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電磁石の強さの考察 - 大阪府教育センター
大阪と科学教育 19,3-6,大阪府教育センター(2005) 電磁石の強さの考察 1.はじめに 電磁石は電流と磁場の関係を調べる上で重要な教 材であり, 小学校6年で初めて学習する単元である. この単元では,電磁石で作られる磁場の強さが,コ イル巻き数と電流に依存して変わることを理解する. しかし,コイルや鉄芯の形状により電磁石の強さが 変化することは学習していない.実際に釘などに導 線を巻いて, 強い電磁石を製作しようと試みたとき, 釘の種類(材質)や形状等に左右されることが分かる. 本稿では,コイルの巻き方や鉄芯の有無によって 電磁石の作る磁場がどう変化するかを考察し,鉄芯 の形状によっても,変化することを述べる. 2.電磁石について まず,空芯(鉄芯のない)コイルの作る磁場につ いて考察する.無限ソレノイド(巻き数の線密度n が一定の理想的なコイル)の磁場の強さは, B = 0 nI ・・・(1) (μ0:真空の透磁率,n:単位長さ当りの巻き数, I:電流) で表される.ところが,多くの場合,電磁石の大き さは有限であり,無限ソレノイドの近似は成立しな い.実際にコイルを次に示すように製作し,中心の 磁場をホール素子で測定をしてみた.直径0.5mmの エナメル導線を直径9mmのボビンに,一層巻きで線 密度を一定にしながらコイルの巻き数を増加させた. 巻き幅はエナメル導線の直径と巻き数との積であり, 巻き数とともに増加する.電流 1 A を流したとき のコイルの中心磁場を測り,巻き数との関係をグラ フにすると図1が得られた. 100回を超えるところからほぼ一定値となり,式 (1)が成立するようになった.つまり,コイルの直径 に比べて巻き幅が長ければ,無限ソレノイドの近似 ――――――――――――――――――――――― * 大阪府教育センター 修* が正しくなる.コイルに鉄芯を入れたり,その形状 や材質を変えると電磁石の強さはさらに大きく変化 する.そこで,以下に,コイルの長さや鉄芯の存在 が電磁石に与える影響について述べる. 中心の磁場(G) 脇 島 25 20 15 10 5 0 0 50 100 150 巻き数(回) 200 図1 空芯コイルの中心の磁場 3.有限の長さのコイル(鉄芯がない場合) コイルを巻いて電磁石を作る場合,層状に巻くこ とが多い.それは,なるべく巻き線の密度を多くす るために行うが,コイルの層数が多くなると,巻き 幅に比べてコイルの直径が大きくなり, 式(1)が成立 しなくなる.有限長のコイルについては,実験的に コイルのインダクタンス (自己誘導係数)を求めた 長岡係数というものが知ら れている.長岡係数はコイ ルの直径と長さの比に対し て,無限ソレノイドコイル とのずれを係数にしたもの である.図2に示すように, 多層巻きコイルを内径a(m) と外径b(m),巻き幅 l (m) 図2 多層巻きコイル と,電流I(A),巻き線の密度を n(回/m)とすると, 中心磁場は次式で表される1). B = 0 n I l (b − a) ln l 2 +b2 +b l2 +a2 +a ・・・(2) 脇 島 外径と内径がほぼ等しいという近似をして,平均 直径d(=(a+b)/2)に置き換えると有限ソレノイ ドの磁場は B = 0 n I l l2 +d 2 ・・・(3) で表される.このように,平均直径dが大きくなる と,有効な長さが巻き幅 l とは異なり,巻き幅の二 乗と直径(平均直径 d)の二乗の平方根となり,無 限ソレノイドに比べて磁場は小さくなる. 式(3)を用いて前述したコイル(内径9.0mm,外径 10mm)の作る磁場を計算する (μ0=4π×10―7 , d=9.5mm) .その結果を表1に示す.実験結果はい ずれも計算値より小さいが,傾向は一致している. 表1 有限ソレノイドの磁場計算 修 コイルの全体の巻き数と層数との関係をグラフにし たものである.層数の増加とともに総巻き数が大幅 に減少しているのが分かる.また,電流を1 A 流し たときの,その層数と中心磁場の関係(計算結果)を 図4に示す.最初,層数の増加とともに単位長さ当 りの巻き数が増加し,中心磁場が強くなっている. さらに層数が増加すると総巻き数が減少し,平均直 径も大きくなる.そのため,中心磁場は減少の一途 をたどり,10層付近で最大値を示す. 200 中心の磁場(G) 4 150 100 50 0 磁場の強さ 巻き数 (回) 巻き幅 (mm) 計算値(G) 実験結果(G) 30 16.8 19.5 15.5 50 28.0 21.3 20.0 100 56.0 22.1 21.0 150 84.0 22.3 21.0 200 112.0 22.4 21.0 0 10 20 30 コイルの層数 40 50 図4 多層コイルの磁場の計算結果 (エナメル導線の直径0.5mm) 実際に,児童生徒が電磁石を作る場合,電源が電 池であるため,電流を多く流せないので,エナメル 導線をあまり長くすることはできない.それでは, 一定の長さのエナメル導線を与えたとき,どのよう な形状が最も強い電磁石となるだろうか. 一定の長さの導線(5 m)が与えられ,直径4mm の鉄棒に巻かれた場合を考える.エナメル導線の直 径は0.5mmである.式(3)を用いて多層巻きにしたと きの空芯コイルの磁場計算を行う.図3は多層巻き 4.鉄芯の効果 電磁石を強くするためには, 電流を多く流すこと, 巻き線の密度を上げること,その他に透磁率(μ) の高い強磁性物質を鉄芯に用いることである (式(1) 参照).