Comments
Description
Transcript
引っかくゲーム
身体の知覚と視覚・聴覚・触覚 北川 智利 NTTコミュニケーション科学基礎研究所 はじめに • 身体の知覚: 日常の行動に本質的なもの • 外界と適切に関わり行動する – 身体がどこにあるのか? – どれだけの空間を占めているのか? – どんな姿勢をとっているのか? • 自己意識の基本的な側面 – 自分とは何か 身体知覚 • 直感的には – 体性感覚(触覚・自己受容感覚など)によって • 複数の感覚によって – 視覚:身体を見る,身体に触れるものを見る – 聴覚:自分の動きによって生じる音,身体に触れる物 体の音 • 身体知覚:視覚・聴覚・体性感覚の相互作用・統 合を通して 視覚情報と身体知覚 • 逆さめがね • ゴム製義手錯覚 Botvinick & Cohen (1998) – 見えない時分の手とゴ ムの手を同期させてた たく – ゴムの手に触覚を感じ る – ゴムの手が自身の身 体の一部 ゴム製義手錯覚 • 純粋な知覚過程 (Ehrsson et al., 2004) – ゴム義手の代わりに机でも同じ結果 – 感覚入力の統計的な相関に基づいて身体表象が更新 • 高次の処理も必要(Pavani et al., 2000; Tsakiris & Haggard, 2005) – ゴム義手を自分の手と直角に置くと錯覚が生じない – ゴム義手と自分の手の左右が一致しないと生じない • 感覚間の相互作用を通した身体知覚: ボトムアップとトップダウンの相互作用 Peripersonal Spaceにおける 視覚と触覚の相互作用 • 心理物理,神経心理,電気生理,機能的画像法 などで検討 (Maravita et al., 2003) • 身体の知覚から提示された視覚刺激はそのそば での触覚に影響を与える • 身体から離れるに従って影響は小さくなる • 視覚と触覚刺激に反応する bimodal neuron の 視覚受容野は身体部位にはりついて移動する Crossmodal Congruency Task • 触覚弁別課題 • 妨害光を視覚刺激の近く に提示すると成績が悪化 (Spence et al., 2004) • Crossmodal Congruency Effect (CCE):不一致条件と一 致条件の差 • CCEは妨害光と触覚ター ゲットの距離が近いほど 大きい 身体知覚に関連する3つの研究 • 透明なバリアは視覚と触覚の相互作用に 影響するのか(ボトムアップ) • 手の線画は視覚と触覚の相互作用に影響 するのか(トップダウン) • Peripersonal Space において聴覚と触覚 の相互作用は存在するのか 透明なバリアによって視触覚 相互作用は抑制されるのか Kitagawa & Spence (2005), Experimental Brain Research, 161, 62-71 透明なバリア • ボトムアップの過程の頑健さ • 家の中から窓の外を見る,車を運転する時にフ ロントガラスの外を見る • ガラス – 外側にあって近づいてくる物体と身体を隔てる – その物体を見ることは可能 • 視覚経験と触覚経験の乖離 – Peripersonal space における両者の相互作用を抑制 するのか? – 触覚経験を生じさせ得ないと分かっていても相互作用 は生じるのか? 実験1 • 上下左右の位置 からランダムに触 覚ターゲット • 上下の触覚弁別 • 妨害光も4箇所か らランダムに • 実験条件 – 透明バリア – 不透明バリア – バリアなし 結果 (実験1) Same distractor side Different distractor side 120 • Inverse Efficiency (IE) 得点: RT/正答率 • 透明条件と バリアなし条 件でCCEに 有意差はな し 100 80 60 40 20 0 Transparent Opaque No occluder occluder occluder Occluder condition 実験2 • 触覚刺激と 視覚刺激の 位置をより近 くに • 実験条件 – 透明バリア – バリアなし 結果 (実験2) Same distractor side • Inverse Efficiency (IE) 得点:RT/正答率 • 透明条件とバリアな し条件でCCEに有意 差はなし Different distractor side 120 