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人間・非暴力・民衆をめぐって
創価教育 第5号 池 田大 作 の 平 和観 と世 界 秩 序構 想 につ いて の 一考 察 一 人 間 ・非 暴 力 ・民 衆 を め ぐ っ て 一 中 山 雅 司 は じめ に 1.池 田の 平 和 観 に お ける 平和 と人 間 一人 間 の た め の 平和 一 (1)平 和 観 の核 心 と特徴 (2)平 和 観 形 成 の淵 源 と背 景 (3)基 調 と して の人 間 と生命 の尊 厳 2.国 際社 会 に お け る 国家 と人 間 一 国家 の た め の 平 和 一 (1)ウ ェ ス トフ ァ リア シス テ ム と 「 戦 争 の文 化 」 ① 国 際社 会 の誕 生 と構 造 ② 「戦 争 の 文 化 」 の 土壌 1)文 化 帝 国 主 義 、 自文 化 中心 主義 2)科 学 万 能 主 義 、物 質 至 上 主 義 ③ 戦 争 の 規 制(個 別 的 暴力 の禁 止 と公 権 的暴 力 の容 認) (2)第2次 大 戦 後 の 潮 流 に お け る平 和 と人 権 ① 国際 社 会 にお け る 「 秩序 」 と 「 正 義 」 一人 権 の 国 際 的保 障 一 ② 核 兵 器 の登 場 と人 類 史 的意 味 ③植 民地 の独 立 と人 権 概 念 の発 展 3.平 和 へ の 新 た な課 題 一冷 戦 終結 とグ ロー バ リゼ ー シ ョンー (1)最 近 の 国 際社 会 の変 化 (2)脅 威 の 多 様 化 と絶対 平 和 主 義 の課 題 ① 人 間の 安 全 保 障 と人 道 的 介 入 ・保護 す る責 任 ② 武 力 の行 使 と絶 対 平和 主 義 ③ テロ と 「 テ ロ との戦 争」 が もた らす 問 題 4.池 (1)マ 田 の平 和観 と グ ロー バ ル ガバ ナ ンス ー国 連 ・法 ・民衆 に よ る平 和 一 ル テ ィラ テ ラ リズム と国連 の民 主 化 一国 家 を っ な ぐ一 (2)「 カ の支 配 」 か ら 「 法 の支 配 」 へ 一国 家 を裁 く (3)ボ トム ア ップ に よる秩 序構 築 一 国家 を動 か す 一 おわ りに 一パ ラ ダイ ム の転 換 と池 田 の 平 和観 一 MasashiNakayama(創 価 大 学 法 学 部 教 授) 一105一 池 田大作の平和観 と世界秩序構想についての一考 察 は じめ に 「平和 」は 、社 会 の秩 序 や 人 聞 の 生 き方 に か か わ る重 要 な概 念 の ひ とっ で あ る。同時 にそ れ は 、 多 義 的 で イデ オ ロ ギー 的 な概 念 で もあ る こ とか ら、 さ ま ざま な形 の 「 平 和 」 の名 の も とで 、社 会 の 枠組 みや 人 類 の歴 史 の 趨 勢 に 大 き な影 響 を与 えて きた こ と も確 か で あ る。 この 「 平 和」 を ど う 定 義 し、具 現 化 して い くか は 、 人類 の未 来 に とって の重 要課 題 で あ る とい って も過 言 で は な い。 ひ とっ の理 念 が時 代 の エ ー トス を醸 成 す る と とも に人類 の命 運 を も左 右 す る こ とを考 え る 時 、 創 立者 池 田大 作 先 生(以 下 、池 田)の 平 和 につ い て の 考 え方 、言 い 換 え るな らば 平和 観 につ い て 考察 す る意 義 は大 きい 。 そ れ は 、池 田研 究 にお い て も避 け て通 れ ない テ ー マ で あ る よ うに思 われ る。 なぜ な ら、池 田の 平和 観 は 、そ の世 界観 、人 間観 と密 接 不 可 分 の もの で あ る ば か りで は な く、 「 平 和 」 の実 現 こそ が 池 田の行 動 を貫 く原 理 で あ り究極 的 な 目標 で あ る とい っ て も過 言 で は ない か らで あ る。 そ して 、 何 よ りも 、池 田 の平 和観 が これ か らの地 球 社 会 に お い て 、新 た な秩 序 構 築 のパ ラ ダイ ム と して の役 割 を担 い うるの で は な い か との 問題 意 識 が あ るか らで あ る。 こ の よ うに考 え る根 底 に は 、 これ まで の 国 際社 会 に お け る平 和 の 思想 と構 造 が必 ず しも人 間 の 幸 福 と社 会 の 繁 栄 を もた ら して きた とは い え な い の で は ない か との認 識 が あ る。「平和 」が 少 な く とも人 間の 幸 福 や 社会 の繁 栄 に資 す る もの 、 あ るい は それ らが 実 現 され た状 態 で あ る との 理 解 に 立 っ な らば 、 は た して 人類 の歴 史 は この よ うな意 味 にお い て 平 和 で あ っ た とい え るで あ ろ うか 。 これ につ い て は 、否 定 的 に な ら ざ るを え な い。平 和 と人 間 の 関係 につ い て 端 的 に 表 現す る な らば 、 「 平 和 の た め の 人 間 」 で は あ った か も しれ な い が 「 人 間の た め の 平和 」 で は なか った の で は な い か とい う点 で あ る。 で は だれ の た めの 平和 で あ っ た ので あ ろ うか。 それ は 国家 の た め の 平 和 で あ った とい っ た 方 が よい の か も しれ な い。 も ち ろ ん、 国 家 は 人 々 を守 り、幸 福 を実 現 す るた め に 存 在 し、 そ の た め に 平和 を追 求 して きた こ とは確 かで あ る。 す な わ ち 、少 な く と も立 憲 民 主 主 義 国 家 にお い て は 、 国 家 は 国民 か らの負 託 に基 づ い て権 力 を行使 し、 国 民 のた め に行 動 す る存 在 と し て 理 解 され る。 そ の限 りにお い て 、国家 の利 益 と国 民 の福 利 は一 致 す るは ず で あ る。 しか し、 「平 和 の た め に は 戦争 の準 備 をせ よ」 との古 代 ロー マ の 格 言 が示 す よ うに、 お よそ す べ て の権 力 者 は 軍 備 の 強化 に よっ て 内外 の平 和 を守 ろ う と して きた 。 そ して 、軍 備 は平 和 の 原 因 よ り も戦 争 の原 因 に な りが ちで あ った(1)。 平 和 の た めに 戦 争 をす る とい う逆 説 は 、 結 果 と して 人 間 の 生 存 や 幸 福 を奪 っ て き た の で あ る。そ の意 味 にお い て 、人 類 の歴 史 は 「 戦争 の文 化 」で あ っ た と もい え る。 その 「 戦 争 の文 化 」 を 「 平 和 の文 化 」 に転 換 す る、 こ こに池 田 の人 生 観 、 平 和観 の大 き な核 心 が あ る とい っ て よ い。 と ころ で 、 「 戦 争 の文 化 」 は いつ 形 成 され た の か。人 類 は 、そ の 歴 史 が 始 ま っ て以 来 、争 い を繰 り返 して き た こ とを想 起 す る な らば、人類 史 は 戦争 の歴 史 で あ った とい っ て も よ い(2)。 しか し、 (1)河 合 秀 和 「ジ ョセ ブ ・u一 トブ ラ ッ ト/池 田大 作 『地 球 平 和 へ の探 究 』 をめ ぐっ て」(週 刊 読 書 人2006年 7月21日)。 (2)統 計 に よれ ば 、紀 元 前3600年 か ら現 在 ま で 、約5600年 の 間 で 、平 和 期 と言 え るの は わず か300年 た らず だ と され て い る。 そ の 間 にお きた 戦 争 は1万5000近 く、 死 者 数 は35億 人 を超 え る。 と くに 、紀 元1500年 か 一106一 創価教育 第5号 こ こで は とく に現 在 の 国 家 、す な わ ち主 権 国 家 が誕 生 した と され る17世 紀 半 ば 以 降 の 国際 社 会 に 焦 点 を 当て る。 そ れ は 、 主権 国家 か らな る社 会 の構 造 、す な わ ち主 権 国 家 体 制(ウ ェス トフ ァ リ ア シ ステ ム)に 戦 争 の 大 き な要 因 をみ る こ とが で き る と考 え る か らで あ る。 ま た 、近 現 代 は、 科 学 技 術 の発 達 に よ る軍 事 技術 の 向上 に よ って 強 大化 した兵 器 に よ り、 戦 争 が 大 規模 化 、残 虐 化 し た 時期 で も あ った 。 そ の 究 極 が核 兵 器 で あ り、 戦争 は一 般 市 民 を巻 き込 んだ 総 力 戦 の様 相 を呈 し た。い うま で も な く、平 和 を妨 げ る要 因 は 国家 問 の 戦 争 や紛 争 に 限 られ る も ので は な い。近 年 は、 内戦 や テ ロな ど紛 争 形 態 が 多様 化 す る と とも に、貧 困 や 人権 侵 害 、地 球 環 境 問 題 、 感染 症 な ど、 私 た ち は さま ざま な地 球 的 諸 問題 を前 に そ の解 決 を迫 られ て い る。 そ の意 味 で 、20世 紀 は ま さ に 「戦争 と暴 力 の世 紀 」 で あ った 。 この よ うな国 際 社 会 にお い て平 和 を ど う定 義 し、 実 現す る か は 喫 緊 の課 題 で あ る。 本稿 は 、池 田の著 作 、 対 談 、 講 演 、 提言 等 にお け る 「 平 和 」 の 意義 お よび 特 徴 とそ の 世界 秩 序 構 想 にっ い て の検 討 を通 して 、 そ れ が21世 紀 の平 和 秩 序 の構 築 に どの よ うに寄 与 し うるか にっ い て 考 察 す る もの で あ る。 以 下 で は 、1に お い て 池 田の 平和 観 につ い て 、 「 平和」と 「 人 間 」の視 点 か らそ の思想 の核 心 と淵 源 につ い て 考 察 す る。2で は、 近 代 以 降 の 国 際社 会 にお け る国 家 と人 間 の観 点 か ら、「戦 争 の 文化 」が どの よ うに形 成 され 、ま た規 制 され て きた の か につ い て述 べ た うえ で 、第2次 世 界 大 戦 が 平 和 と人 権 の関 係 に 及 ぼ した変 化 、お よび そ の 後 の核 兵 器 の登 場 と植 民 地 の独 立 が もた ら した 影響 に つ い て検 討 す る。3で は 、冷 戦 終 結 とグ ロー バ リゼ ・ 一 ・ ・ 一 一 シ ョン とい う最 近 の 国 際社 会 の変 化 の な か で 、 国際 社 会 が 抱 え る 平和 の新 た な課 題 につ い て検 討 す る。 そ して 、 4で は21世 紀 にお け る平 和 の た め の世 界 秩 序構 想 に つ い て 、池 田 が指 し示 す 視座 とその 方 策 の 意 義 に つ い て考 察 した い 。 1,池 田 の 平和 観 に お け る平 和 と人 間 一人 間 の た め の 平 和 一 (1)平 和観 の核 心 と特 徴 池 田が 執筆 した小 説 『人 間革 命 』 は、 「 戦争 ほ ど、残 酷 な も の は ない 。戦 争 ほ ど、悲惨 な も の は ない 。 だ が 、 そ の戦 争 は 、 まだ 続 い て い た 」 との有名 な一節 で始 ま る(3)。 す な わ ち、 「 戦争」か ら書 き起 こ され て い る。時 代設 定 も第2次 世 界 大 戦 の敗 色 濃 厚 の焼 け野 原 とな っ た 日本 で あ った 。 小 説 に は、軍 国主 義 に よる創 価 学 会 の弾 圧 、創 価 学 会 牧 口常 三 郎 初 代 会 長(以 下 、牧 口)、戸 田城 聖 第 二 代 会 長(以 下 、戸 田)の 投 獄 と牧 口の獄 死 、 戸 田 に よ る戦 後 の 学 会 の再 建 と師弟 の共 戦 の 歴 史 が綴 られ て い る。 そ こに は 、戦 争 と横 暴 な権 力 との闘 争 が 三 代 の 会長 に よっ て築 か れ た創 価 ら現 在 ま で 、500年 間 の死 者 数 の比 率 が高 く、 紀 元 前3000年 か ら の死 者 数 の96パ ー セ ン ト近 く を 占め る 。 と りわ け、20世 紀 に起 き た第1次 世 界 大 戦 の死 者 は約1000万 人 、第2次 世 界 大 戦 の それ は5000万 人 以 上 に の ぼ り、 そ の 後 に 起 き た紛 争 で も 多数 の犠 牲 者 が 出て い る。 死 者 の うち 、非 戦 闘員 の 占 め る割 合 が飛 躍 的 に高 ま っ た こ と も20世 紀 の紛 争 に お け る特 徴 で あ る(最 上敏 樹 『い ま平 和 とは 』(岩 波新 書 、2006年) 5-7頁)。 (3)池 田大作 『人 間革 命 』 第1巻(聖 教新 聞社 、1965年)、3頁 一107一 。 池 田大 作の平和観 と世界秩序構想についての一考察 学 会 の魂 で あ り、平 和 運 動 の原 点 で あ る との理 念 が込 め られ て い る。一 方 、小 説 『新 ・人 間革 命 』 は 、 「平和 ほ ど、尊 き もの は な い。 平和 ほ ど、幸 福 な も の はな い 。平 和 こそ 、人 類 の進 むべ き 、根 本 の 第 一 歩 で あ らね ば な らな い」 との一 節 、 す な わ ち 「 平 和 」 で始 ま っ て い る(4)。 そ こ に は 、 戸 田亡 き後 、 師 匠 との誓 い を胸 に世 界 を舞 台 に人 々 の幸 福 と恒 久 平 和 を築 くた め に身命 を賭 して 戦 い抜 い て来 た池 田 の行 動 の軌 跡 が つ づ られ て い る。 そ の 意 味 で 、 池 田 と創 価 学 会 の 理念 と運 動 を貫 くテ ーマ は戦 争 と平 和 で あ り、 換言 す れ ば戦 争 か ら平 和 へ の歴 史 の転 換 で あ る とい っ て も過 言 ではない ㈲ 。 と ころ で 、池 田 は 「 平 和 」 を どの よ うに と らえて い るの で あ ろ うか。 そ の特 徴 は 三 点 あ る よ う に 思 われ る。 第一 は 、積 極 的平 和 で あ る。 す な わ ち 、平 和 を単 な る戦争 の裏 返 し と して戦 争 が な い状 態 だ け で は な い とい う点、 ま た 、 国 家 間 の 平 和 で は な く、 人 間 か らの視 点 が示 され て い る点 で あ る。 こ の 平和 観 は 、学 問分 野 と して の 平 和 学 を切 り開い た ヨハ ン ・ガル トゥン グ の考 え と相 通 じる。 彼 は、 「 平 和 」 を暴 力 の 不在 と定義 す る。 そ こに お い て暴 力 とは、 「 人 間 に本 来 備 わ った 肉体 的精 神 的 可能 性 の実 現 を妨 げ る もの す べ て 」.と 定 義 され る。 そ して 、人 が直 接 手 を下 す 暴 力 、行 為 主 体 が 明確 な暴 力 を直 接 的 暴 力 とした 。 具体 的 に は、 戦 争 、 テ ロな どが これ に該 当す るが 、戦 争 の な い状 態 を 「 消 極 的平 和 」 と した 。 しか し、暴 力 は これ に と どま らな い。 世 界 には 、 差別 や 抑 圧 な ど社 会 的不 正 義 に苦 しむ 人 々 が 数 多 くい る。 ガ ル トゥ ング は これ を 「 構 造 的 暴 力 」 と呼び 、 これ ら構 造 的暴 力 の ない 状 態 を 「 積 極 的平 和 」 と定 義 した(6)。 これ につ い て 池 田は 、 「 私 た ち人 類 が 取 り組 むべ き課 題 は 、単 に戦 争 が ない とい っ た 消極 的平 和 の実 現 で はな く、『人 間 の尊 厳』 を脅 か す社 会 的構 造 を根 本 か ら変 革 す る積 極 的平 和 の実 現 に あ り」 ま す と述 べ て い る(7)。 ま た 、 「 翻っ て 、眺 望す れ ば 、二 十 世 紀 は、一 言 で い っ て 、あ ま りに も人 間 が 人 間 を 殺 しす ぎ ま した。 『戦 争 と 革 命 の世 紀 』 と形 容 され る よ うに 、 二度 にわ た る世 界 大戦 や 相 次 い だ革 命 な ど、今 世 紀 は 、 か つ て な い血 な ま ぐ さい 激 動 の 連続 で あ っ た と言 って よい で し ょ う。 科 学 技 術 の 発 展 が 、兵 器 の殺 傷 力 を飛 躍 的 に高 めた こ とも あっ て 、 両度 の世 界 大 戦 な どの死 者 は約 一 億 人 に も及 び 、 その 後 の冷 戦 下 か ら現 在 に至 るま で 、 地域 紛 争等 に よ る犠 牲者 も、 二千 万 人 以 上 に のぼ る とい われ て お りま す 。 と と もに 、『南 』 と 『北 』 の貧 富 の 差 は拡 大 し続 け、約 八 億 もの 人 々 が 飢 え てお り、幾 万 の幼 い尊 き命 が 日々 、栄養 不 足 や 病 で失 われ て お りま す。 この構 造 的 暴 力 か ら、 決 して 目をそ らす こ とは で き ませ ん」(8)と も述 べ てい る。 さ らに 、 「 現 代 の テ ロ、紛 争 、戦 争 の背 景 に は、 極 度 の 貧 (4)池 田大 作 『新 ・人 間 革命 』 第1巻(聖 (5)池 田 は 、『新 ・人 間革 命 』 第1巻 教新聞社 、1998年)、11頁 。 の 「 は じめ に」 にお い て 次 の よ うに綴 っ て い る。 「「 魂 の力 」 は原 子 爆 弾 よ りも強 い一 そ れ が マ ハ トマ ・ガ ンジ ー の 叫び で あ った 。人 間 の もつ 、無 限 の 「 生命 の力 」の 開拓 が 、「 戦 争 の世 紀 」 を 「 平 和 の世 紀 」 へ と転 じゆ く一 そ れ が 「 人 間 革 命 」 で あ り、 こ の小 説 を貫 く一 本 の 水 脈 と な ろ う」(同 、3頁)。 (6)ヨ ハ ン ・ガル トゥ ング/高 柳 先 男他 訳 『構 造 的 暴 力 と平 和 』(中 央 大 学 出版 部 (7)第25回 「SGIの日」 記 念提 言(聖 教 新 聞2000年1月26目) 、1991年)参 照。 。 (8)ハ ワ イ東 西 セ ンタ ー 講 演 「 平和 と人 間 の た め の安 全 保 障 」 池 田大 作 『「 人 間主 義 」 の 限 りな き地 平 一海 外 一108一 創 価 教 育 第5一号 困 、 そ して飢 餓 が あ りま す。 つ ま り、 「 直 接 的暴 力 」 を生 む 原 因 の一 つ は 「構 造 的 暴力 」 一 搾 取 、 偏 見 、差 別 、貧 困 、飢 餓 、疾 病 で す 」(9)と も述 べ て い る。 こ こで 示 され て い る直 接 的 暴 力 と構 造 的 暴 力 が密 接 に 関係 す る との視 点 は重 要 で あ る(10)。 第 二 に 、絶 対 的 平 和 で あ る。 す な わ ち 、非 暴 力(平 和 的 手 段)に よ る平 和 で あ り、 と くに戦 争 や 軍 事力 に よ る平 和 の否 定 の 思想 で あ る。 ク ラ ウゼ ヴ ィ ッツ は 、 『戦 争 論 』 に お い て 、 「 戦争 は他 の 手 段 に よる政 治 の継 続 で あ る」 と述 べ た が 、これ につ い て 池 田は 、「ク ラ ウゼ ヴ ィ ッツ 的 な戦 争 肯 定論 も、 も ち ろ ん、 い か な る戦 争 肯 定論 も断 じて 放 棄 す べ き で す。 戦 争 は絶 対 悪 で あ り、人 問 生命 の 尊厳 へ の挑 戦 で す 」(11)と述 べ て い る。そ して 、 自 らを 「非 暴 力 と絶 対 平 和 主 義 を そ の根 本 理 念 の 一 つ とす る仏 法 の 信奉 者 」 と述 べ て い る(12)。 こ こに は 、後 に 述 べ る よ うに仏 法 者 と して の 視 点 を伺 い知 る こ とが で き る。 さ らに、 「キ リス ト 教 も仏 教 も、 それ ぞれ に、 「 殺 す な かれ 」 とい う人 間 と して の根 本 的 な倫 理 を説 い て い ます 。 「非 暴力」「 不 殺 生 」。 こ うした世 界 宗教 に共 通 す る根 本 の 教 えを 、 「グ ローバ ル な倫 理 」 の基 盤 に して い か ね ば な りませ ん」(13>と述 べ 、非 暴 力 を世 界 宗教 に共 通 す る思 想 と して位 置 づ け て い る。ま た 、 「 ガ ンジ ー は 言 い ま した。 「 暴 力 が 獣 類 の 法 で あ る よ うに、非暴 力 は人 類 の法 で あ る。獣 類 に あ っ て は精 神 は 眠 っ て お り、 獣 類 は 肉体 の 力 の他 に は法 を知 らな い 。 人 間 の尊 厳 は 、 よ り高 い 法 に 、 す な わ ち精神 の 力 に従 うこ とを要 求 す る」 ま さ し く、 「暴 力 」 は獣 性 の爆 発 で す 。 「 非暴力」は、 強靭 な 「 精 神 のカ 」 に よ って 発 現 しま す。 「 非 暴 力 」 こそ 、人 間 の人 間た る証 で す 」 と も述 べ 、非 暴 力 が 獣 類 と分 け 隔 て る人 間 の精 神 の証 で あ る とい う(14)。 第 三 は、 能 動 的 平 和 で あ る。 これ は、 平 和 の 実現 に お け る実 践 論 で あ り、 平和 を 国家 や 社 会 か ら与 え られ る もの と して受 動 的 に待 つ もの と して と らえ る ので はな く、 人 間 自身 の変 革 を通 じた 行 動 に よ って 平 和 を 作 っ てい くこ とが重 要 で あ る との考 え方 で あ る。 そ の基 底 に は 、戦 争 も平 和 も人 間 が作 り出す もの で あ る との認 識 が あ り、そ の主 役 は民 衆 で あ る。 この こ とは 、「 一 人 の人 間 諸 大 学 で の 講 演 選集H』(第 三 文 明 社 、2008年)。 (9)池 田大 作/ア ドル フ ォ ・ペ レス=エ ス キベ ル 『人 権 の 世 紀 へ の メ ッセ ー ジ』(東 洋 哲 学研 究所 、2009年)、 310頁 。 (10)その他 、 「 地 球 的 問題 群 の原 因 は 、差 別 、 抑 圧 、 貧 困 、 人権 侵 害 とい った 『構 造 的 暴 力』 が背 景 に あ りま す 。 それ は 、家 庭 か ら国際 社 会 に至 る ま で存 在 して い る。 こ の 『構 造 的暴 力 』 が 自然 に 向 け られ れ ば環 境 破 壊 とな り、人 問 に 向か え ば人 権 抑 圧 とな ります 。 こ う した構 造 的暴 力 を克 服 してい く な か に こそ 、 真 の意 味 で の 「 非 暴 力 」 が あ る の です 」(池 田大 作/R・D・ ホ フ ライ トネ ル 『見 つ め あ う西 と東 』(第 三 文 明社 、2005年))、184頁 。 (11)池田大 作/ア ー ノル ド・トイ ン ビ・ 一 一 ・『二 十 一 世 紀 へ の 対話(下)』(文 藝 春 秋 、1975年)、74頁 。 (12)池田大 作/ア ナ トー リ ・A・ログ ノ ブ 『第 三 の虹 の 橋 』(毎 日新 聞社 、1987年)、41頁 。 (13)池田大 作/フ ェ リック ス ・ウン ガ ー 『人 間主 義 の旗 を 』(東 洋 哲 学研 究 所 、2007年)、14頁 。 (14)池田大 作/ア ドル フォ ・ペ レス=エ ス キベ ル 『人 権 の 世 紀 へ の メ ッセ ー ジ』、27頁 。 また 、 「 た しか に、 軍 事 力 に 象 徴 され る ハー ド ・パ ワ ー の行 使 に よっ て 、 一 時 的 に事 態 の 打 開 を 図 る こ とは で き る か も しれ な い 。 しか しそれ は 、 対症 療 法 的 な性 格 が強 く、 か え っ て 、"憎 しみ の 種 子"を 紛 争 地 域 に残 し、 事態 を膠 着 化 させ か ね な い こ とは 、 多 くの識 者 の 憂 慮 す る と ころ で あ り、事 実 、 そ う した状 況 は 、 い た る とこ ろ に顕 在 化 して お ります 」(第29回 「SGIの目」 記 念 提 言(聖 教 新 聞2004年1A26日))。 一109一 池 田大作の平和観 と世界秩 序構想 につ いての一考察 に お け る精 神 の再 生 と変革 こそ が 、暴 力 か ら平 和 へ の 転 換 点 です 。 と とも に、 人 間 主 義 に の っ と っ た 「民衆 の連 帯 」 を広 げ て い く こ とが 、暴 力 の軌 道 か ら平和 の軌 道 へ と、 社 会 の進 路 を転 換 し て い くポ イ ン トとな りま す 」 との言 葉 に表 れ てい る(15)。そ の た め に は人 間 の 「善性 」 「 人間性」 へ の信 頼 が不 可 欠 とな る。そ れ は次 の よ うな言 葉 に表 れ て い る。「 戦 争 な き世 界 へ の道 を切 り開 く ためには、 「 軍 事 と経 済 」 暉 事 と科 学」 の 関係 等 につ い て の構 造 的 な分 析 と と も に、 軍事 力 を頼 む 「人 間 とい う存 在 」 そ の もの に つ い て深 く考 えて 行 くこ とが不 可 欠 です 。 なぜ な ら、 「 軍事力」 を 前 提 と した政 治 学 、 経 済 学 、科 学 に異 議 を 申 し立 て て い くた め に は 、そ れ らが 捨 象 して い る要 素一 す な わ ち 「 人 間性 」とい う視 点 こそ が、重 要 だ か らです 。「ラ ッセ ル=ア イ ンシ ュ タイ ン宣 言 」 の 偉 大 さは 、 こ の 「 人 間 性 」 か ら出発 した こ とに あ ります 。 宣言 の 二年 後 、 私 の 師 匠 で あ る戸 田 第 二 代 会長 は 「 原 水爆 禁 止 宣言 」 を発 表 しま した、 この 師 の 宣言 も ま た、 核 兵器 を 「 人 間性 」 の 次 元 か ら洞 察 し糾 弾 した もの で す。 核 兵器 を 、人 間生 命 にひ そ む 「 殺 」 の衝 動 の産 物 と捉 え、 「絶 対 悪 」 と見 な した の です 」(16)。さ らに、 平 和 が ゴ ール と して で は な く、常 にそ れ を妨 げ る もの と の 不 断 の 闘 争 の 中 に勝 ち取 っ て い く とい う、プ ロセ ス と して理 解 され て い る とい え る。「 私 た ちの 友 人 で あ る ゴル バ チ ョフ元 ソ連 大 統 領 は 、「九 ・一 一 」以 降の 世 界情 勢 に危 惧 を抱 きっ つ 、私 に こ う言 って い ま した。『恒 久 平 和 を 『何 も しな くて もい い無 風 状 態 』 と考 え る な ら、そ こ に価 値 は な い 。現 実 の 社 会 で は、 問題 や 矛 盾 が 絶 え間 な く起 き て くる。そ れ を ど う解 決 す る の か。『暴 力 』 を 使 うのか 、 『対 話 』 を使 うの か一 そ の方 法 に よ って 、 『戦 争 』 か 『平 和』 か が決 ま る』 と。 全 く 同 感です。 「 平 和 」 とは 、何 も問題 が な い状 態 をい うの で は な い。 間断 な く起 こ る問題 と対峙 して 、 断 じて 「 対 話 」を選 択 し、そ れ を貫 き、行 動 して い くな か に 、築 かれ て い く も ので す 」(正7)と の言 葉 は、 そ の 考 え 方 を示 してい る。 これ ら、 積 極 的 平和 、絶 対 的 平 和 、 能 動 的 平和 か ら導 か れ る原理 を端 的 に述 べ る な らば 、 積 極 的 平 和 か らは 、 暴 力 の規 制 と緩 和 、 除 去 で あ り、絶 対 的平 和 か らは 非暴 力 的(平 和 的)手 段 に よ る 平 和 の実 現 で あ り、能 動 的平 和 か らは人 間 自身 の変 革 とい うこ とに な ろ う。 (2)平 和 観 形 成 の淵 源 と背 景 と ころで 、 この よ うな平 和 観 はい つ 、 どの よ うに培 われ た の で あ ろ うか。 ま た 、池 田の 平 和 行 動 の原 点 は ど こに あ る の で あ ろ うか。 これ に つ い て は 、 次 の よ うな形 で 明確 に述 べ られ て い る。 「 私 の平 和 行 動 の 原 点 の一 つ に は 、私 自身 の 戦 争 体験 が あ りま す 。 第 二 次世 界 大 戦 で 私 は 、 出征 (15)池田大 作/ア ドル フ ォ ・ペ レス=エ ス キベ ル 『人権 の世 紀 へ の メ ッセ ー ジ』、324頁 。 (16)池田大 作/ジ ョセ ブ ・ロー トブ ラ ッ ト 『地 球 平 和 へ の探 求 』(潮 出版 社 、2006年)29頁 。 人 間性 へ の信 頼 は 楽 観 主 義 に裏 打 ち され て い る ともい え る。 「 楽 観 主義 に は確 固 と した哲 学 と信 念 が 必 要 です 。厳 しい 現 実 を見 す え た上 で 、 そ れ を断 固 と して打 ち破 って い こ う とす る不 屈 の 意 志 、 そ して 人 間 が 持 つ 無 限 の 可 能 性 へ の信 頼 一 これ が 真 の楽 観 主 義 で は な い で し ょ うか。 そ して 、 そ れ を裏 付 け る行 動 が 伴 わな けれ ば な りませ ん。(中 略)逞 し き楽 観 主 義 の な か に こ そ 、す べ て を乗 り越 え、 変 革 し ゆ く力 の 源 泉 が あ る。 悲 観 主義 か らは 、創 造 的 なカ は生 まれ ませ ん」(同 、250頁)。 (17)池田大 作/R・D・ ホ フ ライ トネ ル 『見 つ め あ う西 と東 』 、!06頁 。 一110一 創価教育 第5号 した長 兄 を喪 い、 空 襲 で 家 も失 い ま した。 気 丈 な母 が 、 長 兄 の遺 骨 を抱 きか か え、 身 体 を震 わせ て悲 しん で い た姿 が 忘 れ られ ませ ん。 「国 家悪 」が一 家 の平 和 を奪 っ た の です 。私 は、一 人 の 青年 と して 、身 を持 って 、 戦 争 が い か に愚 劣 で醜 悪 で 無 残 な もの か 、 い か に嘘 で 塗 りか た め られ て い る もの か 、痛 い ほ ど知 りま した。 二 つ に は 、 師 の精 神 の継 承 です 。 第 二次 世 界 大 戦 の さな か 、 生命 尊 厳 の哲 学 で あ る 日蓮 大聖 人 の仏 法 の精 神 の ま ま に立 ちあ が っ た の が 、創 価 学 会 牧 口常 三 郎初 代 会 長 で あ り、 私 の直 接 の 師 匠 で あ る戸 田城 聖 第 二 代 会 長 で した。 軍 国主 義 と戦 った 両 会長 は逮 捕 され 、 牧 口会 長 は獄 死 しま し た。 生 き て 出獄 した戸 田会長 は 、 師 匠 ・牧 口会 長 の 精 神 を継 い で 、 平和 の闘 争 を開 始 しま した。 私 も今 、戸 田会 長 の 精神 をま っす ぐに受 け継 い で い るつ も りです 。「この地 上 か ら悲 惨 の 二 字 を な く した い 」一 こ の戸 田会 長 の 「 夢 」 の 実現 に 向 か って 行 動 す る こ とが 、私 の人 生 の す べ て な の で す。 そ して 、三 つ に は 、宗 教者 と して の社 会 的使 命 で す 。 現 代 に お い て も 、多 くの 民 衆 が 苦 しん で い ま す。 直接 的暴 力 にせ よ構 造 的 暴力 にせ よ、 あ らゆ る種 類 の 暴 力 に よ って 。 これ が 現 実 で す。 この 苦 悩す る 人 々 を前 に して 、座 して思 索 にふ け るの で は な く、「 抜 苦 与 楽 」の た め に立 ち あが っ て い く一 燃 え 上 が る 「同苦 」 と 「 行動 に こそ 、大 乗 仏 教 の 魂 が あ ります 。 私 ど も が信 奉 す る 日 蓮 大 聖 人 は。 この仏 法 者 の使命 を 「立 正安 国」 と して 教 えて お られ ます 。 暴 力 にお び や か され る 民 衆 の 悲 惨 を 救 うた め に戦 わ ず して 、 自己 自身 の魂 の救 済 な どあ りえ ませ ん。 そ の暴 力 の最 た る もの が 戦 争 で す 」(18)。 ま た 、戦 争 体 験 と師 匠 との 出会 い に 関す る次 の よ うな記 述 もあ る。「 私 は 、青 年 た ち の命 を奪 い 、 母 た ち を悲 しみ の淵 に突 き落 と して きた権 力者 の魔 性 を、 魂 の 奥 底 か ら憎 ん だ。 絶 対 に 戦 争 は反 対 で あ る。戦 争 責 任 者 を死刑 にす べ き だ と叫 んだ 。こ の3カ 月 後 、私 は戸 田城 聖 先 生 とお 会 い し、 『平 和 』 と 『正 義 』 の 大仏 法 を実 践 して い く こ とに な る ので あ る」 「 『一家 の こ とを 、一 国の こ と を、さ らに 動 乱 の20世 紀 の こ と を考 えた 時 、私 は、この世 か ら、一 切 の 不 幸 と悲 惨 を な く したい 。 これ を広 宣 流 布 とい う。 ど うだ 、 一 緒 にや るか!』 この戸 田先 生 の 言葉 を 、私 は信 じる こ とが で きた 。 当時 の 私 に は 、世 の指 導 者 を峻 別 す る、 絶対 に譲 れ ない 基 準 が あ っ た。 それ は、 軍 部 権 力 と戦 った か 、 ど うか 。 この一 点 で あ っ た」(19)。 (18)池田大 作/フ ェ リ ック ス ・ウ ンガ ー 『人 間 主 義 の旗 を』、16頁 。 (19)池田大 作 「 終 戦62年 に 念 う」(聖 教 新 聞2007年8月20日) 。池 田は 、戦 争 に お いて 犠 牲 とな るの は 弱 者 で あ る とい う事 実 を通 して 、次 の よ うに述 べ て い る。 「 戦 争 で苦 しむ の は 、庶 民 で あ り、 民衆 で あ り、最 も弱 い 人 々 です 。 な か んず く、 戦 争 で 最 も悲 惨 な思 い をす る の が女 性 で あ り、 母 親 で す 。 そ うし た悲 劇 を、 断 じて 、この 地 上 か ら根 絶 しな けれ ば な らな い 」(ルー ・マ リ ノブ/池 田大 作 『哲 学ル ネ ッサ ン ス の対 話 』 (潮出版 社 、2011年)42頁)。 ま た 、 そ の ゆ え に平 和 に果 た す 女性 の役 割 の重 要 性 に つ い て 、 次 の よ うに 述 べ て い る。 「 女性 は 、本 然 的 な平 和 主 義者 で あ る。 生 命 を生 み 、 慈 しむ 、人 と人 との つ な が りを大 切 に す る。 子 ど もを育 て 、家 庭 を守 る。 女 性 が持 つ 、万 国共 通 の現 実 生 活 に根 ざ した 深 い 共 感 能 力 は 、 こ の よ うに して磨 か れ て 来 た の だ」(池 田大 作 『明 日を見 つ め て』(ジ ャパ ン タイ ムズ 、2008年)130頁)。 「 二 十 世 紀 ほ ど、世 界 中 の母 親 た ち が 、悲 嘆 の涙 を流 した世 紀 は な い だ ろ う。 戦 争 の、 最 大 の犠 牲 者 は女 性 一111一 池 田大作の平和観 と世界秩 序構想 についての一考察 (3)基 調 と しての 人 間 と生 命 の尊 厳 と ころ で 、池 田 の平 和 観 は 、 上記 の通 り、 自身 の戦 争 体 験 、 師 の精 神 の継 承 、宗 教 者 と して の 社 会 的使 命 の それ ぞれ が 連 関 しな が ら形 成 され て い る と考 え られ るが 、 そ の なか で も基調 に あ る の が 生命 と人 間 自身 に眼 を 向 けた 仏法 思想 で あ る とい え よ う。池 田 は まず 、「こ の新 しい 世 紀 を平 和 の 世紀 に しよ う とす る な らば 、 そ して 、世 界 の様 相 をず た ず た に して き た恐 怖 と悲 劇 を過 去 の もの に す る な らば 、私 た ち は今 一 度 、人 間 とす べ て の 生 命 の 尊厳 に 目を 向 け な けれ ばな らな い」(20) と して 、 平 和 を 考 え る うえで 人 間 と生命 の尊 厳 がそ の 中核 に 据 え られ な けれ ば な らな い こ とを 明 確 に 述 べ て い る。 そ の うえで 、 「 現 代 社 会 の多 様 な事 象 に、あ ま りに も 「 人 間 不 在 」の 病 理 が 顕 著 に な っ て い る こ とを見 る につ け、私 は宗 教 の役 割 を考 え ざる を え ませ ん 。「人 間性 」を人 々 の 心 に 蘇 らせ 、輝 かせ て い くの は 、宗 教 の大 切 な役 割 で あ る と私 は 思 っ てい ま す 」伽 と して 、そ の 思想 的 基 盤 と して の 宗 教 の役 割 を強 調 して い る。そ して 、「 生 命 に こそ 最 も本 源 的 かつ 普 遍 的 な尊 厳 性 を認め 、 この 生命 自体 に探 究 の 眼 を向 けた の が仏 教 です 。 仏 教 に よれ ば 、 あ らゆ る生 き物 に とっ て 何 よ りも尊 い の が 生命 で あ るが 故 に、これ を奪 うこ とは重 い罪 に な るの で あ る」(22)として 、平 和 思 想 と して の 仏 教 の役 割 に注 目して い る。 で は、なぜ 生命 を 尊厳 とす るの か 。釈 尊 の到 達 した 悟 り、仏 の智 慧 とは 何 だ っ た の か 。それ は、 す べ て の衆 生 の 中に 仏性 が あ り、 万 人 が 仏 で あ る との思 想 で あ り、 す べ て の人 間 に 内在 す る仏 性 か ら生 命 の 尊 厳 性 、 万 人 の平 等 性 が 導 か れ る とい う原 理 で あ る。 仏 教 に お け る 生命 の尊 厳 と平 等 の基 盤 につ い て 、池 田は次 の よ うに述 べ て い る。 「 仏 教 思想 で は 、人 間 の み な らず 、万 物 に普 遍 す る"宇 宙 根 源 の 法"が 、 生命 の 『尊 厳 』 の 基盤 で あ る と と らえて い ま す 。 そ こに人 権 の普 遍 性 と 尊 厳 性 の根 拠 も あ る。 キ リス ト教 の思 想 が 、神 の前 に お け る 『平 等 』 を説 くの に対 して 、仏 教 の 『平 等 』 の思 想 は、 す べ て の人 々 に"内 な る普 遍 の法"が 具 わ って い る こ とに 由 来 します 。 しか も、 そ の``法"の 覚 知 が 万 民 に 開 かれ て い る と知 る こ とに よっ て 、『本 質 的 平等 』 に 目覚 め る の で す 。(中 略)つ ま り、民 族 、文 化 、 宗教 、習慣 等 の 、 さま ざま な 差 異 を超 え る"自 由"に して"平 等"な る智 慧 一 愛 憎 、 好 き嫌 い の煩 悩、 貧 欲 、 争 い へ の衝 動 に打 ち勝 っ 、 宇 宙 普遍 の法 か ら湧 き いず る智 慧 一 に よ って 、 あ らゆ る 『差 別 』 へ の挑 戦 に 向 か い ゆ くので す 」(23)。 と ころ で 、平 和 は人 間 社 会 だ け の 問題 に と どま る もの で は な い。 科 学 技 術 の発 達 と物 質 文 明 の 広 が りが人 類 に繁 栄 を もた ら した一 方 で、 自然 環境 へ の深 刻 な影 響 を与 えて き た こ と も確 か で あ る。そ の意 味 に お いて 、自然 や環 境 との共 生 は、地 球 の 未 来 を考 え た場 合 に重 要 な テ ー マ で あ る。 仏 教 は この 点 で も豊 潤 な 思 想 を 与 え て くれ る。池 田 は 、人 間 と 自然 の 関係 につ い て 、「自然 も ま た 、 た とえ 人 間 生命 とは異 な るに して も、本 質 的 に は人 間 生命 と相 互 に 関連 しな が ら、一 定 の リズ ム で あ り 、 母 親 で あ る 。 そ の 戦 争 を 始 め る の は 、 い つ も 男 性 だ 」(同 、132頁)。 (20)池 田 大 作/ジ ョセ ブ ・ロ ー トブ ラ ッ ト 『地 球 平 和 へ の 探 求 』、94頁 。 (21)池 田 大 作/ジ ョセ ブ ・ロ ー トブ ラ ッ ト 『地 球 平 和 へ の 探 求 』、229頁 (22)池 田 大 作/ブ ラ イ ア ン ・ウ ィ ル ソ ン 『社 会 と宗 教 』(講 談 社 、1985年)、164頁 (23)池 田 大 作/A・ ア タイ デ 。 。 『二 十 一 世 紀 の 人 権 を 語 る 』(潮 出 版 社 、1995年)、153-154頁 一112一 。 創価教育 第5号 を保 っ て い る"生 命 的存 在"だ とい うこ とを忘 れ て しま っ た わ けで す 」(24)と 警 鐘 を鳴 ら して い る。 ま た 、「 人 間生 命 の み を尊 重 す る 考 え方 が往 々 に して 人 間 の エ ゴイ ズ ム を生 み 、そ の人 間 の 中で も、 特 定 の 民族 や 、特 定 の 信仰 者 、特 定 の 階級 の人 々 のみ に 限 られ た 生 命 尊 重 に 陥 りや す い の に 対 し、 動 物 に 対 して さえ も生 命 尊 重 の 精神 を及 ぼす こ とは、最 も本源 的 な生命 尊 重 の あ り方 」(25)である と も述 べ て い る。 この 人 間 と 自然 の 関係 につ い て 、 万 物 の 関係 性 を説 く縁 起 の思 想 は、他 者 や 自然 との調 和 に確 か な視座 を与 えて くれ る。 この 点 に つ い て池 田 は、 「 周 知 の よ うに仏 法 で は 、人 間界 で あれ 、 自然 界 で あれ 、森 羅 万 象 こ と ご と く、互 い に"因"と な り、"縁"と な っ て支 え合 い 、関 連 し あ って お り、物 事 は単 独 で 生 ず るの で は な く、そ う した 関 係 性 の 中 で 生 じて い く、 と説 きま す 。これ が"縁 りて起 こ る"と い うこ とで あ り、 端 的 にい っ て"個 別 性"よ りも 、む し ろ`欄 係 性"を 重 視 す る の で あ りま す 」(26)と述 べ て い る。 この思 想 は、万物 の共 生 と多 様 性 の承認 に理 論 的 根 拠 を与 え る と とも に、 そ れ らの調 和 を壊 して は な らな い とい うこ とか ら暴 力 の否 定 につ な が っ てい く こ とに な る(27)。こ こ に は 、 人 間 生命 だ け で な く、宇 宙 を ひ とつ の 生 命 体 と して と らえ よ うとす る視 点 が あ る。 宇 宙 生 命 と人 間 生命 の 関係 につ い て 、 池 田は 、 「 仏 法 で は、"大 我"と は宇 宙 生 命 そ の も の で あ る と説 い て い ます 。 仏法 の生 命 観 の 究 極 は 、 わ れ わ れ個 人 の 生命 が 、 そ の奥 底 で は 、 この 宇 宙 生命 と一 体 とな って い る とい うこ とで す 。i換言 す れ ば 、 人 間 生命 は、 宇 宙 生命 が個 別 化 、個 性 化 した も の で あ る とい えま し ょ う」(28)と述 べ 、仏 教 に お け るダ イ ナ ミ ックな 生命 観 を展 開 して い る。 した が っ て 、 「大宇 宙 を平 和 にす るた め に は 、 まず も っ て小 宇 宙 を平 和 にす る必 要 が あ る。 そ れ ゆ え に 、『人 間 革命 』 し、仏 性 をわ が 心 に 充満 させ 、宇 宙 に平 和 を維 持 させ ね ば な らな い の で あ る」(29)。 よ っ て 、欲 望 や 僧悪 に と らわれ た 「 小 我 」 を打 ち破 り、宇 宙 的 ・普 遍 的 自我 で あ る 「 大 我 」 へ と生命 を 開 い て い く、 そ こに 幸福 と平 和 の方 途 が あ る こ と にな る。 (24)池 田大 作/ア ー ノル ド・トイ ン ビー 『二 十 一世 紀 へ の対 話(上)』 、69頁 。 (25)池 田大 作/ブ ライ ア ン ・ウ ィル ソ ン 『社 会 と宗 教 』、150頁 。 ㈱ ハ ー バ ー ド大 学 講 演 「ソ フ トパ ワー の 時 代 と哲 学 」 池 田大 作 『二 十 一 世 紀 文 明 と大 乗 仏 教 一 海 外 諸 大 学 で の講 演 選 集 』(第 三 文 明社 、2000年)。 (27)さ らに池 田は 、 自然 に対 す る東 西 の考 え方 の違 い につ い て 次 の よ うに 言 及 してい る。 「 東洋思想のなかに も 、 自然 に対 して征 服 主 義 的 な も の が皆 無 とい うわ け で は 、 も とよ りあ りませ ん 。 しか し、 東 洋 思 想 の 全 体 を特 徴 づ け て い る の は 、 自然 との調 和 で あ る とい って よ い で し ょ う。 そ れ に対 し、 西 洋 思 想 の なか に も聖 フ ラ ン チ ェ ス コに代 表 され る よ うな調 和 を大 切 にす る考 え方 も ない わ けで は あ りませ ん で した が 、 全 体的 に は征 服 主 義 的 な 考 え方 が 、西 洋 の 文化 を 特徴 づ けて きた とい って よい と思 い ま す 」(池 田大 作/ J・デ ラ ボ ラ フ 『21世紀 へ の人 間 と哲 学(上)』(河 出書 房 新 社 、1989年)!58-159頁 。 そ の 結果 、西 欧 は 、 「 対人 関係 に お い て は植 民地 主 義 、対 自然 の 関係 に お い て は 、 文字 通 りの 自然 破 壊 、環 境 破 壊 を 引 き起 こ して しま っ た の で あ りま す 」(池 田大 作 「 環 境 問題 は全 人 類 的 な課 題 」(創 価 学 会創 立48周 年 記 念 提 言) 『池 田 大作 全 集 』1巻 、p,48g)。 (28)池 田大 作/ア ー ノル ド・トイ ン ビー 『二十 一 世 紀 へ の 対 話(下)』 、354頁 。 (29)高橋 強編 『中 国 の碩 学 が 見 た 池 田大 作 一 そ の人 間 観 ・平和 観 』(第 三文 明社 、2008年)、127頁 。なお、 こ の著書の所収論文 「 池 田大 作 の 世 界 平 和観 を論 ず 」 は 、 池 田の 平 和 観 につ い て詳 細 に論 じて お り参 考 に な る。 一113一 池 田大作の平和観 と世界秩序構想 につ いての一考察 とこ ろ で、 こ の よ うな 平和 の カ ギ を握 る人 間 生命 に つ い て 、本 来 の姿 を どの よ うに と らえれ ば よい の で あ ろ うρ㌔ この 点 につ い て池 田は 、次 の よ うに述 べ て い る。 「 仏 法 は 、単純 な性 善 説 で も 性 悪 説 で も あ りま せ ん。 生命 とは善 と悪 を ともに 具 え て い る存 在 です 。 人 間 は 非道 の極 悪 に も な る一 方 、極 善 を体 現 す る こ とも可 能 で す 。 だ か ら こそ 、 内 な る悪 を打 ち破 り、 善 を 開発 し顕 現 し て い く不 断 の精 神 闘争 が不 可欠 な の で す 」(30)。ま た 、 「そ こ(善 悪 無 記 論)で は 、 生 命 の 実 相 を 『善 悪 無 記 』 で あ り、 あ る 時 に は善 の価 値 を、 あ る時 に は悪 の価 値 を生 み 出す 働 き をす る と見 ま す 。つ ま り、善 とい っ て も悪 とい っ て も、何 か 個 別 に 実 体 が あ る の で は な く、一 た とえ ば 「 怒 り」 に 関 して は 、人 間 の尊 厳 を脅 か す もの に対 す る怒 りは"善"、エ ゴ に のみ 突 き動 か され た 怒 りは"悪" とい った よ うに、 環境 と 自分 の一 念 との 『関係 性 』 の 中 で顕 在 化 す る もの と位 置 づ け るの で す 。 そ れ は、 善 と悪 と を外 面 的 に 固定 化 して しま う 『言 葉 に よ る支 配 ・呪術 』 を解 き放 ち、 生 成 流 動 してや ま な い現 実 と向 き合 うこ とを促 す 思 想 な の で す 」 と も述 べ て い る(31)。 こ こに も、 生命 の 実 相 を関係 性 に お い て と らえ よ う とす る視 点 が あ る とい え る。そ して 、「 仏 教 は生 命 尊 厳 の 哲 理 で す 。 生命 を踏 み に じ るテ ロ は、 い か な る大 義や 主 張 を掲 げた と して も 「 絶 対 悪 」 で す 。 そ して 、 二 十 世 紀 の 「暴 力 と戦 争 」 の悪 しき連 鎖 を 断 ち切 る根 本 は、 人 間 生命 に 内在 す る 「 善性」を絶え 間 な く開発 して い く こ とです 。 非 暴 力 、 慈悲 、信 頼 、智 慧 、 勇 気 、誠 実 な どの 「 善 性 」 の 開発 こ そ が 、他 の 生命 を 躁 躍す る 「 魔 性 」 を打 破 し、平 和 の基 盤 とな る か らで す 」(32)と述 べ 、人 間 生命 に内 在 す る 「善性 」 を 開発 して い く こ との重 要 性 を訴 え てい る。 本 来 、イ ン ドにお い て 、平 和(ピ ー ス)に 相 当す る言 葉 は シ ャー ン テ ィ(santi)で あ り、 漢訳 じゃ くじ ょう 仏 典 で は 「寂 静 」 と訳 され る。 これ は 、 「心 の 静 穏 」 で あ り、 平 和 と は 「 心 の平 和 」 の こ とを 意 味 す る も の で あ っ た(33)。三 毒 を は じめ とす る煩 悩 の炎 を しず め る こ とが仏 教 の平 和 の基 本 原 理 で あ る との考 え方 は 、戦 争 や 平 和 を 人 間 生命 の 内奥 の問題 と して と らえ る点 で 示 唆 的 で あ る。 以 上 をふ ま え る と仏 教 は、人 類 社 会 の諸 問 題 の解 決 に き わ め て重 要 な視 座 を提 供 す る と とも に、 池 田の 平和 観 の基 盤 を な して い る とい え る。池 田 も、「 私 は 、この 生命 の法 を完 壁 に説 き明 か した 仏 法 を、理 論 面 で も実 践 面 で も認 識 し、 よ り深 化 させ て い く こ と以外 に、 地 球 も宇 宙 もよ り平 和 に 守 り抜 く道 は な い と訴 えて い か ね ば な らない と思 って お りま す 」 と述 べ て い る(34)。 (30)池田大 作/R・D・ ホ フ ライ トネ ル 『見つ め あ う西 と東 』、217頁 。 (31)第25回 「SGIの日」 記 念提 言(聖 教新 聞2000年1 (32)池田大 作/ア .月26目)。 ドル フォ ・ペ レス=エ ス キベ ル 『 人 権 の世 紀 へ の メ ッセ ー ジ 』 、305頁 。 同 様 の考 え 方 は 、次 の よ うな言 葉 に も示 され て い る。 「 人 間 の 生命 に は 、 自己 中心 的 で破 壊 的 な側 面 が あ る一方 、他 者 を心 か ら慈 しむ 「 善性 」 が あ ります 。 仏 法 は 、人 間 生命 を深 く洞 察 し、 そ の 「 善 性 」 を開 発 し輝 か せ ゆ く哲 学 と実 践 を提 示 して い ま す。 私 ど もSGIは 、 この 仏 法 を 基 調 と して 、"人 間 自身 の 変 革"か ら、"社会 の変 革" へ と志 向 して い く 「 人 間革 命 」 運 動 を展 開 して き ま した。 と も あれ 、"生 命 の 尊 厳"に ま さ る価 値 は あ り ませ ん。 ゆ え に 、人 類 の発 展 とい っ て も 、 そ のす べ て の 出発 点 に は"生 命 の尊 厳"の 思 想 が な くて は な りませ ん」(池 田大 作/ジ ョセ ブ ・ロー トブ ラ ッ ト 『地 球 平 和 へ の探 求 』、235頁)。 (33)川田洋 一 「 仏 教 の 平 和観 」 『 創 価 学 会 の 目指 す もの 』(第 三 文 明社 、1998年)、124頁 。 (34)池田大 作 『仏 法 と宇 宙 を語 る』 第1巻(潮 出版 社 、1984年)、117頁 。 一114一 創 価教育 第5号 2.国 (1)ウ 際社 会 に お け る 国家 と人 間 一国 家 の た めの 平 和 一 ェス トフ ァ リア シス テ ム と 「戦 争 の 文 化 」 ① 国 際社 会 の誕 生 と構 造 と こ ろで 、 池 田の平 和 観 を考 察 す る うえで 、 近代 か ら現 代 にい た る国 際社 会 の構 造 とそ の 特 徴 につ い て の理 解 が 不 可欠 で あ る と思 われ る。 なぜ な ら、主 権 国 家 か らな る社 会 の構 造 、 す なわ ち 17世 紀 半 ば以 降 の 主権 国 家体 制(ウ ェス トフ ァ リア シ ステ ム)に 戦 争 と暴 力 の 大 き な要 因 をみ る こ とが で き る と考 え るか らで あ る。 そ の なか で 、 平和 が 国家 との 関係 で ど う定 義 され 、 「 人 間」、 具体 的には 「 人 権 」 と 「平和 」 が ど うい う関係 で と らえ られ て き た のか につ い て 、 お も に 国際 法 の観 点 か らみ てみ た い 。 ま た 、平 和=暴 力 の不 在 が今 日 どこ ま で実 現 し、 ま た課 題 を抱 え てい る の か につ いて 、戦 争 の規 制 の 問題 を 中 心 にみ てみ た い 。 こ こで 、今 日の 国際 社 会 の誕 生 と歴 史 を簡 単 に振 り返 っ て お き た い。 近 代 国 際 社 会 の は じま り は 、 一般 に ヨー ロ ッパ にお け る30年 戦 争(1618∼48年)お よび そ の 終結 に あた って 開 か れ た ウェ ス トフ ァ リア講 和会 議 を契 機 とす る と され る。 それ ま で の 中 世 ヨー ロ ッパ は 、神 聖 ロー マ 皇帝 と ロー マ 法 王 を 頂 点 とす る封 建 社 会 で あ った。 ル ネ サ ンス や 宗 教 改 革 に よっ て そ の基 盤 が 切 り崩 さ れ る なか 、 キ リス ト教 徒 同士 の宗 教 戦 争 と して行 な われ た30年 戦 争 の 結 果 、神 聖 ロー マ 皇 帝 と ロ ー マ 法 王 の 権 威 が 失 墜 し、 そ の後 に誕 生 した の が 主権 国家 で あ った 。 この 主権 国家 か らな る主権 国家 体 制(ウ ェス トフ ァ リア シス テ ム)は 、分 権 的で あ るが ゆ え に構造 的 に 自然 状 態(闘 争 状態) を意 味 した 。 そ の 主 権 国 家 間 の 関係 を規 律 す る法 と して誕 生 した のが 、 国 家 間 の法 、す な わ ち国 際法 で あ った 。 「国際 法 の父 」 と呼 ば れ るオ ラ ン ダ の法 学者 フ ー ゴ ・グ ロテ ィ ウス(1583-1645年) は 、30年 戦 争 を 目の 当た りに して 、 キ リス ト教 徒 同 士 の残 忍 な争 い を何 とか 法 の も とに緩 和 で き な い もの か と考 えた 。彼 が戦 争 の さな か に著 した 『戦 争 と平 和 の 法』(1625年)は 、ま さに 国 際法 の役 割 を言 い表 した も ので あっ た と もい え る。 しか し、 国 際社 会 にお い て 法 に よ る国 家 間 の権 限 の調 整 と紛 争 の解 決 が うま くい か な か っ た場 合 、 国 家 は最 終 的 に力 に よ る解 決 を求 め よ うとす る。 そ の最 終 手段 が武 力 の行 使 で あ り戦 争 で あ った 。 国 際社 会 に お け る戦 争 観 は、 正 義 の 戦 争 に 限 って 認 め る正 戦論 を経 て 、18世 紀 か ら19世 紀 に か けて は、 戦 争 は 国 際法 上 の権 利 ・利 益 の 実 現 の た め の手 段 と して合 法 と考 え られ る よ うに な っ た。そ して 、19世紀 ∼20世 紀 初 頭 に か けて 各 国 は 勢力 均 衡 体 制 の も とで 軍 拡競 争 に 明 け暮 れ た 。 そ の結 末 が第1次 世 界 大 戦 で あ っ た。 そ の後 、 国 際連 盟 が誕 生 し、 国 際社 会 は よ うや く戦 争 違 法 化 の方 向 に 向 か うが 、 第2次 世 界 大戦 とい う再 び の 世界 戦 争 を 阻止 で きな か っ た こ とは周 知 の と お りで あ る。 ② 「戦 争 の 文化 」 の土 壌 1)文 化 帝 国 主 義 、 自文 化 中心 主 義 近 代 か ら現 代 に か け て の 国際 社 会 は、 同 時 に 欧米 中心 主 義 の 時 代 で もあ っ た。 主 権 国 家 体制 が !7世 紀 半 ばの ヨー ロ ッパ に誕 生 した こ とは先 に述 べ たが 、 そ の こ とは この よ うな 国際 社 会 が 同 時 一115一 池 田大作の平和観 と世界秩序構想 についての一考察 期 に世 界 大 で 誕 生 した こ とを意 味す る もの で は な か っ た。 す な わ ち、 国 際 社 会 は ヨー ロ ッパ に始 ま り、 北 米 、 中南米 、 ア ジ ア、 そ して ア フ リカ へ と時代 を追 って 広 が りを見せ て い く過 程 をた ど る こ と にな る。 それ は 、 あ る意 味 で欧 米 の 規 範や 価 値 の普 遍 化 を意 味 した。 欧米 中心 主 義 は 、 欧 米 諸 国 が 自 らを 文 明 国 、す な わ ち一 人 前 の 国 家 と してそ の他 の 国 家 につ い て の格 付 け を行 な っ た こ と に端 的 に表 れ て い る。 そ こ にお い て は 、 中 国や 日本 とい っ た 国 は 半人 前 の野 蛮 国 とされ 、植 民 地 支 配 の も とに お かれ たそ の 他 の ア ジ ア 、 ア フ リカ 諸 国 は未 開 国 と して 国家 と して の地位 す ら 認 め られ な か っ た。そ こで は 、国 際 法 は欧 米 国 家 の行 動 を正 当化 す るた め の イデ オ ロ ギー とな り、 国 際 法 を 守 る こ とが一 人 前 の 国 家(文 明 国)の 証 で あ り、 仲 間入 りの条 件 で あ った 。 不 平 等条 約 の 改 正 な どに示 され るわ が 国 の 明 治 期 に お け る取 り組 み は 、 ま さに 「 文 明 」 開 化 の 涙 ぐま しい努 力 で あ っ た。 池 田は 、 こ の よ うな近 代 に お け る欧 米 中 心 の支 配 の歴 史 を文 化 帝 国主 義 と して 、 次 の よ うに述 べ て い る。 「 『文化 帝 国 主義 』の 実 態 は 、・… ・ 五 百年 の長 き に わ た っ て続 い て きた植 民 地 主義 一 自 分 以 外 の文 化 を"野 蛮"や"未 開"と 一方 的 に決 め つ け 、他 民 族 の支 配 や 収 奪 を 正 当 化す るイ デ オ ロギー 一 で あ り続 けた こ とで あ る。 そ こ で、 文化 は 平和 とはお よそ 程 遠 く、植 民 地侵 略 とい う 暴 力 ・戦 争 の 、 あ る時 は 露払 い を演 じ、 あ る時 は それ を 下支 え しなが ら、 む き 出 しの エ ゴイ ズ ム を あ た か も ミッ シ ョンの ご と く粉 飾 して きた 」(35)。 も っ とも、 「 『覇 権 主 義 』 は 、 一 つ の文 化 に備 わ る優 越 性 か ら出 現 す る とい うよ りも、覇 権 そ の もの 、優 越 そ の もの を求 め る な か で 出現 す る」(36) ともい え、 外 な る差 異 の 絶対 化 に こ そ 問題 の本 質 が あ る とい え よ う。 この よ うな覇 権 主義 に よ る 価 値 の普 遍 化 、一 元 化 に抗 して 、 「 文 化 相 対 主義 」 とい う考 え方 が あ る。 これ は 、あ る意 味 で 多 様 性 の容 認 に も通 じる とい え よ う。しか し、池 田は 、こ の文 化 相 対 主 義 に つ い て 、「 文化相対主義は、 単 な る相 対 主 義 に と どま っ て い て は な らず(中 略)、 相 対 主 義 を踏 ま えつ っ 、 しか もな お、人 間性 の普 遍 的 な 在 り方 を 追 求 してい か な けれ ば な らない と思 い ま す 」(37)と の 考 え を示 して い る。また 、 「 社 会 にお い て も、た だ 単 に 多様 性 を 強調 す るだ け で は倫 理 相 対 主 義 に陥 っ て しま い か ね ませ ん 。 社 会 全 体 の 幸福 を 目指 す た め に、 多 様 な価 値 を活 か しつ つ 、 人 間 の尊 厳 性 を輝 か す 確 か な る法 理 が 求 め られ て い る の で は ない で しょ うか 」(38)とも述 べ て い る。 2)科 学 万能 主義 、物 質 至 上 主 義 近 代 は ま た 、科 学 技 術 と資本 主 義 の発 展 に よ る物 質 的 、経 済 的豊 か さの追 求 の 時 代 で もあ っ た。 ヨー ロ ッパ に お け る科 学 革命 、 産 業 革命 とそ の伝播 は 、人 間社 会 に繁 栄 を もた らす 一 方 、人 間 の (35)第25回 (36)池 田 大 作/マ 「SGIの 日」 記 念 提 言(聖 教 新 聞2000年1月26日) 。 ジ ッ ド ・テ ヘ ラ ニ ア ン 『二 十 一 世 紀 へ の 選 択 』(潮 (37)池 田 大 作/ヨ ハ ン ・ガ ル ト ゥ ン グ 『平 和 へ の 選 択 』(毎 出版 社 日新 聞 社 、2000年)、232頁 、1995年)、303頁 。 。 ガ ル トゥン グ も 「相 対 主 義 に は 、 他 文 化 か ら積 極 的 に 学 ぼ う とせ ず に 、 消 極 的 な 寛 容 と い う形 を と る 傾 向 が あ り、 こ れ が 不 運 に も文 化 相 対 主 義 の効 力 を減 じて い ます 」 と述べ て い る。 (38)池 田 大 作/R・D・ ホ フ ラ イ トネ ル 『見 つ め あ う西 と東 』 、213頁 一116一 。 創価教育 第5号 欲 望 を 限 りな く肥 大 化 させ 、人 間や 自然 に様 々 なひ ず み を もた ら して きた こ と も否 定 で き な い。 池 田は 、この よ うな科 学 万 能 主 義 、物 質 至上 主 義 につ い て 次 の よ うに述 べ 、警 鐘 を 鳴 ら して い る。 「現 代 の科 学 万能 主 義 や 物 質至 上 主義 が もた ら した もの は 、 人 間精 神 の空 洞 化 で あ り、 殺 伐 と し た 争 い の 世 界 で した 」(39)。「 市 場 万 能 主 義 は 、優勝 劣 敗 とい う人 間観 に基 づ い て い る。 この厳 し い 競 争 の な か で他 者 へ の無 関 心 が 蔓延 して い る。 グ ロー バ ル 化 に よっ て 、小 さ く な った 地 球 の な か に、著 しい格 差 や 不 公 正 が あ り、そ れ に もか か わ らず 、他 者 に対 す る無 関 心 が蔓 延 して い けば 、 関心 か ら排 除 され た人 々 の なか に深 刻 な ル サ ンチ マ ン(怨 念)が 轡 積 して い くこ とは避 け られ な い 」(40)。 物 質 至上 主 義 が もた らす 他 者 性 の喪 失 と生 命 感 覚 の 麻痺 が 、現 代 社 会 に お け る 戦 争 と暴 力 の文 化 の土 壌 と もな っ て い る とす れ ば問題 は深 刻 で あ る。 さ らに、 ア メ リカ の サ ブ プ ライ ム ロ ー ン の焦 げ付 きや リー マ ン シ ョ ック に端 を発 す る最近 の グ ロー バ ル な金 融危 機 を招 い た背 景 に あ る拝 金 主 義 の 問題 に 言 及 して 、次 の よ うに述 べ て い る。「専 ら金 銭 的収 入 の 多寡 とい う物 差 しで し か 、 人 間 的価 値 の優 劣 を論 ず る しか な い経 済 至 上 主 義 、拝 金 主 義 の地 平 には 、原 理 的 に"自 足" は あ りえ ませ ん。常 に 何 が しか の怨 念 一 不 満 や 羨 望 が渦 巻 き続 け 、そ れ は 、社 会 を停 滞 させ る"嫉 妬 社 会"の 温 床 で あ ります 」(41)。 ま た 、本 稿 で は詳 しく述 べ な い が 、地 球 的 取 り組 み が 求 め られ る地 球 環境 問題 は 、欲 望 の肥 大化 に よ る 自然 環 境 の破 壊 や 大 量 生 産 、大 量 消 費 の 生 活 ス タ イル が もた らした弊 害 を象 徴 す る グ ロー バ ル イ シ ュ ー の典 型 で あ る とい っ て よい 。 ③ 戦 争 の規 制(個 別 的暴 力 の 禁 止 と公 権 的 暴 力 の容 認) こ の よ うな国 際 社 会 に お け る平 和 を ど う構 築 す る か につ い て の思 想 と構 想 は 、 か な り早 い 時 期 か らみ られ た が、 そ の 思想 的潮 流 の なか で も際 立 つ 平和 案 のひ とつ は、 カ ン トが1795年 に著 した 『永遠 平和 の た め に』 で あ ろ う。 そ の な かで カ ン トは 、 国 々 に共 和 制 の採 用 と常備 軍 の廃 止 を促 し、そ うした 国 々 が 「自由 な諸 国 の連 合 」 を形 成 す る こ と を提 唱 した。 こ の構 想 が120年 後 、 ウィ ル ソ ン米 国大 統領 に大 き な影 響 を 与 え 、 国際 連 盟 の創 設 に っ な が っ た こ とは よ く知 られ る と ころ で あ る。 二度 の世 界 戦 争 を経 験 した 人類 は 、 国 際連 盟 の 失敗 の教 訓 をふ ま えて 国連 を創 設 し、本 格 的 な戦 争 の 規 制 と国 際的 な安 全保 障 体制 の構 築 に乗 り出 す こ とに な る。 国 連 は 、 憲 章 で武 力 行 使 の違 法 化 を 徹 底 す る と とも に、集 団 安 全保 障 体制 の も とで 侵 略 や 平和 に対 す る脅 威 に対 処 し よ う と した 。