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講演資料(3) 採卵養鶏の現状と課題(PDF:1588KB)

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講演資料(3) 採卵養鶏の現状と課題(PDF:1588KB)
養鶏における生産システムと疾病の予防対策 校正 060329
1.養鶏における感染症対策について
[1] 養鶏の発展と感染症の変遷[加藤]
産業としての養鶏が発展したのは、昭和36年の外来鶏種導入に端を発する。それまでにも、ニワ
トリは日本の文化と食に密接に関連して来た。
スサノオの暴挙に対して、天照大神の閉じこもった天の岩戸を開かせるのに、天のうずめの尊に裸
踊りと合わせて、ニワトリに時の声を上げさせ、騒ぎを不審に思った大神が岩戸をわずかにあけて外
をうかがった所を手力男(たじからお)が力任せに扉を開いた、という神話にもニワトリが役割を果
たしている。
仏教上の食の制約においても、ニワトリは例外とされ、魚とともに古い時代の栄養補給にかかせな
い食材と理解されてきた。
古墳時代から経済の機構が確定する前の明治までの養鶏はさておき、第1次世界大戦時のインフレ
を経て、やがて訪れた農村恐慌の折に、小資本でも現金収入の期待できる養鶏を地域の経済更正の一
環として、飼料の共同購入や鶏卵・廃鶏の共同販売などの推進によって、流通、消費の合理化を薦め
た。
詳細に追えば、当時の経済更正計画実施町村[1243]の内40%にもおよぶ町村が更正に養鶏
を取りこんで、実績を上げた(その後、昭和8年には80%)
。
打撃の極めて大きかった関東・東北・東海地方[養蚕を主産業としていた]では、設備を養鶏用に
転用し、桑畑で飼料作物を栽培して養鶏経営の改善を図り、現金収入に向けて努力した。
採卵養鶏は大家畜に比較して資本の回転率が高く、また収益率も高かったため、多くの中小農家に
取り入れられた。
ちなみに、明治から大正にかけての採卵養鶏はもっぱら、銘柄鶏を前提とした、いわば個体別能力
の向上を主体とした技術偏重で、種々の外国種鶏を輸入し、鶏種改善を試みる、といった、模索期間
にあたる。
先に述べた大正8年は、官民挙げての養鶏推奨の変喚期といえる。この年の4月に農商務省は畜産
奨励の省令を定め、優良種鶏の普及に務めた。
こうした啓蒙に呼応して、大阪では中央家禽協会や養鶏土地株式会社が設立され、150ヘクター
ルの土地に49万羽の種鶏を飼養するに至った。
この時代に特筆すべき事象は、輸入卵と関税撤廃である。
大正8年時点の輸入卵は1から4月までで、5万760キロで、前年の同時期に比較して、38%
も増加していた。こういった条件下で、政府は物価高騰対策の一環として同年11月に鶏卵の関税撤
廃を決議し、法令発布を決めた。
当時の国産鶏卵は卸しで9銭/個であり、上海からの輸入卵では、6銭/個ほどで、30%も安く
供給された。
こうした烈しい国際競争の環境下でなお、全国各所に鶏卵会社や大規模な孵化事業が続出した。
この時代に盛んに養鶏推奨を行った地域として、岡山[家禽市場]
、北海道、東北[連合共進会]
、
中国[6県連合共進会]
、愛知県[3ヶ月に渡る、産卵能力検定会]
なお、大正13年には、輸入鶏卵の国内養鶏振興に対する障害が大きいとして、関税が復活してい
る[5月27日・10銭/1キロ]
。
この時代の仲買はいわゆるボテフリ(棒手振)とよばれ、天秤棒1本で生産農家を訪れ、3.5~
4銭/個で仕入れたタマゴを市場に9~12銭で流すといった形態が取られ、国産卵が輸入卵に押さ
れるのは、こうした流通システムに拠るところが大きいとされた。このため、同年5月に“乳肉卵共
同処理奨励規則”および“地区産物販売斡旋受託販売奨励規則”を制定して組合等の共同組織による
鶏卵の処理販売の改善促進を図った。
1
採卵養鶏飼養羽数の動向
戸数
大正10年
13
昭和元年
13
5
10
15
19
25
5
30
35
40
45
50
56
60
平成2年
7
15
総羽数(雌羽数)
3,127,000
3,500,000
3,475,000
3,500,000
3,364,225
3,009,195
2,552,413
2,823,584
3,756,300
3,364,225
4,509,500
3,838,600
3,227,100
1,696,000
507,000
187,000
123,000
87,000
7,290
5,600
12,040,000
16,120,000
16,922,000
37,090,000
46,716,440
51,698,450
45,235,377
32,473,437
16,633,000
46,716,440
45,715,000
54,627,000
120,197,000
169,789,000
118,201,000
121,822,000
127,596,000
136,961,000
146,746,000
165,500,000
生産量(トン)
77,684
101,127
108,514
101,127
167,236
227,347
222,752
33,986
135,818
167,236
424,795
602,255
1,173,375
1,888,425
1,734,000
2,000,000
2,152,000
2,419,000
2,551,000
2,650,000
注:農林省、統計情報部(家畜飼養の動向、鶏卵流通統計)から抜粋
採卵養鶏戸数の動向と飼養羽数(雌ベース)の変遷及び鶏卵の年間生産トン数の推移を示
した。この表でも、昭和 50 年以降の規模拡大状況が分かる。
この時期に技術的に特筆すべきは、大正12年の肛門雌雄鑑別法の確率である[獣医学博士・増井
清、農学博士・橋本重郎および大野勇の3氏]
。
また、同14年に関西地方で水玉、草玉が多く、品質の点で輸入卵の劣る、との情報が報告されて
いる。これは、今日の状況に対比して、IBや緑膿菌の猖獗を思わせて、
『品質には常に品質に注目す
べき』との留意点が時の差を超えて注目されていることが興味深い。
こうした努力と行政の奨励もあって、
昭和4年の輸入卵は同元年に比較して、
数%にまで減少した。
この時代の鶏卵相場を経時的に見て見よう。
2
さしもの養鶏不況[低卵価]も、昭和9年後半には徐々に回復したが、多くの生産者は規模拡大よ
り、堅実な経営を目指した。
この時期に欧米から輸入されたのは、種々の鶏種のみでなく、鶏ジフテリア、ループ(粘膜型鶏痘)
、
コクシディウム症、ヒナ白痢等が挙げられる。
。混乱した情況に対応するために、当時の獣疫調査所で
は、中村哲哉博士を鶏病専門にあて、横浜税関には能美季一博士は衛生担当主任として防疫に当るこ
とになった。
昭和7年のトウモロコシ輸入総量は19.4万トンで、17万トンはジャワからのものに依存し、
アルゼンチンや満州[中国東北部]からはそれぞれ1.2万トンに過ぎなかった。この大部分を依存
していたジャワが、にわかに日本への輸出を禁じた。これは、日本の満州国建設支援に対する欧米の
経済封鎖の一環として行われたものである。
日本の採れる対策は、満州への大量の農業移民であり、関税の特別処置もあって、満州国からの飼
料輸入への依存度合は高まった。
資料をたどって、タマゴの値段を追って見る(別表2)
。
明治12年のそれは、10銭。同32年には15銭となっている。時代をさらに辿って、大正2年
には20銭、同14年に43銭となっているが、それからしばらくは、値段は低下し、昭和5年に、
251銭、昭和7年には17銭にまで低下している。
その後漸次上昇して、昭和15年に44銭とほぼ大正末期の価格にまで回復している。第2次大戦
後は、一般的な物価の上昇に応じて、卵価も上昇して、昭和20年[終戦時]の1円50銭に対して、
23年には93円に高騰している。
その後の卵価は121円~86円を上下して、
昭和31年に入る。
[これまでの卵価は100匁(180グラム当りで、それ以降は、1キロ当りとなる。
]
昭和32年には241円であった卵価は、上下しながらも44・45年に190円まで下降し、そ
の後昭和50年代は360~315円で推移した。この時期は日本列島改造論に湧くバブル景気と、
その後の、いわゆる第1次オイルショックに当る。
昭和51年に円が固定相場を離れ、
飼料コストがドルにリンクして上下する、
という環境になって、
卵価もこれに大きく作用されるようになってきた。
ちなみに、昭和63~平成2年までの国際相場における円の高等に際しての飼料価格は、時に輸出
国であるアメリカを下回ることさえあった。
