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熱力学第 3 法則 熱力学第 3 法則は

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熱力学第 3 法則 熱力学第 3 法則は
埼玉工業大学
テーマ K08:
機械工学学習支援セミナー(小西克享)
熱力学第 3 法則-1/5
熱力学第 3 法則
熱力学第 3 法則は「どのような方法を用いても,人工的に絶対温度の状態を作り出すこ
とはできない」というものです.このことを理解するには,熱と温度の意味から理解する
必要があります.
1.温度の意味
圧力も熱も共に分子の運動に起因して発生する事象ですが,運動の形態によって圧力と
なったり熱となったりするのです.圧力(pressure)は,分子間および分子と容器壁間の衝突
によって発生します.衝突のエネルギーが大きいほど(衝突が激しいほど)圧力が大きく
なります.一方,熱(heat)は,分子の振動および回転によって発生します.分子の振動や回
転が激しければ激しいほどエネルギーは大きくなり,物質は大きな熱を持つことになりま
す.熱と温度は近い関係にあるものの,異なる概念を持っています.熱がエネルギー(単
位は J)を表すのに対し,温度は寒暖の程度(単位は℃や K)を表しています.たとえば,
セルシウス温度(単位℃)は水が氷る温度(氷点)を 0 とし,沸騰する温度(沸点)を 100
としてその 100 分の 1 を 1℃と定義されています.一般に,振動(回転)が激しければ激
しいほど温度も高いことになりますが,相変化も考慮すると熱と温度が比例関係にあるわ
けではありません.
衝突
衝突
圧力の発生
回転
振動
エネルギーが周囲に伝播
熱の発生
図 1 圧力と熱の本質
2.温度の上限と下限
物体を加熱すると温度が上昇し,冷却すると温度が低下することはよく知られています
が,このとき,温度に上限と下限は存在するのでしょうか?水を加熱すると 100℃で沸騰
してしまい,それ以上には温度が増加することはありません.その意味で,相変化を起こ
す(固体から液体,もしくはその逆に変化する)性質を持つ物質には,温度の上限が存在
するとも言えますが,これは液相としての温度であり,蒸気になった状態の物質はさらに
温度を上昇させることができます.どこまで上昇するかは供給する熱と放熱量(熱損失)
の差で決まりますが,理論的に上限は存在しません.これは,振動(回転)のエネルギー
に上限がないことと一致しています.
埼玉工業大学
機械工学学習支援セミナー(小西克享)
熱力学第 3 法則-2/5
一方,冷却する場合は下限が存在します.振動(回転)のエネルギーが 0 になった場合,
すなわち,分子が完全に停止している状態がエネルギーの下限(ゼロ)であり,これより
小さい(負の)エネルギー状態は存在しません.分子が停止した状態が,温度としての下
限にもなります.絶対温度はこの温度の下限を 0(絶対零度)とし,水の三重点である 0.01℃
を 273.16K とするものです.また,温度差としての 1K と 1℃は同じものです.
3.pV 線図と絶対零度
理想気体の場合,圧力・体積および温度の関係は理想気体の状態方程式
pV  nRT
で表され,この方程式は pV 線図上では双曲線となります.絶対零度は T  0 なので代入す
ると
pV  0
となります.この条件を満たすには p が 0 か V が 0 もしくは p も V も 0 であることが考え
られます.このことから,絶対零度とは理想気体の状態が pV 線図の縦軸上もしくは横軸上
圧力 p
にあることを意味しています.
温度 T
のグラフ(双曲線)
温度一定のとき,p と V はこの線上にある.
1
温度が下がると軸に接近する.
1 からどの方向に変化するかは,状態
変化の仕方による.
体積 V
pV 線図
pV 線図の縦軸 p と横軸 V は絶対零度(T = 0)の状態を表す.
図 2 絶対零度の状態とは
pV 線図で V=0 の状態(縦軸上の状態)とは,どのような状態でしょうか?実在気体の
分子には体積があるため,分子が存在する限り V=0 という状態は実現できないことは容易
に理解できます.しかし,理想気体は分子の体積が 0 と仮定された仮想の気体であるため,
V=0 の状態でも分子が存在することに矛盾はありません.極限まで圧縮された状態で,分
子どうしの衝突は存在するものの,分子の振動や回転は起きていないと理解できます.一
方,p=0 の状態(横軸上の状態)は,分子が全く存在しないか,分子が存在する場合には
衝突,振動,回転を含むすべての運動を停止している状態といえます.
4.絶対零度の実現は可能か?
