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医療・福祉の仕事に従事する高齢労働者の仕事満足要因(PDF 166 KB)

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医療・福祉の仕事に従事する高齢労働者の仕事満足要因(PDF 166 KB)
第5章
第1節
医療・福祉の仕事に従事する高齢労働者の仕事満足要因
少子高齢社会のなかの医療・福祉
少子高齢社会を迎えている我が国において、65 歳以上の高齢者の割合は年々高まっている。
健康で長寿の高齢者が増加する一方で、病気やケガ、介護などに伴う高齢者の医療費や介護
費の増大も懸念されている。このような社会の変化もあり「医療・福祉」の仕事は近年急速
な成長をみせている 1 。また、我が国の高齢者の就業意欲の高さは一般によく知られており、
働く高齢者も年々増大している。政府もまた高年齢者雇用安定法の改正や、「70 歳まで働け
る企業の割合を 2010 年度までに 20%とする」との具体的な数値目標を掲げた高齢者雇用の
推進への取り組みをおこなっている。現在では、働く高齢者は決して珍しい存在とはいえな
くなっており、高齢者にとって医療・福祉は患者・利用者の立場からの関わりと同時に、労
働者として高齢者自身が働く職場としても注目されている。
このような社会的背景を踏まえ、成長産業の代表として医療・福祉産業をとりあげ、医療・
福祉の仕事に従事する高齢労働者がいきいき働くための要因を考察することが本章の目的で
ある。次節では、本章で使用するデータについて紹介し、医療・福祉の仕事に従事する高齢
労働者の特徴を明らかとする。つづく第 3 節において、高齢労働者がいきいきと働くための
仕事満足要因を分析する。最後に、第 4 節で分析結果の考察と今後の展望をおこなう。
第2節
医療・福祉の仕事に従事する高齢労働者の特徴
1.本章で使用するデータ
本章で使用するデータは、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構が 2009 年 10 月に実施
した「「高業績・活動的高齢者の活動状況と職業経歴」に関するアンケート調査」
(以下、
「本
調査」という。)の個人調査のアンケート回答データである 2 。なお本章では、本調査 Q1 で
年齢 65 歳未満と回答した者、および Q5 の役職について「経営者・役員」と、Q6 の雇用形
態について「経営者・自営業主・会社役員」と回答した者は分析対象から除いて分析をすす
めている。
2.医療・福祉の仕事に従事する高齢労働者の特徴
1
総務省「平成 17 年国勢調 査」によると、2000 年から 2005 年の 5 年間で最も 増加率の高い産業が医療・
福祉産業である。医療・福祉産業の伸び率は 25.3%増 であり、第 2 位「サービス 業(他に分類されないも
の)」が 9.4%増であること からも医療・福祉産業の急成長ぶりがうかがえる。
2
本調査の実施概要など詳細については第Ⅰ部「調査研究とアンケート結果の概要」を参照のこと。
−164−
ここでは、医療・福祉の仕事に従事する高齢労働者の特徴を明らかとする。まず、本調査
Q21「あなたはどのような仕事をしていますか」の結果から、「事務・管理関係」、「営業・販
売関係」、
「技術・研究関係」、
「現業・生産関係」、および「医療・福祉関係」と回答した者を
それぞれ「事務・管理職」、「営業・販売職」、「技術・研究職」、「現業・生産職」、「医療・福
祉職」と呼称し、5 職種に分類する 3 。5 職種それぞれの基礎集計データの特徴を表すと第 5-2-1
表となる。なお、医療・福祉職においては男性、女性別の集計もあわせて記述している。
第5−2−1表
医療・福祉職
1,109
人数
年齢
平均値
最大値
最小値
(男性)
399
(女性)
710
職種別基礎集計データ 4
事務・管理職
1,027
営業・販売職
393
技術・研究職
363
現業・生産職
956
全職種
3,848
68.0歳
83歳
65歳
67.7歳
86歳
65歳
67.5歳
80歳
65歳
68.0歳
80歳
65歳
67.8歳
79歳
65歳
67.8歳
86歳
65歳
399
(36.0)
710
(64.0)
831
(81.0)
195
(19.0)
311
(79.1)
82
(20.1)
352
(97.2)
10
(2.8)
785
(82.1)
171
(17.9)
2,678
(69.6)
1,168
(30.4)
70
(19.6)
117
(32.7)
101
(28.2)
70
(19.6)
255
(27.3)
305
(32.6)
264
(28.2)
111
(11.9)
805
(21.4)
1,169
(31.1)
1,150
(30.6)
630
(11.8)
性別
男性
女性
従業員数
50人以下
51-100人
101-300人
301人以上
198
(18.7)
349
(32.9)
362
(34.1)
152
(14.3)
70
(18.0)
115
(29.6)
141
(36.2)
63
(16.2)
128
(19.0)
234
(34.8)
221
(32.9)
89
(13.2)
193
(18.9)
297
(29.1)
306
(30.0)
224
(22.0)
89
(23.4)
101
(26.6)
117
(30.8)
73
(19.2)
医療・福祉
(96.6)
医療・福祉
(93.4)
医療・福祉
(98.4)
製造業
(19.7)
卸売業、小売業
(29.6)
業種(上位2つ)
第1位
第2位
製造業
製造業
(32.1)
(51.2)
学術研究、専
その他サービス その他サービス その他サービス その他サービス その他サービス
門・技術サービ 運輸業、郵便業
業
業
業
業
業
ス業
(10.7)
(1.0)
(1.8)
(0.6)
(17.5)
(14.9)
(13.9)
医療、福祉
(32.9)
製造業
(22.5)
役職
管理職
一般職
その他
124
(12.3)
485
(44.3)
48.7
(44.4)
57
(14.3)
159
(39.9)
182
(45.7)
67
(9.6)
326
(46.7)
305
(43.7)
396
(38.7)
371
(36.3)
255
(25.0)
113
(28.8)
158
(40.3)
121
(30.9)
93
(25.6)
141
(38.8)
129
(35.5)
87
(9.3)
543
(57.8)
310
(33.0)
813
(21.3)
1,698
(44.5)
1,302
(34.1)
181
(16.9)
343
(32.1)
544
(49.1)
66
(17.2)
153
(39.9)
164
(42.8)
115
(16.8)
190
(27.7)
380
(55.5)
251
(25.5)
553
(56.1)
181
(18.4)
74
(19.5)
200
(52.8)
105
(27.7)
70
(19.8)
234
(66.1)
50
(14.1)
160
(17.3)
368
(39.7)
399
(430)
736
(19.8)
1,698
(45.7)
1279
(34.4)
101-200万円
