族連れ・子ども連れが多く、子ども会やスポーツクラブなどの小・中学生の団体も多い。ま た企業の団体がバーベキューをやりに訪れたり、山登りの人達が泊まったりすることもある。 ・市や他の施設とのつながり:市は周辺の木の伐採や見回りなどに来ることもあるが基本は加茂 町観光協会へ任せっきりの状態である。他の施設とのつながりはない。 ・施設の宣伝方法:ホームページがメイン。他にラジオでの宣伝や冬の間の学校回りなどを行っ ている。 ・感想:施設の規模としては大きく、第1・第2・第3キャンプ場でその特徴が違っていた。第 1は昔ながらのキャンプ場で、第2はファミリーキャンプ場、第3は風呂・シャワー・流し台・ ガス台・トイレつきの完全な宿泊施設であった。聞き取りを行った施設の方もおっしゃってい たが、キャンプのイメージが簡易にできるものへと変わってきているように思えた。また、泊 り客の中には無視嫌いの人もいるとのことから、自然とのふれあいという面からのキャンプと も少しずつ変わってきているのではないだろうか。しかし、川遊びや虫取りなど街中ではでき ないことができ、空気もきれいなので、リフレッシュするにはよい空間だと感じた。ただ、施 設の設備をよくしたために、料金が高くなっていたことが利用客にどの程度影響を与えている かが気になる。 ・施設の写真: 第2図 バンガローとバーベキュー場 第3図 キャンプ場の横を流れる川 阿波渓流釣り場 ・設立:旧阿波村 ・運営主体:阿波養魚組合が津山市からの委託を受け管理を行っている。今回聞き取りを行った 阿波渓流茶屋さんは個人で営業している。 ・体験内容:渓流釣りと魚のつかみどりができる。獲った魚はバーベキュー場で焼いて食べるこ とができる。 ・利用期間:年中利用可能 ・施設の設備:トイレ・お風呂・キッチンつきのバンガローが 5 棟とバーベキュー場がある。渓 流茶屋では食事ができる。 ・訪れる人について:年間約 1,700 人から 1,800 人ぐらいの人が訪れる。8月が最も多く、次に 5月が多い。5月と8月は家族連れが多い。個人で来る人の他に、学生や会社、町内会、学校、 子ども会などが訪れる。川の上流に滝があり、紅葉も見られるためそれらを見に訪れる人もい る。遠いところでは京都などからも訪れる人がいる。 ・市や他の施設とのつながり:阿波村では渓流釣り場の他に温泉や交流館など多くの施設や観光 場所があるため、渓流釣り場に訪れた人に温泉の割引券を渡すなど、地域内でのつながりがあ るようだ。 ・施設の宣伝方法:くちこみがほとんどで他にパンフレットや訪れた人が作ったホームページな どが宣伝につながっているようだ。 ・感想:阿波渓流釣り場での体験は行えず、川も雨のためによく見ることができなかった。唯一 ちゃんと見ることのできたバンガローの中はきれいであった。訪れる人は何度も来る人も多い ようで、中には冬にのみ渓流釣りをやりに来る人もいるとのことだった。県单だけじゃなく県 外からも訪れることから、知名度もけっこうあることがわかる。そんなに知名度があるのに大 きな宣伝をしていないとのことなので、くちこみの力がすごいのだろう。さらに、何度も来る 人がいることから、人を呼び込む魅力のある場所なのだろう。確かに、周りには自然が多く、 見せてもらった滝の写真もきれいなものだった。 ・施設の写真: 第4図 渓流茶屋横のバンガロー 第5図 渓流茶屋の水車 奥津川ラビンの里 ・設立:旧加茂町 ・運営主体:ラビンの里管理組合が津山市からの委託を受け管理を行っている。 ・体験内容:釣堀での釣りや魚のつかみどりが体験できる。また川遊びも楽しめる。 ・利用期間:4月から 11 月まで ・施設の設備:釣堀、バーベキューガーデンが7サイト、テントサイトが 10 サイト、宿泊施設に は 12 畳と 15 畳の和室と9畳の洋室がある。宿泊施設内にはトイレと大浴場、調理場なども完 備されている。 ・訪れる人について:年間約 10,000 人が訪れる。7月と8月が多い。他には土曜日と日曜日に人 が多い。