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道央自動車道 高盛土のり面災害復旧の報告 63
地盤工学会 北海道支部 技術報告集 第 5 5 号 平成 27 年1 月 於 室 蘭 市 道央自動車道 高盛土のり面災害復旧の報告 東日本高速道路株式会社 正会員 ○小山 良生 1. はじめに 道央自動車道(以下「道央道」という。)森 IC~落部 IC 間は、平成 23 年 11 月 26 日開通した暫定 2 車線の 高速道路である。当該区間の森町本茅部地区(図-1) において、平成 25 年 5 月 9 日(木)のり面の詳細点 検時に 6 段盛土の最下段でのり面崩落箇所を発見した。 崩落した盛土(図-2、写真-1、2)は、幅約 30m、高 さ約 10m、奥行き約 10mの約 2,000 ㎥の盛土のり面が 崩落したものと推定した。なお、崩落確認後、崩落箇 所以外ののり面の緩み、はらみ出し等は認められず、 供用中の路面にも変状が認められないことを確認し、 盛土のり面崩落の進行を防止するため応急復旧として、 シート養生、排水工の仮復旧を行った。その後、本対 策工の設計及び検討を行いながら工事を進め、平成 25 年 12 月に本対策工を完成させた。 至 札幌 本報告は、のり面崩落の時期・原因の推測、応急復 旧および本復旧の本体策工完成までの過程を報告する ものである。 2. 点検および災害発見時の状況 東日本高速道路株式会社(以下「Nexco 東日本」と のり面崩落箇所 いう。)の保全点検要領での点検の頻度は、土構造物 至 函館 であるのり面の詳細点検は、供用後 2 年以内に実施す る規定である。 当該区間は平成 23 年 11 月 26 日に供用し 図-1 位置図 たため、盛土の安定および植生の生育状況を 確認するため 2 年目の融雪期が経過した平成 25 年 4 月から点検を始め、5 月 9 日に当該の 工事用道路 り面崩落箇所を発見した(図-2、写真-1、2)。 至 札幌 S254.1KP 当該箇所は、図-2、3 のとおり高速道路の 盛土の間に町道が通っているのと、6 段盛土 の最下段であるため高速道路上からは発見す ② ることは困難な状況であった。 災害箇所の概況は、盛土の崩落並びにパイ 至 函館 町道 プカルバート(φ1500)および排水溝の変状、 ① 隣接地地山の崩落を確認した。また、盛土材 料および地山は、火山灰質砂(駒ヶ岳火山噴 のり面崩落箇所 図-2 災害箇所平面図 出物)で、崩落土のほとんどが流失してしま っていたというものであった(写真-1、2。①、②は、図-2 参照)。 High embankment slope disaster restoration on Hokkaido Expressway:Ryosei Co .Ltd.,) 63 KOYAMA (East Nippon Expressway ② ① 排水溝 写真-1 災害状況 写真-2 災害状況 3.地形・地質状況 3-1.地形状況 道央道の本茅部地区は、内浦湾(噴火湾)の南西海岸に位置し、海岸線にほぼ平行して山側に約 200~400 m入り込んだ標高 50~100m程度の台地区間を通過しているため、丘陵頂部を切土・トンネルで、谷地部・ 河川が形成した低地を横断する箇所では橋梁・盛土の道路構造となっている。谷地部の斜面は、自然河川の 下刻が盛んで急峻な斜面を形成しており、道央道と交差する盛土崩落のあった当該箇所は、相応の谷底低地 を形成している地形であった。 3-2. 地質状況 地質は、新第三紀中新世の八雲層硬質頁岩の基盤岩の上部に第四系の森層および石倉層が厚く分布して丘 陵を形成しており、さらに、表層部全体を駒ヶ岳火山噴火物が覆っている。谷地部・河川沿いには、小規模 な段丘堆積物、現河床堆積物が谷地沿いおよび斜面裾から緩傾斜部に崖錐堆積物が分布している。 このような地形・地質の状況に対し、盛土崩落のあった当該箇所は、谷底低地に火山灰や火山灰質砂を主 体として高盛土された道路構造であった(図-3)。 Nexco 東日本の設計要領「第一集土工編第 6 章 高盛土・大規模盛土」では、道路においては一般的に盛 土高が 15mを超えるような盛土を「高盛土」と定義しており、盛土 1 段の高さとしては 5~7m程度であるた め、3 段以上の道路盛土は「高盛土」として設計・施工している。 