(39.1)
100万円以下
(21.3)
101-200万円
(39.9)
201-300万円
(19.7)
101-200万円
(38.6)
100万円以下
(23.5)
201-300万円
(28.2)
101-200万円
(25.4)
201-300万円
(34.1)
101-200万円
(28.4)
201-300万円
(34.7)
101-200万円
(23.1)
101-200万円
(41.4)
201-300万円
(28.4)
101-200万円
(33.4)
201-300万円
(26.9)
雇用形態
正社員
嘱託・契約
パート等
収入(上位2つ)
第1位
第2位
年齢をみると、平均年齢は 67.8 歳である。職種による違いはほとんどみられない。ただし、
最高年齢では現業・生産職の 79 歳から事務管理職の 86 歳まで 7 歳の差がみられた。性別を
3
なお、「その他」、「無回答」と回答した者は除いている。
4
注 1)数値は回答者数を、括弧内の数値は割合を表している。
注 2)性別、役職では、
「無回答」を、従業員数、業種、収入では、
「わからない」、
「無回答」を除いてある。
また、雇用形態では「わからない」、「無回答」とともに「その他」も除いている。なお、役職と業種につ
いては「わからない」、「無回答」は除いているが、「その他」は含めて集計している。
−165−
みると、医療・福祉職とそれ以外の職種では大きく特徴が異なっており、医療・福祉職では
約 3 人に 2 人が女性であるが、他の職種では男性が多数を占めている。
現在の会社の従業員数では職種による大きな違いはみられず「51-100 人」および「101 人
-300 人」の会社規模のなかに約 6 割が集中している。業種をみると、医療・福祉職では圧倒
的多数が医療・福祉産業で働いているが、他の職種では、現業・生産職で製造業が過半数を
占めている以外はどの職種も幅広い業種で働いており、特定の業種への偏りはみられなかっ
た 5。
役職をみると、当然ながら事務・管理職で管理職の割合が高く、現業・生産職でその割合
は低い。平均より管理職の割合が高い職種は営業・販売職、技術・研究職であり、医療・福
祉職は、管理職の割合が低い。女性に限定すると管理職は 1 割にも満たない 6 。
雇用形態では、正社員の割合が最も高いのは事務・管理職の 25.5%であり、それ以外の職
種では正社員の割合は 15∼20%程度と低く、多くの高齢労働者が非正社員として雇用されて
いることがわかる。さらに非正社員の内訳をみると職種ごとにやや特徴が異なっており、技
術・研究職、事務・管理職、営業・販売職では嘱託・契約(嘱託社員、契約社員)の割合が
パート等(パート社員、アルバイト)より高いのに対し、医療・福祉職、現業・生産職では
パート等の割合が嘱託・契約より高い。また、医療・福祉職で女性に限定すると半数以上が
パート等として働いていることがわかる。
収入(ボーナスを含む年間収入)をみると、医療・福祉職と現業・生産職において全体平
均より低く、とりわけ医療・福祉職では 100 万円以下の年収で働いている人が 21.3%を占め
ていることがわかった。
これらのことから、医療・福祉職では、役職に就いている人の割合が低く収入水準も低い
ことがわかる。また女性の割合が高いことも大きな特徴といえる。一般に年齢や職種にかか
わらず女性労働者では、パート等の雇用形態で配偶者控除等を考慮して年収調整をおこない
ながら働いている人も少なくないが、事例調査や本調査のアンケートデータからもおおむね
そのような傾向が確認されている。
つづいて、職業経歴について、現在の会社に入社した時期と今の仕事の経験年数(現在の
会社に入社する前から今の仕事をしていた場合は通算して考える)を職種別にみると第 5-2-2
表のようになる。第 5-2-1 表と同様、医療・福祉職においては男性、女性別の集計もあわせ
て記述している。
5
図表には載せていないが第 3 位以下をみても、事務 ・管理職、営業・販売職、技術・研究職は複数の業
種にまたがっている。
6
なお、役職において「その他」を含めて集計している。この理由として、①その他と回答した者の割合
が 3 割を超えて存在する、 ②その他と回答した人の 90%以上が雇用形態を問う設問 Q6 で「正社員(期間
の定めなし)以外」と回答しており、正社員ではないことからその他と回答した者が多いと推測できるた
めである。そこで本章では、特段の断りのない限り役職その他も一般職と同義として扱うことにする。な
お、本章における「管理職」とは、「係長・係長クラス」、「課長・課長クラス」、「部長・部長クラス」と回
答した人を合算した値である。
−166−
第5−2−2表
人数
入社時期
50歳未満
50歳代
60歳以降
職種別入社時期・仕事経験
医療・福祉職
1,109
(男性)
399
(女性)
710
事務・管理職
1,027
営業・販売職
393
技術・研究職
363
現業・生産職
956
全職種
3,848
272
(24.9)
242
(22.2)
577
(52.9)
55
(14.0)
60
(15.2)
279
(70.8)
217
(31.1)
182
(26.1)
298
(42.8)
372
(36.7)
234
(23.1)
408
(40.2)
169
(43.0)
110
(28.0)
197
(27.7)
136
(37.7)
76
(21.1)
149
(41.3)
426
(45.2)
211
(22.4)
306
(32.4)
1,375
(36.2)
873
(23.0)
1,547
(40.8)
187
(17.2)
248
(22.8)
192
(17.6)
141
(13.0)
320
(29.4)
113
(28.8)
121
(30.8)
46
(11.7)
17
(4.3)
96
(24.4)
74
(10.6)
127
(18.3)
146
(21.0)
124
(17.8)
224
(32.2)
159
(15.8)
215
(21.3)
199
(19.7)
117
(11.6)
319
(31.6)
36
(9.3)
75
(19.4)
57
(14.7)
65
(16.8)
154
(39.8)
14
(3.9)
43
(11.9)
49
(13.6)
27
(7.5)
228
(63.2)
111
(11.9)
172
(18.4)
191
(20.4)
133
(14.2)
328
(35.1)
507
(13.4)
753
(19.9)
688
(18.2)
483
(12.8)
1,349
(35.7)
仕事経験(通算)
5年未満
5-10年未満
10-20年未満
20-30年未満
30年以上
入社時期をみると、医療・福祉職、事務・管理職、技術・研究職では 60 歳以降入社の割合
が最も高い。これらの職種では 60 歳を超えてから中途入社する人が多く、とりわけ医療・福
祉職では 2 人に 1 人以上が 60 歳以降に現在の会社に入社していることがわかる。さらに男性
に限定すると 7 割を超える人が 60 歳以降に入社しているという特徴がある。
仕事経験をみると、一般に長期の経験、専門知識・技術等が必要とされる技術・研究職に
おいて 30 年以上の経験を有する人が 63.2%と高い値を示している。それ以外の職種では医
