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常時微動計測による博物館明治村の近代建築物の振動性状データベース
常時微動計測による博物館明治村の近 代建築物の振動性状データベース構築 DEVELOPMENT OF DATABASE ON DYNAMIC PROPERTIES OF HISTORICAL MODERN ARCHITECTURES IN MEIJI-MURA BASED ON MICROTREMOR OBSERVATION *1 福和伸夫 *2 Tomoki FUJII Nobuo FUKUWA 千賀英樹 *3 飛田 潤 *4 Hideki SENGA Jun TOBITA 吉田明義 *1 藤井智規 Akiyoshi YOSHIDA キーワード: Dynamic properties evaluation by microtremor observation was conducted 近代建築,常時微動計測,表層地盤,固有振動数,耐震補強,デー for valuable modern historical buildings in the architectural museum タベース “Meiji-mura”. The estimated natural frequency and damping ratio of all the buildings are accumulated into database together with the structural Keywords : and historical features of the building. Surface layer characteristics are Modern architectures, Microtremor measurement, Surface layer, Natural examined at many points in the museum, and the area of filled ground is frequency, Seismic retrofit, Database clearly shown. The earthquake observation is also conducted at three important buildings. Such observation and database are important for planning seismic retrofit of these buildings. 1. を経験した後の振動特性の変化による損傷評価などが可能になる。 序論 2. 文化財建築物は、わが国の長い歴史の中で生まれ、育まれ、今日 博物館明治村の概要及び対象建築物 の世代に守り伝えられてきた貴重な国民的財産である。その中でも 博物館明治村は、明治時代の建築物を移築し、保存展示する野外 江戸時代以前の建築物は歴史的価値が認識され、保護や研究が精力 博物館であり、昭和 40 年、愛知県犬山市の入鹿池湖畔に開村した。 的に行われているが、明治期以降の近代建築物に対する関心は必ず この地は濃尾平野北東端に境する丘陵地であり、 約 100 万 m2 の村内 しも高くなく、耐震性の不足を理由に取り壊されることも多い。 は起伏に富み、高低差が 40m を超え、入江や谷を埋め立てた地盤や 尾根と谷間を整地した切盛土が複雑に入り組んでいる。 文化財保護法では、有形文化財のうち重要なものを重要文化財、 明治村に移築・復原された建造物は 67 件あり、うち重要文化財 さらに世界文化の見地から特に価値の高いものを国宝に指定し、保 護している。これらに加えて文化財登録制度により、保存・活用の 10 件、愛知県有形文化財 1 件、その他殆どの建造物が登録有形文化 措置が必要な建築物の保護を行っている。また通達により、文化財 財である。調査対象とした建築物は、明治村内に移築保存されてい としての価値を損なわない範囲で、耐震安全性を確保するために必 る全 67 建造物のうち、蒸気機関車や橋梁、燈台などを除く、1868 要な補強を実施できることとなった。特に東海地域では、近い将来 年から 1927 年に建てられた 51 件である。 移築後の構造別に見ると、 に予測される東海・東南海地震等に対する耐震性の確保が、文化財 内訳は木造 38 件、S 造 2 件、RC 造・SRC 造各 1 件及び混構造 9 件 建築物の保全に当たって重要課題である。 である。