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日本小児循環器学会雑誌14巻5号617∼619頁(1998年) <Editorial Comment> 左心低形成症候群に対する外科治療 一 Norwood手術とVan Praagh手術 岡山大学医学部心臓血管外科 佐野 俊二 新生児,乳児期早期の開心術の成績が飛躍的に向上した今日においてさえ,極端に死亡率が高い疾患が左心 低形成症候群(Hypoplastic Left Heart Syndrome:HLHS)である. Norwoodが’)HLHSに対する第一期 手術として初めての成功例を発表したのが1981年,以降多くの心臓外科医がNorwood手術にchallengeし続 けてきた.Norwood以外の施設(Philadelphia小児病院)では散々たる成績であったこの手術が,1990年代 に入るといくつもの施設で救命率の向上がみられはじめた.死亡率20∼30%の施設も現れるようになったが, この救命率向上は手術手技の改良というよりは新生児の循環生理を含めた特殊性の理解の向上により術前,術 後管理が大きく変化してきたことに依る2).我々の施設でも今や術前ショック状態のまま手術に踏み切る症例 はほとんどなく,6年間32例中,術前に失った症例はショックにひき続き大量脳内出血を来した1例のみであ り,過去5年間ではショック状態のまま手術に臨んだ症例は1例もない.術前管理の困難な症例も人工呼吸管 理下にparalyzed ventilationを行いFiO2をできるだけ下げ, PaCO2を50mmHg前後にコントロールするこ とにより体肺血流バランスはほとんどの症例で調節可能である. 更に,ショックにより心機能低下と三尖弁逆流を来した症例では上記のような治療により2∼3日以内に心 機能の回復と三尖弁逆流の軽減をみることも明らかになっている3).また術前カテコラミン治療を要した症例 の成績は悪く,できるだけ早期に積極的治療によりより良い術前状態を作ることが成功のカギをにぎってい る4). 術前管理の要点も体肺動脈血流のバランス維持につきるであろう.術後死亡の多くは高肺血流による心不全 とそれに伴う血圧低下,ショックであり,何よりも高肺血流に傾かないよう,肺血管抵抗上昇と体血管抵抗減 少に努めることが肝要である.コントロールはほとんどventilatorのみで可能であり,FiO20.21∼0.3, PaO2 35mmHg, PaCO、45∼50mmHg前後が目安となる. また使用するshunt sizeも大きな要因であり,小さなグラフト程高肺血流になりにくい.我々は以前,4mm のPTFEグラフトをshuntに用いていたが,現在では3.Ommないしは3.5mmのPTFEグラフトを用いてい る.これにより術後管理は極めて楽になった.Norwood手術の要点は,1)狭窄のない新大動脈再建,2)狭窄 のない新肺動脈再建,3)十分な冠血流維持,4)適切な肺血流維持,5)狭窄のない心房間交通である.新大動 脈の再建には種々の方法があるが4)∼7),どのような方法を用いても狭窄のないスムースな新大動脈再建が成さ れていればよい.我々は将来の成長も考え,直接吻合によりほとんどの症例を行っているが,吻合部に緊張が かかる場合は小さな心膜を補填している.欧米ではHomograftが容易に入手可能なため広くパッチとして用 いられているがHomograftの入手困難な我が国では著者らのような工夫も必要となる.次にaortic atresia でよく見られる上行大動脈が2mm以下の症例では腕頭動脈中枢部の上行大動脈に更なる狭窄が見られること が多く,この部を放置した再建を行えば充分な冠血流維持は困難となり,術後急性期及び遠隔期突然死の原因 となる. 肺血流量はshunt sizeにより大きく規定されている.著者も述べているように4mmのグラフトより3.5 mm,3.5mmより3.Ommのグラフトの方が術後管理ははるかに楽である. 第二期手術としてのBidirectional Glenn(BDG)手術又はHemi−Fontan手術の概念が導入される以前では shuntの長期開存が要求されたがBDG手術やHemi−Fontan手術を6カ月前後で行っている現在ではshunt は3.0∼3.5mmで十分であり,むしろ早期にBDG手術やHemi−Fontan手術に移行することにより心拡大,三 尖弁逆流などができるだけ防止可能となった.