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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University
Title 良好なコントロール下にあったにもかかわらず妊娠後期 子宮内胎児死亡および糖尿病昏睡を起こした糖尿病婦人 の1例 Author(s) 加藤, 彰子; 和田, 順子; 植竹, 純子; 高橋, 文子; 大森, 安恵 Journal URL 東京女子医科大学雑誌, 42(6):461-466, 1972 http://hdl.handle.net/10470/1867 Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database. http://ir.twmu.ac.jp/dspace/ 59 (東女医大誌 第42巻 第6号頁461∼466昭和47年6月) 〔臨床報告〕 良好なコントロール下にあったにもかかわらず 妊娠後期子宮内胎児死亡および糖尿病 昏睡を起こした糖尿病婦人の1例 東京女子医科大学産婦人科学教室(主任:川上博教授) 加藤 彰子・和田 順子・植竹 純子 カ トウ .アキコ ワ ダ ヨリ コ ウエタケ スミ コ 助教授高橋文子一 タカ ハシ フミ コ 東京女子医科大学小坂内科学教室(主任:小坂樹徳教授) 講師 大 オオ 森 モリ 安 ヤス 恵 エ (受付 昭和47年3月29日) はじめに インスリン治療の進歩により,糖尿病妊婦にお ける妊娠合併症は減少し,母体の糖尿病が胎児に で加療中.母親35才で糖尿病に罹患,44才のとき糖尿 病昏睡で死亡.姉,13才で糖尿病を発病し,治療はうけ ていたが,19才で糖尿病昏睡で死亡. 及ぼす影響も少なくなったといわれているが,糖 既往歴:昭和40年4月,/6才のとき,姉の死亡が動機 尿病が妊娠に及ぼす影響,妊娠が糖尿病に及ぼす となって検査をうけ,糖尿病と診断された.以来,糖尿 影響については,まだ十分解明されていない点が 少なくない. われわれは,両親が糖尿病という濃厚な遺伝負 荷をもち,糖尿病の十分な管理下に正常な妊娠を 経過していたにもかかわらず,妊娠後半に軽度の 病専門医の管理の下にインスリン治療を継続し,ほぼ良 は好なコントロールを保ち,糖尿病性神経症以外合併症 なかった.発病間もなく一過性の緩解期を経験した1>. とぎに増悪することもあったが,インスリン量はほぼ10 単位∼20単位前後で,空腹時」自エ糖値130n】9/Ul前後にコン トロールされていた. 尿路感染症をきっかけに,突然子宮内胎児死亡, 糖尿病昏睡を惹起した貴重な症例を経験したので 月経歴:初潮11才,23日型,持続7日間,中等量,月 経時障害なし. 報告する, 結婚;昭和45年3月(23才) 症 例 既往妊娠歴;なし 患者:永○幸○,23才,主婦 家族歴:父親65才,56才で糖尿病発病,現在当院内科 現病歴:最終月経は昭和45年7月2日から4日問,8 月27日当科で妊娠9週の診断を受けた.当時,糖尿病専 Akiko KAT 6, Yoriko WADA, Sumi取。 Uli=fAKE and Fumiko TAKAHASHI(Dcpartment of Obstetrics and Gynecology, Tokyo Women’s Medical Collegc>Yasue OHMORI(Dcpartment of Intcrnal Medicine, Tokyo Women,s Medical Collcgc)l A case of pregnant with diabetic coma whose艶tus died in uterus in late pregnancy in spite of good diabetic control. 一461一 r. 黷U0 門外来の管理下にあり,レンテインスリン16単位で,空 表1 入院時検査所見 腹時血糖値は11gmg姻であった.妊娠28週までインスリ 16.59盈1 血液一般:血色素量 ン需要量の増減もなく,空腹時血糖値はユ00m忽剣前後に ヘマトクリット よくコントロールされ,妊娠経過も順調であった.46年 赤血球数 白血球数 血小板数 1月27日,妊娠30週で朝食前空腹時血糖値157齪9超とな り,尿タンパク(十),尿アセトン(冊),尿沈渣に軽度の 48.5 % 486×王04/mm3 /1,500 /mm3 正常範囲 St. 