療・福祉職で経験年数の短い人の割合(5 年未満 17.2%、5-10 年未満 22.8%)がやや多い程
度でそれほど大きな違いはみられない。ただし、医療・福祉職のなかにおける性別の違いは
大きくでている。男性では経験年数 5 年未満が 28.8%と 3 割弱にのぼるが女性では 1 割程度
と少ない。また経験年数 20 年を超えるベテラン労働者の割合も女性の方が圧倒的に多い。こ
のように医療・福祉職を男性、女性別にみると、男性では 60 歳を超えて入社する人の割合が
高く経験年数の短い人が多く、女性では経験年数 30 年以上が 3 割を超えており 20 年以上の
人を合わせたベテラン労働者が過半数を占めていることがわかる。
以上の職種別基礎集計データから、医療・福祉の仕事に従事する高齢労働者の特徴をまと
めると、①女性の割合が多い、②ほとんどが医療・福祉産業で働いている、③管理職の割合
が低く、女性にその傾向が顕著である、④パート等の割合が高く、女性にその傾向が顕著で
ある、⑤収入水準が低く、女性にその傾向が顕著である、⑥男性に 60 歳以降入社で仕事の経
験年数が短い人が多く、女性では経験年数の長い人は少なくない、といえる。
次節では医療・福祉の仕事でいきいきと働いている高齢労働者の特徴は何か、そのために
会社の取り組みとしてどのようなものが効果的であるのか、そこに男性と女性との間で違い
があるのか、これらのことを明らかとすることを目的に高齢労働者の満足要因について分析
をおこなう。
−167−
第3節
いきいきと働くための満足要因分析
前節までで明らかとなったように、医療・福祉産業は近年急成長を遂げており、少子高齢
社会の進展とともに今後も引き続き成長していくことが想定される。医療・福祉産業の需要
拡大にともない労働者の確保が求められており、近年、医療・福祉産業における雇用は拡大
し続けている。長年にわたり医療・福祉職として働いている人はもちろん、就業意欲の高い
高齢者にとって 60 歳以降あるいは定年後の新たな仕事として医療・福祉の仕事を選択する機
会も増えてくると思われる。
このような現状認識のもと、高齢者雇用がますます拡大すると思われる医療・福祉の仕事
のなかで当該高齢者がいきいきと働くためにはどのような要因が考えられるのか、その特徴
を捉えることを目的に高齢労働者の満足要因について分析する。具体的には、従属変数に満
足度を、独立変数に個人要因、仕事要因、会社要因の 3 種類の要因を投入した重回帰分析を
おこなう。
1.重回帰分析で用いる変数
(1)従属変数:満足度要因
重回帰分析の従属変数には、Q13「今の仕事に満足していますか」(9 項目、それぞれ「非
常に満足している=5 点」から「非常に不満である=1 点」までの 5 点尺度)の設問について
因子分析をおこない満足度因子を抽出して従属変数とする。因子分析の結果は、第 5-3-1 表
のとおりである。
満足度(因子負荷量) 7
第5−3−1表
1
2
.206
Q13_1 担当する仕事内容
.681
Q13_2 作業環境
.640
.301
Q13_3 収入
.287
.851
Q13_4 賃金の決め方
.279
.869
Q13_5 (上司との)人間関係
Q13_6 (同僚との)人間関係
.679
.681
.246
.135
Q13_7 労働時間
.554
.391
Q13_8 仕事全体
.767
.314
Q13_9 高齢者雇用への取り組み
.567
.872
.353
.900
α
固有値
累積寄与率(%)
4.851
1.077
35.266
58.232
因子分析の結果、固有値 1 以上をもつ因子は 2 つ抽出された。第 1 因子は仕事に関連する
7
注 1)因子抽出法は主因子法を用いた。注 2)因子負荷量はバリマックス回転後のものである。注 3)下
線は因子負荷量の絶対値 0.4 以上のものである。
−168−
設問項目が多いことから「仕事満足度」因子、第 2 因子は収入に関連する項目であることか
ら「収入満足度」因子とそれぞれ呼ぶことができる。信頼性分析をおこない尺度の信頼性を
表すクロンバッハのアルファ係数はそれぞれ 0.872、0.900 と高い値を示していることから一
定の信頼性が確保されていると解釈できる。
因子分析によって得られた 2 つの因子について、下位尺度得点を該当設問項目の平均値で
算出して「仕事満足度」、「収入満足度」の 2 つを従属変数とする。
(2)満足度に影響を与える変数:(a)個人の要因
独立変数として、高齢労働者個人の属性や職業経歴に関する「個人要因」、現在の仕事特性
等に関する「仕事要因」、会社や上司の取り組みに関する「会社要因」の 3 種類を考える。
個人要因のうち個人属性には、Q1「年齢」、Q2「性別」(男性=1、女性=0)、Q16「経験年
数」
(5 年未満=1、5∼10 年未満=2、10∼20 年未満=3、20∼30 年未満=4、30 年以上=5)、Q14
「入社時期」(50 歳以前=1、50 歳代=2、60 歳以降=3)、Q3「会社規模」(50 人以下=1、51∼
100 人以下=2、101 人∼300 人以下=3、301 人以上=4)、Q5「役職」
(管理職=1、一般職および
その他=0)、Q6「雇用形態」
(正社員=1、嘱託・契約およびパート等=0)、の 7 項目を用いる。
個人要因のうちキャリア・経験に関する変数として、Q19「60 歳より前に経験したこと」
の 15 項目(それぞれ「非常に当てはまる=5 点」から「全くあてはまらない=1 点」の 5 点尺
度)について因子分析をおこない独立変数を作成する。因子分析の結果は第 5-3-2 表のとお
りである。
第5−3−2表
キャリア・経験(因子負荷量) 8
1
2
3
4
Q19_1 仕事をするうえで模範となる師匠や先輩がいた
.165
.116
.568
.092
Q19_2 役に立っている実感が持てる仕事を担当した
Q19_3 試行錯誤しながら仕事を進めた
Q19_4 人柄の良いひとがいた
.136
.233
.208
.188
.234
.074
.504
.282
.678
.329
.182
.007
Q19_5 経営者またはそれに近い立場で仕事を担当した
Q19_6 厳しい昇進競争にさらされてきた
Q19_7 仕事で失敗したとき、原因の追及につとめた
Q19_8 自分の仕事をふりかえり、反省・評価につとめた
Q19_9 他の人の考え方やものの見方を参考にした
Q19_10 仕事の手順をさだめることが難しい仕事を担当した
Q19_11 後輩から指導を受けて仕事をした
Q19_12 指導者からの教えだけでなく、技を盗む努力をした
Q19_13 仕事で「一人前になった」と認めてもらった
Q19_14 資料や書籍などで、仕事に必要な知識を学習した
Q19_15 仕事に必要な資格を取得した
.052
.085
.605
.772
.641
.238
.134
.435
.251
.252
.111
.768
.581
.644
.320
.164
.065
.623
.212
.169
.331
.161
.047
.664
.099
.034
.099
.205
.366
.156
.076
.231
.220
.151
.072
.659
.072
.103
.169
.164
.175
.213
-.047
.217
.274
.694
