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電磁場の生体影響と 職場での曝露レベル 日本大学大学院理工学研究科 医療・福祉工学専攻 城内 博 1 現在の研究テーマ • 人間工学に関するテーマ (VDT作業の人間工学、腰痛対策、介護労働の人 間工学など) • 電磁場の生体影響に関する研究及び曝露調査 • 化学物質の危険有害性に関する分類と表示の 統一 • リスクコミュニケーションの方法に関する研究 • 労働衛生に関する国際協力 2 電磁場に関する調査・研究テーマ • 過去 ― 細胞および動物に対する 曝露実験 • 現在 ― 職場における電磁場曝露 レベルの調査 • 未来 ― リスクコミュニケーション 3 電磁場/電磁界とは 電場および磁場の振動が真空中や物質中を 伝搬する波動の総称である。電磁場には低 周波の電磁場から、通信に使われているい わゆる電波、太陽より放射される光(赤外線、 可視光線、紫外線)、医療に応用される放射 線(X線、γ線)などが含まれる。紫外線より 波長の短い電磁場が電離放射線、波長の長 いものが非電離放射線に大別される。 4 電波とは 電波法第2条で定められた3,000 GHz以 下の周波数の電磁波をいう。電波防護 指針においては10 KHzから3,000 GHzま での周波数の電波を対象とする。 5 電場と磁場 6 周波数と波長 7 電磁場スペクトル 8 各種電磁場の分類と用途 周波数 波 長 分 類 用 途 30~300 GHz 10~1 mm Extremely high frequency (EHF) 衛星通信、レーダー、マイクロ波通信、電波航法、アマ チュア無線 3~30 GHz 10~1 cm Super high frequency (SHF) 衛星通信、レーダー、アマチュア・タクシー・警察・消 防無線、気象レーダー、侵入者用警報、プラズマ加熱、 熱核融合実験 0.3~3 GHz 100~10 cm Ultra high frequency (UHF) マイクロ波通信、アマチュア・タクシー・警察・消防無 線、レーダー、民間無線、電波航法、UHF-TV、電子 レンジ、ジアテルミー、食品加工、材料加工、害虫駆除、 プラズマ加熱、粒子加速 30~300 MHz 10~1 m Very high frequency (VHF) 警察・消防・アマチュア無線、VHF-TV、ジアテルミー、 医療用緊急無線、航空管制、核磁気共鳴画像、誘電加熱、 プラスチック溶着、食品加工、プラズマ加熱、粒子加速 3~30 MHz 100~10 m High frequency (HF) 民間無線、アマチュア無線、国際通信、ジアテルミー、 核磁気共鳴画像、誘電加熱、木材乾燥・接着、プラズマ 加熱 0.3~3 MHz 103~102 m Medium frequency (MF) 通信、電波航法、海上無線、アマチュア無線、工業用高 周波設備、AM放送、RFアーク溶接、包装密閉、半導 体材料生産、医療用装置 30~300 kHz 10~1 km Low frequency (LF) 電波航法、海上・航空通信、長距離通信、電波測位法、 VDU、 電気腐 食加工 、誘 導加熱 ・金属溶解、Power Inverter 3~30 kHz 100~10 km Very low frequency (VLF) 長距離通信、電波航法、放送変調、医療用装置、誘導加 熱、固化、接着、溶解、VDU 0.3~3 kHz 103~102 km Voice frequency (VF) 放送変調、医療用装置、電気炉、誘導加熱、固化、接着、 溶解、精製 30~300 Hz 104~103 km Extremely low frequency (ELF) 送電線、潜水艦通信、 0~30 Hz ∞ ~104 km Sub-ELF 直流送電線 9 電磁場暴露に関する話題 10 電磁場に関する社会不安 ・携帯電話(マイクロ波 GHz) (脳腫瘍、心臓ペースメーカーの誤動作) ・VDT(静電場、超低周波ー電離放射線) (生殖毒性、倦怠感、皮膚障害、神経毒性) ・医療用機器(静磁場―高周波) (医療従事者の不安、家庭用治療器に関する不安) ・高圧送電線(50/60 Hz) (小児白血病など) ・高電力設備(50/60 Hz) (電力会社従業員の脳腫瘍や白血病、精神障 害) 11 電磁場の生体影響を考えるポイント • 周波数帯による生体影響の相違 • 曝露限界(防護指針)の根拠 • 発癌などのリスクに対する考え方 12 電磁場の生体影響 超低周波 マイクロ波 強い曝露[mT] (100kHz∼10MHz) 誘導電流 電 撃 熱作用 非常に弱い曝露[μT] 発がん? 