混構造とは、建築当時に煉瓦造または石造の躯体に木造の 小屋組を成したもので、移築時に躯体を RC 造に造り替えた建築物 本報では、近代建築物保存に向けた基礎的研究として、博物館明 スの構築を目的とし、建物資料調査と常時微動計測を行った。明治 報告等の資料も詳細に纏められている。これらの資料を常時微動計 測による振動特性と共にデータベース化することにより、明治村内 6 4 2 (〒454-0004 愛知県名古屋市中川区西日置 2-12-20) *2 名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻 教授・博士(工学) Professor, Graduate School of Environmental Studies, Nagoya Univ., Dr.Eng. *3 名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻 大学院生 Graduate Student, Graduate School of Environmental Studies, Nagoya Univ. *4 名古屋大学大学院環境学研究科 助教授・博士(工学) Associate Professor, Grad. School of Environmental Studies, Nagoya Univ., Dr.Eng. 監獄 図 2 用途と建物階数 Uotsu Shaji Corporation, M.Eng. 交番 教会 医療施設 工場製造業 教育施設 図 1 用途と構造 官公庁施設 *1 魚津社寺工務店 修士(工学) 3階 2階 1階 商業施設 振動特性を現状と比較することによる補強効果の確認、強い地震動 16 14 12 10 8 6 4 2 0 住宅 交番 などと振動特性の関係を概括的に把握できる。更に、耐震補強後の 監獄 医療施設 教会 工場製造業 教育施設 0 官公庁施設 動特性を把握することにより、この時期の建物の用途・規模・構造 8 商業施設 築物保存への基礎資料を提供できる。また、多数の建物について振 10 住宅 の近代建築物の継続的な保存に寄与すると共に、他地域の同種の建 12 件数 村には様々な構造・用途・規模の近代建築物が集積し、設計図や移築 混構造 SRC造 RC造 S造 木造 14 件数 16 治村に移築保存されている近代文化財建築物の構造的なデータベー である。図 1 及び図 2 に構造、階数及び用途の分布を示す。これら 用地震計測製の加速度計 E-Catcher を用い、基本的に微動計と同じ の図より、村内には構造では木造、用途では住宅が最も多く、1 階 位置で小屋裏と 1 階の 2 箇所に設置した。 あるいは 2 階建てが主である。住宅とほぼ同等の構造・規模を有す 4. る店舗、食堂等の商業施設もある。 3. 明治村の地形改変と地盤震動特性 明治村の地盤は、2 節で述べたように複雑な地形の上に切盛土が 計測とデータベースの概要 行われているため、地盤震動特性は地点毎に大きく異なることが予 常時微動計測は 2005 年 7 月 7 日から同 12 月 16 日までの間の計 想される。図 5 は敷地の地形と建物配置に加えて、埋め立てや盛土 12 日間、日中や閉村後の時間に実施した。振動技研製の水平 2 成分 の分布を示している。地形改変は資料に乏しいため、明治村の建築 及び上下成分の 3 成分を同時に計測できる動コイル型微動計を用い 担当者のヒアリングに基づいて作成した。図中の濃色部分は現在の て速度成分を計測しており、 サンプリングは 100Hz もしくは 200Hz、 入鹿池、薄い色は盛土を表す。入江や谷を埋め立てた地点は、南部 1 回 24 分間の記録を、各建築物につき 1~3 回収録した。 の 16 東山梨郡役所から 23 京都七條巡査派出所までの通り及び北部 微動計の設置は、図 3 に示す西郷従道邸の例のように、対象建築 の 67 帝国ホテル中央玄関から 60 東京駅警備巡査派出所一帯に相当 物 1 件につき地盤、1 階床上、小屋裏にそれぞれ 1 点の計 3 点を基 する。特に前者の地点には 18 東松家住宅、16 東山梨郡役所など重 本とした。平面形状が複雑な建築物も含め、建築物本来の動的特性 要文化財に指定されている建物が複数建ち並んでいる。 各建物付近で得られた H/V スペクトルを図 6 に示す。盛土部分に を捉えられるよう、 できるだけ建築物の中心部に近い位置を選んだ。 また、構造形式の異なる和室と洋室が接続されている場合や、複数 該当する地点のグラフの背景を灰色としている。