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広域に存在する施設群に対する地震リスク評価 (Part3 : 損害保険

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広域に存在する施設群に対する地震リスク評価 (Part3 : 損害保険
広域に存在する施設群に対する
広域に存在する施設群に対する地震リスク評価
施設群に対する地震リスク評価 (Part3 : 損害保険ポートフォリオ解析)
損害保険ポートフォリオ解析)
損害保険ポートフォリオ、地震リスクカーブ、
地震ロス関数、シナリオ地震、予想最大損害額
正会員
同
○阿知波
水谷
正道*
守**
1. 概要
Seismic Hazard Information
Insurance Portfolio Information
a set of Scenario Earthquake
a set of Facilities
損害保険ポートフォリオとは、損害保険会社の保険契約の
Scenario
Earthquake
(i)
集合体を意味する。ポートフォリオ全体の保険金支払額は、
損害保険会社にとって最も重要な事項のひとつである。
Location (j)
Facility (j)
契約数が増えれば大数法則によりポートフォリオ全体の
Attenuation Relationship
支払額は期待値に収束する。しかし地震のような希な事象
Ground Motion (i,j)
では、多数の契約から成るポートフォリオでも期待値の実
Event Tree (j)
Seismic Loss Function (j)
現は難しい。近年、予想最大損害額という曖昧な指標の代
わりにリスクカーブを評価することが一般的になりつつ
Seismic Loss (i,j)
ある。リスクカーブとは損害額と発生確率の関係を表した
Summation
もので、保険会社にとってより良い情報となる。一般的に
Portfolio Loss (i)
は、長期にわたる支払履歴に基づいてリスクカーブを統計
Statistical Analysis
的に推定するが、地震損害のように極めて希な事象に対し
ては、リスクカーブを統計推定する十分なデータは期待で
Seismic Risk Curve of the portfolio
きない。その場合、リスクカーブはエンジニアリング手法
図 3-1Fig 3-1解析フロー
を導入して推定される。
Analysis Flow
の建物の位置における基盤加速度を計算する。
本論は、損害保険ポートフォリオに関する地震リスクカー
6) 地震ロス関数を用いて、シナリオ地震による建物毎の
ブの実用評価手法を提案するものである。評価に際し、日
損害を算出し、期待損失額を導出する。
本全国に分布する何千もの建物・設備から成る仮想の地震
保険ポートフォリオを用意した。
7) 全ての建物の期待損失を合算し、そのシナリオ地震の
ポートフォリオ損害額を算出する。
演算上の改良方法も本論で述べている。また、地震データ
8) 全てのシナリオ地震に対し、5),6),7)を適用する。
セットの精度に関する感度分析についても述べる。
9) シナリオ地震の発生頻度と 8)で得られた結果から、確
2. 評価において工夫した点
率論的に結果を導き、地震リスクカーブを描く。
2.1 モデル
3.2 損害保険ポートフォリオ情報
本論では、損害保険ポートフォリオを契約の集合体として
本論では、日本全国一円に位置する約 2,000 物件から成る
考え、損害額については各々の物件における損害額の合計
仮想の損害保険ポートフォリオを用いる(図 3-2)。
額をポートフォリオ全体の損害額とする。
2.2 イベントツリー(ET)
例題のポートフォリオは約 2,000 の仮想物件から成り、
各々の物件を構造や業種、地盤状態等により分類される。
分類毎に、ET モデルを適用する。
2.3 ばらつき
本来は、損害状態のばらつきを物件毎に考慮する必要があ
るが、損害保険ポートフォリオの場合、一つの地震で多く
の物件が被害を受け、その損害額の合計は期待値に収束す
る。本論では物件毎の損害状態のばらつきを無視し、シナ
リオ地震による損失期待値のみを推定するものとする。
3. 例題を用いた推定手法
Fig 3-2仮想ポートフォリオ
Hypothetical Insurance Portfolio
図 3-2
3.1 手法の概要
3.3 地震ロス関数の利点
1) 地盤状態、構造、業種等によって全ての建物をグループ
3.3.1ET
に分類する。本論では 192 グループとした。
地震被害は液状化被害、構造被害、地震火災等に分類され
2) ET により分類毎の地震損害をモデル化する。
これらを ET によって表現する。地震フラジリティカーブに
3) 物件毎に ET を適用し、損害額を算出する。
より、損害事象の発生確率を地震動の条件付確率として定
4) 全ての地震動に対し、ET を定量化して、各々の分類の
義する。損失割合に対応する確率は、各々のイベントの分
地震ロス関数を算定する。
岐確率を乗ずることによって算出される。全体の損失割合
5) ひとつの地震シナリオ毎に、距離減衰式を用いて全て
Seismic Risk Assessment Procedures for a System consisting of Distributed Facilities
-Part three- Insurance Portfolio Analysis
ACHIWA Masamichi, MIZUTANI Mamoru
は、全ての損失段階の損失割合を合算して得られる。
3.3.2 地震フラジリティカーブ
液状化被害、構造被害、地震火災被害等の地震フラジリテ
ィカーブを対数正規分布として定義する。その中央値と分