3
明治27年
32
35
38
40
44
大正元年
5
6
7
8
10
11
12
13
14
昭和元年
4
5
6
7
8
9
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
35
36
39
40
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
54
55
別表 2 タマゴとその他の物価推移
単位=円
週間朝日編
値段の風俗史 から抜粋
タマゴ/キロ
アンパン 白米(10キロ) 公務員給与
50
0.83
1.19
0.01
1.56
50
55
2.22
1.78
1.20
0.02
70
2.11
3.86
そば
豆腐
0.03
0.03
0.04
0.02
0.04
0.10
3.86
0.05
0.03
2.56
2.39
2.22
1.72
3.40
75
2.30
0.05
1.11
0.94
1.11
0.10
3.28
8.33
84.44
217.22
6.00
19.50
99.70
540
2,300
4,862
672.22
482.78
1.00
8.00
15.00
445.00
10.00
0.05
0.10
12.00
10.00
12.00
5,500
680.00
20.00
8,700
15.00
845.00
527.78
12.00
35.00
10,680
223.30
870.00
14,200
19,100
216.70
40.00
15.00
20.00
25.00
1025.00
25,200
20.00
190.00
25.00
30.00
40.00
1520.00
60.00
36,100
1600.00
80.00
100.00
47,200
60.00
367.00
150.00
2490.00
80,500
3235.00
101,600
70.00
80.00
314.00
30.00
35.00
40.00
50.00
60.00
70.00
80.00
260.00
4
大正末期から昭和のはじめには、萌芽しはじめた、産業としての養鶏にとって恐ろしかったのは、
ニューカッスル病と鶏ペストと称された現在でいう強毒タイプの高病原性鶏インフルエンザであった。
この時代、見ている前で【でニワトリがコロリと死ぬ】ということから、
【鶏コロリ】と呼び恐れたと
古老達から聞く。古くから、養鶏経営は鶏病のコントロールを必須の条件としていたようである。
1) 我が国におけるニワトリと養鶏の歴史
タマゴの値段変遷
戦前:別表2で明らかなように、卵価は明治以降物価にスライドして上昇するものの、さほ
ど急激には上昇していない。終戦と同時に急激なインフレにあいまっての上昇が注目される。
昭和34年以前:終戦後の影響でタマゴの市場価格は高騰している。
それ以降:我が国の経済進展に伴って上昇するが、生産の大規模化に準じて上昇率は下がる
傾向があった。
2) 近代産業としての養鶏
① 専業化への道
昭和20年代後半では、専業採卵養鶏場は多くなく、農家では各戸で20~30羽を飼育して、自
家用と余剰分の販売をしていた。専業といっても、250~300羽程度で、種鶏もふ化場に小羽数
を委託飼育されて、採卵鶏と種鶏を同一敷地内で飼育ケースもしばしば見られた。
産業化の傾向が顕著になり始めたのは、いわゆる外来鶏が輸入されて以来で(最初の商業ベースに
おける外来鶏輸入は昭和34年のハイラン種)
、
当時専業養鶏では1000~1500羽飼育するもの
が平均的であった。
飼育羽数が制限されていたのは、もっぱら、飼育に関る作業が手作業に依存していたためで、当時
は給餌は、手押しの荷車片手で操作のできるスコップで行われ、鶏糞の排出もやはりスコップで行わ
れた。
タマゴは手で集められていた。飼育されるケージも当時バタリーと呼ばれる、
、
、木造もしくは竹製
のものもしばしばみられた(こうした飼育形態は、タイ国では平成4年頃までみられた)
。1日の作業
性を前提とすると、
2500羽の成鶏飼育で、
平均的に経営者を含む3~4人の労働力を要求された。
② 装置産業化の変遷
第1次の機械化は、エンジンもしくはバッテリーで走る自走式の配餌車である。それまでの手給餌
では、一人当りの配餌管理が1500~2500羽程度であったものが、自走式配餌車によれば、3
万羽を楽に越えることができた。当時、カリフォルニアでは、さらに高速で走るバッテリー式配餌車
があり、1日一人で9万羽の管理を可能としていた。
当時の採卵も手で行い、2~3万羽の集卵を1人でこなすのが平均的なシステムとされていた。
業界が急速に装置化されたのには、バブル景気で日本人の気質が大きく変化したことに密接に関連
している。当時、3Kと称される、汚い、きつい、臭い職場を嫌う人が多く、その代表である養鶏業
界の募集に応じる人員は極めて限られていた。
こういった事情は、先進各国で共通で、そうした条件を加味して、産業が成立しうるように、総て
の設備がコンピュータを含む機械化、装置化されるに至ってきた。
機械化のコストを吸収するために、単位面積当りの飼育密度は高くなり、かつ立体飼育密度も高く
なった。
坪(3.3㎡)当たりの飼養羽数の変遷
年代
昭和40年代
昭和50年
昭和60年~平成5年
平成10年
羽
16
32
48~98
98~110
5
3) 感染症による生産障害
生産障害の種類:疾病による生産障害は、卵巣、輸卵管の障害による直接のものと、栄養障害等
による間接的なものがある。障害の種類にも、産卵が停止する直接的なのもと、産卵されても、卵空
質が不良であったり、形が不正で商品価値がないか、あっても極端に低いものを産出するという間接
的なものがある。
4) 感染症の変遷
個体の疾病:個体としての疾病の起承転結は、感染病であれば、潜伏期、発揚期、頂上期、回復期
というそれぞれのフェーズをたどることになる。
例として、伝染性気管支炎(IB)を例として解説すると、それぞれのフェーズは以下の用になる。
① 潜伏期:ウィルス感染後2~3日で、明確な症状はないが、軽度の発熱等をみることも
ある。この間にウィルスが体内で増殖し、血流により、全身に分布する。
② 発揚期:潜伏期に続く2日程の間で、症状が明確に鳴る時期で、呼吸器粘膜の粘液増量
(カタール)により、開口呼吸等の呼吸器症状を呈し始める。また、発熱も顕著で、緑色や
白色の下痢など、全身性の症状が観察される。
③ 頂上期:極度の発症を続ける2~3日間で、発熱により、卵巣が冒され、また、輸卵管
の粘膜への細胞浸潤や粘膜面の剥離等による産卵障害が明確になる。
④ 回復期:発病を経て、免疫を獲得する時期に当り、症状は軽減し、食欲も戻るため、活
力が見られる。しかし、産卵の回復は一様ではない。予後不良なおのケースでは、無産鶏と
なる。今日では、これらの症状は、IBに対するワクチネーションにより、様々に修飾され
ているため、表現も様々となる。
経済動物としてのニワトリは、
群で機能を果たすため、
鶏病を群単位で理解する事が重要といえる。
群としての疾病:個体の集合する群を経済単位として見るとき、
個体としての経過がさらに長期化し、
修飾される。
ワクチンの市販される前では、群の経過は概して個体のそれに準じていた。IBの水平伝播は飛沫
感染であり、開口呼吸、喘鳴によって悲惨するウィルスが周辺へ急速に伝播するため、最初の個体が
発症すると、1週以内に全体に波及していた。しかし、IBワクチンの接種が普遍的となっている今
日、
初期の発症個体の判別と、
ワクチンのリアクションが性格に区分できないこともしばしばである。
本来ワクチネーションによってコントロールされるべきIBが、群全体へ影響を及ぼすのは、抗体
の存在により、IBウィルスが比較的容易に変異株を生じるためである。
こうした、不全発症[今日のIBでは殆どが不全発症といえる]が、群に影響を与える過程を追う
と、最初の発症個体から順次群全体へ伝播するに、時に3週以上を要する。
不全発症のIBで最も厄介な表現型は、明確な呼吸器症状を呈せず、産卵の初期から産卵障害をも
たらすものである。経済被害の大きく、原因の予測がつけにくい症例が多いのが今日のIB特性とい
える。
こうした群として発症パターンが明確でないIBを診断するには、個体識別を前提とした症状や抗
体の追跡、感染実験による再現あるいは組織病理学的な検査の組み合わせが必要となる。
個体で詳細に検査すると、
少なくとも顕微鏡下の変化においては、
定型的なIBの特性が確認でき、
詳細な抗体推移のデータと組み合わせると、診断を下すことができる。
