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5 ライフスキル教育を取り入れる

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5 ライフスキル教育を取り入れる
5 ライフスキル教育を取り入れる
(1)ライフスキルとは?
ライフスキルとは、
「日常生活で生じる様々な問題や要求に対して、建設的かつ効果的に対処する
ために必要な心理社会的能力」を指し、日本語では、「よりよく生きるために必要な技術的能力」と訳さ
れています。ライフスキルを獲得するためには、以下の 5 つのスキルが大きく関係しています。
セルフエスティーム
健全な自尊心を指します。自分らしく、より良く生きていくための基盤といえます。問題にぶつかった時に、
周囲に影響されることなく、現実的に自分自身を見つめ、自分で判断し行動できる基盤となる「力」です。
目標設定スキル
問題にぶつかったときに、客観的に現実を認識し、その中で自分が何ができるかを考え、現実的な
目標を設定できる「力」です。
意思決定スキル
目標を解決するための選択肢をあげ、それぞれの選択肢がもたらす結果を予測し,最善と思われる方法
を決定する「力」です。(例えば、「たばこ」や「薬物」についても様々な体や心に与える影響を理解し、仲間か
らの誘いに乗ることがどのような結果を招くかを予測し、「吸う」か「吸わない」か、「やる」か「やらない」かを
自分自身で判断することです。)
(自己主張的)コミュニケーションスキル
人間関係を損なうことなく上手に自己主張できる「力」です。(例えば、
「たばこ」や「薬物」を友人から
誘われたときに、このスキルが獲得できていると、上手に断ることができます。
)
ストレスマネージメントスキル
有害なストレスを引き起こさないよう、上手に対処できる「力」です。
各ライフスキルの関係
自分らしく、よりよい生き方(自己実現)
薬物乱用などの社会的な問題・健康問題の解決
計画
セ
実行
目標設定スキル
コミュニケーションスキル
意思決定スキル
ストレスマネージメントスキル
ル
フ
エ
ス
53
テ
ィ
ー
ム
(2)なぜ、今ライフスキル教育が必要なのか?
今までの健康教育では、
「知識があれば健康づくりができる。
」という考え方に基づき、子ども達
に正しい知識を伝えることに一生懸命取り組んできました。しかし、知識だけで自分の生活習慣を
変えたり、意志を継続させることは大変難しいことです。まして、薬物問題のように友人達との連
帯や自分自身の好奇心を揺さぶられるような問題では、知識武装だけで、その魔の手を振り払うこ
とは困難になります。
ライフスキル教育は、少人数グループによるブレインストーミングやロールプレイング等の方法
を活用し、体験や観察を通して進める参加型の学習方式で、知識の獲得の段階から一歩踏み出した
学習形態といえます。
少子化や近隣関係が弱体化している今日では、昔のように遊びの中で人との関わりを体験し、交
流の仕方を自然に身につけることが困難な状況にあります。それでいながら、情報は、子ども達の
まわりに洪水のようにあふれ飛び交って、一足早く大人の世界に紛れ込むことが簡単な時代になっ
ています。このようなアンバランスのつけが、人と人との関わりの中での交渉や調整、すなわちコ
ミュニケーションを取ることの不得手さを生んでいるように思われます。心が通い合う体験や痛み
を分かち合う経験をする機会が少なくなった現在、その機会を意識的に計画的に提供していくこと
が求められているのではないでしょうか。
ライフスキル教育は、自分らしさやよりよい生き方を模索し、自分自身と向き合うことを学ぶ教
育であり、薬物乱用問題だけではなく、いじめや不登校、若年妊娠などの問題にも活かされる教育
であるといえます。
今回は、
「薬物乱用防止教育」をとおして、ライフスキル教育の展開例を提示します。
暴力
いじめ
抑うつ
非行
学業不振
不登校
喫煙・飲酒・薬物乱用
早期の性交と若年妊娠
ライフスキル教育による問題行動の防止