そ の特 徴 は 、平和 と安 全 の維 持 は 安 全保 障理 事 会(以 下 、安 保理)、 なか ん ず く常任 理 事 国 が 中心 と な り一 致結 束 して 行 う とい うもの で あ り、常 任 理 事 国 の 有す る拒 否 権 は、 そ の大 国 一 致 を制 度 的 に担 保 す る もの で あ っ た。 そ して 、 自衛 権 を除 く個 別 国 家 の私 的 な武 力 行 使 を禁 止 す る一 方 で 、安 保 理 決 議 に も とつ く強制 措 置 と して の武 力 行 使 は容 認 され た。 そ の意 味で は、 国 連 に よる 安全 保 障 は 「力 に よる平 和 」 を否 定 す る もの で は な か った 。 しか し、 いず れ にせ よ大 国 (39)ハ ー ビv-一 ・・コ ッ ク ス/池 (40)池 田 大 作/フ (41)第34回 田大 作 『二 十 一 世 紀 の 平 和 と 宗 教 を 語 る 』(潮 ェ リ ッ ク ス ・ウ ン ガ ー 『人 間 主 義 の 旗 を 』、59頁 「SGIの 目」 記 念 提 言(聖 教 新 聞2009年1月26日)。 一117一 。 出 版 社 、2008年)、10頁 。 池 田大作の平和観 と世界秩序構想 にっい ての一考察 一 致 に よ る平 和 の 強制 は裏 目に 出 る こ とに なっ た。 国連 創 設 と時 を 同 じ く して 始 ま っ た東 西 冷 戦 と米 ソの拒 否 権 の応 酬 に よ り、 安 保 理 は機 能 麻痺 に 陥 る こ とに な った。 (2)第2次 大 戦 後 の潮 流 に お け る平 和 と人権 ①国際社会における 「 秩序」 と 「 正 義 」 一人 権 の 国 際的 保 障 一 第2次 世 界 大 戦 は 、戦 争 の 禁 止 と と もに 人権 の 国際 化 とい う点 で 大 き な転 換 点 とな る 出来 事 で あ った 。 この こ とは 、 国際 社 会 に お け る 「 秩序」 と 「 正 義 」 が これ ま で どの よ うに と らえ られ 、 そ れ が どの よ うに変 化 した の か とい う問題 と密 接 に関 係 す る。 第2次 世 界 大 戦 まで の 国 際 社 会 で は、「 平 和 」 とは国 家 間 の秩 序 の維 持 と安 定 を意 味 す る もの と理 解 され 、そ のた め に主 権 を有 す る 国 家 は お互 い に干 渉 し合 わ な い こ と、す な わ ち 内政 不 干 渉 が基 本 原 則 と され た 。 そ こに お い て 、 国 際 法 は 国家 相 互 の安 定 と共存 の た め に権 限 の調 整 を行 な うこ とをお もな 役 割 と した 。秩 序 に優 位 を お き 消極 的平 和 を平 和 と と らえ る考 え方 にお い て 、 平和 と人 権 は別 個 の もの と考 え られ 、領 域 内 の 人 々 の人 権 は各 国 家 が保 障す べ き 国 内問 題 で あ っ て 、 国 際社 会 が 関 与 す べ き もの とは され な か っ た。 こ の よ うな 考 え方 に転 機 を もた ら した の が 、 第2次 世 界 大 戦 中の ナ チ ス ドイ ツ に よ る ユ ダ ヤ人 に対 す るホ ロ コー ス トとい う悲 劇 で あっ た。 この 出来 事 を きっ か け に 国 家 に よる人 権 侵 害 を放 置 す る こ と は侵 略 ・戦 争 を もた らす とい う認 識 が生 まれ た 。 そ の 結果 、 平 和 と人 権 は不 可 分 の もの で あ り、 人権 は 平和 の基 礎 で あ る と考 え られ る よ うに な り、 人権 を 国 際 的 に保 障 しよ う とす る方 向へ と転 換す る こ と とな った 。 この こ とは 、人 権 を は じ め、植 民地 の解 放 、地 球 環 境 の 保 護 な ど正 義 の 実 現 こそ が平 和 の 意 味 で あ る との考 え方 に国 際 社 会 の認 識 が変 化 した こ と を意 味 す る も ので も あ った。 す なわ ち、 消 極 的 平 和 に加 え て積 極 的 平 和 の 実現 を 目指 し、 国際 法 は 国 際 共 同体 の共 通 利 益 の実 現 のた めの 行 為 規 範 と して の役 割 を担 うよ うに な っ た の で あ る(42)。 国連 憲 章 が 国 際 の平 和 と安 全 の 維 持 と並 ぶ 目的 の一 つ と して 、「人種 、性 、言 語 又 は宗 教 に よ る 差 別 な くす べ て の者 のた めに 人 権 及 び 基本 的 自由 を尊 重 す る よ うに助 長 奨 励 す る こ と につ い て 、 国際 協 力 を達 成 す る こ と」(第1条3項)を 掲 げ た こ とは 、正 義 を 実現 す る秩 序 こそ が 真 の 平和 で あ る との 考 え 方 を端 的 に示 して い る。 この こ とは、 国 内法 上 の 問題 とされ た 人 権 が 国 際化 す る こ と、 す な わ ち 国 際法 を通 じて 人権 が 国 際 的 に保 障 され る こ とを意 味 した 。 そ の 後 、 世 界人 権 宣 言 の 採 択 を契機 に 国 際人 権 規約 を は じめ とす る人 権 諸 条 約 の締 結 と実 施 を通 じ、 人権 の 国 際 的保 障 が は か られ て き て い る こ とは周 知 の とお りで あ る。 池 田は 、 「 平 和 と人権 の 関連 性 につ い て 、 『世 界 人 権 宣言 』 の前 文 で は 『人 類 社 会 のす べ て の構 成 員 の 固 有 の尊 厳 と平 等 で譲 る こ との で き ない ・ 権利 とを承 認 す る こ とは 、世界 に お け る 自由、正 義 及 び 平 和 の基 礎 で あ る』と宣 言 され て い ます 。 人権 の承 認 が 『平 和 の 基礎 』 で あ る こ とは 当然 で す 。 と とも に 『世 界 人 権 宣言 』 の全 体 は 、平 和 働 国 際社 会 に お い て 、秩 序 と正 義 が どの よ うに 考 え られ て きた の か に つ い て は、た とえ ば 、篠 田英 朗 「 国際 規 範 の歴 史 的 ・理論 的検 討 一秩 序 ・正 義 そ して 国家 主 権 」 『平 和 研 究 』26(2001)参 一118一 照。 創価教育 第5号 の 基 礎 の 上 に 成 り立 っ も の で す 」(43)と 述 べ て い る 。 ② 核 兵 器 の 登 場 と人類 史 的意 味 第2次 大 戦 が 平 和 の 基礎 と して の人 権 の 国 際 的 保 障 の重 要 性 を認 識 させ る契機 とな っ た 出来 事 で あ った とす れ ば 、 平 和 そ の も のが 人 権 で あ る とい う認 識 を新 た に させ る転期 で もあ っ た。 それ は、近代 以 降 の科 学 技 術 の発 達 の 象徴 と もい え る核 兵 器 の登 場 に よっ て一 層 現 実 の もの とな っ た。 池 田 は、 核 兵 器 の 登 場 の人 類 史 的 意 味 につ い て 、 「 人 類 の歴 史 を二 つ に分 け る な らば、 「 核 以前 」 と 「 核 以 後 」 にな る と言 っ て もい い 。 核 兵 器 の 登場 で 、人 類 の 「 種 の滅 亡 」 が初 め て現 実 の 問題 とな っ た か らです 」 と述 べ て い る(44)。 この よ うな な か 、 戸 田が1957年9A8日 、 青 年 を前 に人 類 の未 来 へ の 警 鐘 と して発 表 した のが 「 原 水 爆 禁止 宣言 」 で あ っ た。 池 田は 、死 刑 廃 止 論 者 で あ っ た恩 師 が 宣 言 の な か で 、核 兵 器 を使 用 した もの は 死刑 にす べ き で あ る とま で述 べ た思 い にっ い て 、「 生 命 の 尊 厳 とい う最 極 の価 値 を根 こそ ぎに し、生 存 の 権利 を脅 かす 輩 へ の 、仏 法 者 と して の 心 底 か らの怒 りの 表 出 で あ りま した 」(45)と述 懐 して い る。恩 師 の遺 訓 と もい うべ き この原 水 爆 禁 止 宣 言 は、 そ の後 の 池 田の平 和 行 動 と創 価 学 会 の 平 和運 動 に とっ て、 原 点 と もい うべ き重 要 な位 置 を 占 めて い る。 とこ ろ で、 宣 言 の な か で言 及 され てい る 「生 存 の権 利 」 の意 味 につ い て 、池 田 は 次 の よ うに述 べ て い る。 「戸 田先 生 の い う 『生 存 の 権 利 』は 、 もっ と本 源 的 な人 間 の権 利 で した。『世 界 の 民 衆 』 が も って い る 『生 存 の権 利 』 とい う言 葉 が 、『第 二 世 代 の 人権 』 で あ る 『生存 権 』 と大 き く異 な る 点 は、 『国家 』 とい う壁 を超 えた こ とに あ りま した。 『世界 の 民衆 』 が 『平 和 に 生 き る権 利 』 は 、 一 つ の 国家 の 国家 利 益 、 東 西 の両 陣 営 の一 方 の 側 の勝 利 と言 う次 元 か ら出た 『核 抑 止 論 』 や 核 兵 器 の保 有 、 開発 、使 用 を正 当化 す る一 切 の主 張 よ り優 先 す べ き も のだ と した か らで す 」(46)。 すな わ ち 、宣 言 で 言 及 され た 生存 の権 利 が 、 い わ ゆ る国 家 と国民 との 関係 にお け る生 存 権 で は な く、 国 際社 会 のす べ て の 人 が享 受 す べ き 「 平 和 的 生 存 権 」 の こ とで あ る と指 摘 され て い る点 は重 要 で あ る。 そ の後 、国連 人 権 委員 会 は 、1976年 の決 議 にお い て 、 「 す べ て の 者 は 、国 際 の 平和 と安 全 の 条 件 の 下 に生 き る権 利 を 有す る」 と述 べ 、国連 総 会 は 、1978年 、 「 平 和 的 生存 の社 会 的 準備 に 関す る宣言 」 を採 択 し、 平 和 の うち に生 き る権 利 、 す な わ ち 平和 的 生存 権 を国 際社 会 に お け る概 念 と して確 認 した 。 平 和 を人 権 と して と らえ よ うとす る視 点 、つ ま り人 権 と して の 平 和 とい う考 え方 が 国 際社 会 と して も認 め られ る こ とに な っ た の で あ る ㈲ 。 そ の 背 景 に、 東 西 冷 戦 下 にお け る核 (43)池田大 作/A・ (44)池田大 作/ジ ア タイ デ 『二十 一 世 紀 の人 権 を語 る』、248頁 。 ョセ ブ ・ロー トブ ラ ッ ト 『地 球 平 和 へ の探 求 』、60頁 。 (45)第32回 「SGIの日」 記 念提 言(聖i教新 聞2007年1月26日) 。 ア タイ デ 『二十 一 世 紀 の人 権 を語 る』、246頁 。 (47)平和 的生 存権 は 、1941年 初 頭 にル ー ズベ ル ト大 統 領 が 米 国 議 会 で行 っ た一 般 教 書 演 説 、 い わ ゆ る 「四っ (46)池田大 作/A・ の 自由」 の な か に 萌芽 を み る こ とが で き 、 同年8.月 の英 米 共 同 宣言(大 西 洋 憲 章)で い る。 そ の 後 、 この 考 え 方 は 、第2次 明確 に述 べ られ て 大 戦後 の 国 際社 会 にお い て少 しず つ 浸 透 す る よ うに な っ た。 本 文 で述 べ た 以外 に は 、!977年 、 ユ ネ ス コ の人 権 ・平 和 部 会 長 で あ っ たカ レル ・ヴ ァサ クが 提 唱 した 「 第三 一119一 池 田大作の平和観 と世界秩 序構 想についての一考察 保 有 国 間 、 な か んず く米 ソ間 の恐 怖 の均 衡 と熾 烈 な核 軍 拡 競 争 が あ った こ とは い うま で もな い。 この よ うな時 代 状 況 につ い て 、池 田は 、「倫理 な き科 学 の暴 走 の象 徴 が 、人 類 の 生 存 さ え危機 に 陥 れる 「 核 兵 器 」 の脅 威 で はな い で し ょ うか。(中 略)科 学 や 学 問 は 、そ の 前 提 と して、 健 全 な る倫 理 と思 想 が な くて は な らな い 」(48)と述 べ 、科 学 に お け る倫 理 の重 要 性 を強 調 して い る。 そ して 、 「こ の悪 魔 的 兵 器 の 持 つ 巨大 な殺 傷 力 と破 壊 力 は 、 い わ ゆ る"使 えぬ 兵器"と して 、 人類 に 、戦 争 を行 な うこ とそ れ 自体 を不 可 能 に して しま っ た の で あ ります 。 そ れ ゆ え 、 国権 の発 動 がそ の ま ま人 類 の 絶 滅 に つ な が りかね ない 核 状 況 下 に あ っ て 、人 類 は否 応 な く国 家 の枠 を超 え 『国益 』 か ら 『人 類 益 』へ 、『国家 主 権 』か ら 『人 類 主権 』へ と発 想 の転 換 を迫 られ て い る の で あ ります 」(49) と して 、 核 時 代 に お い て は人 間 の た め の 平和 へ の転 換 以 外 に道 は な い こ とを強 く訴 え てい る。 そ こに は 、 同 時 に核 兵 器 を生 み 出 した の も同 じ人 間で あ る とす れ ば 、 そ の廃 絶 を可 能 とす るの も人 間 で あ る との確 信 が あ る。そ の意 味 で 、戸 田が 残 した 原 水爆 禁 止 宣言 の卓 越 性 は 、ま さに 「国家 」 の論 理 か ら 「 必 要悪 」 とされ て き た核 兵 器 につ い て 「 人 間 」 の視 点 か ら 「 絶 対 悪 」 と断 じ、核 を 生 み 出 した人 間 自身 の なか に ひ そ む暴 力 と権 力 へ の 魔 性 に そ の本 質 を見 出す と と もに 、 人 間 の 変 革 こそ が核 廃 絶 と平 和 へ の 直道 で あ る と喝 破 した 点 に あ る とい え る。 ③ 植 民地 の独 立 と人 権概 念 の発 展 米 ソを 中心 とす る冷 戦 が第2次 大 戦 後 の 世 界 に お け る イデ オ ロ ギー を め ぐ る東 西 の 対 立軸 で あ っ た とす る な らば、 国 際社 会 をみ る うえで の も うひ とつ の重 要 な軸 が 経 済発 展 を め ぐる南 北 の対 立 軸 で あ った とい って よい。 そ の富 め る北 の先 進 諸 国 と貧 しい 南 の途 上 国 間 の い わ ゆ る南 北 問題 を顕 在 化 させ た の が 、植 民地 地 域 の 国 々 の独 立 で あ っ た。 そ れ らの 国 々 の独 立 と国際 社 会 へ の参 加 は第2次 大 戦 後 の 大 き な潮 流 と して 、 人権 概 念 の展 開 に も影 響 を及 ぼす こ と とな っ た。 す なわ ち、 植 民 地独 立 以 降発 生 した 北 と南 の 経 済格 差 の 問題 に対 して 、 先 進諸 国 は途 上 国 に対 す る開発 援 助 を進 め る よ うに な った が 、開発 とは 当初 、途 上 国 の 経 済 的 な レベ ル(GDPな ど)の 向上 を はか る こ とで あ る との考 え に何 ら疑 念 は 抱 かれ な か った 。 と ころ が 、南 の 国 々か ら,「人 間 らし く生 き る権 利 を満 た して こそ 本 当 の 開発 で あ る」 との 主 張 が 提 起 され よ うに な っ た 。 す な わ ち 、 開 発 (development)が 人権 との 関係 で 考 え られ る よ うに な った の で あ る。こ の よ うなな か で提 唱 され 世代 の 入権 」概 念 の な か に発 展 の権 利 と とも に含 まれ る と した の が 「 平 和 に対 す る権 利 」 で あ っ た。 さ らに 、地 域 的 な人 権 条 約 と して1981年 に採 択 され た ア フ リカ 人 権 憲 章(バ ン ジ ュー ル 憲 章)は 、 こ の第 三世 代 の 人権 を条 約 レベ ル で初 め て規 定 し、第23条 で 「 す べ て の人 民 は 、 国 内及 び 国 際 の平 和 と安 全 に 対 す る権 利 を有 す る」と うた っ た。 この 平 和 的生 存 権 ない し平 和 に 対 す る権 利 につ い て は 、そ の権 利 性 、 す な わ ち 国 際法 的 に みれ ば実 定 法 化 した とい え るの か ど うか につ い て の 問題 が あ る こ と も確 か で あ るが 、 平 和 不 在 状 況 を生 み 出 して い る構 造 に対 して な され た異 議 申 し立 て が 、 「 平 和 に対 す る権利 」 な の で あ っ て 、 そ の意 味 にお い て 「 生 命 に対 す る権 利 」 の 延 長 線 上 に あ る も の と して 、 この 「 権利 」 の 至 高 性 が 揺 ら ぐこ と はな い(最 上敏 樹 「 平 和 に 対 す る権 利 」 『自由 と正 義 』40巻5号 (48)ルー ・マ リノ ブ/池 田大 作 『哲 学 ル ネ ッサ ンス の対 話 』 、59-60頁 。 (49)第12回 「SGIの日」 記 念 提 言(聖 教 新 聞1987年1月26日) 。 一120一 、38頁)。 倉噺面教育 第5号 たのが 「 発 展 の権 利 」 の概 念 で あ り、そ の なか に は社 会 保 障 、 教 育 を受 け る権 利 、 労働 条 件 の 改 善 、健 康 な どが含 まれ る。 これ に先 に述 べ た 平 和 的 生 存 権 、 環境 権 な どを含 めて 提 唱 され た の が 「第 三世 代 の 人権 」で あ った。これ は 欧 米 先進 国 で形 成 、発 展 して きた 従 来 の第 一 世 代 の人 権(自 由 権)、 第 二 世 代 の 人権(社 会 権)に 対 して 、主 と して 途 上 国 側 か ら提 唱 され た 新 た な人 権 概 念 で あ っ た 点 に特 徴 が あ る。池 田は 、 この よ うな新 た な人 権概 念 の形 成 に つ い て、 「 今 日で は、道 義 性 の 核 と もい うべ き 人権 感 覚 の広 が りは顕 著 です 。 自由権 的 な基 本 権 を 中心 に した 『第 一 世 代 』、そ して 生 存 権 的 な 基本 権 を 中心 に した 『第二 世 代 』 の人 権 思 想 に対 して 、 平和 や 環 境 等 で 国 際 的 な 連 帯 を不 可欠 とす る 『第 三 世 代 』 の 人権 思 想 が 、 い まや 世 界 の 潮 流 にな りつ つ あ り、 新 た な世 界 秩 序 へ 向 か うグ ロー バ リズ ム の台 頭 を予 感 させ て い ま す 」(50)と述 べ 、 一 定 の評 価 を示 して い る。 こ の第 三 世 代 の 人 権 は 、連 帯 の 権利 と も呼 ばれ るが 、そ の趣 旨 は、 第 一 世代 、第 二 世 代 の 人 権 と 違 い 、 人 権 の 享 受 が 構 造 的 に妨 げ られ て い るゆ え に一 国家 のみ で はそ の 実現 が難 し く、 国際 社 会 の さま ざ まな ア ク ター が連 帯 して 取 り組 む こ とが 求 め られ る とい う点 にあ る。 池 田 も第 三 世 代 の 人 権 につ い て 、 「時 代 の潮 流 として 、今 度 は"国 家"の 枠 を超 えた 、 グ ロー バル(地 球 的)な 連 帯 を通 じて こそ 達 成 され るべ き人 権 の視 座 が 必 要 に な っ て き ま した」(51)と述 べ て い る。発 展 の権 利 や 第 三 世 代 の 人 権 につ い て は 、そ の権 利 性 、 享 有 主 体 、 内容 等 を め ぐって 争 い が あ る こ とも確 か で あ る。 しか し、人 権 分 野 につ い て の これ ま で の 欧米 中 心主 義 に対 抗 す る概 念 と して池 田 も共 感 を示 す と とも に 、 グ ロー バ ル な連 帯 の重 要 性 を強 調 して い る。 3.平 和 へ の 新 た な 課 題 一 冷 戦 終 結 と グ ロ ー バ リゼ ー シ ョ ン ー (1)最 近 の 国 際社 会 の 変 化 と こ ろで 、20世 紀 終 わ りか ら21世 紀 初 頭 に か け ての 国 際社 会 の 大 き な変 化 と して 、 冷 戦 の 終 結 と グ ロー バ リゼ ー シ ョン の進 展 が あ げ られ る。 それ は平 和 と人 権 の 問題 に どの よ うな影 響 を もた ら した の で あ ろ うか。 ま た、 そ れ らの 変化 に対 して池 田 は どの よ うに考 え てい るの で あ ろ うか。 こ こ約20年 余 りの 国 際環 境 の変 化 を概 括す る な らば、 ひ とま ず は 冷 戦 の終 結 に よっ て 米 ソ間 の 核 戦 争 の可 能性 が 低 減 した一 方 で 、 両 国 が 自陣 営 か ら手 を 引い た た め に多様 な脅 威 の 顕 在 化 を もた ら した こ とが あ げ られ る。 具 体 的 に は 、 従 来 の 国家 間紛 争 に代 わ って 民族 や 宗 教 に起 因 す る国 内 紛 争 が多 発 す る と と もに 、 テ ロが 世 界 各 地 で頻 発 す る よ うに な った 。 ま た 、 内戦 の 過 程 で 重 大 な 人 権 侵 害や 人 道 上 の 犯 罪 が発 生す る と とも に(52)、難 民 問題 や 地 球 環 境 問題 等 も深 刻 化 した 。 一 (50)池田大 作/ノ ー マ ン ・ カ ズ ン ズ 『世 界 市 民 の 対 話 』(毎 日新 聞社 、1991年)、238頁 。 (51)池田大 作/ヨ ハ ン ・ガ ル トゥン グ 『平 和 へ の 選 択 』、246頁 。 (52)池田 は、 民 族 問題 の要 因 のひ とつ に 文化 相 対 主 義 が あ る と指 摘 して い る。 