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株主確定ができない事例 経営者の長男からの相談

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株主確定ができない事例 経営者の長男からの相談
Q20
株主確定ができない事例
(経営者の長男からの相談)
匿名で相談させてもらいます。私の父(2 代目)には、家族に事業
を継ぐと表明している二男と長男の私と妹がいます。母(73 歳)
も健在ですが、父(82 歳)は頑強な体で、経営に関する判断も的
確で、従業員や取引先その他の会社関係者から問題となるような
話は、いまのところまったくありません。会社の代表取締役は現
在も父のままです。父は死後の紛争を回避するため、気を遣って
自分の株式を、誰々にいくら渡したからと家族間には公言してい
ます。しかし、株主名簿にはまったくその事実は記載されていま
せんし、税務申告上の、株主構成と
も違っています。
私はやりたい仕事があったので、父
の仕事を継ぎませんでした。財産目
当てで会社を探っていると他の家族
からいわれたくありませんが、気に
かかります。なお、当社は株券発行
会社ではないので、株券そのものは
発行していません。 「電子メール相談」
(匿名希望 50 代)
相談者の本音のつぶやき
自分に譲ると言った株式の贈与の記録がないのが心配。
株を誰々に渡したとか言っても、株券不発行会社だし。
株主名簿にはそれらしき記載もないし……
家業を継がなかった私がつべこべ言うのもおかしいかな。
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あらかわ事業承継相談室
東 主 任 この相談は、相談者のお父さんが株
式を自分にくれるといっているのだ
が、自分に譲ったという株式の移転
の証拠がないから、本当に贈与して
くれたかどうかが心配だという相談
だね。
「今度、株式をお前にいくらあげる
から」といって家族の気を引いているのかどうかはわからないが、
家族の皆に株式を少しずつ分配している状況だね。
西相談員 株式が分散する経緯としては、いくつかのパターンがあるといっ
た報告を読んだことがあります。
東 主 任 一 般的には、いくら譲歩しても、現株主の「売りたくない」とい
う意思が強固であれば、どうしようもない。一度、分散してしま
った株式を再び集中させるのは極めて困難です。
所 長 こ の相談は、
「株主確定が困難または確定できない場合」はどの
ように対処するのかという内容だけど、中小企業においては、時
として、
「株主が不明」
「株主が確定できない」という事態が起こ
りうる。
東 主 任 この内容の相談は、私も何度か相談を受けたことがあります。同
族会社には、もともと経営者が妻子や親せきに対し、「名義を借
りている」
「本人に知らせることなく株式を分散した」というケー
スも多いようです。
かおり君 経営者としては税対策として、甥、姪、兄弟の配偶者といった中
心的同族株主に当たらない親族に株式が分散された旨の税務申告
を行ったりするケースも見当たります。
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Q20
しかし、これらが、当の本人らに知らせずに一方的になされるこ
とが多いようです。この場合、この株式の分散が「贈与」という
税務上の認定を伴うものなのかという問題が生じることになりま
す。
東 主 任 それと、この相談者の質問のように“経営者の思わせぶりに変更
される場合”
“余計な親心”とでも言いたいような事例もあります。
よく相談事例として出てくるものは、
税対策とは別の次元、すなわち気持
ちで分散されるときにおこる場合で
す。例えば……経営者が自分の死後
の紛争回避の目的と気遣って「事業を
継いでくれそうな息子」とか、
「子供
が一人前になるまでの間の一時的な
経営者としての妻」に自分の株式をこっそりと分散させるという
内容ですね。
生前に妻子に知らせると、却って兄弟姉妹間、親子間の紛争を生
じさせます。これらは、株主名簿にまったく反映されず、税務申
告上の記載のみでなされるから厄介ですよ。
西相談員 経営者の生前であれば、そのような株主構成の変動の真意を確認
することができますよね。
東 主 任 もともとは、経営者が関係者にわからないように分散を行うとい
う性質から、経営者の死後、あるいは判断能力喪失後に発覚する
からやっかいだ。
西相談員 では、真の株主構成を探るためにはどのようにするのですか ?
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あらかわ事業承継相談室
東 主 任 結局、真の株主構成を探るためには、創業時の発起人からさかの
ぼって調べる必要がある。その過程で数十年前の、数代前の「創
業者」の相続手続きさえ済んでいないということが発覚すること
もあるよ。
西相談員 どのように調べるのですか ?
東 主 任 株主名簿、株券の裏書、相続時の相続財産の記録、法人税の株主
構成など参考になりそうなものをできるだけ集めて調べるのだよ。
所 長 そうだね。これまでは株主確定の方法の基本は株券であったが、
2004 年の商法改正により、株券不発行が原則となった今後は、
ますます株主確定が困難となる。会社では、君たちもよく知って
いるとおり、株券不発行が原則とされているので、今後は、株主
名簿にきちんと記録をとることだといえる。
西相談員 それでも、わからなかったらどうするのですか ?
東 主 任 結果的に株主構成を確定できない場合も十分想定しうるが、その
ような場合に事業承継を行おうとすれば、結局、株式の相続、買
取りといった形式をあきらめ、営業譲渡等により、会社の所有か
ら経営を分離存続させ、会社の技術・従業員を守らざるを得ない
ことになる。
所 長 この相談をよい教訓にしたい。ど
この会社でもできることは、税務
申告書上(別表第二)の株主構成
と株主名簿とを一致させておかな
いと後でトラブルの種となるとい
うことだ。
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Q20
○○ ○ 様
前略
平成 23 年○月○日、事業承継相談 110 番メールに○○様か
らのご相談を受け取りました。
当相談室にご相談いただきありがとうございました。
○○様のご相談内容について検討をしましたので回答をいた
します。
参考の一つにしていただければ幸いです。
・・・・・
(中略)
・・・・・
最後にポイントを整理させていただきます。
ポイント
1、
株主名簿で株主構成の確認をする。
2、
法人税の税務申告書上(別表第二)の株主構成を追跡調査
をする。
3、
株主名簿と税務申告上の株主構成のどちらが正しいかを
調査し真の株主を株主名簿に反映させる。株主が誰かを
確定させるために必要があれば、創業時からの資料を集
める。何代か世代交代が行われていれば、そのときの相
続時の資料を集めることになる。
4、
不審に思うのなら、はっきりとその旨お父様に伝え、お
父様の真意を確認する。
以上をご検討いただきたいと思います。
草々
平成 23/ ○○ / ○○
あらかわ事業承継相談室
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コ ラ
ム
Co l u m n
株式が分散するケース
事業承継協議会「事業承継関連会社法制等検討委員会中間報告」によ
ると、株式が分散するケースは 3 パターンあるそうです。
(1) 相続税対策として甥、姪、兄弟の配偶者といった中心的同族株
主に当たらない親族内に一定の株式を分散させる場合。
(2) 先代の相続時に株式が分散されてしまっている場合。
(3) 報奨やモチベーションアップのため同族外の役員・従業員に株
式を取得させた結果、株式が分散している場合。
分散した株式の買取りには会社の支配権を固めるという意味では、後
継者が買い取るという方法が望ましいのですが、買取り資金が準備でき
ず、断念せざるを得ないということもありえます。
そのような場合は、会社が「金庫株として買い取る」という方法も考
えられます。しかし、取得条項付株式や全部取得条項付種類株式のよう
なものならともかく、強制的に株式を買い取る方法はなく、また、価格
については買取り側が譲歩せざるを得ないのが通常です。
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