このような鶏病の推移は、治療する折の経済単位として、小規模経営で未成熟な時代には、個体へ
の治療が主体で、群が大きくなり経済単位が膨らんだ一時期には、群治療へと目が向けられるように
なった。さらに、食の安全性が問われるようになると、ニワトリ1羽の健康を問う姿勢が重要と考え
られるようになって来ている。
ある意味の回帰性が感じられ、それが、過去へそのまま回帰するのではなく、いわば螺旋構造で回
帰することは、ファッション業界の回帰性とも類似性を持ち、興味深い。
[2]養鶏の生産性と感染症
A.採卵鶏
6
1)採卵鶏の生産システム[合田]
2)経営形態[加藤]
:
採卵養鶏の経営形態は、それぞれの経済的基盤すなわち資金余裕に応じて、以下に述べるように区
分される。
① 自家育成:0日齢の初生ヒナを導入し、自家用に大ヒナを育成して、タマゴを生産する、一
環生産である。このシステムは、生物を前提とする生産システムでは最も理想的といえる。
しかし、0日齢から145日齢にいたる足懸け5ヶ月間に渡って資金を寝かせる余裕が求め
られる。
② 中大雛導入:大ヒナ導入に際しては、導入する大ヒナのコストは当然自家育成に比較して高
くなるが、育雛、育成の設備投資をせずにタマゴの生産に移れるメリットは大きい。そのた
め、産業の急生長していた時期には、高い卵価も期待し易く、このシステムの採用が多かっ
た。現在では、新規に開業するケースは少なく、今日では、新規の創業で、大ヒナ購入を前
提として始めるというケースはさほど多くない。しかし、全国でみて、大ヒナの生産が2千
万羽を越えることから、全体の20%程度の採卵業者は、大ヒナの導入に依存していると推
計される。
中ヒナ導入は、育成初期にかかる、大きな資本投入を避けて、しかもコストを下げ、成鶏
農場の鶏病への訓化を期待するケースで採用される。
ちなみに、育雛期間[0~45日齢]の粗利益は50~80円/羽、育成期間[45~12
0日齢]の粗利益は100円/羽と概算される。
③ 育成業者:先に述べた、育雛や育成期間を他に預けて、採卵業に専念したいケースを補う業
種である。
この業種は、自家用育成の場合では、育った総ての羽数を採卵用に計上できるのに対して、
3~4%の不良ヒナを選別淘汰する責任を負う[それを行わない場合には往々にしてクレー
ムを招く]
。また、販売して成鶏に編入された後に発生する疾病により、クレームを起こさ
れるケースも少なくない。そのため、大ヒナの価格にはこのリスクをヘッジするコストが含
まれなければならない。すなわち、順調に育成できる条件下で、しかも十分な資金が期待で
きる場合には、自家育成による経営が最もコストを下げることができる。
④ 廃鶏の利用:廃鶏、専門業者によって、もっぱら肉用食鳥として引き取られる。これらの廃
鶏肉は、ミンチ肉等として加工用に流通される。また、羽毛や、食肉に適さない内臓等は、
レンダリングと称される加工過程を経て、飼料原料に還元される。
また、生産品を流通させることを前提とした経営形態には、次の2種類がある。
① 原料卵出荷
原料卵とは、産んだままのタマゴのことで、洗卵やサイズ分け、不良品の選別等がなされ
ていないものをいう。しかし、現実には、割れたモノや卵殻にヒビが入っているモノ、形の
不良なモノは、集卵の時点で摘出されている[通常は農場段階で4~6%が除かれる]
。良
質な原料卵は、農場全体で日齢配分が良好になされているもので、1農場で最低4ロットで
きれば6ロット以上に日齢が均等に配分されていることが望ましい。このようにロット配分
されている農場の原料卵では、サイズのバランスが理想的となる。
② 製品出荷
産卵された総てのタマゴを洗卵・選別した上で、サイズ別にパックして、市場へ流通させ
る形態まで内に含むものである。当然、洗卵・サイズ分別とパックの工場(GPセンター)
を内包する。製品出荷にも、直接小売り店もしくは消費者へ流通させるものと、中間業者を
介してマーケットへ流通させるケースがある。
直接小売り店もしくは消費者へ届ける形態の多くは、比較的小規模であり[数万羽~10
数万羽]
、大規模になると、大型流通に依存せざるを得ないため、中間業者の手を通じて流
通させる。
7
3)生産性の指標と感染症
(育成率、減耗率、産卵率、日卵量、個卵重、累計産卵率、飼料要求率、更新率)
生産性の指標として以下の項目を日々検証することが、経営の安定化には重要である。
育成率:餌付けヒナが、成鶏編入時点でどの程度残っているかを前提として算出する
育成率=(成鶏編入時の残存羽数/餌付け羽数)×100
減耗率:単位期間中に減耗した数をベースとした区間減耗率と累積の減耗数をベースとした累積
減耗率がある
区間減耗率(多くは週毎に計算)=(単位期間の減耗数/導入羽数)×100
累積減耗率=(その時点までの累積減耗数/導入羽数)×100
産卵率:産卵率には、当日の残存羽数をベースとするヘンディ産卵率と成鶏への初期導入羽数をベ
ースとするヘンハウス産卵率がある.
ヘンディという概念は、その時点の鶏群における産卵状況を確認するに適した指標であり、ヘンハ
ウスは、マネージメントの上での鶏群の貢献度合いを検証するのに適した指標といえる。
ヘンディ(HD)産卵率=(当日産卵個数/その日の残存羽数)×100
ヘンハウス(HH)産卵率=(当日産卵個数/初期導入羽数)×100
産卵卵量:産卵量は、タマゴの取引がキログラムを単位としているために、常用されている.産卵率
と同様に、HDとHHの 2 種類がある.それぞれの役割は産卵率と同様である。
ヘンディ(HD)産卵量=(当日産卵グラム数/その日の残存羽数)
ヘンハウス(HH)産卵量=(当日産卵グラム数/成鶏編入羽数)
累計産卵率:50%産卵の日からの累積産卵個数をベースにした産卵指数
累計産卵率=(同上の累積産卵個数/その日からの累計残存羽数)×100
飼料要求率:1キログラムを生産するのに必要な飼料量をベースとして算出するもので、タマゴの
生産効率を判断する指標となる。
飼料要求率=(当該期間の産卵重量/その期間に給与した飼料重量)
年間更新率:評価する農場において、年間どの程度の羽数を淘汰し、新規に導入するかで算出する。
年間更新率=(年間淘汰羽数/収容総羽数)×100
それぞれの指数の理想値は鶏種や加齢により変動するため、
それぞれのマニュアルを参照されたい。
4) 感染症と生産指標との関連性
8
① 育成率・減耗率:感染症による影響は、死亡による直接減耗と発育不良個体の淘汰によ
る間接減耗がある。減耗はコストを引き上げる重要な要因である。
産卵率・日卵量:感染症としての明らかな外観所見が確認できても、産卵を維持する例があ
る(呼吸器症状を発現しながら産卵するIB等)
。これらは、採卵業界で疾病として扱う必
要はない。一方、外観上なんら症状がなくとも、産卵成績の不良な事例もある(初生時期の
IB感染による卵巣の機能障害等)
。これらは、産卵鶏群では、致命的疾病(後遺症)と言
える。
② 個卵重:採卵群の鶏伝染性脳脊髄炎(AE)では、一過性の産卵低下とともに、個卵重
の低下が顕著である。こうした個卵重の変化は、症状の明確でない鶏病診断の一助となる。
累計産卵率:現在の企業採卵養鶏では、年間のローテーションがほぼ固定されている。この
ため、その群の経済寿命である一定期間(通常成鶏編入後1.5年)で収穫されるタマゴの
個数(あるいは重量)の多寡が経済性を左右する。例えば、成鶏編入直後のIB発症で産卵
が2~3週遅れることがある。このような事態が、必ずしも当該群の産卵ピークを引き下げ
るとは限らない。時に通常以上の産卵率を示すこともある。しかし、2~3週間の産卵遅滞
は、一定の経済寿命期間内で14~21個の産卵個数を減ずる原因となり、この経済被害を
取り返すことは容易ではない。
③ 飼料要求率:鶏病で要求率を引き下げることは多い。多くは産卵率の低下によるが、レ
オウィルス感染による栄養吸収不全症候群等では、産卵成績は通常で、飼料摂取量が増える、
という形で障害が顕れる(内容成分の不良な飼料でも同様な現象が顕れるため、診断には詳
細な解析を要する)
。
更新率:慢性感染症では往々にして産卵後期の成績が不順となる。後半の成績によっては、
更新を早める必要に迫られ、コストを引き上げる。
------------------------------
5) 鶏病の与える経済被害
産卵障害による経済被害は、次のように概算できる。
① 産卵低下:産卵率低下が1.5%に対して約1グラムと換算できる。すなわち、3%低
下では10万羽で2グラム/日=200キログラム分タマゴの収穫が減少する。平均的な製
造原価(145円/キログラム)を前提として、約1日2万円、年間では約700万円の被
