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Chapter7Section3
第 3 節 防音技術における吸音材料の機能 はじめに 自動車産業が大きな転換点を迎えつつある昨今,自動車の軽量化は最重要課題の一つと言えよう。それにともない, 自動車に用いられる防音技術も軽量化の観点からの開発が不可欠となってきており,防音のため使用される吸音・遮音 材料もその観点から吸音・遮音の両機能を備えた材料開発がなされるようになってきている。 そこで,本項では,多孔質材料の持つ吸音性,遮音性に着目しその音響的な機能について述べるものである。 1. 多孔質材料の吸音・遮音機能 通気性のある多孔質材料は広く吸音材料として用いられており,その材料内部での音波は,微細空気伝搬路における 粘性減衰,多孔質構造体が音波により動的に動く弾性体である場合には,それによる振動減衰,他に,熱伝導や熱交換 などの減衰により音波が熱エネルギとして消失され減衰していく。そして,それら減衰要素中,第一の要素が空気伝搬 路における粘性減衰であり,その減衰の様子は,多孔質材料中の空気伝搬路における音波の挙動の定式化 1)から求め ることができ,材料の伝搬定数および特性インピーダンスの値を計測することで知ることができる。 多孔質材料に平面音波が垂直に入射した場合の材料中の空気伝搬路における音圧挙動は図 1 に示したように 2)材料 に関わる干渉音場として定式化することができ,式中の未知数である伝搬定数および特性インピーダンスを計測するこ とで求めることができるもので,音響管計測により測定可能である 3)。 pmt = pi = ε − jkx Z − Z 0 jkx ρr = c ε Zc + Z0 pr 1 2Z c ε − Yx Zc + Z0 N=1 pt 1 N=2 pt 2 pr 2 ・ ・ ・ ・ pt N N pr N 空気 連通性多孔質材料 X=0 2Z 0 2 Z c Z 0 − Z c −2 YL jkx ε ε Zc + Z0 Zc + Z0 Z0 + Zc 3 2Z 0 2 Z c Z 0 − Z c −4 YL jkx pr 2 = ε ε Zc + Z0 Zc + Z0 Z0 + Zc ・ ・ 2Ν−1 ・ N 2Z 0 2Z c Z 0 − Z c pr = ε −2 NYL ε jkx Zc + Z0 Zc + Z0 Z0 + Zc pr 1 = pi : 材料への入射音波の音圧 pr : 材料表面での反射音波の音圧 pt : 材料内への進入音波の音圧 空気 X=L 2Z 0 2 Z c − YL jkL -jkx ε ε ε Zc + Z0 Zc + Z0 2 2Z 0 2 Z c Z 0 − Z c −3YL jkL -jkx pt 2 = ε ε ε Zc + Z0 Zc + Z0 Z0 + Zc ・ pt 1 = ・ ・ pt N = 2Z 0 2Z c Z 0 − Z c Zc + Z0 Zc + Z0 Z0 + Zc 2Ν−2 ε − ( 2 N −1) YL ε jk(x-L) γ : 材料の伝搬定数 Zc : 材料の特性インピーダンス Z0 : 空気の音響抵抗 L : 材料厚 図 1 多孔質材料に関わる平面音波の垂直入射条件における音圧挙動 549 材料に関わる吸音特性,遮音特性は下式から求めることができる。 a =α−τ (1) a:吸収率 ( ∑p α:吸音率 = 1 − pr + ( τ:透過率 = ∑p t N 2 N 2 r ) ) また,音響透過損失は下式から求めることができる。 TL = 10log 1 ( dB ) τ (2) そこで,汎用的に吸音用途として用いられている表 1 に示した多孔質材料の伝搬定数および特性インピーダンスの 音響管による測定結果から,図 1 に示した定式化に基づき, (1), (2)式に示した各試料厚 20mm の吸音特性,遮音特 性を算出し,図 2 ∼ 4 に示した。 上式から解るように,通常,吸音 特性を表す量として用いられている 吸音率は材料内部で音波が減衰する 量として表される吸収率とは違うこ とで,図 2 ∼ 4 からも分かる。透 過率と音響透過損失とは逆数関係に あることが,各図に示した結果から も分かる。 表 1 音響管計測から吸音・遮音特性を算出した多孔質材料例 材種 グラスウール グラスウール ロックウール PET 系嵩高不織布 PET 系嵩高不織布 PET 系嵩高不織布 軟質ポリウレタンフォーム 軟質ポリウレタンフォーム 1 0.9 0.9 0.8 0.7 0.7 0.6 0.6 0.5 0.4 0.4 0.3 0.2 0.2 0.1 0.1 1000 0 100 10000 Frequency(Hz) 0.9 音響透過損失 TL(dB) 0.8 吸音率 α 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 GW38 GW97 RW 0.1 0 100 1000 Frequency(Hz) 1000 10000 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 100 GW38 GW97 RW 1000 Frequency(Hz) 