「 植 民 地 支配 な どの多 くの犠 牲 を払 い な が ら、よ うや く人類 は 『文 化 相 対 主義 』 とい う地 点 ま で は 辿 りつ くこ とが で き ま した 。 しか し、 一見 、価 値 中 立 的 に 見 え る この概 念 も 、何 ら人 間 の積 極 的 な意 志 が伴 う もの で は ない た め に 、人 び との 関係 を絶 え ず 不 安 定 な 状 態 に置 い て しま い か ね ませ ん。 そ こに は 、 文 化 の違 い がい っ で もナ シ ョナ リズ ム や エ ス ノセ ン トリズ ム(自 民族 中 心 主義)に 転 化 す る危 険性 が あ り、 共存 社 会 の破 壊 や 非 人 間 的抑 圧 一121一 池 田大作 の平和観 と世界秩序構想についての一考察 方 、 冷 戦 は東 西 間 のイ デ オ ロギ ー をめ ぐる対 立 で も あ った が 、 米 国 を中 心 とす る西 側 の勝 利 に終 わ っ た こ とか ら 自由や 民 主 主義 とい っ た価 値 が一 元 化 、 普 遍 化 し、 人権 の主 流 化 とい う現 象 を も た ら した。 同 時 に 、冷 戦 の終結 に よっ て加 速 した グ ロー バ リゼ ー シ ョン の波 は、 豊 か さの 陰 で貧 富 の格 差 の拡 大 を もた らす と と もに 、NGOや多 国籍 企 業 とい っ た 非 国 家 ア ク ター の台 頭 と主 権 国 家 の相 対 化 を も た ら し、 人 権 の主 流 化 を一 層 促 進 す る こ と とな っ た ㈱ 。 池 田 は 、こ う した グ ローバ リゼ ー シ ョン につ い て 、 「 現 状 の グ ロー バル 化 に は 「 欧 米 化 」 とい う 側 面 が強 く出 てお り、 「 新 た な 出 会 い 」が 「 新 た な衝 突 」 の背 景 とな っ て い る こ とも確 かで す 」(54) と して 、そ の 危 うい側 面 につ い て 、次 の よ うに 警鐘 を 鳴 ら して い る。 「 進 行 す る 『グ ローバ リゼー シ ョン』は 、政治 や 文 化 、経 済 な どが 国 境 を こえ て 、一 体 化 す る方 向 を 目指 して い ます 。 しか し、 それ が進 む に した が っ て 、 こ の動 きへ の反 動 と して 、 民族 主 義 、原 理 主 義 へ の 回 帰 が見 られ 、そ の な か か らテ ロへ とつ な が る過 激 主 義 が各 地 で 噴 出 して い ま す 」(55)。「グ ロー バ ル 化 が、 単 な る 画 一 主 義 に陥 る な らば 、人 類 は長 い 期 間 に わ た っ て育 ん で き た豊 か な文化 的 多様 性 を失 って しま うで しょ う」(56)。 そ して、 昨今 の状 況 を普 遍 性 と個別 性 のせ め ぎ あ い の問 題 と して と らえ 、次 の よ うに述 べ て い る。 「それ(グ ロー バ リゼ ー シ ョン)は 、一 面 で は 『多 彩 な価 値 観 を受 容 して 、発 想 の豊 か さ を もた ら して い る』か も しれ ませ ん。 しか し他 方 、『伝 統 文 化 の破 壊 や 、価 値 観 の混 乱 を もた ら して い る』 面 もあ りま す 。 『世 界 一 体 化 の 時 代 』 を 『混 乱 の 時代 』 に して は な りませ ん。 そ のた めに は 、『普 遍 的 な 価 値』 を もつ もの を見 きわ め つ つ 、同 時 に 『卓 越 した独 自性 』 を もっ も の を尊 重 し、 的確 に位 置 づ けて い く必 要 が あ ります 。 個 々 の 伝 統 ・見解 ・価 値 が 全 体 との つ な が りを失 っ て個 別 性 に 閉 じこ もれ ば 、 独 善化 や 偏 見 、 他 者 へ の 差 別 に 陥 っ て しま うか らで す。 つ ま り、 普遍 性 ば か りを追 え ば世 界 が 画 一化 され る危 険 性 が あ り、 個 別 性 だ け を強 調 す れ ば 世 界 が分 裂 化 す るお それ が あ ります 。世 界 は今 、『画 一 化 』 とい う求 心 力 と 『分 裂化 』 とい う遠 心力 が 、せ め ぎ あ う混沌 の さな か に あ る とい え ま し ょ う」㈱ 。 そ して 、 「『グ ロー バ ル化 した 社 会 』 とは 、人 類 が 『運 命 を共 有 す る社 会 』」(58)であ る と して 、 「『対 立 』 を 『対 話 』 とい う非暴 力 の手 段 で解 決 へ と容 易 に結 び つ く可 能性 が残 る か らです 」(池 田大 作/マ ジ ッ ド・ テ ヘ ラニ ア ン 『二 十 一 世 紀 へ の選 択 』 、 351頁)。 (53)グ ローバ リゼ ー シ ョン とは 、一 般 に 、経 済 、文 化 、 政 治 、 環 境 問題 な ど人 類 の活 動 とそ の影 響 が、 国家 や 地域 の境 界 を超 え 、地 球 規 模 で一 体 化 して い く現 象 の こ とを い う。1995年 の 国 連 社 会 開 発 サ ミ ッ トに お け る 「コペ ンハ ー ゲ ン 宣言 」 で は 、 グ ロー バ リゼ ー シ ョン の光 と して 、① 世 界 の富 が 急 速 に増 大 し貿 易 も急 増 した こ と、② 平 均 余 命 、識 字 率 、初 等 教 育 な どが 多 くの 国 で 向上 した こ と、 ③ 民 主 化 が進 展 し 市 民 的 自由 が拡 大 した こ との3点 を あ げ る と とも に、 グu一 バ リゼ ・ 一 一 ・ 一 シ ョンの 影 と して 、 貧 富 の差 の拡 大 、政 治 ・経 済 、社 会 の変 動 過 程 に あ る諸 国 で深 刻 な社 会 問題 が発 生 して い る こ と、 地 球 環 境 の悪 化 、 1200万 人 以 上 の 失 業 、数100万 人 の難 民 の 発 生 な ど9つ を あ げて い る。 (54)池田大 作/R・D・ ホ フ ライ トネ ル 『見 っ めあ う西 と東 』 、96頁 。 (55)池田大 作/フ ェ リ ック ス ・ウ ンガ ー 『人 間 主 義 の旗 を』 、160頁 。 (56)池田大 作/R・D・ ホ フ ライ トネ ル 『見 つ め あ う西 と東 』 、!94頁 。 (57)池田大 作/フ ェ リ ック ス ・ウ ンガ ー 『人 間 主 義 の旗 を』 、161頁 。 (58)池田大 作/R・D・ ホ フ ライ トネ ル 『見 つ め あ う西 と東 』 、116頁 。 一122一 創 価教育 第5号 す る 文 明 を 、 こ の 時 代 に 生 き る 人 類 は も た な け れ ば な りま せ ん 」(59)と 述 べ て い る 。 (2)脅 威 の 多様 化 と絶 対 平 和 主 義 の 課 題 冷 戦 終 結 と グ ローバ リゼ ー シ ョン に よ り顕 在 化 、多 様i化した 脅 威 とそ れ に対 す る対応 を め ぐっ て 、 国際 社会 は新 た な課 題 を突 きつ け られ て い る。 以 下 で は、 い くつ か の問題 とそ れ に対 す る池 田 の視 点 につ い て み て み た い。 ① 人 間 の安 全保 障 と人道 的介 入 ・保 護 す る責 任 冷 戦 の終 結 に よ る米 ソ対 立 の解 消 の結 果 、機 能 麻 痺 に 陥 っ て い た 国連 安 保 理 の機 能 は 活性 化 し た。 しか し、 国連 が 構 想 した集 団安 全 保 障体 制 は、 本 来 、侵 略や 国 家 間紛 争 、 す な わ ち国 家 間 の 平 和 を 前提 と した も ので あ り、 冷戦 後 の紛 争 の大 半 を 占め る 国 内紛 争 に十 分 対 処 で き るか ど うか が 問 わ れ て い る。 よ り困難 な問題 は 、 内戦 の過 程 で発 生 した 重 大 な 非 人道 的行 為 に対 して 、 国連 お よび 国 際社 会 と して どの よ うに対 処 す べ き で あ るか とい う問題 で あ る。 なぜ な らば、 各 国家 が 主 権 を有 す る 結果 と して 、 国連 が 安 保 理 決議 を通 じて 「 平 和 に 対 す る脅威 」 と認 定 し介 入 す る場 合 を除 い て 、 他 国 は 一 国家 の 国 内 問題 に干 渉 して は な らない 国 際 法 上 の 義 務 が あ る か らで あ る。 しか し、 民 族 浄 化 な どの ジ ェ ノサ イ ドが行 なわ れ 、軍 事 力 に よ る介 入 以 外 に 方 法 が な い に も かか わ らず 、 安 保 理 決 議 が え られ な い よ うな揚 合 に も一切 の行 動 を とるべ きで は な い の か とい う問題 は難 題 で あ る。 この よ うな事 態 が 実 際 に 発 生 した事 例 が 旧ユ ー ゴの コ ソボ を め ぐる 問題 で あ り、1999年 、NATO は 軍事 力 に よ って 旧ユ ー ゴに 介 入 した。 こ の事 件 を きっ か け に い わ ゆ る 「 人 道 的 介 入 」 を め ぐる 議 論 が巻 き起 こ っ た こ とは よ く知 られ る と ころ で あ る。 しか し、人 権 や 人 道 とい った 概 念 は 介入 にお け る錦 の御 旗 とな りや す い が ゆ えに濫 用 の危 険 が 常 に つ き ま と うこ と も事 実 で あ る。 この よ うな なか 、介 入 とい う言 葉 につ きま と う介入 側 の論 理 を緩 和 し、 国 家 主権 との衝 突 を避 け、 そ れ を補 完 す る概 念 と して登 場 した のが い わ ゆ る 「 保 護 す る責任 」 の概 念 で あ る。 これ は 、破 綻 国 家 な ど人 権 保護 の 第 一 次 的責 任 者 で あ る 国家 が そ の 責任 を全 うし え ない場 合 に は 、 国際 社 会 が そ の 責 任 を果 た す べ く行 動 を 起 こ さね ば な らない とす る 考 え方 で 、2000年9E、 カ ナ ダ 政府 に よ る 「 介 入 と国家 主 権 に関 す る国 際委 員 会(ICISS)」 報 告 書 で提 唱 され 、そ の後 、2005年9Hの 国連 首 脳 会 合 成 果 文 書 等 の 国連 文 書 で も再 確 認 され る こ ととな っ た ㈹ 。 (59)池 田 大 作/R・D・ ホ フ ラ イ (60)・ThθResponsibik'tytoProtθct トネ ル 『見 つ め あ う 西 と 東 』、105頁 。 ,TheReportoftheInternationa!Co㎜issiononInterventionand StateSovereignty(http://wlvxv,iciss.ca/pdf/Co㎜ission-Report,pdf) ・Amorθsecureirorld!oursh∂rθdrθsρonsibility,Reportofthθ 茄.9カ ー1evθ1PanelOPTh2"eats, α ∼ ∂!1θngθs∂ndChang=θ(A/59/565),2December2004、 ・KofiA .Annan,1hLazgθTFTθe(70m!ToiPardsDθvθ.loρmθnt,SθcurゴtJrandffum∂nnゴghtsfbr・411!RepoLrts ofthθSθcLretaryGenθiral(A/59/2005),21March2005. ・RθSρOllsibi/itytoprotectPOρul∂tiOnsfrofngθnocゴde,1{・arcrimθs,θthnicO1θ 一123一 ∂nsing∂lldcrifllθs 池田大作の平和観 と世界秩序構想 についての一考察 こ う した 動 き の底 流 に は 、近 年 の 人 権 の 主流 化 の流 れ が あ る とい って よい(61)。そ して 、従 来 の 国 家 を中 心 と した枠 組 み に一 石 を投 じ、 人 間 の視 点 か らのパ ラ ダイ ムの 再 構 築 を促 す き っ か け とな っ た の が 、 「 人 間 の 安 全保 障 」 の概 念 で あ っ た。 人 間 の安 全 保 障 とは 、 「人 間 の 生 に とっ て か けが えの な い 中枢 部 分 を守 り、す べ て の人 の 自由 と可 能性 を 実 現 す る こ と」を 意 味 し、「軍事 力 に よ り軍 事 力 か ら国境 を守 る」 伝 統 的 な国 家 の安 全 保 障 が 人 々 の 生 存 や 安 全 を 十 分 に保 障 して い な い 現 状 に異 議 を唱 え る も の と して登 場 した(62)。 この概 念 は 、1994年 、 国 連 開 発 計 画(UNDP)の 『人 間 開発 報 告 書』 にお いて 登 場 し、 そ の 後 、 さま ざま な 国 連 文 書 や 報 告 書 に お い て 定着 、 発 展 を遂 げ る こ と とな っ た(63)。 池 田は 、人 間 の安 全 保 障 につ い て 、次 の よ うに述 べ て い る。 「 最 近 、 これ ま で の よ うに 『安 全 保 障 』を国 家 に よ る国 家 の た め の安 全 の保 障 とい う狭 い解 釈 に と どめ る の で はな く、『ヒ ュー マ ン ・ セ キ ュ リテ ィー 』(人間 の た めの 安 全保 障)と い う発 想 に立 つ 構 想 が模 索 され て お りま す。そ れ は、 人道 、人 権 が さま ざ ま な形 で危 機 に さ ら され が ちな 現 代 に あ っ て制 度 的要 因 よ りも人 間的 要 因 を ∂g∂ ゴnstゐumanゴty66レ7,200511iorldSumullitOutcomθ(A/RES/60/1), ・S/RES/1674(2006> ,AdoptedbytheSecurityCouncilatits5430thmeeting,on28Apri12006, 時)は 、 「主権 に 関す る 二 つ の概 念 」 と題 す る論 文 の な か で 、 「国家 主権 は 、 と くに (61)アナ ン事 務 総 長(当 グ ロー バ リゼ ー シ ョン と国 際 協力 の 力 に よっ て 、 そ の も っ とも 基本 的 な意 味 にお い て 再 定義 され よ う と してい る。今 や 国家 は 国民 に奉 仕 す るた め の 手段 と して 広 く理解 され て お り、そ の 逆 で は な い。同 時 に 、 国連 憲 章 や 国 際人 権 諸 条約 に うた わ れ た 個 人 の基 本 的 自由 と して の人 権 は 、復 活 し拡 大 しつ つ あ る個 人 の 権 利 に 対 す る 意 識 に よ っ て 高 め られ て き た 」 と述 べ て い る(KofiA,Annan,"TwoConceptsof Sovereignty,,,ThθEoonomゴst,September18,1999,P,49)。 (62)「人 間 の安 全 保 障」 は 、多 様 な脅 威 か ら人 々 を保 護 す る こ とに焦 点 を 当 て る。 想 定 す る脅 威 と して は 、 環 境 汚 染 、 国際 テm、 大 規 模 な人 口の移 動 、HIV/エ イ ズ を は じめ とす る感 染 症 、 長 期 に わ た る抑 圧 や 困 窮 な どで あ り、 担 い 手 と して は 、 国 家 の み な らず 国際 機 関、 地 域 機 関 、非 政 府 機 関(NGO)、 市 民社 会 な どが あ げ られ る。 国家 安 全 保障 との関 係 につ い て は 、相 互 に 補 い あ い 依存 して い る ので あっ て、 「 人間の 安 全 保 障 」 な しに国 家 の安 全 保 障 を実 現 す る こ とはで きな い し 、そ の逆 も 同様 とい え る。 人 聞 の安 全 保 障 の 内容 と して は、 ① 恐 怖 か らの 自由 、す な わ ち、 戦 争 や 内 戦 な どの紛 争 、犯 罪 、 テ ロ 、 国 内支 配 集 団 に よ る大 規模 人 権侵 害 か らの解 放 にっ い て は、保 護 す る責任 が 求 め られ 、②欠 乏か らの 自由 、す な わ ち、 飢 餓 や 貧 困、 疾 病 、 環 境 破 壊 な ど構 造 的 な社 会 的経 済 的 問 題 か らの解 放 につ い て は 、 エ ンパ ワ ー メ ン ト (能力 強 化)が 求 め られ る。 人 間 の安 全 保 障 が登 場 した 背 景 と して は、 ① 第2次 大 戦 後 の人 権 規 範 の成 熟 、 お よび ② 植 民 地 の独 立 が あ げ られ る。 す な わ ち、 植 民 地 地 域 が 戦 後 の急 速 な 独 立 の 過 程 にお いて 、 自立 能 力 が 高 ま らな い ま ま に法 的 形 式 と して の主 権 を獲 得 した 結 果 、 主 権 国家 シ ス テ ム の 普 遍 化 の一 方 で 開発 援 助 が 恒 常 化 し た。 同時 に 、米 ソ両 陣営 に よ る冷 戦 体 制 の も とで 、 米 ソは 南 の 諸 国 を 自 陣営 に取 り込 む た め に戦 略 的 援 助 を行 っ た結 果 、 膨 大 な通 常 兵器 が 移 転 ・拡 散 し、 軍 事 力 に よ って 政 権 が維 持 さ れ る一 方 で 、 人 間 の 基 本 的 ニ ー ズや 安 全 を保 障 す るた め の 社 会 的 な 支 えが 不 十 分 で あ り続 けた 。 冷 戦 の 終 結 に よ って 南 の 国 々 に対 す る 関心 を失 っ た米 ソ両 国 は 、 援 助 を 中止 して これ らの 国 々 か ら手 を 引 き、 破 綻 国 家 と な った り統 治 能 力 を十 分 に も た ない 途 上 国 の 国 内 で 、 残 され た 大 量 の 武 器 を手 に 国 内紛 争 が 頻 発 す る とい う状 況 が現 出 した 。 (63)その 後 の 発 展 と定 着 につ い て は 、2000年9月 の 国 連 ミ レニ ア ム ・サ ミ ッ ト報 告 書 で ア ナ ン国 連 事 務 総 長 が 人 間 中心 の 取 り組 み の必 要 性 につ い て 報 告 し、 これ を受 け て2001年1月 に 目本 の 呼 び か け に よっ て 緒 方 貞 子 氏 とア マ ル テ ィア ・セ ン氏 を共 同議 長 とす る 「 人 間 の 安 全 保 障 委 員 会 」 が創 設 され た 。 そ の 後 、 委 員 会 は 、2003年5月 に 「 人 間 の 安 全 保 障 委員 会 」 報 告 書 をア ナ ン国連 事 務 総 長 に提 出 した 。 一124一 創価 教育 第5号 優 先 す る とい う発 想 で あ ります 。 それ は 、主 権 国 家 の 顔 が支 配 的 で あ っ た 国連 に 、『人 間 の 顔 』そ して 『人 類 の 顔 』 を際 立 たせ る新 しい 方 向性 につ な が る もの で あ ります 。(中 略)軍 事 力 とい うハ ー ド ・パ ワー を表 に して 、 世界 の安 全 保 障 を考 え る 旧来 の 安 全保 障 体制 は も はや 時 代 遅 れ の もの に な りつ つ あ ります 。 人 間 へ の 脅威 に包 括 的 に対 処 す る国連 を 軸 に した 『ヒュー マ ン ・セ キ ュ リ テ ィー 』 の枠 組 み を一 日も早 く確 立 で き る よ う英 知 を結 集 す べ き 時 で あ ります 」(64)。 ②武 力 の行 使 と絶 対 平 和 主 義 と ころ で 、人 道 目的 とはい え、 そ の救 済 の た め の手 段 として 軍 事 力 を用 い る こ と は、 そ れ が 人 的 、 物 的犠 牲 を伴 う点 にお い て 常 に ジ レン マ を抱 えて い る。 と くに 、 絶対 平 和 主 義 の 立 場 か らは よ り難 しい 問題 とな る。 こ の点 につ い て 、池 田は 「『正 義 の 戦 争 』は あ り うるか 」 と の文 脈 の も と で 、 次 の よ うな 見解 を示 して い る。 「 ア イ ンシ ュ タイ ン博 士 の苦 悩 は 、 「正義 の戦 争 は あ る のか 」 とい うテ ー マ と も深 く関 わ って い ます 。第 一 次 世 界 大 戦 で は反 戦 を貫 き投 獄 され た ラ ッセル 卿 も、 第 二 次 世 界 大 戦 を支 持 しま した 。 しか し私 は、 「ヒ トラー の暴 虐 を 目の 当た りに して 、何 も しない の か 」 とい う論理 が 、戦 後 六 十 年 の 間 、 しば しば武 力 行 使 を正 当化 す る格 好 の例 証 と して 用 い ら れ て きた こ とに 、 注意 す べ きだ と思 うの です 。(中 略)目 的 の 正 当性 は 手段 の正 当性 に よ って 担 保 され な けれ ば な らな い の で あ って 、「目的 が 正 しけれ ば、手段 は何 で も 良 い」 とい うこ と に は な り ませ ん 。で は 、「目的 と均 衡 の とれ る手 段 」な ら武 力 行 使 は認 め られ るの か。これ が 、い わ ゆ る 「 正 戦 論 」 の 立 場 で す が 、 それ で も、 そ の 「均衡 点 」 を 、誰 が、 どん な 基 準 で判 断す る のか とい う問 題 が 残 りま す 。 ロー トブ ラ ッ ト博 士 が これ ま で繰 り返 し訴 え られ て きた 通 り、第 二 次 世 界 大 戦 に お け る原 爆使 用 の 例 は 、 い った ん 戦 闘 が 始 ま る と、個 人 で も社 会 全 体 と して も理 性 的 判 断 が 簡 単 に損 な われ 、 数 十 万 人 を殺 して も 「 や む を えな い 」 と され る ほ ど 「 均 衡 点 」 が大 き く動 い て しま うこ とを示 して い ま す。暴 力 や 紛 争 を 非暴 力 的 に解 決 で きな か っ た 時 点 で、それ はす で に 「失敗 」 な の で あ り、 仮 に 暴虐 と戦 うた め に武 力 を使 わ ざ るを え ない と して も、 兄弟 で あ る人 間 を殺 籔 す る こ とに はか わ りは な い の です 」(65)。 