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プレゼンテーション 入門

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プレゼンテーション 入門
プレゼンテーション
入門
■はじめに
「プレゼンテーション」と聞いて「発表しなければならない」と尻込みしてしま
う人もいるでしょう。でも、
「友達と話す」行為も実は「プレゼンテーション」な
のです。そう考えてみると、人は日常生活の中において、無意識のうちに当たり
前のように何かを「みつける、まとめる、つたえる」というプレゼンテーション
活動を行っています。ここでは、
「無意識なプレゼンテーション」という荒削りな
活動から「意識したプレゼンテーション」という研ぎ澄まされた活動へとステッ
プアップする術を身につけましょう。
この章では、コンピュータを通じてプレゼンテーションの基礎を学びます。
4-1. 箇条書きの技術
■概説
プレゼンテ―ション入門
「見せる」ための技術
文書作成は、まずオーディエンス(読み手・聞き手)に「読んでもらう」ことを前提に作成するため、
そこには「読ませる」ための技術が伴います。一方、プレゼンテーションの場合、まずオーディエン
スに「見てもらう」ことが前提となります。そのため、プレゼンテーションでは「見せる」ための技
術が伴います。
「見せる」ための技術で重要なことは、「メリハリのある簡潔な文字でどう表現するか」ということ
です。文書作成のように「読んでもらう」ことが前提の場合は長文で表現することになりますが、
「見
てもらう」ことを前提としたプレゼンテーションの場合、オーディエンスに対して、できるだけ短文
で表現し、わかりやすくしなければなりません。長いだらだらとした文章では、オーディエンスに対
して伝えたいことがわかりにくくなります。また、
「読んでもらう」プレゼンテーションにすると、
オー
ディエンスが文章を読んでいる間は、プレゼンター(発表者)
の話には一切耳を傾けません。
なぜならば、
視覚のみを頼りに「どんなことが書いてあるのか」を理解しようとするからです。そうならないよう
に「見せる」ための技術を習得しましょう。
箇条書きとグループ化(階層化)の概念
箇条書きとは文字表現のひとつで、ある主題に対して、それに関連する事項を複数の文に分割し表
現する方法です。
プレゼンテーションソフト(PowerPoint)に箇条書きで記述していく作業では、文章で入力してい
くときとは異なる感覚で入力する必要があります。基本的に「きちんとした文章」で書かずに、主語、
接続詞などを省略し、文節の組み合わせや体言止めを用います。もちろん、語尾に「~です」
「~ます」
「~だ」はつけてはいけません。用語や単語、事象を概念的に階層化(グループ化)してまとめると、
その内容が一目でわかりやすくなります。
また、統一感を出すためには、例えば「言葉の意味の重要性を揃える」
「話す事柄の大小を整える」
「異
なる概念の表現を並べない」といった工夫も必要になります。
このような場合、「箇条書き形式」を使用して、上位概念・下位概念に分類しグループ化(階層化)
をします。グループをまとめているグループ長の役割をしている言葉を上位概念、その中にまとめら
れている言葉を下位概念といいます。2 ~ 3 レベルで構成された階層構造を作れるようになりましょ
う。
92
1 スライドの作成基準
スライドの作成基準は、1 枚に箇条書き 7 ~ 10 行程度、全体の文字数を 35 字~ 50 字程度、1 分
程度で話せるように収めるのが理想です。どんなに短くても 30 秒、長くても 2 分で収めるように構
成しましょう。上位概念・下位概念がきちんと表現されていれば、体系立てて理解しやすく、下のよ
プレゼンテ―ション入門
うなすっきりとしたスライドが作成できます。
箇条書き(番号無し箇条書き)と段落番号(番号付き箇条書き)
箇条書きには、「直列関係」といわれる順序や順位がある場合と「並列関係」といわれる順序・順
位がない場合に分類できます。直列関係の場合は「番号付き箇条書き」
、並列関係の場合は「番号なし
箇条書き」を使用します。この 2 種類を使い分けることによって、その文がスライドの中でどういう
位置づけなのかが一目でわかります。
■学習のポイント
●最初から箇条書きできない場合は、まず関連する事柄すべてを列挙してみましょう。
●上位概念と下位概念の区別がつかない場合は、以下に当てはめてみましょう。
-「【これ】は【こういうこと】」の【これ】が上位概念
-「【この】原因は【こういうこと】」の【この】が上位概念
●箇条書きは、ただ単に意味の無いキーワードが並んでいるわけではありません。列挙したキーワー
ドをつなげていくと意味のある文章が完成します。
この Section で学ぶこと
『箇条書きで記述する』ということを通じて
・プレゼンテーションにおける『グループ化(階層化)の概念』を学びます。
・プレゼンテーションで『スライドを使ってまとめる方法』を学びます。
93
例題:箇条書きとグループ化で表現しよう
箇条書き
プレゼンテ―ション入門
1.プロ野球 12 球団の球団名を箇条書きで入力します。
• 読売ジャイアンツ
• 中日ドラゴンズ
• 東京ヤクルトスワローズ
• 阪神タイガース
• 広島東洋カープ
• 横浜ベイスターズ
• 北海道日本ハムファイターズ
• 東北楽天ゴールデンイーグルス
• 福岡ソフトバンクホークス
• 埼玉西武ライオンズ
• 千葉ロッテマリーンズ
• オリックス・バッファローズ
インデント機能によるリストラベルの変更
2.「読売ジャイアンツ」の上に「セントラ
ルリーグ」、「北海道日本ハムファイターズ」
の上に「パシフィックリーグ」と入力します。
[Tips]
上位概念から下位概念へ:【Tab】
下位概念から上位概念へ:【Shift】+【Tab】
94
3.