害となる(産卵低下が年間通じて起きているという前提で計算)
。
② 卵殻不良等による格外卵発生:格外は通常性情卵に対比して90~100円/キログラ
ム低い価格で取引される。すなわち、卵殻不良で1%格外率が増加したとすると、全体
の取引価格を約1円/キログラム引き下げるマイナス効果がある。これは、10万羽養
鶏場で1日4万円、年間では1500万円利潤を引き下げる効果に匹敵する。
③ 法定伝染病の被害と補償:近年注目される高病原性鶏インフルエンザに代表される法定
伝染病に際して、法定殺処分が実施された場合には、通常被害とは様相の異なる事情が加わ
る。被害は、基本的には帳簿価格による鶏の沿う羽数分となるが(加重平均では400~4
50円/羽)
、実質経営では、市場の損失を含む逸失利益が評価されにくい。こういった特
殊なケースの被害はその時点での卵価をもって逸失利益を並行して考慮したいのが生産サ
イドの心情である。
一方、法定殺処分では、補償制度に拠る補償が期待できる。補償金額の概要は以下の基準に
準拠する。
補償金額=法定殺処分補償金額(およそ400)+再稼働の場合積立金(600)+保険金
(50)=1050円/羽 [概略試算]
9
法定伝染病の事例として、AIの他にND、ヒナ白痢が挙げられる。これらの発生に関し
ても法定淘汰が適用され、当該鶏群の経済価値を勘案して、1羽当り500円を上限として
の補償が適用される。
4)飼育形態[合田]
5)感染症発生時期の傾向[合田]
6)感染症の常在化[加藤]
農場へ侵入した感染症の多くは、その農場に常在化することになる。現在使用されている
ワクチンを疾病特性と予防のメカニズムを前提に分類してみよう。
農場へ侵入した感染症のあるものは、その農場に常在化する。現在わが国の採卵養鶏の現場
でよく見られる感染症を常在化の実態に応じて区分してみよう。
①
基本的には浄化を前提とする伝染性の鶏病
ア)鶏インフルエンザ(AI)
:弱毒、強毒を問わず、H5およびH7の亜型に属す
るものは、家畜法定伝染病と定められている。淘汰を原則として、浄化を追及
される。
イ)ニューカッスル病(ND)
:典型的な法定伝染病のひとつで、原則は鶏インフル
エンザと同じ扱いとなる。しかし、本病は鶏のウィルス性伝染病としてのみ深
刻で、人畜共通感染症でないため、ワクチンによる防御が許される。
ウ)鶏伝染性コリーザ(IC)
:ヘモフィルス・パラガリナルムによる伝染性疾患で、
ワクチンによってよく抑えられるため、基本的には浄化が可能である。しかし、
効能が不十分なワクチンでは、不全発症が起こりえることが確認されている(白
田ら第136回獣医学会)
。こうした事例では、確実なワクチネーションと浄化
の確認が必要となる。
エ)鶏痘(FP)
:原則として、浄化しうるはずであるが、ワクチネーションの不備
や抗体の獲得が不十分な個体等では不全発痘がしばしば観察される。こうした
ことから、農場にはウィルスが常在化し、ワクチネーションによって抑えられ
ているため、発痘を確認できないものと推察される。
②
常在化が前提となっている鶏病
ア) 鶏伝染性ファブリシウス嚢病(IBD)
:現在では、IBDの感染あるいはワ
クチネーション履歴のない専業農場は無いといって過言ではない。IBDウィ
ルスは、極めて抵抗力が強く、一度汚染された農場では、鶏のいない状況が年
余に渡って継続しない限り、常在化している。本病のワクチネーションに期待
されるのは、高病原性のウィルスに侵襲されたとき、ワクチン抗体によって防
御あるいは被害を可及的に抑えることを目的としている。ワクチンウィルスの
常在化している農場では、ワクチネーションを適用しないでも通常4~5週齢
時点でワクチンウィルスの繁殖が確認できる。その際に軽微な免疫阻害が起き
うるため、被害を抑えやすく計画的に感染させるために、3週齢より3~4回
のワクチネーションが適用されている。
イ)マイコプラズマ・ガリセプティクム(MG)
:ウィルス性呼吸器病が慢性経過を
たどるとき、必ず副次感染として見られることから、野外に常在化する病原の
筆頭に上げられる。ウィルス性呼吸器病が2週間以内で治まる急性の転機をた
どるときには、通常MGの感染は見られない。成鶏期のMG感染は、50週齢
前後の、IBを主とするウィルスが繁殖する機会に、その他の細菌感染を伴い
ながらおきる。この時点でのMG感染症は慢性の産卵障害を招くことも多く、
生産管理上注目する必要がある。
10
ウ)マイコプラズマ・シノビエ(MS)
:MSの常在化はMGより高頻度で、また薬
剤による状かもむずかしい。しかし、採卵養鶏ではMSの被害は明確でないた
め」
、注目されることが少ない。種卵におけるMSの介卵感染は孵化率の極端な
低下を招くため、浄化への努力は惜しまれない。
エ)鶏伝染性鼻腔・気管炎(ART)
:七面鳥のミクソウィルスが原因で起きるこの
疾病は、多くの農場に常在化しているが、本ウィルスのみの感染では顕著な症
状が現れない。IB、ICあるいは大腸菌等の複合感染で、激しい顔腫れ症状
が発現する。無発症のロットも、抗体を経時的に追跡すると、6週齢前後に抗
体が陽転することから、常在化が確認できる。
オ)鶏伝染性貧血症(CA)
:本病も、多くのヒナが移行抗体を保有しているため、
0~3週の間に感染することはない。CA若零時期に感染すると、激しい貧血
症状を示して、数~10数パーセントの死亡ヒナ発生をみる。しかし、その後
は、不顕性感染に終わる。こうした農場に、移行抗体をもたないヒナが導入さ
れるとき、激しい貧血症状と死亡ヒナ発生で、農場への本ウィルスの常在化が
確認される。
カ)鶏伝染性気管支炎(IB)
:ワクチネーションが普遍的に行われているIBには、
4~6年周期でウィルスの変異が起きている。これは、育成期に実施されたワ
クチネーションによる抗体価が低下する45週齢頃に当該農場に常在化するウ
ィルスが抗体の存在下で繁殖することを繰り返し、徐々に変異ウィルスを生じ
させるものと推察される。
③
実態が明確でない鶏病
ア)鶏産卵低下症候群(EDS)
:アヒルの肝炎ウィルスが鶏に伝染することによっ
ておきるこの伝染性疾患は、もっぱら輸卵管にダメージを与え、卵殻形成を障
害する。不活化ワクチンの接種で、十分に抑えられるが、45週齢以降で一度
抗体価の下がる傾向が確認され、その後に再び抗体価の上昇を見る事例に遭遇
する。この現象から、ウィルスの常在化する農場もありうると思われるが、産
卵への影響は明確でなく、また、ウィルス分離の情報も得ていない。
イ)大腸菌症:成鶏期に突如発現する、肝包膜炎や気嚢炎を主徴として発現する大
腸菌症は、菌自体がどこにでも存在しうるもので、その発生機序は明確でない。
時には、次に述べるアデノウィルス性の肝炎に併発することもある。また、原
因が明確でない採卵鶏肝炎症候群の副次感染としても注目される。
ウ)アデノウィルス性(封入体)肝炎:発現のメカニズムが明確にされていないが、
IBDが成鶏期に感染した昭和57~60年にしばしば観察された。これらの
好発する事例では、介卵性のアデノウィルスが影響している傾向が強かった。
アデノウィルス自体は、野外に常在するが、接種実験で必ずしも再現が容易で
なく、発現の条件が明確でない。
エ)レオウィルス性関節滑膜炎:多くは介卵性に伝染するレオウィルスの感染にブ
ドウ球菌の副次感染が症状を重篤とする。発症は5~7週齢で始まり、通常4
~6週続く。ブドウ球菌への抗生物質等の対処で急速に収まるケースも多い。
オ)レオウィルス性栄養吸収不全症候群:上記疾患と同様に介卵性に伝染したレオ
ウィルスによって引き起こされる、栄養吸収障害に起因する発育不良で、多く
は6~8週齢で発現し、鶏群の個体ばらつきを大きくする上、極端な発育不全
個体は淘汰を余儀なくされる。
7)感染症による経済評価[加藤]
感染症は、経済被害を与えて初めて鶏病と評価される。
経済被害は、次の要因に集約される。
① 死亡
② 飼料の効率低下
11
③
生産の低下若しくは停止
① 死亡はもっとも烈しい経済被害であるが、
採卵鶏においては、
産卵の停止が時にこれを上回る。
死亡はその発生時期によって被害の程度に大きな差異が生じる。ちなみに、初生ヒナが死亡したと
き、その被害額は初生ヒナコストに止まる。しかし、60日齢で死亡したとすると、そのヒナ1羽の
被害額には、初生ヒナコスト、飼料コスト、ワクチンコストおよび管理費や鶏舎の償却費が合算され
る。さらに、20週齢で死亡したケースでは、追加されるワクチン経費や移動費用も勘案されねばな
らない。
初生1羽の死亡被害が150円であったとすると、20週齢時では、800~850炎にも上る。
