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花王の環境製品と 和歌山工場の 地域社会への関わり
寄 稿 2 花王の環境製品と 和歌山工場の 地域社会への関わり 和歌山工場正面からの景色 【はじめに】 弊社の創業は東京日本橋に“長瀬商店”を開 店した明治20年(1887年)に遡ります。長瀬 商店では当初洋小間物店として、石鹸・石鹸入 れ・輸入文房具の卸売兼小売店として営業を開 始しました。当時はかけそばが1杯1銭、米が 3kg で23銭の物価水準でしたが、洗顔にも使 える高品質の石鹸(高級化粧石鹸)は、1個30 銭もする高価な舶来石鹸しか流通していません 花王株式会社 和歌山工場工場長 松下 芳 でした。このような状況の下、創業者である初 代長瀬富朗は国産高級化粧石鹸の開発に挑み、 1年半の研究期間を経て1890年10月国産初の 高級化粧石鹸と呼べる品質の石鹸を発売しまし た。花王石鹸の価格は3個35銭と、まだまだ高 級品ではありましたが、舶来高級化粧石鹸の 1/3の価格設定を可能とし好評を博しました。 社名が花王株式会社となった今日も、創業当時 からの「世界の人々の喜びと満足のある豊かな 生活文化の実現」という社会貢献の企業理念を 桐箱3コ入花王石鹸と金型 21世紀 WAKAYAMA 9 受け継ぎ、徹底した研究・商品開発による消費 でいます。 者ニーズに根差した「よきモノづくり」に取り 組んでおります。 【よきモノづくりを通じた社会的課題解決への 貢献】 2009年6月花王は、地球温暖化や資源の枯渇・ 生物多様性の損失という、人類が直面している 地球規模の課題に対し、「環境宣言」を公表し ました。「環境宣言」は、花王が中・長期的な 経営戦略として「環境への負荷低減をベースと したモノづくり」を進め、化学物質を取り扱う 花王のライフサイクルの考え方「いっしょにエコ」 【和歌山工場】 企業としての責任を果たしながら、自然と調和 弊社和歌山工場は、戦時中という時代背景の するエコロジー経営を推進する基本方針であ 中、航空潤滑油製造工場として建設、1944年 り、原材料調達から生産・物流・販売・使用・ に操業を開始しましたが、1945年8月に終戦、 廃棄までの、花王製品がかかわるライフサイク 一部設備をアメリカ軍に接取されるなど時代の ル全体を通じて、この課題に取り組むことを表 荒波にもまれ、順風満帆な出発といえるもので 明いたしました。 はありませんでした。しかし諸先輩方のご努 従来、企業の取り組むエコ活動は、製品を生 力、近隣社会からのご支援を受け、翌1946年 産する過程で直接排出される環境負荷の削減を からは花王本来の民需用製品の生産工場として 目指す活動が主でありました。しかし花王製品 再スタートを切り、様々な商品を世に送り出し がライフサイクル全体を通じて排出する環境負 てきました。再開当初は潤滑油製造技術を生か 荷(CO2換算)量の内訳は、直接的な事業活動 した食用硬化油・可塑剤・陰イオン界面活性剤・ に伴う排出量(開発・製造・物流)が10%弱で 高圧還元技術を用いた高級アルコールといった あるのに対し、原材料調達・製品廃棄に伴い排 民需用化学品の製造販売を開始しました。その 出される量が約40%、ご家庭での使用場面が 後1950年以降は、一般消費者向け製品の開発・ 50%強という構成となっていることを踏まえ、 生産を開始、衣料用粉末洗剤(花王粉せんた 製品がかかわるライフサイクル全体を通じて、 く) ・食器用洗剤(モア) ・シャンプー(フェザー) 我々の製品をお使いいただいている消費者、ビ 等、消費者のニーズ・時代に合せた家庭品を旺 ジネスパートナーや社会など、さまざまなス 盛な研究活動を通じて開発・発売してきまし テークホルダーの皆さまと協働でライフサイク た。 ル全体を通して「いっしょに eco」を推進して いくことを目指しています。 現在の和歌山工場は、研究所や生産センター も併設した総合工場となり、協力会社も含めた 花王は、製品の安全性と高い品質を確保する 従業員は3,400人で、花王グループ最大規模の とともに環境負荷を低減していく、製品開発指 主幹工場となっています。その生産高は、生産 針にもとづき、原材料資源の調達から設計・製 量ベースでは約80万トンに上ります。 造・輸送・使用・廃棄までの全ライフサイクル 和歌山工場には、家庭品、化学品、マテリア を通じて環境への影響や負荷を評価する「ライ ルサイエンス、加工プロセス開発の四つの研究 フサイクルアセスメント(LCA)」を実施し 所を併設しておりエコロジ―素材の研究開発、 て、環境配慮型製品・技術の実用化に取り組ん そこで生まれた素材を活かした商品の開発、環 10 21世紀 WAKAYAMA 境にやさしい製造プロセス技術の研究開発を行 1991年、食器用洗剤「モア」の詰替えパック う環境が整備されています。また、工場には、 として初めて発売しました。 以来、環境意識 生産設備の設計や技術開発を行う部門や少量の の高まりとともに受け入れられ、今では衣料用 開発生産から本格生産まで行える設備が揃って 液体洗剤、柔軟剤、住居用洗剤から、シャン おり、和歌山工場は、研究開発から本格生産ま プーやコンディショナーまで拡大しています。 