その鉄芯の効果を見るために,太さが同じ で,長さの異なる鉄棒を用意し,磁石で一様に磁化 させ,釘を引きつける数を比べてみた.直径3mmで, 長さ400mmと200mmの鉄棒をそれぞれ棒の端から 端までアルニコ磁石で一度擦り,磁化したときの様 a aの拡大図 総巻き数(回) 400 300 200 100 0 0 10 20 30 コイルの層数 40 図3 コイルの層数による総巻き数の変化 50 図5 異なった長さの鉄棒の磁化(左400mm,右200mm) 電磁石の強さの考察 子を図5に示す.棒の長さの長い方が,磁場が強い ことが分かる.電磁石に鉄芯を入れた場合も,磁石 による磁化と同様の現象が見られると思われる.そ こで,直径6.5mmの鉄棒を用いて,挿入する鉄芯の 長さと電磁石の磁場との変化を測定した.コイルは 1層でエナメル線の直径は0.5mmである.電流は 1Aで線密度は一定にしながら,磁化する部分を長く していった.その結果を図6に示す.図1と図6の 比較から鉄芯を挿入した場合でも,無限ソレノイド と同様に,透磁率を最大にするためには巻き幅が十 分に長いことが大切であることが分かる. 5 有限の形状をもつ強磁性体では,材料自身の磁化 Mのため常に磁化の方向とは反対の方向に磁化Mに 比例する反磁場χNMが加わり,見かけの透磁率が 減少する.このχNを反磁場係数という.細長い棒 で,長さ方向に磁化させる場合は反磁場係数は小さ い値をもち,薄い板を厚さ方向に磁化させる場合, 反磁場係数は1に近い値を持つ.その結果,強磁性 体である鉄は,この反磁場効果により,有効な透磁 率が長さにより異なる.直径に比べて十分に長くな る程,より大きな透磁率μとなる.Bozorth1)によれ ば,丸棒の反磁場係数は図8のように表される. 反磁場係数 磁極付近の磁場(G) 1 200 150 100 50 0.1 0.01 0.001 0.0001 0 0 50 100 150 巻き幅((mm) 1 200 10 長さ/直径 100 図8 丸棒の反磁場係数 図6 鉄芯の長さによる電磁石の磁場変化 350 300 250 200 150 100 50 0 100 実効的な透磁率 磁極付近の磁場(G) 次に,巻き幅が一定で鉄芯の太さを変化させ,電 流1A流したときの磁極付近の磁場を測定した.鉄棒 の長さは200mmで直径0.5mmのエナメル線を1層 で一様に巻いた.図7に鉄芯の中央付近の磁場の変 化を示す.直径とともに磁場が減少しているのが分 かる. この反磁場係数χNを用いて,有効な透磁率は μ/(1+χNμ) (χNは反磁場係数)と表せる.こ の式と図8とから,比透磁率が100の場合の実効的 な透磁率のグラフは図9のように表せる.透磁率μ が大きい程,反磁場係数が影響する.実際に小学校 で釘にコイルを巻いて電磁石を製作するとき,釘の 直径や長さに注目する必要がある. 0 2 4 6 鉄芯の直径(mm) 8 10 図7 鉄棒の直径による磁場の変化 また,鉄棒の直径が大きくなると鉄棒の周囲の方 が強く,中央が弱くなっている.直径10mmの鉄棒 では,中央付近が175G,端が250Gであり,磁極付 近の均一性が悪くなっている. 80 60 40 20 0 0 20 40 60 長さ/直径 80 100 図9 実効的な透磁率 5.多層コイルにおける鉄芯の効果 直径4mmの鉄芯に直径0.5mmのエナメル導線 5mを巻いて,表2に示すように6種類の電磁石を製 作し,磁場測定を行った.鉄は加える磁場と磁化の 6 脇 島 関係で,磁場の増加と減少に対して磁化の大きさが 異なる.このように,強磁性体である鉄は磁気ヒス テリシスをもつので,その影響を避けるため,測定 は電流を増加させながら,0.1Aごとにホール素子で 測定を行った.コイルの層数は1層から6層まで変 化させた.その測定結果を図10に示す. 修 さらに,図11に層数に対してプロットし直したも のを示す.その結果,4層に巻いたものが最も強い 電磁石となっているのが分かる. 0.2A 0.4A 0.6A 0.8A 1.0A 700 600 表2 多層巻きコイルの磁石(1層から6層) 巻き幅(mm) 総巻き数(回) 1 177 350 2 80 320 3 50 290 4 35 265 5 25 240 6 20 225 500 電磁石の強さ(G) 層数 400 300 200 100 0 700 0 1 2 3 4 層数 5 6 600 図11 電磁石の強さの層数によるプロット 6.おわりに 小学校段階では電磁石の強さは釘等を引きつける 力,いわゆる磁力の大きさを比較している.小学校 で学習する磁力を明らかにする上でも電磁石の作る 磁場に対する考察が指導者には必要である.本稿に おいて,種々の電磁石をつくり,巻き数や巻き方を 変化させ,それらが作る磁場を測定し,強い電磁石 の条件を見いだすことを試みた.結果,コイルの形 状や電磁石に挿入する鉄芯の形状,材質がその条件 であることを示すことができ,反磁場係数が最も重 要であることを示した.電磁石は応用も広く,基本 的な電流と磁界の内容を含んでいるので,電磁石を より理解しやすい身近な教材にすることが期待され る. 電磁石の強さ(G) 500 400 300 1層 2層 3層 4層 5層 6層 200 100 0 0 0.2 0.4 0.6 電流(A) 0.8 図10 多層巻き電磁石の磁場変化 1 引用・参考文献 1) 近角聡信:強磁性体の物理(上),裳華房(1978) p.15,38