バーベキューをする利用者が多いため、11 時から 15 時の時間帯に人が集中する。訪 れる人は家族連れ、子ども会、スポーツ少年団、企業などであり、主にバーベキューとしての 利用でキャンプは少ない。 ・市や他の施設とのつながり:奈義町のビカリア館とパンフレットの交換などをしている。 ・施設の宣伝方法:施設ができたときはテレビでの宣伝があった。現在は、ホームページやパン フレットが中心でたまにラジオでの宣伝などもある。B’z の親族が訪れたこともあり、B’z がライブなどで宣伝することもあったそうだ。 ・感想:釣り体験が釣堀であったのは少々残念だったが、つかみ取りは川のそばででき、施設の 方の話から季節ごとの楽しみ方ができそうな場所であった。6月下旬から7月中旬には蛍が見 られ、夏は川遊び、秋は紅葉も見られるとのことだった。この場所はダムのすぐ下流なので鉄 砲水などの心配がなく安心して川遊びができるそうだ。施設ではシーズンオフでも人が訪れる ように花を植えたりしているそうだが、まだうまくはいっていないらしい。人がいないとのん びりとした空間であるが、施設の範囲がそんなに広いわけではないので、人が多く訪れると落 ち着けない空間になるかもしれないと思った。 ・施設の写真: 第6図 つかみどりのための浅瀬 第7図 バーベキュー場 ウッディハウス加茂 ・設立:旧加茂町 ・運営主体:加茂町ふるさと振興公社が津山市の委託を受けて管理を行っている。 ・体験内容:体験施設はなし ・利用期間:年中利用可能 ・施設の設備:洋室2部屋、和室5部屋の宿泊施設と合宿用の建物がある。スポーツセンターと 隣接し、スポーツセンターには体育館、体操練習場、プール、ソフトボール場、総合グラウン ド、テニスコート、屋内ゲートボール場がある。 ・訪れる人について:年間約 11,000 人の人が訪れる。昔は 70%が一般客であったが、現在では 全国でも5つほどしかないという体操専門の体育館があるおかげで 70%が合宿客となっている。 他には若い人や一人旅の人、法事などで帰郷した人などが泊まっていく。 ・市や他の施設とのつながり:徒歩 10 分のところにある温泉施設のめぐみ荘との協力がある。泊 り客に温泉の割引券を渡したり、めぐみ荘にウッディハウス加茂の商品を置いたりしている。 また、阿波村との協力もあるようだ。 ・施設の宣伝方法:ホームページ、パンフレットなどスポーツセンターと絡めて宣伝をしている。 また忙しい時期を除いて旅行会社などに登録することもしている。 ・感想:パンフレットなどに書かれている自然とのふれあいというよりは、スポーツなど体を動 かす場所としての利用がメインの施設であった。静かなところで近くに温泉などもあり食事も おいしかった。ただ、リラックスというよりはリフレッシュするのに適したところだと感じた。 泊まったところが合宿施設だったので本来の宿泊施設に泊まるとどうだったかはわからない。 スポーツセンターは施設が本当に充実していてどんなスポーツでもできる環境だった。施設と しても体操・合宿施設としての売っているという理由がわかった。 ・施設の写真: 第8図 メインの宿泊所 第9図 ソフトボール場 風里(ふうり) ・設立:有限会社グローカル久米 ・運営主体:個人経営 ・体験内容:農業体験ができる。自分の畑を借りることも可能。 ・利用期間:年中利用可能。 ・施設の設備:洋室と和室の部屋一つずつあり、さらに 30 畳の卓球もできる多目的スペースもあ る。システムキッチンや内庭の見えるお風呂、ホームシアター、薪ストーブなどもある。イン テリアにもこだわっていて質のいいソファーやベッドもある。 ・訪れる人について:宿泊客は年間約 50 人となっている。できて間もないので、友人や知人の利 用が多く、一般の利用はまだない。講演やコンサートなどのイベントのときには、一回で 60 人 以上の人が訪れた。 ・市や他の施設とのつながり:管理者の方が環境市民団体「エコネットワーク津山」のメンバー であるので、その部分でのつながりはある。運営などに市の協力などはない。 ・施設の宣伝方法:ホームページやパンフレットでの宣伝とイベントをすることでのアピールを 行っている。 ・感想:調査で回った7つの施設で唯一といっていいぐらい GT に積極的に取り組んでいる施設で、 訪れる人にスローライフ体験をしてほしいという想いが随所に見られた。寝室の屋根の一部が 窓になっていて寝るときに星空が見えるようになっていたり、外にはベンチやブランコがあっ てゆったりできそうな空間になっていたりと訪れる人が農村の空気を感じられるような工夫が されていた。近くには田畑や自然があり、散歩にもいい場所であった。一つ気になったのがど うして一般の人が訪れていないかということだ。施設としては充実しているからこそ気になる 部分であった。 ・施設の写真: 第 10 図 庭と畑 第 11 図 宿泊所のリビング (2)体験施設について ここでは、 「何らかの体験ができる」施設を紹介する。 アグリカルチャー津山美作の丘 ・設立:個人 ・運営主体:個人経営 ・体験内容:9月中旬から 10 月中旬にかけて芋ほり体験ができる。 ・利用期間:通年で営業している。 ・施設の設備:焼肉バイキングや喫茶店、物産販売、ふれあい動物園、滑り台などの遊具、畑な どがある。 ・訪れる人について:年間の来客数は不明。親子連れや保育園から高校生までの団体、観光旅行 者などが訪れる。大人は焼肉の食べ放題、子どもは遊具やふれあい動物園で遊ぶのが一般的な 利用である。芋ほりの体験には主に保育園の子どもたちが訪れる。 ・市や他の施設とのつながり:市は関わっていない。周辺の農業法人との連携をとるようになっ た。 ・施設の宣伝方法:タウン誌や広告、岡山の子どもの雑誌を中心に宣伝している。 ・感想:元もとは観光農園を目指して造られた施設とのことだが、経営の難しさから焼肉バイキ ングがメインの食事のできる公園という形になったようだ。動物とのふれあいや遊具、広いス ペースで遊べることから子どもにとっては都会ではできないことのできる空間になっていると 思った。焼肉バイキングなどがある建物が風車の形をしていて目立つはずだが、風車が見える 場所に来るまでの道が細く入り組んでいてわかりにくかったのでもう少し道が通りやすければ 利用しやすいと思った。 ・施設の写真: 第 12 図 レストランなどがある建物 第 13 図 ふれあい動物園 上田手すき和紙工場 ・設立:個人 ・運営主体:個人経営 ・体験内容:横野和紙作りの紙すきの工程を体験できる。 ・利用期間:通年で製造している。体験は基本的に土曜日のみ。 ・施設の設備:和紙作りのための工場である。 ・訪れる人について:年間の体験者数は不明。小学生の親子体験や子ども会、学校などが取り組 んでいる。主に地域の子どもが体験に訪れる。小学 6 年生の子たちが卒業証書の紙を作りにき たこともある。 ・市や他の施設とのつながり:市とのつながりはない。 ・施設の宣伝方法:民芸展などへの出展や他の地域での体験イベントなども行っている。 ・感想:津山の伝統を守る工場で三椏(ミツマタ)を材料にして津山箔合紙(ハクアイシ)とい う和紙を作っていた。和紙はリサイクルのできる自然にやさしい紙で、製造のときに切り落と した部分をもう一度材料にできる無駄のない紙であることがわかった。近年はいろんな分野で 後継者が減り、横野和紙も作っているところが減ったそうだが、全国的には違う分野から興味 を持って後継者になる人もいるとのことだ。体験などを通して地域の文化などに興味を持ち取 り組む人がいるのはいいことだ。 ・施設の写真: 第 14 図 紙すきなどを行う部屋 第 15 図 干されている三椏 3. 津山市における体験・宿泊施設の現状 今回調査を行った津山市の体験・宿泊施設はまず運営主体が市と個人に分けることができる。 ところが、市が運営しているところは全て指定管理者制度により民間などに委託されていた。こ れは 2005 年に津山市と合併した旧町村にみられるもので、市は資金面での協力はしているものの、 運営自体はほとんど委託したところに任せっきりになっている。