(JKYB研究会.ライフスキルを育む食生活教育.東山書房,1998)
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ライフスキル教育を取り入れた薬物乱用防止教育の展開例(薬物の知識を学んだ後に・・・)
小学5・6年生の展開例
テーマ:「薬物」から自分を守る
この授業のねらい
ブレインストーミングを通して薬物の誘いを断れなかった理由を考え、自分なりに断る方法を学習する。
導
入
内容
1 薬物乱用を誘ってくるのは、友
人・知人が多いことを復習する。
(参考P40−スライド⑪)
2 5・6人のグループに分かれる。
留意点
・グループ分けは事前に決ま
っているグループでもよい。
テーマ2(20分)
断りにくい友人・
知人からの誘い
内容
1 A君のケースを読み、A君が薬物
の誘いを断れなかった理由を考え、
ワークシートの1に書き出す。
2 グループ内で意見交換をし、ワー
クシートの2にまとめる。
(ブレインストーミングの手法で、
自由に意見を出しあい、類似意見は
まとめる。)
3 グループの代表者が発表する。
留意点
内容
1 自分だったら、どのように断るか
考え、ワークシートの3に記入す
る。(断るセリフや態度など)
2 自分の考えた方法は、ワークシー
トの4のどの行動に近いか考え、マ
ークをつける。
留意点
内容
1 薬物乱用を誘ってくるのは、身近
な友人・知人が多い。
2 その時自分にできる方法で断る
ことにより、「薬物」から自分を守
る。
留意点
展
テーマ1(5分)
身近な薬物乱用
の誘い
開
テーマ3(15分)
それでも、薬物乱
用の誘いは断ろう
まとめ
テーマ4(5分)
今日のまとめ
・ケース内容を書いた紙とワー
クシートを配る。
(次ページをコ
ピーしてもよい)
・ブレインストーミングの原則
について説明する。
・発表内容を板書等でまとめ、
友人・知人からの誘いは断りに
くいことを確認する。
・自分に合った方法を考えるこ
とができるようにする。
・席をまわり、ワークシート3
と4の整合性を助言する。3に
ついては否定せず、自分なりの
断り方を評価する。
・自己主張的コミュニケーショ
ンスキル(参考 P53)を身に付け
させたいが、ここでは、とにか
く自分のできる方法を考えるこ
とが大事である。
ブレインストーミングとは、
「Brain Storming(頭脳に嵐が吹く)」の名のごとく、頭の働きを活発にして、
ある問題に対して、アイデアや思いつきを自由奔放に出しあう、集団思考法の一種である。他人の意見やア
イデアから連想が起こり、一人の頭の中で考えるよりも豊かな発想で思考することができる。
◆ブレインストーミングの4原則◆
① 自由な発想で自由に思考し、短く発言する。
② 出されたアイデアについて、その場で互いに良い悪いを言わない。
(批判しない、議論しない。)
③ できる限り多くのアイデアを出す。
④ 出されたアイデアの結合・変形・改善でもよい。
(JKYB研究会、1995)
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ケース内容
小学生のA君は、日ごろから学校の成績や生活態度のことを親からうるさく言われていました。そ
のことで親とけんかをしてしまい、むしゃくしゃして家をとびだし、公園に行きました。
公園には近所の中学生B君が、グループを作って楽しそうに話し込んでいました。B君は、小さい
ころからの知り合いでいつも親切にしてくれていました。
この時も「どうしたの。
」と優しく聞いてくれたので、親とけんかをしたことを話しました。
すると、B君は、「この薬を使うと、いやなことを忘れて、頭がスッキリとするよ。おれ達みんな
使っているんだ。仲間にしてやるから使えよ。
」と、ポケットから薬のようなものを取り出しました。
断りきれないA君は、薬をもらって使ってしまいました。
【ワークシート】
1 A君が薬物乱用の誘いを断れなかった理由を考え、書き出しましょう。
2
1で考えたことをグループの中で意見交換をしましょう。同じような意見はまとめてみましょう。
3
