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ENGINEERING JOURNAL No.1010
展 望 工作機械における省エネルギーへの取り組み Approach to Energy Saving in Machine Tools 植竹伸二 S. UETAKE The power shortage triggered by the Great East Japan Earthquake, regarded as one of six major problems for the manufacturing industry, has led to greater demand for energy saving from machine tools. To accomplish such high level energy saving, further study on new elemental, control, and machining technologies has become necessary. To this end, JTEKT has made efforts to achieve significant improvements through development of various technologies and complete evaluation by a JTEKT original "eco-scale". This paper presents an overall picture of our approach to energy saving for machine tools and how this approach will evolve into further technical development. Key Words: machine tool, energy saving, eco-scale, main spindle, wheel spindle, idle stop, mottainai 1.はじめに 2011 年 3 月の未曾有の東北大震災を経験し,多くの 痛みとさまざまな問題に対する反省から,現代の社会の ぜい弱な部分が浮き彫りにされている. とりわけ,原子力発電所の被災に端を発した『電力』 の課題は,製造業にとって円高や,高い法人税などとと もに,6 重苦として取上げられる大きな社会問題となっ ている. 工作機械は,さまざまな物理エネルギーを『工作物の ー』 ,加工状態などの動きによって変動的に必要とする 『動的エネルギー』に分類される(図1). ①『待機エネルギー』は電源をつなぐと消費するため, こまめに電源を切るなど節電が必要となる. ②『定常エネルギー』は生産時間全体に渡り消費するた め,絶対量を低減することができれば,生産時間に比 例して効果を高められる. ③『動的エネルギー』は加工状況などで変動し,加工効 率を高め加工時間を短縮することと,必要なエネルギ ーを低減することの両方が必要となる. 加工』という仕事に変換する仕掛けと言える. ③ 生産を行うためには,エネルギーの供給が必須で,効 エネルギーを削減 率のよい加工のためにエアやクーラントなどの供給も必 加工時間を 短縮 要となる.エアやクーラントの供給も,設備全体の稼動 省エネルギーや省電力は最も重要なキーワードとなっ た. エネルギー も『電力』である.これからの工作機械を考える時に, 削減 短縮 ③ ② ① 削減 削減 ③動的エネルギー ① そうした背景から,本報では工作機械の省エネルギー に向けた取り組みを紹介する. 削減 ②定常エネルギー ①待機エネルギー 待機時 加工サイクル時 待機時 長待機時 2.工作機械の消費エネルギーについて 工作機械が消費するエネルギーを大別すると,機械が 図1 工作機械の消費エネルギー Energy consumption in machine tools 停止中も電気機器を保持するための『待機エネルギー』 と機械が稼動中に固定的に必要とする『定常エネルギ JTEKT ENGINEERING JOURNAL No. 1010 (2012) 9 工作機械における省エネルギーへの取り組み 3.待機エネルギーと定常エネルギーの低減 4.動的エネルギーの低減 3.1 アイドルストップの思想 4.1 エア消費量の削減 工作機械においても,自動車と同様に,モータやバル 稼動時のエネルギーは主軸潤滑エア,冷却エアなど, ブなどの待機電流を抑制するアイドルストップの考え方 主軸潤滑に掛かるエネルギー消費が大きい.