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レット・イット・ビー

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レット・イット・ビー
アルバム万華鏡
もっとも不本意な結果だった。特に
たりというビートルズ自身にとって
が、行き着いたのは行き当たりばっ
ジェクトをイメージしたのだろう
たとき、バンドは自然発生的なプロ
戻ろうというポールの原案に賛成し
った作品。ロックンロールの原点に
がそのまま致命的な仇となってしま
りにもおめでたい放漫なアプローチ
マネージメントにも代表されるあま
だったが、当時のアップル・コーの
ポール・マッカートニーによるビ
ートルズ起死回生の秘策となるはず
ルアルバムのなかでは間違いなく最
売上となり、ビートルズのオリジナ
となっている。合計すると 万枚の
インし 万枚を売り上げる大ヒット
最高2位を獲得、271週チャート
ット・イット・ビー』
がリリースされ、
が発売、翌 年2月には通常盤『レ
ト・イット・ビー』
(最高3位 万枚)
6月には豪華本付特別仕様の『レッ
ビー」(最高6位 万枚)
が大ヒット。
る。
まずはシングル
「レット・イット・
関心が広まり、人気はピークを迎え
年 月にビートルズ解散が公に
なると、日本ではより幅広い層にも
3. アクロス・ザ・ユニバース ジョン
ジョンが最高傑作のひとつに挙げる名作。他にさまざま
なミックスがあり、
ファンの好みが分かれている。
4. アイ・ミー・マイン ジョージ(ポール)
ジョージとポールの確執をむき出しにした曲だが、
ポー
ルは献身的なサポートを見せている。
5. ディグ・イット ジョン
即興演奏の極みともいうべきルーズな演奏で、
しかも
断片収録だが、
キラリと光る感性が宿っている。
6. レット・イット・ビー ポール(ジョージ)
映画のタイトル曲。ポール流のゴスペルだが、広い範
囲のリスナーに訴えかける力を持っている。
7. マギー・メイ ジョン(ポール)
リバプールの伝承歌を、
わざとラフでダーティに演奏。
楽しげな雰囲気が伝わってくる。
ジョン
1. アイヴ・ガッタ・フィーリング ポール、
ジョンとポールが別々に書いた曲を合体させ、
グルー
ビーなロックに仕上げている。
2. ワン・アフター・909 ジョン、ポール
初期にジョンが書き、正規に録音したがボツになった
曲のリメイク。演奏力は格段に向上している。
3. ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード ポール
ポールの美しいバラード。
フィル・スペクターによる壮大
なオーケストラアレンジは今も賛否両論。
4. フォー・ユー・ブルー ジョージ
ジョージが陽気なブルースにチャレンジ。ジョンのス
ティールギターがユニークな表情を加える。
5. ゲット・バック ポール(ジョン)
ポール作の力強いロックンロールナンバー。
シングルと
はミックスが大幅に異なっている。
I Me Mine {Harrison}
Let It Be {Lennon - McCartney}
Maggie Mae {Trad. arr - Lennon - McCartney - Harrison - Starkey}
I've Got A Feeling {Lennon - McCartney}
One After 909 {Lennon - McCartney}
The Long And Winding Road {Lennon - McCartney}
Get Back {Lennon - McCartney}
1
5
10
15
15
15
15
20
20
20
November December
5 12 19
21 28
ジョンらしい自由なメッセージが、
ギターとベースの楽し
いユニゾンと絶妙に絡む佳曲。
Dig A Pony {Lennon - McCartney}
