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なんてことない日常会話。3 ミイラと漢方編

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なんてことない日常会話。3 ミイラと漢方編
なんてことない日常会話。3 ミイラと漢方編
かすみづき
タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト
http://pdfnovels.net/
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︻小説タイトル︼
なんてことない日常会話。3 ミイラと漢方編
︻Nコード︼
N6231BR
︻作者名︼
かすみづき
︻あらすじ︼
ご近所で﹁出る﹂と噂の古びた洋館に住む青年と、その青年の蔵
書目当てに通い詰める高校生の、どーでもいい日常会話。その2。
1
﹁﹃エジプトの古代美術とミイラ展﹄って云うのがやってるらしい
よ﹂
唐突にそんな事を言い出したのは、紺色のブレザーを身に着けた
人物だ。黒髪にくりっとした瞳の愛らしい顔立ちだが、男物の制服
にいじまゆかり
を着ているのでかろうじて男子だろうと推測できる。そんな彼の名
は、新島縁と云う。顔も名前も性別を疑いたくなるようなものだが、
彼はれっきとした男子高校生である。
﹁なんです、急に?﹂
そんな少年の言葉を受けて不思議そうに首を傾げるのは、少年の
向かいに座る青年だ。腰まで届くかと云う程に長い見事なまでの白
髪に、一度も日に焼けた事の無いかのような白い肌。そんな色素を
忘れたような容貌の中で、レンズの奥の瞳だけが赤く色付いている。
青年の名はエルネスト・ヴァン・ドラクリエ。名前の通り欧州系
の顔立ちをしている彼は、縁から﹁伯爵﹂と呼ばれている。本人が
名乗った訳ではなく、それっぽいからと云う理由で縁が一方的に命
名したものだ。
﹁いや、なんか学校の掲示板にそんなポスターが貼ってあったのを、
ふと思い出して﹂
そんな性別以外は共通点の無さそうな二人だが、意外と気が合う
らしく、縁がちょくちょく伯爵宅を訪れてはお茶をごちそうになっ
ている。
要するに、茶飲み友達である。
ホンムータン
伯爵︵縁命名︶は凝り性なのか、実に様々なお茶を出して来る。
本日のお茶は紅牡丹と云う、中国の紅茶だ。
この茶葉はまるでタワシかマリモのように丸められた見た目をし
2
ている。それを透明の茶器に入れてお湯を注いでしばらく置くと、
ふわりと茶葉が花のように開く。綺麗に開いたら飲み頃だと聞いた
縁は分かり易くて良いと思ったが、伯爵によれば目で楽しむ為の細
工なのだそうだ。
そんな少々マニアックな紅茶を飲みつつ、縁と伯爵の会話は進ん
で行く。
﹁札幌だか東京だか名古屋だか、はたまた大阪だか福岡だかでやっ
てるらしいよ﹂
﹁素直に開催地は忘れたと言ってはどうですか?﹂
﹁忘れる以前に覚えてないんだよ﹂
﹁そうですか。それにしても、ミイラ展⋮⋮ですか﹂
自分のカップに新たにお茶を注ぎながら、伯爵が少し眉を寄せる。
﹁どうかした? あ、ありがと﹂
﹁どういたしまして﹂
丁度空になっていた縁のカップにもお茶を注ぎ、ティーポットを
置いてから、伯爵は再び口を開く。
﹁ミイラって要するに亡くなった人間でしょう? いくら時代が経
過していて考古学の対象になるとは言っても、遺体を見せ物にする
のは、ちょっとどうかと思いまして﹂
﹁あー、ラムセス二世とか有名だよね﹂
3
新たに入れられたお茶を一口飲んでから、縁は言葉を続ける。
﹁まあ、そう言われると確かにちょっとどうかとも思うけど。需要
があるから供給が続けられてる訳だし、死者の威厳より生者の生活。
それで生活が立ち行く人がいる以上、しようがない事なんじゃない
の?﹂
﹁ユカリ君は興味あります?﹂
﹁うーん、まったく全然興味無いかって言われたらノーだけど。わ
ざわざ見に行くほど気になる訳でもないかな﹂
﹁どうしてですか?﹂
﹁どれだけ昔だとしても、伯爵も言ったように結局は人の死体でし
ょ? そこにどれだけの価値が付与されても、死体は死体でしかな