商用周波数(50/60Hz) 携帯電話 免疫影響 13 超低周波磁場の生体影響 104 細動 期外収縮 磁 場 強 度 [mT] 103 細胞刺激 視覚誘発電位 磁気閃光 102 ICNIRP (職業性曝露) 10 電流密度 1 mA/m2 頭・心臓モデル 1 磁気閃光(10%被験者) 10-1 0.1 1 10 100 周 波 数 [Hz] 14 ラジオ波、マイクロ波の生体影響 クリック音 胎児奇形 脳波に変化 白内障 熱による死 100 免疫系に影響 10 Behavioral effects 1 リンパ球の細胞 障害性が低下 非熱効果 神経細胞から Caの流出 ICNIRP(職業性曝露) : 変調なし : ELFによる振幅変調波 熱効果 神経内分泌に影響 血液に変化 | ? | 電 力 密 度 [mW/cm2] 1000 0.1 1 10 100MHz 1GHz 10GHz 周 波 数 15 曝露限界の根拠(100 kHz‐300 GHz) 熱作用の防止(例;100kHz – 10MHz) 体温の上昇を摂氏1度以下に抑える ↓ 1–4 W/kg SAR (specific energy absorption rate) ↓(安全係数を考慮) 0.4 W/kg SAR ↓(シミュレーション) 曝露レベルの設定 16 誘導電流による生体影響 電流密度 (mA/m2) <1 1 – 10 10 – 100 100 – 1000 > 1000 生体影響 生体影響認められず 軽微な影響 磁気閃光、神経刺激、 骨折治癒 中枢神経刺激、 生命に危険の可能性 期外収縮、心室細動、 生命に危険 17 曝露限界の根拠(1Hz‐10 MHz) 神経系への影響防止 1 – 10 (mA/m2):軽微な影響(3 to 300Hz) ↓(シミュレーション) 0.5 – 5 mT (50/60 Hz) ↓(安全係数を考慮) 0.5 mT(職域)、0.1 mT(一般人)for 60Hz 内因性電流 脳 < 1 mA/m2 心臓 < 10 mA/m2 18 心臓ペースメーカへの影響 • Cardiac pacemakers: • 100 – 200μT(超低周波磁場)では誤動作等の 影響は無い • 心臓ペースメーカから 携帯電話は 22cm 離す 自動車電話やショルダーフォンは 30cm 離す (Wireless Technology Research Home Page http://www.wtrll.com/index.htm) 19 超低周波電場・磁場の生体影響懸念(1) 【疫学研究(µT) 】 高電圧送電線下住民の小児白血病に関する研究 [磁場曝露強度] > 0.2μT、 [高圧線下からの距離] < 50m 相対危険度が 1.5 から 3 ぐらい (最大相対危険度 6、>0.6μT) 電気関連会社従業員の癌発生率に関する研究 白血病 − [相対危険度] < 3 脳腫瘍が多いという報告もあるが、有意でない。 20 超低周波電場・磁場の生体影響懸念(2) 【実験研究(mT) 】 発癌のプロモーションに関する研究 ODC (ornithine decarboxylase) の活性増加 T細胞の細胞障害性低下、癌遺伝子の転写促進 樹立細胞の増殖促進 免疫機能に及ぼす影響に関する研究 T細胞の細胞障害性低下、IL-2R の減少 サイトカイン産生に及ぼす影響 内分泌系に及ぼす影響に関する研究 メラトニン産生減少 − 乳癌の発生率増加 その他 正常細胞の増殖促進 − 骨折の治癒促進 カルシウムイオンの動態に及ぼす影響 細胞膜に及ぼす影響 21 WHO IARC (国際癌研究機構) プレス発表 2001年6月 居住環境における高レベル磁場と小児白 血病のリスク増加との相関に基づき、超低 周波磁場をヒトに対して発癌性の可能性 がある2Bグループに分類した。また、静磁 場、静電場および超低周波電場はヒトに対 して発癌性を持つものとは分類できなかっ た(3グループ)。 22 IARC 2B 2Bグループに分類されている物質: アセトアルデヒド、クロロホルム、ニッケル、 コーヒー、ガソリン、アジア式野菜漬け、等 3グループに分類されている物質: アニリン、トルエン、サッカリン、フェノール、 重油、茶、等 23 ラジオ波およびマイクロ波の職業的曝露レベル [V/m] 電気メス (16cm) プラスチック溶着機 作業者 1 放送局 強 電 携帯電話 10-2 (5cm) 職業的曝露ICNIRPガイドライン (電界レベルで表示) スピード取締レーダー 10-3 操作者 10-1 10kHz 100kHz [A/m] 1 VDT ( 30cm) 10-1 度 ジアテルミー 作業者 10 マイクロ波ジアテルミー 作業者 作業者 強 界 10 界 102 誘導加熱装置 作業者 磁 103 度 104 10-4 1 10 周 100MHz 1 波 数 10 100GHz [Hz] 24 超低周波磁場の職業的曝露レベル 職業的曝露ICNIRPガイドライン (磁束密度で表示) [mT] 1 10-1 磁 10-2 誘導加熱装置 (d=0.1~1m) 電解分解(作業者位置) 溶接 (d=0~0.8m) 束 密 10 度 102 参考: 地磁気 静磁界 電力関係作業者 (発電、送電、 配電で異なる) 10-3 VDT (30cm) 10-4 0 1 100 10 周 波 数 [Hz] 25 VDT機器からの電磁場ー実測値 表 ICNIRPの曝露基準とVDT機器からの電磁場曝露測定値 26 電磁場の曝露実態調査 • 1997年ー電力設備(発電所、変電所、高圧線メン テナンス、配線設備メンテナンス) • 1998年ー誘導炉設備(自動車部品等の製造:鋳 造及び鍛造) • 1999年ー溶接(造船、橋梁組み立て) • 2000年ー医療用設備(手術室、ICU、MRI、 ハイパーサーミア、高周波治療器) • 2001年ー鉄道(JR在来線、新幹線) • 2002年ー電気機器製造ライン、自動車生産ライン 27 電磁場曝露今後の課題 • 10kHz以下の電磁場に関するガイドライン の策定 • マイクロ・テスラーレベル(>0.4μT)の弱 い磁場に関するリスクコミュニケーションの 必要性(防護指針と社会不安との乖離) 28