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良好な子育て環境のための費用
第 節 3 良好な子育て環境のための費用 本節では、教育関係費とともに家計において大きな割合を占める「住居」にかかる費用と子 育てとの関係について考察する。 (住宅面積が狭い大都市では出生率が低くなっている) 理想の子どもの数に比べて予定する子どもの数が少ない理由として、「家が狭いから」と回 答した人は全国で11.3%とそれほど多くないものの、これを地域別に見ると、大都市ほど回答 割合が高くなっている(第3−3−1図) 。 実際に、住居の広さとして最低限必要とされる「最低居住水準1」に満たない世帯割合を都 道府県別に見ると、東京・大阪などの大都市で他の地域を大きく上回っている(第3−3−2 図)。また、理想的な居住水準とされている「誘導居住水準2」に達している世帯の割合につい ては、持家・借家とも東京・大阪などの大都市で他の地域を下回っている(第3−3−3図) 。 第3−3−1図 「家が狭いから」と回答した人は大都市で多い 予定する子どもの数が少ない理由を「家が狭いから」と回答した人の割合 (%) 15 14.2 12.7 9 7.5 5.0 3 0 14大都市 人口10万人以上の市 人口10万人未満の都市 町村 (備考) 1.内閣府「国民生活選好度調査」(2005年)により作成。 2.理想の子ども数に比べ、予定の子ども数が少ない理由を尋ねた問に対して、「家が狭いから」と回答した人の割合 (回答は3つまで)。ほかの選択肢は、「育児の体力的な問題」、「仕事に支障をきたす」、「子どもを育てるのに経済 的負担が大きい」、「育児の心理的負担が大きい」、「年齢的な理由で困難」、「やりたいことができなくなる」、「配偶 者が子どもを欲しがらない」、「夫の家事への協力不足」、「子ども全員に手が回らない」、「子どもがのびのび育つ生 活環境がない」、「教育をめぐる状況に対して不安」、「子どもの将来が不安」。 3.回答をした人は全国の20∼49歳の男女510人。 4.14大都市とは、2005年1月時点の政令指定都市及び東京都特別区。 1 2 子 育 て に か か る 費 用 と 時 間 ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ 第 3 節 ● 良 好 な 子 育 て 環 境 の た め の 費 用 12 6 第 3 章 最低居住水準とは、「健康で文化的な住生活の基礎として必要不可欠な水準」をいう。例として、家族4人で50 ㎡以上の広さ等の基準が定められている(国土交通省「住宅建設五箇年計画」による) 。 誘導居住水準とは、人々が快適に暮らせる住環境の指標であり、「都市の中心及びその周辺における共同住宅居 住を想定した」都市型誘導居住水準と「都市の郊外及び都市部以外の一般地域における戸建住宅居住を想定した」 一般型誘導居住水準をいう。例えば、家族4人で91㎡以上の広さ等の基準が定められている(国土交通省「住宅 建設五箇年計画」による) 。 155 第3−3−2図 東京・大阪などの大都市で多い狭い住宅の割合 最低居住水準を満たさない住宅の割合 (1)持家 (%) 4.5 4.0 3.5 東京(2.9) 3.0 2.5 2.0 大阪(1.8) 千葉(1.3) 全国平均1.1% 1.5 神奈川(1.5) 京都(1.3) 兵庫(1.1) 1.0 0.5 0.0 北 青 岩 宮 秋山 福 茨 栃 群埼 千 東 神 新 富石 福 山 長 岐静 愛 三 滋 京大 兵 奈 和 鳥島 岡 広 山 徳 香愛 高 福 佐 長熊 大 宮 鹿 沖 海 森 手 城 田形 島 城 木 馬玉 葉 京 奈 潟 山川 井 梨 野 阜岡 知 重 賀 都阪 庫 良 歌 取根 山 島 口 島 川媛 知 岡 賀 崎本 分 崎 児 縄 道 県 県 県 県県 県 県 県 県県 県 都 川 県 県県 県 県 県 県県 県 県 県 府府 県 県 山 県県 県 県 県 県 県県 県 県 県 県県 県 県 島 県 県 県 県 (2)借家 (%) 20 東京(15.0) 15 大阪(13.4) 全国平均9.6% 神奈川(11.9) 10 5 0 北 青 岩 宮 秋 山 福 茨 栃 群 埼 千 東 神 新 富 石 福 山 長 岐 静 愛 三 滋 京 大 兵 奈 和 鳥 島 岡 広 山 徳 香 愛 高 福 佐 長 熊 大 宮 鹿 沖 海 森 手 城 田 形 島 城 木 馬 玉 葉 京 奈 潟 山 川 井 梨 野 阜 岡 知 重 賀 都 阪 庫 良 歌 取 根 山 島 口 島 川 媛 知 岡 賀 崎 本 分 崎 児 縄 道 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 都 川 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 府 府 県 県 山 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 島 県 県 県 県 (備考) 1.総務省「住宅・土地統計調査」(2003年)により作成。 2.全世帯に占める最低居住水準に満たない住宅の割合である。 3.