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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University

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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University
Title
良好なコントロール下にあったにもかかわらず妊娠後期
子宮内胎児死亡および糖尿病昏睡を起こした糖尿病婦人
の1例
Author(s)
加藤, 彰子; 和田, 順子; 植竹, 純子; 高橋, 文子; 大森,
安恵
Journal
URL
東京女子医科大学雑誌, 42(6):461-466, 1972
http://hdl.handle.net/10470/1867
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
59
(東女医大誌 第42巻 第6号頁461∼466昭和47年6月)
〔臨床報告〕
良好なコントロール下にあったにもかかわらず
妊娠後期子宮内胎児死亡および糖尿病
昏睡を起こした糖尿病婦人の1例
東京女子医科大学産婦人科学教室(主任:川上博教授)
加藤 彰子・和田 順子・植竹 純子
カ トウ .アキコ
ワ ダ ヨリ コ ウエタケ
スミ コ
助教授高橋文子一
タカ
ハシ
フミ
コ
東京女子医科大学小坂内科学教室(主任:小坂樹徳教授)
講師 大
オオ
森
モリ
安
ヤス
恵
エ
(受付 昭和47年3月29日)
はじめに
インスリン治療の進歩により,糖尿病妊婦にお
ける妊娠合併症は減少し,母体の糖尿病が胎児に
で加療中.母親35才で糖尿病に罹患,44才のとき糖尿
病昏睡で死亡.姉,13才で糖尿病を発病し,治療はうけ
ていたが,19才で糖尿病昏睡で死亡.
及ぼす影響も少なくなったといわれているが,糖
既往歴:昭和40年4月,/6才のとき,姉の死亡が動機
尿病が妊娠に及ぼす影響,妊娠が糖尿病に及ぼす
となって検査をうけ,糖尿病と診断された.以来,糖尿
影響については,まだ十分解明されていない点が
少なくない.
われわれは,両親が糖尿病という濃厚な遺伝負
荷をもち,糖尿病の十分な管理下に正常な妊娠を
経過していたにもかかわらず,妊娠後半に軽度の
病専門医の管理の下にインスリン治療を継続し,ほぼ良
は好なコントロールを保ち,糖尿病性神経症以外合併症
なかった.発病間もなく一過性の緩解期を経験した1>.
とぎに増悪することもあったが,インスリン量はほぼ10
単位∼20単位前後で,空腹時」自エ糖値130n】9/Ul前後にコン
トロールされていた.
尿路感染症をきっかけに,突然子宮内胎児死亡,
糖尿病昏睡を惹起した貴重な症例を経験したので
月経歴:初潮11才,23日型,持続7日間,中等量,月
経時障害なし.
報告する,
結婚;昭和45年3月(23才)
症
例
既往妊娠歴;なし
患者:永○幸○,23才,主婦
家族歴:父親65才,56才で糖尿病発病,現在当院内科
現病歴:最終月経は昭和45年7月2日から4日問,8
月27日当科で妊娠9週の診断を受けた.当時,糖尿病専
Akiko KAT 6, Yoriko WADA, Sumi取。 Uli=fAKE and Fumiko TAKAHASHI(Dcpartment of Obstetrics
and Gynecology, Tokyo Women’s Medical Collegc>Yasue OHMORI(Dcpartment of Intcrnal Medicine, Tokyo
Women,s Medical Collcgc)l A case of pregnant with diabetic coma whose艶tus died in uterus in late pregnancy
in spite of good diabetic control.
一461一
r.
黷U0
門外来の管理下にあり,レンテインスリン16単位で,空
表1 入院時検査所見
腹時血糖値は11gmg姻であった.妊娠28週までインスリ
16.59盈1
血液一般:血色素量
ン需要量の増減もなく,空腹時血糖値はユ00m忽剣前後に
ヘマトクリット
よくコントロールされ,妊娠経過も順調であった.46年
赤血球数
白血球数
血小板数
1月27日,妊娠30週で朝食前空腹時血糖値157齪9超とな
り,尿タンパク(十),尿アセトン(冊),尿沈渣に軽度の
48.5 %
486×王04/mm3
/1,500 /mm3
正常範囲
St.
白血球百分率
白血球を認めたが,発熱なく,白血球増多もなかった.
8%
Seg. 70 %
昭和46年2月10日(妊娠32週)に,腰痛,食欲不振を訴
E.