そ の一 方 で 、 次 の よ うに も述 べ 、絶 対 平 和 主 義 の 困難 さ と葛 藤 そ の も の の意 義 を示 して い る。 「 絶 対 的平 和 主 義 の 問題 は 、洋 の東 西 を問 わ ず 、 文 明 史 と とも に古 く、 困難 な課 題 です 。 私 と し て は 、理 論 的 に、 ま して 個 々 の具 体 的 な選 択 や 実 践 の か か わ っ て くる次 元 に お い て は、 是 か非 か の一 本 の線 を 引 くこ とは で き な い と思 い ます 。た とえ ば、博 士 が挙 げ てお られ た よ うな ケ ー ス で 、 一 人 の絶 対 平 和 主 義 者 が 、 自 らの信 念 を貫 い た 結 果 、 死 を招 い た場 合 、 信 条 に殉 ず る とい う点 で は 筋 が通 って い ます が 、絶対 平 和 主 義 の政 治 的 実 効性 とい うこ とは、ま た別 問題 で あ る か らで す 。 "ヒ トラー を前 に して 、 絶 対 平和 主 義 者 は何 を な し うるか"と の博 士 の問 題 提 起 の意 味す る とこ (64)第20回fSGIの 日」記 念 提 言(聖 教 新 聞1995年1月24目) 。 ま た 、 池 田は 、2011年3月11日 に発 生 した未 曾 有 の 東 日本 大 震 災 を は じめ とす る災 害 や 世 界 的 な経 済危 機 な どの 脅威 を乗 り越 え る た め の 視 座 と して 「 人 問 の安 全 保 障 」 の 理 念 に言 及 してい る(第37回 (65)池 田大作/ジ 「SGIの目」 記 念 提 言(聖 教 新 聞2012年1月26日))。 ョセ ブ ・u一 トブ ラ ッ ト 『地 球 平 和 へ の 探 求 』 、43頁 。 一125一 池 田大作の平和観 と世界秩 序構 想についての一考察 う も、 そ こ に あ る と思 い ます 。(中 略)す な わ ち 、絶 対 平 和 主 義者 の 実効 性 の 地 平 とい うもの は 、 そ う した恐 ろ しい ジ レ ンマ に立 た され た アイ ン シ ュ タイ ンの よ うな苦 衷 のな か に しか 見 い だ せ な い と思 っ てお ります 」㈹ 。 そ して 、 悲 し く苦 しい選 択 を迫 られ なが ら、 アイ ン シ ュ タ イ ンが 「 確 信 を もっ た平 和 主 義 者 」 と して 、絶 対 平 和 主 義 者 へ の 憧 憬 を い だ きつ づ けて い た こ とが 、 戦 後 、 彼 が 日本 の雑 誌 や 新 聞 に 寄せ た"釈 明"か らも明 らか で あ る と述 べ て い る(67)。そ の意 味 で も、 そ の よ うな葛 藤 の末 に も判 断 をせ ざる を え ない よ うな 状 況 が 生 じる前 に何 が で き るか が よ り大切 に な る。 具 体 的 に は、 紛 争や 人 道 犯 罪 を未 然 に防 ぐ努 力 や 軍事 力 そ の も の をい か に極 小化 して い くか 、す な わ ち軍 縮 の 役割 が あ らた め て重 要 とな る。 ③ テロ と 「 テ ロ との 戦 争」 が も た らす 問題 多様 で解 決 困難 な脅威 は 、テ ロや 核 兵 器 とい う形 で も私 た ち に迫 って い る。2001年9月11日 、 テ ロ組 織 が超 大 国 ア メ リカ に攻 撃 を仕 掛 け る とい う前 代未 聞 の 同 時多 発 テ ロは 、 それ が い つ ど こ で 起 き て もお か し くない とい う点 で世 界 を震 撚 させ た 。 同 時 に 、 ア メ リカ の 単独 主義 の も とで世 界が 「 テ ロ との戦 争 」 とい う新 た な時 代 に入 った こ と も実感 させ た。 ア メ リカ ブ ッシ ュ政 権 は 、 同年10Eに 対 ア フ ガ ン に報復 攻 撃 を行 ない 、2002年 に は イ ラ ン 、イ ラ ク、 北 朝鮮 を 「悪 の枢 軸 」 と名 指 し し、「な らず 者 国 家 」や テ ロ組 織 の 攻 撃 に 対 して は先 制 攻 撃 も辞 さない との 「先 制 攻 撃 ド ク トリン」(ブ ッ シ ュ ドク トリン)を 発 表 、2003年3月 に はイ ラ ク戦 争 を行 な っ た。そ の法 的 ・政 治 的 問題 点 の検 証 につ い て は こ こで は行 な わ ない が 、 池 田は 、 テ ロ につ い て 強 く非難 す る 一 方 、 それ に対 して ア メ リカ が とっ た対 応 につ い て も厳 しく断 じ、次 の よ うに述 べ て い る。「ア メ リカ の 一連 の単 独 行 動 主 義 は 、 自由や 人 権 、 民 主 主 義 等 の ア メ リカ の掲 げ る普 遍 的理 念(ナ イ氏は、そ れ らを 、情 報 化 時代 の 進 展 につ れ 、 ア メ リカ を ます ま す魅 力 あ ら しめ る可 能性 を 秘 め た 、 ソフ ト パ ワ ー の機 軸 と してお ります)と 、 ど う整 合 性 を もつ の か 、疑 問 を呈 され て も仕 方 が な い の で は な い か」(68)。 さ らに 、テ ロの暴 力 と暴 力 を用 い ての 反 テ ロは 同一 次 元 の悪 で あ る と も述 べ る。 「 重 ね て 無差 別 テ ロ の非 道 性 、残 虐 性 は、 どこ まで も糾 弾 され て しか るべ きで す。 しか し、 それ に対 抗 す るハ ー ド ・パ ワー 一辺 倒 とい うので は、 あま りに も策 が な い とい うか 、悲 しす ぎ ます 。『憎 悪 と報 復 の連 鎖 』 を繰 り返 してい て は、 つ ま る とこ ろテ ロ リズ ム と同 じ次 元 に ま で身 を 落 とす こ と に な りか ねず 、オ ル テ ガ 流 に い うな らば 、『文 明 』か ら 『野蛮 』 へ と歴 史 を逆 戻 り させ るこ とで あ り、"文 明 の 衝 突"と い う最 悪 の シ ナ リオ さえ、現 実 の もの に な っ て しま うこ とを 、私 は恐 れ る の で あ ります 」(69)。 そ して 、テ ロに対 して は そ の原 因 に 目を向 け 、そ の解 決 を通 じた テ ロ を生 み 出 さな い社 会 的 土 壌 を形 成 す る こ とが 重 要 で あ る と して 、 次 の よ うに述 べ て い る。 「二 〇 〇 一 年 の 「9,11」事 件 を境 に世 界 は 「 テ ロ」 と 「 対 テ ロ戦 争 」 とい う大 規 模 な暴 力 の連 鎖 に 、巻 き込 まれ (66)池 田 大 作/L・ ポ ー リ ン グ 『「生 命 の 世 紀 」 へ の 探 求 』(読 売 新 聞 社 、1990年)、226頁 (67)池 田 大 作/L・ (68)第28回 (69)第28回 ポ ー リ ン グ 『「生 命 の 世 紀 」 へ の 探 求 』、227頁 「SGIの 日」 記 念 提 言(聖 教 新 聞2003年1E26日) 。 「SGIの 日」 記 念 提 言(聖 教 新 聞2003年1月26目) 一126一 。 。 。 創価教育 第5号 て しま った 感 が あ りま す 。(中 略)も ち ろ ん、 テ ロ は許 して は な りませ ん。 テ ロを 防止 す るた め の 国際 的 枠 組 み も必 要 で し ょ う。 しか し、 そ れ らは テ ロ対策 の反 面 で あ って 、 テ ロの根 本 的解 決 に は な らない 。 も う一 方 で 、テ ロ を生 む 動機 そ の もの へ の対 処 が な され な くて は な りませ ん。 そ れ は、 「 公正 と 「 共 生 」 を基 礎 と した 地 球社 会 の建 設 です 」㈹ 。 そ の後 、 オ バ マ 政 権 の誕 生 に よ り、 ア メ リカ ー 国 主 義 か ら国連 を 中心 と した 多 国 間-協調 へ 回 帰 しよ う とす る兆 しが よ うや くみ られ る よ うに な った 。 そ の象 徴 とも い え るの が核 廃 絶 に 向 け た動 き で あ る。2009年4A、 オバ マ 大 統 領 はい わ ゆ るプ ラハ演 説 で 「 核 な き世 界 」 を提 唱 、9月25日 に 開 かれ た 国連 安 保 理 首脳 会合 で は 、 「 核 な き 世 界 」 安 保 理 決 議 が 全 会 一 致 で 採 択 され た。2010 年5AのNPT再 検 討 会 議 で 採 択 され た 最 終 文 書 で は 、核 軍 縮 ・核 不 拡 散 に 向 けた64の 行 動 計 画 を 明 記 し、 核 廃 絶 の 明 確 な 約 束 を再 確 認 した 。 そ して 、2011年2月 に は米 露 間 で 新核 軍縮 条 約 が発 効 した。 しか し、 この よ うな核 廃 絶 の動 き の背 景 に は、 核兵 器 がテ ロ リス トの 手 に わ た り使 用 され る か も しれ な い とい うい わ ゆ る 「 核 テ ロ」 の危 険 性 が 高 ま っ て い る こ とへ の 警 戒感 が あ る。2007 年 以 降、 ア メ リカ の キ ッシ ン ジ ャー 元 国務 長 官 を は じ め冷 戦 時代 に ア メ リカ の核 戦 略 に 関 わ っ た 高 官 らが 「 核 兵 器 の な い 世界 」 を提 唱 して い る の は、 この よ うな危 機 感 に基 づ く もの で あ る とい われ てい る。池 田 も最 近 の核 兵 器 を め ぐ る問 題 に つ い て 、「 核 兵 器 が対 峙 す る時 代 に 突入 して か ら 60年 が経 ち ます が 、ア イ ン シ ュ タイ ン博 士 の 警 告 へ の抜 本 的 な対 応 は な され て い ませ ん 。む しろ 、 危 機 の度 を増 して い る。(中 略)核 兵器 が2万5000発 も存 在 す る と言 わ れ る一方 で 、闇 市 場 を 通 じ て製 造 技 術 や 核 物 質 が 流 出 し、核 兵 器 を用 い た テ ロ とい う想 像 を絶 す る よ うな 新 しい形 の脅 威 を 懸 念 す る声 も高 ま って い ま す 」(71)と述 べ 、警 鐘 を鳴 ら して い る。 4,池 田 の 平 和 観 と グ ロ ー バ ル ガ バ ナ ン ス ー 国 連 ・法 ・民 衆 に よ る 平 和 一 こ こま で、 主 権 国家 体 制 が誕 生 して以 降 、 今 目にい た るま で の 国 際社 会 の 変遷 と課 題 に つ い て 述 べ る と と も に、 そ れ らに対 す る池 田の 平 和 観 につ い て概 観 して き た。 そ こ に一 貫 す る もの は 、 「 戦 争 と暴 力 の文 化 」 に対 す る 「 平 和 と非 暴 力 の文 化 」 の 思想 で あ り、 国家 の 論理 に対 す る人 間 の復 権 の思 想 で あ った 。 しか し、依 然 と して主 権 国家 を基本 的枠 組 み とす る今 日の 国 際社 会 に お い て 、池 田 が描 く平 和 の 秩 序構 想 は どの よ うな も ので あ ろ うか。 これ か らの世 界 秩 序 を考 え る とき 、 まず 提 起 され る のは 、現 在 の主 権 国家 の 枠組 み を維 持 した うえ で の 平和 を構 想 す るの か 、 それ とも主 権 国家 を解 体 して世 界 政 府 ない しは 世 界連 邦 を構 想 す るの か とい う問題 で あ る。 世 界 政府 設 立 の構 想 と運 動 は、す で に第2次 大 戦 後 ま もな い 時期 に 始 ま り、世 界 各 地 で一 時 期 盛 り上 が りを 見せ た が 、 そ の直 接 の き っ か け は核 兵 器 の 登 場 とそ れ が 広 島 、 長 崎 で 実 際 に使 用 され た こ とで あ った(72)。 これ ら世 界 政 府 論 者 の考 え方 に共 通 し て み られ (70)池田大 作/ジ ョセ ブ ・ロ・ 一 トブ ラ ッ ト 『地 球 平 和 へ の探 求 』 、175頁 。 (71)池田 大 作 「 戸 田 第2代 会 長 生 誕110周 年 記 念 提 言 『核 廃 絶 へ 民 衆 の 大連 帯 を』」(聖教 新 聞2009年9H8日 9日)。 (72)この よ うな 世 界 政 府 運 動 の 思 想 的根 拠 とな っ た の は 一!27一 、 原爆 投 下 の 直 前 の1945年6月 、 に 出版 され た 、 エ メ 池 田大作の平和観 と世界秩 序構想 につ いての一考察 る特 徴 は 、現 代 の危 機 、 と くに戦 争 の原 因 を 国家 主 権 そ の もの に 求 め る 点 で あ る。 した が っ て 、 世 界 平 和 を実 現 す るた め には 、 国家 が主 権 を放 棄 し、 よ り高 次 の 単位 で あ る世 界 政府 に結集 す る 必 要 が あ る と考 え た。 しか し、世 界 政 府 論 は機 構 万 能 主 義 で理 想 主義 的 で あ った こ と な ど さま ざ ま な 弱 点 もみ られ た(73)。そ して 、 実 際 に も これ らの 構 想 は陽 の 目を見 ない ま ま、 現 実 の世 界 は 直 ち に冷 戦 とい うい わ ゆ る 「二 つ の世 界 」 の深 刻 なイ デ オ ロギ ー 対 立 に 直面 す る こ と にな っ た。 池 田 も世 界 政 府 構 想 につ い て 、「そ れ が い か に 困難 な こ とで あ るか は 、世 界 連 邦 運動 の苦 渋 と 曲 折 に 満 ち た 歴 史 が 、 は っ き り示 して お りま す 」 と述 べ て い る(74)。そ して 、世 界 政 府 構 想 に つ い て は 、 そ の 実現 可能 性 だ けで は な く、 主権 国家 を解 体 す れ ば 戦 争 が な くな る とい う発 想 そ の もの に つ い て 、 次 の よ うな見 解 を示 して い る。 「「 制 度 と して の 戦 争 」 は 国家 主権 に関 わ る 問題 で す 。 た だ し、冷 戦 後 の紛 争 の ほ とん どが 、 国家 間 の 「 制 度 として の 戦 争 」 で は な く、 国 内 紛 争 で あ る こ とを 考 え る と、 国民 国家 制 度 を解 体す れ ばす べ て の 戦 闘 行 為 が な くな る とい う単 純 な もの で は な い こ と も確 認 して お かね ばな りませ ん。 国家 に よ る軍 事 的 、 政 治 的暴 力 の独 占が 無 秩 序 に解 放 され 、権 力 の 空 白が で き る こ とで 、 か えっ て暴 力 が蔓 延 す る こ とに な りかね ない 。 で す か ら、 現 実 の 課題 は 、「国家 を な くす 」 こ とで は な く、人 類 の滅 亡 を も可 能 にす るほ どの兵 器 を一 国家 が 有 す る とい う、 明 らか な 国家 主 権 の行 きす ぎ を 、 ど う 「 調 整 」 し、 ど う 「 制 御 」 す るか とい うこ と リー ・リー ブ ス(E,Reves)の 『平 和 の解 剖 』(E,Reves,ThθAnatom」rofPθacθ,1945)で あ り、ア メ リカ に お け る最 も大 き な世 界 政 府 団 体 で あ る 「 世 界 連 邦 主 義 者 連 合 」 の 初 代 会長 で あ っ た コー ド ・メイ ヤ ー(C.MeyerJr,)が1947年 に 出 した 『平 和 か ア ナ ー キ ー か 』(Pθ∂oθorAnarohy,1947)で あ った 。 世 界 政府 運 動 が 生 み 出 した ひ とつ と して 有 名 な もの が 、 シ カ ゴ大 学 総 長 の ロバ ー ト ・ハ ッチ ン ス博 士 を 委員 長 とす る世 界憲 法 審 議 委 員 会 が1948年 に発 表 した世 界 憲 法 予 備 草 案(乃 θ五厩 刀∂rγPraftofaflorld Constitution,通 称 シ カ ゴ草案)で あ る。 世 界憲 法 案 は 世 界 政府 運 動 が 目指 す新 た な 世界 機 構 の 設 計 図 で あ り、文 字通 り世 界 政 府 の 憲 法 と して書 かれ た(拙 稿 「「 世 界 憲 法 案 」 と人権 保 障 の現 状 一 田畑 茂 二 郎 『世 界 政 府 の 思想 』 を通 して 一」 『創 価 法 学 』 第40巻 第2号)。 ㈹ 世 界 政 府 の 実 現 に は社 会 的 条 件 の 成 熟 と社 会 的 統 一 が 不 可 欠 で あ り、 そ れ な く して 、 法律 や 権 力 だ けで 社 会 を 統 一 し よ うとす れ ば、 結 局 、 圧 倒 的 に優 越 した 権 力 を前 提 に しな けれ ば な らず 、 世 界 政 府 は必 然 的 に圧 制 的 な もの とな ら ざる を えな い(田 畑茂 二郎 『世 界 政 府 の 思 想』(岩 波 新 書 、1950年))。 カ ン トも 『永 遠 平 和 の た め に』 の なか で 、 世 界 政 府 につ い て 「 他 を圧 倒 して 世 界 王 国 を築 こ うとす る一 大 強 大 国 に よっ て 諸 国 が溶 解 させ られ る」 お そ れ を抱 い てい た 。 池 田 は、 ル ソー と カ ン トの 世 界 秩 序 構 想 につ い て 、 次 の よ うに述 べ て い る。 「ご承 知 の よ うに、 ル ソー は 『(国家)主 権 をそ こな うこ とな しに、 どの 点 まで(国 際 的 な)連 合 の権 利 を拡 張 す る こ とが で き るか 』 と 自 らに 問い か けつ つ 、 緩 や か な連 合 で あ る 『同盟 』 や 、緊 密 な連 合 で あ る 『連 邦 国家 』 を と も に退 け、 そ の 中 間形 態 と して の 『国 家 連 合 』 へ の方 向 を探 って い ます 。 そ う した模 索 は、 平 和 へ の実 効 性 が 欠 如 す る 『同盟 』 の短 所 や 、 国 家 主 権 を侵 害 す る恐 れ の あ る 『連 邦 国家 』 の短 所 だ け で な く、 そ れ ぞ れ の長 所 を も秤 に か けた うえで の 、 ぎ りぎ りの選 択 で あ った と思 われ ます 。 それ に カ ン トも 国家 主 権 の保 護 のた め に 、連 合 の 目的 は 平 和 の 維 持 だ け に 限 定 され るべ きだ と して 、『たん に 戦 争 を 防止 す る こ とだ け を意 図 す る諸 国家 の連 合 状 態 が 、諸 国 家 の 自 由 と合 致 で き る 唯一 の法 的状 態 で あ る』 と述 べ て い ます 。 こ うみ て き ます と、用 語 の 差 異 は とも か く、ル ソー もカ ン トも、 強 力 な 中央 集 権 型 の 統 合 体 へ 移行 す る こ と に は警 戒 的 で 、 『 全体』 と 『 部 分』 とのバ ラ ン ス を見 す え なが ら 『中道 』を探 っ て い る よ うです 」(池 田大 作/ノ ー マ ン ・カ ズ ンズ 『 世 界 市 民 の対 話 』、 186頁)。 (74)第12回 「SGIの日」 記 念提 言(聖 教 新 聞1987年1月26日) 一128一 。 創価教育 第5号 に あ りま す 」(75)。 そ うなれ ば 、世 界政 府 な き(ア チ キカ ル な)国 際社 会 に あ っ て 、 ど う国際 秩 序 を創 出 して い く か とい う問題 、す な わ ち グ ロー バ ル ・ ガ バ ナ ンス を ど う構 想 す る か とい う問題 に移 る こ とに な る。 池 田 は、今 後 の秩 序 構 想 につ い て 、次 の よ うに 明確 に述 べ て い る。 「国家 を超 えた 問題 に対 応 す る 統 治 の在 り方 が 、 ど うあ るべ き か一 。 第 二 次 世 界 大戦 後 、 アイ ン シ ュ タイ ン博 士や ラ ッセ ル 博 士 らは、f世 界政 府 』 や 『世 界 連 邦』 の必 要 性 を説 き ま した が 、そ の 実 現 は い ま だ 困難 で あ り、す ぐ に道 が 開 け る とい う状 況 で は あ りませ ん 。 そ れ に 代 わ っ て 、一 九 九 〇年 代 に登場 したの が 『グ ロ ー バ ル ・ガ バ ナ ンス 』 とい う概 念 です 、 す な わ ち 、世 界 政 府 の よ うな統 括 機 能 の存 在 な しに、 国 家 を は じめ、 多様 な機 関 が さま ざま な問 題 に 対 して 結集 し、 そ のネ ッ トワー クを通 じて 地 球 を運 営 して い く とい う考 え方 です 。一 言 で い えば 『世 界 政 府 な き統 治 』『集 権 的で はな く、ネ ッ トワー ク的 な統 治 』 とい うこ とです 。 しか し、 こ う した グ ローバ ル ・ガ バ ナ ンス の あ り方 は、 結 局 、 そ の時 々 の国 家 間 の 力 関係 を投 影 した も の に もな りか ね ませ ん。 グ ロー バ ル ・ガ バ ナ ンス を、 公 正 で責 任 あ る もの に す るた め に は 、大 まか に、 い くつ か の ポイ ン トが あ ります 。 一 っ は、 グ ロー バ ル ・ガ バ ナ ンス の 要 で あ る国 連 の 改革 と強 化 で す 。次 に は 、『法 に よ る支 配 』 を一歩 一 歩 、制 度 化 して行 くこ とで す 。 そ の試 金石 と して、 私 は 国 際刑 事裁 判 所 を軌 道 に乗 せ る こ とが重 要 だ と思 っ て い ます 。 そ して 、何 とい って も、 ガバ ナ ンス を支 え る民衆 の連 帯 です 」(76)。そ こ で、 以 下 、 国 連 、法 、民 衆 の視 点 か ら平 和 へ の道 筋 を探 って み た い 。 (1)マ ル テ ィ ラテ ラ リズ ム と国連 の 民主 化 一国 家 をつ な ぐ一 21世 紀 の グ ロー バ ル ・ガ バ ナ ンス を構 想 す る とき、 国連 の存 在 と役 割 は一 層 重 要 に な る と思 わ れ る。 「 国 連 を軸 に 人 類 が 結 束 す る以外 に ない 」㈹ と池 田 も国 連 の果 た す役 割 の重 要 性 につ い て 折 あ る ご とに触 れ 、 国連 支 援 の活 動 を献 身 的 に続 け て き た(78)。