い訳で。人の死体なんか普通見たくないもんじゃない?﹂
﹁昔は、ミイラは貴重な漢方薬のひとつだったみたいですよ?﹂
﹁漢方って、かなり何でもアリだよね。ミイラを漢方にしてみよう
と思った人とは、ちょっと仲良くなれる気がしないわ﹂
縁の言葉に斜め上を見上げて少し何かを考えた様子の伯爵だった
が、すぐに視線を戻して話を続ける。
﹁ミイラの漢字はご存じですか?﹂
﹁え、うん。確か﹃木乃伊﹄だよね?﹂
4
もつやく
言いながら、指で机上に﹁木乃伊﹂と書くと、それを見て取った
マミー
伯爵がひとつ頷いた。
ミイラ
﹁木乃伊はmummieの漢訳で、そもそもの意味は没薬なんだそ
うですよ﹂
﹁もつやく?﹂
﹁はい。ミイラを造る際に、防腐や薫香の為に使用されていたみた
いですね﹂
﹁ふーん。それで?﹂
﹁この没薬、痛み止めやうがい薬などにも使われているらしいんで
す﹂
これは私の私見なんですが、と前置きして、伯爵は言葉を続ける。
﹁こういったミイラを造る際に使用された薬剤の効能を、そのまま
ミイラに期待したのではないかな、と思いまして﹂
﹁あー、なるほど﹂
﹁あくまでも私の勝手な思い付きですから、あまり真剣に受け止め
ないで下さいね?﹂
適当な知識を他人に植え付けては大変だと、伯爵は信憑性の薄さ
を縁に説いた。
だが説かれた縁は、全く別の事に気を取られていた。
5
﹁⋮⋮伯爵﹂
﹁何ですか、ユカリ君﹂
﹁実は中国人でしたか?﹂
﹁何でそうなるんですか﹂
以前に日本人かと問われた事もある為、若干声に呆れが混じって
いる。
﹁そもそも中国には行った事すらありませんよ﹂
﹁えー、だってさー﹂
﹁ですから、私の適当な推測だと言ったでしょう。腐敗しないミイ
ラに不老不死の妙薬となる可能性を見出したとかかも知れないです
し、珍しいモノはとりあえず漢方薬にしてしまえ、なんて人が居た
のかも知れないじゃないですか﹂
﹁最後の人、ヤバくない?﹂
﹁ヤバかろうと単なる推論なんですから、問題なんてありませんよ﹂
﹁妙に説得力があるのが問題と言えない事も﹂
﹁気のせいでしょう﹂
﹁そうかなあ?﹂
6
﹁はい。ユカリ君の気のせいです﹂
﹁うーん、まあいっか。とりあえず、素人は安易に手を出すなって
事だよね﹂
﹁今の話からそう結論が出るんですね﹂
﹁え、だってさ、ほんとに効用があるものもあるんだろうけど、ジ
ンクスでしかないものだって絶対ある訳じゃない? そこんとこの
見極めなんて、素人に出来る訳ないし。そもそも効く効かないも個
人差があるだろうから、Aさんは効いたけどBさんにはいっそ逆効
果だったーなんて事もありえるだろうし﹂
﹁ああ、すみません。私の言葉が悪かったみたいですね。ユカリ君
の結論が間違っていると云う訳ではなく、今の話からこのタイミン
グでその結論を導き出したユカリ君の思考過程が興味深いな、と私
が思ったと云うだけの事です。他意は一切ありませんので、含みが
あるように感じられたのでしたらすみませんでした﹂
﹁いや、別に含みがあると感じた訳じゃなくて、通じてなかったの
かなーとか思って補足しただけなんだけど。むしろ、今の伯爵の発
言の方が激しく気になるわ、僕﹂
﹁何かおかしな事を言いましたか?﹂
﹁うん。いや、内容がおかしいんじゃなくて、言葉のチョイスが凄
いって云うか﹂
日本生まれの日本育ちである生粋の日本人である縁でも、﹁思考
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過程が興味深い﹂とか﹁他意はないが含みが感じられたのなら﹂な
どと云う言葉はそうそう出て来ないし、また耳にもしない。
この辺りの発言が、伯爵が縁に日本人疑惑を持たれる原因の一端
なのだが。
本人がその事に気付く日は、まだまだ先の事のようだ。
8
PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n6231br/
なんてことない日常会話。3 ミイラと漢方編
2016年8月8日13時36分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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