自分だったら、どのように断りますか。断るセリフやその時の態度を具体的に書いてみましょう。
4
自分の考えた方法は、下のどの行動に近いか考え、(
)に○をつけましょう。
言葉では言
えないが、身
ぶりで断る。
言葉では言
えないが、逃
げる。
はっきりと
言葉で断る。
理由をつけ
て、はっきり
と断る。
理由をつけ
て、はっきり
と断り、相手
にもやめる
ように言え
る。
(
(
(
(
(
)
)
)
56
)
)
ライフスキル教育を取り入れた薬物乱用防止教育の展開例(薬物の知識を学んだ後に・・・)
小学5・6年生の展開例
テーマ:「NO」といえる勇気
この授業のねらい
ロールプレイングを通して、薬物乱用の誘いに対するコミュニケーションスキル学習を進めることで、自分
なりの断り方ができる。
導
入
テーマ1(5分)
身近な薬物乱用
の誘い
内容
1 薬物乱用を誘ってくるのは、友
人・知人が多いことを復習する。
(参考P40−スライド⑪)
2 5・6人のグループに分かれる。
留意点
・グループ分けは事前に決ま
っているグループでもよい。
テーマ2(10分)
薬物乱用の誘い
を断ろう
内容
1 ロールプレイングの方法を学習
する。
2 シナリオを読み、自分なりの断り
方をワークシートの1に書き出す。
留意点
・シナリオを書いた紙とワーク
シートを配る。
(次ページをコピ
ーしてもよい)
・ロールプレイングの方法を説
明する。
展
内容
1 グループの中で誘う役、断る役を
ローテーションしながら演じる。
2 誘う役は、シナリオ通りに演じ、
誘う工夫はしない。
3 演技者以外は、演技者がどのよう
に断っているかをよく観察し、ワー
クシート2にメモをとる。
留意点
・「はじめ」と「おわり」の
合図をし、メリハリをつけ
る。
・「演じ・観察することによ
り相互に学びあう」ことの大
切さを強調する。
テーマ4(10分)
断る勇気が大事
内容
1 ロールプレイング終了後、断ると
きのセリフ・態度などをグループ内で
それぞれの良い点を出し合う。
留意点
内容
1 薬物乱用を誘ってくるのは、身近
な友人・知人が多い。
2 勇気を持って自分なりに断るこ
とができる。
留意点
開
テーマ3(15分)
実際に演じてみ
よう
まとめ
テーマ4(5分)
今日のまとめ
・批判ではなく、良い点を出す
ことに終始する。
・自己主張的コミュニケーショ
ンスキル(参考 P53)を身に付け
させたいが、ここでは、とにか
く自分なりに断る方法を身に付
けさせる。
ロールプレイングとは、役割を与えて演じさせ、それを通じて問題点や解決方法を考えさせる訓練方法であ
る。人間関係に関わるスキル能力を高めるのに特に有用である。
◆ロールプレイングの留意点◆
① 始めと終わりを明確に示す。
② 演技者以外の児童には、観察者として注意深く観察する役割があることをしっかり伝える。
57
シナリオ
友達の家で仲の良い4人が集まって、ゲームをしたり、ビデオを見たりして遊んでいます。「なん
か最近おもしろくないなあ。親は、勉強しろってうるさいし。」などと話をしているうちにAがバッ
【ワークシート】
グから薬のようなものを出しました。
1 A君が薬物乱用の誘いを断れなかった理由を考え、書き出しましょう。
A「このあいだ、兄貴の先輩からこれをもらったんだ。頭がスカッとする、まだ売っていない、エス
っていうクスリなんだって。一緒にやってみない?」
2 1で考えたことをグループの中で意見交換をしましょう。同じような意見はまとめてみましょう。
B「
①
」
」
3A「変な薬じゃないって言っていたよ。1回くらいなら平気だよ。やってみようよ。
自分だったら、どのように断りますか。断るセリフやその時の態度を具体的に書いてみましょう。
B「
②
」
4
自分の考えた方法は、下のどの行動に近いか考え、(
)に○をつけましょう。
【ワークシート】
1 Bの立場に立ってセリフを入れてください。
①
②
2
友達の断るセリフや態度を観察し、良い点についてメモを取りましょう。
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南多摩圏域における地域での取り組み事例紹介