白血球百分率 白血球を認めたが,発熱なく,白血球増多もなかった. 8% Seg. 70 % 昭和46年2月10日(妊娠32週)に,腰痛,食欲不振を訴 E. え,空腹時[血糖値160mg/dlのためレンテインスリン20単 Mo. 1% 位に増量したが,2月13日置妊娠33週)には尿タンパク Ly. 20% (十),尿糖(十),尿沈渣に白血球:多数/1視野,赤血 球:1∼2個/1視野,上皮細胞:1∼2個/1視野,を 認めたが,尿培養は陰性であった.発熱はなかったが, 白血球数:11,500,右側腹部に圧痛あるため腎孟炎を疑 1 % 42 m10 血 沈:30分値 1時間値 2 〃 出血時間:2分 凝固時間:1分30秒一13分 83 〃 102 〃 9.09釦 血清イヒ学:糸窓タソノミク われ,緊急入院した. み/G 入院時所見および経過 1.0 10mg畑 尿素N Na 体格・栄養中・早事,身長158cm,体重58㎏,意 144mEq/L K 識明瞭,血圧n2/88mmr㎏,脈拍数/16/分,整, 5.1mEq/L Cl 98mEq/L GOT 眼球結膜に黄疸なし.頚部リンパ節腫脹認めず, 25unlt 18unit GPT 肺肝境界V肋骨,心音は清,肺野にラ音聴取せ アルカリフォスファターゼ14K−A単位 ず.子宮底29.5cm,腹囲90Cm,児は,第2頭位 で,右騰棘線上で児心音を聴取した(この際,母 親の脈拍数と比較して測定していない).下肢に 軽度の浮腫を認めた.内診所見では,子宮口未開 大,先進部は児頭で移動性があった,当日は食欲 不振のため朝食をとっておらず,インスリン注射 も行なっていず,午前11時の血糖値は18/mg/dl, 298mg姐】 総コレステロール リポイドP 総ビリルビン 魔糖値(空腹時) 尿 タンパク 糖 了4.2mg姐i O.6mg,娘1 18/m9掴1 (十) (十) pH 6.0 アセトン 沈黒 (一) 血沈の促進も認められ,レンテインスリン20単位 由血球 多数/1視野 赤血球 1−2ノ数視野 Ep. 1−2/1視野 Zyl。 1−2/数視野 の注射と共に直ちに化学療法(カナマイシン19/ 日)を開始した.血色素とHt値に軽度の増加が Keim K B(十)■ みられた.尿所見は前記の如く,pH 6.0,尿タン Salz (+) 培養 パク(十),尿糖(十),アセトン(一).沈渣で 陰性 は,白血球:多数/1視野,赤血球:1∼2個ね 分には陣痛もなく,患者は仮眠状態であったが, 視野,上皮細胞1∼2個//視野,円柱上皮:1∼ 午後11時頃より陣痛の発来をみた. 2月14日午前2時下腹痛を訴え,ベンザリソ5 2個/数視野,短桿菌(十)で,培養では陰性で mg服用させたが軽快せず,午前3時頃より悪心を あった(表1). 訴之,少量の嘔吐を続けていたが,午前8時30分 入院後も頻脈,腰痛,右側背部圧痛は持続し, 児心音は聴取された(この時も母親の脈拍数との には約300CCのコーヒー残溢様胃内容物を口区吐 比較は行なわれていない).午後7時30分頃より腹 し, 5%クリニット500ccにビタミンB1100mg, 部緊張感を認めた.rこの時体温は37.3℃,児心音 B210m塞, C 300mg,コントミン10m塞を入れ点滴 施行し,前日と同様にレンテインスリン2Q単位を は聴取できた.EPデポー50mg筋注,ウロビオテ ック2錠,ベンザリン10mg投与した,午後10時20 注射した.この時も児心音は聴取できた.午前11 一462一 61 表2 血液ガス変化 15/H 14ノ王[ 17/H 19/n PM7:22 P・M1・・3・AM2・2・ pH PO2 mml.{9 PCO2 mlnH寒 B.E mEq/l blood St. Bi mEq/l plasma 7.250 7.453 7.610 140 132 98 62 23.5 21..5 13.8 3工.8 38.5 一22 一16.4 一4.2 一6.1 十3.1 十3,0 19 11.6 21.5 1/1,5 Regu[ar In$, 一 3QQ 200 27 筋・静注を行なったが,陣痛増強をみず,8即す 噛\\ ぎには全く消失し,9時頃患者は昏睡に陥った. その時の1血1糖値は370−39011】g/d},尿アセトン (惜)のため,更に20単位静注により血糖値は 100 G 85 考慮しながら,レギュラーインスリン合計52単位 mg∠ L 400 7.456 自然分娩時,筋労作に伴う糖消費による低血糖も (LL) (R.1.) 