え,空腹時[血糖値160mg/dlのためレンテインスリン20単
Mo.
1%
位に増量したが,2月13日置妊娠33週)には尿タンパク
Ly.
20%
(十),尿糖(十),尿沈渣に白血球:多数/1視野,赤血
球:1∼2個/1視野,上皮細胞:1∼2個/1視野,を
認めたが,尿培養は陰性であった.発熱はなかったが,
白血球数:11,500,右側腹部に圧痛あるため腎孟炎を疑
1 %
42 m10
血 沈:30分値
1時間値
2 〃
出血時間:2分
凝固時間:1分30秒一13分
83 〃
102 〃
9.09釦
血清イヒ学:糸窓タソノミク
われ,緊急入院した.
み/G
入院時所見および経過
1.0
10mg畑
尿素N
Na
体格・栄養中・早事,身長158cm,体重58㎏,意
144mEq/L
K
識明瞭,血圧n2/88mmr㎏,脈拍数/16/分,整,
5.1mEq/L
Cl
98mEq/L
GOT
眼球結膜に黄疸なし.頚部リンパ節腫脹認めず,
25unlt
18unit
GPT
肺肝境界V肋骨,心音は清,肺野にラ音聴取せ
アルカリフォスファターゼ14K−A単位
ず.子宮底29.5cm,腹囲90Cm,児は,第2頭位
で,右騰棘線上で児心音を聴取した(この際,母
親の脈拍数と比較して測定していない).下肢に
軽度の浮腫を認めた.内診所見では,子宮口未開
大,先進部は児頭で移動性があった,当日は食欲
不振のため朝食をとっておらず,インスリン注射
も行なっていず,午前11時の血糖値は18/mg/dl,
298mg姐】
総コレステロール
リポイドP
総ビリルビン
魔糖値(空腹時)
尿
タンパク
糖
了4.2mg姐i
O.6mg,娘1
18/m9掴1
(十)
(十)
pH
6.0
アセトン
沈黒
(一)
血沈の促進も認められ,レンテインスリン20単位
由血球 多数/1視野
赤血球 1−2ノ数視野
Ep.
1−2/1視野
Zyl。 1−2/数視野
の注射と共に直ちに化学療法(カナマイシン19/
日)を開始した.血色素とHt値に軽度の増加が
Keim
K B(十)■
みられた.尿所見は前記の如く,pH 6.0,尿タン
Salz
(+)
培養
パク(十),尿糖(十),アセトン(一).沈渣で
陰性
は,白血球:多数/1視野,赤血球:1∼2個ね
分には陣痛もなく,患者は仮眠状態であったが,
視野,上皮細胞1∼2個//視野,円柱上皮:1∼
午後11時頃より陣痛の発来をみた.
2月14日午前2時下腹痛を訴え,ベンザリソ5
2個/数視野,短桿菌(十)で,培養では陰性で
mg服用させたが軽快せず,午前3時頃より悪心を
あった(表1).
訴之,少量の嘔吐を続けていたが,午前8時30分
入院後も頻脈,腰痛,右側背部圧痛は持続し,
児心音は聴取された(この時も母親の脈拍数との
には約300CCのコーヒー残溢様胃内容物を口区吐
比較は行なわれていない).午後7時30分頃より腹
し, 5%クリニット500ccにビタミンB1100mg,
部緊張感を認めた.rこの時体温は37.3℃,児心音
B210m塞, C 300mg,コントミン10m塞を入れ点滴
施行し,前日と同様にレンテインスリン2Q単位を
は聴取できた.EPデポー50mg筋注,ウロビオテ
ック2錠,ベンザリン10mg投与した,午後10時20
注射した.この時も児心音は聴取できた.午前11
一462一
61
表2 血液ガス変化
15/H
14ノ王[
17/H
19/n
PM7:22 P・M1・・3・AM2・2・
pH
PO2
mml.{9
PCO2
mlnH寒
B.E
mEq/l blood
St. Bi
mEq/l plasma
7.250
7.453
7.610
140
132
98
62
23.5
21..5
13.8
3工.8
38.5
一22
一16.4
一4.2
一6.1
十3.1
十3,0
19
11.6
21.5
1/1,5
Regu[ar
In$,
一
3QQ
200
27
筋・静注を行なったが,陣痛増強をみず,8即す
噛\\
ぎには全く消失し,9時頃患者は昏睡に陥った.