For You Blue {Harrison}
10
October
3 10 17
2. ディグ・ア・ポニー ジョン(ポール)
Dig It {Lennon - McCartney - Starkey - Harrison}
10
September
5 12
ポールがリンダとのドライブ中に作った。アコースティッ
クで爽やかな曲調が心地よい。
Two Of Us {Lennon - McCartney}
詞を味わう
1971
26
January
2
9 16
20
23
記録
1. トゥ・オブ・アス ポール(ジョン)
Across The Universe {Lennon - McCartney}
文/吉野由樹
啓示を受けたジョンと
傷心のポール、
哲学のジョージ
ジョン主体の3曲、
自作の 曲中、
ポール4曲、ふたりの共作1曲、ジ
29
ョージの2曲、
即興の1曲は4人で。
22
ジョン自身がずば抜けた詞だとい
う「アクロス・ザ・ユニバース」に
August
1
8 15
は、
言葉そのものの美しさに加えて、
25
言葉のもつ音の連なりとその響きの
18
心地よさ、描き出す情景の透明感が
July
4 11
ある。この時期、ビートルズや曲作
27
りに対する興味が薄らいでいたかに
20
Free
“FIRE AND
WATER”
思われたジョンが、この詞に関して
は、なにかが下りてきたように自然
と言葉があふれ出てできあがった特
June
6 13
別な1曲だと語っている。
バンドがうまくいかず傷心してい
たポールは「ザ・ロング・アンド・
1970 May
23 30
The Nice
“FIVE BRIDGES”
収録曲 リードボーカル
(コーラス)
{作者}
February
30 6
※1960年代にイギリスの公式チャート
とみなされていた『レコード・リテイ
ラー』誌の記録による。
※表は
『レット・イット・ビー』
がトップ20に
在位した全期間を掲載。ただし最初
に圏外に消えてから半年以上経過
してからの再登場は含まない。
※同期間中にトップ3を獲得した全ア
ルバムのランキング推移も掲載した
が、一旦圏外に去ってからの再登場
分は、再びトップ3を獲得した場合を
除き割愛。また
『レット・イット・ビー』
再登場時におけるそれらのアルバム
のランキングも割愛している。
イギリス
◉トップ20在位27週◉最高位1位
(3週連続)
◉2位在位4週◉3位在位5週
アメリカ
◉『ビルボード』誌トップ100在位37週
最高位1位
(4週)
、
ゴールドディスク
(売上50万
枚)
認定
(1970年5月26日)
、
プラチナディスク
(売上100万枚)認定(1997年1月10日)、
マ
ルチプラチナディスク×4
(売上400万枚)
認定
(2000年4月14日)
受賞
第43回アカデミー賞音楽賞
第13回グラミー賞歳優秀映画音楽賞
◉ゲット・バック
第15回アイヴァー・ノベロ賞ベストセラーシングル賞
関連年表(1965年12月~1966年6月)
1965
レコーディング環境があまりにも劣
高の売上となる。ほかにも4月には
ワインディング・ロード」を書き、
“ABBEY ROAD”
基本データ
◉発売日:1970年5月8日
(写真集つきボックスセット)、1970年11月6日
(通常盤)
(いずれもステレオのみ)◉レーベル、
カタログ番号:アップルPXS1(写真集つきボックスセット)、PCS7096(通常盤)◉プロデューサー:フィル・スペクター◉オ
ニール・リッチモンド、
アラン・パー
リジナルレコーディングプロデューサー:ジョージ・マーティン◉エンジニア:グリン・ジョンズ、
ソンズ、
ピーター・ボーン、
リチャード・ラッシュ、
ジェフ・ジャラット、
ニック・ウェブ、
フィル・マクドナルド、
リチャード・ランガム◉ジャ
ケットデザイン:ジョン・コッシュ◉写真:イーサン・ラッセル◉ジャケット印刷・製造:ギャロッド&ロフトハウス社
◉使用楽器:
◯ジョン・レノン=ギター:ギブソンJ-160E、
ギブソンJ-200、
マーティンD-28、
エピフォンES230Tカジノ、ヘフ
ナー・ハワイアン・スタンダード、
ベースギター:フェンダー・Bass Ⅵ、
ギターアンプ:フェンダー・ツインリバーブ
◯ポール・マッカートニー=ベースギター:ヘフナー500/1、
ギター:マーティンD-28、
ベースアンプ:フェンダー BASSMAN、
キーボード:エレクトリックピアノ、
オルガン
(以上機種不明)
、
ブリュートナー・グランドピアノ、
その他:マラカス
(機種不明)
◯ジョージ・ハリスン=ギター:ギブソンJ-200、
フェンダー・テレキャスター、
ギターアンプ:フェンダー・ツインリバーブ、
その他:マラカス
(機種不明)
◯リンゴ・スター=ドラム:ラディック・
ドラムセット・ハリウッドモデル
(バスドラム:口径22インチ/深さ14インチ、
タム:
口径13インチ/深さ9インチ、
フロアタム:口径16インチ/深さ16インチ、
スネア:口径14インチ/深さ5インチ
のオールメタル・スーパーフォニック400モデル、
シンバル:ジルジャン)
◯客演ミュージシャン:
ビリー・プレストン
(ハモンドオルガン…SIDE 1-5、
6、
エレクトリックピアノ…SIDE 1-2、
2-1、
2、3、5)
、
リンダ・マッカートニー
(コーラス…SIDE 1-6)
、
バイオリン18人、女声コーラス14人、
トランペット5人、
ビオラ・チェロ各4人、
トロンボーン3人、
ギター・
トロンボーン・テナーサックス各2人、
ハープ・チェロ各1人
SIDE 1
悪だったことが大きな足枷となった
後期のシングルヒット曲を中心に収
夢に現れた母親の慰めを受けて「レ
ット・イット・ビー」を書いた。第
10
5
日本での受容
のは否めない。
『ヘイ・ジュード』
(最高5位 万枚)
三者的な詞を得意とするポールが、
The Who
“LIVE AT LEEDS”
Elvis Presley
“ON STAGE
FEBRUARY 1970”
5
レット・イット・ビー
ロック史のなかで
しかし、この作品に収録されてい
る楽曲はどれも原点回帰というテー
が、6月には『アビイ・ロード』か
この曲では正直な心情を歌い、救い
Paul McCartney
“McCARTNEY”
発言からみるアルバム
マにはあまりにも見事に応えたもの
らの日本独自シングル「オー!ダー
を求めていた。彼を救ったのは「ト
C.C.R. “COSMO’ S
5 FACTORY”
1
Looking Through A Glass Onion
LET IT BE
全英チャート記録
再登場記録
(1970年∼1971年)
1970
1970
1
文/広田寛治
になっていて、それだけでこの作品
リン」
(最高 位6万枚)
、9月には
ゥ・オブ・アス」の片割れであるリ
1
11
文/高見展
を名作にしているといってもいい。
『レット・イット・ビー』から「ザ・
ンダだ。思えば、長く曲がりくねっ
The Moody Blues “A
QUESTION OF BALANCE”
13
文/淡路和子
ロックンロール、ソウル、R&B、
ロング・アンド・ワインディング・
た道の先で待っていたのも、夢でさ
Bob Dylan
“SELF PORTRAIT”
75
52
日本人の心をとらえた
『レット・イット・ビー 』
ブルースとビートルズにとってそも
ロード」
(最高 位5万枚)がカッ
さやきかけたのも、実際には彼女だ
ったのかもしれない。
Simon & Garfunkel
“BRIDGE OVER TROUBLED WATER”
16
71
4
原点回帰することで
音楽シーンと呼応する結果に
そものインスピレーションとなった
トされている。
50
録したベスト盤的な米編集アルバム
要素があふれ出しながらどこまでも
この年の年間シングル には、洋
楽ではビートルズとともに、サイモ
29
24
62
70