委託する場合、たいていは委託 金というものが発生し、運営者は市から決まった額のお金をもらい売り上げは市に渡すという形 になっている。その委託金の額も多くはないので、運営している方々はいかに無駄な支出を減ら し売り上げを伸ばすかを考えている。人件費を抑えるために従業員を少なくしたり、労働時間の 無駄をなくしたりするなどの工夫が見られた。これらのことから、市にも運営を行っているとこ ろにもお金がないことがわかる。しかしその一方で、自然景観を良くすることや訪れた人たちに 土地の説明や案内をする人員までなくなってしまっていた。そのため、その施設の良さのひとつ でもある自然景観が、訪れる人達にあまり伝わってないように感じられた。そのためか、訪れる 人の目的が宿泊・体験からバーベキューなどに移り変わっているようなところも見られた。その 施設に詳しい従業員などに話を聞くことで、その季節にしかない自然の楽しみ方を知ることがで きるはずだ。それにより、また訪れたいというリピーターが増えるのではないだろうか。 他に現状として各施設のつながりの薄さや津山市の施設に対する関心の薄さもあげられる。各 施設はそれぞれが比較的近い場所にあるので、それをうまく利用していけばもっと訪れる人を呼 び込めるのではないだろうか。それぞれ一時を楽しめる要素は持っているが、長時間そこで過ご すのは難しいと思えるところもいくつかあった。だからこそ、訪れる人をその土地に引き止める ために施設同士でのつながりを深くもつ必要があると感じた。また、市自体も施設の売り上げが 赤字にさえならなければ良いと考えているように感じられた。津山市が主となって積極的に動い ていかないと、運営を行っている人達だけで施設のつながりや地域のつながりをつくるのは難し い。だから、市が積極的に動いていくことが必要だといえる。これは、委託された施設関だけで なく、自然や農村景観をもつ体験・宿泊施設全体にとっても必要なことであるだろう。 宿泊施設 体験施設 黒木キャンプ場 アグリカルチャー美作の丘 阿波渓流釣り場 ウッディハウス加茂 奥津川ラビンの里 上田手すき和紙工場 風里 第 16 図 施設の分類図(下線があるのは市が運営しているもの) 資料:聞き取りより作成 第2表 施設の分類一覧表 運営主体 体験の種類 現津山市 魚のつかみどり (加茂町観光協会) 虫取り・工作 阿波渓流釣り場 現津山市(養魚組合) 釣り・魚のつかみどり 滝・川・山 ラビンの里 現津山市(ヒラメ組合) 釣り・魚のつかみどり 川・山 なし 山・民家 農業 民家・田園 黒木キャンプ場 ウッディハウス 風里 現津山市 (ふるさと振興公社) 個人経営 (グローカル久米) 景観 川・山 美作の丘 個人経営 芋ほり 田園 上田手すき和紙工場 個人経営 和紙作りの紙すき 山・民家 資料:聞き取りより作成 Ⅲ 日本におけるグリーン・ツーリズム 1.グリーン・ツーリズムとは 第Ⅰ章の調査目的のところでも述べたが、GT とは山漁村地域において自然、文化、人々との交 流を楽しむ滞在型の余暇活動となっている。また、これも先に述べたエコ・ツーリズムであるが、 これは法律内の定義 2)によれば、観光旅行者が自然観光資源について知識を有するものから案内 又は助言を受け、自然観光資源の保護に配慮しつつ自然観光資源と触れ合い、これに関する知識 および理解を深めるための活動をいうとなっている。さらに、山崎ほか(1990)によれば、基本 的に以下の3点を満たしているツーリズムを GT としている。 ① あるがままの自然の中でのツーリズムであること。手を入れない自然の中での滞在や散策な どが基本となる。 ② サービスの主体が農家などそこに居住している人たちの手によってなるものである。つまり、 訪問者は地元に住む人たちの手でつくられたサービスを享受する。 ② 農村のもつ様々な資源、生活・文化的なストックなどを、都市住民と農村住民との交流を通 して生かしながら、地域社会の活力の維持に貢献していること。 ヨーロッパから広がったといわれる GT であるが、国によってその意味や考え方、呼び名が様々 である。