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中学校社会科における同和問題学習
F F2 中学校社会科における同和問題学習 ○実践する場面 ○学習のねらい 歴史と人間 社会科 ○同和問題にかかわる各時代のことがらを、歴史の大きな流れや各時代の特色 の中で理解し、差別を生み出し助長させてきた原因を諸資料に基づいて多面 的・多角的に考察し、国民的課題として取り組まれるに至った経過を理解す るとともに、差別に対する正しい認識を身につける。 ※本章では、社会科の授業における学習展開例を紹介しています。 F2 中学校社会科における同和問題学習 <単元> 中世の日本 町中世の文化 近世の日本 百姓・町人と産 業の発達 <同和問題学習> 学習の流れ <学習展開例> 室町時代の文化 ○現在につながる室町時代の文化について差別されていた人々 が力を発揮したことを知る。 江戸時代の身分制 ○江戸時代に身分制度が確立し武士による政治が安定したこと を理解する。 ○百姓・町人とは別に差別されていた人々が、社会的に必要と される仕事や役割を果たしていたことを知る。 幕府政治の改 革と農村の変 化 身分制のひきしめ ○政治が不安定になるにつれ、大名を統制する一方、差別され ていた人々に対しても統制を強めたが、その中でこれらの身 分の人々は助け合って生活を向上させたことを知る。 江戸時代の文 化と学問 蘭学:「解体新書」 ○差別されていた人々の知識と技術が医学の発展に寄与したこ とを知る。 幕府政治の動 揺 近現代の日本と世界 近代国家への あゆみ 二度の世界大戦と日本 大正デモクラ シーの時代 幕府や藩の支配をゆるがした人々:「渋染一揆」 ○幕府や藩の政治の行き詰まりの中、差別されていた人々が身 分差別が強められたことに反対し団結してたたかったことを 知り、そのわけを考える。 江戸時代の身分制の廃止 ○四民平等が唱えられ、 「解放令」が出されたが、生活を改善す る具体的な施策がなかったこと等により差別が改められず現 代につながっていったことに気づく。 平等な社会をめざして ○差別を受けていた人々が、自らの力で差別からの解放と平等 を求めて全国水平社を結成したことを理解し、その意義を考 える。 125 学習展開例1: 単元 目標 江戸時代の身分制の廃止 「近代国家へのあゆみ」 ○明治維新の経緯のあらましを理解し、新政府の諸改革により近代国家の基礎が整 えられたことに気づくとともに、人々の生活の大きな変化について考える。 単元の評価規準 [社会的事象への関心・意欲・態度] ○明治維新の経緯のあらましと身分制の大きな変化について関心をもち意欲的に 調べようとする。 [社会的な思考・判断] ○明治維新の経緯のあらましや人々の生活の大きな変化を多面的、多角的に考察 し、公正に判断している。 [資料活用の技能・表現] ○年表や写真などの資料を効果的に用いて、調べた過程や結果を目的に応じた方 法で表現する。 [社会的事象についての知識・理解] ○明治維新の経緯のあらましについて知識を身に付け、日本国内の政治や社会に 及ぼした影響を理解する。 指導計画例 (1)「明治維新」(1時間) (2)「江戸時代の身分制の廃止」(1時間) (3)「近代化の政策」(1時間) (4)「欧米文化の取り入れ」(1時間) (5)「領土の確定と周辺地域」(1時間) 展開例 (2)「江戸時代の身分制の廃止」(1時間) ○政府がなぜ身分制を廃止したのか、それによって人々が本当に平等になったかを考える。 ○「解放令」が出され、制度上の差別は廃止されたにもかかわらず、現実には差別が残っ た理由を、政府の政策と人々の差別意識の両面から考える。 126 学習指導案 学習活動・学習内容 ○政府が身分制を廃止した 理由を考える。 ・二つのグラフと教科書 からわかること、疑問 に感じたことをノート に書き出そう。 ・政府はなぜ四民平等を となえ身分制を廃止した のだろうか。 「江戸時代の身分制の廃止」 予想される生徒の反応 教師の支援・評価の観点・留意点 ・資料の二つの江戸時代の人口構 ・人口が増えている。 ・ 「百姓」が「平民」にかわっている。 造を比較させる。 ・ 「武士」が「士族」にかわっている。 ・ 「町人」も「平民」になったのかな。 ☆意欲的に資料から感じたこと を述べようとしているか。(関 ・ 「えた」や「ひにん」がなくなって 心・意欲・態度) いる。 ☆差別されていた人々は平民に 入っていることを理解したか。 ・人々が望んだから。 ・納税や兵役の負担をすべての国民 (知識・理解) にゆきわたらせるため。 ○「解放令」について考え、 ・やっと身分・職業とも平民と同じ ・差別が制度としても存在した江 にされたと思った。 戸 時代 に お い ても 差 別 す る言 自分の考えをグループで ・差別的な呼び名が廃止された。 