町道 図-3 災害箇所断面図 64 崩落箇所 4.災害発生時期の推測 のり面崩落がいつ発生したのかを推測す m) るために、当社の GIS に登録している衛星 写真を確認した。この衛星写真では、平成 24 年 10 月までは崩落していないことが確 認できた。次に、アメダス森(森町)デー m) タを基に積雪深と高速道路上に設置してい る最寄りの気象観測器の降水量から積雪深 と降水量のグラフ(図-4)を作成した。 ★ 発 見 5.9 積雪については、図-4 から積雪深がゼロ となった 3 月 29 日に消雪したものと推測し た。一方で、降水日および降水量は、3 月 図-4 積雪深と降水量 の積雪期間中に数回降雨が観測され、この 降雨が融雪を促進したものと思われる。さらに、消雪後の 4 月以降は、4 月 6 日から 11 日までで 53 ㎜、4 月 14 日から 19 日までで 41 ㎜、4 月 24 日から 27 日までで 19.5 ㎜、5 月 5 日から 6 日までで 22 ㎜とまとま った降雨期間が 4 回ある。災害発生の時期の特定は困難だが、3 月の融雪期で盛土内の間隙水圧が上昇して いる中、4 月以降のまとまった断続的な降雨が盛土崩落を誘発していると考えられるため、4 月以降で盛土崩 落発見の 5 月 9 日までの 1 ヶ月以内の断続的な降雨の期間中または降雨後に盛土崩落災害が発生したものと 推測する。 5.崩落原因の推測 詳細点検の結果および既存資料より、次の事項を確認した。 ① のり面崩落は、地山を含む盛土で発生している。 ② 谷地横過部は、集水地形で盛土材料および地山は火山灰質砂で侵食を起こしやすい地質条件であり、特 に、崩落した盛土部は水が集中しやすい箇所であった。 ③ 建設時、平成 21 年の融雪期に変状履歴あった。 ④ 消雪後、まもなく約 40 ㎜のまとまった降雨があった。 ⑤ パイプカルバート内の流水はなく、地山崩落部より湧水があった。 これらの状況から、盛土のり面崩落の原因は、崩落しやすい地質条件の中で、融雪期の融雪水や地山から の浸透水により盛土内の間隙水圧の上昇している状況で、融雪期状態を継続させる断続的なまとまった降雨 が要因となって崩落が発生したものと推測した。 6.応急復旧の概要 応急復旧は、崩落部の被害拡大防止及びコルゲート パイプ吐口下部の洗掘防止のためブルーシート養生を 実施した(写真-3)。 7.本復旧の概要 7-1.本対策工の検討について 本対策工は、のり面崩落の被害拡大および降雪期に よる工事中断等を考慮して、降雪前の 12 月までに完 成することを目標として計画した。 災害が発生した要因の1つとして、谷地地形のため 周辺流域の水が集まりやすいこと、また、盛土材料が 周辺の地山の掘削土砂である火山灰や火山灰砂質土が 65 写真-3 応急復旧状況 主体の土構築物のため、降雨や融雪水により被害が拡大する恐れがある。これにより降雪前までに対策工を 完成させる必要に迫られた。 7-2.本対策工について 本対策工法は、新たに用地取得をした工法も 含めていくつかの工法を検討した。新たな用地 の取得は、平成 25 年の降雪前までには取得が難 しいことが確認された。 以上のことから、本対策工法は、平成 25 年の 降雪前までの短期間で、現在の高速道路区域内 に収まる構造物を計画しなければならないとい う制約がある中で検討した結果、①土留めとし 図-5 ての擁壁機能、②集水機能、③減勢機能を一体 対策工平面図 化した「重力式擁壁」と「落差工」を兼ねた構 造物を計画し、本対策工として施工した(図-5、 6)。 7-3.本対策工の施工について 本体策工の施工については、次のとおり施工 した。 1)工事用道路の整備 本復旧工事に着手するには、工事用道路の整備 が必要となった。工事用道路は、道央道の札幌方 向の車線側から町道に直接出入りできる出入口を 整備し、さらに、高盛土最下段の崩落箇所までは、 図-6 対策工断面図 道央道と接続した町道から盛土斜面に砕石を敷き 均して工事用道路として整備した(図-2)。 2)仮排水工の整備 当該崩落箇所が流末排水箇所であるため、降雨による表面水や排水が流入して被害が拡大し、新たな 崩落 が復旧作業中の作業員を崩落土に巻き込むことが懸念された。そこで、被害の拡大、新たな災害を防止する ため、降雨に伴う表面水および排水が、崩落箇所に流入しないように仮排水工を整備した(写真-5)。 