例えば、フランスで GT というと田園で行う余暇活動となり、先に挙げた3点を満たすよ うなものはツーリスム・ベールと呼ばれている。 このように、一言で GT と言っても定義はあいまいであり、どれが正しいということもないので、 本稿では筆者自身の考える GT の定義を決め、それを基に話を進めていくことにする。本稿では以 下の2点を満たすものを GT と呼ぶことにする。 ① 対象地域における文化または自然の中での滞在や散策などをして過ごす余暇活動。 ② 人と人との交流がもてるもの。つまり、対象地域に住む人たちと訪れた人たちが交流をもつこ とのできる空間であること。 2.日本型グリーン・ツーリズム 日本型の GT では、農林省が定義した「山漁村地域において自然、文化、人々との交流を楽しむ 滞在型の余暇活動」を受けて、 「農家民宿、農業体験をベースとした都市と農村の交流」という概 念で一般的に解釈されるようになった(宮崎 1995、石井 1996、依光・栗栖 1996、大江 田辺 1997、樋口 1997、 1997) 。このようなことから、日本におけるグリーン・ツーリズムでは農林漁 業体験民宿、都市と農村の交流そのものは農村観光あるいは観光農業である といえる(横山 2006) 。そのため、日本で考えられている GT と欧米で考えられている GT には、大きな違いが見ら れる。横山(2006)によれば、「グリーン・ツーリズムの‘green’とは、卖なる緑色の森林や緑 色の大地を意味するものではなく、この‘green’には、環境破壊に対する批判と問題解決のため の行動意識を含んでいることを理解しておくべきである。したがって、グリーン・ツーリズムに は、おのずとこの‘green’の概念が含まれており、広義には、ソフト・ツーリズムと同様に、環 境に優しい観光開発や経営、環境問題に意識をもった人々の観光行動など、広く『環境に優しい 観光』と解釈される用語なのである。したがってグリーン・ツーリズムは卖なる体験農業・農家 民宿としているわが国の解釈とはことなる」となっている。 つまり、日本型の GT には欧米の GT の根底にある「環境に優しい」という概念が抜け落ちてい るのだ。これからの日本の GT を考えていく上で、どのようにそれを取り入れていくかが重要とな るだろう。また、日本型の GT と欧米の GT には滞在期間の違いもある。欧米ではバカンスとして 週卖位で長期休暇をとることができる。それが、農山漁村で農業や自然環境と長く触れることに つながり、農山漁村独特の文化や自然の良さ、環境に優しくすること大切さに気付くことできる のだろう。しかし、日本では長期休暇を取る機会が少なく、もし休暇に旅行をするとしても1泊 2日や2泊3日になることが多く、日帰りになることも少なくない。そのような面から見ても、 日本では農村に滞在する機会があっても、自然の良さや地域の文化を知ることが希薄になりやす いといえる。そのために、環境に優しいことをするよりも短い期間にいかに楽しむか、多くを見 て回るかを考えてしまうのではないだろうか。したがって、日本における GT は環境に優しい観光 ではなく、環境をアトラクションにした観光といえるだろう。 Ⅳ 津山市の体験・宿泊施設とグリーン・ツーリズム 1.体験・宿泊施設へのグリーン・ツーリズムの評価 まず始めに以下の第3表を見てもらいたい。 第3表 体験・宿泊施設の評価と GT への取り組み 自然・文化との触れ合い 運営主体の 地域の人との交流 GT への取り組み 景観 体験 黒木キャンプ場 ○ ◎ × 阿波渓流釣り場 ◎ ◎ △ 行っていない 奥津川ラビンの里 ○ ○ × 行っていない ウッディハウス加茂 △ _ △ 行っていない 風里 ◎ ○ ○ 積極的に行っている 美作の丘 ○ △ × 行っていない 上田手すき和紙工場 ○ ○ ○ 行っていない 行いたいが 行っていない 資料:聞き取りより作成 ※ ◎はとても良い、○は良い、△はまあまあ、×は良くない この表の結果は、筆者自身が聞き取りを行ったときの話の印象や実際にその土地で感じた雰囲 気などを基にしている。