その時の1血1糖値は370−39011】g/d},尿アセトン
(惜)のため,更に20単位静注により血糖値は
100
G
85
考慮しながら,レギュラーインスリン合計52単位
mg∠ L
400
7.456
自然分娩時,筋労作に伴う糖消費による低血糖も
(LL)
(R.1.)
7.529
ミナリア桿挿入法による子宮頚管拡張術を試み,
Ul、1七
Lente rnSullne(L・L)
AMll:00
7.125
イ0
ン20
蚤40
ン60
量80
PMl:00
222mg/d1に下降したが, Kussmanl大呼吸,頻
101520253032週目輔重すポ†差
妊娠週数 胱 1銑 1艦PM
脈,昏睡は改善されず,午後10時30分半らにレギ
図1 妊娠経過中の血糖値およびインスリン四
30分232mg/dl,嗜眠状態がつづいた.大量の輸液
時頃には,悪心はあったが下腹痛はやや軽減し
にかかわらず,一般状態の改善が期待できないた
ェラーインスリン80単位静注,血糖値は午後11時
め,2月15日午前0時40分気管内吸入麻酔の下に
ていた.午後2時頃より胸内苦悶を訴え,頻脈
腹式切開分娩を施行した.
(120/分)が続いたが,∫1巳圧は114/78mm}壇正常
児は頚部に膀帯巻絡が1回あり,2,3809の女
児で,すでに浸軟がみられた.胎盤重量は5509
であった.午後3時頃再びコーヒー残澄様物約
300cc嘔吐した.体温は36.7℃であった.この
時には児心音は全く聴取できず,右緕棘線上では
であった.
母親の子宮動脈音のみ聴取された.また一時遠の
術後,血糖値をみながらレギュラーインスリン
いていた陣痛が再び発来したが,間歓5分,発作
20単位,ついで8単位投与し,術後7時間目には
10秒の軽度のもので,子宮Uは未開大であった.
血糖値は94m91dl,アチドーシスも改善され,意識
胸内苦悶を訴えたが,心電図には頻脈以外著変は
は全く正常となった,術後の全身状態は良好で,
みられなかった.午後4時頃,高度の脱水症状,
術後13日目には食餌昂:2,000Cal/Fi, 妊娠前と[司
頻脈,呼吸促迫などから糖尿病前昏睡状態と診断
直のレンテインスリン20単位を継続使用して」血
し,血糖値(図1),血液ガス分析測定を行ない
糖値もよくコントロールされ,尿所見はタンパク
ながら,レギュラーインスリン,生理的食塩水の
(一),糖(十),pH 6.5,沈渣では白血球2∼3
大量投与など糖尿病昏睡の治療を行なった.午後
4時30分の血糖値348mg/d1,血液ガス分析(表
個/上視野,赤血球多数/1視野,上皮細胞5∼6
2)にてpH 7.125とアチドーシスを認め,傾眠状
個/1視野,円柱上皮(一),尿培養陰性.血液一
態に陥っていた.子宮内胎児死亡がすでに確認さ
般,血清化学にも異常を認めず,術後順調に経過
れているので,分娩誘導を行なうため午後6時ラ
し,3月5R退院した.
一463一
62
表3 当教室における糖尿病妊婦例
児の剖検所見
発育良好な死産児で,奇形は認められなかっ
総分娩数
た.主な臓器の所見はつぎの如くであった.
肝:造血巣の遺残がきわめて高度である.肝細
胞の空胞状変性がかなり著しい.
肺:うつ」血が高度で,肺胞内には羊水性異物の
吸引像が認められる.
膵:一般に浮腫性で,巣状の円形細胞浸潤が認
められるが,島組織には異常がない.
合
腎,副腎,胸腺などにもうつ血が著しい.解剖
糖尿病妊婦
40
477名
512
2名
3
4!
368
2
42
558
4
43
521
4
44
486
2
45
494
2
言卜
3,416名
19名
頻度 0.55%
二千禾039角三
所見の上では,膵,肝,その他に糖尿病児とし
糖尿病婦人が妊娠すると,妊娠によって糖尿病
ての特異的な所見はなく,肝にみられた空胞変性
が悪化すること,妊娠中毒症や羊水過多症を合併
はグリコーゲン蓄積による可能性はあるが,死後
しやすいこと,周産期死亡率の高いこと,巨大児
変化が進んでおり同定でぎず,詳細は不明であっ
が多いことが特徴的である.