ビートルズとビリーと
フィル・スペクターの作品
アルバム『レット・イット・ビ
ー』の大部分は1969年1月のゲ
ット・バック・セッションがもとに
なっているが、
「アクロス・ザ・ユ
ニバース」
はそれ以前の 年録音で、
ジョンがなげやりにチャリティ盤に
提供していた曲だ。これに関してジ
ョンは「ポールの曲には時間をかけ
て細かいところまで作り込んでいた
のに、僕の曲になるとみんなルーズ
になって、やる気を失ってしまう」
と回想していた。メンバーそれぞれ
が持っていた疎外感をジョンも感じ
ていたのであり、バンドが崩壊しは
じめていたことがわかる。
原点に回帰しようとオーバーダビ
ングなしの方針だったゲット・バッ
ク・セッションも、フィル・スペク
ターがアルバムとして仕上げること
で結果的に録音技術大会になる。そ
れでもジョンはスペクターの力量を
認めざるを得なかった。ジョンとジ
ョージはソロでも彼を起用する。
オリジナルな内容が圧倒的だ。そう
ジョージの「アイ・ミー・マイン」
は自分のエゴに真正面から向き合っ
20
キーボード奏者のビリー・プレス
トンが参加することになったのは、
した意味ではブルースをベースにし
ン&ガーファンクルが2曲を送り
た曲だという本格的な哲学だ。一人
称を繰り返す刺すようなストレート
さが心にズキンとくる。
15
クラプトンを連れてきたときの経験
た独自のロックを開花させた当時の
込み、アルバム『明日に架ける橋』
王者として君臨するビートルズとと
ローリング・ストーンズとも呼応す
もに日本人の心をとらえていた。
( 万枚)も大ヒットさせ、洋楽の
リックへと転化したボブ・ディラン
44
1
10
68
る動きであったし、 年にエレクト
の姿をも彷彿とさせる。
65
“LET IT BE”
5
『ホワイト・アルバム』でエリック・
から、ジョージが発案したことだっ
た。ビートルズはビリーと 年にリ
バプールなどで競演して親しくなっ
ており、この点でも初期に戻ったセ
ッションだった。
ありがちな録音技術
(オーバーダビング)
は絶対に使いたくないと、ジョンは譲らなかった。
マーティン
ジョージ・
62
ザ・
ビートルズ アルバム研究
SIDE 2
Kaleidoscope
1.3 ローリング・ストーンズ『レット・イット・ブリード』全米3位
1.31 ジャクソン・ファイヴ「帰ってほしいの」全米1位
2.6 ジョン、
シングル「インスタント・カーマ」発売※
2.7
2.26
3.6
3.7
3.21
3.27
4.10
4.17
ショッキング・ブルー
「ヴィーナス」全米1位、
ザ・バンド
『ザ・バンド』全米9位
アメリカ編集盤『ヘイ・ジュード』発売※
シングル「レット・イット・ビー」発売※
サイモン&ガーファンクル
『明日に架ける橋』全米1位
(10週)
ドアーズ『モリソン・ホテル』全米4位
リンゴ
『センチメンタル・ジャーニー』発売※
ポールがビートルズ脱退を公表※
※
ポール
『ポール・マッカートニー』発売
(全米1位・3週)
4.21 『ヘイ・ジュード』
日本発売※
5.16
クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング
『デジャ・ヴ』全米1
位、
ジミ・ヘンドリックス
『バンド・オブ・ジプシーズ』全米5位
5.20 映画『レット・イット・ビー』
プレミア公開※
5.23 シカゴ
『シカゴⅡ』全米4位
5.30 ゲス・フー
『アメリカン・ウーマン』全米1位
※
6.5 『レット・イット・ビー』
日本発売
(写真集つきボックスセット)
6.7 ザ・フーのロック・オペラ
『トミー』、
ニューヨークで開幕
6.14 デレク&ドミノス、
ロンドンで初ライブ
※ビートルズ関連
109 ザ・ビートルズ アルバム・バイブル
データ作成/鳥居一希
ザ・ビートルズ アルバム・バイブル 108
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