図 2 グラスウールおよびロックウール 20mm 厚の音響特性 550 10000 Frequency(Hz) 1 0.2 GW38 GW97 RW 0.5 0.3 0 100 嵩密度(kg/m3) 空気流れ抵抗(Pa ・ s/m2) 38.0 104 97.0 5 × 104 165.0 8 × 104 45.9 2 × 104 82.0 4 × 104 110.0 1.5 × 105 37.6 1.8 × 105 80.0 2.6 × 106 1 GW38 GW97 RW 透過率 τ 吸収率 α - τ 0.8 試料名 GW38 GW97 RW NW1 NW2 NW3 VO MCF11 10000 1 1 NW1 NW2 NW3 0.9 0.8 0.7 0.7 0.6 0.6 透過率 τ 吸収率 α - τ 0.8 NW1 NW2 NW3 0.9 0.5 0.4 0.5 0.4 0.3 0.3 0.2 0.2 0.1 0.1 0 100 1000 0 100 10000 1000 Frequency(Hz) 1 0.9 音響透過損失 TL(dB) 0.8 0.6 0.5 0.4 0.3 NW1 NW2 NW3 0.1 0 100 1000 10000 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 100 NW1 NW2 NW3 1000 Frequency(Hz) 10000 Frequency(Hz) 図 3 嵩高不織布 20mm 厚の音響特性 1 0.9 1 VO 0.9 MCF11 0.8 0.7 0.7 0.6 0.6 透過率 τ 吸収率 α - τ 0.8 0.5 0.4 MCF11 0.4 0.3 0.2 0.2 0.1 0.1 1000 VO 0.5 0.3 0 100 0 100 10000 1000 Frequency(Hz) 35 VO 0.9 30 MCF11 音響透過損失 TL(dB) 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 VO MCF11 25 20 15 10 5 0.1 0 100 10000 Frequency(Hz) 1 吸音率 α 吸音率 α 0.7 0.2 10000 Frequency(Hz) 1000 Frequency(Hz) 10000 0 100 1000 10000 Frequency(Hz) 図 4 軟質ポリウレタンフォーム 20mm 厚の音響特性 551 2. 多孔質材料の遮音機能 前項で示したように,通気性の多孔質材料は吸音材料としても,遮音材料としても機能することを示したが,ここで は,遮音材料としてどの程度の遮音性を示すかについて述べる 。 遮音性の指標として均質な通気のない板状材料に関する質量則があるが,簡易的に下式により示すことができる。 TL = 20log ( m ⋅ f ) − 43 ( dB ) m :材料の面密度(kg/m2) (3) f :周波数(Hz) (3)式から今回,表 1 に示した材料の嵩密度により見掛けの質量則を算出し,各試料の見掛けの質量則と実測より 算出した音響透過損失とを比較した。それらの結果を図 5 ∼ 7 に示した。図から分かるように,ロックウールおよび 嵩高不織布は全く質量則からは外れているが,軟質ポリウレタンフォームは同等程度の遮音特性を示している。一般に, 無数の通気のある細孔で構成される多孔質材料では遮音性は期待できないと言われているが,ここに示した軟質ポリウ レタンフォームのような多孔質材料であれば,遮音的な使い方が十分可能であると言える。 35 30 25 音響透過損失 TL(dB) 音響透過損失 TL(dB) 30 25 20 RW 見掛けの質量則 15 10 15 10 NW3 5 5 0 100 20 見掛けの質量則 1000 0 100 10000 1000 Frequency(Hz) 図 6 嵩高不織布の音響透過損失と見掛けの質量則との比較 図 5 ロックウールの音響透過損失と見掛けの質量則との比較 35 音響透過損失 TL(dB) 30 25 20 VO MCF11 VO 見掛けの質 量則 MCF11 見掛け の質量則 15 10 5 0 100 1000 10000 Frequency(Hz) 図 7 軟質ポリウレタンフォームの音響透過損失と見掛けの質量則との比較 552 10000 Frequency(Hz) おわりに 通気性のある多孔質材料について,その吸音性,遮音性について実験値に基づいた検討結果について述べてきたが, ここで述べたように,軽量の吸音・遮音材料の開発のヒントが得られたのではないかと考えている。 文 献 1)山口道征,“材料にかかわる音波の挙動と吸音特性を表す量”制振工学ハンドブック(コロナ社,2008. 5), pp484-485 2)山口道征,中川博,“各種多孔質材料の音響特性−(第 28 報)多孔質材料の透過損失−”,日本音響学会講演論文 集,pp847-848,(2002. 9) 3)大井克洋,“2 マイクロホンおよび 4 マイクロホンを用いた計測方法について”制振工学研究会報告書,音響管に よる多孔質材料の音響特性測定(2011. 4),pp22-48 553