「セントラルリーグ」
「パシフィックリーグ」
プレゼンテ―ション入門
はリーグ名であり、球団名とは違う概念な
ので、インデント機能を使用して球団名の
リストレベルを変更し、グループ化します。
4.リストレベルを変更すると、セントラルリーグの下位概念に 6 球団、パシフィックリーグの下位
概念に 6 球団が設定されます。
段落番号
5.両リーグとも、球団名に番号を付けましょう。
6.番号を付けるには、変更したい部分を範
囲指定し、段落番号を選択します。
95
応用問題:カテゴリごとにキーワードをグループ化しよう
能力要素の入力
1.ここでは、社会人基礎力に関する 12 の能力要素、3 つのカテゴリをグループ化します。まず、
プレゼンテ―ション入門
12 の能力要素を入力します。
12 の能力要素
・規律性 ・実行力 ・主体性 ・傾聴力 ・情況把握力
・創造力 ・柔軟性 ・発信力 ・働きかけ力 ・課題発見力
・計画力 ・ストレスコントロール力
3 つのカテゴリ
・前に踏み出す力(アクション) ・考え抜く力(シンキング)
・チームで働く力(チームワーク)
グループ化
2.次の 3 つのカテゴリを入力します。
3.各カテゴリにどんな意味があるのかを考
えながら、12 の能力要素を分類し、グルー
プ化します。
[Tips]
スライド上で作成したグループ化をツ
リー構造にすると、右のようになります。
スライド上だけでグループ化の概念がよく
わからない、イメージできないという場合
は、右のツリー構造と照らし合わせてイメー
ジしてみましょう。
96
発展問題:文章の要点をまとめよう
重要なキーワードを抜き出す
1. 次の文章の要点をまとめましょう。
ジネス(business)は ”busy-ness”、つまり「忙しい状態になる」ことを意味している。日本におけ
るビジネスは一般的に「営利企業における経済行為(商行為)
」を指すことが多いが、最近では営利
活動だけでなく公による活動や非営利活動におけるビジネスも含めて「事業目的を実現するための
活動の総体」として捉えるようになってきている。前者は営利企業の目的である「利益活動」を経
済活動の根幹としてその存在意義を成しているが、
後者は経済活動の根幹を
「経済的収支が絡む活動」
として捉えている。これは、その本質が「人間や社会に役立つ活動」や「使命実現のために社会的
価値を創り出す経済活動」へと変化しつつあるためである。
』
2.まず、重要だと思われるキーワードに線を引きましょう。
『ビジネスという言葉が日本で頻繁に使用されるようになったのは 1980 年代頃のことだが、本来ビ
ジネス(business)は ”busy-ness”、つまり「忙しい状態になる」ことを意味している。日本におけ
るビジネスは一般的に「営利企業における経済行為(商行為)」を指すことが多いが、最近では営利
活動だけでなく公による活動や非営利活動におけるビジネスも含めて「事業目的を実現するための
活動の総体」として捉えるようになってきている。前者は営利企業の目的である「利益活動」を経
済活動の根幹としてその存在意義を成しているが、後者は経済活動の根幹を
「経済的収支が絡む活動」
として捉えている。これは、その本質が「人間や社会に役立つ活動」や「使命実現のために社会的
価値を創り出す経済活動」へと変化しつつあるためである。
』
3.次に、線を引いたキーワードを抜き出し、箇条書きにします。
4.箇条書きにしたキーワードを並べ替え、グループ化したら完成です。
97
プレゼンテ―ション入門
『ビジネスという言葉が日本で頻繁に使用されるようになったのは 1980 年代頃のことだが、本来ビ
4-2. コンテンツ作成技術
■概説
プレゼンテ―ション入門
発表のコンテンツ
プレゼンテーションは、コンテンツ(内容)がしっかりしているかどうかで、オーディエンスの理
解度が大きく異なります。そのため、コンテンツ(内容)の構成をしっかりしておく必要があります。
簡単で有効なコンテンツ構成には SDS 法がお勧めです。SDS 法とは Summary(要約)
・Detail(本文)
・
Summary(まとめ)に集約する手法です。冒頭の Summary には全体の話の流れ、Detail には実際の
内容や詳細な部分、最後の Summary には全体のまとめや結論を書きましょう。
タイトルとコンテンツ作成
まず、タイトルをつけましょう。タイトルはプレゼンテーションのなかで重要な役割を果たします。