死亡率もしくは育成仕上がりの率を考えるとき、死亡の被害を厳密に計算する必要がある。
しかし、生産現場では20週齢での仕上がりの率に意識が集中する傾向が強い。仮に、死亡率が常
に6%あるとしよう。この死亡率は、平均的な数値に対比して3%程度高い。通常の餌付けは、成鶏
舎の収容羽数を前提として、97%仕上がった場合に、成鶏舎が100%充足されることを前提とし
て、なされる。とすれば、常時94%仕上がりでは、常に3%分の大ヒナが不足することになる。
こうして、この3%の不足を充足させるために、技術的な検証が行われる。こうした場合に種々の
技術的検討を加える前に、死亡が集中して発生する時期を確認せねばならない。死亡がもっぱら、餌
付け後早い時期に見られるなら、
餌付け羽数を3%増やすことでとりあえず野羽数調整は可能になる。
ちなみに、15~40日齢時点でMDが発生しているようなケースでは、現場再度で技術検討する
ことでは育成率を改善する事が難しい。こういったケースではためらわずに餌付けの増羽を考えるこ
とが薦められよう。
しかし、死亡が育成高貴に集中する場合には被害額が大きくなる以外に、育雛時期[0~45日齢]
の飼育密度が高くなる。育雛時期の高飼育密度は、往々にして体重のバラツキや喧騒性を招き、とき
には悪癖(カンニバリズム)により、さらに多い被害をもたらす。
鶏病ごとに対策はことなるが、可及的早急に原因を究明して、改善する事による対策が望ましい。
② 産卵障害
ア) 産卵異常: 産卵の停止する個体が続出することに起因する群としての産卵異常が経
済被害の最たるものとしてあげられる。
● 回復不能な産卵停止:初生時期(孵化後0~7日)に感染したIBでは、卵巣へ
の致命的な障害が残り、産卵ピークが80%未満で終わるものがある。また、重
篤なIBでは卵巣へのダメージが大きく、原始卵胞が極端に減数するために、産
卵ピークが低いケースも見られる。さらに、ウィルス性疾患で輸卵管の閉鎖が引
き起こされると、輸卵管に透明な液体が1000cc以上も貯留し、産卵は停止
する。
● 一定期間の休産後回復する産卵停止:卵巣への一時的な障害により産卵停止する
個体が続発することにより、一過的に群としての産卵率が低下するもので、予後
の悪いもの(IBやEDS等)
、予後の良いもの(AE等)があげられる
● 異常内容物:輸卵管上皮の病変に由来する後遺症で、異常な進出物が卵白に混在
することや、輸卵管の機能障害(感染病の後遺症等)による、濃厚卵白の希薄化
等で、商品として不適格なタマゴが多数産出されるケースがこれに当たる。
イ) 卵殻異常:輸卵管障害の部位によって、カルシウムの分泌異常が発現する。こうした
症状は、感染症の後遺症で多くみられ、また、予後も悪いことが多い。
● 無殻卵:EDSで多発する。卵殻膜の形成もまったくないもの、卵角膜は形成さ
れるが、カルシウムの沈着のないもの(軟卵)がある。
● 変形卵:IBや潜伏的なND感染により、輸卵管に障害を受けた群で、しばしば
変形卵が産出される。こうした群では、正常卵の外観ながら、1)で挙げた異常
内容物を含むタマゴが多産されることも多いため、注意を要する。
● 卵殻異常:カルシウム分泌が均等でなく、一部に顆粒状の沈着が高度で商品価値
を損なうものをいう。軽微なIB感染症やND生ワクチン投与に際して一過性に
12
発現するほか、産卵寿命の後半で多発する生理的なものもある。
ウ) その他
● 異常な卵殻汚れ:栄養条件や栄養吸収不全症候群(レオウィルス感染症)
等で軟便を排出する群では、産卵率が正常でも、卵殻の汚れたタマゴ(汚卵)が
多発する。こうしたものは、産卵後直ちに洗浄されない場合、汚れが落ちず、テ
ーブルエッグとしては、不適格卵として扱われる。
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参考資料
1.鶏舎構造と飼育管理
A)採卵鶏
1)鶏舎構造[加藤]
鶏舎の建築様式には、平飼を前提とする古典的な庭先養鶏から、第二次大戦後の専業化に
ともなって発展して来たバタリー飼育を経て、管理の利便性と駄鶏(産卵しないあるいは産
卵性の劣化した個体)を選別淘汰し易い、1~2羽飼ケージが普及した。
この鶏舎構造のまま機械化された時期を経て、ロイコチトゾーン病対策や飼料効率あるい
は、環境の季節格差をなくするために、密閉型(ウィンドレス)鶏舎へと移行した。規模の
拡大やウィンドレス構造という要求によって高額化した羽当たりの建築費用を引き下げる
ために、5~7羽飼のケージが普遍化して、今日にいたっている。しかし、従来好まれた2
羽飼ケージを生かして発展させた、開放型の大規模鶏舎もある。
これらの形式を以下に列挙した。
ア)建築様式
●
建築様式には、歴史的に見て分類すると平飼いの場合、雨露をしのぎ、採餌す
るための小屋に運動スペースを併設した構造が採用された。この形式は、集約飼
育し、産業への萌芽が見られるまで、あるいは、種鶏の飼育に採用されることが
多く、昭和 30 年当初まで散在した。
●
産業として確立され、
専業化し始めた昭和30 年半ばからは徐々に装置化されて、
さらに、労働力の確保が難しくなり、坪(3.3㎡)当たり100羽を超える集
約飼育システムになってからは、日常作業は機械化され、人間はこれを監視・維
持する形式が主流となりつつある。
イ)飼育方法
●
●
●
●
古典的な平飼:放し飼い、もしくは簡単な小屋で、雨露をしのぐのみで、産業
の形式をとっていない。庭先養鶏はこれに順ずる(現在でも東南アジアではこの
ような飼育形態は地方の生活に定着している)
。
いわゆるバタリー飼育:手作り設備の経済[明治から昭和30年前半まで]高
床式の手作り小屋で5~10羽を群飼する。ケージは竹材もしくは木材で建設さ
れている。
1羽/ケージ飼育:駄鶏淘汰による効率維持を前提として開発された。この方
式では、群のオールイン・オールアウトを実施せず、寡産もしくは無産の個体を
順次淘汰し、不足分を補給するため、運営費は低い。しかし、管理に要するコス
トは大きくなるので、雇用人件費への依存が高まると不利となる。さらに、建設
コストが割高となるため、現在ではほとんど見られない(~昭和50年当初)
。
2羽/ケージ飼育:ケージ当たり2羽飼育する(~昭和60年代)
。8寸(24
cm)幅のケージに2羽を前提として開発されたが、後に7寸5分(22.5c
m)に2羽が主流となった(この改善で、同じ容積の鶏舎で6.25%多く飼育
できる)
。
[この環境へ3羽収容した場合のロスは、5%産卵率が低く、5%減耗
13
率が高いことが確認されている。
]
●
3羽/ケージ:尺(30cm)ケージへ3羽収容するケージシステム。この弊
害は、減耗率の高さである。開放鶏舎で群飼の場合、ストレスにより悪癖(カン
ニバリズム)が発生しやすく、減耗率が通常の3~5倍に上るケースがある。
●
高密度飼育のための群飼[5~7羽]
:1羽当りの面積と採餌スペースが十分で
ない場合、体重のバラツキに起因する産卵への影響が現れる。高密度飼育システ
ムの多くは、悪癖発生を予防し、また飼料要求率の改善を目的として密閉型鶏舎
に応用される(開放型鶏舎の場合でも、照度が低く遮光カーテン等で照度のコン
トロールできれば、高密度飼育が可能)
。
●
再び平飼:ヨーロッパでは動物福祉を前提とした流れが強く、開放で放し飼い
を推し進める傾向が強い。アメリカ、日本やアジアの諸国では、こうした社会圧
力は未だ強くはない。
一方で、近年鶏インフルエンザが平飼を前提としたヨーロッパ各国で発生し、福祉
のもつ矛盾が噴出していることも注目される。
------------------------------
この間に、参考写真を挿入
------------------------------
ウ)喚気方法
従来の開放型鶏舎では(1~3羽飼育/ケージ)
、屋根の傾斜角度とニワトリの体温
を
勘案した自然換気が主体で、夏季に工業用換気扇や通風ダクトを応用した補助換
気がセットされていた。しかし、装置化した高密度飼育の鶏舎では、密閉型では換気は
重要で、停電等で換気扇が30分停止すれば、熱死の可能性が生じる。
強制換気には、陰圧方式と陽圧方式がある。
● 陰圧方式:鶏舎の横側より強制的に排気し、このために生じる陰圧を利用して他
方の壁上部にセットした入気スリットから入気するシステム。
● 陽圧方式:縦型換気と称し、建物の長尺方向の一端から強制的に入気することで
トンネル効果を利用して他方に排気するシステム(排気側にも補助換気扇をセッ
ト)と鶏舎側方から強制的に入気したものを天井にセットした換気スリットから
噴出させる形式等がある。