葉として使われてきた「えた」 交流する。 「ひにん」のよび名が、この「解 「解放令」はどういうも ・うれしかった。喜んだ。 放令」によって廃止されたこと のだったか。 「解放令」を を押さえる。 どう受けとめたか。 「解放令」によって、差 別されていた人々の生活 はどうなったのだろう か。 差別はなくなったのだろ うか。 根強く残された差別に対 して、差別されていた 人々はどうしたのか。 ・豊かになったのかな? ・それまで認められていた職業上 ・仕事上の権利を失った。 の権利を失った上に、他の人々 ・兵役が義務になった。 と 同様 新 た に 納税 や 兵 役 の義 ・税金や教育費を払わなければなら 務 を負 う な ど 生活 が む し ろ苦 なくなった。 しくなったことを理解させる。 ・江戸時代より生活は苦しくなった。 ・生活を改善する具体的な施策を受 ・差別されていた人々に対する具 体的な施策がなかったこと、差 けられなかった。 別 をな く す た めの 方 策 が とら ・職業・結婚・居住地などの差別も れなかったことがあげられる。 根強く残された。 ・長く続いた慣習や、古い差別意識 は簡単には改まらなかった。 ・ 「解放令」をよりどころに、差別か ・差別されていた人々は、自分た ち で差 別 を な くす 努 力 を した らの解放と生活の向上を求める動 ことを理解させる。 きが各地で起こった。 ・さまざまな面で平等にあつかうこ とを求めるようになった。 (山林や 用水の利用、寄合・祭礼への参加、 対等な交際) 127 ○ 本 時 の 学 習 の ふ り か え ・この時代に政府はもっと積極的に ☆自分の意見を根拠立てて説明 り、本時の学習から学ん 差別をなくす施策をすべきだっ しているか。(技能・表現) だこと感じたことをノー た。 ☆身分制の廃止の経緯を理解し、 トにまとめる。 ・差別する側の意識を変えるにはど 差 別に 対 す る 正し い 認 識 をも うよればよかったのだろう。 てたか。(思考・判断) 資料① 円グラフ 江戸時代の人口の割合(グラフ) 総人口約 3200 万人、武士約7%、百 姓約 84%、 「えた」や「ひにん」など 約 1.6% 明治時代初めの人口の割合(グラフ) 総人口 3313 万人、平民約 94.6%、士族約 4.5%、皇族・華族 0.3% (参照)『中学社会 歴史的分野』大阪書籍 P101、P139 『新中学校 歴史 改訂版』清水書院 P104、P150 『中学生の歴史』帝国書院 P102、P149 『中学生の社会科 歴史』日本文教出版 P84、P117 『中学社会 歴史』教育出版 P86、P117 『新しい社会 歴史』東京書籍 P92、P139 128 学習展開例2: 単元 目標 平等な社会をめざして 「大正デモクラシーの時代」 ○第一次世界大戦前後の国際情勢のあらましを理解するとともに、民族運動の高ま り、国際平和への努力、この時期の我が国の国民の政治的自覚の高まりに気づく。 単元の評価規準 [社会的事象への関心・意欲・態度] ○第一次世界大戦前後国際情勢のあらましとこの時期の我が国の国民の政治的 自覚の高まりに関心をもち意欲的に調べようとする。 [社会的な思考・判断] ○第一次世界大戦前後の国際情勢のあらましとこの時期の我が国の国民の政治 的自覚の高まりを多面的、多角的に考察し、公正に判断している。 [資料活用の技能・表現] ○年表や写真などの資料を効果的に用いて、調べた過程や結果を目的に応じた方 法で表現する。 [社会的事象についての知識・理解] ○第一次世界大戦前後の国際情勢のあらましとこの時期の我が国の国民の政治 的自覚の高まりに関する知識を身に付け、日本国内の政治や社会に及ぼした影 響を理解する。 指導計画例 (1)「大戦景気と米騒動」(1時間) (2)「大正デモクラシーと社会運動の出発」(1時間) (3)「生活の変化と文化の大衆化」(1時間) (4)「平等な社会をめざして」(1時間) 展開例 (4)「平等な社会をめざして」(1時間) ○第一次世界大戦前後、日本の社会運動が活発になった理由について理解し、全国水平社 の結成と関連付けて考える。 ○差別されていた人々が、自らの力で差別をなくすために立ち上がり、水平社を結成した ことに気づき、その意義について考える。 留意点 ○先に、第2次「大正デモクラシーと社会運動の出発」の学習において、デモクラシーの 風潮の中で、第一次世界大戦やロシア革命、米騒動等の影響を受けて、民衆運動や労働 運動、農民運動などの社会運動が活発になったことをおさえておく。 ○本時の学習と関連して、女性の地位向上をめざす運動や、北海道ではアイヌ民族の解放 運動がおこったことを理解する。 