全体的な傾向とし の建築物が渡り廊下で連結されている場合などは、小屋裏や 1 階に て、 盛土部では 5~10Hz 付近にピークが見られる地点が多く、 一方、 複数の微動計を設置し、場所による振動特性の差も検討した。 盛土以外では明確なピークが無い場合が多い。表層数 m 程度の軟弱 本論で構築するデータベースの収集項目を表 1 に示す。項目⑬の 移築時の変更点は、移築の際の主構造及び平面形状の変更点を記述 地盤層の影響が明確に現れていると考えられる。 5. 常時微動計測に基づく建物の振動特性 した。項目⑮の 1 次固有振動数及び項目⑯の 1 次減衰定数は、地盤- 常時微動から求めた固有振動数及び減衰定数の一覧を表 2 及び図 建物連成系の結果を基本とした。1 次固有振動数は地盤-建物連成系 7 に示す。建物用途に着目すると、木造住宅、商業施設、医療施設 あの伝達関数のピークより求め、減衰定数は RD 法による自由振動 等の民間建築物は、長辺・短辺ともに概ね 3~6Hz の 1 次固有振動 波形の対数減衰率から求めた。 数である。一方、教育施設や官公庁施設等の公共建築物は約 2~5Hz これらのデータベースを元に、図 4 のようなリーフレットを 51 であり、民間建築物に比べ周期が長い傾向がある。これは、公共建 棟全ての建築物で作成した。このリーフレットには平面図や建築物 築物は建物規模や部屋が大きい場合が多く、床面積に対して壁量が の構造的特徴とともに、微動計の設置状況、速度波形、フーリエス 少ないためと考えられる。減衰定数は概ね 1~3%と全体的に低減衰 ペクトル及び伝達関数等の計測結果がまとめて記載されている。リ であるが、木造の用途による違いは明確には見られない。 ーフレットは誰でも閲覧可能であり、次のサイトにリンクが貼られ ている。http://www.sharaku.nuac.nagoya-u.ac.jp/ それぞれ異なる特徴を持つ聖ヨハネ教会堂、東松家住宅、帝国ホ テル中央玄関の 3 棟では、常時微動計測終了後に地震計を設置し、 2006 年 3 月 24 日から継続的に強震観測を行っている。地震計は応 小屋裏 表 1 データベース項目 ①名称 ⑨移築前の用途 ②建築年、解体年及び移築 ⑩建築面積 ③旧所在地 ⑪延床面積 ④立地点 ⑫基礎種別 ⑤移築後の主要構造 ⑬移築時の変更点 ⑥階数 ⑭計測年月日 ⑮1次固有振動数 ⑦最高高さ ⑯1次減衰定数 ⑧標高 1階 地盤 図 3 センサー設置点 図 4 リーフレット 図 8 に主構造別の固有周期と最高高さの関係(長辺方向)を示す。 全体的に最高高さと固有周期に正の相関があるが、木造建築物 5 Amplitude N 5 10 Frequency(Hz) 10 5 0 0 6:聖ヨハネ教会堂 5 0 0 5 10 Frequency(Hz) 図 5 入江や谷間の分布 Amplitude Amplitude Amplitude Amplitude Amplitude Amplitude 5 10 Frequency(Hz) Amplitude Amplitude 5 10 Frequency(Hz) 15 15 5 10 Frequency(Hz) 15 10 5 0 0 5 10 Frequency(Hz) 23 京都七條巡査派出所 15 10 5 5 10 Frequency(Hz) 15 5 10 Frequency(Hz) 15 5 10 Frequency(Hz) 15 10 5 0 0 5 10 Frequency(Hz) 5 0 0 13 三重県庁舎 10 5 0 0 15 5 15 10 15 10 5 10 Frequency(Hz) 21 札幌電話交換局 15 7 学習院長官舎 0 0 5 15 5 15 0 0 15 0 0 12 鉄道局新橋工場 15 10 5 10 Frequency(Hz) 5 14 千早赤阪小学校講堂 15 10 15 15 10 31 長崎居留地二十五番館 32 神戸山手西洋人住宅 0 0 15 物理化学教室 0 0 6 聖ヨハネ教会堂 5 10 Frequency(Hz) 39 ブラジル移民住宅 10 15 5 15 Amplitude Amplitude 15 5 10 Frequency(Hz) 5 10 Frequency(Hz) 0 0 3 三重県尋常師範学校 15 15 5 15 10 15 5 10 Frequency(Hz) 10 15 5 0 0 Amplitude 10 0 0 5 10 