7.529 ミナリア桿挿入法による子宮頚管拡張術を試み, Ul、1七 Lente rnSullne(L・L) AMll:00 7.125 イ0 ン20 蚤40 ン60 量80 PMl:00 222mg/d1に下降したが, Kussmanl大呼吸,頻 101520253032週目輔重すポ†差 妊娠週数 胱 1銑 1艦PM 脈,昏睡は改善されず,午後10時30分半らにレギ 図1 妊娠経過中の血糖値およびインスリン四 30分232mg/dl,嗜眠状態がつづいた.大量の輸液 時頃には,悪心はあったが下腹痛はやや軽減し にかかわらず,一般状態の改善が期待できないた ェラーインスリン80単位静注,血糖値は午後11時 め,2月15日午前0時40分気管内吸入麻酔の下に ていた.午後2時頃より胸内苦悶を訴え,頻脈 腹式切開分娩を施行した. (120/分)が続いたが,∫1巳圧は114/78mm}壇正常 児は頚部に膀帯巻絡が1回あり,2,3809の女 児で,すでに浸軟がみられた.胎盤重量は5509 であった.午後3時頃再びコーヒー残澄様物約 300cc嘔吐した.体温は36.7℃であった.この 時には児心音は全く聴取できず,右緕棘線上では であった. 母親の子宮動脈音のみ聴取された.また一時遠の 術後,血糖値をみながらレギュラーインスリン いていた陣痛が再び発来したが,間歓5分,発作 20単位,ついで8単位投与し,術後7時間目には 10秒の軽度のもので,子宮Uは未開大であった. 血糖値は94m91dl,アチドーシスも改善され,意識 胸内苦悶を訴えたが,心電図には頻脈以外著変は は全く正常となった,術後の全身状態は良好で, みられなかった.午後4時頃,高度の脱水症状, 術後13日目には食餌昂:2,000Cal/Fi, 妊娠前と[司 頻脈,呼吸促迫などから糖尿病前昏睡状態と診断 直のレンテインスリン20単位を継続使用して」血 し,血糖値(図1),血液ガス分析測定を行ない 糖値もよくコントロールされ,尿所見はタンパク ながら,レギュラーインスリン,生理的食塩水の (一),糖(十),pH 6.5,沈渣では白血球2∼3 大量投与など糖尿病昏睡の治療を行なった.午後 4時30分の血糖値348mg/d1,血液ガス分析(表 個/上視野,赤血球多数/1視野,上皮細胞5∼6 2)にてpH 7.125とアチドーシスを認め,傾眠状 個/1視野,円柱上皮(一),尿培養陰性.血液一 態に陥っていた.子宮内胎児死亡がすでに確認さ 般,血清化学にも異常を認めず,術後順調に経過 れているので,分娩誘導を行なうため午後6時ラ し,3月5R退院した. 一463一 62 表3 当教室における糖尿病妊婦例 児の剖検所見 発育良好な死産児で,奇形は認められなかっ 総分娩数 た.主な臓器の所見はつぎの如くであった. 肝:造血巣の遺残がきわめて高度である.肝細 胞の空胞状変性がかなり著しい. 肺:うつ」血が高度で,肺胞内には羊水性異物の 吸引像が認められる. 膵:一般に浮腫性で,巣状の円形細胞浸潤が認 められるが,島組織には異常がない. 合 腎,副腎,胸腺などにもうつ血が著しい.解剖 糖尿病妊婦 40 477名 512 2名 3 4! 368 2 42 558 4 43 521 4 44 486 2 45 494 2 言卜 3,416名 19名 頻度 0.55% 二千禾039角三 所見の上では,膵,肝,その他に糖尿病児とし 糖尿病婦人が妊娠すると,妊娠によって糖尿病 ての特異的な所見はなく,肝にみられた空胞変性 が悪化すること,妊娠中毒症や羊水過多症を合併 はグリコーゲン蓄積による可能性はあるが,死後 しやすいこと,周産期死亡率の高いこと,巨大児 変化が進んでおり同定でぎず,詳細は不明であっ が多いことが特徴的である. た. Preinsulin eraにみられた糖尿病昏睡による母 胎盤は絨毛全体が線維性で太く未熟で,部分的 親の死亡は,インスリン治療法の確立とともに著 にも毛細血管の増生があり,絨毛内外の線維素沈 減し,現在,母体の死亡は非糖尿病妊婦のそれと 着が目立ち,また辺縁に融解壊死巣を認めた.