最低居住水準とは、国土交通省策定「住宅建設五箇年計画」に規定される「健康で文化的な住生活の基礎として必 要不可欠な水準」をいう。例として、家族4人で50㎡以上の広さ等の基準が定められている。 156 第3−3−3図 大都市の借家で特に低くなる誘導居住水準以上の住宅 誘導居住水準を満たす住宅の割合 (1)持家 (%) 90 80 全国平均67% 70 60 東京(56.8) 50 第 3 章 京都(60.3) 兵庫(64.4) 神奈川(58.8) 大阪(56.6) 40 子 育 て に か か る 費 用 と 時 間 ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ 30 20 10 0 北 青 岩 宮 秋 山 福 茨 栃 群 埼 千 東 神 新 富 石 福 山 長 岐 静 愛 三 滋 京 大 兵 奈 和 鳥 島 岡 広 山 徳 香 愛 高 福 佐 長 熊 大 宮 鹿 沖 海 森 手 城 田 形 島 城 木 馬 玉 葉 京 奈 潟 山 川 井 梨 野 阜 岡 知 重 賀 都 阪 庫 良 歌 取 根 山 島 口 島 川 媛 知 岡 賀 崎 本 分 崎 児 縄 道 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 都 川 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 府 府 県 県 山 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 島 県 県 県 県 (2)借家 第 3 節 ● 良 好 な 子 育 て 環 境 の た め の 費 用 (%) 90 80 70 60 全国平均34% 50 40 30 20 東京(26.3) 京都(29.1) 神奈川(30.4) 大阪(29.8) 10 0 北 青 岩 宮 秋 山 福 茨 栃 群 埼 千 東 神 新 富 石 福 山 長 岐 静 愛 三 滋 京 大 兵 奈 和 鳥 島 岡 広 山 徳 香 愛 高 福 佐 長 熊 大 宮 鹿 沖 海 森 手 城 田 形 島 城 木 馬 玉 葉 京 奈 潟 山 川 井 梨 野 阜 岡 知 重 賀 都 阪 庫 良 歌 取 根 山 島 口 島 川 媛 知 岡 賀 崎 本 分 崎 児 縄 道 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 都 川 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 府 府 県 県 山 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 島 県 県 県 県 (備考) 1.総務省「住宅・土地統計調査」(2003年)により作成。 2.全世帯に占める誘導居住水準を満たす住宅の割合である。 3.誘導居住水準とは、国土交通省策定「住宅建設五箇年計画」に規定される住環境の指標であり、「都市の中心及び その周辺における共同住宅居住を想定した」都市型誘導居住水準と「都市の郊外及び都市部以外の一般地域におけ る戸建住宅居住を想定した」一般型誘導居住水準をいう。例として、家族4人で91㎡以上の広さ等の基準が定めら れている。 157 住居面積が子ども数に与える影響を見るため、都道府県別の合計特殊出生率と住宅の平均延 べ床面積の関係を見たところ、地方都市では明確な関係が見られなかったが、大都市において は住宅の平均延べ床面積が広い都道府県ほど合計特殊出生率は上昇するという結果が得られた (第3−3−4図) 。すなわち、大都市の平均住宅面積は地方都市の平均住宅面積に比べてかな り狭いことから、住宅がある程度広ければ出生率には影響を与えないが、一定限度を超えて狭 いと出生率が低くなるという関係が見られた。 第3−3−4図 住宅が狭い地域では出生率は低い 1戸当たり平均延べ床面積と合計特殊出生率との関係 2.0 1.8 合 計 特 殊 出 生 率 1.6 1.4 1.2 図注1※斜線は、11都府県のみで回帰分析を行った結果。 詳細結果は以下の通り。 y=0.0079x+0.65 自由度修正済み決定係数=0.715 t値=5.108 図注2※ は、11都府県を指す。 は、その他の36道県を指す。 1.0 0.8 40 60 80 100 120 140 160(㎡) 平均延べ床面積 (備考) 1.総務省「国勢調査」(2000年)、厚生労働省「人口動態統計」(2000年)により作成。 2.11都府県とは宮城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、広島県、福岡県を指 す。 3.住宅の広さとは一戸当たりの平均延べ床面積を指す。 158 (大都市で良質な住環境を手に入れるためには高い収入が必要) 地域によって住居の広さには大きな差があるが、住居のコストはどうだろうか。 まず、借家について、一畳当たりの家賃を見ると、最も高い東京都の家賃月額4,819円から 最も安い青森県の家賃月額1,701円まで、大都市と地方都市の差は大きい(第3−3−5図)。 持家についても、住宅敷地価額で見ると、やはり大都市で高くなっている(第3−3−6図) 。 それでは、快適な住環境を手に入れるためには、どのくらいの所得が必要なのだろうか。