2)喚気と温度管理
鶏の飼育に際して、育雛初期における温度並びに湿度管理と成鶏期間のそれには大きな相
違がある。
① 育雛初期
ヒナは37℃でふ化される。発生直後のヒナにはこれに準ずる温度と十分な湿
度の供給が求められる。初期には35~32℃、85%以上の湿度が望ましい。
こうした環境維持は2週齢まで保持され、45日齢前後に温度の供給を停止すべ
く、温度、湿度ともに漸次低下させる。
育雛初期には、温度(℃)や湿度(%)レベルの管理には十分な注意を必要と
すると同時に室内のバラツキにも同様に留意する必要がある。育雛鶏舎の床面は、
排水を考慮して、長軸方向にわずかな傾斜がとってあることが多い。こうしたケ
ースでは、傾斜の高い部分に温度の高い空気が集まり、低いところでは温度が低
い、という現象が起き易い。温度格差はときに5℃にもおよぶ。餌付け初期に3
2℃以下になると、ヒナの発育に影響を与える。
② 育成期間
14
その後の環境は成鶏に準ずる。
③ 成鶏
成鶏は温度環境に対する順応性は大で、マイナス5~45℃に耐える。しかし、
直射や急激な温度の上昇変化には耐えられず、20℃前後から35℃まで急激に
上昇すると熱死に至る。温度変化に対しては、産卵ピーク前後がもっとも弱い。
また、ウィンドレス鶏舎では、喚気が重要で、40℃を越える暑さでも風が当り、
体感温度が下げられると耐えられる。
産卵を考慮すると、生産に最も効率的な温度は24℃とされ、ウィンドレス鶏
舎では、冬季にはこの温度を維持すべく管理される。
2)給餌量と給餌方法
① 給餌量
ア) 育成期間
初生時期には32~35グラムの体重で、1日当り3グラム程を摂取するのみ
であり、この時期の餌付けには種々の工夫をこらす。餌付け用飼料は粗蛋白含有
率(CP)21~23%、代謝エネルギー量(ME)3200カロリー(キロカ
ロリー)
(/キログラム)の濃厚なものである。さらにこの飼料に水を加えて練り
餌とし、ケージ毎に手で与える、といった配慮も、虚弱である初生時期をうまく
乗り超えさせるためのものと言える。6週齢になると、初生時期の10倍以上、
320グラムを越え、採餌量も30グラムほどになるため、CPを16%、ME
2600カロリー程度に下げる。成鶏編入前にヒナは体重、1250~1300
グラムとなり、CP14%、ME2400カロリーの飼料を55~60グラム/
羽・日ほどを摂取する。
イ) 成鶏第一サイクル
成鶏前期:成鶏編入後、略々CP18%ME2800キロカロリーの飼料を編
入直後は70グラム程度摂取する。しかし、産卵率を上昇させながら体重をさら
に獲得し性成熟を進めなければならないこの時期に、いかに多くの飼料を摂取さ
せるようにするかには十分な配慮が必要となる。現在の育種改良によって、多く
の鶏種では180日齢過ぎには90%を越える産卵率を示し、時には170日齢
で90%という事例もある。しかし、この時期には1日の羽当たり摂取量は80
~90グラムであることが多いため、飼料成分が十分でない場合には、十分な体
の生長を伴わずに産卵することもある。90%を越えるピーク産卵時期には、1
00グラム/羽・日を基準とする。
ウ) 成鶏中期
産卵ピークを過ぎた、50~60週齢で、産卵率は平均的には85~75%と
なる。この時期には、鶏も環境に順化され、飼料摂取量は110~115グラム
/羽・日で、産卵量に対比すると多めになる。この時期をピークと同等の栄養成
分の飼料でカバーすると栄養は過多気味となり、個卵重が重く成り過ぎたり、輸
卵管等への脂肪蓄積により、卵殻へのカルシウム沈着に異常を来す。このため、
CPは17~16%に、MEも2750~2700程度に低下させる。こうした
栄養配分は、飼養環境を加味して加減することを忘れてはならない(20℃を基
準として、1℃の上下でおよそ1グラム/羽・日の飼料を加減する)
。
エ) 成鶏後期
60週齢以降、強制換羽(強制換羽しない場合にはアウト)までは、それまで
の産卵成績と栄養補給条件により、鶏の消耗状況や飼料摂取量は大きく異なる。
15
通常、飼料摂取量は115グラム/羽・日前後であり、産卵成績は80~65%
と加齢によって漸次低下する。給餌量を制限しない、いわゆる飽食状態で飼育さ
れると、開放型鶏舎では時に125グラム以上摂取し、70グラムを越える平均
個卵重のタマゴを産卵することもある。大きすぎるタマゴはパックするに不適格
で、規格外とされるため経済ロスに繋がる。後期の給餌制限には注意を払う必要
がある。通常、CP16%ME2700キロカロリーの飼料を110~115グ
ラム/羽・日給与する。
オ) 強制換羽
70週齢前後には、卵殻質が劣化し、パック卵には不適格となる(ロットの中
で不適格率が20%を越えると、パック工場において選別することが物理的に困
難となるため、強制換羽によりリフレッシュするか、ロットを更新する)
。
強制換羽するには、7~14日間の絶食の後、10~20~40~60グラム
/羽・日の飼料を漸次増加給餌するプログラムにより、断餌後略々45日間で5
0%産卵を目指す。
カ) 強制換羽後
断餌後60日で85~90%の産卵率を得る。この時期にはCP17~16%、
ME2700~2650キロカロリーの飼料を115グラム/羽・日給与する。
強制換羽後の産卵寿命は6ヶ月で、その間ほぼ均一な給餌環境を維持する。
② 企業化している採卵養鶏における給餌方法を以下に分類する。
ア) 配餌車
配餌車エンジン、もしくは電動モーターで駆動する自走式で、飼料タンクから
略々350キログラムの飼料を受け、これを自走しながら餌樋に配餌する。2段
までのケージに対応するが、配餌車に一度に受ける量の関連で、多段式(3~8
段)には対応しきれない。
イ) チェーン方式自動給餌機
餌樋をチェーンもしくはそれに準ずる駆動機械が回転、巡回して配餌するシス
テムである。チェーンが保持して巡回する間にそれぞれの鶏が摂取するため、個
体の栄養摂取にバラツキが出易い。高速で巡回させることにより、この欠点をカ
バーする試みがされている。
ウ) ホッパー式自動給餌機
一定量の飼料を受けた大きなロート型ホッパーを餌樋の上に巡行させ、飼料を
落下させて配餌する。餌樋のレベルが水平でない場合、落下させる飼料の量にバ
ラツキが大きくなる可能性がある。餌ならし装置をセットして、均等給餌に配慮
される。
4) 給水量と給水方法
かつては、自由に飲水できる方式であり、飲水量に対して注目されなかったが、鶏糞の
水分含量や、養鶏の大規模化による水不足問題で、給水制限は重要な課題となっている。
① 飲水量
通常飼料摂取量の3~4倍の水を摂取する。
② 給水方式
従来は、自由飲水を前提として、水樋に常時水を流す、いわゆる《懸け流し方
式》が採られた。しかし、今日では飲水制限を目的とした《ピック方式》が採用
されている。過渡的には、
《カップ方式》も使われたが、飲水量の制限には卓効を
16
示さなかったため、現在では初生に一時期で飼養されることがあるだけで、ほと
んど採用されていない。
5)点灯管理と照度
鶏が産卵に与える影響条件として、季節の要因は無視できない。自然界では、冬季には繁
殖せず、春および秋に繁殖季を迎える。家鶏でもこの傾向は顕著で、日照が増える春に向か
う時期には産卵は促進され、冬至に向かって日照時間が漸次短縮すると、産卵は低下し時に
停止する。そこで、人為的に点灯により擬似日照時間を操作することによって、産卵を促進
し、コントロールする。
通常育成後期に向かって、10時間の日照時間となるように管理され、20週齢で成鶏編
入後に産卵の状況を観察しながら点灯時間を次第に延長する。通常は、週毎に15分ずつ延
長し、最大日照時間を点灯時間を含めて15時間(時に16時間)とする。
照度は、最低で3ルクスとされる。3ルクスとは、その照度環境で辛うじて新聞が読める
程度である。
点灯管理には、本来の点灯時間中を間歇的に点灯・消灯を繰り返して節電する方法も開発
されているが、普及していない。
また、産卵初期に点灯時間が急速に延長されたり、照度が挙げられ、飼料中のカルシウム
含量が育成時期に固定されて、2%程度であるにも関らず、群の性成熟が急激に進んだ場合、
鶏は骨のカルシウムを卵殻に流用して産卵する。このため、急性の骨軟化症や、血液中のカ
ルシウムイオン不足によって、心不全を起こして頓死することがある。
2.防鳥、防鼠[加藤]
1) 防鳥対策
防鳥の対象は、カラス、ハト、ムクドリあるいはスズメである。平成16年1月に強毒タイ
プの鶏インフルエンザが山口県に発生した。
本来、鶏インフルエンザが水禽を主たる宿主とし、これがニワトリに伝播するには、その他の留鳥
の媒介が必要とされる。