易 差がない.すなわちWhite7)の報告では,糖尿病 所により内皮細胞の腫大増加がみられた. 妊婦の死亡率は0.3%で,一般の非糖尿病妊婦死 考 按 亡率0.3年半変わりなく,Malins8)も糖尿病妊婦 わが国では,従来若年性糖尿病患者が少なかっ 306羽中死亡したのは2名で,1名は肺硬塞,1 たため,糖尿病妊婦に遭遇する機会はまれであ 名は低血糖であったという,このように糖尿病妊 ったが,最近若年性糖尿病患者は増加の傾向にあ 婦自身の死亡率は,インスリン治療法の進歩, り,糖尿病と妊娠の合併例も必然的に増加して 糖尿病妊婦に対する特殊な問題の認識などによっ いる.若年性糖尿病患者の多い欧米においては, て,大きな改善がみられた. 糖尿病を合併した妊婦は,インスリンの発見か これに反し,児の周産期死亡率が今日でも依然 ら1950年代までは,約0.2%前後の頻度2)3)であ として高いことは,糖尿病妊婦を管理する上に大 ったが,Harley4)は1956年前ら1963年の8年間で は,約0.66%であったと報告している.わが国で きな問題となっている.図28)9)10)は,多数の糖 尿病妊婦例を有する報告の中から,周産期死亡率 は,全国35機関の症例を集計した九嶋ら5)の報告 の年次的推移を示したものであり,1940年代から によると,ユ960年からユ964年の5年間で,分娩例 95,182例中,糖尿病妊婦は52例(0.054%)であ る.各病院によってその頻度は異なるが,糖尿病 % 50 J.PeeL i584児) しHagbard J.Malin$ i559児) i306児) 40 専門外来をもつ医療機関では,0.13∼0.26%6>と 推定されている.著者らの病院でも,昭和28年か 30 20 ら昭和38年置では,糖尿病と妊娠の合併例は1例 もみられなかったが,昭和39年回り急増し,その 10 年次的推移は表3の如くで,その頻度は0.55%で 0 ∼194日941194919531958 ある.この頻度は,これまでの報告より更に高 年 ∼ ∼ 5 ∼ 194819521957}961 く,糖尿病妊婦の増加傾向を示唆するものであろ 図2 うと思われる. 1948】95醤956 ∼ ∼ ∼ 1951 1954}960 年次的推移と周産期児死亡率 (文献8)9)10)より引用) 一464一 1950}955】960 19腕1輔鱗 63 その死亡率は順次低下の傾向にあるが,1960年代 よくてもなお周産期死亡の存在する理由は不明で に到ってもなな10%前後の死亡率がみられる. はあるが,糖尿病患者の妊娠におけるコントP一 従来,糖尿病妊婦の子宮内胎児死亡の原因とし ルの重大さを物語るものである. ては,母親のアチドーシスおよび冷痛前症,妊娠 Hagbardlo)は,周産期死亡と母親のインスリン 中毒症,羊水過多症などによるものが多いと言わ 需要量との関係について,周産期死亡を左右する れていた.これらのいずれもがインスリン治療の 決定的因子は,母親がどれだけ多くのインスリン 進歩とともに減少しているので,これに平行して を必要としたかではなく,母親が十分インスリン 周産期死亡も前記の如き年次的減少を来たしたも を用いたかどうかによるのだと述べている. 本症例は,糖尿病の罹病期間が5年未満で,合 のと考えられる. 併症としては,糖尿病性神経症を有するのみで, Kyle11)によれぽ,糖尿病妊婦のFetal lossは 妊娠中毒症を伴ったものでは約23%,羊水過多症 他に糖尿病に特有な」血管障害も認められず,妊娠 のあるものは平均39%,アチドーシスのあるも のでは平均30.1%に見られるという.Whiteや 初期から規則正しく糖尿病の治療管理をうけてい たにもかかわらず,胎児死亡,糖尿病昏睡を惹起 Sexton12)は,妊娠中期にアチドーシスを惹起し した点に問題がある. た場合,そのFetal lossはほとんど100%であ 一般に糖尿病昏睡を誘発する原因として,イン ると述べている.糖尿病患者における妊娠中毒症 スリン注射の中止,ストレス,手術,感染などが や羊水過多症の多い理由や,その発生機転は現在 あげられているが,本症例はこれらのいずれの項 まだ解明されていないが,これらは糖尿病のコン 目にも該当する事件は妊娠中見出し得ない.