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【編集後記】 永遠の野球青年――日本一の名監督、西本幸雄氏 平成 23

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【編集後記】 永遠の野球青年――日本一の名監督、西本幸雄氏 平成 23
【編集後記】
永遠の野球青年――日本一の名監督、西本幸雄氏
平成 23 年 11 月 25 日、宝塚市のご自宅で、西本幸雄氏は、91 歳の大野球人としての生涯を全うされました。
西本幸雄氏は和歌山市に生まれ、旧制和歌山中学では、始めはラグビー部に所属しましたが、3 年の時に野球部
に移り、二塁手・4 番打者として活躍しました。しかし、当時、和歌山では、豪腕 嶋清一投手を擁する海草中学
の黄金時代で、西本氏も「球が見えない位、速かった」と述懐されるように、苦手の左投手に、彼のバットはかす
りもしなかったといいます。
立教大学に進み、無監督制の野球部で主将、ノンプロの星野組に入り、選手兼監督。毎日オリオンズに入団、こ
こでも監督に就任と、若いときから、指導者としての才覚を発揮しました。
大毎(毎日と大映が合併)では、田宮、榎本、山内らの「ミサイル打線」を率いてリーグ優勝。その後、
「一番
魅力のない灰色のチーム」といわれた阪急で 5 度、そして、最下位が定位置で、
「球界のお荷物」と酷評された近
鉄で 2 度、リーグ優勝をはたしたものの、計 8 度挑んだ日本シリーズでは、あと一歩まで詰めながら一度も頂点
に立てず、
「悲運の闘将」とも呼ばれました。
「日本一のプロ野球の監督は ?」と、もし聞かれれば、わたしは、往年の凄い監督―「巨人 V9」を達成した川上
哲治氏、優勝 11 回の「親分」鶴岡一人氏、
「魔術師」と呼ばれた三原脩氏ら―よりも、西本氏と答えたい。野球
への愛情あふれる西本監督は、王、長島、あるいは江夏というスーパースターのいない弱小チームを、率先垂範の
厳しい指導で強豪球団に鍛え上げました。
鉄拳も辞さない熱血漢は、可愛がっていた近鉄の羽田耕一選手が空振りし、凡退して戻ってくるや、
「あれほど
1 球目は打つなと言ったのに、分からんのか !」と試合中にもかかわらず殴打、周囲が一瞬、シーンとなったり、
練習中に失敗した梨田捕手のお尻をスパイクで蹴った…等。
「よく殴ったりしたのですか」とお聞きしますと、
「マ
スコミは面白がって大げさに書く」と憮然とした表情でした。けれど、西本氏のご葬儀の際、梨田昌孝氏は弔辞の
中で、
「殴られても、その手の先から、愛情が伝わってきたのです。監督にはどこか鬼になれない優しさがありま
した」と語っていました。
西本氏の訃報に接し、現在、米大リーグ・フィリーズの監督をつとめるチャーリー・マニエル氏は、かつて、近
鉄黄金時代の大砲(
「赤鬼」のニックネームでファンに愛された)でしたが、
「西本のためにプレーするのは楽しか
った。父のように尊敬していた…」と哀悼の意を表しました。彼は近鉄時代、
「前のボス(広岡達朗氏)と違って、
西本にはマインドがある。ボスのために自分は打ちまくるよ」と意気に燃え(昭和 55 年、年間 48 本塁打・129
打点の 2 冠)
、彼に刺激された打線の爆発力は、他チームを圧倒しました。
当時、南海の監督であった野村克也氏は、
「おれは、近鉄の選手一人一人は少しも恐いと思ったことはない。が、
その奥にある西本監督の目は恐かった。彼の命令一下、近鉄ベンチは一丸となる。彼の気迫がチーム全体の集中力
を生むからだ」と述べています。
西本監督のユニフォームとの訣別は、昭和 56 年 10 月 4 日、本拠地日生球場での近鉄―阪急戦でした。スタン
ドを満員にした 2 万 5 千人のファンが総立ちとなり、
「西本、やめるなー」
「日本一 !」という絶叫と拍手で騒然と
する中、両軍の選手が監督に駆け寄り、胴上げしました。優勝でもなく、しかも、相手チームの選手にも胴上げさ
れた監督は球界無二でしょう。
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十数年前の夏、わたしは、西本監督のご自宅を訪ねる機会を戴きました。郷里和歌山から高校の後輩が来た、と
いうことで、ご夫妻でとても温かく迎えてくれました。応接間には、かつての栄光をあらわすトロフィーや額等は
なく、ただ、西本氏が大毎の永田雅一オーナーと衝突し、監督を退いたとき、大毎の選手達が創った西本氏への感
謝の詩を刻んだプレートが掲げられていました。
庭に面した大きなガラス窓が開かれ、微風とともに入ってきた蚊がブンブンと飛んでいました。監督は、蚊を叩
こうと何度も試みるのですが、意外にも逃げられてばかり。わたしが一発で仕留めると、監督は思わず、大きな声
で「ナイス・キャッチ !」
。奥様も笑っておられました。
あの美しい奥様も、数年前に先立たれました。心より西本監督のご冥福を祈ります。
(谷 奈々)
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