散は対象物件の構造と業種によるものとする。
3.3.3 地震ロス関数(SLF)
地震毎に ET を適用すると莫大な計算時間を要するため、そ
の節約のため地震ロス関数を事前に算定する。地震ロス関
数には地震動の不確定性も包含させる。
まず、応答加速度と基盤加速度の関係を地盤と構造の相互
関係を考慮して定義する。この定義により、ET は基盤加速
度のみから計算できる。基盤加速度は距離減衰式から計算
され、その不確定性を考慮するために、その値を中央値と
する対数正規分布であると定義する。
確率密度関数として導いた損失割合をそれぞれの基盤加
速度で平均し、基盤加速度の中央値を平均値に変換する。
3.4 地震ハザード情報
地震ハザードを位置、マグニチュード、発生頻度より定義
される地震シナリオデータセットとしてモデル化する。
3.5 推定方法
3.5.1 シナリオ地震(i)
地震シナリオの中からひとつのシナリオを選ぶ。
3.5.2 地震動の関係
距離減衰式として安中式を用いて基盤加速度を算出する。
3.5.3 損失(i,j)
物件毎の損失を約 200 の SLF を用いて計算する。SLF で物件
毎の損失割合、推定損害額を算出する。
3.5.4 ポートフォリオ損害額
物件毎の損害額を全て合算してポートフォリオ損害額を
算出する。
3.5.5 全てのシナリオ地震の計算
全てのシナリオ地震に対し、上記計算を行う。
3.5.6 地震リスクカーブ
シナリオ毎にポートフォリオ損害額と発生確率をプロッ
トする。3.3.5 の結果を Poisson 仮定により変換する。
4. 例題の評価結果
仮定のポートフォリオに対し、異なる数の地震シナリオを
用いて 2 本の地震リスクカーブを描いてみる(図 4-1)。
Estimated Loss
0
10,000
20,000
30,000
40,000
50,000
60,000
70,000
80,000
Annual Exceeding Probabili
1
0.1
0.01
10,000 Scenarios
0.001
20,000 Scenarios
0.0001
4.1 結果比較
結果は両者とも似通っており、特に 1/500 以上の超過確率
ではほとんど同じである。
どちらの場合も、超過確率 1/500 の点で不連続となってい
る。これは地震ハザードの離散によるものか、物件毎のば
らつきを無視していることによるものと考えられる。
ただし、実用目的上、超過確率 1/500 は十分小さい。
表 4-1 はこれらのリスクカーブから得られた特性値である。
リスクプレミアムとは期待値の保険業界の表現である。
表 4-1
推定損害額とリスクプレミアムの比較
Table 4-1 Comparisons of Estimated Loss and Risk Premium
Scenario
10,000 Scenario
20,000 Scenario
Loss of 99%ile
Risk Premium
36,254
34,560
これらの結果比較に基づき、シナリオ地震 10,000 ケースは
例題の地震ハザードを十分再現しているといえる。
4.2 計算時間の比較
ポートフォリオの地震リスクカーブ推定においては、計算
機の性能が大きく影響する。例題のポートフォリオに関し、
演算時間は 10,000 シナリオで 6.3 時間、20,000 シナリオで
34.2 時間であった。用いた計算機は以下の通りである。
CPU:Intel Pentium III 833Mhz, メモリー:256MB, ハー
ドディスク:10GB, OS:Microsoft Windows NT 4.0(J)
プログラムは Microsoft Visual Basic (Ver.6.0 SP3)で作
成した。この演算時間は一見長いが、アルゴリズムの見直
しやより高度な言語を用いて短縮できる可能性はある。
5. 結論と今後の課題
本論では、損害保険ポートフォリオに関する地震リスクカ
ーブを評価した。
日本全国に散在する約 2,000 物件の仮想損害保険ポートフ
ォリオを対象に、本手法の適用性を示した。
日本周辺の地震分布を再現するため、地震データセットの
精度に関する感度分析を行い、約 10,000 シナリオの地震デ
ータでそれ以上と同等の地震ハザードの表現ができるこ
とを示した。
今後の研究としては、以下のようなものが挙げられる。
リスクカーブ評価の精度向上に関しては、それぞれの物件
の地震ロス関数への依存度が高くその改良が望まれる。
アルゴリズムの改善による演算時間の短縮が望まれる。
1/500 より小さい確率について、それぞれの物件の損害額
のばらつきを考慮する方法について検討する必要がある。
参考文献
1)Mizutani,1998. Basic Methodology of SRM Procedures,
Structural Safety and Reliability, Shiraishi,
Shinozuka & Wen (eds) 1998 Baldema, Rotterdam, ISBN
2)Annaka & Nozawa, 1988. A Probabilistic model for
Seismic Hazard Estimation in the Kanto District, Proc.
9th WCEE
4-1 Comparison
of Seismic Risk Curve
図Fig4-1
地震リスクカーブ比較
*
安田リスクエンジニアリング(株)
* * (株)モダンエンジニアリングアンドデザイン
3,203
3,253
*
**
Yasuda Risk Engineering Co., Ltd.
Modern Engineering and Design Co., Ltd.
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