しか トロールを十分行なうことにより減少させ得る し,妊娠30週で尿タンパク陽性となり,尿培養で し,糖尿病患者の妊娠,分娩の良い結果は,何よ 菌は証明されなかったが,Leukozytoseおよび尿 りも糖尿病のコントロールと密接な関連をもつも 沈渣に白血球がかなり多数みられたことは,尿路 のと思われる.表48)は,Malins8)らが管理した の軽い炎症を示唆するものであると考えられる. 妊娠経過中にみられる尿路感染症は,我妻13) 表4 糖尿病のControlと周産期死亡率 ・・n…l Good Fair によれば占冠∼7弩,その他,Httle14)5.3%, 戟E…1S…b…hlN謙ll・・…1・… 75名1 2名 1名 Whalley15)2∼工0%, Dixon16), Patrick17), Kass18) らの報告でも5∼7%にみられる. 4.0タ6 !04 6 9 14.4 Poor 31 4 4 25.8 not known 40 3 3 }15.・ 糖尿病妊婦における尿路感染症について, Kass19)は,糖尿病非妊婦で非症候性細菌尿をもつ もの18%であるのに,非糖尿病妊婦においては6 %であると述べ,無治療の場合これらの無症候性 細菌尿は,妊娠中腎孟腎炎に進行して行くことを 報告している.そしてさらに,無症候性細菌尿を 治療しない場合は,24%の早産と17%の新生児死 〔Davidson&Malins,1965文献8)より引用) 250名の糖尿病妊婦についてコントμ一ルと周産 期死亡率をみたものであるが,ケトーシス,低」貢王 亡がみられ,治療した際の・早産率は僅か10%で, 糖がなく,食後2時間の平均血糖値が180mg/dl以 新生児死亡は認められないとも述べている.糖尿 下のものをcOntrol good,同様にケトーシス,低 病妊婦にみられる細菌尿は,Joslin Clinicにおけ 血糖がなく,血糖値が250mg姻以下のものをfair, る統計では, 253例中18例(7%)にみられると ときにケトン尿やケトーシスがあり,糖尿病症状 いう20). を示し,250mg/d/以上の血糖値のものをpoOrとし て分類してあるが,コントロールgoodでは,周 産期死亡率は僅か4%であり,poOrではその6 本症例は,尿にアセトン体は陽性であったが, その血糖値は決して糖尿病昏睡が予想されるよう な高血糖ではなかった.尿路感染症が誘因となっ 倍の25.8%にみられる.糖尿病のロントロールが て胎児死亡がおき,糖尿病昏睡に到ったと断定す 一465一 64 ることはできないが,しかし,糖尿病患者は感染 示し,原因不明の子宮内胎児死亡,つづいて糖尿 に対して抵抗が弱いので,妊娠中に起こしやすい 病昏睡に到った症例を報告し,子宮内胎児死亡の 尿路感染症に関しては,特にその管理を厳重にす 原因,糖尿病妊婦の管理について,若干の考察を る必要があろう, 加えた. また,糖尿病患者の胎盤は一般に大ぎく,平均重 量は,非糖尿病患者のものより大きいということ が一般にしられているが,子宮内胎児死亡例の胎 盤は比較的小さいのが特徴的であるという報告が 稿を終るにあたり,ご指導,ご校閲下さいました川上 博教授,ならびに内科学教室小坂樹徳教授に深謝致しま す.また,ご教示いただぎました第二病理解剖学教室梶 ある21).胎盤が小さいため巨大児の発育に応じき 田昭教授ならびに中央検査科病理部平山章助教授に深 れないのかもしれない.White22)は血管障害をも 謝致します. つ糖尿病妊婦の胎盤は,胎児の大きさに比し小さ 文 献 いと述べている.He11man23)は,胎児死亡は胎 1)小坂樹徳・他:日本臨床25(2)(1967) 盤の絨毛血管の動脈内膜炎によって起こるとし 2)Rike, P.M.&R。M. Fawcett:Amer J Obstet Gynec 56484(1948) 3)Hall, RE.