.628
.633
4.679
12.859
1.445
23.493
1.220
33.299
1.117
41.947
α
固有値
累積寄与率(%)
8
注 1)因子抽出法は主因子法を用いた。注 2)因子負荷量はバリマックス回転後のものである。注 3)下
線は因子負荷量の絶対値 0.4 以上のものである。
−169−
因子分析の結果から、固有値 1 以上の因子が 4 つ抽出された。第 1 因子は、自らの仕事ぶ
りのふりかえりや失敗の原因追及を試みる態度・行動から「内省経験」因子と呼ぶことがで
きる。第 2 因子は、昇進競争を経験し経営者に近い立場で仕事をしてきた経験から「昇進経
験」因子と呼ぶことができる。第 3 因子は、上司や先輩、人柄のよい人たちに囲まれた職場
環境から「職場の人間関係」因子と呼ぶことができる。第 4 因子は、
「自己研鑽」因子と呼ぶ
ことができる。信頼性分析の結果、信頼性を表すクロンバッハのアルファ係数はそれぞれ 0.6
以上であることから一定の信頼性が確保されていると解釈できる。因子分析で得られた「内
省経験」、「昇進経験」、「職場の人間関係」、「自己研鑽」の 4 因子それぞれについて下位尺度
得点を該当設問項目の平均値で算出し 4 つの独立変数とする。
(3)満足度に影響を与える変数:(b)仕事の要因
仕事要因は、現在の仕事の特性、発揮している能力、職場における自分自身のふるまい、
の 3 種類の要因から考える。まず仕事の特性として、「非常に当てはまる=5 点」から「全く
あてはまらない=1 点」の 5 点尺度からなる Q22「現在、あなたはどのような仕事を担当して
いますか」の 16 項目について因子分析をおこない変数を作成する。分析の結果は第 5-3-3 表
のとおりである。
第5−3−3表
仕事の特性(因子負荷量) 9
1
2
3
4
Q22_1 仕事のやり方や進め方を自分で決められる
.125
.139
.847
.121
Q22_2
Q22_3
Q22_4
Q22_5
仕事の量を自分で決められる
同じ作業のくりかえしを求められる
仕事のやり方や進め方の工夫を求められる
会社に貢献していることを実感できる
.074
.146
.222
.773
.104
.011
.289
.166
.784
.252
.236
.208
.138
.065
.125
.100
Q22_6 社会の役に立っていることを実感できる
Q22_7 職場の仲間と一緒に働いていることを実感できる
Q22_8 働きぶりが、他の従業員にはっきりわかる
Q22_9 自分ひとりで仕事が完結する
Q22_10 後輩の育成や指導をまかせられる
Q22_11 他の従業員の支援や補助をする
Q22_12 部署やグループの管理や統括をする
Q22_13 今までの経験や知識を存分に活かせる
Q22_14 会社の業績に大きく貢献できる
Q22_15 最先端の知識や技術が求められる
Q22_16 高い成果や業績を求められる
.729
.622
.505
.143
.145
.298
.069
.287
.464
.149
.173
.791
.166
.137
.128
.111
.280
.167
.322
.433
.466
.771
.822
.820
.200
.097
.135
.303
.230
.078
.255
.249
.169
.065
.116
.834
.044
.122
.249
.102
.718
.496
.646
.233
.308
.219
.254
.747
5.571
14.679
1.544
27.809
1.509
39.599
1.098
49.546
α
固有値
累積寄与率(%)
9
注 1)因子抽出法は主因子法を用いた。注 2)因子負荷量はバリマックス回転後のものである。注 3)下
線は因子負荷量の絶対値 0.4 以上のものである。
−170−
因子分析の結果から、固有値 1 以上の因子が 4 つ抽出された。第 1 因子は、
「社会・会社と
のつながり」因子と呼ぶことができる。社会の役に立っている実感、会社へ貢献している実
感、職場の仲間と一緒に働いている実感など他者とのつながりを重視していることが読み取
れる。第 2 因子は、仕事について成果や業績を求められているという実感とその要求に貢献
しているという実感から「業績への貢献」因子と呼ぶことができる。第 3 因子は、仕事のや
り方や仕事量の裁量性を表していることから「仕事の裁量性」因子と呼ぶことができる。第
4 因子は、部下の育成・指導、部署の管理・統括をおこなう仕事を表していることから「管
理・育成の仕事」因子と呼ぶことができる。信頼性分析の結果、信頼性を表すクロンバッハ
のアルファ係数はそれぞれ 0.7 以上であるため一定の信頼性が確保されていると解釈できる。
分析で得られた「社会・会社とのつながり」、「業績への貢献」、「仕事の裁量性」、「管理・育
成の仕事」の 4 因子それぞれについて下位尺度得点を該当設問項目の平均値で算出し 4 つの
独立変数とする。
つぎに、現在の仕事で発揮している能力について、Q17「今の仕事で、以下の能力は発揮
できていますか」の 10 項目(それぞれ「十分発揮できる=5 点」から「全く発揮できない=1
点」の 5 点尺度)について因子分析をおこない変数を作成する。分析結果は第 5-3-4 表のと
おりである。
第5−3−4表
仕事での能力発揮(因子負荷量) 10
1
2
Q17_1 専門知識・技術
Q17_2 判断力
Q17_3 意見を調整する力
.637
.726
.818
.187
.330
.248
Q17_4
Q17_5
Q17_6
Q17_7
Q17_8
.677
.606
.456
.280
.234
.317
.437
.480
.552
.791
.305
.176
.707
.517
.866
5.022
28.941
.805
1.189
53.183
メンバーを引っ張る力
ものごとに対する広い視野
人とのつながり
忍耐強さ
新たな環境に適応できる力
Q17_9 新しいことに対する挑戦意欲
Q17_10 体力
α
固有値
累積寄与率(%)
因子分析の結果、固有値 1 以上の因子が 2 つ抽出された。第 1 因子は、調整力、判断力、
牽引力、専門知識など仕事で求められる能力を表すことから「仕事能力」因子と呼ぶことが
できる。第 2 因子は、対応力、挑戦意欲など新しい環境への適応を表すことから「環境適応」
因子と呼ぶことができる。信頼性を表すクロンバッハのアルファ係数はそれぞれ 0.8 以上で
あるため一定の信頼性が確保されていると解釈できる。分析で得られた「仕事能力」、「環境
10
注 1)因子抽出法は主因子法を用いた。注 2)因子負荷量はバリマックス回転後のものである。注 3)下
線は因子負荷量の絶対値 0.4 以上のものである。
−171−
適応」の 2 因子について下位尺度得点を該当設問項目の平均値で算出して 2 つの独立変数と
する。
最後に、職場における自分自身のふるまいについて、Q11「あなたの職場でのふるまい」
の 14 項目(それぞれ「非常に当てはまる=5 点」から「全くあてはまらない=1 点」の 5 点尺
度)について因子分析をおこない変数を作成する。分析結果は第 5-3-5 表のとおりである。
第5−3−5表
職場におけるふるまい(因子負荷量) 11
1