そのため潤 が活用できる.また,油圧ポンプユニット用などの定常 滑の信頼性を損なうことなく消費エネルギーを低減する エネルギーもアクチュエータの動作中と,圧力保持中で ための技術開発が必要になっている. モータ速度を可変制御することで,消費エネルギーを抑 制できる(図2,3) . 現在,切削機やマシニングセンタの主軸潤滑はオイル エア方式が主流であるが,エアを大量に使用し,エネル ギー消費量が多い(図4). 設備の状態 加工中 ワーク待ちなどによる待機状態 待機中 そこで,信頼性が高く,長寿命のグリース潤滑主軸の 開発を工作機械部門と軸受部門との協力で推進した 油圧系統 運転停止 (図5) .オイルエア潤滑をグリース潤滑に変更できれば, 油圧ポンプ クーラント系統 エネルギー消費の 20% を占めるエアを削減できる(図 4) . 運転停止 研削クーラント ベッド洗浄 クーラト マシニングセンタのエネルギー消費量 クーラント浄化時間 約 30 分 クーラントタンク 操作盤にて 操作盤にて Eco モード 入 Eco モード 切 といし軸 回転制御数 117Hz 20Hz 0Hz 主軸のオイル エア潤滑 20% 運転停止 NC・ポンプ クーラント他 67% エアパージ 冷却エア 13% 運転周波数低減で省エネルギー運転 図4 マシニングセンタのエネルギー消費量 Energy consumption machining centers 図2 待機エネルギーの低減 Reduction of stand-by energy ポンプ回転速度 ポンプユニット ◆グリース潤滑の課題 ・高速回転時のグリース寿命の確保 グリース溜り 油分の自然供給 によるグリース劣化 の抑制 三相モータ 図5 グリース潤滑主軸 インバータ制御 サーボ制御 Development of grease-lubricated main spindle エネルギー消費指数 時間 100 4.2 潤滑油量の削減(静圧流体軸受の進化) 100 80 60 一方で,研削盤のといし軸などではエアを使用しない 50 40 20 0 流体軸受を採用している.流体軸受は精度と剛性を高め, 20 従来ユニット インバータ サーボモータ型 ポンプユニット エネルギー消費比 研削加工に求められる高精度加工を支える重要技術であ り,当社のコア技術となっているが,潤滑油の粘度に起 因する動力損失が大きく,駆動モータの消費エネルギー が大きくなってしまう背反が存在する(図6). 図3 ポンプユニットの消費エネルギー低減 Reduction of pump unit energy consumption そこで潤滑油の供給流量を制御し,作用荷重により供 給流量を最適にする技術開発を進めている.研削時と非 研削時で消費流量を可変として,全体の消費エネルギー を最適化することにより省エネルギーを実現できる (図7). 10 JTEKT ENGINEERING JOURNAL No. 1010 (2012) 工作機械における省エネルギーへの取り組み 作用荷重により供給流量を制御 といし軸 指数(加工動力削減比) 鋳物製 C/B 軸受メタル 1 動力削減 アルミ製 C/B へ 0.5 0 軸受部および流量調整弁作動イメージ 2000 年代 1990 年代 䊘䊮䊒 ⒖േ 図8 切削動力の低減 ࿁ Reduction of machining power ゲฃ 䊘䉬䉾䊃 㕒ゲฃ ᵹ㊂⺞ᢛᑯ ଏ⛎ 5.省エネルギーに向けた指標づくり 図6 といし軸の流量制御 5.1 エコスケール Flow control for wheel spindle 現在,当社の工作機械部門において,設備を開発する 軸受作用負荷と軸受消費流量 従来:固定絞り方式 軸受作用外力 軸受消費流量 削減 際に,環境負荷を評価し低減するための指標として独自 の評価基準『エコスケール』を定めている. エコスケールは表1に示すように,電力やエア消費量, 質量,使用油量などを指標化し比較評価するものである. 軸受作用 外力 研削盤,切削機,マシニングセンタそれぞれにエコス 時間 開発:可変絞り ケールを下げる取り組みを行ってきた. 今後も省エネルギー技術の開発を強化し,2015 年 図7 流量制御による流量削減効果 Effect of oil flow reduction by flow control VISION では対 2000 年比で 70% の低減を目指してい る(図9). 