&A.J.B. Tillmann=Amer J た,しかし,特有な形態学的所見は証明されてい Obstet Gynec 611107(1951) ない,本症例では,児は33週として1E常の大きさ 4)Harley,」・M・G. et aL=Brit Med J 2 Janu でありながら,胎盤は5509と非常に大きく,血 (1955) 5)九嶋勝司・他;治療49525(1967) 6)九嶋勝司・他:産婦治療8253(1964) 管障害もなく,Horky, Whiteらの見解を支持し ない,山田24)は,糖尿病妊婦における胎盤の病理 7)w櫨e,P. et aL 3 Joslin’s Diabetes Mellitus. 組織学的所見中,最も顕著で特異的であったの 8)Malins, J.=Clinical Diabetes Melitus Chap. Lea&Febiger, Philadelphia 1971 Chap.19 は,末梢絨毛における毛細血管の増生であり,こ 131968.Eyre&Spottiswood,1.ondon 9/Pee且, J・=Amer J obstet Gynec 837(1962) れはHorkyの観察に一致する所見であると述べ 10)Hagbard, L.3 Pregnancy and Diabetes Mel】itus.1961.Char王es C. Thomas, Publisher, ている,さらに,絨毛の浮腫,類線維素沈着,石 Springfield 灰沈着,硬塞形成,エanghans細胞の再現, Hafb− ll)Kyle, G.C。=Ann Intern Med 591, Pt l l, SuppL 3 (1963) 12)Wb量te, P.&U. Sexton 3 Ann. Intern Med 59 1・Pt l l・SupPl・3 (1963)27 よ り弓1用 aver細胞の増加,絨毛上皮の変性などの所見が Horky21)によって示されているが,糖尿病におけ 13)我妻 発:産婦の世界22237(1970) る胎盤の変化が胎児にあたえる影響については, 14)Litt登e, PJ.: Lancet 2925 (1966) まだ一致した意見が確立されていないとも述べて いる.本症例でも,前記のように,上記所見のい くつかがみられたが,胎児死亡を説明し得るほど 15)Wballey, P・=Amer J obst Gynec 97723 (1967) 16ノ】)ixo馬 H.G。& A.A. Brant 3 Lancet l (1967) の所見は認められなかった.したがって,胎児死 亡の原因は明らかにし得ず,その剖検所見からも 17)Patrick, M・J・3 J obst Gynec 8rit Cwlth 73973 (1961) 18)Kass, E.H.=Arch Int Med 105194(1960) 正確な死亡時刻を推定することは不可能である 19)Kass, E.H.3 Alm Intern Med 591, Pt l l. が,糖尿病妊婦の管理は,内科,産科医の密接な 協力の下に細心の注意を払ってこれにあたらねば ならないことは当然であり,血糖値が高くなくて も,尿路感染症,その他の僅かな合併症でも,母 SupP13 (1963) P.16よ り引用 20)Marios, C。8.:Joslin’s Diabetes Mellitus. Chap.17. Lea&Febiger, Philadelphia 1971. 21)Hor欺y, J・=zbl Gynek 861621(1964) 22)White, P.=Natural course of pregnancy, 子共に影響をうけるので,軽視することは許され ない. 結 語 家族性負荷の濃厚な糖尿病妊婦において,妊娠 初期,中期と良好なコントロールを得て妊娠を経 過しながら,後期に到って軽度の尿路感染徴候を 一466一 ill Diabetes Mcllitus:III Kongress der Inter. national Diabetes Federation. ed. by Ober− disse, K. and Jahnke, K George Thieme ver− lag 23)Hellman, L.M。;Gynecological and Ob− stetrical I}athology. ed.2. W.B. Sanders Company I)hiladelphia 1947. Chap.34 24)山田吾市:産婦人科の世界1810(1966)