Frequency(Hz) 10 15 15 5 15 0 0 16 東山梨郡役所 5 10 Frequency(Hz) 10 27 西園寺公望別邸「坐漁荘」30 菅島燈台付属官舎 5 15 5 0 0 18 東松家住宅 15 5 10 15 10 15 10 5 10 Frequency(Hz) 5 10 Frequency(Hz) Amplitude 15 5 10 Frequency(Hz) Amplitude 0 0 Amplitude 9 8 5 15 5 0 0 15 38 シアトル日系福音教会 15 10 15 5 15 Amplitude Amplitude Amplitude 5 10 Frequency(Hz) 10 15 27 3 5 5 10 Frequency(Hz) 0 0 15 10 5 15 5 10 Frequency(Hz) 10 15 0 0 35 日本赤十字社中央病院病棟 34「無声堂」 0 0 30 5 10 Frequency(Hz) 15 48 小泉八雲避暑の家 0 0 15 5 10 Frequency(Hz) 5 44 鉄道寮新橋工場・機械館 40 ハワイ移民住宅 15 5 5 10 Frequency(Hz) 10 15 37 名古屋衛戍病院 0 0 Amplitude 32 25 13 12 7 Amplitude 31 5 10 Frequency(Hz) 10 15 17 清水医院 15 Amplitude 14 5 0 0 23 21 15 Amplitude 38 18:東松家住宅 15 0 0 15 34 16 10 5 10 Frequency(Hz) 5 Amplitude 37 0 0 15 10 15 36 歩兵第六聯隊兵舎 0 0 Amplitude ■ 計測対象建築物 Amplitude 39 36 35 5 10 Frequency(Hz) 5 15 10 15 10 15 15 0 0 Amplitude 40 ■ 盛土 5 10 Frequency(Hz) 45 工部省品川硝子製作所 46 宇治山田郵便局 5 15 0 0 Amplitude Amplitude 44 200m 46 47 5 5 10 Frequency(Hz) 62 金沢監獄中央看守所・監房 0 0 15 51 聖ザビエル天主堂 15 10 15 10 15 ■ 入鹿池 17 5 10 Frequency(Hz) 5 10 Frequency(Hz) 5 15 5 15 Amplitude 5 0 0 48 5 10 Frequency(Hz) 10 0 0 15 10 0 0 15 0 0 51 15 10 15 5 Amplitude 56 10 5 10 Frequency(Hz) 63 宮津裁判所法廷 15 60 東京駅警備巡査派出所 64 菊の世酒造 Amplitude Amplitude 60 5 10 Frequency(Hz) 0 0 65 高田小熊写真館 0 0 5 15 Amplitude 5 15 15 5 10 Frequency(Hz) 56 大明寺聖パウロ教会堂 15 10 8 西郷従道邸 15 Amplitude 10 0 0 57 64 67 帝国ホテル中央玄関 Amplitude 63 0 0 57 川崎銀行本店 15 5 15 Amplitude 59 5 10 Frequency(Hz) 59 内閣文庫 10 Amplitude 5 15 66 62 10 0 0 Amplitude 65 Amplitude Amplitude 向が揃わず、 その他の構造はサンプル数が少ないことなどから、 67:帝国ホテル中央玄関 15 15 Amplitude 66 名鉄岩倉変電所 は固有周期にばらつきが大きく、混構造は主要構造が複雑で傾 10 5 0 0 15 5 10 Frequency(Hz) 15 9 森鴎外・夏目漱石住宅 10 5 0 0 5 10 Frequency(Hz) 15 図 6 常時微動計測による地盤の H/V スペクトル 表 2 計測結果一覧 番号 建物名称 構造 階数 用途 2 大井牛肉店 木造 2 3 三重県尋常師範・蔵持小学校 木造 4 近衛局本部付属舎 振動数(Hz) 減衰定数(%) 建物名称 短辺 番号 1.8 34 第四高校道場「無声堂」中央 1.5 34 第四高校道場「無声堂」東側 振動数(Hz) 減衰定数(%) 構造 階数 用途 長辺 短辺 長辺 短辺 木造 1 教育施設 3.0 2.1 1.3 2.0 木造 1 教育施設 3.0 2.1 1.3 1.9 