そ して 、 「 連 帯 の基 軸 は 、あ く ま で 国連 で あ るべ きだ と考 えま す。世 界 百 九 十一 ヵ国(現 在 は193力 国 ※ 筆者 注)が 加 盟 す る最 も 普 遍 的 な機 関 で あ る 国連 こそ が 、 国 際協 力 の礎 とな り、 そ の活 動 に 正統 性 を与 え る こ とがで き る 存在 に ほ か な らない か らで す 」(79)とし、世 界 の大 半 の 国 々 が加 盟 す る国連 の普 遍 性 に そ の正 統 性 が あ る と述 べ て い る。 また 、 「 『平 和』 『平 等 』 『慈 悲 』 とい う仏教 の 理念 は 、今 の時 代 、人 類 の だ れ もが 共通 に求 め て い る も ので あ り、 国連 の 目指 す 道 に も通 じる と信 じます 。 ゆ えに 、 そ の 国連 (75)池 田大 作/ジ ョセ ブ ・U一 トブ ラ ッ ト 『地 球 平 和 へ の 探 求 』、206頁 。 (76)池田 大 作/R・D・ ホ フ ライ トネ ル 『見つ め あ う西 と東 』、156頁 。 (77)第26回 「SGIの目」 記 念 提 言(聖 教新 聞200!年1E27日) 。 ㈹ 池 田が 国 連 お よび そ の 改 革 につ い て詳 し く論 じた提 言 と して は 、 「 世 界 が期 待 す る 国連 たれ 」(聖 教 新 聞 2006年9月1日 、2日)が あ る。 ま た講演 と して は 、 ボu一 ニ ャ 大 学 で の 講 演 「レオ ナル ドの 眼 と人 類 の議 会 一 国連 の未 来 につ い ての 考 察 」池 田大 作 『「 人 間 主義 」 の 限 りな き 地 平 一海 外 諸 大 学 で の講 演 選 集 II』(第 三 文 明 社 、2008年)、 対 談 集 と して は 、 ア ン ワル ル ・K・ チ ョ ウ ド リ/池 田大 作 『新 しき 地球 社 会 の創 造 へ 一平 和 の文 化 と国連 を語 る一』(潮 出版 社 、2011年)が あ る。 (79)第29回 「SGIの日」 記 念 提 言(聖 教 新 聞2004年1月27目) 。 一!29一 池 田大作の平和観 と世界秩序構想 について の一考察 を支 援 す る こ とは 、 私 ど もに とっ て、 い わ ば"必 然"で あ る とも い え ます 。 そ う した 面 か らも私 は、国 連 の 第 一 義 的 な役 割 は 、協 調 と対 話 を機 軸 とす る 『ソ フ ト・ パ ワー』 とい う点 に求 め られ る べ き も の と考 えて お りま す 」(80)と述 べ 、仏 教 の 理 念 と国連 の理 想 の 間 に相 通 じ る もの が あ る と し て、 国連 支 援 は 仏 法者 と して必 然 で も あ る と強 調 して い る点 は重 要 で あ る。 ま た 、国 連 は、 軍 事 力 に よ る行 動 も辞 さな い 安全 保 障 の シス テ ム を備 え た組 織 で は あ る が、 国 連 の第 一 義 的 な役 割 と 本 質 は 「ソ フ トパ ワー 」 に あ る との考 え も池 田の 国連 観 の特 徴 的部 分 で あ る。 そ の意 味 で 、 国 連 の強 化 は一 層 重 要 な課 題 とな る。 しか し、 国 連 につ い て は 、 国連 に多 大 な 期 待 を か け る理 想 主 義 的 な見 方 が あ る一 方 で国 連 無 力 論 や 不 要 論 も叫 ば れ 、 そ の評 価 は大 き く分 か れ る こ とも確 か で あ る。 国 連 誕 生 か ら今 日にい た る まで の歩 み をみ る と き、国連 が 理想 と現 実 の は ざ まで 揺 れ 動 い て きた こ とは事 実 で あ る。しか し、 国連 が主 権 国 家 の 集 合 体 で あ る こ とに立 ち還 れ ば 、過 剰 な期 待 も失 望 も誤 りで あ り、 等 身 大 で 国 連 を理 解 し、 主 体 的 に 国連 に 関 わ って い く こ とが肝 要 で あ ろ う。 池 田 も この 点 につ い て、 次 の よ うに述 べ て い る。 「 確 か に、国連 無 力 論 や 不 要 論 は 一 部 で根 強 く叫 ばれ てお り、今 の 国連 に は 、時 代 の変 化 にそ ぐわ ない 面 が少 な か らず あ るか も しれ ませ ん。 しか し私 ど もは 、そ れ に代 わ る存 在 が現 実 にな い 以 上 、 グ ローバ ル な草 の根 の 民 衆 のカ を結 集 し、 国連 を強化 して行 くこ とが 一 番 の 道 で あ る こ とを 考 え 、行 動 を続 け て き ま した 」(81)。また 、 「多 国 間 協 調 の シ ス テ ム と して 、 国 連 はベ ス トで は な い か も しれ ませ んが 、 国 連 が 存 在 しな い世 界 よ りも 、国連 が存 在 す る世 界 の ほ う がベ タ ー で あ る こ とは 間 違 い あ りませ ん。 『国 際公 法 に基 づ く世 界 』 の 要 と して 国連 を 宣揚 し改 革 ・強 化 して い く以 外 に 道 は あ りませ ん 」(82)とも述 べ てい る。 そ れ で は 、 国 連 改 革 の カ ギ は何 で あ ろ うか 。 そ れ は 、 国連 の民 主 化 とい うこ とにな ろ う。 す な わ ち、 政 府 間 組 織 で あ る国連 を ど う地 球 市 民 社 会 の形 成 とい う変 化 を反 映 した組 織 へ と改 革 して い くか とい うこ とで あ る。 池 田 は 、 「 す べ て のべ 一 ス に な るの は 、国 連 憲 章 が 『我 ら人 民 は』 と謳 い上 げて い る よ うに 、『国家 主 権 か ら人 間主 権 へ 』の 座標 軸 の転 換 で あ りま す 」 と述 べ 、主 権 国 家 間 の 協 力 組 織 で あ るに もか か わ らず 国連 の 目指 す 本 来 の理 念 は 、 前 文 の 冒頭 に謳 わ れ る よ うに people(人 民)の 利 益 の 実 現 に あ る こ とを 強調 して い る(83)。で は 、 国 連 の 民 主化 とは 具 体 的 に 何 を指 す の で あ ろ うか。 第 一 の民 主 化 は、 国 家 間 デ モ ク ラ シー 、す なわ ち加 盟 国 間の 平 等 の 実 現 で あ る。 なか で も安保 理 の 民主 化 と正 統 性 の 確保 の た め の安 保 理 改 革 は 、避 けて 通 れ ない課 題 で あ ろ う。 安 保 理 改 革 の 具 体 的 内容 と して は 、 現在5つ の 常任 理 事 国 と10の 非 常任 理 事 国 か らな る メ ンバ ー 構 成 や そ の 拡 大 、拒 否 権 の問 題 、 審議 の透 明性 の確 保 、 ダ ブル ス タ ン ダー ドの 是 正 、 安 保 理 の コ ン トロー ル な どが含 まれ るが 、 改 革 を通 じた安 保 理 の民 主 化 と正統 性 の確 保 は、 軍 事 力 (80)池 田 大 作/ベ (81)第29回 ッ ド ・P・ナ ン ダ 『イ ン ドの 精 神 』(東 洋 哲 学 研 究 所 、2005年)、353頁 「SGIの 日 」 記 念 提 言(聖 教 新 聞2004年1月27目) (82)池 田 大 作/R・D・ ㈹ ホ フ ラ イ トネ ル ハ ワイ 東 西 セ ンタ ー講 演 諸 大 学 で の 講 演 選 集H』(第 。 。 『見 つ め あ う 西 と東 』、!32頁 。 「平 和 と 人 問 の た め の 安 全 保 障 」 池 田 大 作1「 人 間 主 義 」 の 限 りな き 地 平 一 海 外 三 文 明 社 、2008年)。 一130一 創価教育 第5号 の行 使 を完 全 に は否 定 で き ない 現 状 にお い て 、 軍 事 力 に直 接 関わ る安 保 理 に よ るそ の恣 意 的 な行 使 を可 能 な限 り極 小 化 す る とい う観 点 か らも改 革 が 急 がれ る。 第 二 の民 主 化 は 、 国連 を人 間 の安 全 保 障 に対 応 し、人 間 の安 全 保 障 を 実 現 す る組 織 に で き るか ど うか で あ る(84)。これ は 、 国 連 の 第 一 義 的 な役 割 は ソフ トパ ワー に あ る とす る池 田の 考 え に通 じる。そ の た め に、ひ とつ は非 暴 力 、 す な わ ち平 和 的 手段 に よ る平 和 の実 現 が 重 要 とな る。紛 争 の平 和 的 解 決 、 人道 犯 罪 の処 罰 、 軍 縮 へ の取 り組 み の 強化 が望 まれ る。 そ れ に加 えて 、 経 済 的 ・社 会 的 ・人 道 的 問題 へ の取 り組 み が よ り重 要 とな る。 なぜ な ら、 これ らの分 野 は、 人 間 の 安全 保 障 の柱 の ひ とつ で もあ る 「 欠 乏 か らの 自由」 に 関わ る と と もに 、紛 争 や テ ロ の要 因 に もな る点 で、 そ の予 防 や 土壌 の 除去 が よ り重 要 と な る と考 え られ るか らで あ る。 そ の意 味 で も平 和 構 築 の担 う役 割 は大 きい 。 第 三 の 民主 化 は、 グ ロ・ 一バ ル デ モ ク ラシ ー 、す な わ ち加 盟 国 国 民 の 民意 の反 映 で あ る。そ の た め にNGOや 市 民社 会 の 国 連 へ の参 画 を どの よ うに促 進 して い くかが 国 連 改 革 に お い て も よ り重 要 な課題 とな ろ う。 こ の点 に つ い て池 田 は、 「国連 が"生 き て い る機 関"と して現 代世 界 の要 請 に応 えて い くた め に 、い か な る 「 創 造 的進 化 」 を 遂 げ る必 要 が あ る のか 。私 は、一 に も二 に も、NGO(非 政府 組 織)を 中 心 と し た 市 民社 会 との協働 関係 を盤 石 な もの にす る こ とに尽 き る と考 え ます 。 なぜ な ら、 国連 とい う機 関 の 生命 の息 吹 は、 憲 章 の 前文 で 主語 を な して い る"わ れ ら民 衆"の 文 言一 な か んず く、そ の民 衆 を構 成 す る一 人 一 人 に こそ 宿 って い るか らで す 」(85)と明言 す る。 また 、 「これ か らの 国連 に と っ て 大切 な の は、 『国家 の代 表 の 集 ま り』 の側 面 と とも に、 『人 類 ・民衆 の代 表 の集 ま り』 の側 面 を 強 め て い くこ とで す。 そ の 意 味 か ら も、NGOの 舞 台 を広 げ、『世 界NGOサ ミ ッ ト』あ る い は 『世 界 NGO総 会 』 を、 現 状 を拡 大 した か た ち で 開催 し、定 着 させ て は ど うで し ょ うか 」(86)とも述 べ る。 これ らの言 葉 に込 め られ た 池 田の視 点 は 、 国連 改 革 に関 す る考 え の な かで も一 貫 して い る。 (2)「 カの 支配 」 か ら 「 法 の支 配 」 ヘ ー国 家 を裁 く一 グ ロー バル ・ガバ ナ ンス にお い て第 二 に求 め られ る こ とは 、戦 争 や 非 人 道 的 行 為 に 対す る報 復 の 連 鎖 と、 それ らに対 す る不 処罰 の歴 史 に ど う ピ リオ ドを 打 つ か とい う点 で あ る。 戦争 に訴 え る 行 為 そ の もの を違 法 化 す る試 み 、 す な わ ちjusadbellumの 部 分 につ い て は先 に述 べ た 。 しか し、 た と え戦 争 が違 法 化 され た として も武 力行 使 や そ の プ ロセ ス に お け る非 人 道 的 行 為 は な くな るわ けで は な い。 国 際人 道 法 に よ る戦 争 の 手段 ・方 法 の規 制 お よび侵 略や 非 人 道 的 行 為 を犯 罪 と して 裁 く こ と、 す な わ ちjusinbelloに 圃 よ る武 力行 使 の規 制 と国 際刑 事 法 廷 に よ る その 処 罰 が 不 可欠 「 『人 間 の 安全 保 障 』 を実 現 させ て い くた め に は、 人 類 益 に 立 った 国 際 法 の 拡 充 を め ざす と とも に、 国 連 を支 援 ・強 化 して 行 く こ とが 強 く求 め られ る と私 は考 えま す 。 長 き に わ た る 『ウェ ス トフ ァ リア 体 制 』 の下 で 形 成 され て きた 国 際 法 は 、 国 家 間 の 利 害 を調 整 す るた め の ル ー ル と して発 達 して き た 面 が 強 く、 伝 統 的 に国 家 の 排 他 的 主 義 が 尊 重 され る傾 向 が あ りま した 」(池 田 大 作/マ ジ ッ ド・ テヘ ラ ニ ア ン 『二 十 一 世 紀 へ の選 択』、304頁)。 (85)第36回 「SGIの目」 記 念 提 言(聖 教 新 聞2011年1月27日) (86)池田大 作/ベ ッ ド・P・ ナ ン ダ 『イ ン ドの 精 神 』、362頁 。 一131一 。 池 田大作 の平和観 と世界秩序構想にっいての一考察 とな る。 しか し、主 権 国 家 を超 える 権 力 が な い 国 際社 会 にお い て 、 国 家や 戦 争 指 導 者 が 裁 か れ な い の は 当然 の こ と とされ て きた の が これ ま で の 常識 で あ った。 そ の意 味 で 、法 に よ る正 義 の 実 現 は 、 非 暴 力 的手 段 と して の 法 に よる公 正 な裁 き とい う事 後 的 な側 面 だ け で な く、 将 来 に向 けて 犯 罪 を抑 止 し、報 復 の 連 鎖 を断 ち切 る とい う面 か らも重 要 な役 割 を担 うも の とい え る。 この よ うな動 き は、 第2次 大 戦 に お け る ドイ ツお よび 日本 の戦 争犯 罪 を初 めて 国 際 法 廷 で裁 い た ニ ュル ンベ ル グお よび 極 東 国 際軍 事 裁 判 所 の設 置 を契機 と して 、冷 戦 後 に は地 域 紛 争 で の 大 量 虐 殺 等 を裁 くた めの 旧ユ ー ゴ国 際刑 事 裁 判 所(ICTY)お よびル ワ ン ダ 国際 刑 事裁 判所(ICTR)が 設 置 され 、2002年 に は 国 際刑 事 裁 判 所(工CC)が 設 立 され た。法 の支 配 と国際 刑 事 裁判 所 の設 置 の 重 要性 につ い て は、池 田 も これ ま で さま ざま な機 会 に訴 え て き た。た と えば 、「私 も、国 際刑 事裁 判 所 の早 期 の設 置 を繰 り返 し訴 え て き ま した。そ れ は 、『力 に よ る解 決 』で は な く 『法 に よ る解 決 』 を制 度 化 し、"憎 悪 と報 復 の連 鎖"を 断 ち切 る回 路 を 開 くた め で す 。 そ う した努 力 の なか に こそ 、 永 続 的 な平 和 の基 盤 を 築 き ゆ く鍵 が あ る と信 じるか らで す」(87)と述 べ て い る。そ して 、処 罰 に あ た っ て の基 準 と して 、 「問題 は 『正義 を判 断す る の は誰 か』 です 。 そ れ は 、 さ し当 た っ て 、多 国 間 の枠 組 み で あ り、 国 際 社 会 のル ール 定 め た 『国 際公 法 』 とす る の が最 も合 理 的 で し ょ う。 プ ラ ト ン の 『国家 』に 『〈正 しい こ と 〉 とは 、強 い者 の利 益 に他 な らな い』(『国 家 』(上)藤 沢令 夫 訳 岩 波 書 店)と あ ります 。こ うした 「 力 こそ 正 義 」とい う数 千 年 の歴 史 に 終止 符 を打 つ た めに 、人 類 は 、 最 も合 理 的 な 方 法 と して 、多 国問 の 枠 組 み をつ く り、「国 際公 法 」を整 備 して きた の で す 」と述 べ 、 国 際法 の役 割 を強 調 して い る(88)。 しか し、 国 際 法 は 国 家 間 の合 意 を前 提 とす る任 意 規 範 で あ るが ゆ え に、合 意 しな い 国家 に対 す る拘 束 力 の点 にお い て 大 き な 限界 が あ る こ とも確 か で あ る。国 際 法 上 の 強行 規 範 、す な わ ちユ ス ・ コー ゲ ン スは 、 そ の よ うな 国 際法 の性 格 を乗 り越 え よ う とす る も の とい え るが 、 国際 法 が 合 意 主 義 を ど う克 服 し、 世 界(市 民)法 へ と発 展 を遂 げ られ るかが ひ とつ の課 題 で あ ろ う。 池 田 は 、 こ の点 につ い て 次 の よ うに述 べ て い る。「 現 代 の文 明が発 達 して 、諸 国 が 緊密 に結 び つ い てい く世 界 に なれ ば な る ほ ど、国家 の主 権 を制 限 す る 『世 界 法 』が い よい よ必 要 にな っ て き ます 。 とこ ろ が 、 ま さに必 要 な 『世 界 法 』 に対 す る現 在 の 『国 際 法 』 は 一種 の前 例 、慣 例 で は あ っ て も、 紳 士 協 定 の よ うな もの に す ぎ ず 、 た とえ ば国 法 が 国 民 に対 して もつ よ うな 強 制力 を 国家 に対 して も って は い ませ ん。(中 略)将 来 、世 界 法 が制 定 され る ときが 来 れ ば、今 の 国 際 法 は あ た か も道 徳 や1貫例 が 国家 の法 律 の 土 台 で あ る の と同 じ役 割 を担 うこ とに な る で し ょ う。 か っ て の帝 国 主 義 的 な 砲 艦 外 交 が通 用 しな くな る と と もに 、 国際 法 を重 ん ず る よ うに な って きた軌 跡 に照 ら して も、 世 界 的 な (87)池 田大 作/ベ ッ ド・P・ナ ン ダ 『イ ン ドの精 神 』、326頁 。そ の 他 、「 軍事 力 な どのハ ー ド ・パ ワー一 一に よっ て 、 一 時 的 に紛 争 の 解 決 を図 った と して も 、 流 血 の惨 事 な どを 招 き 、 将 来 に 禍根 を残 す揚 合 が少 な くな い 。 ゆ え に、 憎 悪 と報 復 の 悪 循 環 を断 ち切 るた め の公 正 な 『法 に よる解 決 』 の枠 組 み 作 りが 不可 欠 で あ る。 そ の一 つ の ス テ ップ と して 、人道 に 反す る重 大 な犯 罪 を、 国際 法 に照 らして 裁 く、『国際 刑 事 裁 判 所 』 の 早 期 設 立 を 、 私 も訴 え て き た」(池 田大 作 『明 目を 見つ めて 』、119頁)。 (88)池田大 作/R・D・ ホ フ ライ トネ ル 『見 つ め あ う西 と東 』 、134頁 。 一132一 創 価教育 第5号 法 体 系 をつ く る時代 が到 来 す る と思 い ま す。そ の た め に人 類 は英 知 を結 集 しな くて は な りま せ ん 。 カ で は な く法 に よ る秩 序 を生 み 出す 手 段 を もた な け れ ば 、い つ ま で も人類 は 、宿 命 的 な 流 転 を打 ち破 る光 を見 だ せ な い に違 い ない 。 そ の意 味 か ら も、 国連 の強 化 と充 実 、 そ して発 展 が 志 向 され ね ば な らない こ とは 、 明 白です 」(89)。 そ の意 味 にお い て 、 国 際刑 事 裁 判 所 を通 じた 訴 追 ・処罰 の試 み は、 そ れ が 国 家 主権 と の 関係 に お い て補 完 性 を原 則 とは す る も の の 、世 界 法 へ の発 展 の 可能 性 を 占 う試 金 石 と もい え る。 そ の う え で 、池 田は 、「 ハ ー グ 平和 会 議 、パ リ不戦 条 約 な ど、戦 争 を違 法 化 す る とい う試 み が あ りな が ら、 世 界 大 戦 が起 きて しま っ た こ とは 、条 約 や 制 度 が あ って も、人 々 に 「 不 戦 」 へ の 強 固 な意 志 が な けれ ば 、戦 争 を 防 ぐこ とが い か に 困難 で あ るか を如 実 に物 語 って い ま す。(中略)そ して最 後 は 、 人 の心の中に 「 平 和 の砦 」 をい か に 築 き上 げ る か 、「平 和 へ の意 志 」 を ど う育 む か とい う、広 い意 味での 「 教 育 」に帰 結 す る と、私 は 思 っ て い ます 」(go)と述 べ て い る。す な わ ち、法 に実 効 性 を も たせ る うえ で 法 の形 成 を促 し、 ま た 生 み 出 され た法 を遵 守 し よ うとす る社 会 的 基盤 、 な か んず く 法 に映 し出 され る人 々 の平 和 へ の 意 志 が カ ギ を握 る こ とを強調 して い る点 は重 要 で あ る。 (3)ボ トム ア ップ に よ る秩 序 構 築 一 国 家 を動 かす 一 グ ロー バ ル ・ガバ ナ ン ス の第 三 の ポ イ ン トは 、 ボ トム ア ップ に よ る秩 序 構 築 、 す な わ ち 秩 序 形 成 へ の市 民 の 参 画 と連 帯 で あ る。池 田は 、「核 兵器 や 環境 、貧 困 問 題 をは じめ 、地 球 社 会 の 破 滅 と 直 結 す る諸 問 題 に 、 国 家指 導 者 た ちが 十 分 に 対 処 で き な い現 状 にお い て は 、世 論 を動 か し、 国 境 を超 え て 、非 暴 力 と共 生 の新 しい 流 れ を創 造 す る 「 世 界 市 民 の連 帯 」 こそ が 、 と りわ け 重 要 で あ る と考 え る の です 」(91>と述 べ る と と もに 、 「 時 代 の主 役 は 、 あ くま で も民衆 で す 。 一 人 ひ と りが 「人 間性 」 を輝 か せ 、 世 界 か ら悲 惨 の二 字 をな くす た め の 民衆 の連 帯 を粘 り強 く広 げて い って こ そ 、 大 い な る飛 躍 が あ る。私 ど もSGIが 、世 界190力 国 ・地域 で取 り組 ん で い る 「 人 間革 命 」 運 動 の 眼 目 も、 そ こに あ ります 」(92)と述 べ 、SGIに よ る運 動 が 人 間 の 変 革 と民衆 の連 帯 に よ る平 和 運 動 に 他 な らな い こ と を確認 して い る。