Q11_1 上司や会社の立場を考えて行動している
Q11_2 職場での、仕事のやり方に口をだしすぎない
Q11_3 むりに自分の意見・考えを押しとおさない
Q11_4 年下の意見にも素直に耳をかたむける
Q11_5 人の和を考えて行動している
Q11_6 若い人とも積極的に話をしている
Q11_7 社内で果たすべき役割を考えて行動している
Q11_8 自分の仕事のやり方や進め方に問題がないかど
うか、考えながら行動している
Q11_9 会社の資源(設備、人、資金)に制約があって
も、そのなかで最良の方法を考えている
Q11_10 仕事では、妥協しない
Q11_11 困難にぶつかったとき、原因を徹底的に追求す
る
Q11_12 今までの仕事のやり方にこだわらない
Q11_13 あらたな職場や会社にかわるときは、そこでの
やり方や進め方にあわせようとしている
Q11_14 年齢によって仕事のできばえが悪くならないよ
うに、仕事のやり方や進め方に工夫をしている
α
固有値
累積寄与率(%)
2
3
.481
.227
.185
.611
.738
.624
.629
.566
.271
.086
.093
.176
.148
.183
.335
.425
.248
.689
.818
.353
.236
.126
.110
.158
.439
.374
.121
.139
.197
.583
.727
-.001
.048
.241
.247
.417
.304
.237
.213
.394
.426
.189
.844
5.356
20.469
.686
1.432
34.212
.758
1.069
45.596
因子分析の結果から、固有値 1 以上の因子が 3 つ抽出された。第 1 因子は、人の和を考え
た行動や年下の意見に素直に耳をかたむける姿勢を表していることから「傾聴の姿勢」因子
と呼ぶことができる。第 2 因子は、困難な出来事がおこっても原因の徹底追求や仕事で妥協
しないという姿勢を表していることから「仕事の完成度追求」因子と呼ぶことができる。第
3 因子は、無理に自分の意見を押し通したり、あまり口を出しすぎない姿勢を表しているこ
とから「控えめな態度」因子と呼ぶことができる。信頼性を表すクロンバッハのアルファ係
数はそれぞれ 0.6 以上であることから一定の信頼性が確保されていると解釈できる。分析で
得られた「傾聴の姿勢」、「仕事の完成度追求」、「控えめな態度」の 3 因子それぞれについて
下位尺度得点を該当設問項目の平均値で算出し 3 つの独立変数とする。
(4) 満足度に影響を与える変数:(c)会社の要因
11
注 1)因子抽出法は主因子法を用いた。注 2)因子負荷量はバリマックス回転後のものである。注 3)下
線は因子負荷量の絶対値 0.4 以上のものである。
−172−
会社要因として、会社の取り組み、上司の取り組みの 2 種類の要因から考える。まず、会
社の取り組みについて、Q20「会社や、今のあなたの上司(直属)はどのようなことをして
いますか」の設問のうち会社の取り組みに関連する 1 から 12 までの 12 項目(それぞれ「非
常に当てはまる=5 点」から「全くあてはまらない=1 点」の 5 点尺度)による因子分析をお
こない変数を作成する。分析結果は第 5-3-6 表のとおりである。
第5−3−6表
会社による取り組み(因子負荷量) 12
1
Q20_1
Q20_2
Q20_3
Q20_4
Q20_5
会社は、高齢者が必要であることを従業員に伝えている
会社は、高齢者を大切にする風土を作っている
会社は、仕事内容や労働条件について、多様な選択肢を設けている
会社は、私の上司に対して高齢者に配慮するようにうながしている
会社は、高齢者の意見をすいあげる努力をしている
Q20_6 会社は、仕事の負担が軽くなるように、職場改善を積極的に進めている
Q20_7 会社は、仕事についていけない場合、ほかの職場に変えてくれる
Q20_8 会社は、勤務時間や勤務日を決めさせてくれる
Q20_9 会社は、会社負担で研修を受けさせてくれる
Q20_10 会社は、わたしの働きぶりや成果を評価してくれる
Q20_11 会社は、能力や業績に応じて、給与を決めてくれる
Q20_12 会社は、仕事を通じて成長する機会を与えてくれる
α
固有値
累積寄与率(%)
2
.729
.819
.627
.734
.713
.125
.162
.303
.277
.420
.579
.313
.242
.119
.308
.168
.472
.474
.334
.562
.572
.703
.186
.889
5.415
27.543
.795
.788
1.514
50.167
結果をみると、固有値 1 以上の因子が 2 つ抽出された。第 1 因子は、高齢労働者への配慮
を表していることから「会社の高齢者配慮」因子と呼ぶことができる。第 2 因子は、仕事を
通じての成長機会を表していることから「会社の能力開発機会」と呼ぶことができる。信頼
性を表すクロンバッハのアルファ係数はそれぞれ 0.7 以上であるため一定の信頼性が確保さ
れていると解釈できる。分析から得られた「会社の高齢者配慮」、「会社の能力開発機会」の
2 因子について下位尺度得点を該当設問項目の平均値で算出し 2 つの独立変数とする。
つづいて上司の取り組みについて、Q20「会社や、今のあなたの上位(直属)はどのよう
なことをしていますか」の設問のうち上司の取り組みに関連する 13 から 24 までの 12 項目(そ
れぞれ「非常に当てはまる=5 点」から「全くあてはまらない=1 点」の 5 点尺度)による因
子分析をおこない変数を作成する。分析結果は第 5-3-7 表のとおりである。
12
注 1)因子抽出法は主因子法を用いた。注 2)因子負荷量はバリマックス回転後のものである。注 3)下
線は因子負荷量の絶対値 0.4 以上のものである。
−173−
第5−3−7表
上司による取り組み(因子負荷量) 13
1
2
3
Q20_13 上司は、わたしの健康面を気にかけてくれる
Q20_14 上司は、年長者に敬意を払ってくれる
.684
.728
.348
.333
.027
.056
Q20_15
Q20_16
Q20_17
Q20_18
上司は、家族や趣味などのプライベートな話を聞いてくれる
上司は、部下の意見をわけへだてなく聞いてくれる
上司は、わたしの役割を、他の従業員に広く伝えてくれる
上司は、意見のくい違いがあったとき、私の考え方を試させてくれる
.714
.723
.762
.646
.246
.401
.255
.296
.086
.049
.208
.243
Q20_19
Q20_20
Q20_21
Q20_22
上司は、高い知識や経験を持っている
上司は、部下への指示が的確である
上司は、信念をもって仕事をしている
上司は、職場の人間関係に気を使っている
.314
.361
.377
.484
.746
.826
.783
.627
.091
.080
.116
.119
.135
.029
.183
-.018
.562
.437
.903
6.286
30.447
.911
1.200
54.485
.386
1.063
60.024
Q20_23 上司は、私が昔から知っている人である
Q20_24 上司は、私のかつての部下であった
α
固有値
累積寄与率(%)