35 日本赤十字社中央病院病棟 木造 1 医療施設 4.4 4.6 1.1 1.5 2.1 36 歩兵第六聯隊兵舎 木造 2 官公庁施設 4.6 3.3 1.6 1.1 4.1 3.2 37 名古屋衛戍病院 北棟 木造 1 医療施設 5.3 5.5 1.5 2.4 3.1 1.4 1.3 37 名古屋衛戍病院 南棟 木造 1 医療施設 5.1 4.6 2.5 2.4 3.1 1.4 1.4 38 シアトル日系福音教会 木造 2 住宅 6.5 5.0 1.9 3.2 長辺 短辺 長辺 商業施設 7.4 5.2 1.3 2 教育施設 2.3 2.5 1.6 木造 1 官公庁施設 6.0 4.4 1.6 1.0 6 聖ヨハネ教会堂 梁上 混構造 2 教会 7.2 7.2 1.1 6 聖ヨハネ教会堂 塔 混構造 2 教会 4.4 4.1 7 学習院長官舎 北側 木造 2 住宅 2.9 7 学習院長官舎 南側 木造 2 住宅 2.9 8 西郷従道邸 木造 2 住宅 4.6 4.3 2.0 1.5 39 ブラジル移民住宅 木造 2 住宅 6.5 6.0 2.6 1.1 9 森鴎外・夏目漱石住宅 木造 1 住宅 4.1 3.8 1.5 1.2 40 ハワイ移民集会所 木造 1 住宅 6.3 4.6 2.1 2.1 12 鉄道局新橋工場 S造 1 工場・製造業 5.6 3.4 0.7 1.3 44 鉄道寮新橋工場・機械館 13 三重県庁舎 中央 木造 2 官公庁施設 2.8 3.2 3.1 2.2 45 工部省品川硝子製造所 13 三重県庁舎 端部 木造 2 官公庁施設 2.9 3.3 2.1 2.4 14 千早赤阪小学校講堂 木造 2 教育施設 2.5 2.3 1.4 15 第四高校物理化学教室 木造 1 教育施設 4.0 4.0 16 東山梨郡役所 木造 2 官公庁施設 3.6 17 清水医院 木造 2 医療施設 18 東松家住宅 木造 3 19 京都中井酒造 木造 20 安田銀行会津支店 木造 S造 1 工場・製造業 6.6 3.8 2.2 3.1 混構造 2 工場・製造業 8.9 4.8 1.9 1.3 46 宇治山田郵便局 木造 1 商業施設 4.5 4.9 1.4 2.3 1.5 47 本郷喜之床 木造 2 商業施設 4.7 3.2 1.0 1.5 2.2 4.2 48 小泉八雲避暑の家 木造 2 住宅 6.0 2.1 1.3 2.3 3.7 1.7 1.6 49 呉服座 木造 2 商業施設 2.9 3.3 2.5 2.2 6.7 6.7 1.0 1.2 木造 2 商業施設 4.6 3.2 2.0 2.3 住宅 3.6 2.0 1.3 2.2 50 半田東湯 51 聖ザビエル天主堂 混構造 1 教会 6.0 4.6 1.2 0.8 2 住宅 4.2 2.8 0.9 1.4 56 大明寺聖パウロ教会堂 木造 1 教会 3.7 3.0 1.4 1.0 2 商業施設 4.1 4.0 2.4 1.5 57 川崎銀行本店 RC造 3 商業施設 7.7 6.6 1.4 1.2 混構造 2 商業施設 7.0 6.0 1.5 1.3 59 内閣文庫 混構造 2 官公庁施設 7.2 7.2 9.9 4.4 23 京都七條巡査派出所 木造 1 交番 13.1 11.4 3.3 2.6 60 東京駅警備巡査派出所 混構造 1 交番 12.5 11.2 8.3 9.3 25 北里研究所本館・医学館 木造 2 医療施設 3.7 3.4 1.9 1.4 61 前橋監獄雑居房 木造 1 監獄 2.4 3.4 1.8 2.3 26 幸田露伴住宅「蝸牛庵」 木造 2 住宅 4.1 3.8 1.4 1.8 62 金沢監獄看守所・監房 北側 木造 1 監獄 3.1 3.0 1.4 1.2 27 西園寺公望別邸「坐漁荘」 木造 2 住宅 3.8 3.8 1.7 1.9 62 金沢監獄看守所・監房 南側 木造 1 監獄 6.1 9.6 1.8 1.0 28 茶室「亦楽庵」 木造 1 住宅 6.2 5.7 1.7 2.0 63 宮津裁判所法廷 木造 1 官公庁施設 3.6 4.2 1.2 1.1 混構造 1 住宅 0.8 64 菊の世酒蔵 混構造 2 工場・製造業 4.7 3.3 1.5 1.3 31 長崎居留地二十五番館 北側 木造 1 住宅 4.4 4.5 2.1 2.6 65 高田小熊写真館 木造 2 商業施設 5.1 5.8 1.6 1.2 31 長崎居留地二十五番館 南側 木造 1 住宅 5.1 5.0 2.1 2.6 66 名鉄岩倉変電所 混構造 1 工場・製造業 7.5 6.9 0.7 1.4 32 神戸山手西洋人住居 北棟 木造 2 住宅 4.9 3.3 2.1 2.3 67 帝国ホテル中央玄関 SRC造 3 商業施設 8.2 8.7 11.2 7.5 32 神戸山手西洋人住居 南棟 木造 2 住宅 4.0 5.1 2.2 2.4 21 札幌電話交換局 30 菅島燈台附属官舎 ― 10.4 ― 構造別の回帰式を得ることは困難である。