近 年 、NGOや 市 民 組 織 な どの非 国家 ア ク ター の 台頭 が著 しい が 、92年の地 球 サ ミ ッ ト以 降 、国連 主催 の ア ドホ ック な世 界 会議 にNGOが 準備 段 階 も含 めて 参 加 し、 ま た 、会 議 と並 行 してNGOフ ォー ラム を開催 す る な どの形 でNGOが 関与 す る こ とが一 般 化 して い る。 これ らを通 じて 、国際 会議 で採 択 され る宣 言 や 行 動 綱 領 、行 動 計 画 な ど にNGOが 影 響 を与 え る よ う に な って い る。 そ の よ うな な か 、具 体 的 な 国 際法 の形 成 にお い てNGOが き わ めて 重 要 な役 割 を はた した例 が 注 目 され る。た しか に、条 約 の 締 結能 力 は 国家 に あ り、個 人 やNGOが 有 す る もの で は ない 。しか し、NGO がそ の締 結 過 程 に影 響 を 与 え る こ と は可能 で あ る。 た とえば 、1999年 に発 効 した 対 人地 雷禁 止 条 (89)池 田 大 作/ノ ー マ ン ・カ ズ ン ズ 『世 界 市 民 の 対 話 』、218頁 。 (go)池 田 大 作/ジ ョセ ブ ・ロ ・ 一 トブ ラ ッ ト 『地 球 平 和 へ の 探 求 』、212頁 。 (91)池 田 大 作/ジ ョセ ブ ・u一 トブ ラ ッ ト 『地 球 平 和 へ の 探 求 』、200頁 。 (92)池 田 大 作/ジ ョセ フ ・ロ ー トブ ラ ッ ト 『地 球 平 和 へ の 探 求 』、163頁 。 一133一 池 田大作の平和観 と世界秩序構想 につい ての一考察 約 にお い て は 、対人 地雷 に反 対 す るNGOの 連 合 体 で あ る 「地雷 禁 止 国際 キ ャ ンペ ー ン(ICBL)」 が 、 カ ナ ダ、 オ ー ス ト リア 、 南 ア な どの賛 同 国 と協 力 しな が ら条 約 成 立 を主 導 し、2010年 に発 効 した ク ラス ター 爆 弾 禁 止 条約 に もNGOが 大 き く関与 した。 また 、先 に 述 べ た 国 際刑 事 裁 判 所(ICC)規 程 につ い て は 、「国 際刑 事 裁 判 所 のた めのNGO連 合(CICC)」 が 条約 成 立 に大 き く関 わ っ た。さ らに 、 1996年 、核 兵 器 の使 用 を 国際 法違 反 と したICJの 勧 告 的意 見 の原 動 力 とな った の も、世 界 法 廷 闘争 と呼 ば れ た 市 民 ネ ッ トワ ー クで あっ た。 これ ら最 近 の一 連 の 動 きは 、 草 の根 の連 帯 に よ る市 民 の た め の 国 際 法 形成 へ の潮 流 で あ る とい え る。 この 動 き に つ い て 、池 田は 次 の よ うに述 べ て い る。 「 近 年 で は、平 和や 人 権 、また環 境 な ど の地 球 的 問題 群 の解 決 の た め に、NGO(非 政 府 組 織)が 積 極 的 な役 割 を果 たす よ うに な っ て き ま した。 『対 人 地 雷禁 止 条約 』 の制 定 に 大 き な役 割 を果 た し、 ノー ベル 平 和 賞 を受 賞 した 『地 雷禁 止 国 際 キ ャ ンペ ー ン』(ICBL)も そ うで す 。ま た 、近 年 で は国 際 刑 事裁 判 所 の設 置 の推 進 に取 り組 ん で き た 『国 際刑 事 裁 判 所 を求 め るNGO連 合 』(C工CC)な どの活 躍 も注 目 され ま した」(93)。ま た 、 「パ ス カ ル が 「人 は正 しい も の を強 くす る こ とが で き なか った の で 、 強 い もの を正 しい と した 」 と言 っ た よ うに 、 これ ま で の人 類 の歩 み は 、強 者 が 力 に もの を言 わせ 弱 者 を支 配 して き た歴 史 で した。 そ の な か で 、 「暴 力 を や め よ」 「 戦 争 をや め よ」 と説 く こ とは 、 時 に非 現 実 的 に 映 っ て き た こ とで し ょ う。 しか し今 、情 報 科 学技 術 な どの発 展 に よっ て 、 市 民 の 「 非 暴 力 の連 帯」 を、 グ ローバ ル に広 げ る こ とも可 能 に な って き ま した 。NGO(非 政府 組 織)に よ る地 雷禁 止 国際 キ ャ ンペ ー ンが 、対 人 地 雷全 面禁 止 条 約 に結 実 した の も、 平 和 を願 う人 々 の意 志 が 、 グ ロー バル な潮 流 とな っ て広 が り、結 実 した 例 で す 」(94)とも述 べ 、平 和 秩 序 の構 築 に果 た す 市 民 の役 割 に期 待 を寄せ て い る。 さ らに 、 「 私 は 今 日の 多彩 なNGOの 活 躍 をみ る と、 法 華経 に登 揚 す る これ らの 多彩 な 『菩 薩 群 像 』 を 思 い起 こす ので す 」(95)と述 べ 、NGOに つ い て仏 法 的 な視 点 か らの評 価 を してい る。 おわ りに 一パ ラ ダイ ム の転 換 と池 田の 平 和 観 一 以 上 、 近 代 か ら今 日に い た る まで の 国 際社 会 の構 造 と変 遷 を素 材 と して 、そ こ にお け る対 立 と 紛 争 を克 服 して い く うえ で池 田 の平 和観 が い か な る変 革 へ の 視座 を提 供 し うるの か とい う問 題 意 識 に基 づ い て 、 池 田の 著 作 にお け る さま ざま な言 説 を 引用 しな が ら考察 を行 な って き た 。 こ こ に い う国際 社 会 の 構 造 とは 、主 権 国 家 を 基本 枠 組 み と し、そ れ らが 併 存す る分 権 的 な ウ ェス トフ ァ リア シ ステ ム で あ った。 そ こ にお い て諸 国家 は 、摩 擦 や 対 立 の解 決 を往 々 に して 戦 争 とい う手 段 に求 め、 差 異 に 基 づ く差 別 や 弱 者 へ の支 配 とい う暴 力 行 為 を繰 り返 して き た。20世 紀 にお け る2 度 の世 界 戦 争 や 内 戦 、核 兵 器 の 登 場 、貧 困や 人 権 、環 境 問題 な どの諸 問題 は、 ま さに この よ うな 「 戦 争 と暴 力 の 文化 」 を象 徴 す る もの で あ っ た。 こ の状 況 は 、21世 紀 に な った 現在 に お い て も依 (93)池 田 大 作/ベ (94)池 田 大 作/ジ (95)池 田 大 作/ベ ッ ド・P・ナ ン ダ 『イ ン ドの 精 神 』 、325頁 。 ョセ ブ ・ロ ー トブ ラ ッ ト 『地 球 平 和 へ の 探 求 』 、189頁 ッ ド・P・ナ ン ダ 『イ ン ド の 精 神 』、333頁 。 一134一 。 創価教育 第5号 然 と して変 わ る もの で は な い。 しか し、池 田 の平 和 ビジ ョ ンの特 徴 は、 これ ら諸 問 題 の原 因 を主 権 国家(体 制)そ の も のや 単 な る制 度 の改 革 に求 めて い るの で は ない 点 に あ る。 す な わ ち 、暴 力 の根 底 に あ る生命 軽 視 とエ ゴ イ ズ ム の 思想 を鋭 く批 判 し、社 会 や 制 度 を担 う人 間 そ の もの の変 革 を通 じた 「 平 和 の文 化 」 の構 築 を構 想 して い る点 で あ る。 「 『野 蛮』 対 『文 明』 の戦 い 」 と題 す る エ ッセ ー の なか で 、 池 田は 、 現 代社 会 が抱 え る 問題 の本 質 に つ い て次 の よ うに明 快 に喝破 して い る。「 二 十 一 世 紀 に人類 が 直 面 して い る緊急 の課 題 は、文 明間 の 衝 突 で も な けれ ば 、『テ ロ』 対 『対 テ ロ戦 争 』 で もな い は ず で あ る。挑 戦 す べ き焦 点 は 「 暴 力 」対 「 非 暴 力 」 の競 争 で あ る。『カ つ くで とい う傲1曼』 対 『対 話 す る 勇 気 』の競 争 で あ る。『人 間不 信 』対 『人 間信 頼 』 の競 争 で あ る。 そ して 、これ こそ が真 の 『野 蛮 』 対 『文 明』 の 戦 い で あ ろ う」(96)。 そ の 意 味 で 、池 田 の平 和 観 は、 そ の思 想 性 にお い て生 命 と人 間 の尊 厳 を基調 と し、 そ の手 段 にお い て 非暴 力 主義 で あ り、 秩 序 構 築 の担 い 手 にお いて 目覚 めた 民 衆 とそ の 連 帯(97)と い う三 つ の柱 を座 標 軸 と した 文 化 、 す な わ ち 「 平 和 の文 化 」 の 構 築 を 目指 す も の とい え る の で は な い だ ろ うか。 そ の意 味 で 、 私 た ち に とっ て 、 既 存 の パ ラダ イ ム を転 換 し、 「 平 和 の文 化 」 を構 築 で き る か ど うか が 、未 来 を 占 う試 金 石 とな る。 新 た な世 界 像 と して の 「 平 和 の文 化 」に つ い て 、池 田 は次 の よ うに述 べ て い る。 「「平 和 の 文 化 」 につ い て、 私 が 対 談 した エ リー ス ・ボー ル デ ィ ン グ博 士 が 、素 晴 ら しい 定 義 を して お られ ます 。 平 和 の文 化 と は 「 人 間 が た が い に創 造 的 に 『差 異 』 に対 処 し、そ れ ぞ れ の 資 質 を 分 か ち合 うこ と で あ る」 と。 自分 以 外 の 他 者 と ど う向 き合 うか 。 自分 以外 の他 者 を受 け入 れ な け れ ば 、モ ノ トー ン(単 色)の 世 界 がで き るか 、 異 文 明 ・異 文 化 間 の対 決 が続 くだ け です 。 一 方 、 「 他 者 を尊 重 す る」 「 他 者 に寛 容 に な る」 と言 って も、互 い が 自 らの文 化 ・文 明 を絶 対 視 した ま ま の 「尊重 」 「 寛容」 で は 、 世界 は分 断 され た まま で す。 この どち らに も陥 らない た め の鍵 は 、 ボー ル デ ィ ング博 士 の 言 うよ うに 「分 か ち合 う」 こ と、 す な わ ち 「 他 者 との対 話 を通 じて 、相 手 を変 え る と同 時 に 、 自 身 も変 わ ろ うとす る こ と」 で は な い で し ょ うか。 対 話 を通 じ、 自他 と もの変 革 の 道 を考 え 、 広 げ て い くこ と一 私 た ちSGIの グ ロ・ 一バ ル な使 命 は こ こ に あ る と考 えて い ます 」(98)。ロー トブ ラ ッ ト 博 士 が 古 代 ロー マ の格 言 で あ る 「 平 和 の た め に は戦 争 を準 備 せ よ」(戦 争 の 文化)を 言 い換 え て 、 「 平 和 の た め に は 平和 を準 備 せ よ」(平 和 の 文化)と 述 べ て い る が、非 暴 力 的手 段 と して の 対 話 の 重 要 性 をた び た び 強調 す る 点 も池 田 の特 徴 で あ る。池 田 は対 話 に つ い て 、「言葉 に よる説 得 一 人 間 の心 に働 きか け る真 の 「対話 」 こそ 、 トイ ン ビー博 士 が究 極 的 に歴 史 をつ くる も の と して 挙 げて (96)神奈 川 新 聞2003年2月27日 。 (97)池 田は、指 導 者 の 役割 の重 要性 につ い て も、当 然認 識 してい る。それ は次 の よ うな言 葉 に表 れ て い る。「仏 教 の知 見 は 、『環 境 の 乱 れ 、社 会 の乱 れ は 、必 ず思 想 の乱 れ か ら起 こる 』 と、根 本 を洞 察 して い ます 。 地 球 を 救 うた め には 、社 会 を動 か して い る価値 観 や 思想 そ の も の を変 えて い く こ とが必 要 で す 。と りわ け 、 指 導 者 が どの よ うな 倫 理 観 、 歴 史観 、社 会 観 を もつ か は 、社 会 の方 向性 を直 接 、左 右 す る大 き な 問題 で す 」(池 田 大 作/R・D・ ホ フ ライ トネ ル 『見 つ め あ う西 と東 』、146頁)。 (98)池 田大 作/ジ ョセ ブ ・ロー トブ ラ ッ ト 『地 球 平 和 へ の 探 求 』、213頁 。 一135一 池 田大作の平和観 と世界秩序構想 につい ての一考察 いた 「 水 底 の ゆ るや か な 動 き」 に ほ か な らな い と、私 は思 い ます 」(99)と述 べ る と とも に 、 「 誤解 を恐 れ ず にい えば 、対話 に よっ て得 られ る結果 以上 に 、『対話 の プ ロセ スそ の もの 』に 、対 話 の真 価 が あ る と さえい え る で し ょ う」(100)と述 べ て い る。 こ の対 話 とい う行 為 そ の もの が もた らす 変 革 へ の ダイ ナ ミズ ム は 、池 田 が 自身 の行 動 を 通 して 体現 し証 明 して きた と ころ で あ る こ とは あ ら た めて 述 べ るま で も な い。 対 話 が 、 個 人 レベ ル で の非 暴 力 的 手 段 で あ る とす る な らば、 社 会 レベ ル に お い て重 要 と な る の は 、 牧 口が 示 した 「 人 道 的競 争 」 の 概 念 で あ る。 池 田 は、 牧 口の 言 葉 を通 して 、次 の よ うに述 べ て い る。 「 『威 服 』 か ら 『心服 』 へ一 現 代 的 に言 い換 えれ ば、 軍 事 力 や 政 治力 、 また は 圧倒 的 な 経 済 力 を もっ て 、他 国 を一 方 的 に意 の ま ま に しよ う と した り、 強 制 的 な形 で影 響 を及 ぼ そ うとす る 『ハ ー ドパ ワー』 の競 争 か ら決 別 す る こ とで あ ります 。 そ して 、 そ れ ぞれ の 国が もっ て い る外 交 力 や 文化 力 、 ま た人 的 資 源 や 技 術 ・経験 等 を駆 使 した 国際 協 力 を通 して 、 自然 とそ の 国 の 周 りに 信 頼 関係 や友 好 関係 が築 かれ て い く よ うな 、『ソフ トパ ワー 』に よ る切 磋 琢 磨 を よび か け た の で あ りま す。 こ う した 『人 道 的競 争 』、す な わ ち 『ソ フ トパ ワー』 に基 づ く影 響 力 の競 争 が 広 が っ て い くな らば 、従 来 の よ うな敗 者 の 犠 牲 や不 幸 の上 に勝 者 が あ る 『ゼ ロサ ム ・ゲ ー ム 』 に 終止 符 が 打 た れ る よ うに な るは ず で す 。さ らに 、それ ぞ れ の国 が 、人類 へ の貢 献 を 良い 意 味 で 競 い合 う中 で 、 地 球 上 のす べ て の人 び との 尊 厳 が輝 く 『ウ ィ ン ・ウィ ン(皆 が 勝 者 と な る)』の 時 代 へ道 が 開 かれ て い くはず で あ りま す 」(101)。 そ して 、 「『人 道 の 競 争 』 とは 、一 つ は 『人 材 育成 の 競争 』 です 。 そ こで は 、 教 育 が柱 とな る」 と述 べ 、人 材 の育 成 とそ の た め の教 育 の 重 要 性 に つ い て強 調 してい る(102)。ま た 、 「 人 間 をつ くる 両輪 は 、『教 育 』 と 『宗 教 』で あ る。 教 育 な き宗 教 は独 善 にな っ て しま う」(103)とも述 べ 、宗 教 お よ び教 育 の重 要 性 とそ の 関係 につ い て の考 え を示 して い る。 で は、 そ の 教 育 が 目指 す べ き も の は 何 で あ ろ うか 。 そ れ は 、 多様 性 を受 容 し理解 で き るグ ロー バ ル な視 野 で あ り、 目指 す べ き人 材 像 と して の世 界 市 民 で あ ろ う。 こ の点 につ い て 、池 田は 、 「 私 も これ ま で 、 こ と あ る ご とに 「国益 」 中 心 か ら1人 類 益 」 中 心 の 思考 へ 、発 想 を転換 す る こ との重 要 性 を訴 えて き ま した。 そ の カ ギ と な る のが 、多 様 な価 値 観 や 文 化 を受 容 し理 解 す る た め の グ ロー バ ル な 「 教 育 」で す。"開 かれ た 心" と"開 か れ た 知 性"に よ る交流 を通 して 、他 者 へ の理 解 と共 感 を育 み 、 グ ロ ーバ ル な視 野 を身 に つ け てい く こ とが 大切 で す」(104)と述 べ る と とも に、世 界 市 民 に つ い て 、 「 世 界 市 民 と は 『偏 狭 な 国家 主 義 ・民 族 主 義 ・差 別 主義 』 と闘 う闘 士 の 異名 で あ り、『人類 の連 帯』 を非 暴 力 と対 話 に よっ (99)池 田 大 作/ジ ョセ ブ ・ロ ー トブ ラ ッ ト 『地 球 平 和 へ の 探 求 』 、147頁 (101)池 田 大 作 ッ ド ・P・ナ ン ダ 『イ ン ドの 精 神 』 、372頁 。 「世 界 が 期 待 す る 国 連 た れ 」(聖 教 新 聞2006年9月1目 。 (100>池 田 大 作/ベ 、2日)。 『見 つ め あ う西 と東 』 、120頁 。 (103)池 田 大 作/R・D・ ホ フ ラ イ トネ ル 『見 つ め あ う西 と東 』 、171頁 。 (lo4)池 田 大 作/ジ ョ セ ブ ・ロ ー トブ ラ ッ ト 『地 球 平 和 へ の 探 求 』 、245頁 。 (102)池 田 大 作/R・D・ ホ フ ラ イ トネ ル 一!36一 創価教育 第5号 て 築 く人 で あ る 」(105)と定 義 して い る。 そ して 、 「私 は 、 教 育 の 基 底 に、 『人 間 生命 の尊 厳 』 をお くべ き で あ る と考 え て お りま す 」(106)と述 べ 、教 育 の根 本 とな るべ き哲 学 に つ い て 明快 に示 して い る。 この よ うな池 田 の ビ ジ ョンに 照 らす 時、21世 紀 初 頭 の 国 際社 会 は平 和 の方 向 に 向か お う と して い る の で あ ろ うか、 そ れ と も反 対 の方 向 に 向か お うと して い る の で あ ろ うか。 この 間 い に対 す る 明確 な 回答 を示 す こ と は容 易 で は な い。 む しろ、 現 実 は そ の いず れ で も な く、平 和 へ の勢 力 とそ れ を妨 げ よ う とす る勢 力 が せ め ぎ合 い を続 けて い る状 態 に あ る とい っ た方 が よ いか も しれ な い。 そ して 、 これ ま で も両 者 のせ め ぎ合 い の なか で 紆 余 曲折 の道 の りを た どっ て きた のが 人類 の歩 み で もあ っ た。 そ の意 味 で 、 平 和 は 常 に 変転 して や ま な い 実 体 で あ る。 そ して 、生 命 と人 間 の尊 厳 を基調 とす る 平 和 を理 想 と し探 究 し よ うとす る な らば 、 そ の よ うな 平和 は 、 それ を勝 ち取 ろ う と す る不 断 の 闘 争 とい う現 実 のな か に しか存 在 しない ともい え る。 す な わ ち 、 平和 は ゴール で あ る と と もに 、それ を妨 げ よ う とす る勢 力 との 闘争 とい うプ ロセ ス で もあ る。しか し、い ず れ にせ よ、 そ こ に示 され る 平和 の理 念 と哲 学 が どの よ うな も ので あ るか に よっ て 、 人類 の未 来 が 大 き く左 右 され る こ とだ け は 間違 い な い。 「ラ ッセ ル が か つ て言 っ た よ うに、 すべ て の常 識 は一 人 の 人 が そ れ を初 め て 唱 えた 時 に は 常識 外 れ の意 見 で あ った。 古 代u一 マ 以来 の常 識 を新 しい 常 識 で 置 き換 え る時 が到 来 して い る」(107)。 これ は、 平 和 を め ぐる池 田 の理 念 が ひ とつ の"新 しい 常 識"で あ る と した うえ で 、そ れ が 古代 ロ ー マ 以 来 の"古 い 常識"に 置 き換 わ る こ とへ の期 待 を込 めて 述 べ られ た識 者 の言 葉 で あ る。 核 兵 器 や テ ロ、貧 困、環 境 問 題 等 、人 類 へ の脅 威 が 高 ま る今 日、この 言葉 が示 す よ うに、"新 しい 常 識" が時 代 の潮 流 とな る こ とが 一層 求 め られ て い る。 こ の よ うな時 にお い て 、 池 田の示 す 平 和観 が 国 際社 会 の常 識 を転 換 す るた め の新 た なパ ラダ イ ム とな り うるか ど うか に つ い て は 、歴 史 の 検証 に 委 ね る必 要 が あ ろ う。しか し、さま ざま な著 作 や 対 談 、講 演 、提 言 に示 され た 理 念 と ビジ ョンが 、 それ に啓 発 され た 民 衆 に よる人 間革 命 とグ ローバ ル な平 和 運 動 を通 じて 漸 進 的 に で は あ るが 具 現 化 され つ つ あ る こ と も事 実 で あ る。 そ の意 味 に お い て 、人 間、 非 暴 力 、 民 衆 とい う明確 な 基 軸 に 立脚 した池 田 の平 和 観 は 、 平和 な ら ざる状 況 に 対 して はそ れ を正 し、 ま た 、 人道 主義 的な 平 和 へ の動 き に対 して は、 そ れ に 正 統性 を付 与 し促 進 す る指 標 と して の役 割 を果 た し うる 可能 性 を秘 め て い る も の と考 え る。 (105)池 田 大 作/R・D・ ホ フ ラ イ トネ ル 『見 つ め あ う西 と東 』、123頁 。 (106)池 田 大 作/R・D・ ホ フ ラ イ トネ ル 『見 つ め あ う西 と東 』、!85頁 。 (107)河 合 秀 和 「ジ ョセ ブ ・ロ ー トブ ラ ッ ト/池 田 大 作 『地 球 平 和 へ の 探 求 』 を め ぐ っ て 」。 一137一