100 80 60 40 20 0 Transparent occluder No occluder Occluder condition 実験3 • 経験の影響? • 課題の合間に 順応課題 • 妨害光の近く に置かれたボ タンを押す • 透明なバリア の存在をより 強く意識 結果 (実験3) Same distractor side • Inverse Efficiency (IE) 得点:RT/正答率 • 透明条件とバリアな し条件でCCEに有意 差はなし Different distractor side 250 200 150 100 50 0 Transparent occluder No occluder Occluder condition 透明なバリアの効果 • 実験4:視覚と触覚の役割を入れ替え → 再び透明なバリアの効果なし • 対象が手に触れないという認識 → 相互作用を抑制しない • 視覚と触覚の(ボトムアップの)相互作用は自動 的 • 「視覚刺激の接触の予期」のような認知処理によ るものではない 手の線画を見ることが視覚と触 覚の相互作用に影響するか Igarashi, Kitagawa & Ichihara (2004) Cognitive, Affective, & Behavioral Neuroscience Igarashi, Kitagawa, Spence, Ichihara (2005) Poster presentation at IMRF 2005 身体表象と視触覚の相互作用 • 身体表象のトップダウンの影響 – ゴムの手 (Pavani et al., 2000) – 道具の使用 (Maravita et al., 2002a; Holmes et al., in press) – 鏡映像 (Maravita et al., 2002b) – モニタに映った自分の身体部位 (Tipper et al., 1998; 2001) – 影 (Pavani & Castiello, 2004) 手の線画を用いた場合には? • テレビゲームやコンピュータのマウス – – – – 異なる位置からの視覚情報と触覚情報 視覚情報はディスプレイ上の二次元的な像 位置の食い違いは気にならない 二次元的な像を身体の一部と感じるかも • 手の線画が視覚と触覚の相互作用に影響 するのかどうかを検討 手の絵の効果 • 手の絵が視覚と触覚の相互作用に影響 – 手の絵の指先と指の付け根が自身の手に対応する • 手の絵が身体表象の形成/維持に影響 • どの程度身体部位に似ていればいいのか • より抽象的な図形でも,それを操作した後には, 身体の一部のように相互作用に影響するかもし れない • 他者の手ではどうなのか?(共感との関連) 聴覚は身体知覚に 貢献しているのか Kitagawa & Igarashi (in press) The Japanese Journal of Psychonomic Science Kitagawa, Zampini & Spence (in press) Experimental Brain Research 身体知覚と聴覚 • 身体に何かが触れた時には音が生じる – その事象の位置の手がかり – 身体部位の位置の手がかり • 視覚-触覚と比べて極めて少ない研究 • Peripersonal spaceで生じる相互作用 – 神経生理学的な研究 (Grazziano, et al., 1999) – 神経心理学的な研究 (Farnè & Làdavas, 2002) – 健常者を対象とした検討はされていない 実験1 QuickTimeý Dz DV/DVCPRO - NTSC êLí£ÉvÉçÉOÉâÉÄ Ç™Ç±ÇÃÉsÉNÉ`ÉÉǾå©ÇÈǞǽDžÇÕïKóvÇ-Ç ÅB 方法 • • • • • 被験者:50名 提示距離:Near, Far 提示条件:AV, A, V 提示音レベル:54 dB(A) 5条件 AV Near A Near AV Far A Far V 手続き • 5条件に10名ずつを割り当て • 観察の後に以下の文章について「全くあてはまらな い」から「完全にあてはまる」までの7段階で評定 • Q4はA条件ではなし Q1. 自分の耳にくすぐったさを感じた Q2. 自分の耳が触れられているように感じた Q3. 自分の耳がゴムっぽくなったように感じた Q4. 