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和歌山県産の農産物における輸出戦略Part1 「輸出の現状と課題」

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和歌山県産の農産物における輸出戦略Part1 「輸出の現状と課題」
研究成果報告
1
1.和歌山県の果実生産量及び農業産出額の状況
わが国の農産物輸出額は3年連続で伸び、平
成26年は過去最高金額の3,569億円となったも
のの、この金額は日本の輸出総額73兆930億円
の0.5%にしか過ぎない。
なお、農産物輸出額3,569億円は、農林水産
和歌山県産の農産物に
おける輸出戦略
Part1
「輸出の現状と課題」
物輸出総額6,117億円の58%を占めるが、うち
果実の輸出額132億円は農産物輸出額の僅か
3.7 % の シ ェ ア で あ る。 ま た、 農 産 物 輸 出 額
3,569億円は農産物輸入総額6兆3,223億円に対
し5.6%でしかない。
(一財)和歌山社会経済研究所 研究部長
藤本 幸久
平成26年の和歌山県果実生産量の上位主要
品目は、次表のとおり、みかん173千トン全国
シ ェ ア20 %、 梅71千 ト ン64 %、 柿47千 ト ン
20%、桃10.8千トン8%で、全国順位4位の桃以
外は1位となっている。
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一方、農業産出額は952億円、うち、みかん
が231億円で県内農業産出額に占めるシェア
24 %、 次 に 梅 が117億 円12 %、 柿80億 円8 %、
2.和歌山県産果実の輸出状況と課題
(1)輸出状況
農産物を輸出するには、輸出先国及び地域の
桃48億円5%である。農業産出額は全国順位32
市場調査、検疫条件対策、関税、通関費用、荷
位ではあるものの、みかんをはじめ上位主要品
役料、流通費、販売手数料などの嵩む費用や多
目は生産量と同様の全国順位となっている。
くの課題があるものの、国内市場の縮小が予想
されるなか新たな市場の開拓による多様な販路
が確保できること、生産余剰時における価格調
整機能が期待できること、農業経営の安定化と
地域経済の活性化がはかれることなどから輸出
額は増加傾向にある。
ところが、輸出業者に対するヒアリングによ
ると、和歌山県産みかんの直近の輸出状況とし
ては若干増加してはいるものの、輸出数量と金
額とも大きな変化はない模様である。次に、柿
は輸出数量が増加してはいるが、単価ダウンに
より輸出金額は微増となっている一方、桃につ
いては単価には大きな変化はないものの、輸出
数量の増加により販売金額を大きく伸ばしてい
るようである。
なお、和歌山県産農産物の主要輸出品目が、
「みかん」、「柿」、「桃」であることから、財務
省貿易統計より次表をそれぞれ作成し、わが国
の輸出状況について見てみることとする。
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平成26年の温州みかんの輸出先国は、第1位
113百万円270トン16%となっている。
がカナダで385百万円2,539トン53%シェア、次
輸出先国及び地域または生産地や品質の違
に 台 湾126百 万 円222ト ン17 %、3位 に は 香 港
い、さらには物価水準による差はあるものの、
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平成26年の輸出単価を見てみると、平均単価は
(2007年)の4,557トンが最高で、ここ数年は
220円 / ㎏であるが、なかでも最高単価は、輸
2,500トンから3,000トン程度で推移している。
出が殆んどないフランスを除けば、タイ611円
なお、平成19年にタイ向けの輸出が解禁され
/ ㎏、次に台湾568円 / ㎏、香港418円 / ㎏、シ
たことを受け、同年9月にアジア・フルーツ・
ンガポール380円 / ㎏、比較的安価なのはカナ
ロジスティカ(開催地=バンコク)、さらに12
ダ152円 /kg という状況となっている。
月には日本食品フェア(同)に出展するなど、
カナダの場合は、柑橘系果実を主にアメリカ
から輸入しているため、日本からはアメリカの
平成20年から現地販売が開始され平成26年に