タイトルの決め方は、タイトルを見てコンテンツがどのような方向性の話なのかわかるようにつける
ことをお勧めします。ただし、ストーリーラインを作っていくなかで、タイトルの修正が必要になる
ことがあります。その際には、タイトルとストーリーラインに矛盾が生じないようにタイトルを変更
しても構いません。
また、コンテンツを作成するにあたり、プレゼンテーションソフトでは「1 枚のスライドに 1 つの
内容」を書くことを意識しましょう。伝えるべきコンテンツを切り分ける目安としては、以下の 3 点
に注意すると良いでしょう。
1) 起承転結ごとに区切る
2) 理論が展開する場面ごとに区切る
3) 説明すべき言葉や概念ごとに区切る
ストーリーライン
プレゼンテーションは、ストーリーライン(話の筋道)がなければオーディエンスに伝わりません。
ストーリーラインは建物を支える支柱と同じで、しっかりしていなければオーディエンスを納得させ
ることができません。そうならないために以下の項目に注意しましょう。
1) キーメッセージ(言いたいこと・伝えたいこと)の作成
2) キーメッセージを支える論理・論拠の構築
3) ストーリーの設計
4) コンテンツのビジュアル化とストーリーラインの整理
98
ビジュアル・エイド
ビジュアル・エイドとは「見た目」や「見映え」のことで、有効的な視覚効果を与え、オーディエ
ンスの理解を深めさせるための方法です。ビジュアル・エイドには文字のサイズや色、スライドの色
や全体の配色選定などにより視覚効果を与える方法とイラスト、図、写真や図解のようにオブジェク
トで視覚効果を与える方法があります。
スライドが複数にわたる場合、脈絡のない言葉の並びや前後関係を無視した表現は、オーディエン
各スライドの分量も均等に揃えてあると良いでしょう。そのためには、
「言葉の意味の重要性を揃える」
「話す事柄の大小を整える」といった事柄を意識し、印象に残る工夫をしましょう。
(オブジェクトによる視覚効果については、4-3.「ビジュアル・コミュニケーション」を参照してくだ
さい。)
参考文献・引用元の記載
プレゼンテーションのために作成するコンテンツも、第 2 章「文書作成の基礎」と同様に、第三者
が記した本や Web サイトを使用した場合は、原則として参考文献一覧を記載する必要があります。参
考文献一覧は作成した「まとめ」にあたるスライド
の後ろに 1 枚でまとめましょう。また、第三者が作
成した文やグラフなどを引用する場合は、スライド
の右下やグラフの下に引用元を記載しましょう。配
布資料として別途レジュメに参考文献一覧を記載す
る場合はこの限りではありません。
具体的な書き方については、2-2.「レポート作成
の基礎」や 2-3.「調査研究入門」で取り上げていま
すので参考にしてください。
■学習のポイント
●タイトルは「話の方向性を示す最初の一文」だと理解しておくと良いです。
●原則、キーメッセージはひとつです。複数ある場合にはひとつに絞りましょう。
●ビジュアル・エイドだけに凝っていてはいけません。まずはコンテンツを作成することが第一です。
この Section で学ぶこと
『コンテンツを作成する』ことに関して
・プレゼンテーションソフトを使った話の構成方法を学びます。
・プレゼンテーションソフトにおける『コンテンツ』の概念を学びます。
・プレゼンテーションソフトで『複数スライド』でコンテンツを分割する方法を学びます。
99
プレゼンテ―ション入門
スの混乱を招く原因となります。内容をよりわかりやすく伝えるための工夫として、体言止めにして
例題:自己紹介をしよう
コンテンツの作成
1.あなたは企業で面接を受けることになり
プレゼンテ―ション入門
ました。面接のテーマは「これまでの自分
と今後の自分」です。プレゼンテーション
ソフトを使用し、3 分間の自己紹介スライド
を作ってみましょう。
2.まず、タイトル部分に「これまでの自分
と今後の自分」と入力します。またサブタ
イトル部分に個人情報(氏名など)を入力
します。
3.次にスライドを追加し、自己紹介のため
のコンテンツを作成していきます。追加す
るスライドの種類は「タイトルとコンテン
ツ」です。
4.見出しタイトル部分に「基本情報」と入
力します。テキスト部分に「生年月日、出
身地、家族構成、経歴」を入力します。
100
5.3 枚目に「中学時代の経験」を作成します。
「タ