結果をみると、固有値 1 以上の因子が 3 つ抽出された。第 1 因子は、上司が高齢労働者の
役割を他の従業員と共有し健康面を気遣ってくれるなどの項目であることから「上司の高齢
者配慮」因子と呼ぶことができる。第 2 因子は、上司の指示の的確性や高い知識・経験を保
有しているなど「上司の仕事能力」因子と呼ぶことができる。第 3 因子は、上司との長年の
つきあいを表す項目であることから「つきあい」因子と呼ぶことができる。信頼性を表すク
ロンバッハのアルファ係数をみると、第 1 因子、第 2 因子はそれぞれ 0.903、0.911 と高い値
を示しており一定の信頼性が確保されていると解釈できるが、第 3 因子では、0.386 と低い
値を示しているため一定の信頼性が確保されているとはいいがたい。そのため、上司による
取り組み要因については、
「上司の高齢者配慮」、
「上司の仕事能力」の 2 因子についてのみ変
数を作成する。作成方法は他の変数と同様に下位尺度得点を該当設問項目の平均値で算出す
る方法をとる。
(5)満足度を従属変数とした重回帰分析のモデル
以上の従属変数、独立変数を整理して重回帰分析の分析モデルを提示すると第 5-3-1 図と
なる。なお、重回帰分析では、まず、これまでのキャリア・経験が満足度に与えている影響
をみるために個人要因(個人属性およびキャリア経験変数)のみを独立変数とした重回帰分
析(モデルⅠ)をおこない、次いで、個人要因とともに現在の仕事要因、会社要因を独立変
数に加えた重回帰分析(モデルⅡ)の 2 段階からなる重回帰分析をおこなう。そうすること
で 60 歳以前の経験が満足度に与える影響が直接的なものであるのか、仕事や会社の取り組み
を通じた間接的なものであるのかをみることができる。
13
注 1)因子抽出法は主因子法を用いた。注 2)因子負荷量はバリマックス回転後のものである。注 3)下
線は因子負荷量の絶対値 0.4 以上のものである。
−174−
第5−3−1図
重回帰分析の分析モデル
独立変数
個人要因
従属変数
年齢
性別
経験年数
入社時期
会社規模
役職
雇用形態
(キャリア・経験)
内省経験
昇進経験
職場の人間関係
自己研鑽
仕事満足度
仕事要因
(仕事の特性)
社会・会社とのつながり
業績への貢献
仕事の裁量性
管理・育成の仕事
(能力の発揮)
仕事能力
環境適応
(職場でのふるまい)
傾聴の姿勢
仕事の完成度追求
控えめな態度
収入満足度
会社要因
(会社の取り組み)
会社の高齢者配慮
会社の能力開発機会
(上司の取り組み)
上司の高齢者配慮
上司の仕事能力
2.重回帰分析の分析結果
(1)仕事満足度に影響を与えている要因の分析
最初に仕事満足度を従属変数とする重回帰分析をおこなう。重回帰分析の結果は第 5-3-8
表のとおりである。なお、男性、女性別による満足度要因の異同について比較検討をおこな
うため、医療・福祉職全体における重回帰分析とともに、男性、女性それぞれについても同
様の分析をおこなう。
−175−
仕事満足度を従属変数とした重回帰分析 14
第5−3−8表
モデルⅠ
男性
β
全体
β
(定数)
個人要因
年齢
性別
経験年数
入社時期
会社規模
役職
雇用形態
内省経験
昇進経験
職場の人間関係
自己研鑽
仕事要因
社会・会社とのつながり
業績への貢献
仕事の裁量性
管理・育成の仕事
仕事能力
環境適応
傾聴の姿勢
仕事の完成度追求
控えめな態度
会社要因
会社の高齢者配慮
会社の能力開発機会
上司の高齢者配慮
上司の仕事能力
F値
有意確率
調整済みR2乗
N
.135
-.098
.015
-.029
.050
.008
-.010
.086
-.066
.251
-.003
***
*
***
女性
β
.159
**
.018
-.022
.057
.063
-.025
.160
-.096
.306
-.017
**
***
.128
.008
-.029
.035
-.037
.001
.038
-.034
.216
.016
**
***
.043
-.017
.040
-.029
.037
-.026
-.001
-.065
-.071
.079
-.032
.112
-.065
.020
-.097
.084
.200
.160
.020
.018
8.941
.000
.112
692
6.241
.000
.158
281
3.368
.000
.055
411
モデルⅡ
男性
β
全体
β
.093
*
**
**
***
**
*
***
***
.129
***
.128
***
.114
**
.116
***
21.361
.000
.414
692
.042
-.005
.058
.024
-.019
-.053
-.079
.143
-.055
.073
-.065
-.016
-.095
.056
.281
.172
.006
-.017
女性
β
**
***
***
***
.152
**
.082
.244
***
.053
13.894
.000
.514
281
.020
.044
-.048
.020
-.066
.012
-.081
-.058
.047
-.018
.123
-.048
.054
-.102
.081
.153
.156
.025
.044
.135
.130
.031
.157
9.064
.000
.311
411
重回帰分析の結果をみると次のことがわかる。第 1 に、モデルⅠでは、医療・福祉職全体
で、「年齢」(1%水準で有意)、「内省経験」(10%水準で有意)、「職場の人間関係」(1%水準
で有意)、の 3 つの変数から統計上有意な結果が得られた。ここでは入社時期や経験年数も変
数として投入しているので、中途入社か否か、経験年数の長短を問わず、年齢が高い人ほど、
また、過去の職場において良好な人間関係を築いてきた人ほど現在の職場における仕事満足
度が高まる傾向がみられる。なお、自由度調整済み R 二乗をみると 0.1 前後であり仕事満足
度への説明力は 10%程度にとどまっている。
第 2 に、モデルⅠに現在の仕事要因、会社要因を投入したモデルⅡをみると、医療・福祉
職全体では、仕事要因で仕事満足度に影響を与えている変数として、
「社会・会社とのつなが
り」
(1%水準で有意)、
「管理・育成の仕事」
(5%水準で有意)、
「仕事能力」
(10%水準で有意)、
「環境適応」
(1%水準で有意)、
「傾聴の姿勢」
(同左)の 5 つがみられた。係数(β)の絶対
値が大きいほど説明力が高いと解釈できるため、
「環境適応」や「傾聴の姿勢」といった変数
の説明力が高いといえる。新たな職場環境に適応する能力や傾聴の姿勢をもって他者と接す
ることができている人ほど仕事満足度が高くなる。一方、現在、管理・育成の仕事をおこな
14
*;p<.1、 **; p<.05、 ***; p<.01
−176−
**
*
**
**
**
**
**
っている人では仕事満足度が低くなる傾向にある。また、会社・上司の取り組み要因では、
「会社の高齢者配慮」
(1%水準で有意)、
「会社の能力開発機会」
(同左)、
「上司の高齢者配慮」
(5%水準で有意)、
「上司の仕事能力」
(1%水準で有意)の 4 変数すべてにおいて仕事満足度
に統計上有意に正の影響を与えていることがわかる。