今回の調査では体験を行っていないことや施設周辺を見ることができて いないことから、これは訪れた人が受ける印象とは違うかもしれない。景観の評価は視覚的な印 象から、ありのままの自然やその地域の雰囲気を感じられたかが基準となっている。そのため、 自然が多いから良いというわけではない。また、体験もその土地のものを活かしたところほど高 く評価している。本来の GT に近い、農業体験ができる2つの施設の評価を高くしなかったのは、 そこで行われている農業が伝統的なものや地域に根ざしたものではないためだ。地域の人との交 流の評価は、そこを訪れたときにどれだけ従業員や運営者、地域の人と関われるかを基準として いる。 各主体の GT への取り組みと表の結果から、各施設への筆者なりの GT の評価をしてみた(第3 表) 。この評価は、現在の GT の評価にプラスしてこれから GT へ取り組めるかどうかも合わせて考 えた評価である。 第4表 各施設に対する GT の評価 評価 黒木キャンプ場 自然景観や体験内容は GT の要素を十分にもっている。あとは、地域住民や地 域の文化などとの関わりをもてるようにすることが必要だと感じた。 阿波渓流釣り場 自然の要素が多く地域の雰囲気もあった。阿波という地域全体で見たときには GT として成り立っているのではないだろうか。 奥津川ラビンの里 景観はきれいであるが、ダムがあるためか少し人工的な感じがした。人がいな ければゆったりできることから季節によっては GT の要素はあるだろう。 ウッディハウス加茂 現状として GT の要素はほとんどない。しかし、地域のまつりへの参加なども行 っているみたいなので、そこに訪問者をまきこみ、地域とのつながりをもっと深く すれば GT も可能だろう。 風里 GT を目指しているだけあって、今後を考えてももっとも GT を行えるところだとい える。地域散策や農業を通して訪問者が地域の人ともっと関われるとさらによく なるだろう。 美作の丘 景観や体験を通して農業に触れ合えるという GT の要素はある。ただ、公園とい う印象が強く、お食事処ということからも GT は難しいだろう。 上田手すき和紙工場 今回唯一の文化的要素を含んだ施設であったが、GT の要素はあるように思え た。工場なので単独では GT になりえないが地域全体との協力し、GT を目指す なら十分可能だろう。 資料:聞き取りと現地の印象から作成 2. 体験・宿泊施設をグリーン・ツーリズムに結びつけるには これまでの考察の結果から今回調査を行った施設は7つあり、ほとんどの施設が自然や地域の 文化と触れ合う要素を持ち、GT の基があるといえるだろう。では、そこから今回訪れた体験・宿 泊施設のようなところを、どのように GT に結びつけるかを考えていきたいと思う。 第3章の2節でも述べたように日本における GT は欧米の GT を基にしてはいるが、実際の概念 は欧米のものと違うところがあり、とくに「環境に優しい」という部分でその違いは明らかであ る。ここでは「環境に優しい」という部分を意識しながら、本稿で定めた以下の①・②の定義の GT にどのように結びつけるかを考えていく。 ① 対象地域における文化または自然の中での滞在や散策などをして過ごす余暇活動。 ② 人と人との交流がもてるもの。つまり、対象地域に住む人たちと訪れた人たちが交流を もつことのできる空間であること。 まず、日本にあった GT を考えたいので、ターゲットとする対象の滞在時間を日帰りと1泊2日 であるとし、その短い期間内に①・②を達成した旅行とするためにはどうしたらいいかを考えて みる。体験ができる施設では短い期間であってもその土地の自然や文化に触れることができるだ ろう。しかし、それだけでは自然や文化をアトラクションにしたテーマパークに行くのとなんら 変わりはなく、環境に優しい旅行にはつながらない。