[七面鳥産業の盛んな欧米、
家鴨と野鴨の接触する機会の多い韓国や中国ある
いはその他の東南アジア諸国に対比して、我が国では七面鳥や家鴨産業が少ないため、このルートで
の伝播リスクは少ない]
。
開放型鶏舎に侵入しやすい留鳥は、先に述べたような鳥類主となるが、カラス、ハト等の大きな鳥
は通常の防鳥網で侵入を防ぐことが容易にできる。しかし、スズメなどは、網目が4Cmもあれば楽
に侵入する。
一方、こうした小さな野鳥の侵入を防ぐことのできる、網目の細かいもの(2Cm程度)では、網
目に付着するホコリにより、喚気を妨げる可能性が高い。
一方、ウィンドレスと呼ばれる、密閉型鶏舎では、喚気システムも量類の侵入を許さない構造であ
り、防鳥への特別な配慮葉不要である。
2)防鼠対策
ネズミは養鶏業の天敵ともいえる。その被害は、飼料の盗食[ネズミ葉1日に自分の体重の
1/3を摂取するといわれる。濃厚なネズミ汚染のケースでは、4万羽鶏舎(1500平方メートル)
に1万頭の汚染が確認されている-ペンシルバニア州-ちなみに1日、1頭当り20グラムを摂取す
ると、200キロ/日、1年で70トン=210万円もの飼料を盗食することになる]
、電気配線をか
じる[漏電、ショートから火災の実例が多い]
、サルモネラを初めとする鶏病の媒介[SEの伝播にネ
ズミが重要な役割を果たすことはよく知られているが、鶏インフルエンザを広げる可能性も近年示唆
されている]
。
ネズミの駆除には、これといった、確実な方法はない。具体的には
① 建設初期野侵入防止(柱や配電線へのネズミ返しや侵入防止板等の設置)
17
② 毒餌の配布
③ 粘着板設置による物理的排除
といった方法で、こまめな対策を打つことにより、常にネズミの増数を抑えることが肝要といえる。
① ネズミ侵入防止設備
新たに建設される鶏舎では種々の試みができるが、すでにネズミの生息を許した鶏舎では、
侵入を防止することによる効果は期待できない。また、極力完璧を期するための設備費はか
なりの額となる。それでも、長期的にみればネズミの侵入を許していることが多い。
② 毒餌の配布
ネズミの毒餌(殺鼠剤)には低毒有機リン製剤系と砒素系がある。いずれも、ネズミは警
戒心が強く、通路等に設置しても、新しく設置された毒餌はすぐに摂食しない。また、ネズ
ミは、壁際など光の当りにくい場所を決まった通路としている。この生活圏から離れた場所
に置かれた毒餌も食べることはない。
鶏舎のネズミ汚染レベルは、サルモネラ、特に食中毒原因菌として注目されるS.Entritidis 菌の
媒体として、ニワトリへの感染には重要な役割を果たす(ペンシルバニア州、PCCAP及び、20
05年秋季獣医学会、白田等)
。SEを含むサルモネラ汚染を防除するためにも、ネズミの駆除は重要
である。
ネズミの鶏舎汚染度合をモニタリングすることを目的として、ペンシルバニア州ではローデント・
スコア(鼠指数)の算出基準を設けている。しかしこれまで、我が国では、ネズミのサルモネラ汚染
が注目される程強くなかった[ネズミのサルモネラ汚染に関する報告も少ない]こともあり、ネズミ
生息レベルのモニタリングに対する興味は薄い。 前述の白田等の報告で、ここ数年の間にSE、あ
るいはS.Infantis のネズミ汚染レベルが急激に上がっている。この事態を踏まえれば、ネズミに
対する防除対策と、生息レベルのモニタリングはサルモネラ汚染対策には必須の条件と思われる。
3.養鶏経営を取り巻く環境[加藤]
1)経営合理化と多数羽飼育
冒頭でも述べたが、我が国の採卵養鶏は10から50羽レベルの零細なものが、副業的に経営され
る形態が長く続いた。昭和34年の外来鶏種採用により、一挙に経営規模の拡大傾向が強まり、現在
では採卵養鶏場が2000軒余りで、全国総数1億8千万羽の内95%を占めるに至りっている。
このうち、
100万羽以上が20軒
[2000万羽]
、
10万羽以上が約350軒でこれらの総数は、
全体の50%を越えるに至っている。
gへい
平成16年度の採卵養鶏
規模別戸数
平成16年統計では、総羽数はおよそ1億3720万羽(3740 軒)であり5万羽以上は681軒(全
体の18.2%)で9700万羽(71.3%)10万羽以上は348軒(全体の9.1%)でシェ
アは54.5%(羽数7477万羽)と発表。100万羽以上の大規模採卵養鶏戸数はおよそ20軒。
これらの規模拡大は、人力作業から装置化されることによる初期投資金額の増大を、単位面積当り
の飼育羽数を増やすことによって吸収するという目的でなされている。
ちなみに、人力で主たる作業がなされた昭和50~60年代では、平均的な人件費としてキログラ
ム当たり30円を計上していた。この頃の償却は、経営の質、経営の歴史にもよるが、平均10円内
外[金利込み]と考えて良い。
その後の機械化により、配餌、集卵は全て機械化され、これにかかる人件費は3~5円に圧縮され
ている。一方、初期投資を内部設備6年建物25年で償却すると、平均35円[金利込み]になる。
18
固定費として、金利償却と人件費の合計を比較すると、前者で40円/キロ、後者でも40円余り
となって、大きな差はない。
一方、金利償却は、経営体が順調に利益を確保していれば、6年後にはおよそ半額に下がる。後者
の固定費は30円となるはずで、償却が進めば進むほど、償却後の優位性が高まる。
人件費の高騰や労働者が3K労働環境を嫌った結果、養鶏経営は装置化の速度を速め、大規模化へ
の速度も速めてきたことになる。
2)食の安全と飼育管理
近年、食の安全性に対する消費者の意識は極めて高く、何を誰が何時作ったかをさかのぼって調べ
る事のできる、食材のトレーサビリティの確保が常識となりつつある。
こうした環境を前提として、鶏卵についても安全性への要求は厳しい。
鶏卵の安全性を損なう要因として、① 細菌類による汚染、② 薬物の移行があげられる。
① 細菌汚染:タマゴを汚染する細菌は、
(ア)
介卵性のものと、
(イ)
卵殻に付着した環境 菌
が卵殻の微細な傷等を経て内部へ侵入し、繁殖するものがある。
ア) 介卵性のもの
SEを初めとするサルモネラ菌、耐熱性であるセレウス菌の汚染も危惧される。
SEの鶏卵汚染は、平成6年頃から顕著となり始め、同8~10年にピークを迎
えた。この浄化を目的として、HACCPタイプのシステムが導入され、ワクチ
ネーションを含めて対策を講じる生産者も増えた。
また、賞味期限を商品に記載することも定められた[平成11年11月施工]
。こ
うした努力の結果、SEを原因とする鶏卵由来の食中毒の件数は減少し、年間1
200人程度(平成17年度は1269人)の発生で落ち着きを取り戻している。
イ) 卵殻汚染に由来する環境菌
この菌類は、主として環境に常在したり、鶏の腸内フローラを形成しているも
ので、そのため、卵殻に付着し易い。食卓用に処理されるパック卵等では、製造
過程で洗浄・消毒によって落とされるが、液卵加工の際に使用される規格外卵で
は往々にして十分な洗浄が行われていない。このため、表面に付着している腸内
フロー由来等の菌が製品に迷入する機会を得る。
A) バチルス・セレウスの汚染はもっぱら卵殻に起り、加工用液卵製造に際
して製品に混入する。この菌は結う有芽胞で耐熱性であるため、しばしば加工
過程の加熱にも生き残り食中毒の原因となる。コンビニエンスストアの半加熱
状態で販売される、加工食品(豚饅頭、コロッケ等)では、販売されて喫食さ
れるまでの時間に温度が低下して、菌の繁殖を招き、食中毒に冒かることがあ
る。
B) 環境における常在菌(ブドウ球菌や大腸菌等)は、しばしば卵殻を汚
染する。
ウ) 緑膿菌も環境菌の一つであるが、卵殻を汚染したものが、卵殻の傷を経て内部へ
侵入する。この菌は、卵白を利用して繁殖する際に特有の緑色蛍光を発するため、発見
は容易である。
3)環境の規制
養鶏経営を取り巻く環境は厳しい。特に新たに農場を建設する場合には、
① 自然環境を保護するもの:環境保護法
② 鶏舎建設に関するもの:建築基準法
③ 水質汚染を防ぐもの:水質汚濁防止法
④ 悪臭に関するもの:悪臭予防法
といった各種の法律で規制された様々な基準をクリアーする必要がある。ことに、大規模開発を
必要とする場合には開発に関る許可を得ることが必須であり、また、現在の大規模経営で建築さ
れる1棟4万羽、8万羽という収容羽数の鶏舎においては、重量鉄骨を使用するため、1級建築
19
士の設計により、建築の確認申請を出し、許可を得る事が条件とされている。
4.鶏糞の処理方法[加藤]
1羽のニワトリが摂取する飼料量は平均100グラムで、飲水量は略々その3倍とされる。消化率