第 3 に、モデルⅠとモデルⅡの比較から個人要因の影響をみると、モデルⅠで最も影響力
のあった「職場の人間関係」はモデルⅡにおいて係数の絶対値が小さくなっており直接の影
響力が減少していることがわかる。また、モデルⅡでは、
「内省経験」
(1%水準で有意)と「昇
進経験」(5%水準で有意)は仕事満足度に負の影響を与えていることが明らかとなった。な
お、モデルⅡの自由度調整済み R 二乗は 0.414 である。これは仕事満足度の約 40%を説明し
ているモデルであると解釈でき、モデルⅠより説明力が高まっていることがわかる。
第 4 に、仕事満足度に対する男性と女性の違いをみると、モデルⅠ、モデルⅡともに性別
自体に統計上有意な差はみられなかったが、男性、女性それぞれにおいて仕事満足度に影響
を与えている変数には違いがみられた。まず、個人要因では、男性が過去の職場の人間関係
や年齢がモデルⅡでも統計上有意な影響が見られるのに対し、女性では有意となる変数はみ
られなかった。次いで、仕事要因では、女性のみ「社会・会社とのつながり」(5%水準で有
意)、「管理・育成の仕事」(1%水準で有意)の 2 変数で統計上有意な結果が得られた。最後
に、会社要因をみると、
「会社の能力開発機会」
(5%水準で有意)、
「上司の仕事能力」
(同左)
の 2 変数は女性で、
「上司の高齢者配慮」
(1%水準で有意)は男性でのみ有意な結果が得られ
た。
(2)収入満足度に影響を与えている要因の分析
つづいて、収入満足度を従属変数とした重回帰分析をおこなう。仕事満足度の重回帰分析
と同様、個人要因を投入したモデルⅠ、個人要因、仕事要因、会社要因を投入したモデルⅡ
の 2 段階による分析をおこなう。分析の結果は、第 5-3-9 表のとおりである。
−177−
収入満足度を従属変数とした重回帰分析 15
第5−3−9表
モデルⅠ
男性
β
全体
β
(定数)
個人要因
年齢
性別
経験年数
入社時期
会社規模
役職
雇用形態
内省経験
昇進経験
職場の人間関係
自己研鑽
仕事要因
社会・会社とのつながり
業績への貢献
仕事の裁量性
管理・育成の仕事
仕事能力
環境適応
傾聴の姿勢
仕事の完成度追求
控えめな態度
会社要因
会社の高齢者配慮
会社の能力開発機会
上司の高齢者配慮
上司の仕事能力
F値
有意確率
調整済みR2乗
N
.132
-.012
.033
-.044
.051
.083
.035
.002
-.117
.190
.038
***
**
***
***
.104
女性
β
*
.073
-.016
.081
.164
-.015
.104
-.165
.196
.051
***
***
***
.154
.005
-.049
.017
.027
.075
-.048
-.078
.173
.042
***
***
.074
.020
.028
-.049
.037
.055
.028
-.067
-.092
.103
.010
-.042
.023
-.041
-.100
.055
.024
.075
-.040
.033
5.988
.000
.071
720
4.828
.000
.116
294
2.856
.000
.042
426
モデルⅡ
男性
β
全体
β
**
**
***
**
**
.146
***
.306
***
.053
.042
10.487
.000
.241
720
女性
β
.051
.092 *
.100
.019
.084
.123
-.012
-.011
-.115
.065
.033
.006
-.081 *
.000
.017
.055
-.087
-.068
.119 **
-.002
*
**
**
-.056
-.003
-.070
-.101
.020
.071
.096
-.039
-.008
.205
***
.216
***
.190
**
.042
7.297
.000
.331
294
-.045
.040
-.022
-.102
.047
.009
.058
-.043
.055
.121
*
.337
***
-.025
.045
4.724
.000
.168
426
収入を従属変数とした重回帰分析の結果をみると次のことがわかる。第 1 に、モデルⅠで
は、医療・福祉職全体で「年齢」(1%水準で有意)、「役職」(5%水準で有意)、「昇進経験」
(1%水準で有意)、「職場の人間関係」(同左)の 4 つの変数から統計上有意な結果が得られ
た。高年齢であるほど、また現在管理職である人ほど収入満足度が高いことを表している。
また、60 歳以前に良い先輩や同僚の存在といった良好な人間関係を構築してきた人の方が現
在の仕事での収入満足度が高まるという傾向を示している。一方で、過去に厳しい昇進競争
を乗り越えて経営陣に近い立場で仕事をした経験のある人は、そういった経験のない人に比
べて有意に収入満足度が低くなるという結果がみられた。なお、なお、自由度調整済み R 二
乗をみると 0.071 であり、それほど精度の高いモデルとはいえない。
第 2 に、モデルⅠに現在の仕事要因、会社要因を投入したモデルⅡをみると、医療・福祉
職全体では、仕事要因で仕事満足度に影響を与えている変数として、
「社会・会社とのつなが
り」
(5%水準で有意)、
「管理・育成の仕事」
(同左)がみられる。この 2 変数は、ともに係数
がマイナスであるため収入満足度に対して統計上有意に負の影響を与えていることがわかる。
また、会社・上司の取り組み要因のなかで収入満足度に影響を与えている変数をみると、会
15
*;p<.1、 **; p<.05、 ***; p<.01
−178−
*
社の取り組み要因である「会社の高齢者配慮」
(1%水準で有意)、
「会社の能力開発機会」
(同
左)の 2 変数で統計上有意な結果が得られた。
第 3 に、モデルⅠとモデルⅡの比較から個人要因の影響をみると、モデルⅡでは医療・福
祉職全体で役職について統計上有意な結果は得られなかった。また、有意となっている年齢、
職場の人間関係の 2 変数でも係数の絶対値が減少しており収入満足度への直接の説明力は弱
まっている。なお、モデルⅡの自由度調整済み R 二乗は 0.241 であり、モデルⅠと比較する
と説明力が高まっていることがみてとれる。
第 4 に、収入満足度に対する男性と女性の違いをみると、モデルⅠ、モデルⅡともに仕事
満足度を従属変数とした重回帰分析の結果と同様に収入満足度においても性別自体に統計上
有意な差はみられなかった。ただし、ここでも男性、女性それぞれにおいて仕事満足度に影
響を与えている変数に違いがみられた。モデルⅡをみると、まず、個人要因では男性と女性
で収入満足度に影響を与えている変数がまったく異なっていることがわかる。男性では「会
社規模」(10%水準で有意)、「役職」(5%水準で有意)、「昇進経験」(同左)の 3 変数が有意
な結果となった。なお昇進経験は収入満足度に負の影響を与えている。一方女性では、
「年齢」
(10%水準で有意)、
「入社時期」
(同左)、
「職場の人間関係」
(5%水準で有意)の 3 変数で有
意な結果となった。入社時期の係数が負となっているため、現在の会社での勤続年数が長い
人ほど収入への満足度が低くなっていることがわかる。次いで、現在の仕事要因では、男性
では収入満足度に統計上有意な変数はみられなかった。女性では「管理・育成の仕事」