3)崩落箇所の仮復旧 当該崩落箇所の流末排水溝がのり面崩落とともに脱落・流失していた盛土部(写真-2)は、崩落により不 安定な状態であるため降雨による被害の拡大や新たな崩落が懸念された。このため、盛土部の流末排水溝脱 落・流失箇所盛土部には、押え盛土として1トン土のうを設置して仮復旧とした(写真-4)。 4)地盤改良工 地盤改良工は、本対策工構造物の地盤支持力を確保するため、盛土崩落土砂および原地発生材を現場 混合 によるセメント安定処理で地盤改良を行った。 5)山留め工 山留め工は、吐口工箇所の地盤改良工完了後、吐口工の竪壁施工時に盛土のり面部の土砂崩落による 災害 を防止するため、親杭横矢板工法による山留めを施工した(写真-5) 66 仮排水工 写真-4 崩落箇所の仮復旧状況 写真-5 山留め工の施工状況 6)本体工 本体工は、山留め工完了後、吐口工の底版コンクリートを施工してから擁壁工を兼ねた竪壁の施工、流路 工、集水ます工と上流側から下流側へ段階的に施工した(写真-6、7)。 7)のり面工 のり面工は、降雪直前の時期で植生適正期ではなかったこと、また、火山灰や火山灰質砂を主体とした土 質であることから、降雨・風化等によって植生地盤の侵食、植生基盤材の流亡あるいは凍結・融解による植 生基盤の滑落等の問題が考えられた。このため、植生地盤を侵食から保護し、のり面緑化が可能な植生注入 マット工法を採用した(写真-7)。植生注入マット工法は、袋状のマットをのり面にアンカー固定したのち、 袋状のマットへ植生基盤材種子等を注入してのり面と一体化させるものであるため、植生基盤種子等の基盤 流亡を起こさせない工法である。 植生注入マット工 写真-6 吐口工 写真-7 対策工全景 8.災害復旧工事中の降雨の影響について 平成 25 年 8~9 月には、道南を中心とした降雨がしばしば発生した。降雨は、1 時間に 30mm から 50mm 程度の激しい雨、連続雨量が 100mm を超える雨があり、仮復旧を行った 1 トン土のうの崩落(写真-8)、施 工基盤の洗掘・流失、隣接地山の侵食による小崩落に伴う倒木被害(写真-9)および崩落のり面の崩落範囲 の拡大(写真-10)などと災害箇所の被害を拡大させた。 このように災害復旧工事期間中に確認した降水状況は、計算値以上の流水量があり、特に一極に集中した 排水溝の合流部では、跳水現象により越流を起こしており、越流した水が下流部排水溝周辺の地盤を洗掘し て被害を拡大していた。そこで、建設時の災害履歴を確認すると当該箇所での変状履歴はあったが、当時は 67 原形復旧という形で復旧していた。 建設時に計画された排水系統・排水構造物は、流量計算に基づく構造となっているが、災害復旧工事中の 降雨の現状を踏まえて一極集中による排水系統を分散化し、流末排水施設の増設や既設の排水溝の嵩上げ等 の見直しを行った。 仮復旧 1 トン土のうの崩落 写真-8 降雨による地山の侵食状況 写真-9 H25.8.19 降雨時の状況 9.おわりに H25.8.19 降雨後の状況 新たに崩落した箇所 近年、北海道においても温暖化傾向にあり、1 回に 降る降雨量も多くなり、それに起因するのり面災害が 多く発生するようになってきている。 今回の災害は、供用後 2 年以内という短い期間で発 生した災害であった。また、道央道では、今回の災害 が発生した当該区間供用の翌年の平成 24 年 11 月 10 日に、新たに大沼公園 IC~森 IC 間が供用した。 大沼公園 IC~森 IC 間も当該区間と同様の盛土構造 がいくつもあり、建設時の災害履歴、地形・地質的な リスクを残したのり面も存在していた。 今回の災害を踏まえて早期の点検を実施した結果、 小規模な洗掘、土砂流出箇所を確認した。 写真-10 H25.8.27 降雨後の状況 今後の課題として、のり面点検等によりのり面の災害を未然に防ぐためにも、地形・地質的なリスクを踏 まえた継続した点検や観測が必要であると考える。 【参考文献】 ・北海道縦貫自動車道(七飯~長万部)蛯谷地区第二次構造物基礎調査 日本道路公団 ・保全点検要領 ・設計要領 北海道支社 構造物編 第一集 土工編 函館工事事務所 平成 24 年 6 月 平成 26 年 7 月 総括報告書 梶谷エンジニア株式会社東北支店 東日本高速道路株式会社 東日本高速道路株式会社 68 平成 10 年 11 月