でをコンカレントに進めながらエコロジー商品 を生み育てることが出来る花王グループのエコ マザープラントの役割を果たしています。 【和歌山で生まれ、育ったエコ商品】 恵まれた研究開発、生産環境の中、和歌山で 生まれ育ち日本中、世界中のご家庭そして様々 な産業分野でお使い頂いているエコロジー商品 最新のシャンプー・コンディショナーのつめかえ用容器 の一端をご紹介します。 まずは、一般のご家庭でお使いいただいてい る製品からご紹介します。 ●コンパクト粉末洗剤 ●超濃縮コンパクト液体洗剤 2009年、濃縮化によるコンパクト化(従来 比2.5倍)とすすぎ1回で洗濯を済ませること 1987年、バイオ酵素アルカリセルラーゼの が出来る次世代液体洗剤「アタック Neo」を発 新配合と、コンパクト化/濃縮化技術により、 売しました。「すすぎ1回」に変えることで、全 1回のお洗濯に使用する量がスプーン1杯で済 自動縦型洗たく機の場合で約4 ~ 57L、ドラム む衣料用濃縮洗剤「アタック」を発売しました。 式洗たく機の場合で約11 ~ 33L の節水、環境 コンパクトで嵩張らない製品であることから、 負荷の低減になります。 運送するトラックの積送効率が上がる、現材料 や廃棄物の量が減る等、環境性能に配慮された 製品です。 ●粉末衣料用洗剤の詰替えパック 2013年コンパクト衣料用粉末洗剤「アタッ ク」の詰替え製品も発売しました。移し替える 際に周囲を汚すことなく手軽に詰替えが行うこ とが出来ます。本体箱とスプーンの再利用によ り、ごみ重量を約90%削減できます。 次に、ケミカル事業を通じて産業分野に供給 しているエコケミカル製品をご紹介します。 ●低温定着トナーバインダー コンパクト洗剤「アタック」改良の歴史 複写機やコピー機が消費するエネルギーの約 7割が、紙にトナーを定着させるための熱処理 ●詰替えパウチ化の推進と進化 に使われます。花王では従来よりも低い温度で プラスチック製の本体容器を繰り返し使える すばやく溶け、しっかりと紙に定着するトナー ため、ごみの削減や省資源につながり、CO2の バインダーを開発しました。お客様の使用時の 削減にも貢献できる詰替え用パウチ製品を 電力消費を大幅に削減し、CO2排出量の削減と 21世紀 WAKAYAMA 11 複写機の起動速度向上を実現しています。 た恩恵にも感謝し、恩返しをしています。和歌 山工場の生産活動には水が不可欠ですが、この ●高機能タイヤゴム材料 水を供給してくれる紀ノ川の水源を保全する為 これまで難しかったタイヤゴムへのシリカの に和歌山県の主催する「企業の森」事業に参画 配合量と分散性を向上させ、低燃費とウェット しています。紀ノ川の源流の一つ貴志川の上流 グリップ性能を高次元で両立し、より安全性の にある紀美野町の荒れた山林を整備、地元種を 高い低燃費タイヤを実現する「タイヤゴム用シ 植林し、毎年春、秋には100名を超える社員ボ リカ分散性向上剤」を販売しています。 ランテイアにより下草刈りなどの保全活動を実 施しています。 ●水性インクジェット用顔料インク これまで花王の培ってきた「顔料ナノ分散技 術」をさらに応用し、軟包装用フィルム基材へ の印刷に対して、VOC(有機溶剤)レス設計 で環境負荷を低減した「水性インクジェット用 顔料インク」を世界で初めて開発しました。 【和歌山工場の地域社会への関わり】 和歌山工場が長年にわたってエコロジー商品 を開発、生産し世界中の消費者やビジネスパー トナーにお届けすることが出来たのも地域社会 の皆様のご理解、ご支援と和歌山の豊かな自然 環境のおかげと思っています。 花王企業の森保全活動 また、工場内には江戸時代初期から続くクロ 松の防潮林があり、海からの強い潮風から工場 地域社会の皆様と今後もより良い関係を継続 を守ってきました。一部は「水軒堤防」という する為に、工場からの排水、排出ガス、騒音、 県の史跡になっていますが、私たちは今では珍 臭気については細心の注意を払い、規制値以上 しくなった松林特有の生態系を保護する為に野 に管理を厳しく行うことはもちろんですが、近 鳥などの生きもの調査や下草刈、雑木除去、松 隣住民の皆様を和歌山工場の消防出初式や地蔵 の苗木植樹を社員も加わって実施しています。 尊といった社内行事にお招きしたり、普段から こういった様に社員が気軽に自然に触れ合え 活発に情報交換をさせて頂くなどコミュニケー ることで環境への意識が自然と高まりエコロ ションを大切にしています。また、2011年に ジー製品の開発やエコロジーな生産活動へ繋 開設された、エコテクノロジーリサーチセン がっているものと思います。 ターでは最先端の環境技術の研究に取り組んで いますが、同施設にある花王エコラボミュージ 花王和歌山工場は、地元密着の活動をつづ アムでは環境の今と花王の環境技術を展示した け、「和を尊び、モノづくりの喜びを歌う、山 り、映像・体験プログラムを通じて解り易く紹 の如き、強くて良い和 歌 山 工場」を目指して、 介しており、工場の生産設備とともに地域の小 今後もさまざまな切り口で環境に配慮した、よ 学生を中心に年間1万2千名のお客様にご見学 きモノづくりにまい進して行きます。 頂くなど、地域の次世代教育にもお役に立って います。 一方、私たちは和歌山の自然の恵みから受け 12 21世紀 WAKAYAMA