映像中の人形の耳が自分の耳であるように 感じた 結果 (実験1) • 映像を見る効 果はなし – V条件の評定 値は常に低い – A条件とAV条 件間に有意差 なし • A条件とAV条 件を合わせて 解析 考察 (実験1) • くすぐられている音が近くから提示されるとくすぐ ったさを感じる • 一方の感覚モダリティの刺激で,別の感覚が生じ る(共感覚的) • 映像の効果はなし • 音が何の音なのかを知らなくても生じる → イメージの影響ではない • 個人差 実験2 • 触覚弁別課題に妨害音は影響するか • 左右の耳たぶに電気刺激 • 左右をできるだけ速く弁別 • 妨害音を左右から提示 • 提示距離: Near, Far • 音の種類 Noise, Tone 手続き • 触覚ターゲット,妨害音をランダムに提示 • できるだけ速く,できるだけ正確に触覚弁別 • 妨害音はできるだけ無視する • 妨害音の提示レベル:70 dB (A) • Inverse Efficiency (IE) 得点: RTの中央値/正答率 • Crossmodal Congruency Effect (CCE) 結果 (実験2) • 全ての条件で触 覚ターゲットと妨 害音の提示位置 が一致しない時 に成績が悪化 • CCEは白色雑音 が近くから提示さ れた時に大きい 考察 (実験2) • 4条件で妨害音の定位成績が異なるかどう かを検討 → 同じ • 少なくとも今回の条件では妨害音の定位 は全ての条件で容易 • 聴覚と触覚の相互作用は頭部の近くから 提示された複雑な音に対して生じる 実験3 • 反応の次元(左/右)と妨害音の次元(左/ 右)が同じ – 単なるプライミング効果ではないのか? • 反応と妨害音の次元が直交する課題 – 時間順序判断課題を用いた検討 異なる感覚間での時間順序判断 • クロスモーダル時間順序判断 (TOJ): – 異なる感覚の2つの刺激を提示 – 「どちらのモダリティが先だったか」 • 2つの刺激が同じ位置から提示されると,より不 正確 – 視覚と触覚 (Spence et al., 2003) – 視覚と聴覚 (Zampini et al., 2003a; 2003b) • 同じ位置から提示された異なる感覚の2刺激は より広い時間窓で結び付けられる 仮説 • 聴覚と触覚の間のTOJでは,提示位置の効果は ないとの報告 (Zampini et al., in press) • 聴覚と触覚の間のTOJを検討した研究 – 刺激を被験者の前方の空間に提示 – 提示位置は手 • 聴覚と触覚の相互作用が頭部後方の空間で顕 著ならば ↓ • この空間でのTOJ課題: 提示位置の一致/不一致の効果が出るかも 方法 • 実験2と同じ装置 • 聴覚刺激は白色雑音のみ • 提示位置はNear条件のみ • 聴覚刺激と触覚刺激をSOA (-200 ms∼ +200 ms)で提示し「どちらのモダリティが先 だったか」 • 提示位置がモダリティ間で一致/不一致 結果 (実験3) • 時間順序の丁度 可知差異 (JND) • 提示位置の一致 →JNDが大きい • 先行研究の結果 と異なる • 頭部近傍の空間 で選択的に生じる 聴覚と触覚の相 互作用 考察 • 視覚と同じように,聴覚でもperipersonal space (あるいはperi-head space) が存在 • 身体近傍から提示される複雑な音に対して聴覚 と触覚の相互作用が生じる • 生態学的な妥当性 – 実環境では正弦波のような音は存在しない – 視覚的な手がかりが得られない後方の空間 • 音によって触覚経験が生じる(黒板を爪で引っ掻く) → 聴覚と触覚の強いリンク 身体の知覚と視覚・聴覚・触覚 • 身体表象は視覚・聴覚・体性感覚の相互作用の 上に成り立つ • (ボトムアップの)感覚間の相互作用は自動的に 生じる:必要条件 • 身体知覚は身体と関連のある視覚刺激に影響を 受ける (トップダウンの処理) • 聴覚情報も身体知覚に貢献している – 身体の前方の空間:視覚が重要な役割 – 後方の空間:聴覚がより重要? • amodalな身体表象の存在? Thanks to 五十嵐 由夏 東京都立大学, 人文科学研究科 Dr. Charles Spence Department of Experimental Psychology University of Oxford Dr. Massimiliano Zampini Department of Cognitive Sciences and Education University of Trento