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環境の法的保護と民事訴訟―日本法の課題とフランス法からの示唆

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環境の法的保護と民事訴訟―日本法の課題とフランス法からの示唆
環境の法的保護と民事訴訟
-日本法の課題とフランス法からの示唆
地域社会講座
小野寺倫子
1.環境の法的保護における市民参加の必要性
①公害問題における立法府・行政府の対応の遅れ
→被害者は加害者に対する損害賠償請求訴訟を裁判所に提起
②民主的政治過程による環境保護の構造的限界
環境規制のマイナスの影響・・・各種産業における生産コストの上昇
環境行政のための財政負担の増加
生活の快適さが犠牲になる可能性 etc.
⇔環境規制のプラスの影響が多数の国民の生活に直接的にもたらされるとは
限らない
→民主的政治過程において適切な政策が適時に選択されない可能性
2.裁判を通じた環境の法的保護の必要性と障害
①民主的政治過程による環境保護法制を補完するシステムとしての裁判
→裁判を活用するメリット:市民が直接イニシアティヴを発揮できる
②自然環境の保護の領域で裁判を活用する場合の障害
・環境利益の帰属主体が存在しない
・・・・・・誰が訴訟を提起できるのか、誰が損害賠償をうけとるのか
※現代の裁判制度では、原則として自分自身の権利・利益についてしか訴え
の提起の資格が認められない(公害問題と自然環境問題の違い)
③解決の試みと挫折
例:環境権論・・・ 「権利」という法概念と環境の性質は相いれない
3.フランスにおける環境団体訴訟と環境損害の賠償
―ミサゴ事件からエリカ号事件へ
①ミサゴ事件
事案:サン・マーシャル狩猟組合が狩猟を実施した際、保護の対象となってい
る猛禽(ミサゴ)が射殺されたが、憲兵隊の捜査にもかかわらず犯人は特定さ
れなかった。その地方で鳥類の研究・保護活動を行っていた非営利社団ローヌ・
アルプ鳥類学センターは、狩猟許可証の発行が適切に行われていなかったことを
理由として、狩猟組合に対して損害賠償請求を行った。
判決:トゥルノン小審裁判所1981年4月28日判決は、狩猟組合に対して
2000フランの精神的損害の賠償を命じた。この結論は破毀院1982年11月
16日判決においても維持された。
→ここで賠償の対象となっている損害の実質的内容・・・「環境そのものに生じた
損害(環境損害)」なのではないか(学説による意味づけ)
②エリカ号事件
事案:1999年年末にブルターニュ沖で起きたタンカー(エリカ号)の難船か
ら発生した海洋汚染について、多数の公共団体や環境保護団体が損害賠償
の請求を行った。
判決:第1審(パリ軽罪裁判所2008年1月16日判決)は、1つの地方
公共団体(汚染を受けた県)と1つの環境保護団体(油濁被害を受けた野
鳥の保護活動を行った団体)に対して「環境への侵害から生じた損害」の名目
で損害賠償を付与。第2審(パリ控訴院2010年3月30日判決)は、客観
的損害としての環境損害(「自然環境、すなわち・・・空気、大気、水、土壌、
地面、景観、自然地区、生物多様性、それらの諸要素の相互作用に対する
無視できない)すべての侵害からなる損害」)が賠償の対象となることを承認。
請求認容とされた原告の範囲も第1審より拡大。破毀院2012年9月25日判
決はパリ控訴院判決を支持。
③環境損害の賠償を目的とする民法典改正への動き
4.日本法への示唆
①環境・・・・・・公共の利益(公益)と私的利益(私益)の中間的性格
②環境利益の担い手としての環境保護団体の役割
※伝統的な考え方:公益の担い手・・・国、私益の担い手・・・個人
※これに加えて、現代社会では公益と私益の中間的な利益の担い手=第
三の法的アクターとしての役割が環境保護団体のような中間団体に期待される
③損害(=被侵害利益)概念の現代的変容
・「損害」は「権利」に比べて柔軟な法概念:社会の変遷に対応しやすい
・ただし日本の民法709条では他人の権利・利益の侵害が損害賠償の要件
→日本法における抜本的な問題解決のためには立法の関与が必要
ご清聴ありがとうございました
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