冷却すれば物質の温度を下げることができます.どんどん冷却すれば,やがて絶対零度
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機械工学学習支援セミナー(小西克享)
熱力学第 3 法則-3/5
に到達しそうなものですが,実際にはうまくいきません.温度を下げる一つの方法は,よ
り温度の低い冷媒(熱源)に熱を奪わせることです.この冷却方法は,固体,液体,気体
のすべてに適用することができますが,ある温度まで下げようとすれば,それより低い温
度の冷媒を用意しなければなりません.絶対零度にしようとすれば,冷媒の温度を絶対零
度より低くしなければならないことになります.絶対零度より低い温度は存在し得ないの
圧力 p
ですから,たとえ保温性を高め,さらに巨大な冷凍機を用いたとしても絶対零度を実現す
ることは不可能なのです.気体の場合,分子の運動を停止することができれば,図 3 の pV
線図では 1 から 2 に状態変化することになり,分子同士の衝突はなくなって圧力が 0 とな
り,絶対零度を実現することになるのですが,実際には上述のように絶対零度より低い冷
媒は存在しないため,分子の運動を止めることはできません.
温度 T
pV 線図
1
2
体積 V
図 3 等容冷却
気体を定容冷却しても,1 の状態から 2 の状態(分子
の運動が停止→絶対零度)に変化できない.
気体は断熱膨張すると気体の持つ内部エネルギーが膨張仕事に変換されるため,結果と
して温度が低下します.このときの状態変化は図 4 に示す通りです.絶対零度まで到達す
るには p=0(完全な真空状態)となるまで気体が膨張しなければなりません.膨張して分
子間の距離が遠ざかったとしても,無限大の距離となるかもしくは分子が消滅しない限り
分子の衝突が発生するため,p=0 とはなりません.気体を膨張させるだけでは分子を消し
去ることはできませんから,結局完全な真空は作り出すことはできないのです.したがっ
て,どんなに巨大な真空ポンプを用いても,完全な真空状態を作ることが不可能なため,
この方法でも絶対零度を実現することはできません.
圧力 p
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熱力学第 3 法則-4/5
温度 T
pv 線図
1
断熱膨張
体積 V
2?
図 4 断熱膨張
断熱膨張すれば気体の体積(m3)はどんどん増加し,p=0
に漸近するが,いくら膨張しても完全には p=0 にならない.
分子数が 0(→絶対零度)にはならない.
圧力を 0 にできないのであれば,体積 V を 0 にしてもよいはずです.体積を減らすには
冷却するか圧縮しなければなりません.0K まで冷却することが不可能なことは,上述のと
おりです.では,圧縮する場合はどうでしょうか?圧縮すれば気体の圧力が増加します.
さらに圧縮しようとすれば,より大きな圧力を加えなければなりません.体積 0 まで圧縮
するには無限大の圧力が必要となります.圧力を無限大にすることは不可能なことであり,
圧力 p
体積 V を 0 にすることはできないのです.たとえ冷却しながら圧縮したとしても,無限大
の圧力が必要なことに変わりはありません.結果として,絶対零度を実現することはでき
ないのです.
2
温度 T
冷却しないで圧縮した場合
1
pv 線図
等圧圧縮した場
合(冷却が必要)
体積 V
図 5 等圧圧縮
気体を等圧圧縮しても,1 の状態から 2 の状態(v=0→
分子数が 0→絶対零度)に変化できない.
5.熱力学第 3 法則の意味するところ
これまで述べたように,絶対零度に限りなく近づけることはできたとしても,絶対温度
に到達することはできないのです.分子の運動を止めることもできず,真空にする(容器
内の分子をすべて容器の外に取り出す)こともできない.これが,熱力学第 3 法則の意味
するところです.
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熱力学第 3 法則-5/5
余談
真空といえば宇宙を思い浮かべます.大気圏を飛び出して宇宙空間に到達すれば,そこ
は分子が存在しない真空の世界かといえば,実はそうではありません.銀河の存在する宇
宙空間にもわずかに分子は漂っており完全な真空状態ではありません.しかし,宇宙の果
て,銀河の外側には物質が何も存在しない空間が広がっているかもしれません.そのよう
な空間が存在するとすれば,そこは絶対零度の世界に違いありません.絶対零度は宇宙普
遍の温度基準であり,宇宙人(存在するとすれば)もきっと同意するはずです.このよう
に宇宙にまで思いを馳(は)せると,熱力学にも少し興味がわいてくるかもしれません.
http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/L_Support/SupportPDF/ThermoDynamics3rdLaw.pdf
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お願い: 本資料は,埼玉工業大学在学生の学習を支援することを目的として公開しています.本資料
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