129 学習指導案 学習活動・学習内容 「平等な社会をめざして」 予想される生徒の反応 教師の支援・評価の観点・留意 点 ○全国水平社の結成につい ・たくさんの人の前で少年が話して ☆意欲的に資料から感じたこ とを述べようとしているか。 て知る。 いる。少年も、聞いている人も真 (関心・意欲・態度) 剣な様子だな。 写真(資料①)を見て少年 は何を訴えているのか考 ・何を訴えているのだろう。 ・今まで我慢してきたことを、みん ☆全国水平社は、第一次世界大 えよう。 戦前後の不況が続く中で、民 なの前で訴えることによって差別 衆の生活や権利の向上を求 を許さない宣言をしている。 める社会運動として起こっ たことを押さえる。(知識・ ○水平社結成の背景につい ・この時代はいろいろな人々が立ち 理解) 上がったんだなあ。 て考える。 ・これも大正デモクラシーの一つか な。 ○「水平社宣言」をもとに ・この宣言はだれがつくったのか。 ☆自分の意見を資料等を生か し て 説 明 し て い る か 。( 技 こ の 運 動 の 内 容 を 考 え ・差別を受けてきた人々が立ち上が 能・表現) ったんだ。 る。 ・団結を訴えている。 資 料 ② ( 教 科 書 に 掲 載 ・人間を尊敬すること、自ら立ち上 されている「水平社宣言」 がることを宣言しているようだ。 ・理解しにくい場合は、「子ど の一部要約)をみ、意味 ・人間としての誇りが感じられる。 も版・水平社宣言」を参考に を読みとろう。ノートに ・「人の世に熱あれ、人間に光あれ」 することができる。 書きだそう。 とは、人間の世の中の情熱と、新 しい時代への希望を求めているの ・各自ノートに書いたこと かな。願いの強さが伝わってくる をグループで交流する。 な。 ・ 「解放令」の後も差別は続いてきた。 ・水平社による差別をなくし自 由を求める運動は、今日の社 ・差別されながらも世の中に欠かす 会的な取組につながってい ことのできない仕事に携わり、社 くことに気づかせる。 会を支えてきた。 ・グループで交流した後、 ・差別を受けていた人たちが力を合 わ せ て 立 ち 上 が っ て い っ た ん だ ☆差別されていた人々が、差別 全体で意見を発表する。 をなくすために立ち上がり、 な。 水平社を結成したことに気 ○感じたことをノートにま ・自分たちで、差別問題の解決をめ づき、その意義について考え ざして、人間としての平等を求め とめる。 ているか。(思考・判断) ていったのはすごいことだ。 「全国水平社」の意義に ついて自分の考えをまと めよう。 130 資料① 写真 演説会で差別とのたたかいを訴える少年 (参照)『中学社会 歴史的分野』大阪書籍 P182、 『中学生の社会科 歴史』日本文教出版 P167 『新しい社会 歴史』東京書籍 P179 資料② 水平社宣言(一部要約) (参照)『中学社会 歴史的分野』大阪書籍 P182、 『中学社会 歴史』教育出版 P155、 『新しい歴史教科書』扶桑社 P187、 『わたしたちの中学社会 歴史的分野』 日本書籍新社 P187 参考 子ども版・水平社宣言(分かりやすく直したもの。部分) (これまでの取り組みについて) 長い間、苦しめられてきた仲間のみなさん。 これまでの50年の間に、いろいろな方法と、多くの人たちによって行われてきた私たちのための取 り組みは、何の効果もありませんでした。つまり、人間に対してかわいそうだとか、ほどこしたり する同情のような取り組みは、かえって多くの仲間から差別を見抜き差別とたたかっていく力を失 わせてしまいました。 このことを考えると、今、ここで、人間を尊敬し、差別をなくすための、自分自身が仲間ととも に立ち上がることは当然のことです。 (私たちの人間としてのほこり) 私たちの先祖は、自由で平等を心の底から願い、取り組んできました。…(略)…暗くて苦しい 時でも、私たちの先祖は人間としてのほこりを持って生きてきました。そうです、そうして私たち はこの先祖のほこりある生き方を受けついで、今、差別のない社会を築いていくべき時代に生きて いるのです。私たちの力で差別をなくす時代が来たのです。 (新しい時代への希望) 私たちが差別されてきた身分であったことをほこりとする時がきたのです。私たちは、どんなこ とがあっても、自分をはずかしがるような言葉やびくびくした行動で、先祖のほこりをけがしたり、 人間を傷つけるようなことをしてはなりません。そして、人の世の中の冷たさがどんなに冷たいも のか、人間をいたわるということはどういうことかをよく知っているから、私たちは心の底から人 間の世の中の情熱と、新しい時代への希望を求めているのです。 水平社は、このような思いから生まれました。 人の世に熱あれ、人間に光あれ 大正 11 年(1922 年)3月3日 全国水平社創立大会 大阪狭山市教育委員会『人権啓発・学習冊子 131 人権と共生』(平成8年)