た.
Preinsulin eraにみられた糖尿病昏睡による母
胎盤は絨毛全体が線維性で太く未熟で,部分的
親の死亡は,インスリン治療法の確立とともに著
にも毛細血管の増生があり,絨毛内外の線維素沈
減し,現在,母体の死亡は非糖尿病妊婦のそれと
着が目立ち,また辺縁に融解壊死巣を認めた.易
差がない.すなわちWhite7)の報告では,糖尿病
所により内皮細胞の腫大増加がみられた.
妊婦の死亡率は0.3%で,一般の非糖尿病妊婦死
考
按
亡率0.3年半変わりなく,Malins8)も糖尿病妊婦
わが国では,従来若年性糖尿病患者が少なかっ
306羽中死亡したのは2名で,1名は肺硬塞,1
たため,糖尿病妊婦に遭遇する機会はまれであ
名は低血糖であったという,このように糖尿病妊
ったが,最近若年性糖尿病患者は増加の傾向にあ
婦自身の死亡率は,インスリン治療法の進歩,
り,糖尿病と妊娠の合併例も必然的に増加して
糖尿病妊婦に対する特殊な問題の認識などによっ
いる.若年性糖尿病患者の多い欧米においては,
て,大きな改善がみられた.
糖尿病を合併した妊婦は,インスリンの発見か
これに反し,児の周産期死亡率が今日でも依然
ら1950年代までは,約0.2%前後の頻度2)3)であ
として高いことは,糖尿病妊婦を管理する上に大
ったが,Harley4)は1956年前ら1963年の8年間で
は,約0.66%であったと報告している.わが国で
きな問題となっている.図28)9)10)は,多数の糖
尿病妊婦例を有する報告の中から,周産期死亡率
は,全国35機関の症例を集計した九嶋ら5)の報告
の年次的推移を示したものであり,1940年代から
によると,ユ960年からユ964年の5年間で,分娩例
95,182例中,糖尿病妊婦は52例(0.054%)であ
る.各病院によってその頻度は異なるが,糖尿病
%
50
J.PeeL
i584児)
しHagbard
J.Malin$
i559児)
i306児)
40
専門外来をもつ医療機関では,0.13∼0.26%6>と
推定されている.著者らの病院でも,昭和28年か
30
20
ら昭和38年置では,糖尿病と妊娠の合併例は1例
もみられなかったが,昭和39年回り急増し,その
10
年次的推移は表3の如くで,その頻度は0.55%で
0
∼194日941194919531958
ある.この頻度は,これまでの報告より更に高
年
∼ ∼ 5 ∼
194819521957}961
く,糖尿病妊婦の増加傾向を示唆するものであろ
図2
うと思われる.
1948】95醤956
∼ ∼ ∼
1951 1954}960
年次的推移と周産期児死亡率
(文献8)9)10)より引用)
一464一
1950}955】960
19腕1輔鱗
63
その死亡率は順次低下の傾向にあるが,1960年代
よくてもなお周産期死亡の存在する理由は不明で
に到ってもなな10%前後の死亡率がみられる.
はあるが,糖尿病患者の妊娠におけるコントP一
従来,糖尿病妊婦の子宮内胎児死亡の原因とし
ルの重大さを物語るものである.
ては,母親のアチドーシスおよび冷痛前症,妊娠
Hagbardlo)は,周産期死亡と母親のインスリン
中毒症,羊水過多症などによるものが多いと言わ
需要量との関係について,周産期死亡を左右する
れていた.これらのいずれもがインスリン治療の
決定的因子は,母親がどれだけ多くのインスリン
進歩とともに減少しているので,これに平行して
を必要としたかではなく,母親が十分インスリン
周産期死亡も前記の如き年次的減少を来たしたも
を用いたかどうかによるのだと述べている.
本症例は,糖尿病の罹病期間が5年未満で,合
のと考えられる.
併症としては,糖尿病性神経症を有するのみで,
Kyle11)によれぽ,糖尿病妊婦のFetal lossは
妊娠中毒症を伴ったものでは約23%,羊水過多症
他に糖尿病に特有な」血管障害も認められず,妊娠
のあるものは平均39%,アチドーシスのあるも
のでは平均30.1%に見られるという.Whiteや
初期から規則正しく糖尿病の治療管理をうけてい
たにもかかわらず,胎児死亡,糖尿病昏睡を惹起
Sexton12)は,妊娠中期にアチドーシスを惹起し
した点に問題がある.