は60%程度であり、タマゴとして排出される重量は生涯平均で42グラムである。また、維持エネ
ルギー等を換算し、呼気を介して排出される水分を差し引くと、ニワトリ1羽の1日当り鶏糞量は摂
取飼料重量と同じ100グラムほどになる。
つまり、1万羽のニワトリは日当たり1トンの飼料を取り込み、420キロのタマゴと1トンの鶏
糞を排出する。
かつては[昭和40年代前半まで]1戸当りの飼育羽数も限られ、専業であっても2500~1万
羽の飼養規模が多かったため、鶏糞の需要は大きく、販売価格も高かった。その処理も、日射を受け
易く傾斜させた多段のラックに平たく広げた鶏糞を乗せた乾燥板を配置して、天日乾燥させる形式で
十分であった。
しかし、産業形態が整うに従って、1戸当りの飼育羽数も増え、5万羽あるいは10万羽といった
飼育羽数となると、鶏糞の処理は重要な課題となってきた。
鶏糞の処理には、
1) 生糞の肥料処理
~平成17年11月に原則禁止された[栽培農家が直接自分で農地にすき込むことは可
能]
。なお、この規制で生糞の搬送も、産業廃棄物の扱いをうけることとなった。
2) 天日乾燥処理
鶏舎間などに、簡易ハウスを設置して、薄く散布した鶏糞を人為的に攪袢して、乾燥を助
ける。効率が十分ではなく、大量の処理を要求される今日では、醗酵設備の活用のため、生
糞の湿度調整用に使う乾燥鶏糞等、補助設備として応用されるに止まる。
3) 火力乾燥処理
昭和45~昭和60年に種々開発された、重油や軽油を使用するものが多い。烈しい異臭
を抑えることが困難で、最近では、公害意識の高まりによって使用されることがほとんどな
くなっている。
4) 鶏糞ボイラーによる、灰化[でき鶏糞のこった灰は肥料として使用]
水分の少ない鶏糞にのみ適用できるため、昭和60年代~平成5年頃まで、ブロイラーで
多く使われた。これは、30~45%程度と水分の少ない鶏糞を燃焼炉で予備乾燥した後に
直接燃料として燃やすもので、余熱は暖房として応用される。また、投入量の20%が灰と
して残る。この灰は当初、リン肥料としての需要が期待された。しかし、生産物のリン比率
が高いため、他の肥料との複合使用等、技術的な問題が使用する側に要求され、期待された
程の用いられずに、その後のダイオキシン対策としての焼却炉に対する厳しい規制で、使用
が難しくなっている。
5) 醗酵処理
醗酵処理については、昭和50年代半ばから、業界の興味が深まり、技術的にも成熟して
きた。
かつて[昭和50年~60年当時]
、採卵鶏の飼育にはいわゆる懸け流しと呼ばれる、
、水
樋に常時水を流し込む方式が採られ、自由飲水したニワトリの糞は水分が極めて多かった。
こうした現象は、大規模化の兆しが顕れはじめた昭和40年代当初には顕著でなく、また、
水様便を排出する鶏種はある程度限られていたことから、輸入される鶏種の育種上の変化も
加味されたものであろう。
このような水様便はいずれの処理方法でも大きな障害となったため、排泄された段階での
鶏糞の水分含量を減ずるための工夫がされた。
ニップル形式の給水システムが普及される前には、ウォーターカップシステムという、ケ
ージ内に直径3cm程のカップを設置し、フロートをつついた時のみ水が供給されるという
20
方式も用いられた。
現在、採卵鶏に専ら用いられるのは、二ップル形式で、マッチ棒ほどの棒状突起が弁とし
て働き、ニワトリがこれをつついたときのみ、水道管からこの二ップルを伝わって少量の水
が給水されるようになっている。
こうしたシステムの普及で、現在の生糞の水分含量は平均的に70~60%となっている。
鶏糞の醗酵は、原料の水分含量が70%以下60%以上で良好に行われる。生糞が乾燥し
過ぎている場合には、水の添加が必要となり、水分過剰の場合には、乾燥した鶏糞や、醗酵
完了した鶏糞を加え、水分含量を略々70%に調整する。
醗酵過程は嫌気(無酸素)環境の1次醗酵と好気(有酸素)環境における2次醗酵がある。
鶏糞の臭いは、ブタン、メルカプタン等の誘導体に起因している。この臭いは、十分な醗酵
で消化される。
十分な醗酵には、醗酵槽に鶏糞を堆積して、4~7日目にピークとなる1次醗酵の後、2
次醗酵に10~20日をかけて行われる。
醗酵過程は水分調整が十分であれば、単に堆積しただけでも始まるが、醗酵補助菌を適量
加えることで、2~3倍加速される。
1次醗酵の後に、人為的に攪袢するケースと、適正な1次醗酵を行えるスピードで、ゆっ
くりと機械攪袢を行うシステムとがある。
現在用いられる醗酵設備は、一般にコンポストと呼称されている。コンポスト・システム
にはピットあるいはキルンがある。これらのいずれにしても、季節格差を吸収するために、
予備醗酵を行うと成果が得やすい。
① ピット方式
長い醗酵槽を2次元配置し、その一端に新しい鶏糞を投入して、時間をかけな
がら、順次切り替えしつつ他の端へ向けて搬送する形式。発酵のレベルが高いた
め、いわゆる根焼け等の障害が出にくい反面、完熟に時間がかかる。
② キルン形式
醗酵室が重層している立て長の円筒設備の上端に材料を供給し、発酵させなが
ら、新しい鶏糞を順次供給して、螺旋状に流しつつ醗酵を促進する形式。発酵に
要する時間は短縮できるが、発酵レベルが低いため、肥料としての副作用が出や
すい。
醗酵スピードは形式によっても異なるが、季節によっても変化する。一般的にはピット形
式の方が完熟には期間を要し、夏期で7~10日間、冬では21~30日にも及ぶ。
ピット形式では、季節によって補助加温できる方式が多い。完熟迄の時間はピット形式に比
較して短く、4~7日で完熟できるとされる。
いずれのシステムでも、醗酵を促進するために各種配合した菌剤を添加するケースも多い。
これらには、
放線菌、
光合成菌等がそれぞれのノウハウで配合され、
鶏糞の醗酵を促進する。
6) 炭化処理
ごく近年、高圧・高温蒸気(500~600℃)により、生糞を直接炭化しようという試
みがなされている。この処理は、
【高温蒸気で炭化する】という処理のため、機械は大掛か
りで、初期投資コストも大きいが、製品が炭であることから、製品の肥料以外の用途拡大が
に対して新しい道を開拓できる可能性に期待が集まっている。
鶏糞の処理には上記の各種方法が挙げられる。初期には、生糞や天日乾燥で十分用を足したが、養
鶏の産業化が進み、
単位飼養羽数の増加するに従って、
効率的な処理方法が求められるようになった。
殊に、平成17年の畜糞処理に関する新しい規制の発効で、生産者による生糞の移動も原則として
禁止されるに至って、鶏糞の醗酵設備の完備は必須とされる。
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この間に、参考写真を挿入
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養鶏においての鶏糞処理にかけられるコストは、年間70~100円/羽を上限とする。これは、
1羽当りの年間生産高(原価で計算)
、16キロ×140円=2100円を前提とすると3~4.5%
にも上る。
まれに、鶏糞処理を外注するケースもあるが、多くは自己消化するべく、設備投資を行う。先に述
べた畜糞の処理規制に先んじて、畜糞処理施設新設に際して、
“畜産環境整備資金(畜環リースと呼
称)
”が準備され、1%若しくはそれ以下という低利息での資金導入ができた。
鶏糞は、アンモニア発生のレベルが高く、設備の消耗が烈しい。通常、こうした設備の償却期間は
6年とされているが、新設設備でも、多くは4年ほどで相当度の修繕を要求される。
現時点での醗酵鶏糞の肥料としての価格は、先に述べた恵まれた環境から、過当競争のため極めて
安価で流通させられる。しかし、鶏糞の滞留は順調な経営を妨げるため、価格以前に順調な流通を前
提として販売される傾向が強まっている。
22
生産システム挿入写真_060328
鶏舎のサンプル図
無窓式(ウィンドレス)鶏舎 例1
無窓式(ウィンドレス)鶏舎 例2
近代的な大型開放鶏舎
近代的な開放型鶏舎例
従来型の開放鶏舎例
飼養形態のサンプル
従来型の2羽飼養ケージ
典型的な郡市ケージ
生産システム(鶏糞処理システム)挿入写真_060328-2
鶏糞処理システム
鶏糞予備発酵設備
(ローダーで切り返し予備発酵)
ピット形式の鶏糞発酵槽
(2~3 週間で完熟・
土地に還元しやすい)
キルン形式鶏糞発酵槽
(キルン形式は発酵まで3~4日であるが未熟)
化)
キルン形式鶏糞炭化装置
(700℃の高圧蒸気で鶏糞を炭
防鳥ネット
(雀程度以上のサイズの野鳥は侵入を防げる)
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