イトルとコンテンツ」スライドを追加し、見出
しタイトル部分に「中学時代」と入力します。
テキスト部分には自分が中学時代にどんな経験
をしてきたのか書いてみましょう。
プレゼンテ―ション入門
6.4 枚目に「タイトルとコンテンツ」スライド
を追加し、見出しタイトル部分に「高校時代」
と入力します。テキスト部分には自分が高校時
代にどんな経験をしてきたのか書いてみましょ
う。
7.5 枚目に「タイトルとコンテンツ」スライド
を追加し、見出しタイトル部分に「学生時代に
学んだこと」と入力します。テキスト部分には
実際に自分が中学時代・高校時代に経験を通じ
てどんなことを学んできたのか書いてみましょ
う。
8.6 枚目に「タイトルとコンテンツ」スライド
を追加し、見出しタイトル部分に「今後の展望」
と入力します。テキスト部分には自分が学生時
代に学んだことを活かしてどんなことに力を入
れたいのか書いてみましょう。
101
文字修飾と段落修飾
9.上位概念・下位概念が同じフォントや同じ色
ではわかりにくいコンテンツになってしまいま
す。メリハリをつけるために文字や段落を修飾
プレゼンテ―ション入門
します。
10.まず、フォントグループを使って、文字を
修飾します。文字のフォントや色・書式を変更
し、区切っている部分がわかるようにします。
11.次に、段落グループの「行頭文字ライブラリ」
もしくは「段落番号ライブラリ」を使って段落
修飾します。
12.すべてのスライドに対して、同様の文字修飾と段落修飾をします。
スライドデザイン
13.コンテンツや文字の色に合わせて、スライ
ドデザイン(背景色)を選択します。
102
応用問題:コンテンツの分量や質の違いを確認しよう
5 分用の自己紹介スライドの作成
1.まず、練習問題で作成した自己紹介スライド
プレゼンテ―ション入門
を開きます。
2.「趣味」と「休日の過ごし方」のコンテンツ
を 1 枚のスライドで作成し、5 分間の自己紹介
をします。その際、スライド 1 枚の分量や文字
の大きさが適切かどうかを確認します。
スライドの切り分け
3.確認できたら、今度は「趣味」と「休日の過ごし方」を別々のスライドに作成します。
4.スライド 1 枚に対するコンテンツの分量が他
のスライドと同じ分量になっているかどうかを
確認します。
5.同じ分量になっていない場合、再度スライド
に収めるコンテンツの分量を調整しましょう。
103
発展問題:インパクトのあるスライドを心掛けよう
テキストやオブジェクトへのアニメーションの追加
1.最初からスライドにどんなことが書かれてい
プレゼンテ―ション入門
るかがオーディエンスにわからないように、ス
ライドショーを実行させてから自分のタイミン
グでテキストやオブジェクトを表示させるよう
に設定します。
2.アニメーション効果の設定は「アニメーショ
ン設定」で行います。動画効果を設定して重要
ポイントの強調や一度に見せる情報量やタイミ
ングをコントロールします。
3.アニメーション効果には次の 4 つの効果があ
ります。
1) 開始
2) 強調
3) 終了
4) アニメーションの軌跡
どの設定がオーディエンスに効果があるのか
を考えて設定します。
4.【再生】ボタンで、どのようなアニメーショ
ンが設定されたのかを確認します。
104
スライドマスタの作成
1.デザインテンプレートを使用せずに、自
作のスライド背景を作成したい場合、スラ
イドマスタにテンプレートをデザインしま
プレゼンテ―ション入門
す。
2.まず、【表示】タブ→【スライドマスタ】
を選択します。
3.タイトルスライドのスライドマスタに、
図形などを使用してデザインしていきます。
4.すべてのスライドマスタに統一感を持た
せるため、その他のスライドマスタにも 2. と
同様にデザインしていきます。
5.デザインできたら、ファイルの種類を 「PowerPoint テンプレート」
(.pot ファイル)
にして保存すれば完成です。
6.【新規作成】で「新しいプレゼンテーショ
ン」を開き、作成したデザインテンプレー
トを確認してみましょう。
105
4-3. ビジュアル・コミュニケーション
■概説
プレゼンテ―ション入門
図式と図解
図式とは文章のエッセンスをオブジェクト(図形・絵など)で表現することです。一方、図解とは
オブジェクトを使用して解き示すことです。両者の大きな違いは、前者はオブジェクト自体に意味が