A 小学校・中学校の取
り組みです
小中連携の健康教育
小中学校が連携して健康教育を実施している学校では、発達段階に応じて一貫した健康
教 育 を推 進 しています。特 に、「薬 物 乱 用 防 止 教 育 」について主 眼 をおいて取 り組 んでいま
す。
健康教育の推進にあたっては、実態の把握や健康課題・目標を設定し、9年間を見通した
全体計画・年間計画を作成し指導計画を立て、意図的・計画的に実施しています。計画立案
の際には、学校保健委員会でも提示し地域の方々にも参画していただき、職員会議で教職
員の共通理解を得たのちに実践しています。
薬物乱用防止教育の指導目標は、友人、知人から誘われても薬物を絶対に使わないとい
う意思を持ち、薬物乱用を避ける行動がとれるようにすることです。
薬物乱用防止の授業は、学校薬剤師、担任、養護教諭が連携を密にして指導の充実を図
っています。保護者は、学校保健委員会参加や保健ボランティアで教材・教具作りなどを通し
て参加していただいています。児童委員会活動では、事前に子どもたちにとったアンケート結
果をもとに自分達が調べたことを発表し、保護者の方にも参観していただいています。
これらの活動は、保護者の方にも健康教育に関する理解が得られ、家庭における役割も
考えていただく機会になっています。
B 学校薬剤師の取り組
みです。
最新の情報とプレゼンテーションの工夫
学校薬剤師による授業では、教育用ビデオ・模型(手作りの巨大カプセル!な
ど)パンフレット・OHP・パワーポイント等を子どもに合わせて使用しています。
学校薬剤師自ら授業等で活用するために東京都学校薬剤師会が作成した教
育用パワーポイントファイルで、クスリの正しい使い方、アルコールの害・タバコの
有害性・薬物乱用についてお話しています。
薬物乱用という概念を認識してもらうために、まず薬についての知識を育てる
『薬育』に取り組んでいます。クスリの量と目的は、ダイナマイトなどを例に取り上
げています。薬 剤 師 ならではの知 識 や工 夫 があります。薬 物 乱 用 とクスリの違
い、薬物による健康被害をわかりやすい絵や写真を活用して伝えています。
新しい乱用薬物が次々に出現しており、子どもたちの目や耳にどのように伝わ
っていくかを常に考えて、最新の情報を取り入れ、プレゼンテーションの方法を工
夫しています。
C 地 域住 民 の取り組
みです。
「一人で悩まないで」親から子どもへのメッセージ
小中学校の保護者が中心となり、子どもたちや地域の大人を対象に、講演会を
開催しています。対象が小学校高学年から中学生など幅が広いため、飽きることが
ないように10分ごとにお話・ロールプレーイング・ビデオなどを組み合わせます。
薬物乱用防止について子どもたちに伝えていても、「1回くらいなら大丈夫かも?」
の言葉があり、繰り返し伝えていくことが必要であると感じました。
活動の中で実施したアンケートで薬物や生活実態を把握し、薬物をすすめられた
事がある子ども、悩みを話せる人がいない子どもの姿が浮かび上がりました。
地域の中で、孤独な子どもをつくらないために伝えたい言葉は「あなたを見守って
いる人がいます。決して一人で悩まないで!!」です。
D 大 学 生 の取 り
組みです。
学生の立場から社会へメッセージ
複数の大学から学生が集まり、社会問題に取り組んでいます。
薬物問題については、講演会の開催やドラッグの展示を行いまし
た。学生を対象とした薬物のアンケートでは、友人が薬物を使用
している可能性があるにもかかわらず、自分には関係ないという、
無関心な学生が多いことに驚きました。
展 示 会 場 での意 見 交 換 など様 々な活 動 の中 で考 えました。
「人と人とのふれあい。心と心のふれあいが大切である。」と。
今後の社会 を担う自 分 たち若い世 代がまず取 り組み、社 会に
向けてメッセージを発信していきます。
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