(10%
水準で有意)が負の影響を示している。最後に、会社・上司の取り組み要因では、男性女性
ともに会社の取り組み要因が収入満足度に正の影響を与えているが、男性では会社の取り組
み要因とともに「上司の高齢者配慮」(5%水準で有意)も正の影響を与えていることがわか
る。
第4節
考察と展望
1.分析結果の考察
前節でおこなった 2 種類の重回帰分析の結果から次のことが考察できる。
(1)仕事満足度に影響を与える要因
第 1 に、仕事満足度への個人要因の影響について興味深い結果が得られた。まず、モデル
Ⅰで正の影響を与えている「内省経験」について、モデルⅡでは一転して負の影響を与える
変数となっている。現在の仕事や会社・上司の取り組み要因を変数に投入することで過去に
自らの仕事ぶりをふりかえり、失敗原因の追及を熱心におこなってきた人ほど仕事満足度を
下げる結果となっている。解釈は難しいが、たとえば、医療・福祉の仕事に従事する高齢労
働者にとって、過去に自分自身の仕事ぶりを厳しく律し熱心に取り組んできた人ほど現在の
−179−
仕事に物足りなさを感じているのかもしれない。また、過去の昇進経験についてもモデルⅡ
では負の影響を与える変数として統計上有意な結果を示している。昇進競争を経験してきた
人にとって現在の仕事はやや単調なものと感じられているのかもしれない。
第 2 に、現在の仕事要因をみると、職場環境に適応する能力を発揮できていると感じてい
る人ほど、また職場でのふるまいとして他者の意見に傾聴の姿勢を心がけている人ほど満足
度が高い。当然と言えば当然であるが、職場環境や人間関係を良好に保つ能力や態度が重要
となっている。また、女性に限定すると社会や会社とのつながりをもっていると考える人ほ
ど満足度が高まり、管理・育成の仕事をしている人では満足度が低下する。事例調査からも
仕事終わりに職場の仲間とお茶や食事をすることが生き甲斐となっていると語る女性がみら
れたが、女性にとって一緒に働く仲間とのつながりが重要であると考えられる。
第 3 に、会社・上司の取り組み要因をみると、男性と女性とで違いがみられ、男性では会
社や上司の配慮行動が、女性では会社の能力開発機会の充実や上司の仕事能力の高さが満足
度を高めている。会社は、医療・福祉の仕事をする女性高齢労働者は仕事能力に敏感である
ことを認識し、能力開発機会を提供したり仕事能力の高い上司の元に配置するなどおこなう
ことが仕事満足度を高めるために効果的であるといえるだろう。
(2)収入満足度に影響を与える要因
第 4 に、収入満足度への個人要因の影響についてみると、男性と女性との間で異同が確認
された。男性では、会社の規模や役職が収入満足度を高めているのに対し、女性ではそのよ
うな結果はみられず、入社時期において負の影響がみられた。男性であらわれる規模の大き
い会社で働くことや役職に就くことは直接的に収入を高める効果が期待できると考えられる。
一方、女性における入社時期の違いと収入満足度の解釈はそれほど簡単ではない。仕事の経
験年数の影響がみられないことから単純にベテランと新人の違いによるものとは考えにくい。
本調査の結果のみで断定することはできないが、たとえば、入社してから現在までの賃金の
上昇率などが関係している可能性が考えられる。女性が男性と比較していわゆる賃金カーブ
が平坦であると想定されるならば、長期勤続による賃金の上昇はそれほど大きなものではな
い。結果として長期勤続の女性にとって収入に対する割安感を抱いているとしても不思議で
はないだろう。
第 5 に、現在の仕事要因の影響をみると、管理・育成の仕事をしている女性で負の影響が
確認された。管理・育成の仕事における責任の大きさを考えると、仕事の重要性ほどの収入
を得ていないと感じているのかもしれない。
第 6 に、会社・上司の取り組み要因をみると、男性においてのみ上司の高齢者配慮に正の
影響がみられた。会社としては、特に男性に対して、上司の高齢者に対する配慮を徹底する
ことで仕事満足度とともに収入満足度も高める効果が期待できる。
−180−
(3)仕事と収入に対する満足度要因の比較
第 7 に、仕事満足度と収入満足度を従属変数とした 2 つの重回帰分析の結果を併せて考え
ると、仕事満足度と収入満足度を高める要因において違いがみられた。男性、女性ともに仕
事満足度に対しては会社や上司の取り組み要因や仕事要因がより説明力をもっている。一方
で収入満足度に対しては、仕事要因の説明力が低くなり、個人属性や過去の経験・キャリア
といった個人要因がより説明力をもっていることが明らかとなった。会社としては、会社・
上司の取り組みや仕事の与え方によって特に仕事満足度を高める効果が期待できる。会社と
してこれらのことを考えながら高齢者雇用を推進していくことが重要になるといえる。
第 8 に、個人要因のなかで年齢や過去における職場の良好な人間関係といった変数につい
て満足度を高めていることが明らかとなった。ただし、男性と女性とを比較すると異なった
傾向を示しており、男性では仕事満足度に、女性では収入満足度に影響を与えているという
結果が得られた。聞き取り調査からも模範となる上司や先輩への言及は少なくなかったこと
を併せて考えると、良好な人間関係や過去から現在にかけての人脈形成といったいわゆるソ
ーシャル・キャピタル(社会関係資本)と呼ばれる資本は高齢労働者の仕事生活に正の影響
を与えているといえる。ただし、なぜ男性と女性とで傾向が異なるのかについての解釈は非
常に困難であり、高齢労働者のソーシャル・キャピタルがどのようにいかされているのかに
ついてはさらなる研究蓄積が必要であるといえる。
2.今後の展望
本章では、高齢労働者が満足して働いていることをいきいき働いていることとして捉え、
どのような要因が高齢労働者の満足度に影響を与えているのかについて考察してきた。
本章で分析対象とした医療・福祉職は、近年、急成長しつづけている仕事であり雇用の拡
大がつづいている。仕事の特徴のひとつに他職種と比較して経験年数の浅い高齢労働者が多
いことがある。入社時期をみても 60 歳以降に現在の会社に入社した割合が過半数を占めてお
り、男性に限定すると 7 割超が 60 歳以降の中途入社である。ここからも医療・福祉の仕事は、
仕事の拡大とともに定年を迎えた、あるいは 60 歳を過ぎた高齢労働者にとって雇用の受け皿
としての機能を担っていると考えることができる。
さらに医療・福祉職の特徴として女性が多い職場というものがある。本章では詳しく議論
していないが、女性労働者の活用も重要な社会的テーマとなっている。一般に女性は男性と
比べて非力であり時間的拘束への抵抗も強いといわれている。このような特徴は、働き盛り
の人と比べた高齢労働者にもあてはまるところがあるだろう。このように考えると女性が多
く働いている職場は高齢労働者にとっても働きやすい職場としての要素を持ち合わせている
といえるのではないか。
いずれにしても、今後ともますます高齢労働者の数が増大することは間違いなく、そのな
かでいかに満足して働くことができるのか、高齢者の充実した仕事生活を考えるうえでのさ
−181−
らなる研究の蓄積が求められている。
(山路
−182−
崇正)
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