あり、後者はオブジェクトで表現されたコンテンツに意味があるということです。図解は、自分の思
考(自分が思っていること)を言葉にし、その言葉を可視化することでコミュニケーションを図る表
現方法のひとつです。近年では、ビジュアル・コミュニケーションともいわれています。
良い図解の基準
世の中のすべてが図解できるからといって、好き勝手に図解しても良いというものではありません。
なぜならば、図解にも、良い図解と悪い図解があるからです。良い図解になっているかどうかを判断
する基準は「きちんと論理的整合性がとれているか」
「簡潔にまとめられているか」
「一目で理解でき
るか」です。
図解を通じてオーディエンスに対して説得をしたい場合は特にそうです。図解は単に説明するため
だけのものではありません。図解は時としてオーディエンスを説得する武器にもなります。そのため
には図解を通じてオーディエンスが抱いている「Why?」を解消するための筋道や流れがしっかりし
ているかが重要になります。
人物や概念は基本図形や矢印で表現
説明しようとしているストーリーや事柄を可能な限りシンプルかつ的確に理解するためには、簡単
な図形(例えば丸や四角など)を用いるだけでも十分です。説明しようとしている概念の関係を意識
しながら、「同じ概念=同じ図形」「異なる概念=別の図形」で表現しましょう。色を使用する場合は、
日常の中で習慣的に使われている色(例えば、男性は青系のクールな色、女性は赤系などの明るい色)
を活用すると良いでしょう。
また、関係性・順序関係・前後関係などを表現する際に有効的なのが矢印です。矢印は向いている
方向から「どういう流れなのか」
「どういう関係が成立しているのか」
を一目で理解することができます。
106
図解作成までの手順
1) 説明・説得したいコンテンツを考える
2) コンテンツからキーワードを抽出する
3) 関連するキーワードどうしをつなぐ
4) 全体の流れを明確にする
5) キーワード間の関係に合わせて図解をイメージする
プレゼンテ―ション入門
6) 実際に図解する
Column:ビジネス社会とビジュアル・コミュニケーション
ビジネス社会に出ると、オーディエンスに対して、想いやコンテンツを可視化させる機会が多くあ
ります。例えば、企画部門や営業部門の担当者になった場合、オーディエンス(企業や顧客)に対し
て新規事業や新商品に関する「コンテンツ」を可視化させなければなりません。また、経営部門や労
務管理部門の担当者になった場合は、オーディエンス(自社の社長や上司)に対して組織の方向性や
改善策に関する「想い」を可視化させる必要があります。ビジュアル・コミュニケーションを究めて、
想いやコンテンツをオーディエンスに伝えましょう。
■学習のポイント
●日頃から思ったことを絵でイメージする癖をつけておくと図解しやすいです。
●まず「何と何が、どういう位置づけにあるのか」を考えましょう。
●キーワードは「重要なこと」「注目すべき部分」
「主張したい部分」です。
この Section で学ぶこと
『ビジュアル化する』ということを通じて
・プレゼンテーションに必要な絵で表現する方法を学びます。
・プレゼンテーションにおける図解の概念を学びます。
・プレゼンテーションソフトで図形を使って図解する方法を学びます。
・プレゼンテーションソフトを通じてコミュニケーションを図る方法を学びます。
107
例題 1:絵を描こう
オブジェクトの挿入と書式設定
1.オブジェクトを使用して右の例のような
プレゼンテ―ション入門
絵を描いてみましょう。
2.まず、白紙スライドに「円/楕円」を 6 つ、
「二等辺三角形」を 4 つ、「角丸四角形」を
1 つ準備します。
3.オブジェクトを組み合わせ、線や塗りつ
ぶしなどの細かい描画に関する設定を行い
ます。ここでは胴体を「パステル-濃色 1」、
リボンを「パステル-アクセント 2」にし
ます。
4.オブジェクトのサイズ変更ハンドル(小
さな□や○マーク)をマウスでドラッグし
て、図形の大きさや向きを変更します。
108
オブジェクト順序の変更
5.オブジェクトは、描いた順序によって表
示の前後関係が決められています。前後を
移動させたいオブジェクトの順序を「前面・
プレゼンテ―ション入門
最前面・背面・最背面」のいずれかに移動
します。
オブジェクト内へのテキストの挿入
6.オブジェクトにはテキストを挿入するこ
とができます。テキストを挿入した後は、