持 家であれば大都市であっても6割程度、全国平均で7割程度の住居が誘導居住水準を満たすこ とから、ここでは地域ごとにどれくらいの所得階層であれば持家に住むことができるのかを見 てみよう。 年収と持家率の関係を見ると、地方都市の35道府県では、親から住宅を相続する割合も高い と見られることから年収が400∼500万円の階層で全国平均の持家率である61.2%を上回る世帯 が持家を所有している。一方、神奈川県及び大阪府では700∼1,000万円、東京都では1,000∼ 1,500万円の年収層でないと持家率は全国平均を超えない。このように、大都市に住む子育て 世代は、地方都市に比べて高収入でなければ住宅を所有することが難しくなっている。 なお、住居にかかる費用の水準自体は、90年前半のバブル崩壊とともに、大きく下落してお り、住宅敷地価額で見ると、2003年にはピーク時の半分程度となっている(第3−3−7図) 。 バブル期には何らかの資産を持っていない者が新たに住宅を購入することは困難であったが、 資産価格の低下により、以前に比べると住宅取得の困難は若干緩和されたと言える。 第3−3−5図 大都市で高くなる家賃 (円) 6,000 4,000 子 育 て に か か る 費 用 と 時 間 ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ 第 3 節 ● 良 好 な 子 育 て 環 境 の た め の 費 用 都道府県別借家一畳当たりの家賃 5,000 第 3 章 東京(4,819) 神奈川(3,909) 大阪(3,123) 3,000 2,000 1,000 0 北 青 岩 宮 秋 山 福 茨 栃 群 埼 千 東 神 新 富 石 福 山 長 岐 静 愛 三 滋 京 大 兵 奈 和 鳥 島 岡 広 山 徳 香 愛 高 福 佐 長 熊 大 宮 鹿 沖 海 森 手 城 田 形 島 城 木 馬 玉 葉 京 奈 潟 山 川 井 梨 野 阜 岡 知 重 賀 都 阪 庫 良 歌 取 根 山 島 口 島 川 媛 知 岡 賀 崎 本 分 崎 児 縄 道 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 都 川 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 府 府 県 県 山 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 島 県 県 県 県 (備考) 1.総務省「住宅・土地統計調査」(2003年)により作成。 2.借家(専用住宅)に居住する主世帯が、最近、支払った1ヶ月分の家賃又は間代。この「家賃・間代」には、敷金・ 権利金・礼金や共益費・管理費などは含まれない。 159 第3−3−6図 大都市で高くなる住宅敷地価額 都道府県別3.3㎡当たりの住宅敷地価額 (千円) 1,200 東京(974) 1,000 800 神奈川(654) 600 大阪(527) 400 200 0 北 青 岩 宮 秋 山 福 茨 栃 群 埼 千 東 神 新 富 石 福 山 長 岐 静 愛 三 滋 京 大 兵 奈 和 鳥 島 岡 広 山 徳 香 愛 高 福 佐 長 熊 大 宮 鹿 海 森 手 城 田 形 島 城 木 馬 玉 葉 京 奈 潟 山 川 井 梨 野 阜 岡 知 重 賀 都 阪 庫 良 歌 取 根 山 島 口 島 川 媛 知 岡 賀 崎 本 分 崎 児 道 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 都 川 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 府 府 県 県 山 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 島 県 県 県 (備考) 1.総務省「社会生活統計指標」(2005年)により作成。 2.住宅敷地価額とは、個人住宅(一般貸付け)建設資金借入申込書に記載された自己所有地の1㎡当たり住宅敷地価 額(建設地が所有地の場合において公庫資金借入者が申込時点で時価として記入した価額)の合計を申込件数で除 し平均価額(2003年のデータを利用)を算出し、これを更に3.3㎡当たりとしたものである。なお、沖縄県は調査 の対象から除かれている。 第3−3−7図 バブル崩壊とともに住宅敷地価額は下落 住宅敷地3.3㎡(1坪)当たりの価額 (千円) 600 500 480 400 419 487 418 326 307 300 293 278 200 100 264 203 103 0 1975 80 85 90 95 2000 (年) (備考) 1.総務省「社会生活統計指標」により作成。 2.住宅敷地価額とは、個人住宅(一般貸付け)建設資金借入申込書に記載された自己所有地の1㎡当たり住宅敷地価 額(建設地が所有地の場合において公庫資金借入者が申込時点で時価として記入した価額)の合計を申込件数で除 し平均価額を算出し、これを更に3.3㎡当たりとしたものである。なお、沖縄県は調査の対象から除かれている。 3.調査年である1975年、80、82、84、85、89、90、92、95、2000及び2003年のデータを利用した。 160