は12百万円20トンの輸出状況となった。
生産の端境期に当たるクリスマスシーズン向け
これは輸出先国及び地域別の市場状況が反映
贈答品として、日本園芸農業協同組合連合会が
された結果であろうか。今後、さらに輸出拡大
中心となって輸出を行ってきた。カナダ向け温
をはかるには防疫対策はもちろんのこと、物流
州みかんの出荷は毎年10月末から11月にかけ
の効率化を含めた輸出コストの低減とあわせて
てピークとなり、海上輸送が中心で利用港は神
市場調査など一段の研究をすすめる必要がある
戸港、博多港、清水港である。
のではなかろうか。
輸出の歴史は約120年と言われ、カナダ向け
柿については、平成23年までの輸出先国及び
だけでも昭和55年(1980年)前後には1万トン
地域別の状況を分析することはできないもの
もの輸出量があったものの、最近では平成19年
の、およそ年間1.5億円程度の輸出合計実績で
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推移している。ただ、平成24年から増加に転
高級百貨店のフェアなどで販売されている。
じ、平成26年には平成23年に対し約2倍の輸出
ただし、台湾では日本品種の富有柿の生産
状況となっており、なかでもタイへの輸出額が
が、平成14年の34千トンから24年には81千ト
大幅に増加している。
ンと2.3倍に増産され、価格的に安い台湾産に
ちなみに、柿の平成26年平均輸出単価は474
対する評価も高まったことから、日本からの輸
円 / ㎏であり、台湾511円 / ㎏、タイ493円 / ㎏、
出量は平成21年の152トンが平成25年には8ト
香港435円 / ㎏、マレーシア428円 / ㎏という状
ンと激減している。
況となっている。
ジェトロのアグロトレード・ハンドブック
一方、日本国内では秋に柿が収穫されること
から、春から初夏にかけて店頭に出回る柿は、
2013(平成25年)によると、タイ国内で柿は
南半球などの収穫時期が正反対になるニュー
殆んど生産されていないものの、タイ人の嗜好
ジーランドなどからの輸入柿となる。例えば
に合うことから一定の需要がある。なお、日本
ニュージーランド産は4 ~ 7月、イスラエル産
産の柿は最高級品の果実として人気が高く、中
のシャロンフルーツ(渋柿を脱渋したもの)な
国産の約7倍という高価格ではあるが、旬には
どは1 ~ 2月を中心に店頭に並ぶこととなる。
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平成26年における桃の輸出先国第1位は香港
493百 万 円547ト ン60% シ ェ ア、 次 に 台 湾313
百万円331トン38%であり2カ国で98%のシェ
アを占める。
輸出単価の平均は922円 / ㎏であるが、イン
ドネシアの1,347円 / ㎏がいちばん高く、次に
タイの1,225円 / ㎏、続いてシンガポール1,124
円 / ㎏、台湾945円 / ㎏、香港901円 / ㎏、マレー
シア794円 / ㎏という状況である。なお、詳し
くは次号の Part2「輸出戦略と戦略品目」で述
べることとする。
(2)和歌山県産果実の輸出における課題
前述のとおり、全般的に輸出額は増加傾向に
あるものの、全国の他産地に比べ、シェアを伸
ばしきれていないという状況にある模様であ
り、ここで、和歌山県産農産物を輸出すること
の意義について以下に述べることとする。
・国内市場の縮小が予想されるなか、新たな市
場の開拓による多様な販路が確保できること
・生産余剰時における価格調整機能が果たせる
こと
・国内で評価されにくい商材の需要や嗜好に見
合った新たな販売が可能となること
・輸出を行うことで知名度や信用力の向上と
PR 効果があること
・農業経営の安定化と地域経済の活性化がはか
れることなどが考えられる。
ところが、近年の海外市場の傾向としては、
輸出先が、香港や台湾など東アジアの特定の地
域に集中していること、韓国や中国などから安
い農産物が大量に出回るようになったことで過
当競争となっていること、さらに、海外市場で
も、日本国内同様、日本の産地間での売場獲得
競争が常態化していることなど厳しい状況と
なっていることから、これらの問題解決が喫緊
の課題となっている。
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