これは最終手段としてのFontan手術成功には不可欠のことで Presented by Medical*Online 日小循誌 14(5),1998 618−(26) 表1 Norwood手術成績 表3 Third Stage Procedune(Fontan)の成績 ED HLHS LD 109(31%) 12(3%) Jonas(1994) 79 29(37%) 30(38%) Brawn(1997) 117 39(33%) 5(4%) Bove(1998) 253 61(24%) Sano, et a1(1998) 147 85(58%) Norwood(1992) 354 Fontan N SurvivaI Bove 253 94 88% Sano, et al 147 10 100% Sano et al:本邦7施設 29(20%) Sano et al:本邦7施設 表2 本邦7施設におけるSecond Stage Procedureと成 表4 本邦7施設によるCerebral Protection 績 HLHS:147 Cerebral Perfusion Hemi.Fontan 3 27 1 LD 00 Bidirectional Glenn 24 10 ED Cerebral十Systemic 3units 3units Perfusion (一) 1unit 0 ある. 1971年Van Praaghら8)によって発表された人工心肺を用いないHLHSに対する第一期手術いわゆるVan Praagh手術は以後,幾多の心臓外科医により施行されたが,その多くは悲観的なものであった.唯一一’ Tucker ら9)がNorwood手術成績と比較可能な成績を収めているが,この手術の問題はHLHSに高率に合併する Coarctationに対する処置や細い上行大動脈に対する処置はされておらず,まず脳及び上行大動脈から冠動脈 への血流が危惧される. 更に短い主肺動脈へのグラフト吻合とPA bandingは技術的に非常に難しく,著者らも述べているように branch PSを来しやすい. branch PSは将来のBDG手術やFontan手術のrisk factorとなる.また,人工 心肺を使用しないため広い心房間交通を作ることは不可能である.このような問題点を多く含むVan Praagh 手術であるが最も大きな問題点は第二期手術以降が更に困難であることである. このように考えるとVan Praagh手術の適応はどうしても人工心肺を用いられない症例に限られると思わ れる. 最後に1998年秋に以下の6施設に対しNorwood手術のアンケート調査を行ったのでその結果を表に表す. 更に協力いただいた6施設に対し深謝する次第である. 中京病院,福岡こども病院,長野こども病院,大阪府立母子センター,榊原記念病院,静岡こども病院 文 献 1)Norwood WI, Lang P, Castaneda AR, Campbell DN:Experience with operations for hypoplastic left heart syndrome. J Thorac Cardiovasc Surg 1981;82:511−519 2)竹内 護,森田 潔 平川方久:左心低形成症候群の管理.臨床麻酔 1997;21:1221−1226 3)佐野俊二:左心低形成症候群に対するNorwood手術,ビデオで見る胸部心臓血管外科手術の進歩1998.日本胸部外 科学会関西地方会第25回学術セミナー.加藤逸夫,編 4)佐野俊二,河田政明,吉田英生,紀 幸一,入江博之,青木 淳,三谷英信,中村浩己,井上雅博:左心低形成症候 群に対するNorwood手術.日胸外会誌 投稿中 5)Jonas RA, Lang P, Hansen D, Hickey P, Castaneda AR: First−stage palliation of hypoplastic left heart syndrome. The importance of coarctation and shunt size. J Thorac Cardiovasc Surg 1986:92:6−13 6)Iannetoni MD, Bove EL, Mosca RS, Lupinetti FM, Dorstkar PC, Ludomirsky A, Crowley DC, Kulik TJ, Rosenthal A:Improving results with first−stage palliation for hypoplastic left heart syndrome. J Thorac Presented by Medical*Online 619−(27) 平成10年10月1日 Cardiovasc Surg 1994:107:934−940 7)Fraser CD Jr, Mee RBB:Modified Norwood procedure for hypoplastic left heart syndrome. Ann Thorac Surg 60 (Suppl):546−9 (1995) 8)Van Praagh R, Bernhard WF, Rothenthal A, Parisi LF, Fyler DC:Interruped aortic arch。 Surgical treat. ment, J Cardiol 1971;27:200−211 9)Tucker WY, McKone RC, Weesner KM, Kon MD:Hypoplastic left heart syndrome:Palliation without cardiopulmonary bypass. J Thorac Cardiovasc Surg l990;99:885−888 Presented by Medical*Online