文書作成ソフトやプレゼンテーションソフ
ト の書式設定と同様に、文字の大きさや色、
フォントの種類、位置などを変更します。
オブジェクトのグループ化
7.グループ化はグループ単位で、移動・変
形・拡大・縮小・削除などの操作ができる
機能です。最後の仕上げとして複数のオブ
ジェクトをグループ化し、ひとつのオブジェ
クトとしてまとめます。
109
例題 2:人のつながりを図解しよう
オブジェクトの挿入と書式設定
1.次の文章を読み、3 人の関係をわかりや
プレゼンテ―ション入門
すく図解しましょう。
『A 子さんは B 太郎くんに片思いをしていま
す。でも B 太郎くんは A 子さんと親友の C
子さんが好です。一方、C 子さんも B 太郎
くんに対してまんざらでもないようです。』
2.まず、白紙スライド「角丸四角形」を 3 つ、
「右矢印」を 2 つ、
「ストライプ矢印」を 1 つ、
「左右矢印」を 1 つ挿入します。
3.右のような位置関係で配置し、必要な情
報を入力します。
4.「関係」を表す部分はテキストボックスを
挿入し、関係を書きます。
5.あとは関係や雰囲気に合わせて色を変更
したら完成です。
110
例題 3:電車の路線を図解しよう
オブジェクトを使ったプロセスやフローの図解
1.次の文章を読み、電車の路線を図解しましょう。
プレゼンテ―ション入門
『総武線は、錦糸町を出ると亀戸、平井、新
小岩、小岩、市川の順に止まります。また、
総武快速線が並行して走っており、錦糸町
の次は、新小岩、市川の順に止まります。』
2.まず、白紙スライドに「円/楕円」を 2 つ、
「角丸四角形」を 6 つ、「矢印」を 2 つ挿入
します。
3.「円/楕円」に電車の種類、「角丸四角形」
に停車駅名を入力します。
4.錦糸町・新小岩・市川は、総武線と総武
快速線の両方が停車するので、
「角丸四角形」
の横幅を広げます。
5.矢印の長さを路線に合わせます。
6.あとはわかりやすいように電車ごとに矢
印や路線名の色を変更し、停車駅の文字を
大きくしたら完成です。
111
応用問題 1:大学の学部・学科を図解しよう
SmartArt を使った包含関係(ツリー構造・構成)の図解
1.次の文章を読み、大学に設置されている
プレゼンテ―ション入門
学部・学科を図解してみましょう。
『千葉商科大学には、商経学部・政策情報学
部・サービス創造学部の 3 学部があります。
商経学部には商学科・経済学科・経営学科
が、政策情報学部には政策情報学科が、サー
ビス創造学部にはサービス創造学科が設置
されています。』
2.まず、SmartArt の中から「横方向階層」
を選択し、必要な情報を入力しましょう。
その際、左が上位概念、右が下位概念とな
るので注意しましょう。
3.初期設定では図形が不足しているので、 不足分の図形を追加します。
4.色を「カラフル-アクセント 4 から 5」、
スタイルを「光沢」に変更したら完成です。
112
応用問題 2:大学における自分と友達の所属を図解しよう
オブジェクトを使った包含関係(従属・グループ関係)の図解
プレゼンテ―ション入門
1.応用問題 1 を参考に、次の文章を読み、
「角
丸四角形」と「円/楕円」を使って図解し
ましょう。
『A さんは千葉商科大学商経学部経済学科の
学生、友達の D くんは政策情報学部政策情
報学科の学生です。』
2.従属・グループ関係を図解する際に、考
えなければならないのは「どの概念が最上
位概念になるのか」ということです。
3.まず、白紙スライドに「角丸四角形」を
1 つ挿入し、大学名を入力します。名前は
テキストボックスを使用しましょう。また、
適宜オブジェクトの色を変更しましょう。
4.次に、その中に「角丸四角形」を横に 3
つ挿入し、学部名を入力します。その上か
ら、
「角丸四角形」を左に 3 つ、中央に 1 つ、
右に 1 つ挿入し、学科名を入力します。
5.最後に「円/楕円」を 2 つ挿入し、A さんと D くんの名前を入力したら完成です。
113
発展問題:アンケート調査の結果を図解しよう
SmartArt を使ったベン図によるグループ関係の図解
1.次の文章を読み、アンケート調査の結果
プレゼンテ―ション入門
を図解しましょう。
『好きな食べ物に関するアンケート調査を実
施した結果、リンゴが好きだと答えた人が
30 人、モモが好きだと答えた人が 40 人、
メロンが好きだと答えた人が 50 人いまし