全体的傾向としては、最 辺の剛性の差が大きい。 高高さが等しいときには、木造建築物の固有周期が最も長く、RC・ 図 13 に住宅及びそれに準じた規模や構造を有する商業施設の壁 SRC・混構造は短めで、S 造建築物はそれらの間にある。ここで、 率と固有振動数の関係を示す。ここでの壁率とは、耐震壁の長さを サンプル数が多い木造建築物に着目して振動特性の傾向を分析する。 垂壁・腰壁を除く建物の壁の総延長とし、壁倍率を一律 1.0 として 木造住宅 17 件について建築年及び移築年と固有周期の関係を図 9 以下の式のように長辺・短辺方向についてそれぞれ算出した。 及び図 10 に示す。 建築年と固有周期には明確な相関は見られないが、 壁率(cm/㎡)={1 階壁総延長(cm)/延床面積(㎡)}×1.0 一部の建物を除き、移築年が新しいほど短周期となる傾向が現れて 壁率が大きいほど、即ち 1 階の壁量が多い建物ほど固有振動数が いる。これは、移築当時の建築基準法に従い、壁の中に筋交いを新 高い。また、その傾向は小屋組によって明瞭な差があり。同じ壁率 設したり、土壁を塗り替えたりしたため、建物の剛性が大きくなっ では、和小屋の建物がより固有振動数が低いことが分かる。 たと考えられる。 6. 木造住宅及び同様の規模・構造を有する商業施設の計 20 件につい て屋根重量の影響を検討するため、屋根種類別の固有周期と最高高 聖ヨハネ教会堂は移築時に 1 階部分をレンガ造から RC 造へと変 さの関係を図 11 に示す。瓦葺きの重い屋根の建物は、板や金属板の 更し、2 階部分を木造とする混構造建築物である。東松家住宅は 3 軽い屋根の建物に比べ、固有周期が長い傾向がある。また、同じ瓦 階建ての間口が狭く奥行きの深い町屋風建築であり、内部に吹き抜 屋根でも小屋組の違いによって特性が異なり、洋小屋より和小屋の けを持つ。帝国ホテル中央玄関は F.L.ライトが設計した意匠的に優 建物の方が固有周期が長いが、その理由として洋小屋の斜材が屋根 れた建物である。建設当時は RC 造であったが、移築・復原時に一 部を剛床化し、水平剛性の増大に寄与していることも考えられる。 部に鉄骨を埋め込み、SRC 造へと補強している。これら 3 棟の外観 写真、平面図及び地震計設置状況を図 14 に示す。 図 12 に用途や平面形状毎の固有周期と最高高さの関係を示す。 平 観測開始から 2006 年 9 月現在までに観測された主な地震記録は、 面形状は片廊下型もしくは中廊下型の平面を持つ学校建築に近似で きる建物、間口が狭く奥行きの長い町屋型の平面を持つ建物、及び 2006 年 8 月 25 日に起きた愛知県西部地震のみであり、この地震の 町屋を除く住宅を小屋組別に分類し、比較を行った。町屋型建築は マグニチュードは 3.9、震源深さは 43km、震央距離は約 15km であ 長辺方向に壁量が多いため、学校建築や他の住宅に比べて長辺と短 る。3 棟の 1 階及び小屋裏の加速度波形とフーリエスペクトルを図 15 10 6 3 ● 長辺 □ 短辺 4 2 ・ 0.3 20 図 8 最高高さと固有周期の関係 2 4 6 8 10 0.2 12 最高高さ(m) 図 11 最高高さと固有周期の関係(屋根種類別) 1880 1900 建築年 1920 0.4 0.3 0.3 0.2 1960 1970 1980 1990 移築年 瓦洋(長辺) 7 瓦洋(短辺) 6 金属板洋(長辺) 5 金属板洋(短辺) 4 瓦和(長辺) 3 瓦和(短辺) 2 0 5 10 最高高さ(m) 2000 図 10 移築年と固有周期の関係 8 0.2 0.1 0.4 0.1 1940 学校(長辺) 学校(短辺) 町屋(長辺) 町屋(短辺) 和小屋(長辺) 和小屋(短辺) 洋小屋(長辺) 洋小屋(短辺) 0.5 長辺 短辺 0.5 図 9 建築年と固有周期の関係 0.6 瓦・洋小屋(長辺) 瓦・洋小屋(短辺) 板、金属板(長辺) 板、金属板(短辺) 瓦・和小屋(長辺) 瓦・和小屋(短辺) 固有周期(sec) 固有周期(sec) 25 0.2 0.1 0 0.3 固有振動数(Hz) 0.4 15 