た場合,そのFetal lossはほとんど100%であ
一般に糖尿病昏睡を誘発する原因として,イン
ると述べている.糖尿病患者における妊娠中毒症
スリン注射の中止,ストレス,手術,感染などが
や羊水過多症の多い理由や,その発生機転は現在
あげられているが,本症例はこれらのいずれの項
まだ解明されていないが,これらは糖尿病のコン
目にも該当する事件は妊娠中見出し得ない.しか
トロールを十分行なうことにより減少させ得る
し,妊娠30週で尿タンパク陽性となり,尿培養で
し,糖尿病患者の妊娠,分娩の良い結果は,何よ
菌は証明されなかったが,Leukozytoseおよび尿
りも糖尿病のコントロールと密接な関連をもつも
沈渣に白血球がかなり多数みられたことは,尿路
のと思われる.表48)は,Malins8)らが管理した
の軽い炎症を示唆するものであると考えられる.
妊娠経過中にみられる尿路感染症は,我妻13)
表4 糖尿病のControlと周産期死亡率
・・n…l
Good
Fair
によれば占冠∼7弩,その他,Httle14)5.3%,
戟E…1S…b…hlN謙ll・・…1・…
75名1 2名
1名
Whalley15)2∼工0%, Dixon16), Patrick17), Kass18)
らの報告でも5∼7%にみられる.
4.0タ6
!04
6
9
14.4
Poor
31
4
4
25.8
not known
40
3
3 }15.・
糖尿病妊婦における尿路感染症について,
Kass19)は,糖尿病非妊婦で非症候性細菌尿をもつ
もの18%であるのに,非糖尿病妊婦においては6
%であると述べ,無治療の場合これらの無症候性
細菌尿は,妊娠中腎孟腎炎に進行して行くことを
報告している.そしてさらに,無症候性細菌尿を
治療しない場合は,24%の早産と17%の新生児死
〔Davidson&Malins,1965文献8)より引用)
250名の糖尿病妊婦についてコントμ一ルと周産
期死亡率をみたものであるが,ケトーシス,低」貢王
亡がみられ,治療した際の・早産率は僅か10%で,
糖がなく,食後2時間の平均血糖値が180mg/dl以
新生児死亡は認められないとも述べている.糖尿
下のものをcOntrol good,同様にケトーシス,低
病妊婦にみられる細菌尿は,Joslin Clinicにおけ
血糖がなく,血糖値が250mg姻以下のものをfair,
る統計では, 253例中18例(7%)にみられると
ときにケトン尿やケトーシスがあり,糖尿病症状
いう20).
を示し,250mg/d/以上の血糖値のものをpoOrとし
て分類してあるが,コントロールgoodでは,周
産期死亡率は僅か4%であり,poOrではその6
本症例は,尿にアセトン体は陽性であったが,
その血糖値は決して糖尿病昏睡が予想されるよう
な高血糖ではなかった.尿路感染症が誘因となっ
倍の25.8%にみられる.糖尿病のロントロールが
て胎児死亡がおき,糖尿病昏睡に到ったと断定す
一465一
64
ることはできないが,しかし,糖尿病患者は感染
示し,原因不明の子宮内胎児死亡,つづいて糖尿
に対して抵抗が弱いので,妊娠中に起こしやすい
病昏睡に到った症例を報告し,子宮内胎児死亡の
尿路感染症に関しては,特にその管理を厳重にす
原因,糖尿病妊婦の管理について,若干の考察を
る必要があろう,
加えた.
また,糖尿病患者の胎盤は一般に大ぎく,平均重
量は,非糖尿病患者のものより大きいということ
が一般にしられているが,子宮内胎児死亡例の胎
盤は比較的小さいのが特徴的であるという報告が
稿を終るにあたり,ご指導,ご校閲下さいました川上
博教授,ならびに内科学教室小坂樹徳教授に深謝致しま
す.また,ご教示いただぎました第二病理解剖学教室梶
ある21).胎盤が小さいため巨大児の発育に応じき
田昭教授ならびに中央検査科病理部平山章助教授に深
れないのかもしれない.White22)は血管障害をも
謝致します.