た。その中でリンゴとモモが好きだと答え
た人が 10 人、モモとメロンが好きだと答
えた人が 15 人、リンゴとメロンが好きだ
と答えた人が 10 人いました。また全て好
きだと答えた人が 5 人いました。』
2.まず、SmartArt グラフィックの中から「基
本ベン図」を選択し、アンケート結果の情
報を入力していきます。ここでは、
「リンゴ」
「モモ」「メロン」「リンゴ+モモ」「モモ+
メロン」「リンゴ+メロン」がキーワードに
なります。
3.ベン図内に入力できない部分について は、テキストボックスや他の図形をベン図
に組み合わせます。
4.最後に人数を計算して入力したら完成です。
114
Column:ビジュアル・コミュニケーションのあれこれ
プレゼンテーションソフトでコミュニケーションを図ろうとすると、よく「スライドを作成する」
ことが目的になってしまいがちです。果たしてそれが本来の目的だったのでしょうか。
「何かを作るプ
いえません。そこで 4-3. では「図解で可視化する」というプロセスを通じて、プレゼンテーションソ
フトによるビジュアル・コミュニケーションの方法に焦点を当てました。
しかし、図解で可視化することだけがビジュアル・コミュニケーションではありません。実は「箇
条書きの技術」や「コンテンツ作成技術」も深く関係しているのです。ですから、
「これが絶対」とい
うビジュアル・コミュニケーションの形式はありません。
以下の 3 つは実際に「教員から学生に対するワンメッセージ」として作成されたスライドです。こ
の対象的な 3 つのスライドにはどういったビジュアルの違いがあるのかを考えてみましょう。
115
プレゼンテ―ション入門
ロセス」がそのまま目的化してしまうことは本末転倒であり、コミュニケーションが図れているとは
4-4. プレゼンテーション技法
■概説
プレゼンテ―ション入門
プレゼンテーションの目的
プレゼンテーション(presentation)とは、オーディエンスが知りたいことやオーディエンスに知
らせたいことを、調査・研究した上で提供(発表)し、
共感を持ってもらう行為です。プレゼンテーショ
ン技法はビジネスパーソンとして最低限身につけておくべき技術のひとつとして必須の能力となって
います。現在では、大学生も研究会や講義のなかでプレゼンテーションを行う機会が増えています。
「説明」と「説得」
「説明」はオーディエンスに情報を伝えること、
「説得」はこれに加えてプレゼンターの言いたいこと・
訴えたいことを伝えることです。「説得」は、オーディエンスのさまざまな欲求・価値観を捉えて、オー
ディエンスを引き込む必要がありますが、決まった方法はありません。状況に合わせて発表方法を変
えましょう。
主張的(assertive)な自己表現
プレゼンテーションの目的は、「いかにオー
ディエンスに自分の主張を伝え、理解しても
らうか」です。オーディエンスが理解してく
れるということは、オーディエンスとコミュ
ニケーションを図ることができたということ
です。そのためには、主張的(assertive)な
自己表現ができなければなりません。
116
デリバリーの技術
発表は大きな声で話すだけでなく、視線や目配り、身振りや手振りなどのデリバリーをしっかりさ
せることで、より主張したいことをオーディエンスに伝えることができます。発表は単に手元の資料
を読むのではなく、オーディエンスを見ながら話すことを心掛けましょう。また、
質問があった際には、
「誰がどんな質問をしたのか」を書き留めて、
「質問ありがとうございます」と述べてから応答すると
いいでしょう。
プレゼンテーションをする前に、以下の項目を確認しましょう。確認できたら各項目に□を入れま
しょう。すべての項目に□ができたらプレゼンテーション本番です。
□ タイトルがコンテンツの方向性と合致している
□ キーメッセージが明確になっている
□ 主張に関して根拠が論理的に揃っている
□ 頭に入りやすい流れになっている
□ メッセージが目に飛び込みやすくなっている
□ オーディエンスの理解が深まる構成になっている
□ 話のポイントが印象に残りやすく工夫してある
□ 相手の関心や理解度に合わせて説明できている
□ 議論につながる発表内容になっている
□ 今後の展開への動機づけになっている
この Section で学ぶこと
『オーディエンスに説明する・説得する』ということに関して
・プレゼンテーションのためのデリバリーの方法を学びます。
