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養鶏場へのワクチン接種プログラム改善指導
養鶏場へのワクチン接種プログラム改善指導 中央家保香長支所 明神由佳、川井昭雄 1.はじめに 近年、養鶏産業における疾病予防にはワクチンが不可欠となってい る。生産者は、様々なワクチンを複数利用し、衛生管理にも細心の注 意をはらう。このような疾病予防への高い意識が定着する一方、ワク チンの種類の多様化、予防したい疾病の増加、作業の効率化といった 理由から、時としてワクチン接種プログラムが過密化する場合がある。 今回、産卵率低下の原因調査をする中で、過密化していたワクチン接 種プログラムの改善指導を実施した。本事例の概要と指導機関として の我々の課題も含めて報告する。 2.農場の概要と発生経過 飼養規模 30,000 羽の採卵鶏農場(セミウインドレス)。平成 21 年 6 月、生産者から産卵 率低下の原因調査依頼があった。調査対象鶏群は 約 300 日齢のボリスブラウン、約 3,000 羽。主要症状として、産卵率 が通常ならば 80%台まで上昇するが、対象鶏群は 70%台から上昇しな いというものであった。鶏群の中には無産鶏も散見された。ワクチン は、餌付け時:NB・FP、8 日齢:IB、20 日齢:NB・IBD、27 日齢:IB (2 種類)、45 日齢:TRT・ILT、55 日齢:Mg・FP、61 日齢:8 種混・ TRT、116 日齢:IB を実施していた。 3.検査材料と方法 対象鶏群から 10 羽抽出し、農場にて気管及びクロアカスワブ、血液 を採取した。現地にて、簡易キットによるインフルエンザ検査を実施 後、10 羽中 3 羽を剖検。主要臓器及び血清は、病理組織学的検査、細 菌学的検査及びウイルス学的検査(発育鶏卵によるウイルス分離、IB・ EDS ウイルス抗体検査)に供試した。 4.検査結果 簡易キットによるインフルエンザ検査は陰性。剖検所見では、気管 の軽度充血、輸卵管脆弱化、卵巣では軟卵胞や成熟卵胞のない個体を 確認した(図1)。病理組織学的所見は、気管及び卵巣に炎症性細胞 の浸潤が観察された。ウイルス分離は陰性。抗体検査では発症を疑う 27 抗体価も確認されなかった。また、細菌学的検査にて有意な菌も分離 されなかった。 解剖学的検査結果 その他の所見:気管の軽度充血 (図1) 5.改善指導 ワクチン接種プログラムの再点検をしたところ、幼雛期のワクチン 接種の過密化が特徴的だった(図2)。ワクチンの適切な使用につい て説明し、2種類の生ワクチンを同時接種している部分を1種類にす るよう提案。改善後、鶏群は産卵率回復。 再度、ワクチン接種プログラムの点検 日 齢 ワクチン 餌付け時 8 20 NB(H120),FP NB(H120),FP IB(CIB(C-78) 27 45 55 61 116 NB(ON), NB(ON),IBD IB(MA5), IB(MA5),IB(宮崎) TRT,ILT Mg,FP 8種混合 TRT,IB(4TRT,IB(4-91) (図2) 28 6.考察 剖検や病理組織学的所見から考えると、病原体の関与は否定できな い。しかし、今回の事例は、幼雛期のワクチン接種の過密化によるス トレスが産卵率低下の大きな要因となっていた可能性が高い。産卵率 低下のパターンが、産卵ピークが上がらないタイプであり、無産鶏が 散見される場合、幼雛期における何がしかのトラブルが考えられる。 今回の事例の場合、30日齢までにIB生ワクチンだけでも5種類接 種していること、2種類のIB生ワクチンを同時接種していること、 IBDワクチンとNB生ワクチン同時接種していること、ワクチンの 接種間隔が7日程度であること等、幼雛期のワクチン接種の過密化が 特徴的だった。それゆえ、プログラム緩和指導を実施したところ産卵 率が回復した。 ワクチンを使用する場合、そのタイプや組み合わせ、接種間隔や日 齢、雛の健康状態によっては、接種反応や干渉現象等の問題も発生す る。それらの問題発生を防ぐためにも、我々、家畜保健衛生所は、ワ クチンの使用者に対し適切な指導を実施する必要がある。ワクチンの 種類や接種プログラムの多様化が進む現在の養鶏産業界であるが、指 導機関として情報収集・整理能力の強化を図ることが今後の課題とい える。 29