つ糖尿病妊婦の胎盤は,胎児の大きさに比し小さ
文
献
いと述べている.He11man23)は,胎児死亡は胎
1)小坂樹徳・他:日本臨床25(2)(1967)
盤の絨毛血管の動脈内膜炎によって起こるとし
2)Rike, P.M.&R。M. Fawcett:Amer J
Obstet Gynec 56484(1948)
3)Hall, RE.&A.J.B. Tillmann=Amer J
た,しかし,特有な形態学的所見は証明されてい
Obstet Gynec 611107(1951)
ない,本症例では,児は33週として1E常の大きさ
4)Harley,」・M・G. et aL=Brit Med J 2 Janu
でありながら,胎盤は5509と非常に大きく,血
(1955)
5)九嶋勝司・他;治療49525(1967)
6)九嶋勝司・他:産婦治療8253(1964)
管障害もなく,Horky, Whiteらの見解を支持し
ない,山田24)は,糖尿病妊婦における胎盤の病理
7)w櫨e,P. et aL 3 Joslin’s Diabetes Mellitus.
組織学的所見中,最も顕著で特異的であったの
8)Malins, J.=Clinical Diabetes Melitus Chap.
Lea&Febiger, Philadelphia 1971 Chap.19
は,末梢絨毛における毛細血管の増生であり,こ
131968.Eyre&Spottiswood,1.ondon
9/Pee且, J・=Amer J obstet Gynec 837(1962)
れはHorkyの観察に一致する所見であると述べ
10)Hagbard, L.3 Pregnancy and Diabetes
Mel】itus.1961.Char王es C. Thomas, Publisher,
ている,さらに,絨毛の浮腫,類線維素沈着,石
Springfield
灰沈着,硬塞形成,エanghans細胞の再現, Hafb−
ll)Kyle, G.C。=Ann Intern Med 591, Pt l l,
SuppL 3 (1963)
12)Wb量te, P.&U. Sexton 3 Ann. Intern Med
59 1・Pt l l・SupPl・3 (1963)27 よ り弓1用
aver細胞の増加,絨毛上皮の変性などの所見が
Horky21)によって示されているが,糖尿病におけ
13)我妻 発:産婦の世界22237(1970)
る胎盤の変化が胎児にあたえる影響については,
14)Litt登e, PJ.: Lancet 2925 (1966)
まだ一致した意見が確立されていないとも述べて
いる.本症例でも,前記のように,上記所見のい
くつかがみられたが,胎児死亡を説明し得るほど
15)Wballey, P・=Amer J obst Gynec 97723
(1967)
16ノ】)ixo馬 H.G。& A.A. Brant 3 Lancet l
(1967)
の所見は認められなかった.したがって,胎児死
亡の原因は明らかにし得ず,その剖検所見からも
17)Patrick, M・J・3 J obst Gynec 8rit Cwlth
73973 (1961)
18)Kass, E.H.=Arch Int Med 105194(1960)
正確な死亡時刻を推定することは不可能である
19)Kass, E.H.3 Alm Intern Med 591, Pt l l.
が,糖尿病妊婦の管理は,内科,産科医の密接な
協力の下に細心の注意を払ってこれにあたらねば
ならないことは当然であり,血糖値が高くなくて
も,尿路感染症,その他の僅かな合併症でも,母
SupP13 (1963) P.16よ り引用
20)Marios, C。8.:Joslin’s Diabetes Mellitus.
Chap.17. Lea&Febiger, Philadelphia 1971.
21)Hor欺y, J・=zbl Gynek 861621(1964)
22)White, P.=Natural course of pregnancy,
子共に影響をうけるので,軽視することは許され
ない.
結
語
家族性負荷の濃厚な糖尿病妊婦において,妊娠
初期,中期と良好なコントロールを得て妊娠を経
過しながら,後期に到って軽度の尿路感染徴候を
一466一
ill Diabetes Mcllitus:III Kongress der Inter.
national Diabetes Federation. ed. by Ober−
disse, K. and Jahnke, K George Thieme ver−
lag
23)Hellman, L.M。;Gynecological and Ob−
stetrical I}athology. ed.2. W.B. Sanders
Company I)hiladelphia 1947. Chap.34
24)山田吾市:産婦人科の世界1810(1966)
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