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西東京市立栄小学校 窪直樹 ほか

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西東京市立栄小学校 窪直樹 ほか
幻の学校を探して
~小学校4年社会科の実践~
窪
直樹 (西東京市立栄小学校)
高橋 まゆみ(武蔵野市立千川小学校)
木下 直子 (西東京市立栄小学校)
近所に幻の学校があった!
小学校中学年の社会科では、地域の昔を調べる学習があります。私は平成14年度に3年
生の子どもたちを担任しました。社会科の学習として昔調べを行い、地域に古くから続く造
園業のお宅を子どもたちと一緒に訪問して、おばあさんから学校周辺の昔の様子を興味深く
聞くことができました。見渡す限り畑と森で、家などほとんど建っていなかったこと、昔は
ずいぶん遠くまで歩いて買い物に行ったこと、古い農具の使い方などの話に混ざって「うち
の庭には昔、学校があったんだよ。だいぶ前のおじいさんは校長をしていたそうだよ。」とい
う話を耳にしました。
この話は初耳でした。さっそく学校に戻り子どもたちと地域の歴史がまとめられている年
表を調べてみると、確かに「芳谷学校」という学校が学制発布直後の明治11年に作られて
いることがわかりました。その時はそれ以上の資料もなく、
「古い学校があったらしい」とい
うことでおしまいになりました。
翌15年度、私はそのまま引き続き4年生の担任になりました。4年生の社会科では、
「地
域の発展に尽くした先人のはたらき」を学習する単元があります。そこで、おばあさんから
聞いた「芳谷学校」とそれを作った人々、初期の校長先生などに焦点をあて「地域の教育・
文化の発展に尽くした先人のはたらき」を学ぶという単元を作ろうと考え、4年担任高橋教
諭、木下教諭、窪の3人で取り組みました。
私の勤務校がある東京都西東京市は、平成13年1月、保谷市と田無市が合併して誕生し
ました。旧保谷市には12の小学校があり、年表には、芳谷学校は保谷第一小学校の前身と
ありました。芳谷学校は創立当初こそ先ほどのおばあさんの家の庭にあったものの、その後
移転してしまい、現在は少し離れた場所に建っています。都心のベットタウンとして発展し
てきた住宅街に住む人々は、明治の学制発布直後に、すぐ近所に学校が作られたなどという
ことはほとんど知りません。
これが今は消えてしまった幻の学校、芳谷学校を社会科の教材として開発しようと考えた
経緯です。
社会科学習への取り入れ
小学校中学年の社会科では、地域の開発、教育、文化、産業などの発展に尽くした先人に
ついて学習します。芳谷学校は学制発布後間もなく創立された学校です。当時は寺院や大き
な農家に間借りして開校する学校が多かったという苦しい事情の中で、芳谷学校は地域住民
の教育への熱い期待を集め、住民からの寄付により校舎が建てられていました。また創立当
初から教員として勤めていた蓮見彦三郎氏(おばあちゃんの祖先)はその後、校長となり子
どもたちの教育に心血を注ぐ人生を送っていました。
我が町に学校を作り、その学校を建設・維持するために地域住民が寄付を行う。地元の出
身者が土地を提供し、教員として学校に勤め指導にあたる。これほどまでにこの地域の人々
は学校教育を熱望していたことがわかりました。
そこで創立初期の蓮見彦三郎氏の業績を学習の対象とし、地域住民の学校への関与の仕方
を調べていくことで、地域の先人の活躍を学ぶための教材として開発できると考えました。
授業化する際の難点
ところがいざ授業化するとなると、資料がほとんど存在しないことに落胆しました。芳谷
学校や蓮見彦三郎先生のことが書いてある本は、
『保谷市史』及び若干の本でした。しかもす
べて大人向けに書かれており、子どもたちが読んで調べるには難しすぎる本ばかりでした。
さらに跡地は畑と住宅に変貌しており、学校の存在を伺わせるものは何もありません。
どうやって子どもたちに昔は近所に存在した幻の学校に目を向けてもらうか、子どもたち
が調べたいと思ったことが適切な形で情報として与えられるような学習形態はないか、とて
も悩みました。
そこで考えついたのが「130年前にタイムスリップ」という発想です。
「130年前にタイムスリップ」
これは、子どもたちを芳谷学校ができた頃の130年前にタイムスリップさせてしまおう
というものです。なんとか子どもたちにも芳谷学校が存在したことを実感させる資料はない
かと図書館で探していたところ、幻の芳谷学校を示す「文」のマークが、現在の保谷第一小
の場所ではなく、おばあさんの家の付近に入っている明治45年の古地図を見つけました。
そこで、古地図に子どもたち全員の家の場所を書き入れ、
「明治45年だったら自分はどのあ
たりに住んでいただろう?」ということから考え始めました。
すると子どもたちは次第に幻の学校に引き込まれ、
「もっともっと芳谷学校ができたころの
様子が知りたい!」という声が上がりました。こうした声に応えるためには、豊富な資料を
用意する、昔のことに詳しい方をゲストティーチャーとして招き、存分に話を聞くなどとい
う学習を組みたいものです。ところが、芳谷学校の学習に関しては資料が『保谷市史』にほ
ぼ限定されており、子どもたちが自分で市史を読んで理解するということはほとんど期待で
きないことが課題となりました。
これには、授業者で市史やそのほかの資料をよく読み込み、高橋教諭が中心になって授業
を進め、窪が着物を着込み、130年前からタイムスリップしてきた明治時代の「地域の昔
に詳しい人」としてゲストティーチャーになるというティーム・ティーチングの工夫で応え
ていきました。
地域を愛する子どもたちに
社会科の目標の一つに「地域社会に対する誇りと愛情を育てるようにする」があります。
「地域社会に対する誇りと愛情」はいったいどんなときに子どもたちの中に育っていくので
しょうか。私は、地域のことをよく知り現在も、過去も含めて地域に生きる人々の生活の様
子をよく見ることだと考えています。
この芳谷学校の授業実践を行っているときに、たまたま道で子どもと出会いました。自転
車に乗って「この電気やさんの裏が芳谷学校のあったあたりだよ。
」「えー、うそ?」などと
楽しそうに幻の学校を探していました。その姿に「地域に対する愛情」が育ち始めているな
と感じました。
地域の歴史と今を知り、未来をともに考えていく。そんな地域を愛する子どもたちを育て
る社会科の実践をこれからも続けていきたいと思います。
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