固有周期(sec) 0.5 10 S造 0.6 5 RC SRC造 0 0.4 混構造 0.6 長辺 短辺 0.5 0.1 1860 0.0 交番 0.1 監獄 0.2 教会 0.3 官公庁 0.4 教育 木造 0.6 木造 混構造 S造 SRC造 RC造 医療 0 図 7 主構造別の固有振動数と減衰定数 0.5 固有周期(sec) 6 商業 混構造 S造 木造 固有周期(sec) 減衰定数 住宅 交番 監獄 教会 官公庁 教育 医療 商業 住宅 0 RC SRC造 Damping Ratio(%) 9 8 ・ 固有振動数 12 Freqency(Hz) 強震観測記録に基づく建物の振動特性 3 節で述べた強震観測を行っている 3 建物の構造を以下に示す。 15 図 12 最高高さと固有周期の関係(用途別) 1 0 10 20 30 40 壁率(cm/㎡) 図 13 壁率と固有振動数の関係 N N NS 短辺 NS 短辺 EW 長辺 地階平面図 NS 短辺 2F梁上 2階平面図 2階平面図 NS 長辺 NS 長辺 小屋裏 1F EW 短辺 EW 短辺 NS 短辺 EW 長辺 37.79m 3F 27.70m EW 長辺 B1F 31.74m 1F 1階平面図 EW 長辺 7.40m 3階平面図 37.50m 1階平面図 (a) 聖ヨハネ教会堂 1階平面図 (b) 東松家住宅 3階平面図 (c) 帝国ホテル中央玄関 図 14 強震観測対象建物の外観写真および平面図 15 に、最大加速度を表 3 に示す。 これらの図表より、この地震は短周期で継続時間が短く、当該敷 宅は建物周期が 2~3.6Hz に対して入力が短周期に偏っていたため、 殆ど増幅していない。 地で南北方向に卓越した揺れを持つ地震動であったことが分かる。 地震動と常時微動を比較すると、木質構造の聖ヨハネ教会堂と東 地盤の加速度フーリエスペクトルに着目すると、6Hz~10Hz 近辺が 松家住宅は微動と地震動で応答が大きく異なっている。これは地震 卓越する揺れになっており、聖ヨハネ教会堂は尾根のため地盤がよ 動では地盤の入力が支配的なのに対し、微動では風等の建物の頂部 く、東松家では盛土の影響が現れている。帝国ホテルは入江を埋め の入力が支配的なためと考えられる。1 階と小屋裏の相対変位は 立てた地盤であるが、地盤改良も行っており、やや短周期になって 1mm に満たないが、建物の固有振動数はいずれも地震時の方が低く いると考えられる。 なり、振幅依存性の影響も見られる。 建物の応答に注目すると、東松家住宅だけが 1 階と小屋裏の振幅 がほぼ等しく、ほとんど増幅していない。これは後述する建物の固 有振動数に比べ、地震動の卓越振動数がかなり高いことによる。 7. まとめ 博物館明治村に移築・保存されている明治期の様々な構造の近代 建築物 51 件を対象に常時微動計測を行い、 得られた実測記録を建物 地震時の各建築物の小屋裏/1 階の伝達関数振幅と位相角を図 16 の特徴と共にデータベースとして整理し、各建物の結果をリーフレ に、またこれらを 1 自由度系でフィッティングした基礎固定系の固 ットにまとめ、近代建築物の構造・建築年代・移築年代と振動特性 有振動数と減衰定数を表 4 に示す。比較のため、微動記録について の関係を分析した。明治村は全体的に良好な地盤上に立地している は地盤-建物連成系と基礎固定系の伝達関数振幅を図 16 に、表 2 と が、一部に入江や谷間を埋め立てている部分では 5~10Hz で地盤の 同じ連成系の値を表 4 に示す。これらより、帝国ホテル、聖ヨハネ 卓越振動数が確認できた。 教会堂、東松家の順で固有振動数が低下し、特に 2 方向の特性の異 なる東松家では短辺の EW 方向の固有振動数が低く、剛性が低くて さらに、構造の異なる 3 棟の建物について強震観測を行い、地震 応答特性に関する考察を行った。 揺れやすいことがわかる。微動における地盤-建物連成形と基礎固定 今後は、構造や平面形状が複雑な建築物を中心に、個々の建物に 系の比較から、帝国ホテル(特に EW 成分)で動的相互作用の影響が 関するより詳細な計測と分析が必要である。移築時の構造的な変更 読み取れる。聖ヨハネ教会堂や東松家住宅の基礎が土間であり、地 点や、補強工事の履歴なども詳細に把握することにより、近代文化 盤との相互作用が殆ど無いのに対して、帝国ホテルは地下室を持つ 財建築の耐震性向上に関する検討を進める。 根入れ基礎であるため、地盤との相互作用が大きいと考えられる。 