4.3 研削・切削動力を下げる取組み ■Eco-Scaleとは 環境適合性の評価 4つのアセスメント項目について, 製品のライフサイクルを通した評価指標を算出 アセスメント項目 ①省エネルギー ②減量化 ③環境保全性 ④情報の開示 製品設計においても,取り代を削減することで,研削・ 切削動力を低減したり, 工程や製品形状を見直すことで, 加工箇所を削減するなどが必要となっている. ■高速/高加速化で生産性向上 ■工具交換時間短縮 ■テーブル割出時間短縮 例えば,シリンダブロック(C/B)の荒ボーリングで は,素材の高精度化などの取り組みの効果もあり,切削 ■FEM解析の活用/高剛性リブ構成 ■エア消費量削減(ミニマム化/ミスト) 55 動力を年々低減させてきた(図8) . これらの取り組みは,切削動力を低く抑える効果に加 ことにも効果をあげている. Eco-Scale え,特殊工具を廃止しツーリングや設備をはん用化する STEP3 革新への取り組み ■切削力を確保した 小型化など 42 良い e640V ■メカ工具クランプ機構 (油圧低減) ■スライドのグリース潤滑 ■クーラント流量削減 (センタトラフ) 2000 2005 2 611 20 1 300 3 140 2010 2015 図9 エコスケールの低減目標 Target reduction on the eco-scale JTEKT ENGINEERING JOURNAL No. 1010 (2012) 11 工作機械における省エネルギーへの取り組み 表1 エコスケール Eco-scale アセスメント項目 評価項目 1 電源容量(kVA) 2 待機時電力消費(%) 省エネルギー 省エネルギー 環境保全 減量化 評価ポイント基準 備考(事例範囲) 0.1 ×□□ kVA 1.5 ∼ 5.8kVA → 1.5 ∼ 5.8 ポイント 10% 未満 1 10% 以上 20% 未満 2 30% 以上 3 主軸 100% 負荷時に対する 運転準備 ON 状態の電流比 3 エア消費量(NL/min) 0.004 ×□□ NL/min 0 ∼ 900NL/min → 0 ∼ 3.6 ポイント 4 生産性効果 5 クーラント使用の有無 軸受油量(L) 0.05 ×□□ L 0 ∼ 60L → 0 ∼ 3.0 ポイント 6 潤滑油量(L) 0.05 ×□□ L 0 ∼ 75L → 0 ∼ 3.7 ポイント 作動油量(L) 0.05 ×□□ L 0 ∼ 20L → 0 ∼ 1.0 ポイント 2003 年度の生産性に対する比率にて 2003 年生産性比削減率:A [2003 年生産性:5]× A 微量または使用しない 1 使用する 2 7 設置面積(m ) 0.4 ×□□ m 2.2 ∼ 12.5mm2 → 1 ∼ 5 ポイント 減量化 8 機械質量(kg) 0.0004 ×□□ kg 2 450 ∼ 14 000kg → 2 ∼ 3.5 ポイント 9 騒音レベル(dB) □□ dB-77(77dB 以下は 0) 省エネルギー 環境保全 環境保全 10 11 12 機械設置面振動 (μm)P-P 搬送車種 有害物質の使用 2 ドライカットまたはセミドライカット 省エネルギー 環境保全 2 評価 79 ∼ 80.5dB → 2 ∼ 3.5 ポイント 1μm 未満 1 1μm 以上 5μm 未満 2 5μm 以上 3 4t 普通トラック 1 11t 普通トラック 2 11t 低床トラック 3 20t 平トレーラ 4 20t 低床トレーラ 5 一切使用しない 1 削減対象物質を使用する 2 使用禁止物質を使用する 3 機械早送り時カバーから 1m 離れた 地点での地面の振動を測定する 例) 使用台数×[1]+使用台数×[3] 化学物質環境事前評価手順に定める 削減対象物質と使用禁止物質 6.おわりに 少し前の話しになるが,『もったいない』という日本 の言葉が,エコロジーを語る場面でよく使われた. 限られた資源を最大限有効に活用し,より価値を高め ることにより日本がモノづくり大国になったとすれば, 工作機械は再び日本人の感性を生かした革新が必要にな 筆 者 ったと言える. 高生産性,高精度,高品質のモノづくりに『エコロジ ー』が加わった日本の工作機械が,世界の製造業を支え る最良の手段となるよう,技術研鑽を進めていくことが 重要と考えている. * 植竹伸二 S. UETAKE * 12 執行役員 JTEKT ENGINEERING JOURNAL No. 1010 (2012)