大切なのは②にある施設のある地域に住む 人たちと交流できる空間であることである。たとえば、川で釣りをすることがあったとき、その 川の魚をただ取って焼いて食べるよりも、地域の人にその川の歴史や魚の名前、取り方、おいし い食べ方を聞き・実行する方がその土地の印象が残ることになるだろう。 つまり、施設の中で地域の人とほかの土地から訪れた人たちが交流を持てるようにしたら、体 験・宿泊施設への旅行を GT へ結びつけることができるのではないだろうか。しかし、運営主体が 市や市の委託先にある施設ではなかなか難しいことである。そのため、筆者の提案としては、週 に1度か月に1度、地域の人に施設を利用したイベントをしてもらったらいいのではないだろう か。お金がかかる施設では地域の人は少し安くするなど工夫をする。そうすることで、地域の人 が施設に来やすくなり、施設によく訪れるようになって他の地域から来た人との交流が生まれる。 たとえば、 「虫取りとバーベキューができる施設では夏の時期に、地域の人にバーベキューの場所 を無料で提供する。その代わりに週に1回地域の虫に詳しい人に、子どもたちを対象に夜の虫取 りツアーをやってもらう。 」というような施設と地域の人との結びつきを強め、それを他の地域か ら訪れた人へ広げていくということを行うことが GT に結びつけることになるのではないだろう か。地域の人がかかわることで、その施設がただのテーマパークではなく、地域の一部であるこ とを他の地域から訪れた人に感じてもらうことができるはずだ。そして、そこにある自然や文化 の大切さに気付いてもらうことにつながるだろう。 今の日本は都市と農村の関係が欧米に比べて遠いようだ。それなのに急に欧米の GT を行おうと しても無理がある。なので、その中継地点として今回調査を行ったような施設を考えるのもいい のではないだろうか。そうすれば、時間はかかるが環境に優しい本当の GT に近付けることができ るだろう。 Ⅴ おわりに 結論として、津山市の体験・宿泊施設での GT は可能である。しかし、そのための課題は多く、 解決するのは難しい。課題としてあげられるのは、行政と施設のつながり、施設と地域のつなが りという2つのつながりである。GT は卖独で行うのには限界がある。だから、制度を整えること や地域住民が GT に参加することが必要となってくる。 今回の筆者が考える GT は一般に言われる GT よりはエコ・ツーリズムの方が近いだろう。GT は 本来、都市住民の農村でのツーリズムの要素が大切になっている。しかし、近年の日本では農村 の境がわかりにくくなってきている。それは、調査を行った津山市にも言えることである。津山 市では合併のせいもあり、本来農村であったところが市となって行政区が変わり、農村ではなく 地域としての見方をしないといけないため、今までの GT で考えていくと難しい部分も多かった。 そのため、GT の定義の範囲を広げた。だが、本当に大切なのは、これが GT でこれは GT ではない と分けることではなく、都市住民にどのように農業や自然、スローライフの良さを伝えていくか と考えることだろう。 GT は目的ではなく、 地域活性などの手段として考えられることが望ましい。 付 記 本稿の作成に当たっては、津山市役所の方々、黒木キャンプ場の方々、阿波渓流茶屋の方々、 奥津川ラビンの里の方々、ウッディハウス加茂の方々、風里の方々、上田手すき和紙工場の方々、 アグリカルチャー美作の丘の方々、から多くの資料と貴重なお話を頂きました。以上、記して厚 く御礼申し上げます。 注 1)Yahoo!地図情報 津山市地図 http://map.yahoo.co.jp/ 2)e-Gov(イーガブ)ホームページ エコツーリズム推進法 http://law.e-gov.go.jp/announce/H19HO105.html 参考文献 山崎光博・小山善彦・大島順子(1990) :グリーン・ツーリズム 家の光協会。 横山秀司(2006) :観光のための環境景観学―真のグリーン・ツーリズムにむけて―古今書院。