以上の伝達関数と図 6 の微動 H/V スペクトルや、図 15 の地盤の 波形から、聖ヨハネ教会堂や帝国ホテル中央玄関では地盤卓越周期 と建物の固有周期が接近しており、共振の可能性もある。東松家住 【謝辞】 明治村建築担当の西尾雅敏様,石川新太郎様には貴重な資料を提供いただい たため、ここに謝意を表します。 60 20 30 40 Time(sec) 60 3 5 10 10 20 30 40 Time(sec) 60 7 0 0 5 Freq.(Hz) 10 40 20 0 -20 -40 0 14 10 0 0 15 0 10 15 5 Freq.(Hz) 10 15 NS(長辺) 1 90 0 -90 -180 5 10 15 0 5 Freq.(Hz) 10 15 Amp. Amp. 0.1 180 0 5 0 5 10 Acc.(gal) 5 0 60 5 10 Freq.(Hz) 10 EW(短辺) 0 Freq.(Hz) 10 図 16 15 10 15 30 40 Time(sec) 5 40 20 0 -20 -40 0 14 10 Freq.(Hz) 20 50 60 10 15 30 40 Time(sec) 50 60 7 0 0 15 15 ― 地震動 ― 常時微動 (Top/1F) ― 常時微動 (Top/GL) 5 5 5 10 Freq.(Hz) 10 90 0 -90 -180 0 聖ヨハネ 教会堂 Freq.(Hz) 10 15 最大加速度 東松家住宅 1階 15.14 13.35 4.45 8.74 1階 16.05 14.56 2.84 帝国ホテル 小屋裏 19.94 45.42 中央玄関 1階 8.82 10.45 4.72 固有振動数と減衰定数 聖ヨハネ 教会堂 5 地震動及び常時微動の伝達関数 Freq.(Hz) 15 10 15 減衰定数 (%) 長辺 短辺 長辺 地震 6.54 7.24 12.70 2.65 常時微動 7.26 7.33 0.99 0.66 短辺 地震 3.58 常時微動 3.69 2.00 0.46 0.36 地震 8.63 8.48 11.93 3.02 8.61 8.88 5.02 2.38 帝国ホテル 中央玄関 常時微動 10 1.80 振動数 (Hz) 東松家住宅 5 UD 小屋裏 15.32 15.69 15 15 NS 小屋裏 21.24 40.48 14.65 表4 1 0.1 180 0 15 Phase. 帝国ホテル中央玄関 Phase. 0 0 10 EW(長辺) 1 20 表3 1 90 0 -90 -180 60 3 15 10 10 NS(短辺) 90 0 -90 -180 10 10 Freq.(Hz) EW 0.1 1800 Phase. 0.1 180 0 20 10 0 -10 -20 0 6 15 50 50 最大加速度 (gal) 100 10 60 5 1 180 90 0 -90 -180 Amp. Amp. 100 東松家住宅 Phase. 5 10 30 40 Time(sec) 加速度波形と加速度フーリエスペクトル 0.1 0 Phase. 90 0 -90 -180 50 30 40 Time(sec) Freq.(Hz) 20 0 0 15 30 40 Time(sec) Freq.(Hz) 10 小屋裏 1階 10 EW(長辺) 10 Amp. Amp. 聖ヨハネ教会堂 Phase. 0.1 1800 20 5 100 1 10 7 NS(短辺) 10 20 5 図 15 100 Freq.(Hz) ━ ━ UD 20 Acc.(gal) 10 0 0 15 50 60 3 Acc.(gal) 40 20 0 -20 -40 0 14 Freq.(Hz) 5 20 10 0 -10 -20 0 6 (gal*sec) Acc.(gal) 0 0 (gal*sec) 0 0 15 50 50 (gal*sec) 10 30 40 Time(sec) 10 Acc.(gal) 20 10 0 -10 -20 0 6 10 Freq.(Hz) 20 40 20 0 -20 -40 0 (gal*sec) (gal*sec) 5 10 20 (gal*sec) Acc.(gal) 50 EW Acc.(gal) 30 40 Time(sec) 10 (gal*sec) 東松家住宅 20 40 20 0 -20 -40 0 (gal*sec) 10 0 0 帝国ホテル中央玄関 Acc.(gal) Acc.(gal) NS 20 (gal*sec) 聖ヨハネ教会堂 40 20 0 -20 -40 0 11.40