・プレゼンテーションにおける心構えを学びます。
・プレゼンテーションでオーディエンスへの配布物の作成方法を学びます。
117
プレゼンテ―ション入門
プレゼンテーションのためのチェックリスト
例題:配布資料を作成しよう
印刷プレビュー
1.配布資料を作成するにあたり、印刷を始
プレゼンテ―ション入門
める前に、必ず印刷プレビュー画面でどの
ように印刷されるかを確認します。
印刷方法の設定
2.次に、印刷方法の設定をします。初期設
定では印刷対象が「スライド」となってい
ますので、「配布資料」に設定します。ここ
では「配布資料(3 スライド / ページ)」を
選択します。
3.「配布資料(3 スライド / ページ)」を選
択すると印刷プレビュー画面には、左側に
「スライド」、右側に「ノート」(コメント記
入欄)が表示されます。
118
ヘッダーとフッター
4.印刷方法の設定が終了したら、最後に配布資料に載せる情報を入力します。
プレゼンテ―ション入門
5.まず、「オプション」の中の「ヘッダーと
フッター」を開きます。初期設定では、右
上のヘッダー部分には日付、右下のフッター
部分には配布資料のページ番号が挿入され
ていることを確認してください。
6.「ノートと配布資料」の中のヘッダー部分
に自分の氏名を入力します。
7.入力が完了したら「すべてに適用」を選
択します。
8.ヘッダーとフッターに載せている情報を
確認し、間違いがなければ配布資料を印刷
します。
119
応用問題:リハーサルをしよう
リハーサル機能による時間配分の把握
1.プレゼンテーションを行うにあたり、リハーサルを行います。
プレゼンテ―ション入門
2.リハーサルでは、リハーサル機能を使用し、1 スライドあたりのスライドショーおよび全体の所
要時間を記録してくれます。
3.リハーサルが終了すると、スライドショー全体の所要時間を示してくれます。この時間配分どお
りでよければ、タイミングを記録して本番で使用します。
画面の切り替え
4.スライド画面の切り替えを、アニメーショ
ンを使用して設定します。初期設定ではス
ライド画面の切り替えは「なし」に設定さ
れています。ここではワイプを使います。
5.リハーサル機能を使用しない場合、画面
切り替えのタイミングを「クリック時」と「自
動的に切り替え」のいずれかで設定しましょ
う。
120
発展問題:「説得」のためのプレゼンテーションをしよう
表やグラフの挿入
企業である B 社も同様の商品を販売しています。自社商品をヒットさせるために、
「B 社よりも良い
商品である」ことをアピールしてください。
2.スライドを作成します。
3.B 社と A 社を比較する場合、「タイトルと
コンテンツ」スライドでも問題ありません
が、スライド内の左右で比較できる「比較」
スライドを使うとわかりやすくなります。
4.「グラフの挿入」で、スプレッドシートソ
フト(表計算ソフト)が開くので、そこに
新商品の予想売上販売数と売上見込額を入
力します。
5.B 社と A 社の商品比較が一目でわかるよ
うに比較内容を表形式で表します。
121
プレゼンテ―ション入門
1.あなたは A 社の営業担当です。あなたの会社は新商品を売り出したばかりです。ただ、ライバル
チェックリスト
この章の問題は以下のとおりです。習得した項目に□を入れましょう。
4-1. 箇条書きの技術
チェック項目
プレゼンテ―ション入門
例題
箇条書きとグループ化で表現しよう
応用問題
カテゴリごとにキーワードをグループ化しよう
発展問題
文章の要点をまとめよう
4-2. コンテンツ作成技術
チェック項目
例題
自己紹介しよう
応用問題
コンテンツの分量や質の違いを確認しよう
発展問題
インパクトのあるスライドを心掛けよう
4-3. ビジュアル・コミュニケーション
チェック項目
例題 1
絵を描こう
例題 2
人のつながりを図解しよう
例題 3
電車の路線を図解しよう
応用問題 1
大学の学部・学科を図解しよう
応用問題 2
大学における自分と友達の所属を図解しよう
発展問題
アンケート調査の結果を図解しよう
4-4. プレゼンテーション技法
チェック項目
例題
応用問題
発展問題
122
配布資料を作成しよう
リハーサルをしよう
「説得」のためのプレゼンテーションをしよう
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